長崎市中心部の4階建てビルの1階。年季の入った聴診器や診察台が、この場所がかつて診療所だったことを物語る。「もうよか年かなと思って」。医師の高村邦彦さん(85)は2024年9月、父の代から63年続いた高村内科医院を閉じた。
1974年に建てたビルの1階に診察室や待合室があり、2階は「レントゲン室」や看護師と事務員計4人の休憩場所。3、4階が自宅だった。
高血圧、胃腸の病気…。患者は昔なじみの高齢者が多く、野母崎からバスで1時間以上かけて通ってくる人も。人口減の影響で元々患者数は減っていた。そこをコロナ禍が襲った。
薬を1、2カ月分まとめて処方し、診察の日数を減らした。患者の感染リスクや負担を減らすためだったが、医院としては収入減につながる。結果的にこれが医院の経営にダメージを与えることになる。
◆「医者も赤字になるとね」
長崎県医療統計によると、長崎県の2022年の外来患者数は延べ550万6360人。約10年前に比べ100万人以上減った。23年の「5類」移行後も、母数の大きい高齢者層で「受診控え」の傾向が続く。
高村さんの医院でも診察が減り、収入が落ち込む一方、設備関係のリース料などがかさんだ。役員報酬を削るなどしたが、21年9月期の決算で法人の経常収支が赤字に。最後まで黒字回復することはなかった。「医者も赤字になるとね、ってびっくりした」
「あと3年続けたい」。未練もあったが、電子カルテの導入など医療環境の急速な変化に付いていく自信もなく、閉院を決断。閉院の半年ほど前から、患者約400人の居住地や病状に合った医療機関に紹介状を書き、院長として「最後の務め」を果たした。
高村さんはこれからの医療のことを考えると心配になる。「今は開業医も経営が大変。検査とか治療とかいろいろせんと立ちいかんもんね」
◆顕著な医師の高齢化
県内では医師の高齢化や人口減などを背景に病院・診療所の閉院が相次ぐ。
長崎県医師(医療施設従事者)の平均年齢は53・1歳(22年12月末現在)。全国平均50・3歳を上回り、全国で4番目に高い。診療所に限ると63・1歳で全国3番目。高齢化は顕著だ。
病院・診療所は02年に1602カ所あったが、20年間で100カ所以上減少。病床数も7500床以上少なくなった。
じわじわと広がる「危機(クライシス)」。西海市崎戸町でも、ある医療機関の閉院が地域に波紋を広げた。24年春のことだ。
◆39歳の医師が立ち上がる
2024年3月、西海市崎戸町の診療所が閉院した。「薬局がなくなり薬を処方できなくなった」(関係者)のが理由。町内の本土地区で唯一の医療機関だったため、住民は不安に駆られた。
約840人が暮らす同町。2人に1人が65歳以上で、多くが交通弱者だ。特に西部に位置する本郷地区は交通の便が悪く、町外にある最寄りの医療機関まで約10キロも離れている。早急な“手当て”が必要だった。
「地域ケアの拠点を設けよう」。市と連携して対策を練ったのが大島ながたクリニック(同市大島町)院長の永田純一医師(39)=同市出身=。昨年10月、同地区の公民館を拠点に、巡回診療を始めた。
◆そばで診る温かみ
12月10日。約30畳のフロアを間仕切りして設けた「診察室」で、永田さんが患者に優しく問いかける。「寒くなりましたね。元気にしてましたか? きょうは少し血圧が高いみたいですね」。患者は安心した表情で受け答えしていた。
永田さんは月1回、自身のクリニックの休診日に合わせ巡回診療に取り組む。昨年10月の初回は12人、11月は17人、12月には18人を診察した。
巡回診療は県の「在宅医負担軽減のための連携支援事業」をきっかけにスタート。市は公民館の使用手続きや物資援助などで後方支援する。永田さんの「そばで診る温かみ」の思いに触発され、診療看護師や薬剤師、ケアマネジャーなど多職種のメンバーが集まり、3月まで試行予定だ。
◆「行動しないと始まらない」
訪れた80代女性は約10年前に大病を患い、地元の医療機関がなくなったのが不安だった。月に1度の巡回だが、医者がいるという「安心感」がある。別の70代女性も、町外の医療機関まで時間をかけて通院する負担が減り「助かっている」と感謝を口にした。
「医師不在」という根本的な問題の解決には至っていないし、本郷地区以外のエリアの手当てもまだ手付かず。それでも永田さんは「4月以降も巡回診療は続けたい。先を見据えて何か行動しないと始まらない」と覚悟と決意を語る。
「スモールスタート」(永田さん)した巡回診療の取り組みがどんな広がりを見せるか、住民の期待が寄せられる。
1974年に建てたビルの1階に診察室や待合室があり、2階は「レントゲン室」や看護師と事務員計4人の休憩場所。3、4階が自宅だった。
高血圧、胃腸の病気…。患者は昔なじみの高齢者が多く、野母崎からバスで1時間以上かけて通ってくる人も。人口減の影響で元々患者数は減っていた。そこをコロナ禍が襲った。
薬を1、2カ月分まとめて処方し、診察の日数を減らした。患者の感染リスクや負担を減らすためだったが、医院としては収入減につながる。結果的にこれが医院の経営にダメージを与えることになる。
◆「医者も赤字になるとね」
長崎県医療統計によると、長崎県の2022年の外来患者数は延べ550万6360人。約10年前に比べ100万人以上減った。23年の「5類」移行後も、母数の大きい高齢者層で「受診控え」の傾向が続く。
高村さんの医院でも診察が減り、収入が落ち込む一方、設備関係のリース料などがかさんだ。役員報酬を削るなどしたが、21年9月期の決算で法人の経常収支が赤字に。最後まで黒字回復することはなかった。「医者も赤字になるとね、ってびっくりした」
「あと3年続けたい」。未練もあったが、電子カルテの導入など医療環境の急速な変化に付いていく自信もなく、閉院を決断。閉院の半年ほど前から、患者約400人の居住地や病状に合った医療機関に紹介状を書き、院長として「最後の務め」を果たした。
高村さんはこれからの医療のことを考えると心配になる。「今は開業医も経営が大変。検査とか治療とかいろいろせんと立ちいかんもんね」
◆顕著な医師の高齢化
県内では医師の高齢化や人口減などを背景に病院・診療所の閉院が相次ぐ。
長崎県医師(医療施設従事者)の平均年齢は53・1歳(22年12月末現在)。全国平均50・3歳を上回り、全国で4番目に高い。診療所に限ると63・1歳で全国3番目。高齢化は顕著だ。
病院・診療所は02年に1602カ所あったが、20年間で100カ所以上減少。病床数も7500床以上少なくなった。
じわじわと広がる「危機(クライシス)」。西海市崎戸町でも、ある医療機関の閉院が地域に波紋を広げた。24年春のことだ。
◆39歳の医師が立ち上がる
2024年3月、西海市崎戸町の診療所が閉院した。「薬局がなくなり薬を処方できなくなった」(関係者)のが理由。町内の本土地区で唯一の医療機関だったため、住民は不安に駆られた。
約840人が暮らす同町。2人に1人が65歳以上で、多くが交通弱者だ。特に西部に位置する本郷地区は交通の便が悪く、町外にある最寄りの医療機関まで約10キロも離れている。早急な“手当て”が必要だった。
「地域ケアの拠点を設けよう」。市と連携して対策を練ったのが大島ながたクリニック(同市大島町)院長の永田純一医師(39)=同市出身=。昨年10月、同地区の公民館を拠点に、巡回診療を始めた。
◆そばで診る温かみ
12月10日。約30畳のフロアを間仕切りして設けた「診察室」で、永田さんが患者に優しく問いかける。「寒くなりましたね。元気にしてましたか? きょうは少し血圧が高いみたいですね」。患者は安心した表情で受け答えしていた。
永田さんは月1回、自身のクリニックの休診日に合わせ巡回診療に取り組む。昨年10月の初回は12人、11月は17人、12月には18人を診察した。
巡回診療は県の「在宅医負担軽減のための連携支援事業」をきっかけにスタート。市は公民館の使用手続きや物資援助などで後方支援する。永田さんの「そばで診る温かみ」の思いに触発され、診療看護師や薬剤師、ケアマネジャーなど多職種のメンバーが集まり、3月まで試行予定だ。
◆「行動しないと始まらない」
訪れた80代女性は約10年前に大病を患い、地元の医療機関がなくなったのが不安だった。月に1度の巡回だが、医者がいるという「安心感」がある。別の70代女性も、町外の医療機関まで時間をかけて通院する負担が減り「助かっている」と感謝を口にした。
「医師不在」という根本的な問題の解決には至っていないし、本郷地区以外のエリアの手当てもまだ手付かず。それでも永田さんは「4月以降も巡回診療は続けたい。先を見据えて何か行動しないと始まらない」と覚悟と決意を語る。
「スモールスタート」(永田さん)した巡回診療の取り組みがどんな広がりを見せるか、住民の期待が寄せられる。