「外国人料金」は必ず破綻する─大阪ラーメン店騒動が証明した、二重価格の唯一解
私が警告していた通りのことが起きた
大阪のラーメン店「王道家直系 我道家 OSAKA店」で、二重価格を巡る騒動が発生している。同店は券売機の英語表記画面でのみ価格を大幅に引き上げる運用をしていたが、漢字の読める中国人客が日本語メニューとの価格差に気付き、店側と度々揉めているという。店側は中国人客の出入り禁止を主張しているが、問題の本質はそこにはない。
私はかねてより警告してきた。「外国人割増」という形での二重価格は、運用上必ず破綻する──と。今回の騒動は、まさにその予見が現実となった事例である。
なぜ「外国人を見分ける」ことは不可能なのか
今回のラーメン店は「日本語以外の言語画面=外国人」という前提で価格差を設けたが、漢字を読める外国人客の前では、その前提は一瞬で崩壊した。そもそも窓口で「外国人」を選別することは実務上不可能だ。外見や言語で国籍は判断できない。在日外国人と日本人を見分けられるのか。漢字が読める外国人は「外国人価格」なのか。その線引きは誰がどう判断するのか。答えなどあるはずがない。
誰彼構わず「外国人ですか?」と聞けば差別問題になる。数百、数千人が訪れる現場でそんなことをすれば、大行列と現場の疲弊を招くのは明白だ。店側が「出禁」で対応しようとしている点も示唆的である。運用設計の欠陥を、個別の顧客排除で乗り切ろうとしている。これでは差別問題として延焼するリスクを自ら招いているに過ぎない。
姫路城も大阪城も断念した──繰り返される失敗
実は「外国人料金」の運用が破綻するという教訓は、既に複数の事例で示されている。姫路城は当初「外国人料金4倍」を掲げたが、実務上の壁から断念。最終的には「市外居住者の一律値上げ」と「市民料金の据え置き」という現実的な着地を見た。大阪城でも同様に一律値上げが先行している。高市早苗政権は現在、国立の美術館・博物館に対して「外国人料金」の導入検討を指示している。東京国立近代美術館では、一般1500円に対し外国人4000円という試算も出ているという。
しかし、「外国人料金」という誤った枠組みで議論を始めてしまえば、現場は「どうやって外国人を見分けるのか?」という実現不可能な問いに縛られる。結果、無意味な検討に時間を浪費させられることになるだろう。今回のラーメン店騒動を、政府は他山の石とすべきだ。「外国人だけ高くする」運用は、民間でも公的施設でも、必ず破綻する。
それでも私は二重価格を推進する
誤解なきよう明確にしておきたい。私は観光二重価格そのものを否定しているわけではない。むしろ、適切に設計された二重価格は、オーバーツーリズム対策として有効な手段であり、その導入の必要性は観光業界の専門家として誰よりも早くから主張してきた自負がある。
そもそもオーバーツーリズムとは何か。横文字で曖昧になりがちだが、要は観光市場における「需要超過」が行き過ぎた状態を指しているに過ぎない。本来、需要超過が発生すれば市場原理によって価格が上昇し、需給は均衡に向かう。しかし観光地では、地元民への配慮から価格を据え置く傾向が強く、需要超過が解消されないまま混雑だけが続いてしまう。これが観光商品における「価格の上方硬直性」である。
二重価格制度は、この上方硬直性を解消する施策だ。観光客向け価格と地元民向け価格を切り分けることで、観光客への適正な価格設定を可能にしつつ、地元住民が地元の資源を享受し続けられる環境を守る。需要がピークに達する時期・エリアでは観光客向け価格を上げて客数を調整し、閑散期や周辺エリアへ誘導する。健全な市場機能による需給調整であり、「来させない」排他的戦略とは根本的に異なる。
ここで、似たような文脈でしばしば持ち出される「宿泊税(観光税)」との違いを押さえておきたい。税による需要調整は、民間事業者の販売価格はそのままに、税負担によって消費者の体感コストを引き上げる。需要が減れば、事業者の売上は単純に減少する。税収は行政に入るが、民間経済は縮小する。
一方、価格上昇による需要調整──すなわち二重価格は違う。事業者自身が販売価格を引き上げることで、客数が減っても単価上昇で売上を維持できる。事業者の売上は維持され、場合によっては拡大すらありうる。同じ「需要調整」でも、地域経済への影響は根本的に異なるのだ。問題は、その「実装方法」なのである。
答えはハワイにあった──「カマアイナ割引」という成功モデル
では、具体的にどのような二重価格が「正しい」のか。私は従前より、ハワイに根付く「カマアイナ割引」を参考にすべきと主張してきた。「Kamaʻāina(カマアイナ)」とはハワイ語で「その土地に生まれ育った人」「地元の人々」を意味する。ハワイでは、地元発行の運転免許証や州IDカードを提示することで、ホテル・レストラン・テーマパーク・水族館・博物館など幅広い施設で割引を受けられる文化が定着している。
この仕組みの本質は何か。「観光客に過度な負担を強いる」ことでも「来訪者を断る」ことでもない。観光客には正規料金を求めつつ、日常的にその地で暮らし街を支え続ける地元民には、常に手頃な価格によるアクセスを確保する。結果として、オーバーツーリズム下でも地域コミュニティと観光産業が健全なバランスで共存している。
ちなみに、この様な二重価格制度は私が学生生活を過ごした観光都市・ラスベガスにも存在した。ラスベガスでは、特に外国人客の増えるコンベンションシーズンになると、一部の「観光客と地元民が共に訪れる」タイプのレストラン等でハイシーズン用の高い価格表が採用される。地元民がそっとローカルIDを示すと、店員は目配せしながら通常価格のメニューを差し出す。それが観光地の日常なのだ。
「外国人割増」ではなく「居住者割引」──これが唯一の正解だ
日本が採るべき道も同じだ。「外国人割増」ではなく「居住者割引」である。仕組みは簡単だ。定価を高い方の価格に設定する。その上で、マイナンバーカード・在留カード・運転免許証など、割引対象としての要件を証明できるIDを提示した者には割引を適用する。
この方式のメリットは明確だ。第一に、「割引を受けたい側」が自ら証明責任を負う。店側は「IDをお持ちですか?」と聞くだけで済み、「外国人かどうか」という曖昧で実現不可能な判断を迫られることがない。
第二に、国籍差別という批判を回避できる。日本に住む外国人も、日本人と同様に割引を受けられる。これは国籍ではなく「居住」という客観的事実に基づく区分だからだ。
第三に、行政が定めるルールではなく、民間事業者が自主的に採用する割引制度であることが重要だ。我々が商慣行として受け入れている「学割」と同じである。割引幅も確認手法も各事業者が勝手に決めればよい。「学生証を見せたらご飯無料」としているラーメン屋のサービスに対して、「差別だ」とか、「偽の学生証にどう対策するのか」などとイチイチ文句をつける人間はいない。民間施策なのだから店主が納得する手法で勝手にやればよいのだ。
それがハワイのカマアイナ割引の運用であり、日本の観光地でも同様の商慣行として定着させればよい。行政の役割は、ルールとして定めることではなく、緩やかにその導入の機運醸成と標準化を進めることである。
今こそ政策議論を再構成せよ
私は2024年から「居住者割引」の導入を積極的に発信してきた。あれから1年半以上が経ち、ようやくこの施策が観光政策の選択肢として語られるようになってきている。しかし、政府や一部事業者は依然として「外国人から取る」という看板に固執している。今回のラーメン店騒動は、その発想がいかに実務的に破綻するかを如実に示した。
【参考】観光税よりも「観光二重価格」を採用すべきこれだけの理由
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/e64711a91a02da47b0e53eb02d6d6c01b6fd0b55
今後、行政レベルでも民間レベルでも二重価格の導入を検討するケースは確実に増える。その際、「外国人料金」という発想で進めれば、今回と同様のトラブルが全国で頻発するだろう。一方、「居住者割引」方式であれば、差別問題を回避しつつ、現場の負担も最小限に抑えられる。どちらを選ぶかは明白だ。正しい二重価格の形──「居住者割引」方式の普及を、関係各所に強く推奨する。