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フロートレード入門

注意喚起:この記事は『とても』長いです

  • 対象テーマ フロートレード

  • ボリューム  約5万字。読了時間の目安は 60分~(図・表を飛ばせば短縮可)

  • 本題から脱線しそうなものはコラムにしました。


向いている読者

  • 米国市場を本気で分析したい方

  • オプションなど需給構造を知りたい方

  • フローに興味がある方


おすすめの読み方

  • 総論として書いたのでブックマークして辞書代わりにするのがおすすめです。


本稿は“投資助言”ではありません。が、市場の歪みを捉えるための視点にはなると思います。気に入ったらスキ・シェアで応援してくださるとモチベに繋がります


昨今「フローって何ですか?」と聞かれることが増えてきた。

ただ、フローという言葉はあくまでふわっとした概念で、私自身もきちんと定義してこなかった。

そこで一度、この場を借りて自分なりのフローの定義と、フローを前提にしたトレードの考え方、定期的に市場で誰でも観測可能なフローの一覧をまとめておきたいと思う。


フローとはなにか?

フローとはなにかと考える前にまず一般的なフロートは何かという面を見ていこう

 一般的な広義のフロー 
一定期間に、市場を動かす規模で出入りしている「お金の流れ」全般。

 個人的には、フローをざっくりこう定義している。

 トレードにおける狭義のフロー 
CTA、リスクパリティ、オプションディーラー、ロングオンリー勢、ETFなど 「ルールや制約によって機械的に売買せざるを得ない大口プレイヤーの需給」を指す。特殊状況としてのイベントドリブンも狭義のフローのなかに含まれる

本稿では、需給フローをざっくり構造的に生じる「常在フロー」と特殊な状況における「イベントドリブンフロー(特殊需給フロー)」の二つに分けて考える。どちらも、個々のファンドの気分や思いつきではなく、あらかじめ決まったルールやスケジュールに従って繰り返し発生するという点で共通しており、「市場で誰でも定期的に観測可能なフロー」という意味でまとめて扱う。

常在フローとは、CTA やリスクパリティ、ロングオンリーのように、ポジションの調整ルールがあらかじめ決まっていて、相場がどうであれ常に一定のロジックで流れ続けているフローを指す。一方でイベントドリブンフローとは、インデックス入替や先物ロール、決算や配当、OpEx、期末リバランスといったカレンダーイベントや、「月末高くなりやすい」「SQ週にボラが上がりやすい」といったアノマリーに紐づいていたり、指数のリバランスなど、その前後だけ一時的に偏って噴き出すフローを指す。

裁量ファンドの売り買いのように中身を外からは観測できないフローももちろん存在するが、本書で主に扱うのは、ルールとタイミングが外形的に分かる「誰でも見えるフロー」のほうである。まず構造的に繰り返し発生するこの二種類のフローを押さえておけば、残りの裁量フローも「どの常在フロー/イベントフローに上乗せされているのか」という文脈で見やすくなる、というのが筆者の出発点である。

ダークプールとForm 13Fのような情報を「フロー」に含めるかどうかは少し曖昧である。ダークプールは約定自体は発生しているものの、専用の解析ツールやデータフィードがないとリアルタイムで追跡することは難しく、「誰でも観測可能なフロー」という本書の定義からは外れやすい。また、Form 13Fは機関投資家のポジションを開示するものであり、開示までにタイムラグがあるうえ、開示された時点ではすでに一部のポジションがクローズされている可能性もある。情報としては有用だが、「その瞬間のフロー」ではなく「過去のポジションのスナップショット」に近い性質を持つ。

そのため本稿では、ダークプールとForm 13Fを狭義のフローには含めず、「背景となる需給や大口プレイヤーのスタンスを推測するための補助情報」として扱うことにする。実務的には、常在フローやイベントドリブン・フローで見えている売買の裏側に、こうしたダークな約定や遅効性のポジション情報がある、という二階建てのイメージで捉えておくぐらいがちょうどよいと考えている。

なお本稿で扱うフローは、いわゆる日足レベルで分析するような、比較的スパンの長い需給フローである。板の厚みや瞬間的な約定の偏り、足跡や注文履歴を詳細に追いかける「オーダーフロー」は、フローの中でもミクロな領域に属し、筆者も専門としていないため本稿では扱わない。ここでの主な対象は日単位で観測される需給であり、その前提としているトレードの時間軸も、秒〜分足レベルの超短期ではなく、数日〜数週間スパンで起きうる現象としてのフローに乗りにいくタイプのフロートレードである。

なお、HFTのような超短期のアルゴは、たしかに常に市場に存在しているが、基本的には日中で在庫を回転させる「流動性供給勢」であり、ポジションを積み上げて強制的に動かされるタイプのフローではない。本稿で扱う「常在フロー」は、CTA やリスクパリティ、オプションディーラーのように、中期的な需給やトレンド形成に影響を与えるプレイヤーに限定している。


狭義のフローは、もう少し分解すると大きく2種類ある。

1. 構造的フロー

   CTA、リスクパリティ、オプションディーラー、ロングオンリー勢、ETF など、 「ルールや制約に従って、日々機械的にポジションを動かし続けるプレイヤー」の需給。

2. イベントドリブン(特殊状況フロー)

 M&A/TOB、指数採用・除外、決算サプライズ、大型ブロックトレード、規制・税制変更など、単発イベントをきっかけに一時的に強制的な売買が発生するフロー。

どちらも共通しているのは、そのプレイヤーにとっては「ポジションを動かさざるを得ない事情」がある。その規模が十分大きいと、短期的に価格が“行き過ぎるという点だ。フロートレードは、この「事情持ちの大口」がどの方向にどれくらい詰んでいるかを観察して、その行き過ぎに便乗する発想だと考えている。

なおフロー分析を実戦に落とし込むうえで重要なのは、フローの方向性とファンダメンタルズがいつ同じ方向を向くかを見極めることである。フローはあくまで「誰がいつどの程度のサイズで売買せざるを得ないか」という短期〜中期のベクトルであり、ファンダメンタルズは「長期的にその資産がどちら側へドリフトしやすいか」を決める背景だ。中央銀行の買い越しや構造的な需要の増加といったファンダメンタルズが上方向を指している局面で、CTAやインデックス、オプションディーラーなどのフローが同じ方向に揃うと、短期の需給と長期のドリフトが重なり、日足レベルでも極めて強いトレンドが生まれやすくなる。逆に、フローだけが一方向に偏っていてもファンダメンタルズが逆を向いている場合、そのトレンドは往々にして一過性のスクイーズやノイズに終わりやすい。

本稿では個々のフローをばらして説明しているが、実際にポジションサイズを上げるべき局面は、「ファンダメンタルズの向き」と「フローの向き」が揃ったときだ、という前提で読んでほしい。

構造的なフロー要因

この項では常在する代表的な大口フローを見ていく

CTA

定義 先物などを使ってシステマチックに売買する運用業者、および派生ファンド 

本来のCTAは Commodity Trading Advisor の略である。脱線するのでここでは深く触れないが元々はアドバイスをする事業者が自分たちで運用するようになったのが始まりと言われる。

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CFTC(米商品先物取引委員会)は、アメリカの先物・オプション・スワップなどのデリバティブ市場を監督する政府機関。市場の公正さと透明性、投資家保護を目的にルール作りや監視を行っており、ポジション動向を公表する「COTレポート(Commitments of Traders)」を発表している機関でもある。

CTAの特徴

  • ルールベース・システマチックに売買する

  • 先物メインでマルチアセット(株・債券・コモディティ・FX)を扱う

  • トレンドフォロー(モメンタム)型が中心

  • ボラティリティやリスク量に合わせてレバレッジを自動調整する

  • 価格そのものよりポジション調整を優先して発注する

  • 常にどこかの市場にポジションを持っている常在フロー

主に筆者がよく観察しているのがこのCTAである。ここではざっくりとした解説に留める。

CTAの特筆すべき点は大きく二つある。
第一に、感情を排したルールベースのトレードであることだ。モメンタムや移動平均といった指標からシグナルが出れば機械的にロングを積み増し、トレンドが崩れたりボラティリティが急上昇すれば、淡々とポジションを縮小したりショートに切り替える。中身はほぼ純粋なトレンドフォロー型のアルゴリズムと言ってよい。

第二に、先物を主なツールとしたマルチアセット運用であることだ。株価指数や債券、コモディティ、為替など特定の市場にこだわらず、複数のアセットをまたいで常にポジションを保有し、それらを組み合わせることで、シンプルなルールでもポートフォリオ全体の期待値をプラスにできるよう設計されている。また、先物ベースで名目残高が大きいため、市場の流動性やトレンド形成に与えるインパクトも無視できない。

なおCTAのルールについては下記書籍が詳しいのでより深堀りしたい人はこちらを参照されたし

参考文献

COTレポート

先物市場における CTA や投機筋のポジションの偏りをざっくり眺めるツールとしてよく使われるのが、CFTC が週次で公表している COT(Commitments of Traders)レポートである。COT は、各銘柄の先物・オプション建玉を「商業筋」「投機筋」「その他」などといった区分に分解したもので、とくに Managed Money のネットロング/ネットショートは、CTA やマクロ系ファンドなど「システマティック or 裁量の投機筋」がどちら側に寄っているかを推測する目安として使われる。

ただし、COT で見えるのはあくまで「フローの結果として積み上がった残高のスナップショット」であり、フローそのものではない。また、投機筋 には純粋なトレンドフォロー CTA だけでなく、マクロ系ヘッジファンドなど他の投機筋も含まれるため、「= すべてCTA」と決めつけるのも危うい。筆者としては、COTは“誰がどちら側に偏っているかを見るレーダー”くらいに捉え、ゴールドや原油、通貨先物、株価指数先物などで投機筋のポジションが極端に振れているときに、「どちら向きに踏まされやすいか」「どの水準から巻き戻しが出やすそうか」を考えるヒントとして使うのが現実的だと考えている。

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実際のCOTレポート

上の表は、CMEに上場しているビットコイン先物+デルタ調整済みオプションのCOTレポート(2025年12月30日分)

OIは 20,669 枚で、そのうち投機筋がロング・ショートともに大半を占めているのが分かる。投機筋 のロング 16,260 枚/ショート 16,848 枚に対し、商業筋はロング 1,875 枚/ショート 1,400 枚と、ややヘッジ側がネットロング寄り。とはいえ全体ではロングとショートがほぼ拮抗しており、ポジションバランスとしては中立に近い。 前週比ではオープン・インタレストが 3,151 枚減少しており、年末にかけたポジション落とし(デレバレッジ)が起きていることが読み取れる。また「Percent of Open Interest Held by the Largest Traders」(上位数社の大口トレーダーがどれだけの割合を握っているかを示す指標)の行から、上位 4〜8 社の大口トレーダーだけで OI の 70〜80%を握っていることも分かり、ビットコイン市場のポジションが少数のプレイヤーにかなり集中している、という示唆にもなる。

リスクパリティ

定義 「資産ごとの“リスク(実現ーボラ)が同じくらいになるように株・債券・コモディティなどの比率を決める運用方法」

Volコントロール

定義 「ポートフォリオ全体の年率ボラを◯%くらいに保つようにリスク資産とキャッシュ(または短期債)の比率を自動調整する運用方法」

リスクパリティ/Volコントロールの特徴

  • リターンではなく「リスク量(ボラ・リスク寄与)」を基準にポジションを決める

  • ルールベース/システマチック運用で、人間の裁量や感情を極力排除している

  • 相場が静かなときにリスク資産の比率を増やし、荒れたときに縮小する(実現ボラ連動でレバ調整)

  • 株・債券・コモディティなどのマルチアセットを束ねたポートフォリオで運用されることが多い

  • 日々のリバランスやリスク調整を通じて、常にどこかでポジションを動かしている常在フローになりやすい

  • 個別銘柄のストーリーよりも、ポートフォリオ全体のボラティリティやリスク配分を一定に保つことが主目的

リスクパリティとVolコントロールは、よく似たタイプのシステマチックファンドである。第一の特徴は、CTAと同じく常在フローだという点だ。相場のボラティリティに応じて、低ボラ局面ではリスク資産へのエクスポージャーを高め、高ボラ局面では機械的にポジションを落としてくる。

CTAと異なるのは、主な活動領域が株式と債券のアロケーションにあることだ。一部のリスクパリティ戦略ではコモディティ(とくにゴールド)を加えることもあるが、基本線は株と債券の配分調整である。リスクパリティでは各アセットがポートフォリオ全体のリスクにほぼ同じように寄与するようウェイトを調整し、Volコントロールではポートフォリオ全体のボラティリティが目標水準に収まるよう、リスク資産と安全資産(キャッシュ/短期債など)の比率を調節している。

コラム リスクパリティとvolコントロールの違い

リスクパリティと vol コントロールは、どちらも「ボラティリティを見ながら機械的にポジションをいじるファンド」の代表格だが、やっていることのレイヤーが少し違う。ざっくり言えば、リスクパリティは「ポートフォリオの中で、どの資産にどれくらいリスク枠を配分するか」を決める仕組みであり、vol コントロールは「ポートフォリオ全体として、どれくらいのテンション(レバレッジ)で市場に出ていくか」を決める仕組みだ、と捉えるとイメージしやすい。

リスクパリティは、株・債券・コモディティなど複数アセットのボラティリティと相関を入力に、「ポートフォリオ全体のリスクに対して、各アセットがどれくらい寄与しているか」を計算し、そのリスク寄与度がほぼ等しくなるようにウェイトを解いていく。ボラの低い債券は名目額を厚く、ボラの高い株式は名目額を薄く、という調整を通じて、「名目額ではなくリスクベースでバランスの取れたポート」を作ろうとする発想である。その結果として、ボラや相関が変わる局面では、「株を減らして債券を増やす」「株と債券をまとめてデレバする」といったクロスアセットの回転フローが発生しやすくなる。

一方で vol コントロール(ボラターゲット)型は、まず「中身のポートフォリオ」が別に存在していることが多い。典型的には「株60%/債券40%」や、特定の株式インデックスなどがベースになっており、そのポートフォリオ全体の実現ボラティリティ(あるいは予測ボラ)をモニタリングしながら、「年率◯%前後のボラに収まるように、リスク資産とキャッシュ(短期債)の比率を上下させる」のが役割になる。ボラが低ければ株などリスク資産のエクスポージャーを増やし、ボラが跳ねれば一気に引き下げる、という動き方をするため、「ポートフォリオ内部の配分」よりも「全体のレバー量」を管理しているイメージに近い。

フローという観点から見ると、この違いはもう少しはっきりする。リスクパリティは、ボラと相関の変化に応じて、株・債券・コモディティといったアセット間の相対ウェイトを調整する。たとえば、株のボラが急騰し、債券のボラが落ち着いている局面では、「株を売って債券を買う」方向のフローが出やすい。つまり、個別アセットを横に並べたときの「誰を減らして誰を増やすか」というクロスアセットのローテーション要因として効いてくるのがリスクパリティである。

これに対して vol コントロールは、ベースとなるポートフォリオの中身そのものはあまりいじらず、「リスク資産トータルとキャッシュの比率」を調整することが多い。CPI や FOMC のようなイベントのあとで実現ボラが急騰した場合、数日〜数週間にわたって、株・クレジットなどリスク資産全体をじわじわ削ってキャッシュ比率を高めるフローが出る、といった形だ。個別アセット同士の相対フローというより、「マーケット全体に対するリスクオン/リスクオフの振れ幅」を増幅するレバーとして機能するのが vol コントロールだと言える。

時間軸にも違いがある。リスクパリティは、基本的には中長期のアセット配分を最適化するための枠組みであり、リバランス頻度も日次〜月次まで設計次第で幅がある。一方、vol コントロールはボラティリティの急変に対して敏感に反応するよう設計されているケースが多く、イベント後の数日〜数週間で「遅れて効いてくる」リスクオフフローとして意識されやすい。見た目上はどちらも「ボラが上がると売る/下がると買う」タイプの常在フローだが、リスクパリティはアセット間の相対配分をいじるプレイヤー、vol コントロールはポートフォリオ全体のエクスポージャー(レバレッジ)をいじるプレイヤーだ、という切り分けを持っておくと、チャートの裏側で何が動いているかをイメージしやすくなるだろう。

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出典:Neil Sethi (@neilksethi) のポスト

なおリスクパリティやVolコントロールは、COTのように公式なポジション統計が公表されているわけではなく、「どこにどれだけ建玉があるか」を直接観測することはできない。
実務上は、リスクパリティを名乗る公募ファンドやETFの月次レポートから資産配分の変化を追う、セルサイドが独自モデルで推計した「○○系ストラテジーの想定フロー」レポートを参照する、目標ボラティリティと現在の実現ボラ・相関から、自分でおおまかなレバ調整方向を計算する──といった間接的な手段でしか把握できない。
したがって、本稿では「ボラが急上昇すれば株式を機械的に落とす/下がればレバレッジを戻す」という挙動の方向性だけを押さえ、厳密な残高推計は専門機関に任せるものとする。

オプションディーラー

定義 顧客とオプションを売買して、そのリスクを自分でヘッジするマーケットメイカー

  • 顧客のオプション注文を引き受けるマーケットメイカー

  • 持ったオプション在庫のリスクを先物・現物・他オプションで機械的にヘッジする

  • 価格よりポジション管理(デルタヘッジなど)を優先して売買する

  • インデックスではショートガンマ・ショートベガになりやすい立場にいる

  • 日次〜超短期で常にヘッジ売買を出し続ける「常在フロー」の一種

オプションディーラーは、フロートレーダーにとって特に厄介な常在フローの一種である。オプション市場の構造は現代では非常に複雑化しており、本来であれば一文や一章で語り尽くせるものではない。ここではごく大まかな特徴だけ挙げておく。

第一に、ディーラーは顧客とのオプション取引で生じたポジションを、その場で現物や先物を使って即座にヘッジする。必要に応じて、相関の高い他の指数や銘柄、オプション同士を組み合わせてリスクを打ち消す。このヘッジはミリ秒〜秒単位で行われ、その調整売買そのものが指数や大型株の短期的な値動きに影響を与える。

第二に、ディーラーが抱えているオプション在庫の構造によって、市場全体がどの方向にどれだけガンマリスクを抱えているかが決まってしまう、という点である。ディーラーがネガティブガンマに大きく傾いている局面では、相場が動くほどヘッジのための現物・先物の売買が増幅され、ボラティリティがさらに高まる。逆にポジティブガンマに傾いている局面では、ヘッジフローが価格変動を抑える方向に働きやすい。

(※正確にはディーラーはガンマ以外のグリークスに対するリスクも抱えている。簡略化のためにここではガンマのみ扱う。)

このように、オプションディーラーは「流動性を提供する存在」であると同時に、そのヘッジ行動を通じて相場の短期的な方向性とボラティリティを左右するプレイヤーでもある。

ディーラーのヘッジ行動が市場に対してどのような影響を及ぼすかは下記記事を参照してほしい

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出展 unusual whales 

上図は、フロー解析ソフトのunusual whales のSpot Gamma画面で、SPYオプションのストライク別ガンマ・エクスポージャーを可視化したもの。左側の横棒グラフは、縦軸にストライク、横軸に「1%値動きあたりのガンマ・エクスポージャー(ドル)」を取り、紫が建玉(Open Interest)、黄色が当日の出来高(Volume)を表している。 右側のパネルには、それぞれを合計した「Gamma per 1% Price Change」「Net Gamma Exposure」が表示されており、値がマイナスで大きいほどディーラーがネガティブガンマに傾いている=値動きが自己増幅しやすい環境であることを示唆する。反対に、プラスに大きく傾いている場合はポジティブガンマ優位となり、ディーラーのヘッジが値動きを抑える方向に働きやすい。

ロングオンリー

定義 基本的に「買い持ち(ロング)」しか許されていない運用主体をまとめて指す言葉である。空売りや大きなキャッシュポジションを取りづらい、もしくは取ることが禁じられているファンド群のこと

ロングオンリーの種類

  • 公募投信

  • 年金基金

  • 保険会社

  • ソブリンファンドの一部

  • パッシブ/インデックスETF

  • 企業型・個人型DC、NISA積立などの長期資産運用

などなどである。

ロングオンリーの特徴

  • 基本的に買いしかできない(ロング前提)

  • お金が入ってきたらとりあえず株・債券を買う方向にしか動かない

  • 売りになるのは 解約・給付・リスクオフ、リバランス みたいなイベントの時だけ

  • 多くは ベンチマーク(指数)や投資方針に縛られていて裁量が小さい

  • 時間軸は 中長期メインで、売買スピードは遅い

  • ETF・投信・年金・保険・NISA積立 みたいな資金がここに属する

  • インデックスレベルでは 恒常的な買い下支えフローになりやすい

  • 個別株では 銘柄間のローテーション(乗り換え)を通じて需給差を生む

ロングオンリー勢というのは、運用ルール上ほぼ買い専で動くプレイヤーたちだ。ショートを自由に打ったり、大胆にオールキャッシュにしたりすることは基本的に許されておらず、「下がりそうだから全部現金に逃げる」といった動きは構造的に取りづらい。できたとしても、株式比率を少し落として債券や現金を増やす程度にとどまることが多い。

この手の資金は、ルール通りに自動でファンドへ流れ込む。そこからさらにインデックスやアクティブファンドを通じて現物が買われるので、資金流入がある限り、マーケットに対してはほぼ一方向の「買いフロー」として作用する。逆に売り方向に回るのは、年金給付や積立の解約、顧客のビビりによるスイッチング、機関投資家のリスク削減方針の変更といったイベントが起きたときだけで、「売り」は構造的に例外として発生する。そのぶん、一度スイッチが入ると同方向の売りが連鎖しやすい。

運用はベンチマークや投資方針に縛られていることが多く、例として「MSCI Worldに対してトラッキングエラー○%以内」「株60%・債券40%」といったルールに従って動く。運用者個人がどれだけ悲観していても、ポジションを大きく外すことはできず、結果として指数と一緒に買い、指数と一緒に売るフローになりやすい。時間軸もデイトレではなく、四半期・半年・1年単位で評価される世界で、ポジションは一度作ったら長く持つことが前提だ。リバランスも月次〜四半期が基本で、短期ニュースよりも「アロケーションの見直し」や「顧客の資金フロー」が優先される。

このロングオンリーの箱には、公募投信、インデックスETF、企業年金、国の年金基金、保険会社の一般勘定、個人の積立投資など、世の中の「真面目な長期投資」の大半が詰め込まれている。規模がとにかく大きいため、マーケット全体のベースフローを事実上決めている存在と言っていい。インデックスレベルで見ると、世界経済が成長している限り、年金や積立・パッシブへの資金流入は続き、下がったところを時間分散で買い続けるかたちになる。暴落局面では一時的に解約が増えて売りにも回るが、長期的には「株式プレミアムを取りに行く買い手」として市場を下支えする役割を果たしている。

一方で、個別株ベースでは同じロングオンリーの中でも銘柄間の入れ替えが起きる。グロースからバリューへ、半導体からディフェンシブへ、先進国から新興国へ、といったローテーションを通じて、指数トータルではニュートラルでも「この銘柄だけやたら買われる/売られる」という需給の歪みが生まれる。個別株トレーダーにとっては、このロングオンリー内のローテーションこそが一番おいしい部分になる。

自社株買い

自社株買いは、常在フローの中でも、とくに米国株インデックスに対して長期的な押し上げ効果を持つ構造要因である。シンプルに言えば「上場企業自身が、自社株ETFのように自社株を買い続けている」状態であり、浮動株をじわじわと市場から吸い上げていく常在的な買い手として機能している。

メカニズムは単純だ。企業がフリーキャッシュフローや借入を原資に自社株を買い戻すと、市場に出回る株数(フロート)が減る。その結果、1株あたり利益(EPS)は、事業の成長が大きくなくとも「発行株数の減少」というかたちで底上げされる。さらに時価総額が押し上げられることで、キャップウェイト型のインデックスでは当該銘柄のウェイトが増え、パッシブ資金の配分比率も自動的に高まっていく。つまり、自社株買いは

株価そのものへの直接的な買い圧力
EPS の押し上げによる評価指標の見栄え改善
インデックスウェイト上昇 → パッシブ資金の追加流入

という三段階のフローを通じて、構造的な「買いの再帰ループ」を作りやすい。

この構造がもっとも極端なかたちで可視化されているのが、いわゆる「マグニフィセント・セブン」のような指数上位銘柄である。時価総額上位の大型テック企業は、もともとインデックス内でのウェイトが高いうえに、潤沢なキャッシュフローを背景に大規模な自社株買いプログラムを継続してきた。その結果として、

  1. 事業成長とナラティブ(AI・クラウド等)への期待で株価が上がる

  2. 株価上昇と EPS 成長に支えられてインデックスでのウェイトがさらに上がる

  3. ウェイト上昇に応じてパッシブ資金が自動的に同じ銘柄を買い増す

  4. 同時に企業自身も自社株買いでフロートを減らし続ける

というループが立ち上がり、「指数上位銘柄の自社株買いが、指数そのもののパフォーマンスを押し上げる」構造になっている。
とくにキャップウェイト型のインデックスでは、上位数銘柄の自社株買いとパッシブ流入だけで指数全体が引きずり上げられる局面があり、個別銘柄のフローというより「指数レベルの常在買いフロー」として意識したほうが実態に近い。

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上の表は、ゴールドマン・サックスが集計したマグニフィセント・セブンの自社株買い額と、その企業の時価総額に対する比率(2024年6月6日時点)。AppleとAlphabetだけで 年間 80~60B ドル規模/時価総額の2〜3% をコンスタントに買い戻しており、MetaやMicrosoft、Nvidiaも数十Bドル規模で自社株買いを継続している。一方で Amazon や Tesla はほぼ自社株買いを行っておらず、同じ「指数上位銘柄」でも株主還元スタンスの違いがフロート(市場に出回る株数)と需給に大きな差を生んでいることが分かる。

もちろん、米国株の強さをすべて自社株買いだけで説明するのは乱暴だ。イノベーションや生産性、規制環境、資本市場の厚みといったファンダメンタルズ要因も大きい。それでも実務的な視点から言えば、「米国株インデックスが長期で右肩上がりになってきた理由の一部は、上位銘柄を中心とした自社株買いフローに依存している」という認識は持っておいたほうがよい。

フロートレードの観点では、自社株買いは CTA のように日次で売買が表面化するフローではないが、

  • 自社株買いプログラムの規模(総額・期間)

  • 発行済株数に対する年間バイバック比率

  • 指数内ウェイトの大きさ(=パッシブを巻き込むレバレッジ)

といった要素を押さえておくことで、「どの銘柄/どのインデックスにとって、自社株買いがどれくらい強い向かい風/追い風になっているか」を構造的に評価できる。特に、すでにインデックス上位にある銘柄が積極的な自社株買いを継続している場合、それは単なる個別企業の資本政策にとどまらず、「指数レベルの常在買いフロー」としてトレンドの土台を強化している、と見なすのが実務的だろう。

ETFフロー

一見「パッシブ商品」に見えるETFのなかには、レバレッジ維持やインカム確保、バッファー構造の維持のために、裏側で先物・オプション・スワップなどを機械的に売買しているものがある。レバレッジETF、カバードコールETF、バッファーETFはいずれも、

  • レバレッジ維持のための先物フロー

  • 高配当を実現するためのコール売りフロー

  • 上値・下値を制御するためのカラーフロー

といった形で、定期的に「決まったレシピのデリバティブフロー」を市場に流し込むプレイヤーである。ここでは、こうしたETFがどのように先物・オプション市場にフローを供給しているかを簡単に整理しておく。

レバレッジETFのリバランス

2倍・3倍ETFが、目標とするレバレッジ倍率(2倍・3倍)を維持するために行う日次のポジション調整フロー。基準価額と連動対象の指数の値動きに応じて、その日の引け前(原資産の現物・先物市場の終盤)に、先物やスワップなどを通じて原資産のエクスポージャーを増減させる。上昇相場では引けにかけて追加で先物追加買いなどが出やすく、下落相場では引けにかけてまとまった売りが出るため、ボラティリティを押し上げる常在フローになりやすい。なお商品設計や市場環境によっては、先物・スワップだけでは目標デルタに届かない部分を埋めるために、コールオプションを追加で買ってエクスポージャーを調整するケースもある。この場合は現物市場だけではなくオプション市場にも影響をもたらし一時的にロング・ガンマ/ロング・ベガのフローも生じる

レバレッジETFの純資産残高と当日の値幅が大きいほどリバランス量も膨らむため、トレンドが強く、かつ日中ボラティリティが高い局面では、引け前の需給にそれなりのインパクトを与える可能性がある。筆者としては、とくにモメンタム銘柄やテーマ銘柄のトレンドが反転した局面でボラティリティが異常に跳ねる一因として、こうしたレバレッジETFのリバランスも無視できないのではないかと考えている。

テーマ/スマートベータETFの見直し

テーマ・スマートベータは基本的にはインデックス主要リバランスと同じだが テーマ/ファクターへのスコア付けの仕方とリバランス頻度とターンオーバーの高さの2点がキャップウェイト指数と異なる。主要指数と違ってファクターやテーマによる独自の味付けがされていることが多い。

その結果、指数全体に対するフローの規模は小さいが、個別銘柄ベースでは「スコアの変化が大きいタイミング」でかなり偏った売買が出ることがある。そのため、運用規模の大きいETFの目論見書に目を通したり、同じファクターを採用しているETFの本数や総運用額を把握しておく、といった行動が求められる。

VIX先物・ボラティリティETPのロール

VIX指数そのものは現物で取引できないため、VIX連動のETPは、期近と期先のVIX先物を組み合わせて指数を複製している。典型的な「短期VIX先物インデックス」に連動する商品(VXX系など)は、フロント限月とセカンド限月のVIX先物を決まった比率で保有し、毎営業日、少しずつフロントを売ってセカンドを買うことで、常に「残存期間約1か月」のバスケットになるように調整している。この日次の売り買いが、いわゆるVIX ETPのロールフローである。

平常時のVIX先物はコンタンゴ(期先ほど高い状態)であることが多く、この場合、VIX連動ETPは「割安な期近を売って、より高い期先を買う」ロールを毎日繰り返すことになる。商品サイドから見るとロールコストがかさむ構造だが、市場のフローとして見ると、常にフロント限月に売り圧力、期先限月に買い需要を供給しているプレイヤーとも言える。逆に、リスクオフ局面で先物カーブがバックワーデーションになると、今度は「期近のほうが高いものを売って、安くなった期先を買う」ロールとなり、ロング型ETPにとっては追い風になるが、同時に期近のスパイクを一段と加速させる要因にもなりうる。

また、特定の満期レンジに対応するボラティリティETP(短期もの、ミドルタームものなど)に資金が集中して残高が膨れ上がると、その商品がロールの対象としている限月だけ出来高と建玉が不自然に膨らみ、先物価格もそのゾーンだけ割高/割安に振れやすくなる。結果として、本来は滑らかであるはずのVIX先物カーブのタームストラクチャーが、「特定の限月だけポコっと出っ張る/へこむ」ような歪んだ形になることがあり、イベント前後のスパイクや、その後のボラティリティ低下局面を増幅する一因となりうる。

VIX ETPの残高が大きい局面では、この日次ロールとターム別の資金集中が、VIX先物カーブの形状や期近・期先の歪みに与える影響が無視できなくなる。VIX先物・ボラティリティETPのロールは、「ボラティリティ商品そのものの損益構造」を決めるだけでなく、「どの限月のVIX先物に、日次でどれだけの売り/買いフローが常に乗っているか」「どの満期レンジの需給が過度に偏っているか」という意味で、ボラティリティ市場の需給とタームストラクチャーを静かに歪め続ける常在フローになっている、と筆者は考えている。

カバードコール/バッファーETF

現物ロング+オプション売買を組み合わせて、インカムや一定範囲の損失限定を狙うデリバティブETF群のこと。カバードコールETFは指数や個別株をロングしつつ、同じ対象のコールオプションを定期的に売却してプレミアムを配当原資にするタイプで、バッファーETF(ディファインドアウトカムETF)は現物ロングにプット買い+コール売りを組み合わせたコーラーで、下値をある程度カットする代わりに上値を上限付きにする構造になっている。代表的なものはカバードコールETFとバッファーETFの2つだがデリバティブを使って複雑な効果をもたらすものは様々なものがある。

資金の流入出は表面上は通常のロングオンリーETFと同じだが、裏側では「残高に応じたコール売り(+場合によってはプット買い)」が機械的に発生するため、オプション市場には恒常的なショート・ベガ/ショート・ガンマ(上値側)のフローを供給する存在になっている。多くのファンドは毎月(あるいは毎週)同じ満期・同水準付近のコールをロールするため、ロール日や満期前後には、対象指数の近いストライクにまとまったコール売り/建玉集中が起こりやすく、短期IVやスキューの形成にも影響を与えうる。

近年はQYLDのようにナスダック100を現物で保有し、ATM近辺コールを継続的に売る高配当カバードコールETFが残高を急速に伸ばしており、指数レベルでも無視できないサイズで上値側のコール供給を行っている。上昇局面では、こうしたファンドからのコール売りが天井付近の売り圧力・短期IVの上値抑制として効きやすく、急騰後にレンジ相場化したり、上値が重く見えやすい一因になっている可能性がある。QYLDなどカバードコールETFは毎月決まった日時にオプションをロールするため、フロー解析ツール上でもその売買がパターンとして比較的容易に観察できる。

筆者としては、デリバティブETFの残高が増えてきたことで、カバードコールETFやバッファーETFは「高配当ニーズを満たす商品」であると同時に、指数オプションに対して上値側のショート・ベガを恒常的に供給する常在フローとしても無視できない存在になりつつあると考えている。

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上図は、J.P.モルガンが集計した「オプション連動ETF(カバードコールETFやプットライティングETFなど)が市場に供給しているガンマの月次推移」。棒グラフはマイナス方向に伸びており、S&P500/NASDAQ100/その他指数に連動したオプション売りが、継続的にショートガンマの供給源になっていることを示している。
2019年頃はほぼゼロだったが、カバードコールETFブームなどを背景に、2023〜2025年にかけてマイナス幅(=ガンマ供給量)が急拡大しているのが分かる。オプションを売るこれらのETFは、ディーラー側から見ると恒常的なガンマの「売り手」であり、原資産が動いたときのヘッジフロー(デルタ調整)を通じて、日々のボラティリティや戻りの鋭さに影響を与えている常在フローの一つと考えられる。

※カバードコール/オプション・インカムETFについては、現代のフローを語るうえで無視できないテーマなのでコラム的に触れている。ただし内容が非常に長くややマニアックなため、後日あらためて別記事として整理する予定である。本論の理解に必須ではないので、興味のある読者だけ読んでもらえれば十分だ。

コラム 増殖するカバードコールETF

ここ数年で、カバードコール型やオプション・インカム型の ETF は、文字どおり雨後の竹の子状態になっている。昔ながらの QYLD タイプに加えて、単株インカム、レバレッジ付きカバコ、さらには 0DTE(日限)オプションを組み込んだ変種まで出てきていて、「決まったレシピでオプションを売り続ける ETF」だけでひとつの生態系を作りつつある。

一世代目の典型が、Global X の QYLD のような古典的カバードコール ETF だ。これはナスダック100指数構成銘柄を現物で保有しつつ、同じ指数に対応したコールオプションを売る、いわゆるバイライト戦略を採用している。月次でフロント限月の ATM 近辺にまとまったコールを乗せていくため、その限月の NDX オプションのストライク周辺には、常にある程度の OI の塊ができやすい構造になっている。こうした従来型カバコは、ボラが高いレンジ相場ではそれなりに合理的だが、指数の上値側に恒常的なショート・ガンマ/ショート・ベガを供給している、という側面はどうしても避けられない。

二世代目として出てきたのが、YieldMax や Bitwise、REX などが量産している単株オプション・インカム ETF と、レバレッジ付きカバードコール ETF 群だ。YieldMax の TSLY や NVDY はテスラやエヌビディアを対象に、単株に対するコールやコールスプレッドを継続的に売って毎週のインカムを狙う設計になっており、現物株ではなく標準オプションと FLEX オプションの組み合わせで「合成ロング+ショートコール」を組む、シンセティックなカバードコール構造を取っている。IMSTども同様に、MSTR に対するシンセティック・カバードコール戦略を明示しており、国債とオプションを組み合わせたオプション・インカム ETF として位置付けられている。

※シンセティックなカバードコールとはプット売りコール買いを組み合わせてデルタ1のポジションに対してOTMコールを売ること。

さらに踏み込んでいるのが、レバレッジをかけたカバードコール ETF だ。REX の Growth & Income シリーズは、COIN/MSTR/TSLA などの単株に対しておおむね 1.25 倍程度のエクスポージャーを合成し、そのうち約半分の名目元本にカバードコールをかけて週次インカムを狙う設計になっている。カナダ市場でも、Horizons の BKCL や QQCL など、インデックスやセクターに 1.25 倍レバレッジをかけた上でカバードコールを重ねる ETF が次々出ており、「レバ × カバコ」は完全にひとつのカテゴリとして定着しつつある。こうしたファンドは、ボラの高い単株やセクターに対してレバレッジをかけたうえで上値側のコールを継続的に売るため、オプション市場から見るとかなり強烈なショート・ガンマ/ショート・ベガ勢になっている。

三世代目として現れたのが、0DTE オプションを正面から戦略に組み込んだ ETF 群だ。YieldMax の QDTY(Nasdaq 100 0DTE Covered Call)や SDTY(S&P500 版)、RDTY(Russell 2000 版)といった ETF は、ナスダック100や S&P500、R2000 に対して主に「当日限月の 0DTE コールを OTM で日々売る」ことでインカムを生むと、目論見書で明示している。同時に、指数へのロングエクスポージャーは現物ではなく、標準オプションと FLEX オプションの組み合わせで合成ロングを作るシンセティック・カバードコール構造になっており、「FLEX で土台をつくり、その上に 0DTE ショートコールを日次で貼り替える ETF」として設計されている。

0DTEオプションそのものの市場規模も、もはや無視できるレベルではない。SPX では 2024〜2025 年にかけて取引量の 0DTE 比率が 50〜60%台に達し、S&P500 連動オプションの出来高の過半が当日限オプションという異常な状態になっていると各種レポートで報告されている。こうした「0DTE バブル」の上に、さらに 0DTEカバードコール ETF が寄り付き前後で機械的に OTM コールを売ってくる構造になっているため、日次で見れば、毎営業日ほぼ同じ時間帯・同じようなストライクにショートコールの出来高と OI の土台が積み上がることになる。

単株インカム ETF やレバ付きカバコも、似たような歪みを単銘柄レベルで作っている。REX や Bitwise、YieldMax の単株インカム ETF は、TSLA/NVDA/MSTR/COIN などボラティリティの高い銘柄を対象として、フロント限月中心にコールやコールスプレッドを継続的に売っていく。その結果、特定の満期・特定のストライクだけ OI が異常に膨らんだり、ロール日や決まった曜日の前後で、板上に「ここ絶対何か乗ってるだろ」というコールの壁ができやすくなる。公的な統計で「この OI の増加は ETF フロー由来です」ときれいにラベルが付いているわけではないが、構造的には「決まったロジックで同じゾーンにショートコールを積み上げるプレイヤー」が増えたのだから、局所的な OI とガンマの偏りとして市場に映り込むのは自然だろう。

そして重要なのは、この「カバコ+オプション・インカム」というロジックが株式だけにとどまっていないことだ。債券では、ブラックロックの TLTW(TLTのバイライト戦略)や LQDW、HYGW のような、長期国債・社債 ETF に対して毎月カバードコールを売る固定利付バイライトETF がすでに複数上場している。カナダや他の市場では、HBND のように長期米国債にカバードコールをかけてインカムを高める ETF も出ており、「債券の上にショートコールを乗せる」という発想自体が当たり前になりつつある。

REIT の世界でも、SRH REIT Covered Call ETF や、カナダの RMAX など、REIT バスケットにカバードコール戦略を重ねる ETF が登場しており、実物不動産ではなく上場 REIT の指数に対しても、同じように「現物ロング+ショートコール」の構造が積み上がっている。コモディティ周辺では、金鉱株やゴールドに対してカバードコールを売る GLCC や GDXY、金連動 ETP にコール戦略をかぶせる NEOS IAUI、さらにゴールド現物/先物にカバードコールスプレッドをかける ZWGD など、「ゴールドにインカムを載せる」ETF が複数存在している。

極めつけはビットコインで、Roundhill の YBTC や Grayscale の BTCC、Global X の BCCC のように、ビットコインETFをロングしつつ、その上にカバードコールを週次・隔週で販売する ETF まで出てきている。つまり、長期国債だろうが高利回り社債だろうが REIT だろうがゴールドだろうがビットコインだろうが、「とりあえずロングにカバードコールを重ねて高配当に見せる」というレシピが、ほぼ全アセットクラスにコピペされつつある状態だと言える。

フロー視点で雑にまとめると、いまの市場には、従来型の QYLD タイプが指数の月次コール OI に塊を作り、単株インカムやレバ付きカバコが個別銘柄のフロント限月に常設のショートコール山を立て、0DTEカバコETFが指数0DTE の寄り付き周辺で毎日ショートコールをばら撒いている、という三層構造ができている。レバレッジ ETF の日次リバランスと合わせて考えると、「ETF フロー=ロングオンリー+レバ ETF」だけ見ていると、もはや全体像を取りこぼす時代になってきたと言っていい。

筆者としては、こうしたカバードコール/0DTE ETF の残高が積み上がるほど、指数や単株の上値側には「常設のコール売りスタンド」が増えていき、トレンドの伸び方や天井付近の価格挙動にじわじわ効いてくると考えている。高配当ニーズに応える商品としてはそれなりに合理的でも、市場構造の側から見れば、ショート・ガンマ/ショート・ベガの常在フローを分厚くしていくプレイヤーでもある、という二面性は意識しておいて損はないだろう。

その他の常在フロー

CTA やロングオンリーほど目立たず影響も小さいが、じわじわ効いてくる常在フローもいくつか存在する。代表的なものだけ挙げておく。

通貨ヘッジ付きファンドのFXヘッジ

為替ヘッジ付きの海外株・債券ファンドは、円建てでドル建て資産を保有しつつ、為替リスクだけを先物やスワップで切り離す運用を行っている。たとえば日本の投資家向けに「米国債(為替ヘッジあり)」ファンドを運用する場合、ファンドはドル建ての米国債を現物でロングする一方、同じドル建て残高を目安に、ドル売り/円買いのフォワードやスワップを組んで為替変動を打ち消すポジションを取る。

このヘッジは一度組んで終わりではなく、通常は1か月〜数か月のタームでロールされる。ファンドの純資産残高や基準価額、為替レートが動けば、ヘッジすべき名目元本も変化するため、満期ごとに「旧フォワードをクローズして、新しいフォワードを建て直す」作業が発生する。資金流入があれば、その分だけ新たにドル建て資産を買い増すと同時に、同額のドル売りフォワード/スワップを追加で組むことになり、逆に資金流出があれば、ドル建て資産の売却と並行してヘッジポジションも縮小される。

こうした通貨ヘッジの積み上げとロールは、FX・金利両方の市場に常在フローを供給している。ヘッジ残高が大きいファンドや、通貨ヘッジ付きシェアクラスが多い人気ファンドが増えるほど、特定通貨ペアに与える影響も無視できなくなってくる、というのがこのフローのポイントである。

年金・保険による長期債の買い

公的年金や企業年金、生命保険などの「長期負債を抱えるプレイヤー」は、将来の給付や保険金支払いに見合うキャッシュフローを確保するため、一定水準以上の利回りが出たタイミングで長期国債や長期クレジットを継続的に積み上げていく。いわゆる ALM(アセット・ライアビリティ・マネジメント)の一環として、負債のデュレーションに合わせて長期ゾーンの債券をロックしにいく「構造的な買い手」である。

このフローは、短期の裁量トレードというよりも、「◯%以上の利回りが出たら一定量ずつ長期債を買う」「長期金利がこのレンジに入ったらデュレーションを延ばす」といった、ルールベースに近い行動として現れやすい。利回り水準が低い局面では様子見が続くが、いったん長期金利が閾値を超えてくると、長期国債・長期社債・MBS などにまとまった買い需要が湧きやすく、結果として長期ゾーンの利回り上昇にブレーキをかける「自然な金利の蓋」として機能することがある。

年金・保険のバランスシートは一度組み替えると長期間維持されるため、この種のフローは日々の値動きには見えにくいが、「利回りが一定水準を超えたところからじわじわ入ってくる長期の現物買い」として、金利サイクル全体に影響を与えている。筆者としては、長期金利が上昇したときにどのあたりの水準から急に買いが厚くなり始めるのかを意識しておくと、長期債の天井・底打ちの目安を考えるうえで有用な常在フローだと考えている。

中央銀行のゴールド購入

各国の中央銀行は、外貨準備の一部としてゴールドを保有しており、長期的には「売りよりも買いが多い恒常的な需要家」として機能している。とくに欧米通貨への依存度を下げたい新興国・資源国を中心に、外貨準備の一部を徐々にドル建て債券からゴールドへと振り替える動きが続いており、近年のゴールド市場では、中央銀行が価格に関わらず一定ペースで買い続ける「構造的なロングサイド」のプレイヤーになりつつある。

このフローは、短期の値動きやテクニカルに基づく売買ではなく、「外貨準備に占めるゴールド比率をどの程度にしたいか」「制裁リスクや通貨価値の下落にどこまで備えたいか」といった、マクロなポートフォリオ配分の意思決定によって決まる。そのため、市場価格が上がっている局面でも一定の買いが継続することが多く、ゴールド価格が大きく下落した局面ではむしろ「押し目で外貨準備をゴールドに振り替える動き」が出やすい。結果として、中央銀行はゴールド市場において、長期的な下支え要因としての常在フローになっている。

筆者としては、中央銀行のゴールド購入は「短期トレンドを作るフロー」というよりも、金価格のサイクル全体に対して、じわじわと上向きのベースラインを押し上げていくバックグラウンド需要だと捉えている。とくに、ドル覇権や各国の財政に対する信認が揺らいだ局面では、「通貨そのもののリスクをヘッジする準備資産」としてゴールドを厚めに持とうとする動きが強まりやすく、その意味でも中央銀行は長期的な買い手として無視できない存在になりつつある。

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出典:World Gold Council

上のチャートは、各国・地域別の中央銀行によるゴールドのネット購入量/売却量をトン数ベースで並べたもの。水色が「Net purchases(ネット買い)」、紫が「Net sales(ネット売り)」を表している。
左側のシンガポール、ロシア、ウズベキスタンなどはネット売りに回っている一方で、右側に並ぶポーランド、カザフスタン、アゼルバイジャン、ブラジル、中国、トルコなどは 数十トン規模のネット買いを続けており、近年の金市場ではこうした新興国・産油国が構造的な買い手になっていることが分かる。月次チャートが「いつどれだけ買われたか」という時間軸のフローを見せるのに対し、この図は「どの国が長期的な常在フローの主役か」を可視化する用途に向いている。

トレジャリー企業/ステーブルコイン発行体によるビットコイン・ゴールド購入

一部の企業は、自社の余剰キャッシュを「トレジャリー資産」としてビットコインやゴールドに振り向けている。また、一部のステーブルコイン発行体やクリプト企業も、自社トークンの裏付け資産やバランスシートの一部として、BTCやゴールドを組み込もうとしている。これらは規模こそ中央銀行ほどではないが、価格よりも「ストーリー/リスク分散」を優先した、構造的な買い手として機能しうる。

特徴としては、まず第一に時間軸が長いことが挙げられる。彼らはトレーディングというより「キャッシュの一部をオルタナ資産に変換する」という発想で動くため、一度バランスシートに乗せたBTCやゴールドを、短期の値動きでクルクル回転させることは少ない。結果として、供給の一部が事実上ロックアップされる形になり、上場企業やクリプト企業による「準・準備資産化」が、じわじわとフロアを押し上げる要因になりうる。

第二に、フローの強さが価格とナラティブに対して再帰的に依存する点がある。ビットコインやゴールドの価格が上がり、「デジタルゴールド」「インフレヘッジ」といったストーリーが強化されるほど、「自社トレジャリーの一部をBTC/ゴールドに」という動きが他社にも波及しやすくなる。ステーブルコイン発行体やクリプト関連企業がそれに追随すると、採用(アダプション)の拡大 → 時価総額の増加 → さらにトレジャリーに組み込みやすくなるという再帰ループが立ち上がる。

もっとも、CTAやロングオンリーのように毎日売買が出るタイプの常在フローではなく、「バランスシート上でゆっくり積み上がる長期フロー」に近い。したがって日次・週次のトレードで直接読む対象というよりは、「ビットコインやゴールドには、中央銀行に加えて企業レベルでも構造的な買い手が増えつつある」という背景要因として意識しておくとよい。

関連記事

特殊状況フロー(イベントドリブン)

ここでは構造的な常在フローとは違い、季節ごとに起こる特殊な需給フロー(いわゆるイベントドリブン)についての概要を述べる。

インデックスイベント

インデックスリバランス

本稿でいうインデックスリバランスとは、米国市場の主要インデックス(MSCI、S&P500、NASDAQ100、Russell2000 など)が採用する指数再現ルールに起因して生じる一時的な需給の歪みを利用する取引を指す。

  1. インデックスリバランスはどの銘柄を指数に含めるか(時価総額・流動性・フリーフロートなど)

  2. どの条件を満たしたら採用・除外するか(バッファルールを含む)

  3. どの頻度で見直すか(四半期・半期・年次など)

  4. どの日付を基準に時価総額や株数を測り、いつ発表していつ実施するか

といったルールの組み合わせで決まる。たとえば NASDAQ-100 なら「12月に年1回のリバランス日で構成銘柄を入れ替え、3・6・9・12月の第3金曜引けで時価総額に応じたウェイト調整をする」というカレンダーで動いており、MSCI や Russell も独自のスケジュールと基準で四半期〜半期ごとに見直しを行っている。こうした事前に公開されたルールと日程に従って、インデックスに連動するパッシブファンドや裁定取引が同じタイミングで同じ方向に売買すること自体が、インデックスリバランス特有のフローを生み出している。

デリバティブ由来のイベント

 オプション満期(opex / SQ)

株価指数オプションや個別株オプションは、満期日に向かって時間価値がゼロに収束していく一方で、建玉の偏りが大きいストライク周辺ではガンマが極端に高くなる。その結果、ディーラーはデルタ・ガンマヘッジのために原資産先物や現物を売買せざるを得ず、満期週から満期日にかけて「どのストライクに価格を収束させようとする力が働きやすいか」あるいは「ヘッジ解消に伴って一気にトレンドが解放されるか」といった、特有の値動きが現れることがある。とくに株価指数では、月次・週次・四半期ごとの満期がカレンダー上あらかじめ決まっており、建玉分布とあわせて観測することで、日足レベルで「満期前に価格が吸い寄せられやすい水準」や「満期通過後にボラが変化しやすい局面」をある程度推定できる。本稿では、こうしたオプション満期周辺のディーラーフローを、イベントドリブンな需給として位置づけ、他のフロー(CTAやレバレッジETFなど)と組み合わせてトレードを設計していく。

先物満期・ロール

先物については、名目上の満期日そのものよりも、ポジションが「期近から期先へロールされる期間」にフローが集中する。株価指数先物や債券先物、商品先物などは、限月ごとに取引が行われ、指数連動ETFやCTA、裁定取引勢、ヘッジャーが、満期前の一定期間にまとまって期先限月へ乗り換える。その結果、ロールウィンドウと呼ばれる数日〜数週間のあいだは、期近と期先の両方で売買が膨らみ、スプレッド取引や裁定も加わって一時的な需給の歪みが生じる。日足レベルのフロートレードという観点では、「先物満期日=ポジションが消える日」というより、「ロール開始〜完了のあいだにどれだけの買い・売りフローが出るか」「限月間の価格差がどの方向に解消されるか」を見るほうが重要であり、本稿でもその意味で先物満期をイベントドリブン・フローとして扱う。指数先物の場合は、オプション満期やインデックスリバランスと同じ日に重なることも多く、複数のフローが同時にぶつかることで、日足ベースで見ても異常な出来高や値動きが出やすいポイントになる

オプション満期と先物満期が同じ日に集中する「トリプルウィッチング(クアドルプルウィッチング)」は、イベントドリブンの代表例である。株価指数先物、株価指数オプション、個別株(ETF)オプションの満期が同一日に重なることで、ディーラーやCTA、裁定取引勢、パッシブ勢のポジション調整が一気に表面化し、出来高と売買代金が異常に膨らむ。日足レベルで見ると、ガンマヘッジの解消、先物・現物・オプションの裁定取引、インデックスリバランスなど複数のフローが同時にぶつかるため、短期的には「価格が特定の水準に吸い寄せられる局面」と「満期を通過したあとにトレンドが解放される局面」が連続して現れやすい。本稿では、こうした満期集中日を単独の魔法のイベントとして扱うのではなく、「オプション満期」「先物ロール」「インデックスリバランス」といった個別のフローが、たまたま同じ日に重なった結果として増幅された日、という位置付けで捉え、その上でどのフローにどの程度エクスポージャーを取りにいくかを考えていく。

オプション満期通過後や季節性と組み合わさることで出現しやすいアノマリーも存在しており、オプション市場が発達した現代において、オプションは現物市場に対して無視できない影響を与えている。オプションに関連するアノマリーについては、この本でもいくつか紹介されている

参考文献


大型ストライク/バリア周辺のヘッジフロー

SPXや為替で「巨大な建玉やノックアウト/ノックインバリア」がある水準。そこに近づくとディーラーのガンマヘッジやエキゾチックのヘッジで片側にフローが集中することがある。

本稿では、いわゆる「大型ストライクオプション」として、株価指数などの大口バリア・ノックアウトオプションに伴うフローをイベントドリブンな需給として位置づける。ここでいうバリアオプションとは、原資産価格があらかじめ定められた水準(バリア)に到達したときに初めて有効になる、あるいはそこで消滅するタイプのエキゾチックオプションであり、年金や機関投資家、ストラクチャードプロダクトの発行体などが多用している。これらのポジションは、満期日だけでなく「バリアに接近した局面」でも大きなヘッジフローを生む点が特徴である。

ディーラー側は、バリアの外側で売っているノックアウト・オプションに対して、価格がバリアに近づくにつれて急激にデルタ・ガンマが変化するため、原資産先物やオプションを使ってヘッジポジションを調整せざるを得ない。バリアの手前では、バリアを「守る」ような方向にヘッジが出て、価格がバリア水準から反発しやすくなる場合もあれば、逆に一度バリアにタッチしてノックアウトが発生すると、ヘッジが一斉に解消されてトレンドが加速する場合もある。とくに、特定のストライクに機関投資家向けストラクチャーが大量に発行されているときは、その水準が事実上の「見えないサポート/レジスタンス」として機能し、日足レベルでも価格が吸い寄せられたり、バリアブレイクをきっかけに一方向のトレンドが走ることがある。

本稿で扱うフローの中では、こうした大型バリアオプションは「一般投資家からは建玉の全体像が見えにくいイベントドリブン・フロー」に分類される。公開情報だけでは正確な残高やバリア水準を把握しづらく、証券会社レポートや一部のフローデータ、価格の挙動から「おそらくこのゾーンにバリアが集中している」と推定するしかないケースが多い。そのため、他のフロー(CTAやインデックスリバランス)のように定量的に追いかけるというよりは、「特定の価格帯で不自然な反発や急加速が繰り返し起きているときに、見えないバリアフローが絡んでいないかを疑う」という補助的な視点として用いるのが現実的である。

なお、形式上は単なるバニラオプションであっても、特定のストライクに極端に大きな建玉が集中すると、事実上バリアに近い“価格の壁”として機能することがある。代表例としては、JPモルガンが四半期ごとに組成しているとされるS&P500のカラートレード(OTMプットスプレッド+OTMコール売り)などが挙げられ、数十億ドル規模のポジションが特定のプット/コールストライクに継続的に滞在することで、その近辺の価格帯でディーラーフローが偏りやすくなる。詳細な構造や過去の値動きへの影響についてはコラムで扱う。

コラム JPMカラー

いわゆる「JPMカラー」は、JPモルガンの機関向けファンドが四半期ロールで組んでいるとされるS&P500のヘッジポジションで、ざっくり言えば「OTMプットを買いつつさらに遠いOTMプットを売り、OTMコールを売る」プットスプレッド+コール売り構造のカラートレードである。構成要素としては完全にスプレッド群だが、全体としての目的が「カラー(下ヘッジ+上キャップ)」なので、カラーと呼ばれている。名目規模が数十億ドルに達するため、設定時点で特定のプット/コールストライクにかなり大きな建玉が発生し、その後の価格推移によっては、満期やロール前後にディーラーのヘッジフローが偏ることがある。
形式上はバニラオプションの組み合わせであってバリアオプションではないが、「この価格帯まではプットスプレッドの損失が顕在化しない」「この価格帯を超えるとコールショートが効いてくる」といった非対称なペイオフが大きな規模で乗っているため、日足レベルでは特定のストライクを境に価格の挙動が変わりやすくなる局面がある。もっとも、市場解説で語られるほどJPMカラーだけで相場が動くような場面は多くなく、実務的には「そのストライク近辺で他のフロー(CTAやインデックスリバランスなど)と方向が揃ったときに、値動きが増幅されるかもしれない程度の要因」として扱うのが現実的だろう。
なお、市場で「JPMカラー」と呼ばれているポジションは、JPモルガンの特定ファンドが四半期ごとに組成しているとされるS&P500のカラートレードを指す通称であって、JPM自身が公式に詳細を開示しているわけではない。同様のカラー構造を用いたヘッジは他の機関投資家も行っていると考えられるため、本稿では「特定のストライクに数十億ドル規模のプットスプレッド+コール売りが継続的に滞留しているような大型カラー全般」を便宜的にJPMカラーと呼ぶ。

企業アクション由来

公募増資

公募増資は、自社株買いとは真逆の方向に働くフローだ。企業が新しく株式を発行し、投資家に広く売り出すことで資金調達を行う。その過程で、市場に出回る株数(フロート)が一気に増え、既存株主にとっては希薄化リスクが顕在化する。フローの観点から見れば、これは典型的な「一発デカめの供給ショック」であり、イベントドリブンの代表例として扱える。

実務的な流れはだいたい決まっている。まず企業が増資の方針を発表し、同時もしくは数日内に「何株をどのくらいのディスカウントで売り出すか」が決まる。株価はアナウンスの段階で希薄化とディスカウント価格を意識してギャップダウンし、その後、需要のブックビルディングや価格決定、受け渡しにかけて、増資株の売り出しとそれに付随する裁定フローが一時的に集中する。証券会社が引き受けた株をさばく過程で、既存の売り板に新株がまとめて乗ってくるため、その期間は「上値が重い」「出来高だけやたら膨らむ」といった典型的なチャートになることが多い。

通常の公募増資は、あくまで「ある期間にドカッと出て終わる」タイプのフローだ。発行株数とディスカウントの幅がある程度見えているので、イベントカレンダーに日付をメモしておけば、「この期間は供給ショックが走る」「受け渡し後は一旦出尽くしになりやすい」といったシナリオを事前に持ちやすい。発行規模がフロートに対して十分大きい場合、増資発表〜受け渡しまでのあいだは、短期筋のショートと裁定が絡んで、素直にトレンドフォローするには厄介な値動きになりやすい。一方で、増資が無事に消化され、オーバーハングとなっていた大株主の売りが片付いたと市場が認識すると、「一回リセットされた」としてリリーフラリーが起こるケースもある。

ここで注意したいのは、同じ「増資」でも ATM(at-the-market)型の市場内増資とはフローの性質がまったく違うという点だ。ATM は、あらかじめ登録した枠の範囲内で、企業が「出来高の何%まで」「この価格帯のときだけ」といった条件付きでちょっとずつ新株を売り出していく仕組みであり、フローとしては「弱い売りが長期間じわじわ続く」タイプの常在フローに近い。これに対して、通常の公募増資は、一度決まれば数日〜数週間のあいだにほぼ全量が処理されるため、フローのピークは時間的にも価格的にもかなり集中する。どちらも結果として発行株数を増やし希薄化をもたらすが、フローの出方は「ドカンと一発」か「薄く長く」かで真逆だ、というイメージを持っておくと扱いやすい。

フロートレードの視点からは、公募増資は「ファンダ要因としての資本政策」よりも、「その期間にどれだけの供給ショックが集中するか」を見るイベントになる。実務的には、発行株数/既存フロート比、ディスカウント幅、需要家の顔ぶれ(ロングオンリー中心か短期筋か)、ロックアップの有無などを確認しつつ、「発表〜受け渡しまでのあいだは売りフロー優勢」「受け渡し後は、供給ショックが一度出尽くしたあとの値動き」を狙う、という整理になる。増資そのものが良いか悪いかではなく、「いつ・どれくらいのサイズで・どの期間に売りが集中するのか」というイベントドリブン・フローとして捉えるほうが、トレードには直結しやすい。

私募増資(PIPE 等)

私募増資は、公募増資と同じく株式による資本調達ではあるものの、「誰に売るか」「いつ売りが出るか」という点でフローの出方がかなり違う。公募増資が不特定多数の投資家に広く売り出すのに対し、私募増資は特定の投資家(機関投資家、PEファンド、戦略的パートナーなど)に対して、相対もしくは限定的なブックビルディングで新株や新株予約権を引き受けてもらう形が中心になる。いわゆる PIPE(Private Investment in Public Equity)もその一種だ。

フローの観点から見ると、私募増資は「発行時点での供給ショック」と「その後に訪れるセカンダリー売却」の二段構えになりやすい。発表時には、公募と同様に希薄化とディスカウントを意識したギャップダウンが起きるが、新株そのものはまず私募先の投資家の手元にまとまって渡るため、市場内で一気にさばかれるわけではない。そのため、発行〜受け渡しの局面だけを切り取れば、公募増資ほど日々の板にダイレクトな売りフローがぶつかるわけではなく、「発表ショック > 実際のフロー」ということも多い。

問題はその後で、私募増資で受け取った株式やワラントには、多くの場合ロックアップ期間が設定されている。ロックアップが解けたタイミング、あるいは SEC 登録を経て売却可能になったタイミングで、私募先のファンドや投資家が出口を求めてまとめて売却に動くと、その時点で二次的な供給ショックが発生する。実務的には、「私募増資の発表日」と「ロックアップ解除日/登録売出開始日」が、それぞれ別個のイベントドリブンフローとして効いてくることになる。前者は主にセンチメントと希薄化を通じて、後者は実際の売りフローとして価格に乗ってくるイメージだ。

公募増資が「短期間にドカッと出て終わる供給ショック」だとすれば、私募増資は「まず裏でまとまった株が移動し、のちのちロックアップ明けやブロックトレードを通じて市場に徐々に降ってくるタイプの供給フロー」として捉えると扱いやすい。フロートレードの観点では、ディールの規模とディスカウントだけでなく、

・誰にどれくらい渡っているのか(短期筋か、戦略投資家か)
・ロックアップの有無と期間
・将来のセカンダリー売出しやブロックトレードの計画があるかどうか

といった条件をあらかじめ押さえておき、「発表時の一発目」と「ロックアップ解除などで想定される二発目」の両方をイベントドリブン・フローとしてカレンダーにマークしておくのが現実的だろう。

ATM

近年じわじわ存在感が増しているのが ATM(At-the-market equity offering)、いわゆる「市場内増資」である。これは、企業があらかじめ SEC に棚卸登録(shelf registration)をしておき、証券会社を販売代理人として「既存の売買板に向かって、少しずつ新株を売り出していく」タイプの公募増資だ。通常の公募のように「◯◯ドルで△△株、一気に売り切り」という形ではなく、その時々の株価(市場価格)に近い水準で、数日〜数ヶ月にわたって“ドリップ販売”していくのが特徴になる。

株式市場に限定して言えば、ATM はコロナ後とくに利用が増えており、2020年以降だけで世界全体で3,350億ドル超が ATM 経由で調達されていて、2025年は過去最高ペースと言われている。利用企業も昔の大型優良株だけではなく、REIT、バイオ、クリーンエネルギー、量子コンピュータや新興原子力ベンチャー、さらには GameStop や Trump Media のような「ミーム株」まで広がっている。

フローの観点から見ると、ATM は「一撃でドカンと出る公募増資」とは性質が違う。多くの場合、

「一日の出来高の◯%を上限に売る」「特定の株価レンジの時だけ売る」

といった条件が付くため、一日あたりのインパクトは小さいが、“弱い売りが長く続く”タイプの常在フローになりやすい。企業側は株価が強いタイミングでちょっとずつ増資でき、投資銀行の引き受け手数料も抑えられる。一方で既存株主から見れば、いつの間にか発行株数が増えている「ステルス希薄化」になりがちで、上値の重さとして意識されることが多い

近年の分かりやすい事例としては、ミーム株の代表格である GameStop と AMC がある。GameStop は 2024 年、Roaring Kitty の再登場で株価が再び急騰したタイミングを利用して ATM を連発し、まず 5月に 4,500万株の ATM を実行して約9.33億ドルを調達、その後 6月には 7,500万株の追加 ATM で約21.4億ドルを調達している。複数回の ATM を合計すると、2024年だけで約35億ドル規模のエクイティを市場から吸い上げた計算になる。

AMC も同様に、コロナ後の資本増強の一環として ATM を多用している。たとえば 2022 年には優先株(APE ユニット)に対する ATM プログラムを組成し、4.25億株まで売却可能な枠を設定して資本を厚くしたほか、2023〜2024 年には普通株に対する ATM を通じて数億ドル規模のエクイティを繰り返し調達している。2024年3月には最大 2.5 億ドルの ATM プログラムを立ち上げ、4月末時点で約1,280万株を売却し 4,180万ドル超を調達したと開示されている

フロートレード的にまとめると、ATM は「イベント一発で暴れるタイプのフロー」ではなく「株価が高いあいだ、じわじわ続く売りオーバーハング」を生む仕組みとして理解すると扱いやすい。

四半期決算や 10-Q / 10-K で「ATM プログラムの残高」「期中に何株売ったか」が開示されるので、“まだ売り枠がどれくらい残っているか” を確認し、トレンドフォロー時の頭打ちリスクとして意識するのが実務的な使い方になる。

転換社債(CB債)発行

転換社債は詳細な仕組みは別稿に譲るが、フローの観点では「発行時」と「転換/償還時」の二つのイベントが重要になる。発行時には、転換社債アービトラージファンドが「CBロング+株式ショート」のポジションを組むことが多く、その結果として発行直後の局面では株式にまとまった売り(ショート)フローが出やすい。一方で、このショートはCBが市場に残るあいだ継続するため、将来的にはショートカバーの“弾”として蓄積される。

その後、株価が転換価格を大きく上回ってコールされたり、投資家が自発的に株式への転換を選択する局面では、CBアービトラージ勢が「CBロング+株式ショート」をクローズするためにショート株を買い戻す。このショートカバーが転換前後の株価を押し上げる要因となることがあり、逆に転換価格を大きく下回ったまま満期を迎える場合でも、償還に伴って残存ショートが順次買い戻されるため、中期的には下支えになりやすい。実務上は、CB残高とショートインタレストの規模を見ながら、「発行時の新規ショートフロー」と「転換・償還時のショートカバー」がどのタイミングで効きやすいかをイベントドリブンなフローとして意識することになる。

ブロックトレード

株式市場でいうブロックトレードは、既存株主が保有株式をまとめて一気に売却する取引を指し、数十万株〜数百万株規模の「大口売り」を、証券会社が間に入って他の投資家にさばく形を取る。会社が新たに株を発行して資金調達する公募増資と違い、ブロックトレードはあくまで既存株主の持分の移転(セカンダリー)であり、企業のバランスシートに新たな現金が入ってくるわけではない。ただし、市場にとっては短期間に大量の売り注文が出るため、「増資に近い供給ショック」として機能する。

実務上よく使われるのは、いわゆる Accelerated Bookbuild(ABB)やオーバーナイトのブロック取引で、日中〜引け後に「◯◯株をディスカウント価格でまとめて売却する」というアナウンスを出し、投資家から一気に需要を募って数時間〜1日程度で配分を決めるパターンである。大口売却を依頼された証券会社は、一定のディスカウントを付ける代わりに短時間で全量を引き受けるため、発表直後の株価はブロック価格を意識してギャップダウンしやすく、その後も受け渡しまでのあいだは「ブロック価格付近での売り圧」が意識されやすい。

フローの観点から整理すると、ブロックトレードは公募増資と同じくイベントドリブンな一回限りの供給フローに分類できる。一方で、調達した資金が会社に入る公募増資と違い、ブロックトレードでは「売り手がいなくなる」という側面もあるため、短期的にはディスカウントと売り圧で株価が下振れし、その後に売却元のオーバーハングが解消されたことによるリリーフラリー(戻り)が発生することも多い。フロートレードの実務としては、

誰がどの程度のサイズを売り抜けたのか(創業者・VC・PE など)ブロック価格と通常の取引レンジのギャップ、配分先が短期筋かロングオンリー中心か

といった条件を見ながら、「一時的な供給ショックで終わるのか」「その後もしばらく売り圧が続きそうか」を判断することになる。増資と同様、カレンダー上で日付がはっきりしているイベント供給として扱えるため、トレンドフォロー中の銘柄で予定されているブロックトレードは、事前に把握しておく価値が高い。

M&A / TOB / 上場廃止イベント

M&A や TOB(株式公開買付け)、それに伴う上場廃止は、フローの観点から見ると「ターゲット銘柄と買収側銘柄、それぞれの需給を大きくねじ曲げるイベントドリブン・フロー」として扱える。とくに上場株同士の M&A では、買収価格(TOB 価格)と現行株価のギャップに対してアービトラージ勢が一斉に集まり、「ターゲットをロング/買収側をショート」というペアトレードが構築されるため、ターゲット銘柄の板と出来高は、発表前とまったく違う顔つきになる。

典型的なパターンとしては、M&A/TOB の発表直後にターゲット株が TOB 価格近辺までギャップアップし、その後は「ディールが成立する確率」と「決済日までの時間」を織り込んだ水準で張り付くような値動きになる。このゾーンでは、アービトラージファンドのロングフローに加え、既存株主の利食い・乗り換え、短期筋のショートカバーが入り混じり、発表前の板厚・出来高とは比べ物にならないほど流動性が膨らむ。フローの主役はすでに「企業のストーリー」ではなく、「ディールの成否とスケジュール」であり、ヘッドライン一発で需給の向きが反転する世界になる。

買収側の株式もフローの影響を受ける。現金買収であれば、買収プレミアムやレバレッジ増加を嫌気した売りが出やすく、株式交換型であれば「ターゲットロング/買収側ショート」のアービトラージが積み上がることで、買収側銘柄に構造的な売りフローが乗る。規模の大きい案件では、指数や ETF の組み入れ・除外も絡んでくる。たとえばターゲットがインデックス構成銘柄で買収側が非構成銘柄の場合、最終的には「ターゲット売り/買収側買い」のパッシブ・フローがリバランス日に一斉に発生することになり、その日付自体がイベントドリブン・フローとして機能する。逆に、ターゲットが上場廃止となるケースでは、インデックスファンドやロングオンリー勢の売りが「上場廃止日」や「指数除外日」に集中しやすく、ディールのスケジュール表がそのままフローカレンダーになる。

上場廃止は、単独で発生する場合でも強い供給フローを伴う。業績悪化や規模要件の未達などで上場廃止が決まった銘柄では、インデックスからの除外やロングオンリー勢の強制売りが順次発生し、タイムラインに沿って「売りしか出てこない相場」がしばらく続く。その過程で、一部のバリュー投資家やイベントドリブン勢が「清算価値とのギャップ」を狙ってロングすることもあるが、フローの大勢はあくまで売りであり、「どこで需給の投げが一巡するか」を読むゲームになる。M&A による上場廃止の場合も、「TOB 価格でほぼ決まり」のように見える一方で、権利落ちや受け渡しまでにインデックス・パッシブの売りが残っているケースもあり、ディールが完了するタイミングで出来高が一度膨らみやすい。

指数採用銘柄が TOB で上場廃止になると、個別株のアービトラージだけで話が終わらない。指数側では「構成銘柄が消える」という事務的なイベントが発生するため、S&P や MSCI などのルールに従って 除外と代替採用(穴埋め) が走り、パッシブ資金の強制売買が追加で発生する。ここで厄介なのは、TOB の当事者ではない別銘柄に思惑のフローが飛んでくる点だ。市場の関心が TOB 銘柄に集中している一方で、実際には「次に何が指数に入るか」という候補銘柄に、発表〜実施のタイミングでまとまった買いが入り得る。とくに運用残高の大きい指数や、代替採用の確度が高いケースでは、候補銘柄側に先回りの裁定・思惑が乗り、短期的に価格が行き過ぎることがある。

フロートレードの実務としては、「M&A / TOB / 上場廃止」を単なるニュースイベントとしてではなく、

  • 発表直後のプレミアム収束(ギャップアップ/ダウン)

  • ディール期間中のアービトラージフロー(ターゲットロング/買収側ショート)

  • インデックスリバランスや上場廃止日に絡むパッシブの一斉売買

といった、複数のフローが時間差で発生する “連続イベント” として扱うのが現実的だ。ターゲット側のトレードであれば、「発表前→発表直後→アービトラージ参加→ディール完了(上場廃止/指数除外)」というライフサイクルごとに、誰がどちら向きに動いているかを切り分ける。買収側や指数全体の視点からは、「大型案件がインデックスウエイトやセクター構成に与える影響」と、「その調整フローがどの日付に集中しやすいか」をカレンダーに落としておく。M&A / TOB 自体はファンダメンタルズの話でもあるが、フローの視点を通すと、「どのタイミングで、どの方向に、どのくらい歪むか」をかなり具体的なイベントドリブン・フローとして扱えるようになる。

ロックアップ解除・IPOのロックアップ明け

ロックアップ解除は、フローの観点ではかなり分かりやすい「潜在的な売り圧が、ある日を境に一気に市場で売れる状態になるイベント」だ。とくにベンチャー色の強いIPOでは、創業者・VC・一部の従業員持分などが、上場時に「◯日間売却禁止」というロックアップ契約で縛られていることが多く、その解除日が来ると、理屈のうえでは数十%〜場合によっては発行株数の過半が、いきなり売りに回りうるフロートに化ける。上場からしばらくのあいだは浮動株が少なく、需給タイトな状態で上昇していた銘柄ほど、ロックアップ解除日は「いつ売りが噴き出してもおかしくない日」として意識されやすい。

実務的なフローとしては二段構えになる。第一段階は、解除日が近づくにつれて起こる「事前警戒」とポジショニングだ。機関投資家や短期筋は目論見書やIR資料を見て、ロックアップ対象株数や保有者の顔ぶれ(VCが多いか、事業会社か、創業者個人か)をざっくり把握しているので、「この水準でロックアップが解けたら、さすがにどこかで利食いが出るだろう」と考えれば、解除日が近づく前にヘッジ売りやショートを積み上げてくる。チャートだけ見ていると「なんとなく頭打ち」「ボラが上がる前兆」にしか見えない動きも、その裏では「ロックアップ明けを見据えて一度リスクを落としておこう」というフローが混ざっていることが多い。

第二段階が、解除日そのものと、その前後数日のフローだ。ロックアップが実際に解けたからといって、全員がすぐ売るとは限らないが、VCや一部のファンドはEXITのために一定割合を現金化するインセンティブがある。そのため、解除日直後の板には実際の売りと、それを見越したショートカバー、逆張り勢の押し目買いが入り混じり、出来高だけやたら膨らむ「イベント日」になりやすい。想定よりも売りが少なければ、「思ったほど出なかった」という安心感からリリーフラリーになることもあれば、逆にかなりの株数が市場で吐き出されれば、オーバーハング解消までダラダラと下げ続けるパターンもある。いずれにせよ、解除日近辺は「ロックアップ株主がどれだけ売るか」という一点に、フローの焦点が集中する局面だと言える。

フロートレードのスタンスとしては、ロックアップ解除は公募増資やブロックトレードと同じく「供給ショックを生みうるイベントドリブンフロー」として扱うのが現実的だ。ただ、公募増資と違って「何株・いくらで市場に出てくるか」が事前に完全には決まっていないため、あくまで「売りが出やすい日」「ボラが出やすい日」としてカレンダーにマークしておく程度がちょうどいい。具体的には、目論見書のロックアップ条項から解除スケジュール(90日・180日・1年など)と対象株数のざっくりした規模感を押さえ、「この銘柄は◯月に大きめのロックアップ明けがある」「この日はIPO銘柄全体で売りが集中しやすい」といった粒度で意識しておく。そこで実際に大きな売りフローが出たかどうか、どこで投げが一巡したかを観察することで、「その後の数週間でトレンドフォローしていい銘柄かどうか」のフィルタとして使えるようになる。

ファンド・アロケーション系イベント

月末・四半期末・年末のリバランス

月末・四半期末・年末のリバランスは、ファンドそのものの投資判断というより、「決算・評価・リスク管理の都合で、いったんポジションを基準値に戻さざるを得ない」という類のフローだ。とくに年金基金やソブリンファンド、大手機関投資家の多くは、「株◯%/債券◯%/その他◯%」といった長期のアロケーション方針を掲げており、評価日までにその比率から大きく外れないよう、月末や四半期末に向けてポジションを調整する。これがいわゆる月末・四半期末リバランスフローである。

典型的なパターンはシンプルだ。その期のあいだに株式が大きく上昇し、債券がパッとしなかった場合、期末が近づくと「株を売って債券を買う」方向のフローが想定される。逆に株がボロボロで債券が強かった四半期なら、「株を買い戻して債券を削る」フローが出やすい。ストラテジストレポートで「この四半期末はグローバル年金の株売り・債券買い需要が◯十億ドル規模」といった試算が毎回のように出てくるのは、この仕組みによるものだ。実際、四半期末の数営業日は、インデックス先物や主要ETFで「それまでのトレンドを部分的に巻き戻すような値動き」が出やすく、ベーストレンドとは逆向きの一時的なフローとして意識されている。

フロートレードの観点では、これらのリバランスを「トレンドに逆らう恒例行事」として扱うか、「トレンドへの追い風」として扱うかは、その期のパフォーマンス次第になる。株が大きく上がった四半期末は、「株売り/債券買い」がイベントドリブンな逆風として働きやすく、短期的には利確とリバランス売りが重なって押しを作りやすい。逆に株が大きく売られた四半期末では、そのリバランスが自然な押し目買いとして機能し、ベーストレンドの転換点になることもある。どちらにせよ、月末・四半期末・年末といった評価日自体はカレンダー上で完全に決まっているため、「この数日間はリバランスフローが乗りやすい」「今期のパフォーマンスなら、どっち向きに圧力がかかりやすいか」を事前にざっくり想定しておく価値は高い。

実務的な使い方としては、ストラテジストの「予想リバランスフロー」レポートや、株式/債券のその期のトータルリターンを眺めながら、「今度の月末〜四半期末は、株にとって買い材料か売り材料か」をまず方向だけ把握する。そのうえで、日足ベースのトレンドや他のイベント(先物・オプション満期、インデックスリバランスなど)と重なるかどうかを見て、「トレンドフォローの利確タイミングとして使うか」「一時的な逆流を拾いにいくか」を決めるイメージだ。リバランスそのものは、単独で相場を根本から変える魔法イベントではないが、「どの方向のフローが期末に向けてじわじわ乗りやすいか」を教えてくれる、分かりやすいカレンダー要因のひとつだと言える。

加えて、最近はカバードコールETFの存在も、月末・OPEX 周辺のフローをややこしくしている。代表的なカバードコールETFの多くは、「毎月の満期でインデックスや個別株のコールをまとめて売りなおす」というスケジュールで動いており、そのロール日が月次の OpEx や四半期末と重なることが少なくない。ETFサイドでは現物ロングを維持しつつ、満期で消えていくショートコールを新しい期先にロールする必要があるため、そのタイミングでは「古いストライクのヘッジ解消」と「新しいストライクのショートベガ/ショートガンマ供給」が同時多発的に起こる。指数レベルでは、もともとのリバランスフローに、カバードコールETF由来のオプションフロー、さらにJPMカラーのような大型カラーのロールが重なることで、日足ベースの値動きやボラティリティが 月末だけ妙に荒れやすい形で増幅されることがある。本来なら「静かにポジションを整える日」のはずの月末・四半期末が、実際の現場ではインデックスリバランス・OpEx・カバードコールETF・大型ヘッジのロールがぶつかり合う「ごちゃ混ぜフローデー」になっているケースも多く、その意味でもカレンダー上の期末は、単なるアロケーション要因にとどまらないイベントドリブンフローの集積点だと捉えておいたほうがよい。

ターゲットデートファンド・投信のリスク調整日

ターゲットデートファンド(Target Date Fund、いわゆるライフサイクルファンド)は、「◯年に退職する人向け」といった形で、あらかじめゴールの年を決めて運用されるファンドだ。若いあいだは株式比率を高くしてリスクを取り、退職予定年に近づくにつれて、徐々に株を減らして債券やキャッシュを増やしていく──という「時間とともに自動的にディフェンシブになるポートフォリオ」を売りにしている。日本でも企業型DCやiDeCoのデフォルト商品として組み込まれているケースがあるし、米国では 401k の標準解として、かなりの残高がこのターゲットデート系に突っ込まれている。

フローの観点で見ると、ターゲットデートファンドは「年齢(ターゲット年)に応じた株→債券シフトを、あらかじめ決められたスケジュールで少しずつ実行していく」運用だ。具体的な実装はファンドによって違うが、ざっくり言えば「毎年◯回、あるいは◯年ごとに、株式比率を◯ポイントずつ落としていく」というルールに従って、機械的な売り買いが発生する。たとえば「2040年ターゲット」のファンドなら、2025年時点では株70%・債券30%だが、2030年には株60%・債券40%、2035年には株50%・債券50%……といった具合に、ターゲット年が近づくほど株のウェイトがじわじわ落ちていく。この調整は、ファンドの任意の気分ではなく、「いつ・どの年代のファンドで・どの方向にアロケーション変更をするか」が事前に決まっているという意味で、典型的なルールベース・フローだと言える。

単体のファンドで見れば、このリスク調整はそこまで派手なイベントではない。1本のターゲットデートファンドが、年に1回数ポイントずつ株を売って債券を買ったところで、市場全体から見ればノイズに近い規模でしかない。しかし、企業型DCや401(k)の世界では、この手のファンドが「デフォルト選択肢」として大量に採用されており、ターゲット年の違うファンドが“梯子状”に並んでいる。結果として、「ある年の◯月末〜年末にかけて、同じ世代のターゲットデートファンド群が一斉に株売り・債券買い方向の見直しをかける」といったカタマリが、年次イベントとして発生しやすくなる。とくに、退職年が近いゾーンのファンドが厚い世代(ベビーブーマーなど)では、そのリスク調整フローがインデックスレベルの需給に対して、それなりの重みを持ちうる。

実務的には、ターゲットデートファンドのリスク調整日は、公募増資やOpExのように「この日に必ず大きな値動きが出る」といった種類のイベントではない。どちらかというと、「長期的に見ると、特定の年・特定の月に“株を売って債券を積み増したいパッシブ資金”が膨らみやすい」という、非常にスローなイベントドリブン・フローに近い。したがって日足レベルで直接トレードするよりも、「この十数年は、退職世代のターゲットデート資金がどちら向きにアロケーションを変えやすいか」「株式インデックスのベースフローにじわじわ効く背景要因としてどう働いているか」を意識する程度が現実的だろう。

それでも、四半期末や年末のリバランス、年金・保険の長期債買いといったフローと合わせて眺めると、「期末に向かって株売り/債券買いが出やすい構造」がいくつかのレイヤーで重なっていることが見えてくる。ターゲットデートファンドは、その中でも「世代別・ターゲット年別に時間分散されたリスク調整フロー」として、地味だが無視しきれないパーツのひとつになっている。

税制イベント(損出し・配当捕り)

税制に絡むフローは、カレンダーイベントのなかでもかなり人間くさい部類に入る。制度上の締め切りや評価日がはっきり決まっているせいで、普段はあまり動かさないポジションでも、年末や決算期が近づくと「ここで一度整理しておくか」というインセンティブが急に強くなる。その代表例が、いわゆる損出し(タックスロス・セリング)と配当捕りのフローである。

損出しは、含み損の出ているポジションをいったん実現損として確定させ、他の銘柄や資産クラスで出ている利益と相殺することで、納税額を抑えようとする行為だ。カレンダー上の課税年度の終わりが近づくと、「どうせパフォーマンスの足を引っ張っているポジションだし、このタイミングで一度損を確定させておこう」という動きが、一斉に出やすくなる。個人投資家レベルの損出しはノイズに近いが、課税メリットを重視するアクティブファンドや個人向けラップ口座などでは、年末に向けてポートフォリオ全体から「税引き後ベースで見て効率の悪い銘柄」が機械的に洗い出され、売り候補に並ぶ。結果として、年末が近づくほど、年間を通じて冴えなかった銘柄やセクターに「まとめてぶん投げ」が出やすくなる、という需給パターンが生まれる。

この損出しフローは、インデックス全体で見るとそこまで巨大ではないものの、個別株レベルではそれなりに効くことがある。とくに小型株や流動性の低い銘柄では、もともと買い板が薄いところに同じタイミングで売りが重なり、年末〜年度末にかけて妙に安値を掘りやすい。一方で、税務上の制約や「一定期間経てば同じ銘柄を買い戻してもよい」というルールがある市場では、年明け以降に同じ銘柄への買い戻しが入ってくることも多く、結果的に「年末のタックスロス・セリングで投げさせられた銘柄を、年明けの需給改善で拾いにいく」というカレンダーアノマリーにつながりやすい。フロートレードとしては、損出しそのものを直接に取りにいくというより、「年末に不自然に叩かれている負け組銘柄があったら、その背景に税制フローが絡んでいないか」を疑い、年明けの戻りの種としてウォッチリストに入れておく、くらいの距離感が現実的だろう。

配当捕りは、もう少しストレートなイベントドリブンだ。配当落ち前に株式やETFを買い、配当権利を取ってから売り抜けることで、配当相当分を取りにいく戦略を指す。単純な意味での配当捕りは、理論上は配当落ち分だけ株価が下がるため、税金や取引コストを考えるとあまりうまみがないが、実務では「配当とキャピタルゲインの税率差」「先物・配当先物・スワップとの裁定」「インデックス配当の見通し」といった要素が絡み、機関投資家や裁定勢の配当捕り/配当回避フローが毎期のように発生する。とくに高配当株指数や配当加重ETF、銀行・公益など配当利回りの高いセクターでは、権利付き最終日と権利落ち日の前後で、先物・現物・配当関連デリバティブが一斉に動くため、日足レベルでも「権利取りに伴う買い」や「権利落ち後の反落・戻り」が見えやすい。

指数レベルでは、配当捕りフローは主役というより「特定の期にボラティリティとリターンの分布を少し歪める要因」として効いてくる。たとえば、年度末配当が集中する市場では、権利付き最終日の直前に配当狙いの買いが膨らみ、権利落ち直後に決算対策の売りや先物ショートとの裁定解消が重なる、といったパターンが繰り返し現れる。ここに先物ロールやOpExが重なると、現物・先物・オプション・配当先物の四つ巴で、権利落ち周りだけ異常にボラが立つことも珍しくない。フロートレードの観点からは、「配当捕りそのものを狙う」よりも、「配当イベントで短期的に売られすぎ/買われすぎた局面」を、ベーストレンドとフロー環境を見ながら拾いにいくほうが現実的だ。

まとめると、損出しと配当捕りはどちらも税制や配当スケジュールに紐づいたイベントドリブン・フローだが、前者は「年次・決算期ごとに発生する負け組銘柄の整理」、後者は「配当権利取り・権利落ち前後の一時的な需給の偏り」としてチャートに表れやすい。単体で巨大なトレンドを作るほどの力はないものの、カレンダー上の期末や配当集中日と、他のフロー(リバランス、先物・オプション満期、インデックスイベントなど)が重なったときには、その影響が増幅されることがある。「なんでこの日だけやけに負け組銘柄が叩かれているのか」「なぜ権利落ち後に想定以上に戻りが弱い/強いのか」といった違和感を覚えたときに、その裏で税制イベントのフローが動いていないかを一度疑ってみるのは、悪くない習慣だと思う。

アノマリー

フローの文脈で「アノマリー」という言葉を使うとき、筆者が念頭に置いているのは、カレンダーやイベントに紐づいて「なんとなくそうなりやすい」と統計的に言われている値動きのクセである。たとえば「月末は上がりやすい」「SQ週はボラが出やすい」「年末の小型株は強い」「決算明け数日間はモメンタムが続きやすい」といったものが典型だろう。チャートだけを見ていると、こうしたアノマリーはただの経験則かオカルトのように見えるが、フローというレンズを通して見ると、その多くは「そう動かざるを得ない参加者が、特定の時期にまとまっている」ことの反映だったりする。

たとえば「月末・月初は株が強くなりやすい」というアノマリーは、年金やロングオンリー勢のリバランス、インデックス連動の買い、給与天引きの積立資金の流入など、「月次の締め」と「新しい月のスタート」に合わせて動きやすいフローが、毎月それなりの規模で重なっていることと無関係ではない。あるいは「SQ週にボラが出やすい」「opex前後でトレンドが変わりやすい」といったアノマリーは、すでに述べたオプションディーラーのガンマヘッジ解消や再構築、先物ロールやインデックスリバランスといったイベントドリブン・フローが、満期日周辺に集中することの副産物だと解釈できる。年末のタックスロスセリングや、配当権利取り・権利落ちに伴う値動きも、税制と配当カレンダーが生む「いつ・どの銘柄に・どちら向きのフローが出やすいか」という構造を、価格だけから統計的に見た結果に過ぎない。

フローの視点を持っておくと、アノマリーに対する態度も少し変わる。単に「◯月は上がりやすいから買い」といった雑な使い方ではなく、「なぜその時期にそうなりやすいのか」「どのフローが主役で、それは今も生きているのか」を一度立ち止まって考える習慣がつく。たとえば、あるアノマリーが過去には有効だったとしても、その背景にあった年金のルールやインデックスのリバランス仕様が変わっていたり、オプション市場の構造が変化していれば、将来も同じように効くとは限らない。逆に言えば、まだ統計的には十分に検証されていないとしても、「このスキームとこのカレンダーイベントが重なると、こういうフローが出やすいはずだ」とフロー側から仮説を立てることで、新しいアノマリー候補を先に構造として押さえておくこともできる。

重要なのは、アノマリーを「謎の魔法」ではなく「フローの影」として扱うことだ。アノマリー単体を売買シグナルとして崇拝すると、レジームが変わった瞬間に手痛くやられる。一方で、その裏にあるフロー構造を押さえたうえで、「このアノマリーは、◯◯のリバランスと△△のヘッジフローが重なっていたから成り立っていただけだ」「今はその片方が弱いので、期待値はだいぶ落ちている」といった見立てができるようになると、アノマリーはむしろ環境認識の補助線として役に立ち始める。

実務的には、アノマリーはフロー分析の入り口として使うのがちょうどいい。たとえば「月末に指数が荒れやすい」と聞いたら、「なぜその月末なのか」「どのインデックス・どのETF・どのオプションが、そのタイミングでロールやリバランスを行うのか」を掘りにいってみる。あるいは、「決算明け数日間のモメンタム」が語られているなら、「決算サプライズを受けて、どの種のファンドがどの時間軸でポジションを積み増し/縮小しているのか」を想像してみる。そうやって“出来上がった統計”を鵜呑みにするのではなく、その背後にある「誰の・どんな制約が作ったパターンなのか」を探っていくと、同じアノマリーでも、「今どれくらい信用していいのか」「どの条件が揃ったときだけ使うべきか」という解像度が上がる。

まとめると、アノマリーはフローの世界に散らばる「痕跡」のようなものだと考えている。過去のフローが作り出した値動きのクセが、統計として残ったものがアノマリーであり、フロートレーダーにとっては、そこから逆算して「どんなフローが、どんな条件のときに効いていたのか」を推理する手がかりになる。本稿では個々のアノマリーの勝率やリターンを細かく検証することはしないが、フローという視点を持ったうえでアノマリーを眺め直すと、「ただのオカルト」だったものの一部が、「構造とカレンダーに紐づいた、再現性のある現象」として立ち上がってくるはずだ。

フロー分析とテクニカル分析の違い

ここまでフローとはなにか?を定義し、実際に市場で観測できるフローを見てきた。読者の方も一度は思ったかもしれない、フロー分析とテクニカル分析の違いはなんだろうか?フロー分析とテクニカル分析は、どちらも「価格の動き」を扱うが、見ているものがそもそも違う。本質的に言えば、フローは需給現象そのものを直接に扱い、テクニカルはその結果として現れた足跡を後追いしている。

フロー分析で見ているのは、「誰が・なぜ・いつ・どのくらいのサイズで・どちら向きに必ず売買せざるを得ないか」という情報である。インデックスのリバランス、CTA のポジション、オプションディーラーのガンマヘッジ、トレジャリー企業や中央銀行の定期的な買い、増資や転換社債のショートカバーなど、プレイヤーのルールと制約から必然的に発生する注文フローを前もって捉えようとするのがフロー分析だ。ここでの入力は、「価格そのもの」ではなく、運用ルール・会計基準・目論見書・ポジションデータ・カレンダーといった構造情報になる。

一方、テクニカル分析が出発点にしているのは 「すでに成立した取引の履歴」 である。価格・出来高・時間足を一定のルールで加工し、トレンドライン、移動平均、オシレーター、チャートパターン等の形に変換しているに過ぎない。どれだけ高度な指標であっても、入力は過去の価格と出来高であり、それ自体は「なぜその売買が発生したのか」「今後どんなフローが控えているのか」を直接は教えてくれない。テクニカルはあくまで需給の結果として残った足跡を、統計的に読もうとする試みであって、「需給」そのものを扱っているわけではない。

この違いは、時間軸にも現れる。たとえば、MSCI や S&P500 のリバランス日、四半期末の CTA のリバランス、オプション満期やロール、決算後のインデックス組み換えなどは、かなり前の段階で「いつ・どの資産に・どちら向きのフローが出るか」がおおよそ決まっている。フロー分析は、こうしたこれから出ることがほぼ決まっている注文を先に押さえたうえで、実際にその前後でチャートがどう反応するかを確認する。一方、テクニカル分析だけを使っていると、リバランス当日に出来高が膨らみ、トレンドが加速した「後」で、ようやくその動きをパターンとして検出することになる。

もちろん、テクニカル分析が無意味という話ではない。フロー分析で「どの方向に力がかかりやすいか」が分かったとしても、どの水準でブレイクすれば他の参加者の追随が入りやすいかを判断するには、チャートの形や市場参加者が意識している水準を把握する必要がある。実務的には、フロー分析で「向きとタイミング(いつ・どっち)」を見て、テクニカルで「トリガーとなる価格帯(どこ)」を探す、という組み合わせが現実的だろう。

要するに、フロー分析=「これから出てくる需給の本体」をできるだけ事前に把握するものテクニカル分析=「すでに出てしまった需給の痕跡」を価格と出来高から読むものという役割分担になっている。

フローは原因側、テクニカルは結果側。どちらも相場を読む手段だが、どちらを見ているときに原因を追っていて、どちらを見ているときに後追いをしているのか、そこを意識して使い分けることが重要だ。

フローを分析する

市場の需給構造は、まず「常在フロー」というベースレイヤーで決まっている。インデックス運用、年金や保険、CTA やディーラーのヘッジなど、ルールに従って淡々と回り続けるフローが、日々のトレンドやボラティリティの土台になる。その上に、リバランスや先物・オプション満期、増資や転換社債といったイベントドリブンのフローが一時的に乗ってきて、短期的なスパイクや逆流を作る。フロートレードでは、この「ベースの流れ」「一時的な波」を分けて理解するところから始める。

2つのボラティリティ

上述したベースの流れを決めているのがボラティリティである。ボラティリティには大きく分けて、過去の値動きから統計的に計算されるリアライズド・ボラティリティ(RV)と、オプション価格から逆算されるインプライド・ボラティリティ(IV)の2種類がある。ヒストリカル・ボラティリティ(HV)という言い方をする場合は、多くの場合RVとほぼ同義だと思ってよい。

RVは「ここ最近どれくらい荒れていたか」を示す過去データに基づく指標であり、日次リターンの標準偏差などから計算される。一方、IVは「市場参加者がこれから先どれくらい荒れると見ているか」が、オプションの需給を通じて価格に織り込まれたものである。将来への不確実性に対する保険料が上乗せされるため、長期的な平均ではIVのほうがRVより高く出ることが多い。

重要なのは、この2種類のボラティリティが、常在フローの強さや方向性を直接コントロールしているという点である。リスクパリティやボラティリティターゲット型のファンドは、RV(あるいはその予測値)が上がればレバレッジを落とし、下がればレバレッジを上げる。オプションディーラーは、IVが変化するとディーラーが持つポジションのガンマやベガが変わり、そのヘッジのために現物や先物の売買フローを出す。CTAもまた、RVが低くトレンドが素直な局面ではポジションを積みやすく、RVが急上昇してノイズが増える局面ではシステム上ポジションを落とす設計になっていることが多い。

つまり、ベースレイヤーとしての常在フローは「誰がどんなルールで動いているか」に加えて、「今どのボラティリティレジームにあるか」によって性質が変わる。ポジティブガンマ環境では、リスクパリティやロングオンリー、ディーラーのポジティブガンマが作る穏やかで一方向に流れやすい川になりやすく、ネガティブガンマ環境では、同じプレイヤーが一斉にリスクを落とし、ヘッジの買い/売りがぶつかり合う急流に変わる。フロートレードを考えるうえでは、「どのフローが存在するか」だけでなく、「そのフローを支配しているボラティリティが今どこにあるのか」をセットで見る必要がある。

モメンタムとディーラーガンマ

フローを日常のトレードに落とし込むうえで、実務的に一番役に立つのは 「CTA がどう動きやすいか」 と 「ディーラーガンマがどちら向きか」 の組み合わせで相場環境をざっくり切ることだと筆者は考えている。ここでは、モメンタムとガンマをそれぞれ「CTA のアクセル」と「ディーラーのギア」のようなものとして扱う。本稿においてモメンタムとディーラーガンマの定義は以下のように定義する

モメンタムの定義 モメンタムは一定期間のリターンの自己相関であり、価格が「素直に同じ方向へ走り続けている」のか、「上げ下げを繰り返している」のかを示す。CTA やトレンドフォロー型ファンドは、このモメンタムをトリガーにポジションサイズを増減させる設計になっていることが多い。

ディーラーガンマの定義 ディーラーガンマは価格が動いたときに、ディーラーがヘッジとして同方向に追随するのか/逆向きにぶつけるのかを決めるパラメータである。ディーラーガンマがポジティブガンマなら「上がれば売り・下がれば買い」の逆張りフロー、ネガティブガンマなら「上がれば買い増し・下がれば売り増し」の順張りフローになりやすい。

この2つを組み合わせると、日足〜数日レベルの大まかな環境は次のように整理できる。


上昇モメンタムかつネガティブガンマの場合

価格はすでに上昇トレンドに入っているためCTA のシステムが買い側に傾きやすいディーラーはネガティブガンマで、上昇にヘッジ買いが乗りやすい結果として起こりがちなのは小さなきっかけでブレイクが一気に走る押し目が浅く、トレンドの転換点になりやすい。この場合は基本的には順張りでポジションサイズを上げてもいい局面。押し目待ちよりも、直近高値更新ガンマウォール抜けに対して素直に乗る方が機能しやすい。逆張りショートは基本的に封印して順張り。

上昇モメンタムかつポジティブガンマの場合

上昇トレンド自体は出ているただしディーラーがポジティブガンマで、日中の変動には逆張りヘッジが入りやすい結果として上昇トレンドだが、日中はヒゲが多く、レンジを刻みながらじりじり上がる形になりやすい。ブレイクしてもすぐに戻される動きが増える。トレンドフォロー自体は有効だが、エントリーは押し目寄り追いかけすぎない短期的なブレイクアウト戦略より、トレンド方向への押し目買い/戻り売りのほうが期待値を取りやすいゾーン

 モメンタム低迷かつポジティブガンマの場合

上下に抜けきらない、ボックス相場でCTAもシグナルが出にくく、ポジションが小さい。ディーラーはポジティブガンマで、上下ともにヘッジがぶつかる結果として日中の動きはそこそこあるが、終わってみるとブレイクもダマシになりやすいパターン。実務的な扱いとしてはトレンドフォローはほぼエッジがないゾーン。ここで無理に勝負すると「損小利小」を量産しがち。あえてサイズを極端に落とすなり、オプションで売りを組むなどレンジに対応する手法に切り替えるといった割り切りが必要になる

モメンタム低迷かつネガティブガンマの場合

方向感はまだはっきり出ていない、しかしオプションの偏りなどで、ディーラーがネガティブガンマ気味となった場合。結果として普段は大人しいが、何かのきっかけで一方向に滑り落ちやすい。0DTEフローやマクロイベントをきっかけにフラッシュクラッシュ的な動きが出やすい。このような場合で方向感がないからといって油断すると踏み抜かれる。ここでできることは、レバレッジを抑える、どちらかに振れたら即座についていく。ヘッジで指数ショートしておくなど。予測より耐久力のほうが大事になるフェーズ。


実務上は細かい計測をしなくてもいいので、「今はモメンタム相場か、レンジ相場か」「ガンマはトレンドを殺す側か、増幅する側か」この2つだけを意識しておくだけでも、どの局面でトレンドフォローのサイズを上げるかどうかの判断が効く。またガンマ次第ではこの局面ではそもそも触らないほうがいいかといったざっくりした戦略判断がかなり変わってくる。CTA とオプションディーラーは、別々に見ると話が散らかるが、「モメンタム × ガンマ」という軸でまとめると、「今のベースの流れにどれくらい乗っていいか」を決める実務的なコンパスになる。

市場の状態変数

先に述べたように、2つのボラティリティ(RVとIV)、モメンタム、ディーラーガンマを整理することで、ざっくりとした市場トレンドはかなりの部分まで説明できる。主要なシステムファンドの多くは、ポジション調整のキーとしてボラティリティを用いており、そのボラティリティの水準そのものは、オプション市場におけるディーラーのポジション(とヘッジ行動)によって一定程度抑制・増幅されている。

そのベースレイヤーの上に、個別の銘柄・セクターに特有の細かいフローや、インデックスリバランスや満期・ロールといったイベントドリブンのフロー、さらには季節性(たとえば決算期や年末要因)が重なってくる、というイメージだ。

もちろん、市場トレンドがこれらの要素だけで一意に決まるわけではないし、常にきれいに説明できるとも限らない。それでも、少なくとも短期〜数週間程度のトレンド方向については、「どのフローが、どのボラティリティ環境とガンマ構造の中で、どれだけ優勢か」がかなり強く影響している、と筆者は考えている。トレンドはファンダメンタルズだけで自然発生するのではなく、フローによって具体的な形を与えられていくものだ、という立場だ。

フローを観測する方法

ここまで「こういうフローがある」「こういうふうに効く」といった話をしてきたが、実務的には「じゃあそれをどこで見るのか?」「毎日なにをチェックすればいいのか?」が問題になる。この項では、筆者が日々のトレードで実際に見ている“最低限の観測ポイント”を、ざっくり整理しておく。

細かい銘柄ごとのティックデータや板解析に潜る必要はない。ここで扱っているのは日足〜数週間レベルのフロートレードなので、「どのプレイヤーが、どのカレンダーで、どのアセットに絡んでいるか」が分かれば十分だと思っている。

 カレンダーから逆算する

一番コスパがいいのは、「フローの発生源=カレンダーイベント」と割りきってしまうことだ。具体的には、

  • 先物・オプションの満期日(OpEx / SQ、ロール期間)

  • 主要インデックスのリバランス日(年次・四半期・臨時)

  • 大型配当や決算の集中する週

  • 四半期末・年末など、年金・ファンドの評価日

  • M&A / TOB、公募増資、ブロックトレードの発表・受渡日

といった「日付があらかじめ決まっているイベント」を一覧化しておく。
例えば筆者はざっくり定期的に起こるイベントは暗記している。なのでカレンダーを見れば大体どのようなフローが生じるかはわかる

重要なのは、「意味ありげに動いたあとに理由を探す」のではなく、「あらかじめ荒れやすい日をカレンダーからマークしておく」ことだ。opexや先物ロール、リバランス、決算ピーク週、トリプルウィッチングなどは、そこにいるだけでフローが勝手に湧いてくる。まずはここを押さえるだけでも、なんとなく荒れた一日のかなりの部分は説明できるようになる。

 ポジションデータ

カレンダーだけだと「いつ」は分かっても「どっち向きか」が分からない。そこで補助的に使うのが、各種ポジションデータだ。

  • 先物・オプションの建玉(OI)の偏り
     どの限月・どのストライクに建玉が積まれているか。

  • 主要インデックス先物のロング/ショートの残高

  • 一部のアセットでは COT レポート(CTA やヘッジャーの立場のざっくりした把握)

精度の高い推計モデルを持っていなくても、「この価格帯に建玉がやたら集中している」「この限月だけ出来高・OI が不自然に大きい」といったレベルが分かれば十分役に立つ。インデックスレベルでは、「大きなストライクを跨いだときにディーラーのガンマがどう変わりやすいか」「ロール期間に期近⇔期先どちら側に力がかかりやすいか」をざっくり押さえておくイメージだ。

COT や先物残高などの集計データは、更新頻度が週単位と遅く、リアルタイムのフローというよりは「どの陣営がどちらに積み上げてきたか」を眺める用途になる。CTA やマクロ系の大雑把なスタンスを把握する程度のつもりで扱うとちょうど良い。

ガンマとIV

オプションディーラーのフローを厳密にトレースしようとすると、どうしても専用のデータベンダやモデル(unusual wheals,Tier1alfa,spotgammaなど)が必要になる。そこまでやる気がある人は好きに潜ればいいが、本稿のスコープでは、もう少しラフに「雰囲気を読む」くらいで十分だと考えている。

最低限、次の二つだけは意識しておくといい。

  • インプライド・ボラティリティ(IV)の水準と変化
     指数の VIX / VIX 相当指標、主要 ETF の IV、スキューの傾きなど

  • ざっくりしたディーラー・ガンマの向き
     「今の価格帯ではポジティブガンマ寄りか、ネガティブガンマ寄りか」

ディーラーガンマを厳密に計算できなくても、「上側コールに建玉が山になっているのか」「下側プットに偏っているのか」「どのストライクが壁になりやすそうか」くらいは、無料で手に入るため

モメンタムと組み合わせて、

  • 上昇モメンタム × ネガティブガンマ寄り ブレイクが走りやすいゾーン

  • 上昇モメンタム × ポジティブガンマ寄り  → じり高・ヒゲ多めのゾーン

  • モメンタム低迷× ポジティブガンマ    → 完全レンジ

  • モメンタム低 × ネガティブガンマ   → 事故が起こりやすい不安定ゾーン

くらいに環境を四象限で切っておくだけでも、今日は無理に触る日なのか、サイズを上げていい日なのかを決める指針になる。

ETF・ファンドフローと残高の変化

ロングオンリーやテーマETF、レバレッジETFなどのフローは、

  • 日次・週次の資金流入出(ファンドフロー)

  • ETF 残高の増減(新規設定・償還)

  • ETF の保有銘柄・比率の変化

あたりを眺めることで、おおよその方向性が見える。
とくに指数やセクター単位でトレードする場合、

  • 「どの ETF に資金が継続的に入っているか」

  • 「どのテーマ・ファクターから資金が抜けているか」

  • 「どの銘柄が複数 ETF のリバランス対象になっていそうか」

といった情報は、そのまま「どの銘柄がベースフローとして買われやすいか/売られやすいか」の手掛かりになる。

また、自社株買いを積極的にやっている大型株や、ATM 増資を乱発している新興株などは、IR と開示資料から「どのくらいの枠が残っているか」「どのペースで進んでいるか」を眺めておくだけでも、上値/下値の重さ・軽さの感触が変わる。
ここはファンダメンタルズ寄りの情報と、需給としてのフローがちょうど重なる領域だ。

 開示・ニュースを見る

イベントドリブン系のフローは、最初のトリガーがニュースや開示であることが多い。たとえば、

  • 公募増資・転換社債(CB)・ATMプログラムの発表

  • 大型 M&A / TOB / 上場廃止方針の発表

  • 自社株買い決議・ASR の導入

  • ロックアップ解除・売出し計画の開示

などは、発表された瞬間に「これは供給ショックになりそうか?」「その後のショートカバーやリリーフラリーの種になりそうか?」という観点でメモしておく。すべてを丹念に追う必要はなく、「自分が触る可能性のある指数、セクター、銘柄に関係がありそうなものだけ拾う」で十分である。

どこまでやるかを決めておく

フロー観測で一番やりがちなのは、「データを集めすぎて、逆に何も決められなくなる」パターンだ。筆者もフロートレードに慣れてない頃はよくそうなっていた。COT、建玉、IV、ガンマ、ファンドフロー、企業アクション、ニュース……と手を広げようと思えばいくらでも広がるが、個人レベルで全部を完璧に追いかけるのは現実的ではない。

筆者のおすすめは、

  • まず「自分が主戦場にする時間軸とアセット」を決める
     (例:S&P500 日足/数日〜数週間、個別グロース株のスイングなど)

  • そのアセットに効きやすいフローだけに絞って、観測メニューを組む

くらいの割り切り方だ。

たとえば、米国インデックス中心なら

  • カレンダー:opex、先物ロール、主要インデックス・リバランス、四半期末

  • データ:VIX / IV、ざっくりしたガンマ環境、CTA・ボラターゲットの雰囲気

  • 補助:ETFフロー、自社株買い・増資・CB の大きなニュース

くらいを毎日〜週次で眺めておけば、フローの「向きと荒れやすさ」はかなりの部分まで把握できる。

個別株スイングがメインなら、

  • その銘柄を多く組み込む ETF のリバランス日

  • 自社株買い/増資/CB/ブロックトレード/ロックアップ解除などの企業アクション

  • セクター全体の ETFフロー

といったローカルなフローに絞って追うほうが効率がいい。

まとめ

本稿では、テクニカル指標やファンダメンタルズとは別に、フローという視点で相場を読むための最低限のフレームを一通り整理してきた。

最初に、そもそもフローとは何かを定義し、ロングオンリーや年金、インデックス運用、CTA、リスクパリティ、オプションディーラー、企業サイドの自社株買いといった 「常在フロー」 をざっくり地図化した。これらは、日々の価格変動の背後で、淡々とポジションを積み上げたり、縮小したりしながら、相場のベースの流れを作っている。

そのうえで、リバランス先物/オプション満期増資・転換社債・ブロックトレード、個別のアノマリーやイベントドリブン

といったものを、「そのベースの流れの上に一時的に乗ってくる波」として位置づけた。これらは単体でもインパクトを持つが、どの常在フローと、どんなボラティリティ環境の上に乗るかによって効き方がまったく変わる。

テクニカル分析との違いも、ここにある。テクニカルはあくまで「結果として出てきた価格パターン」を扱う。一方でフロー分析は、そのパターンを作ったであろう注文の偏りやプレイヤーのルールを直接に見にいく試みだ。どちらが偉いという話ではなく、テクニカルは需給の足跡、フローはその裏側で動いている需給の力学という、別物のレイヤーを扱っている。さらに本稿では、そのフローを日足レベルで扱うための基礎として、

  • RV(リアライズド・ボラティリティ)

  • IV(インプライド・ボラティリティ)

  • モメンタム

  • ディーラー・ガンマ

をひとまとめに整理した。主要なシステムファンドはボラティリティをキーにポジションを調整し、そのボラティリティはオプションディーラーのデルタヘッジによって抑制・増幅される。そこにCTAのトレンドフォローが重なり、さらにイベントドリブンや季節性、個別のニュースが乗ることで、我々が日々見ている価格のクセが形になっていく。

もちろん、これで相場トレンドが一意に決まるわけではない。

フローの情報にはラグもあるし、構造変化(新商品の登場や規制変更)によって過去に効いていたパターンが突然死ぬこともある。ひとつのフローだけを信仰して逆サイドに踏まれる、というよくある事故も避けなければならない。

それでも、どの常在フローが今優勢かRV/IV はどのレンジにいて、モメンタムは素直かディーラー・ガンマはトレンドを殺す側か、増幅する側か、このあたりを押さえておくと、「いまはそもそもトレンドフォローでサイズを上げてよい局面なのか、それともレンジ前提で慎重に構えるべきなのか」といったざっくりした環境認識は、かなりマシになる。

フロートレードとは、フローを「当て物」に使うことではなく、どの局面でリスクを取りにいくかどの局面ではそもそも触らないかを決めるための、もう一枚の地図を持つことだと筆者は考えている。

本稿で扱ったのは、あくまでそのための入門用のフレームワークだ。個別のフロー(インデックスリバランス、転換社債、トレジャリー企業、ビットコインやゴールドの常在買いフロー等)や、具体的なトレード設計・ケーススタディについては、別稿で順番に掘っていくつもりである。興味のある読者は、そちらも適宜参照してほしい。

最後に、フローは万能でもなければ、未来を確定させてくれる水晶玉でもない。ただ、テクニカルとニュースだけを眺めていたときには「ノイズ」にしか見えなかった値動きが、誰が・どんなルールで・どれくらいの規模で動いているのかという視点を通すことで、少しだけ立体的に見えてくる。その“少し”が、リスクリワードの差になり、長い目で見たときのパフォーマンスの差になる──本稿が、そうしたフロートレードの入口として、読者各位の思考整理の一助になれば幸いである。


参考文献

本稿で扱った「フロー/需給/ボラティリティ」について、さらに定量的・実務寄りに掘り下げたい人向けに、いくつか代表的な本を挙げておく。なお日本語でフローが語られている書籍は多くはない。

なお、本稿で扱ったテーマ以外の投資本については、別途まとめているおすすめ書籍リストもあわせて参考にしてほしい。

『実践日経平均トレーディング』

『日経平均オプション入門』

『トレンドフォロー白書』

『グリーンブラットのイベントドリブン投資法』

『アノマリー投資』

『ヘッジファンドのアクティブ投資戦略: 効率的に非効率な市場』


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オプション中心にマクロとフロー。時々イベントドリブン。トレード中に思いついたこと書いてます。
フロートレード入門|🌻🐠
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