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イラスト&文章

 London犬

シナリオ協力

 けだものだもの

スペシャルサンクス

 暇人様

背景素材

 きまぐれアフター様・・・etc

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

 

※一部グロテスクな表現が含まれます。

ナツ ノ ヌスビト

 消せない記憶・・・。

「モホホホホホホ!

 JKのおっぱい、すべすべもちもち!

 エロJKの生おっぱい、モホホホホホ!」

 やだ・・・。

 やだよ・・・こんなの。

「一体、どれだけの男子諸君に揉まれたら、こんなエロエロ巨乳になるんですかぁ?

 おじさん、すごく気になりますよぉ」

 やだ・・・。

「そんな・・・そんなのいるわけ・・・いるわけないでしょ!」

「モホホホホ!

 可愛い顔して、水着越しにもわかるぷっくり乳輪!

 吸ってくれと言わんばかりの勃起した乳首。

 ねぇねぇ、本当は一杯吸われちゃったんでしょ~ぅ?」

「だか・・・ら・・・いない・・・って!」

「その割には、ずいぶん開発されてるみたいですけどぉ。

 こんなにえっちに勃起しちゃって・・・ここ」

「ぅ・・・だめ・・・気持ち・・・悪い・・・」

 辛い・・・。

 耐えられない・・・。

「君はやっぱりいけない子ですねぇ・・・嘘つきの名人だぁ。

 ま、悪い子じゃなきゃ・・・万引き・・・なんてしないですもんねぇ?」

「だから・・・私は万引きなんか・・・あぅ・・・ん」

「モーッホッホッホッホ!

 なんにせよ、楽しい夏休みになりそうですなぁ!

 蘭子ちゃぁん!?」

「く・・・うん・・・」

 その日・・・私は汚された・・・。

 

7月26日 終業式

 一学期最後の登校日、私は憂鬱だった・・・。

 空気を吸う一連の動作すら、苦いものを飲まされるように辛く苦しかった。

 明日から始まる夏休みが、その心の棘の原因だった。

教師「蘭子君、こう言うのはもっと早く提出しないとだめだよぉ」

 

 私は、前にいる男の足元だけに目をやって視線を止める。

 それ以上、視線を上げられなくなり瞼を伏せた。

教師「アルバイトの申請書。

 終業式当日に出すなんてな。

 常識の欠如ですよ」

 嫌悪感。

 前にいる教師が、その原因を作り出している生物学上の”男”なのか、ただの教師なのか、意識の中で判然としない。ただ、モクモクと湧き上がる雄特有の臭い、雄特有の”異物”に対するフラッシュバックが、私の脳に拒否反応を示している。

蘭子「・・・すみません」

教師「コンビニのバイトねぇ・・・」

 その単語に、心臓に棘が刺さるような痛みが走った。

教師「ま、何とかしておくから先生に任せなさい」

蘭子「あ、ありがとうございます」

 私は、最後まで視線を下げたまま軽くお辞儀をし、職員室の出口に振り返った。

 私は早くこの場を離れたかった。

 この教師、いや、この中年男の傍からすぐにでも離れて逃げ出したかった。

教師「あ、ちょっと待ちなさい」

 その声に肩が大きく動揺する。

教師「それ。そこ」

 振り返りしな、その男は私の胸元を指さし酷く厭らしい表情で言った。

教師「ボタン、ちゃんとしないと・・・ダメダメェ」

蘭子「・・・くぅ」

 耐えられなかった。

 男の・・・その中年男の形容し難い気味の悪い顔、企みを含む顔、吊り上がった口角。

 日常、いつも接していたはずの担任教師の顔なのに、今の私には耐えられなかった。

蘭子「失礼します!」

 職員室のドアを飛び出し、私は自分の息の荒さに驚き胸を押さえた。

 体内から湧き上がる掻痒感に、体中を掻き毟りたくなる。

 嫌だ・・・嫌・・・。

 私は・・・私は汚い・・・。

 キモち悪い・・・。

「おーい、蘭~!」

 その声に我を取り戻す。

 里美。

里美「ニヒヒヒヒ・・・か~えろっ!」

蘭子「あ、うん・・・」

《キーンコーンカーンコーン・・・》

 夏の匂い。

《キーンコーンカーンコーン・・・》

 蝉の声、ジリジリと焼けるような眩しさ、空気、草の臭い。

 西に傾いた太陽が、校庭に落とす影絵。

 校舎から校門までの道すがら、夏の始まりの煌びやかな兆候が溢れ返っている。

里美「やっと一学期が終わったぜぃ!!」

蘭子「そ・・・だね」

里美「なんなん?

 蘭ちゃん、どしたんよ?

 最近、元気なさすぎぃ!」

蘭子「ん・・・いや、そんなことはないと思うけどな・・・」

里美「明日からワクワクする夏休み!

 何かが始まる夏休み!

 良い?

 な、つ、や、す、みぃー!」

 里美の甲高い声が鼓膜に突き刺さる。

蘭子「う・・・ちょっとぉ・・・煩いってば・・・」

 夏休み。

 本来なら、私は浮つくような気持ちで里美と帰りの駅に向かっていたはず。

 いつもの私はもっと明るくて、楽しいことが大好きで・・・。

里美

「ところで、なんで職員室に行ってたん?」

蘭子「うん・・・ちょっとね」

里美「”ノーメン”になんか言われた?」

蘭子「え、いや・・・」

里美「あいつってさ、ほんとキショくな~い?

 里美の胸とかめっちゃ見てくるしさ、もうね、生理的に無理、無理すぎぃ!」

 里美は、そう言いながら自慢げにその大きな胸を振るわせた。

 さっきの男・・・ノーメン。

 本名『田所征四郎』——数学教師、50歳、病的に痩せている。

 身長155センチ、髪が薄い、あだ名は『ノーメン』。

 顔が能面に似ているのと、”あり得ない顔”と言う意味から里美が名付けた。

 男子からも女子からも評判が悪くて、その見た目からいつも馬鹿にされている。

 なぜか里美に対しては甘い。特別扱いされている里美は、そんなノーメンに誰よりも嫌悪感を抱いていた。

里美「ノーメンってヤバくない?

 『LINE』のコンタクト申請とかしつこく送ってくるし、生活指導とか言って二人っきりで会議室に連れ込まれそうになったりするしさ・・・。

 とにかく、アイツが担任になってから毎日ほんとブルーだよ!」

蘭子「里美はね、アンタ好かれてるもん・・・田所に」

里美「はぁ!?

 ありえな~い、想像するだけで痒くなるよっ!

 とにかく蘭も、変に勘違いされるから一人で会いに行くのとかやめな?」

蘭子「・・・うん、というか、どうしても必要な用事だったから」

里美「ふ~ん・・・で、なんの用だったのさ」

蘭子「夏休みの・・・バイト申請」

 里美は、唖然として立ち止まった。

里美「・・・アンタ、バイトすんの・・・?」

蘭子「・・・う、うん・・・まぁ」

 里美は困惑を隠しきれない表情で、私の眼を覗き込んだ。

里美「蘭・・・まさか忘れて・・・ないよね?」

蘭子「・・・・・・」

 頭を過る。

 あるべきはずではなかった、あの出来事・・・。

蘭子「・・・ごめん」

里美「え?」

蘭子「海、行けそうもないや・・・」

 里美が固まる。

蘭子「・・・・・・」

里美「・・・嘘っしょ?」

蘭子「・・・ごめ」

里美「だぁあああああ!」

蘭子「・・・・・・」

里美「・・・うぅ・・・」

蘭子「ほんと・・・ごめん」

里美「・・・まぁ・・・しょうがないか」

蘭子「埋め合わせはさ・・・するから」

里美「うん・・・期待してる」

 里美が絞り出すように零したため息のような言葉に、私は不自然な罪の呵責を感じていた。

 何で私が・・・何で・・・。

 何でこんな思いをしなくちゃなんないの?・・・って。

 校門を抜け通学路を駅に向かって歩く。

 その間、沈黙の代わりに時々横を通り過ぎる車の走行音とセミの鳴き声だけが、二人の間に響き渡っていた。

「おーい!」

 その沈黙を破ったのは、後ろから叫ぶ康介の声だった。

里美「あ、康介~!」

康介「よう!」

蘭子「・・・・・・」

康介「マジか・・・蘭、海行けなくなったのか・・・」

 康介が奢ってくれたラテのカップを両手で揺らしながら、私は居た堪れない気持ちでテーブルの隅を見つめる。

里美「しょうがないっしょ、バイトだもん。

 蘭にも事情があるんだよ」

 里美は投げやりにも近い口調で私を擁護した。

康介「なんか事情があるのか?

 欲しいもんがあるとか?」

蘭子「ううん・・・そう言うんじゃないけど」

里美「ま、来年は受験だしね。

 バイト経験するなら今だよね!」

康介「そっか・・・そうだな・・・ま、しょうがねーか」

蘭子「里美、康介・・・ごめんね」

里美「いいっての、蘭の分までめっちゃ楽しんできてやるもん!

 だから、蘭は気にすんなって」

康介「おい、全然フォローになってねーよ」

里美「え、あ・・・!」

蘭子「いいって・・・私の勝手な都合なんだし」

 私の勝手な都合・・・か・・・。

康介「しかし、殿山も八重樫も御堂も添田もガッカリするなぁ。

 あいつら、蘭の水着姿めっちゃ楽しみにしてたからな」

里美「ちょっとぉ!

 里美の水着姿は楽しみじゃないってのぉ?」

 里美が強調するように胸をテーブルに押し付けて康介に詰め寄る。

康介「いや~・・・水着姿拝む前から最高っすよホント」

 康介は、照れながらも里美の胸に見惚れている。

 里美はそんな康介の視線に満足そうだった。

里美「だよねぇ! エヘヘ」

 里美は康介のことが・・・。

 うん、ずっと前からそんな気はしてた。

 里美は分かりやすい性格だから。

 でも康介は・・・。

康介「でもさ・・・やっぱ俺は、蘭の上品な巨乳の水着姿も見たかったかな」

蘭子「へ?」

里美「は?」

康介「え?」

里美「ちょ!!」

康介「う!」

里美「セクハラ!

 ヤバ、めっちゃキモイッ!」

康介「お、おい・・・そう言うんじゃ」

里美「つーかさ、里美の胸は下品だって言いたいわけ!?」

康介「いや最高っす。里美さんの胸はそういう次元じゃなくてマジで最高っすよホント!」

里美「どーだか!

 てか、康介って精神年齢オッサンなの?

 ショック~!

 オッサンっぽい、キショイッ!」

康介「うぅ・・・蘭、助けてくれよ・・・」

蘭子「・・・あ、ええと・・・康介が悪い」

康介「おあ・・・」

里美「康介ぇ~・・・マリトッツォ頼んでい~い?」

康介「え・・・海に行く予算が・・・」

里美「頼んでい~い?」

康介「わーったよっ!」

里美「ラッキ~!」

 きっとすごく楽しいはずなのに。

 こんなに仲のいい3人と、他にも一杯友達を連れて海に行けたら・・・楽しいに決まってるのに・・・。

里美「あ、でねでね、里美たちが泊まるホテルなんだけど・・・」

 会話中、一人だけ水槽の中にいる私。

 二人の声は濁っていてはっきりと聞こえない。

里美「夕食はバーベキューだからいらないよね。

 だから朝食だけ・・・」

康介「なぁ、蘭」

 気泡がブクブクと私の周りで浮かび上がる。

 泡の中には楽しいはずの思い出や里美たちの笑い声が詰まっている。

 私は、そんな泡をただ何もできず見送るだけ。

 泡は浮かび上がって、私は沈む。

 心が水の底に沈むような感覚は、体にまで重石がかかるような気がした。

康介「蘭、蘭って!」

蘭子「え、何?」

康介「本当になんも無いんだろうな?」

蘭子「え・・・別に・・・何も」

康介「もし、なんか困ったことがあるなら言ってくれよ?

 俺ら仲間なんだしさ。

 それに、心配だからさ・・・」

里美「・・・だね・・・」

 仲間。この期に及んでそんな言葉にどんな重みがあるんだろう。

 今の私は、そんな上っ面の言葉に惑わされるほど純粋じゃいられない。

蘭子「そだね・・・」

 私の素っ気ない返答に、康介は困惑した面持ちで黙ってしまう。

 私はまた沈黙を作ってしまった。

 ジメジメした私に業を煮やして、里美が割り込む。

里美

「あ、でね、近くにフラワーパークがあるの。そこで美味しいケーキが・・・」

 私は再び水中にゆっくりと沈んでゆく。

 海の計画を嬉々と話す康介と里美の会話する声が届かない場所まで。

 康介と里美と私。

 三人はいつも一緒だった。何をするのも。

 チャラいようで実は真面目な康介。

 いつも明るくて元気な里美。

 そして・・・本当はこんな暗い女の子じゃない私。

 今年の夏休みは里美と私の発案で仲間を募って海に行くはずだった。

 一泊二日。

 里美の親戚が伊豆の宇佐美という場所にある信じられないほど人の少ないビーチを紹介してくれて、私たちはそこで8月の初めに真夏のお祭りを楽しむ予定だった。

 7月の初め、私と里美は地元から1時間30分も電車に乗って東京に水着を買いに行った。

 東京の賑やかな風景は、田舎暮らしの私たちをいつも圧倒した。

 私たちは町ブラを楽しみつつ、新宿のルミネエストで水着を探した。

 色取り取りの水着が陳列するフロア。

 私は少ない予算と格闘しながら、とびきり可愛い水着を探した。

里美「アタシ、これにしよっかな~!

 どぉ?

 このビキニめっちゃ良くない?」

蘭子「エロぉ・・・エロすぎないそれ。

 ってか、それって『naomi』だよね?

 な~んか最近リッチだねぇ里美・・・」

里美「エヘヘ~♪

 バイトしてるからねぇ~」

蘭子「そう言えばそうだっけ」

里美「うむ。

 蘭もバイトしたらぁ?

 お小遣いだけじゃ正直ジリ貧でしょ」

蘭子「そーなんだよねぇ・・・」

 

 私は、心もとない財布の中身を思い出してため息をこぼす。

蘭子

「バイトかぁ・・・」

 私たちは水着を選び終えると、遅くなる前に電車に乗った。

 車窓に移るビルの影がソーダ水の泡のようにはじけて消える。

 だんだん暗くなって、見慣れた山梨の田舎景色に変わった。

 事件が起きたのはそれから数日後だった。

 私と里美は、新調した水着を試着して見せ合うために、里美の家へ向かった。

 里美の家は新築の建売物件で、最近引っ越したばかりだった。

蘭子「家、めっちゃ遠くない?

 アンタ、いつもこんな遠くから通ってんの?」

里美「引っ越してからもう三か月だよ。慣れた慣れた」

 地元ですら田舎なのに、里美の家までさらに単線で三十分も電車に揺らされることになった。

 山、山、山。

 車窓から見えるのはもはや緑色しかない。

《笛吹~笛吹~。お降りの際は足もとにお気をつけ》

 笛吹――学校から単線で6つ目の駅。秘境のような駅。当然そこは無人駅だった。

 駅を出て少し歩くと、開けた通りに出た。

里美「なんかおやつ買ってかない?」

蘭子「そだね・・・ってか、コンビニとかあんの?」

里美「あるある。ひとつだけね」

 里美に促され少し歩くと通りに面してコンビニが一軒あった。

 『Eストア』。

 個人経営のコンビニだろうか、バックの山と空の下にポツンとあるコンビニ。

 このコンビニが、すべての始まりだった。

蘭子「ちょっと待ってって!

 え~と・・・違うなぁ。

 これ!・・・いや、違うなぁ・・・」

里美「はぁ・・・コンビニスイーツ選ぶのに何分かかってんのよ!

 もう、アタシは先に家に帰ってるからね!

 家はさっき教えた場所だから、後から来てよね!」

蘭子「ちょっと待ってって・・・。

 もう、せっかちなんだよ里美はー!」

 とっくに飲み物やスイーツを選んでいた里美は、レジを済ませるとさっさと店を出てしまった。

蘭子「よし、これでいいやっと」

 結局、私はいつものカップケーキと抹茶ミルクティーを手に取り、レジに向かった。

店員

「商品は以上ですか?」

 太ったおじさんが一人でレジをしていて、私をジロジロ見てきて少し気持ち悪かった。

 名札には『店長 イケダ』と大きく書かれている。

蘭子「はい・・・」

(うわぁ・・・脇汗ヤバ・・・。

 シャツ全体が汗でピチピチに体に張り付いて、乳首が浮き上がってる。気持ちわる・・・)

店長「680円になります」

 会計を済ませ、私は買ったものをリュックに放り込んで急いで店を出ようとした。

店長「おじょうさん」

蘭子「え?」

店長「いけないなぁ・・・こいつぁ不味い」

蘭子「な、なに、なんなの?」

店長「ま、いいからこちらへ」

 何のことやら分からず、言われるがままに私は店のバックヤードに連れ込まれた。

店長「よいしょっと」

 でっぷりとしたお腹を息苦しそうにして店長が椅子に腰かける。

 私は何が何だか分からず、ただ怪訝な表情で立っている。

蘭子「あの、なんなんですか?

 私、急いでるんですけど」

店長「ふ~・・・」

蘭子「あの!」

店長「さ、盗んだものをこのテーブルに出してもらいましょうか?」

蘭子「はぁ!?」

 私は、万引きの疑いをかけられた。

 無実を主張する私。

 裏腹に、私のリュックから取り出されテーブルに置かれる身に覚えのない品々。

店長「いけないなぁ・・・非常にいけない」

蘭子「し、知らないって、本当に私じゃ」

店長「化粧水、リップクリーム、スキンミルク・・・それからコンドーーーーム」

蘭子「だからぁ、そんなもの盗まないったら!」

店長「おやぁ、この水着・・・この新品の水着はウチのじゃないなぁ・・・?

 と言うことは、万引きの梯子ですかぁ?

 こいつぁ常習犯ですねぇ・・・」

蘭子「い、いい加減にしてよ!

 万引きなんてしてないって何度言ったら分かるの!?

 その水着は、私がお小遣いで買った・・・」

店長「電話かなぁ・・・どっちが良い?

 親御さん?

 それとも警察ぅ?」

蘭子「だからっ!」

店長「万引き、万引きぃッ!!」

蘭子「!」

 私は、その怒鳴り声に心臓が止まりそうになった。

 店長は、畳みかけるように捲し立てた。

店長「万引き、窃盗、窃盗罪ッ!

 これは、犯罪なんですよッ!

 犯罪、犯罪、これは犯罪ッ!

 わかってるんですかぁッ!」

 その剣幕に頭が真っ白になる。

 すぐに我に返って考える。

 身に覚えがない。絶対に私じゃない。

 でもそれをどうやって証明するの?

 親に言われる・・・警察・・・。

 嫌だ・・・そんなの。

 絶対に学校にバレる。

 クラスで噂になる・・・。

 嫌だ・・・嫌だよ!

 私はどうすればいいの?

店長「オホホホホホ。

 心ここに在らずという顔ですねぇ。

 どう足掻いても君のような万引き少女に、目ぼしい解決策は見当たらないでしょう。

 もしよろしければ、君の罪を、君の忌むべき犯罪行為を、

 この場で、このおじさんが免罪してあげることも出来るんですがねぇ」

蘭子「・・・・・・」

店長「君が贖罪に満ちた人生を歩むことなく、今後もハイスクールデイズを爽やかに過ごせる起死回生の打開策を、このおじさんがご教示してあげようと言っているのです。モホホホホホ!」

蘭子「それは、無かったことにしてくれる・・・ってこと?」

店長「君の対応次第ですがね」

 私は、絶対に万引きなんかしてない・・・。

 でも、それを証明できない。

 証明できない以上、私はその条件を飲むしかなかった・・・違う、そんな馬鹿な話はない。でも、その時の私は、焦燥感からそう思ってしまった。

 その誤った判断が、この先の私を地の底まで叩き落す結果になるとも知らず。

 そのあと、そこで行われたことは・・・思い出したくもない・・・。

 それなのに、今でもあの下卑た行為が瞬間ごとにフラッシュバックされる。

蘭子「もう・・・いいでしょ・・・」

店長「ダメダメェ、ちゃんと両腕をしっかり頭の後ろに回してもらわないと。

 これはあくまで、身体検査なんですからぁ。

 万引きお嬢ちゃんが他にも何か盗んでないか調べるためのねぇ!

 モホホホホホホホホ!」

 気持ち悪い店長の太った手が、緊張したままの私の胸を弄る。

 初めて他人に触られる感触。

 吐き気にも近い怒りと嫌悪感に、耐えきれず身震いする。

店長「おやおや・・・これは何かを隠してますなぁ、でなければこんなに”たわわ”な訳がない!」

蘭子「ちが・・・違うって・・・ただの・・・胸だから・・・」

店長「しかし、最近のJKってのはみんな発育がいいんですかねぇ。

 この何とも言えないまだ未開発な弾力のあるおっぱいが溜まりませぇん。モホホホホ」

 キモイキモイキモイ・・・頭の中を埋め尽くす言葉。

 ぞわぞわと下腹部から湧き上がる得体の知れない感覚。

蘭子「もういい加減にしてよ、何も無かったでしょっ!?」

店長「はぁあん?

 聞こえませんねぇ・・・ムホホホホホ」

 きっと、この男の要求さえ呑めば私は解放されるはず。

 胸くらい・・・胸くらい良いかって・・・そう考えた、考えてしまった。

 私の胸・・・。

 こんな気持ちの悪い男に・・・好き勝手に・・・。

 悔しい・・・。

 でも、今を耐えれば、明日からまたいつもの生活に戻れるはず・・・。

 そんな短絡的な思考が、正常性バイアスとなって私の頭を鈍らせてしまった。

店長「ふむ・・・確かに、このブラウスの下にあるのはJKのエロエロな巨乳だけですね」

蘭子「・・・・・・」

店長「その鋭い目つき、溜まりませんねぇ」

蘭子「も、もう帰してくれるよねっ!?」

店長「そうですねぇ・・・おっとそうだ!

 せっかくなんでその水着・・・着てみませんかね?」

蘭子「はぁ?」

店長「ちゃんと更衣室もありますから、ご安心を」

蘭子「なんで、なんでアンタの前で水着を着なくちゃいけないのよ!」

店長「貴方が反省してるかどうかを見極めるためですよ・・・モホモホ」

蘭子「だから、私は万引きなんて・・・」

店長「まだ言いますか?」

蘭子「・・・・・・」

 水着だけ・・・。

 それさえ済めば・・・。

蘭子「・・・それを着たら、絶対に帰してよね」

店長「当然、その選択肢はありますな」

 私は渋々水着を手に取り、更衣室へ向かった。

 言うことを聞けば何とかなる。

 この状況でまだそんな短絡的なことを考えていた。

蘭子「もう、これで終わりにしてよ・・・」

 海で着るはずだった水着に着替え、鼻息を荒くして待ち焦がれる男の前に立った。

店長「ホホホホホホ・・・想像以上にすごいスタイルですね・・・。

 艶々だ、瑞々しい・・・少女の張りのある身体!」

蘭子「満足したでしょ!

 もう帰してよ!」

店長「モホホホホ・・・帰しますよぉ・・・。

 その水着おっぱいをたんまりと身体検査したらね」

蘭子「え、うそ・・・」

店長「嘘なんかじゃないですよ。

 貴方が私の身体検査を無事通過し、このあと自分の足で帰宅の途に付けるか、

 あるいは、取調室で刑事の尋問を受け親御さんに迎えに来てもらうか・・・」

蘭子「・・・・・・」

店長「私の一存でどちらにも転がるんですよ」

蘭子「・・・く・・・」

店長「素直にご協力いただければ、私は貴方が十分に反省したものだと理解しますよ・・・モホホホホホ」

蘭子「・・・・・・」

店長「さぁ・・・ご決断を」

蘭子「・・・わかった」

店長「よろしい!」

 男の手が私の胸に伸びる。

 顔がこわばる。

 太った手が水着越しに私の胸を弄る。

 ごつごつとした手が、敏感な部分を焦らす様に触れると、私の身体は勝手に震えた。

店長「モホホホホ!

 正直に感じていいんですよ?

 声も出していいんですよぉぉ?」

蘭子「きもい・・・きもいきもいきも・・・い」

店長「ふ~ん、な~んか態度悪いですねぇ・・・。

 良いのかな・・・盗人のくせにそんな態度でぇ?」

蘭子「くぅ・・・最低・・・」

店長「しかししかし、JKでこんなおっぱいなんて反則だよぉ・・・。

 もしかして、中身はもっと反則なのかしら?」

 その言葉の刹那、水着が乱暴に剥がされ私の裸の胸が躍るように零れた。

 私はとっさに胸を隠した。

蘭子「ちょ!

 約束が違う、こんなの聞いてないっ!」

店長「オホホホホホ、良いじゃないですか~、減るもんじゃなし」

蘭子「ふざけないでっ!

 もう十分でしょ、約束通り帰してっ!

 もしこれでも帰さないっていうなら、警察でもなんでも・・・」

店長「ん~、ごめん。

 今のばっちり収まっちゃってるんだ、蘭子ちゃぁ~ん」

蘭子「え?」

店長「ホレ、アレ」

 そう言って、男は天井の隅を指さした。

 そこには赤色のランプが付いた監視カメラがあった。

蘭子「うそ・・・」

店長「モホホホホホ!

 これで私と蘭子ちゃんは共犯、運命共同体ってやつですな!」

蘭子「そんなの・・・アンタが捕まるだけだよ!

 未成年りゃく・・・りゃく・・・ええと、きょ、きょうせい・・・

 強制痴漢罪、ロリコン罪っ!」

店長「モホホホホホホ!

 どうぞどうぞ、通報するなりなんなりお好きなように。

 私はカメラの映像を消去しちゃえば済む話ですから。

 警察はどっちの証言を信用するでしょうねぇ?

 所詮、万引き犯の苦し紛れの戯言と判断してしまったら、偽証、つまり虚偽告訴罪、3ヶ月以上10年以下の懲役・・・と。

 お分かりですか?

 モホホホホホ・・・」

蘭子「うぅ・・・」

 知識の無い私が言いくるめられるのは時間の問題だった。

店長「仮に蘭子ちゃん、君の通報によって私が逮捕されたとしましょう。

 さてさて、逮捕前に私はこの動画を全世界にネット配信してしまおうかと思いますねぇ。

 君の生おっぱいが、全世界で注目の的ですよぉ。

 そうだ、その動画のタイトルは『日本の万引き美少女JK、反省の生おっぱいを揉まれまくる』

 とでもしましょうか。

 モノホン素人女子校生のエロ動画はね、とーっても高く売れるんですよぉ?

 特に蘭子ちゃんのように美少女で巨乳で美乳とくれば、大ヒット間違いなしです!

 きっと、貴方のお知り合いも目にするほど売れるでしょう!

 私が釈放される頃には、ずいぶんな貯えになって返ってくるに違いありませんなぁ!

 モホホホホホホ!」

 私は、固まってしまった。

店長「と言うことで、理解してもらえましたね?」

 胸を隠す私の手が引き離される。

 もはや、私は抗う気力を失っていた。

 私の胸はその先端まですべてこの男の視界に収められた。

蘭子「もう・・・やだ・・・」

店長「何とも卑猥な格好ですねぇ、おっぱいだけボロンと零して下は着けたまんま。

 私、こういう淫乱と純潔のハザマみたいなのが大好物でしてねぇ・・・」

蘭子「・・・変・・・態」

店長「男なんてみんなドヘンタイですよぉ、モホホホホホ!

 ま、下の方は後でじっくりたんまりね」

 これから何が起きるのか、何をされるのか、想像すらできない私。

 何も知らない自分が酷く頼りなく思えた。

店長「しかし、しかししかししかし!

 なんてドスケベなおっぱいなんだろうねぇ。

 いったい何人の男子諸君が」

 男がぶつぶつと言いながら、私の裸の胸に手を伸ばした。

蘭子「う・・・」

 警戒感、肩が大きく震える。

 男の手が私の胸を背後から鷲掴みにする。

店長「モホーーーー!

 温かいですね、蘭子ちゃんのおっぱい温度は35℃って所でしょうか?」

蘭子「う・・・く・・・」

店長「少々低いか・・・なるほど。

 この状況に血の気が引いちゃってるんでしょうねぇ。

 可哀そうに・・・おじさんがモミモミモミモミマッサージして温かくしてあげましょうね!」」

 ごつごつとした大きな手が私の裸の胸を子供が弄ぶように揉みくちゃにする。

 その指が徐々に力を込める。

 胸に痛みが走る。

蘭子「いた・・・い・・・」

 そうかと思うと、今度は胸の敏感な部分の周辺を優しく指で這いずり回る。

 胸全体の痛みが引き、神経が先端に集中する。

 その指はあえて敏感になった先端を避けるように円を描いて回る。

 その円が小さくなっていき、先端に近づくとまた円を大きくする。

 私は思わず身震いする。

 

 私がピクピクと震えるのを待っていたのか、その指は突然その先端を激しく転がした。

蘭子「や、う・・・ぅあああ、あ、あぁ!」

店長「うはぅ・・・良い反応!・・・エッチな娘ですねぇ」

 男の指が、私の胸の先端を執拗に刺激する。

蘭子「ん、だめ・・・ん・・・いやぁ!」

店長「その調子、その調子でもっと自分に素直な声を出してしまいましょうよぉ!」

 気持ちの悪い声が自然と漏れていた。

 私は恥ずかしくてそれを押し殺す。

 この男がそれを喜ぶのなら、もう絶対にそんな声など出さない。

蘭子「も、もういいでしょ!」

店長「こんなんじゃ君の禊は終わりませんよぉ」

 男の指が今度は私の下腹部に伸びる。

蘭子「やだ、だめぇっ!」

 パンツが引きはがされ、その指が私の性器を刺激する。

蘭子「あぅ!・・・う! あああ・・・く」

 声を押し殺そうとしても声が漏れる。

 初めて体感する奇妙な感覚に、私の全身がしゃっくりを起こす。

店長「敏感ですねぇ・・・気持ちいいですかぁ?」

蘭子「う・・・あぅ・・・く・・・はぁぅ・・・う」

 その指が執拗に私の性器を苛める。

 耐えがたい感覚に私は意識が混濁する。

蘭子「はぁああ・・・あ・・・あああ・・・」

店長「おっと、まだまだイカしたりしませんよ。

 焦らして焦らして・・・これ、私の趣味なんです。モホホホホホ!」

 指の動きが止まる。言い表しようのない切ない感覚がどんよりと残る。

 足の力が入らない。

店長「ホッホー!

では、そろそろ蘭子ちゃんにご奉仕してもらいましょうか」

蘭子「・・・もうだめ・・・私・・・耐えられない・・・」

店長「学校や親に知られたくないんでしょう?

 ましてや警察なんてねぇ。

 友達にも知られちゃいますよぉ?

 万引き行為、そして君の生おっぱいマッサージや手マンが

 ぜーんぶ録画されてることを忘れないでくださぁい?」

蘭子「だめ・・・それだけは」

店長「前科者になりたくないでしょう?

 恥ずかしい姿を知人に知られたくもないでしょう?

 私も、こぉんなに可愛い女の子の将来を、無下に終わらせるべきじゃないと思ってるですよぅ」

蘭子「・・・・・・」

店長「お判りいただけましたかぁ?」

蘭子「・・・・・・」

私は何も言い返せなかった。

店長「その沈黙は、許可した、とおじさんは考えちゃいますよぉ?」

蘭子「・・・・・・」

店長「いやー、実に良かった。これで君も犯罪者にならずに、私も若い子を救えまぁす。

   まずは・・・これを舐めてもらいましょうかぁ!」

蘭子「え・・・え?」

 男がズボンを下ろす。醜く膨れた腹の下にある醜悪な”それ”を曝け出した。

蘭子「や!気持ち悪い!そんなの見せないでよ!いやだぁぁぁ!」

 初めて見る男のそれに、私は嫌悪感以外の感情が湧かなかった。

 異様な臭いが一瞬にして鼻を刺激する。

店長「さ、君の将来がかかってるんですよぉ?」

蘭子「・・・く・・・」

店長「さあ早く!」

 男は、私の頭を強引に引き寄せた。

 目の前に悪臭がするその異物がそそり立っている。

 私は目を瞑った。

 要求を飲めば私は元に戻れる・・・。

 なんの根拠もない楽観論。

 短絡的思考。

 私は、汚れることの意味さえ考えられずにいた。

蘭子「ん・・・、くさい・・・くさいよ・・・ん・・・ん」

 異物が口の中に押し込まれる。

 臭い・・・酷い臭い。

 何とも言えない感触のそれが私の口の中で音を鳴らして滑る。

店長「その臭いおっさんチンポが、蘭子ちゃんの可愛い唇にしゃぶられてるんだよぉ」

蘭子「さ・・・最低・・・最低だよ・・・クズ人間・・・」

店長「口は悪いけどチンポをしゃぶるそのお口は悪くないですよぉ。

 さあ、無駄話は良いから、もっと根元までしゃぶるんです」

 男の手が私の頭を力尽くで前後させる。

 口の中に押し込まれた異物が何度も口の中を行ったり来たりする。

蘭子「む、むり・・・れ以上・・・ホ・・・ん・・・んむ」

店長「無理ですと?」

蘭子「う・・・うん! 無理!」

店長「これはすでに命令なんですよ?

 万引き少女の蘭子ちゃぁん」

 言葉に詰まる。

 初めて見た男の醜悪な性器を、私は口の中に含んでいる。

 私の舌が否応なしにそれを濡らす。

 苦しい。

 苦しさと同時に、今の自分の惨めで汚らわしい状況に涙が込み上げる。

 

 男の性器が私の口の中で小刻みに震える。

 ひどくゴツゴツとしていて不快な臭いを放っている。

 次第に何か妙な味がし出した。口の中をまとわりつく粘着質の液体。

 その粘性が、口の中を一段と不快にする。

 

 性器の先が喉の奥に当たって私は咽た。

蘭子「ケホッ! うぇ・・・も、もう無理・・・ほんとに・・・ケホッケホッ!」

 私は我慢できずその行為から顔を反らした。

 口の中から異物が抜ける。私の唾液に塗れた異物が私の唇と糸を曳いている。

店長「まだ5分もしゃぶってないのに降参とは」

蘭子「だめ・・・これだけは・・・お願い・・・」

店長「お願いとあらばしょうがないですね。

 いきなり本番は可哀そうかなとも思って、上のお口で済まそうと思ったんですが・・・。

 しょうがない。

 上のお口が無理なら、下のお口にしましょうかね」

蘭子「・・・下・・・?」

店長「まあ、私にお任せくださーい」

 信じられない時間だった。十分?二十分?

 思い出せない。

 私が何をしたのか、何をさせられたのか。

 思い出したくない。

 ただ生臭い味覚と臭覚、そして痛みだけが粘りっこく残っていた。

 やっと解放された時、ただ吐き気だけがした。

 店を出ても口の中にあの太った中年男の気持ちの悪い味と臭いがしていた。

 下腹部が重く、歩くと陰部に痛みを感じた。

 私は、何度も吐きそうになりながら里美の家に向かった。

里美「遅いよ蘭!

 何して・・・え?

 なんでアンタ泣いてんの?

 なんかあった?

 どうしたのよぉ!」

 私は泣いている理由を里美に話せない。

 ただ、止めどなく零れる涙で付着した汚れを洗い流したかった。

 私の右手に握られたUSBメモリ。

 あのコンビニで解放されたとき渡されたUSBメモリ。

 この中には、あの出来事の一部始終が収められている―――

蘭「痛い! やだ! 痛いよ!」

店長「処女マン処女マン!

 蘭子ちゃんの処女マーン!」

蘭「くぅぅう・・・」

店長「蘭子ちゃん! すごい締まってるよぉ! 温かいよぉ!

 でもすっごいビチョビチョ!

 おじさんのチンポをお迎える気満々なんですね!

 おじさん、こんなに可愛い蘭子ちゃんに御持て成しされて凄く嬉しいですよぉ!」

蘭「ぁう・・・いや・・・いやぁ!」

店長「はぁはぁはぁはぁ!

 こんなに可愛い女子校生の処女が私のものに!

 なんて幸せなんだぁ!

 モホホホホホホ!

 あー気持ちいい!」

蘭「いた・・・いたぁぃ!

 うううん!痛い!」

店長「大丈夫!

 これから何度もおじさんのチンポを挿れてあげるからね!

 きっとすぐに気持ちよくなりますよ」

蘭「はぁ! うぁあ・・・くぅああ!」

 私は、この醜く太った男に一番大切なものを奪われてしまった。

 すべては私の浅墓な判断が原因だった。

 その過ちを切欠に、私はこの不条理な世界にずるずると足を引っ張られることになる。

店長「ふぅ・・・。

 そこのティッシュで拭いてくださいね。

 最高でした。蘭子ちゃんの処女マンコ」

蘭「・・・ひど・・・い」

店長「ということで、君とのやり取りは今の行為も全部録画させていただきました。

 警察や誰かに話してもいいですが、その時はこの動画と君の犯罪行為は

 世界中の人に知れ渡ることになることを忘れないでくださぁい」

「酷いよ・・・酷すぎる・・・。

 こんな事って・・・」

店長

「そうだ、君を夏休みの一か月間この店で雇うことにしましょう。

 その間、君は私だけの愛玩具になってもらいます。時給は大盤振る舞いしますよ?

 モホホホホホホホホホ!」

「絶対・・・絶対そんなの・・・嫌・・・だ・・・」

店長

「何度も言わせないでほしいんですが、君に断る権利なんてないのです。

 断るということは、君のフェラチオや処女喪失、そして犯罪行為が、

 君の学校の知り合いや親に知れ渡ることを意味します。

 それをずぅーっと忘れないように、コピーした動画が入ったUSBメモリを差し上げますよ。

 家に帰って考えてみてくださぁい?

 『この動画が世界中に流れてしまったら、私の一生は・・・』って。

 そうならないように、夏休みはここでおじさんのお楽しみ相手として働いてくださぁい。

 おじさん、君のこともっと知りたいんですよぉ・・・モホホホホホ!」

 私はその言葉に恐怖し、抗いきれなかった。

 私は、有無を言わさずその気持ち悪い中年男の待つコンビニで、夏休みを過ごすことになった。

 私は、どうなってしまうのだろう・・・そう思いながら・・・。

里美

「でねでね、ホテルってのがさ、オーシャンビューの大浴場があんの!」

康介

「マジっすか!すげーじゃん!」

里美

「でね、すぐ近くにねぇ・・・」

康介

「蘭・・・来年は蘭も一緒に行けるといいな」

蘭子「・・・・・・」

里美

「あ、うん。そだね。

 来年は蘭も」

蘭子「・・・・・・」

康介

「・・・蘭」

冷たくもなく人の気配もしない水の中。

私は、誰からも気づかれず、そっと沈んでいたい。

7月27日 朝

店長「やぁやぁ、蘭子ちゃぁん!

 約束通りの初出勤ですねぇ!

 今日からしっかり頼みますですよ!モホホホホホホ!」

 私は沈んで、ずっとずっと深くまで沈んで、いつか窒息して小さな泡になって消えてしまいたい・・・。

夕方

蘭子「何時まで・・・?

 私、全然聞いてない・・・」

店長「おっとそうでした!

 いやいや、説明不足で申し訳無かったですねぇ。

 モホホホホホホ!」

蘭子「・・・もう帰りたいんだけど」

店長「蘭子ちゃぁん・・・とても残念なお知らせです」

蘭子「・・・」

店長「この店は、朝8時から夜の8時まで営業してるんですよぉ」

蘭子「・・・だから?」

店長「当然、閉店まで働いてもらいますよぉ。モホホホホホホホ!」

蘭子「じ、冗談でしょ!12時間も働けって言うの!?」

店長「あい~」

蘭子「ふざけないでよっ!そんなの違法だよっ!」

店長「違法・・・違法ねぇ・・・」

蘭子「何よその目!気持ち悪いんだよっ!」

店長「犯罪娘が法を語るとは、滑稽ですねぇ・・・」

蘭子「だ、だから私は!」

店長「ま、今のシーズン、客なんてそんなに来ないんだし、大して疲れちゃあいないでしょ?」

蘭子「そういう問題じゃないよ!」

店長「ちゃんと後でご褒美もありますからぁ」

蘭子「そんなの要らない!私は早くアンタから離れたいだけっ!」

店長「厳しいですねぇ」

蘭子「煩いっ!」

店長「ま、あと3時間、あっという間ですよぉ・・・モホホホホホ」

蘭子「クズ・・・」

 この男の言う通り、働くことは苦ではなかった。

 この店に来た客は今日一日を通して100人もいなかった。

 大抵はぼーっとして過ごした。

 でもそれが、逆に辛かった。

 それは、考える時間が増えるということ。

 この男と、私の初めてを汚したこの男と二人きりになる時間が多くなるということだから。

 

 はやく出たい。

 一刻も早く、悪臭の漂う醜いこの男のいる空間から解放されたい。

店長「おーっと、良い時間ですねぇ」

 店内の掃除を済ませたころ、時刻は夜の8時を回っていた。

 終わった。

 やっと解放される。

 私は、一気に疲れが取れる心境だった。

店長「じゃ、お店閉めますね」

 シャッターが落ちる。

 こんな過疎のコンビニでは、夜8時以降に店を開けていても収入にはならないんだ。

蘭子「じゃ、私は帰っていいよね?」

店長「もちろん。あ、その前にご褒美」

蘭子「要らないったら!

 私は早く帰りたいだけ!」

店長「まぁまぁまぁまぁ!

 そんなこと言わず!

 さ、お茶の用意が出来てますんで」

蘭子「しつこい!

 アンタと一刻も早く離れたいだけなの!」

店長「そういう態度は感心しませんね・・・」

蘭子「何よ!」

店長「いつでも、私は最終手段を使えることをお忘れなきように」

蘭子「く・・・この男・・・」

店長「モホホホホホホ!

 怒った顔も良い!

 おじさん、その顔に目いっぱいぶっかけたくなってしまいました」

蘭子「!」

 あの日の絶望が蘇る。

 そうだ・・・私はなぜこの男と普通に話しているの?

 私にあんなことをした化け物と、なぜ会話が成立してるの?

店長「さ、仮眠室もとい私の”私室”にいきましょう」

 男の手が私の肩をつかみ、その部屋へ促す。私は無言で抵抗する。

 手の力が強くなる。

 私は足が竦む。

店長「はやくしてくださぁい・・・」

 野太い声がネットリと耳元で囁く。

 恐怖。

 私は震え出す。

 踏みとどまろうとする足に力が入らなくなる。

 男に促されるまま私は仮眠室に向かった。

店長「良い子良い子。よく来れましたねぇ」

蘭子「ここは・・・」

 そこは、仮眠室というよりこの男が言うように私室と言う表現が正しかった。10畳ほどの絨毯を敷いた部屋にシングルベッドが一つ。デスクやテレビやソファ、何かの機材や複数のパソコンモニター。その下で乱雑に絡み合う配線。

 生活感。

 この男が暮らしている部屋。

店長「蘭子ちゃん、もしかしてパンツびっちょりですか?

 怖くてお漏らししちゃいましたかぁ?

 それとも、興奮してエッチなお漏らししちゃいましたぁ?」

 足が竦む。

 これからこの部屋で何が起きるか私には分かる。

 私は再び、この男の欲望のままに弄ばれるに違いない・・・。

店長「さ、服を脱ぎましょうか?」

蘭子「・・・・・・」

店長「言うことを聞くか、言うことを聞かないか。

 その結果どうなるかは、貴方が一番よくわかっていることでしょう?

 あまり私を焦らさないでくださぁい・・・モホホホホホホホ」

 そう・・・。

 私は抗うことなんてできないんだ。

 初めてを奪われた日から私はこの男の玩具なんだ。

 私は、この男の好色な視線が見つめる中で自ら服を脱いだ。

店長「いいですよ!非常に色っぽい!

 そして相変わらず最高にエロい身体です!

 17歳とは思えない!」

 一度汚れた私はもう汚れることはない。

 なぜなら、最初の汚れが全てを黒くしてしまったから。

 私の汚れは一生落ちない。

 傷痕は消えない。

 この男の思うがままにこの時間を乗り切れば、私は解放されるんだ。

 その方が、既に汚れ切った安っぽいプライドを守るより遥かに気が楽だ。

蘭子「ふぅ・・・ん・・・うぅぅ・・・ん」

 私は、その醜く太った豚のような体に跨っている。

 男の性器が音を鳴らしながら私の中に押し入ってくる。

蘭子「はぅ・・・う・・・うううん」

店長「ああ・・・もう、最高のミニマムマンコです・・・。

 最高ですよ、最高に気持ちのいいマンコちゃんですよぉぉぉ」

 男の卑猥な言葉が私の耳に吹きかけられる。

 男が腰を浮かせ、私の中に入ったそれを上下に動かす。

蘭子「う・・・うぅうう・・・ん・・・うぅぅう」

 声を押さえる。

 声が出ないように押し殺す。

 声を発したとき、私は敗北するような気がしたから。

 何の意味もない私のプライドは、ささやかながら残されていた。 

店長「フンフンフンフンフンフン!」

 腰の動きが激しくなる。

 男と繋がった場所から異様な音が発せられる。

 私は耐える。

 初めて犯された時には感じ得なかった快感らしきものが、私の性器から頭に向けて稲妻のように何度も走り抜ける。

蘭子「は・・・あ・・・う・・・うぁ・・・はぁ・・・」

 辛いような、切ないような、何とも言えない感覚だった。

 男の動きが速くなるごとに、私の鼓動も早くなり、見知らぬ大きな波が押し寄せる。必死で声を押し殺す。それでも、漏れる声は悲鳴にも近かった。

蘭子「は・・・あ・・・あぅぅ・・・んん!んあああぁあああ!」

店長「ハァハァハァハァハァ・・・一緒に、イキましたね・・・モホホホホホ」

 イッた・・・?

 私はこの男に・・・殺したいくらい憎いこの男に・・・イカされた・・・?

 イクって何?

 今の・・・波のような何かのこと?

 頭が真っ白になるような不可解な感覚。

 それなのに、死んでもいいと思える程の解放感。

 こんな感覚は、今までの人生で一度も経験したことがなかった。

蘭子「くあ!んんんんあ!」

 その感覚を確かめる余裕もなく、男は再び私と繋がったままの腰を揺らし始めた。

蘭子「いやぁ!だめ・・・いま、ダメェ!」

店長「モホホホホホホ!嫌よ嫌よもってね!

 蘭子ちゃんの初エクスタシーを記念して、もっと素晴らしい快楽をご褒美しますよ!」

蘭子「はぁぁぁん・・・あああ!あああん!あ!あ!あああ!」

 僅かに隠し持った私のプライドすら、この男に容易く打ち壊された。

 私は、声を出すことを堪えきれなかった。

 エクスタシーか・・・そうか。

 エッチは気持ちいいって聞くけど、確かにそうかもしれない。

 女の子をおかしくする行為。

 こんな男に支配され犯されることすら、私が感じたエクスタシーの前では些細なことだった。

蘭子「うぁぁぁぁ!く・・・うぅぅん!う・・・あ・・・う!」

 私の腰が跳ねるように痙攣する。

 私は、またこの男にイカされた。

 腰が揺れる。

 接合部分が上下する。

 私の腰が痙攣し続ける。

 頭が真っ白になる。

 頭が真っ白になって、私の全身が痙攣する。

 そしてまた揺れる。

 

 私が男から解放されたのは、それから1時間後だった。

 男の精液に塗れた身体を拭き、着替えを済ませ店を出る。

店長「蘭子ちゃん!また明日―!」

 精神が落ち着くと、私は再び本当の私に戻った。

 憎しみが膨れ上がる。

 あの男に対する憎悪が、大きなうねりとなって私の頭の中を沸々と立ち上る。

 負けない。

 私は、負けない。 

 私は絶対に屈したりしない。

7月28日 昼

店長「暑い・・・。

 なんて蒸し暑い日なんでしょう」

 アンタが太ってるからだ、と言いかけたが会話するのも嫌だ。

 今日はレジに立っていた。

 お客さんが殆ど来ない廃れたコンビニのレジ。

 無意味と言ってもいい仕事。

 暇な時間が多ければ多いほど私は不安になる。

 この男が唐突に欲情し、また私を犯そうとするからだ。

店長「そうだ・・・蘭子ちゃんにプレゼントがあったんです」

 プレゼント?

 この男から貰って嬉しいと思えるものなんて何一つない。

 そんな私の気持ちを逆なでするように、アイツはバックヤードから何やら嬉しそうに持ってきた。

店長「これー!コレコレコレコレコレーー!

 蘭子ちゃんに似合うと思って買ってきたんですよー!」

 水着・・・。

 なにこの悪趣味な水着。

店長「超マイクロビキニだよぉ~。エロエロでしょう?

 見た目の破壊力凄いでしょう?

 でも防御力0!モホホホホホーゥ!」

 冗談でしょ。馬鹿じゃないのコイツ・・・。

 でも、きっと着せられる。今日の行為のコスチュームにする気なんだ。

店長「じゃあ、さっそく着てもらいましょうか!」

蘭子「はぁ?」

店長「こんな暑い日はなるべく肌を出したいですよねぇ!

 着ろ!着ろ着ろ着ろ着ろ着ろ~~!」

 始まった。

蘭子「仕事中にこんなの着ろって言うの?

 常識的に考えて」

店長「泥棒の君が常識を語るなよぉ・・・」

 眼鏡の奥の恐ろしい目が私を睨みつける。

 同じ人間とは思えない爬虫類のような冷え切った目。

店長「さ、蘭子ちゃんの生お着換えターイム!」

 結局こうなる。

 常識など通用しない。

 アイツと居る時間は、まるで嘘のような非常識な世界なんだ。

蘭子「こんなの・・・小さすぎて見えちゃってるよ・・・」

 バストの色のついた部分がほんのりとはみ出てしまう。

 こんな恥ずかしい格好でお客さんの前に立てって言うの?

店長「モホーーー!素敵!

 素敵じゃな~~い!」

 アイツが拍手喝采で大はしゃぎする。

 私が恥辱に耐える姿が嬉しくてたまらないんだ。

蘭子「無理でしょ・・・こんなの着て人前に出れないよ」

店長「気にしない気にしない。誰も気にしたりしないよ。

 今は刺激的なものが溢れる時代ですからねぇ。

 その程度のはみ乳輪、誰も気にしなーい」

蘭子「んなわけないでしょ!店員がこんな格好っておかしいよ!」

店長「大丈夫!ほらこれ」

 そう言って、アイツは手描きの大きなノボリを掲げた。

 『本日限定サマーキャンペーン実施中!

 水着姿のコンパニオンガールが感謝の気持ちを込めてお客様のご対応をします!』

店長「ね!それに、誘導するのは県外ナンバーだけですから!

 もう二度と会うこともないような人たちなら蘭子ちゃんも安心でしょう?」

蘭子「本気でやらせるつもりなの?」

店長「私が冗談で何か命令したことがありますかぁ?」

蘭子「命令って・・・」

店長「やれ・・・」

蘭子「・・・・・・」

 弱い私。

 いつからこんなに弱い私になったんだろう・・・。

店長「本日サマーキャンペーン中でーす!

 お客さーん!コンパニオンガールの危ない水着姿が見放題ですよー!」

 アイツが店頭で大声を張り上げて客引きをしている。

 手にはあの手描きのノボリが握られていて、パタパタと風に翻っている。

 

 私はほとんど裸のような水着を着てレジに立っている。

 こんな姿を友達や家族に見られたら。

 でも、幸いなことにこの寂れた店は普段からほとんどお客さんが来ない。

 それだけが、唯一の救いだった。

 しばらくすると、一台の車が店の駐車場に入った。

蘭子「うそ・・・もう来たの?どうしよう・・・」

 アイツがノボリをはためかせながら、にこやかにお客さんをエスコートする。

 若いカップル。

 何やら話ながら、三人で店の中に入ってきた。

店長「どうぞご覧くださーい!コンパニオンガールの水着姿をー!」

 私はぎょっとして固まる。

男「おい・・・」

女「ちょっと・・・」

店長「どうしました?ささ、中へどうぞ!お買い物をお楽しみくださ~い!」

男「あ・・・いや、やめとく・・・」

女「うん・・・そうだね・・・」

店長「何を何を・・・そんなこと言わずに!

 お客さんに今帰られたら、コンパニオンガールが責任感じて悲しんじゃいますからぁ!」

男「え・・・ああ。じゃあ、なんか買うか?」

女「えー・・・」

 アイツが言葉巧みにお客さんを誘導する。

 私は視線を合わせられない。

 俯いて、ただこの恥辱の時間が過ぎ去るのを待つ。

 アイツはお客さんを店内に入れると、再び客引きに外へ飛び出していった。

 店内に残された私と二人のお客さん。

男「・・・見えてるよな?あれ」

女「うん。あ、見ちゃだめだよ?」

 ひそひそと声が聞こえてくる。他に誰もいない店内。

 どこで何を話したって私には聞こえてしまう。

男「あんな可愛い子なのに、ちょっと”ここ”おかしいのかな・・・」

女「何それ・・・可愛いとか。

 そんなの関係なしにあんなの普通じゃないよ・・・」

 少しして二人が私の前に立つ。

 レジに出された商品は缶コーヒーと緑茶。

男「・・・近くで見たら・・・モロ見えじゃん・・・」

女「だから・・・見ないでって・・・」 

男「・・・なんか、ドッキリカメラとかあんのかな・・・」

女「まさかぁ・・・」

蘭子「308円になります・・・」

男「あ、はい」

 小銭を受け取る。手を伸ばすと胸が揺れた。

 男の視線が私の胸を見ている。

 

 恥ずかしい・・・。

 私は恥ずかしくて死にそうだった。

男「どうも。あ、あの」

蘭子「・・・は・・・い」

男「テレビの撮影かなんかですか?」

女「やめなって・・・」

蘭子「・・・いえ」

男「その、見えてますよ・・・乳輪」

女「やめ・・・もう!」

 私は両手で胸を覆う。

 恥ずかしい・・・悔しい。

 こんな惨めなことって・・・こんな惨いことって・・・。

 私の目に涙が溜まる。

 

男「あ、なんか、すいません・・・」

女「もう!行こ!」

 女性に引っ張られるようにして二人は店を後にした。

 私の頬に涙が伝う。

 苦しい。

 可哀そうな女の子と思われたんだ。

 胸が張り裂けるほど苦しい。

 私は何でこんなことをさせられてるの?

 何のために?

 私は、それほどまでに大きな罪を犯したと言うの?

 私が犯した罪、過ちは、あの日判断を間違えたこと。

 あのまま警察に行けばよかった。

 警察で無実を主張すればよかった。

 少なくともその方が、今の私よりどれだけ強く生きれただろう。

 でももう遅かった。

 私の初めて・・・私の快楽に染まる一連の動画をアイツが切り札として握っている以上、私に新しい選択肢はなかった。

 判断を間違えた代償はあまりにも大きすぎた。

 30分ほどか、さっきのお客さんからしばらく間を置いて、店の外からアイツの声が聞こえた。

 またお客さんを連れて来たんだ・・・。

 思わずレジの陰に隠れる。

 でもそんな行為をアイツは見逃しはしないし許しもしない。

 

店長「吉川のとっちゃんよ、だからそんなもんは無いって言ってんだろ」

 様子が変だ。

 アイツが大声で話しながらお客さんと店の中に入ってきた。

 お客さん・・・杖を突いたおじいちゃんだ。

店長「だからよぉ、吉川のとっちゃん・・・そんなもん今の季節は・・・」

吉川「肉まんはねーべか」

店長「だから、ねーっつってんだろ!季節考えろよ爺ィッ!」

吉川「そうか、肉まんはねーのか・・・」

店長「わかったらとっとと帰れってんだボケ爺が!」

吉川「すまんかったな・・・。

 ところで、肉まんはねーべか」

店長「ねーっつってんだボケがっ!さっさと死ねよクソ爺っ!」

 お年寄りに対して罵詈雑言を浴びせる。

 アイツは、自分より弱い者に対してはとことん強くなれるんだ。

吉川「そうか・・・ねーならしょうがねーな・・・。婆さんに頼まれたんじゃがのぉ」

店長「テメーの婆さんはとっくにあの世だろうが!

 耄碌してついに死人と話せるようにでもなったんか?」

吉川「婆さんは死んどりゃせんよ。ホレ、あそこにおるじゃろうが」

 老人が私を指さす。

蘭子「え・・・」

店長「ほぉ・・・こいつは面白いことを思いつきました」

 不味い・・・アイツが何かを企んでいる。

 アイツの眼鏡の奥のあの乾いた眼。

 私にはわかる。

店長「とっちゃん、肉まんが欲しいんだよな?あるぞ」

吉川「お、そうかそうか」

 そう言って、アイツは老人を連れて私のいるレジの前に立った。

蘭子「何を考えてんのよ・・・」

店長「何って、肉まんが欲しいんですよ。このお爺さん」

蘭子「ある訳ないでしょ・・・」

店長「またまたぁ・・・。ね、吉川のとっちゃん、肉まんあるよねぇ?」

吉川「お・・・おおお・・・白い大きな肉まんが二個もあるのぉ・・・」

 視線。

 その視線の先には私の胸がある。

蘭子「ちょっと、冗談でしょ!」

店長「冗談ではないですよ?

 ほら、当店はお客さん第一がモットーですからねぇ。

 売り物を売らないなんて選択肢は無いわけですよ!モホホホホホホホホ!」

吉川「肉まん・・・肉まんが、揺れておる・・・」

蘭子「いい加減にして!何考えてるの?

 他人に如何わしい行為がバレればアンタだって無傷じゃいられないのよ!?」

店長「大丈夫ですって蘭子ちゃん。

 このお爺さんの頭は」

 アイツが自分の頭を指さしクルクルと回して舌を出した。

店長「という事」

蘭子「く・・・だからって、こんなお爺さんに・・・」

吉川「もういいかの?早く肉まんをくれろ」

店長「ホラホラホラホラ!

 さっさとそのエロビッチな肉まんをこの哀れなボケ爺さんに食べさせてやってくださぁい!」

 恐怖が全身を走り抜ける。

 こんな屈辱・・・こんな不条理・・・。

 それでも私は半ば洗脳されたようにあの男の言うなりになる・・・。

 私はまるで操り人形だった。

吉川「ほほぉ・・・見れば見る程これは立派な肉まんじゃのぉ・・・」

店長「うちの店自慢の手作り肉まんだ。とっちゃん、心行くまで楽しんでくれ」

吉川「どれどれ」

 老人の指が水着越しの私の乳首に触れる。

蘭子「はぅ・・・う・・・」

 肩が震える。

 こんな老人に触れられるという嫌悪感が、私の震えをさらに大きくする。

吉川「ぷにゅぷにゅじゃのぉ・・・。こりゃあ腐っとらせんかの?」

 そう言うと、老人の指が乳首を強く押しこんだ。

蘭子「う!・・・ん・・・」

店長「腐ってるわけねーだろ!

 テメーの曾孫でもおかしくないピチピチ新鮮な肉まんに無礼なこと言ってんじゃねーぞボケ爺!」

吉川「そうか。んだば、味見すっぺか。まずは皮はがさねーとな」

 水着がずらされ乳首が露わになる。

 血の引くような悪寒が全身を包み込む。

吉川「ほ~・・・なんじゃ、これは桃のようじゃのぉ?

 ピンクの先っぽが随分と美味そうじゃの」

店長「そうよ。ウチの肉まんの隠し味だからな。

 その桃色の所が美味いんだよ」

吉川「そうかそうか。確かに美味そうじゃ。んではぁ、頂くとするかのぉ」

蘭子「や・・・いや・・・」

 強張る身体。

 老人の顔が私の胸に近づく。

 鼻息がかかる。

 老人の口が私の乳首を咥える。

蘭子「あぅ・・・う・・・!」

吉川「ん~・・・んむむむ・・・ん~」

 入れ歯の無い老人の甘噛みで私の乳首がベタベタに濡れる。

 悪臭が鼻を突く。

蘭子「う・・・ううぅ・・・」

 老人の唇が乳首に強く吸い付き、離れ、また吸い付く。

 何度も音を立てて繰り返す。

 そのたびに私の乳首が敏感になるのが分かる。 

蘭子「ん・・・んは・・・」

 老人の唇が一瞬だけ離れると、乳首が紅潮し大きく伸びているのが見えた。

 唾液が糸を曳いて纏わりついている。

 老人はまた乳首に吸い付く。

蘭子「はん・・・」

 少し離れてその光景を眺めていたアイツが私と老人のすぐそばに近寄ってきた。

店長「どうですか蘭子ちゃん。こんな爺さんにオッパイを好き放題吸わせてる気分は?」

 アイツが耳元で囁く。

 胸の先端から全身に広がる寒々とした感覚。

 言いようのない快感をはっきりと認識している。

店長「うわぁぁ・・・蘭子ちゃんの乳首が唾でベタベタになっちゃってますねぇ・・・。これは大変エロイ。

 こんな曽祖父さんでもおかしくない老いぼれに乳首をチュパチュパ吸わせちゃうなんて・・・なんてエロイ娘なんでしょう。そうだ!これは、しっかりズームインで録画しないとですね」

 そう言って、アイツがスマホを私の胸に近づける。

 お爺さんは一切構わず私の乳首に貪りついている。

 アイツは撮影を続けながら、もう片方の手で自分の性器を剥きだしてさすり始めた。

 私の惨めな姿を観ながら、アイツが悦に浸っている

 

蘭子「はぁ・・・う・・・」

店長「とっちゃん、どうだい味の方は」

吉川「何の味もせんなぁ。おかしいのぉ」

 そう言うと、老人は紅潮し硬くなった私の乳首を今度は舌先で撫でるように舐めた。

蘭子「あ・・・あ!・・・うあ・・・くあ・・・あ」

 強く吸われて敏感になった乳首が優しい舌使いに快感を増幅させた。

 乳首に老人の唾液がしみこんでゆく。

 悪臭が染み込んでゆく。

吉川「やっぱり何の味もせんな。変な話じゃ」

店長「とっちゃん、もっと舐めろ。そうすりゃあ絶品の肉まんに変わるからよ」

吉川「おお・・・そうか。舐めるんか」

店長「ペロペロペロペロ!早く、もっと早く舌を動かせっ!」

 アイツはこの光景を楽しみながら、自分の性器をさすっている。

 私は目を閉じる。

 この信じられない状況を、ただ目を瞑ってやり過ごすしかなかった。

 それから30分近く、私はその老人に乳首を吸われ続けた。

 アルコールティッシュで胸を拭く。

 悪臭は鼻に残っていていくら拭いても消えなかった。

 アイツは、相変わらず店頭に立ちお客さんの呼び込みをしている。

 この絶望は、明日にはまた新たな絶望で塗り替えられていくのだろうか・・・。

 それから夕方までに6人ほどのお客さんが来た。

 その全員が、私を憐れむような、奇異な目で見るような、性的に興奮するような、そんな表情だった。

男「うお・・・丸見えってレベルじゃねーぞ!」

男「すんません、写真撮っていいすか?」

蘭子「・・・だめ・・・です」

男「良いじゃん!そういうサービスなんでしょ?」

男「撮らせてよー」

蘭子「だめ・・・」

店長「お客さーん!困りますよ。店内は撮影禁止でーす。

 肖像権ってものがありますからねぇ。侵害すればそれは罪ですよ?」

男「チッ・・・ケチくせーな・・・」

 ・・・・・・。 

子供「ママァ・・・アレ見てぇ」

母親「見ちゃダメッ!」

子供「アレェ、ママのより大っきいよぉ?」

母親「何言ってんのアンタッ!」

子供「ママのよりピンク色だよぉ?」

母親「コラーッ!」

子供「び、びええええええええん!」

・・・・・・。

おばさん「あらあら・・・最近の子はこんなの着るのかい?」

蘭子「いえ・・・きょ、今日は特別で・・・」

おばさん「あらぁ、そーかい・・・。

 それにしても、こんな妙ちくりんなもん、どこで売ってるんだい?」

蘭子「・・・貰い物なので・・・私はちょっと・・・」

おばさん「アレだねぇ・・・こんな小さな布切れで売り物になるんじゃあ、縫製屋はぼろ儲けだねぇ・・・」

蘭子「・・・はぁ・・・ははは・・・」

おばさん「アタシも着てみようかしら。アンタみたいなヤングが着てるんなら、流行りものってことだろぉ?

 旦那も喜ぶかしらねぇ。ホホホホホホホ」

蘭子「そ、そうですね・・・」

 ・・・・・・。

中年「あ、あの・・・今晩5万でどうですか?」

蘭子「は・・・?」

中年「なんなら10万でも!」

蘭子「ちょっと意味が・・・」

中年「最近、同僚に目当ての子を取られちゃいましてね・・・。

 でも君なら、その顔とスタイルなら!

 それ以上の価値がある」

蘭子「だから・・・意味が・・・」

中年「東京からたまたま仕事で来てね。まさか君のようなダイヤの原石と出会えるとは思わなかった。

 『宇田』と申します。どうか、どうか今晩お付き合いを」

店長「お客さーん、困りますよぉ。ウチはそういう店じゃないんですからぁ」

中年「あ、失敬。店長さんですか?

 この子はコンパニオンですよね?所属の会社は」

 私は、悔しさと恥ずかしさの中でレジを熟(こな)した。

 最後のお客さんを境に客足が途絶え、西日が気温を上昇させていた。

店長「はぁはぁはぁはぁ・・・。

 暑い・・・暑いからもう辞め!

 飽きました!」

蘭子「・・・・・・」

店長「ほら、これ見てください」

 アイツは大量の液体が付いた両手を広げて見せた。

 異様な臭いが鼻を突く。

店長「客から恥ずかしい目で見られてる蘭子ちゃんを見ながら、我慢できずにこーんなに出しちゃいました。

 四回は抜いたかなぁ。

 私は『あの薄っぺらい布の下や、その奥の湿った味も知ってるんだぞ』と思いながらオナヌーしたんですよぉ。モホホホホホ」

蘭子「クズ・・・最低のクズ・・・」

店長「相変わらず反抗的ですねぇ。

 んじゃ、やっぱり今からしゃぶってもらいましょうかっ!」

 屈辱の時間から立ち直るゆとりさえ私には許されないんだ。   

7月31日 夜

 バイトを終え、私は家に戻っていた。

 私は、今日もあの男に凌辱され、体が精液に塗れた。

 バイトに通い始めてから5日、毎日それは繰り返されている。

 その間にあの男に犯された数は・・・数えきれない。

 数えきれないほど私は犯された。

 

 行為を繰り返すごとに憎悪の火が色を鮮明にして強く燃え上がる。

 それなのに、あの行為で私が感じる快感も増幅している。

蘭子「もう10時か・・・」

 また明日も、朝の8時までにあの場所へ行かなくてはいけない。

 働くためではなく、あの男の性処理道具として。

 それでも、あの男から解放されているこの時間は私にとって何よりも貴重だった。

 デスクに向かい、ノートと教科書を広げる。

 来年に控えた受験のためにやるべきことをする。

 でも、何の意味が?

 私は汚れた・・・。

 人生に泥を被せられた。

 こんな学習に、何の意味があるの?

 良い大学に行ったって、新しい友達が出来たって、恋人ができたって・・・。

 汚れてしまった私の傷は一生癒えることはないんだ。

 

 沈みゆく心。

 深海のさらに深く、何も見えない闇の世界。

 私・・・どうして・・・。

 涙が自然と溢れた。

 楽しかった日々が、零れ落ちる雨の雫になってデスクに広げられたノートを濡らしてゆく。

 ノートに書き連ねた課題の文字が、雨に滲んで揺れる。

 

 康介・・・里美・・・助けて・・・。

 助けてよ・・・。

「蘭~!電話~」

 ママの声がして、子機の内線ランプが点滅していることに気づく。

 家の電話・・・。

 そうか、スマホの電源切ってた。アイツから掛かってくるのが怖かったから。

 でもわざわざ家に電話。

 緊急?

 嫌な予感がする。

 私は、恐る恐る受話器に耳を当てた。

蘭子「・・・はい」

《もしもし、蘭か?》

 ・・・康介。

蘭子「康介・・・康・・・介・・・。」

 涙が込み上げる。

《どうした、蘭?大丈夫か?》

蘭子「う・・・うん。大丈夫・・・」

《・・・そうか》

 康介の声が、太陽のように温かく感じた。

 何年も会っていなかったように懐かしく感じた。

《それで明日、本当に行かないのか?

 どうしても無理なのか?》

 そうか・・・そうだった。

 明日、海だ・・・。

《何か一人で抱えてることがあるんじゃないのか?

 この頃変だったし・・・どうしたんだよ》

蘭子「別に・・・ないよ。別に・・・」

 

《なんにしても、もし気が変わったら来いよ。

 俺たちギリギリまで駅で待ってるから》

蘭子「うん・・・」

《蘭・・・俺、お前のことがマジで心配なんだ》

 康介・・・私・・・私ね・・・。

《お前がどんな事情を抱えてたとしても、俺たちの関係は変わらない。

 だから、もしなにか抱えてるなら、俺に・・・》

蘭子「康介、私・・・私ね・・・」

《・・・・・・》

蘭子「嬉しかった・・・電話くれて。

 康介の声聞いたら・・・なんか元気出たよ」

 言えないよ・・・言えないんだよ・・・。

《そっか・・・。元気出たなら俺も嬉しいよ》

蘭子「・・・・・・」

《お前のいつものちょっと”ツン”なところが早く見たいからな。

 お前みたいな負けづ嫌い、珍しいもん》

蘭子「・・・・・・」

《じゃ、気が変わったら待ってる》

蘭子「・・・康介、ありがと」

《あいよ》

 言えない。知られたくない。

 里美にも、誰にも知られたくない。

 辛いよ。

 こんなこと・・・。

 こんな・・・。

 心の奥に降り注ぐ音のない雨は、まだ止みそうにない。

8月1日 朝

店長「おはよぉ、蘭子ちゃぁあん!」

 吐き気のする声。

 朝からこの吐き気のする薄ら寒い声を聴く毎日。

 慣れない。慣れっこない・・・。

店長「今日はね、紹介したい人がいるんだぁ」

蘭子「・・・・・・」

店長「本日より新しい奴隷・・・あ、いや、新人バイトとして雇うことになった奴隷、違った!

 『ドエイ』君でぇす!」

ドエイ「ハジメマシテ!

 私の名前ドエイ=ダナン。

 えっと、28歳!

 ヒヤキポリネキセサナモペ共和国・・・から・・・技能実習生、来ました。

 よろしく、お願います!」

蘭子「はぁ・・・どうも・・・」

 ぼさぼさの頭。薄汚れた私服のズボン。穴の開いたスニーカー。

 無精ひげ。褐色の肌。青い瞳。

 笑うとクシャクシャになる。

 ドエイさん・・・か。

店長「彼は実に働き者でしてねぇ、技能実習以外にもどうしても働きたいと強く要望されまして。

 日本人は見習わないといけませんなぁ、まったく!」

ドエイ「私は、頑張るです。

 私のママ・・・名前、ソラール、国で待ってますね。

 太陽サンサンです!

 ヒヤキポリネキセサナモペ共和国はとても貧しい。

 ニポンユカタです、あ、ユタ・・・ユタカです。

 ニポンで一生懸命働く、家族助ける」

店長「偉いっ!実に偉い!」

蘭子「ひ、ひがし?ひやき?聞いたことない・・・」

店長「なんでも、南海の・・・いや東南アジアの?あ、カリブ海だったか?

 まぁ、暑いだけが取り柄のちっぽけな島国のようですね」

ドエイ「ハァイ!とてもウツクシ島!でも、大変貧しいですね。

 ニポンで沢山稼ぎます!

 ‪イケダさん、時給300円もくれる・・・とても頑張る!」

蘭子「さ、さんびゃく?」

店長「まぁまぁまぁ!

 まぁまぁまぁまぁ!

 まぁあああ・・・まぁね!

 まぁまぁまぁまぁ・・・。

 新人クンだからそんなもんでしょう!

 モホホホホホホホホ!」

蘭子「クソ男・・・こんな奴隷商売まで・・・」

店長「あぁあん?蘭子ちゃ~ん、なにか言ったかなぁ~?」

蘭子「煩いっ!」

ドエイ「おぉぉう・・・ラッコ・・・ラッコさん・・・。

 とてもKAWAIIですね・・・キュート」

蘭子「ラッコって・・・」

店長「ドエイくん。ラッコさんではありません。

 ラ ン コ さんです」

ドエイ「オケイ!ラッコさん!

 私の国、ヒヤキポリネキセサナモペ共和国、ラッコさんのようなストロングガール、モテモテです!

 白い色の肌、美しいですね・・・グッ!」

蘭子「ストロングって・・・私は・・・」

店長「ドエイ君・・・ダメだぞ。彼女は高根の花だからな。

 間違っても手を出そうなんて思うんじゃないのだよ?」

ドエイ「も、もちろん!

 私、頑張って働く、ソレダケ。大丈夫。心配ない!」

蘭子「どうでもいいけど、私やることがあるんだけど」

店長「おお、そうでした!

 勤労者諸君、さあ今日も一日頑張りますよぉ!」

ドエイ「ラッコさん・・・とてもKAWAIIですね・・・」

 なんて最低な男だろう。

 何にも分からない外国の人を奴隷のようなお金で扱き使おうとしてる・・・。

 こんなやつ、絶対に許されるはずないのに・・・。

 なんで・・・なんで私はこんなやつに操られてるの?

店長「蘭子ちゃぁん!これ~」

 そう言って、あの男が見慣れないものを私に差し出す。

 ピンク色の楕円形の小さなプラスチックが三つ。

蘭子「なに・・・」

店長「ロロロロロロロロロロロ・・・ローター」

蘭子「ローター?」

店長「あれ~~!まさか知らないんですかぁ?嘘ですよねぇ?

 カマトトカマトトぉ?」

蘭子「だから、ほんとに知らないって言ってるでしょっ!」

店長「あっそう・・・知らないんですかぁ?

 そっかそっか。じゃあ、教えてあげましょう!」

蘭子「別に知らなくていいよ。話しかけないで、気持ち悪い」

店長「モホホホホホホホ!いけないなぁ~・・・いけない態度だな相変わらずぅ~」

蘭子「うるっさい!仕事があるんだから構わないでよっ!」

店長「ヤダヤダァ~!教えるのぉ!これ、このローターが何なのか教えたいのぉぉ!」

蘭子「気持ち悪すぎ・・・ほんと嫌だ・・・」

店長「『教えて・・・』って可愛く頼んでごらぁん?

 あ、これ、命令ですからぁ」

蘭子「命令って・・・」

 

 アイツの目が急変し、私を上から睨みつける。

 何度となく見た悪魔のような形相。

 そう。

 逆らうな・・・って意味。

蘭子「わかったよ・・・」

店長「偉い偉い!じゃ、言ってぇ?」

蘭子「・・・教えて」

店長「ちがーう!もっと可愛くぅ!秋葉原のメイドさんみたいに可愛くさ、

 『教 え て はーと』ってやってよぉぉぉ!」

蘭子「・・・・・・」

店長「はやくぅぅぅ♡」

蘭子「お、・・・お・・・し・・・えて・・・♡」

店長「きゃわわわわわわわ!きゃわーーーー!」

 私は屈辱に耐えるしかない。

 どうしていいか分からない。

 この理不尽な状況が過ぎるのを・・・ただ待つしかない。

店長「しょーがにゃいにゃぁ~~~。

 じゃあ、無知な蘭子ちゃんに賢い私が教えてあげちゃおぅ」

 そう言うと、太った手が私の上着のボタンを外す。

蘭子「ちょっと!」

店長「今、『教えて』って言ったでしょぉ・・・?」

蘭子「・・・・・・」

 ボタンを外し、ブラを強引にズリ下す。

 私の胸が露わになる。

店長「この二つをまず、蘭子ちゃんの可愛い乳首に装着しまーす」

 ローターが私の左右の乳首に取り付けられる。

店長「あ、ブラとボタン直していいですよぉ?

 お客さんが来たら困りますから、早くぅ」

 そう言うと、アイツは私の後ろに回った。

 私は無言でブラとボタンを直す。

店長「で、もう一個は、ここーーー!」

 私のショーツの中に手が入る。

蘭子「いや!何してんの!だめ!」

 私の抵抗などなんの意味もない。

 アイツが力づくで私の性器に最後のローターを差し込んだ。

蘭子「う・・・ん・・・」

 私の左右の乳首と性器に取り付けられたローター。

 私は、これから何が起こるか分からない不安に戸惑う。

店長「それね、私が良いというまで絶対に外しちゃだめですからね。

 いいですね。これは命令でぇぇす!」

蘭子「待って!教えるんじゃないの?これが何なのか」

店長「その時が来たらすぐにわかりますよん♡」

 そう言うと、アイツはバックヤードに引き下がった。

 胸と性器にある異物感。

 不快な異物感。

 その異物感をなるべく気にしないように、私はレジに立っていた。

 お客さんが入店する。

 若い男性客。

 私は異物感にもじもじしながら仕事を続ける。

 しばらくして、さっきの男性客がレジに雑誌を置いた。

 『快楽展』と言う漫画雑誌だった。

 セクシーなイラストが表紙になっている。

 私は、男性に対する軽蔑感が強くなっていた。

 それでも、こんな漫画雑誌で”ことを済ませられる”だけ、この人はまともな人間だと思えた。

 バーコードを通す。

 お客さんと目が合う。

 そのお客さんは、顔を真っ赤にして視線を反らした。

 恥ずかしい・・・よね。

 レジが女の子じゃあ・・・。

 その時、私の身体に衝撃が走った。

 何かが蠢く。

 何かモーターが回るような音がして、私の敏感なすべての部分が一斉に振動する。

蘭子「あああ・・・う・・・!くぅ」

 私の異変に気付き、前のお客さんが心配そうに見ている。

 振動が激しくなる。

 モーター音。

 乳首、性器・・・さっきのプラスチックが振動している。

蘭子「はぁぁぁああ・・・あ!あ・・・」

 予想だにしなかった感覚とショックに、声が弾ける様に飛び出す。

 嫌だ・・・。

 お客さんの前で・・・人の前で・・・こんな声。

 分かっていても、体中を走る快感が私の身体に私の言うことを聞かせない。

客「あ、あの・・・大丈夫?」

蘭子「く・・・あ・・・う・・・あああ」

 左手で胸を押さえ、右手をレジに突く。

 レジに凭れ掛かるように体重を預ける。

 レジに突いた手が、勝手にテンキーを叩く。

 

客「君・・・苦しいのかい?あの、大丈夫なのかい?」

蘭子「だ、だいじょう・・・はぁぁぁん・・・あ!あああ!あ・・・あ」

 ビクビクと肩が、腰が痙攣する。

 普通じゃない・・・普通の状況じゃない。

 もし、私がお客さんの立場なら、これは異常だ。異常な光景だ。

 私は横目でバックヤードの方を見る。

 リモコンを手に持ったアイツが、気味の悪い笑顔でこの異常な光景を眺めている。

 私はなんとかレジを済まそうとする。

 が、思考が回らない。

 

 バーコードに通した金額はすでに出ている。あとはお金を貰えばいいだけだ。

 早くこのお客さんの目から逃れなくては。

蘭子「な、ななひゃく・・・さ、さん・・・じゅう円・・・に・・・なります・・・」

 すでにレジには千円札が置かれていた。

 これを受け取ってお釣りを払えば・・・。

客「あ、あの・・・730000円って出てますけど・・・。

 払えないよ・・・払えっこないんだよ・・・」

蘭子「え・・・」

 さっき誤って押したテンキーがおかしな数字を表示させていた。

客「あ、あの、はやくしないと後ろ・・・」

 え・・・。

 いつの間にか複数のお客さんがレジに列をなしていた。

 いけない・・・こんな状況で・・・。

蘭子「す、すみま・・・せん・・・。

 打ち直します・・・」

 振動が激しくなる。

 快感の波が高まる。

蘭子「はぁああう・・・くう!」

客「あ、あの・・・ほんと大丈夫ですか?

 なんなら、僕は後回しで・・・」

蘭子「い、いえ・・・大丈夫です。ちゃんと、レジ打てますか・・・らぁ・・・」

 あまりのつらさに視線を下ろしたとき、お客さんの股間が大きくなっているのに気づいた。

 もしかして、私は卑猥なの?

 心配している言葉とは裏腹に、苦しんでいる私を見て興奮していたの?

他の客「おい、まだかよ・・・」

他の客「前のやつエロ漫画買ってるよ・・・ダセェ・・・」

他の客「レジおせーよ・・・」

 いら立つお客さんの声が聞こえる。

 私は焦る。

客「あ、あの、僕、後回しで・・・」

蘭子「や、やります!レジ、やりますからぁ‥‥!」

他の客「あの可愛い店員どうしたの?」

他の客「なんかの病気?」

客「う・・・うぅぅぅん・・・」

 私は必至でレジを打ち直す。

 でも、うまく頭が回らない。

蘭子「うう・・・あ・・・う・・・」

 何かが私の下半身に潜り込む。

 人肌を感じる。

 それは、囁くように小さく言った。

店長「早くしないと・・・イっちゃうよ・・・」

 ゾッとした。

 アイツが私の下半身に潜り込んで性器に顔を押し付けていた。

蘭子「ちょ・・・!あ・・・ああ・・・」

 パンツがズリ下される。

 アイツの口が私の性器を啜る。

蘭子「あ!はぁああ・・・あ!あああ!」

客「・・・あ・・・あの・・・」

 つらい。

 こんなひどい仕打ち・・・。

 アイツは私の性器を吸い続ける。ローターの振動と一緒になって。

蘭子「あああ・・・あ!あああん!あ!あは!」

 刺激が継続する。

 波が押し寄せる。

 嫌だ!

 嫌だ!

 こないで!

 来ちゃダメだったら!

蘭子「あああ!・・・あああ!・・・あ・・・あ・・・うああ!」

 腰が跳ねる。

 ガクガクと足が震える。

 体が”く”の字に折れる。

 下着を通して私の恥ずかしい液体が水道の蛇口をひねったみたいに音を立てて床に流れ落ちる。

 ボタボタと音を鳴らし店内に響き渡る。

客「・・・・・・」

他の客「え・・・」

他の客「なに・・・?」

 振動が止まっている。

 アイツが床を這いずるようにしてバックヤードに消える。

 私は息を整える。

蘭子「に、270円の・・・お釣りです・・・」

客「・・・ど、どうも・・・」

 顔を赤くして目を見開くお客さんが、お釣りと商品を持って店を後にする。

 何度も私を振り返っていた。

他の客「・・・・・・」

 次のお客さんも真っ赤な顔で私の顔や胸をジロジロ見ていた。

 その次のお客さんも。

 その次も。

 床は恥ずかしい液体でびしょびしょになっていた。

 私はローターを外す。

 外した後も顔を上げられず、手をレジに突いて下を向いていた。

 しばらくして、アイツがニヤニヤしながら近づいてくる。

 私からローターを無言で受け取ると、倉庫で作業するドエイさんを大声で呼んだ。

店長「ドエーーーーイ!

 モップ持って来てくださぁーぃ!」

ドエイ「は~~~~~い」

 倉庫の方から陽気なドエイさんの声が響く。

 私はドエイさんが持ってきたモップで自らの恥辱の水をきれいに掃除した。

蘭子「そういえば・・・今日・・・。

 海なんだよね・・・」

 私は、ポツリとつぶやいた。

同じ日

 ―里美―

里美「ねぇ康介?

 みんないい感じじゃない?」

康介「ああ・・・あいつら、いつの間にあんなに仲良くなったんだか。

 添田なんか、香ちゃんに一目惚れだったもんな」

里美「え?知らないのぉ?

 みんな相思相愛だったんだよ?」

康介「はあ?

 なに?

 知らなかったの俺だけ?」

里美「みたいね♪」

康介「じゃあ、里美は分かっててアイツら選んだのか?」

里美「まぁね!

 私ってどうしても気遣い屋さんだからさ」

康介「そっか」

里美「でもさ、こうやって見ると、私と康介も・・・」

康介「え?」

里美「なーんでもない!」

康介「そっか」

里美「来て良かったね・・・海」

康介「ああ、来てよかったな」

 夕食のバーベキューも終わって、静かな時間。

 恋人たちの時間。

 ほかのペアはみんな自分たちの時間を楽しんでる。

 そのおかげで、主催者であるアタシと康介も二人きりでいられた。

 砂浜に二人で腰を下ろして、ただ海に沈んでゆく夕日を眺める。

 ただそれだけの時間なのに、アタシは胸が張り裂けそうなほど切なくて、それなのに幸せで・・・。 

 

里美「綺麗だね・・・」

康介「ああ。

 綺麗だな・・・違う世界にいるみたいだ・・・」

 陽の沈む幕間の静かな海。水平線に棚引く紫とオレンジの境界線。

 小さく見え隠れする星々が、アタシと康介の真上を煌びやかにデコレーションする。

 アタシと康介。今だけは世界で二人だけの時間。

 ずっと。

 ずっと。

 ずっと好きだった。

 言えなかった。

 だって・・・『ともだち』だったから。

 でも今なら、今だけなら言える気がして・・・。

 康介の横顔は赤い夕陽に照らされて、その柔らかそうな髪が潮風に靡いてる。

 康介の瞳に反射するキラキラとした夕焼けの小波。

 口元。優しく微笑んでる。

 キス・・・出来たらいいのに・・・。

 康介、お願い。

 アタシは康介が好き!

 大好き・・・。

康介「ちょっと、寒くなってきたな。

 ホテル帰るか?」

里美「え?」

康介「アイツらはアイツらで上手くやってるみたいだし、大丈夫だろ。

 面倒見るのも疲れるっすよ。なぁ?」

里美「んだね」

康介「よし、ホテル帰ろ」

 康介がムクっと立ち上がってサーフパンツの砂を払った。

 嫌だ。

 帰りたくない。

 ダメ・・・。

里美「いや・・・」

康介「ん、どした?」

 ダメ。嫌だ。嫌だよ。

 こんなに幸せな時間、こんなに早く終わりにするなんて、アタシ嫌だ・・・。

里美「もうちょっと・・・いよ。

 ダメ?」

康介「ん?

 ああ・・・そうか・・・いいよ」

 康介は困惑した表情で再び私の横に座った。

 相変わらず言葉少なに海をただ見つめている。

 アタシはドキドキしている。

 ドキドキして心臓が破裂してしまいそうなほど。

 康介はアタシの心臓の音が聞こえてしまいそうな距離にいる。

 すぐそばにいる。

 それなのに、キスしたり抱き着いたりできない。

 こんなに、こんなに康介のことが大好きなのに・・・。

 康介・・・お願い。

 アタシの気持ちに気づいて?

康介「蘭、どうしてるかなぁ・・・」

里美「え?」

 蘭?

 蘭子?

 なんで?

 今、アタシと二人きりなのに、なんで蘭のことなの?

康介「アイツ、あんなに暗い子じゃなかったのに、

 ここ一か月くらいすげー暗くなってたからな・・・」

里美「・・・うん」

 夕日は足早に別の空に旅立った。

 夜のカーテンが騒めく星のデコレーションをさっきよりずっと綺麗に輝かせてる。

 こんな素敵な海の星々。

 今は二人きり。

 それなのに・・・康介は・・・。

康介「昨日、アイツに電話したんだ・・・。

 なんか、気になっちゃって」

里美「そう・・・電話したんだ」

康介「なんか、アイツ泣いてたような・・・。

 なんかそんな気がして」

里美「・・・・・・」

康介「やっぱ、なんか抱えてんだよ。

 蘭のやつ、俺らに言えないことを」

里美「ねぇ」

康介「里美ならなんか知ってるんじゃないか?

 アイツの身に起こってること、少しでもさ」

里美「ねぇ、康介?

 そんなに蘭が気になる?」

康介「え?・・・そりゃあ、仲間だし」

里美「嘘・・・それだけじゃないよ。・・・康介は」

康介「いや・・・なんつーか。・・・ははは」

里美「知ってるよ。

 ・・・康介が、蘭の為に喧嘩したこととか・・・蘭の為にさ」

康介「喧嘩?ああ、1年の時な。

 喧嘩っつっても、こっちからいきなり殴りかかって・・・そのあとは。

 あんときは、お見舞いあんがとな」

里美「不良の山下・・・。

 その山下が蘭に振られた腹いせに酷い噂流したからだよね」

康介「・・・ま、男らしくないっつーの?

 そういうの許せねーじゃん。ダサいってゆーか」

里美「アタシ、だったら?」

康介「え?」

里美「もしアタシが蘭と同じ状況だったら、山下と喧嘩した?」

康介「そりゃあ」

里美「嘘・・・」

康介「は?嘘なわけ」

里美「いいよ・・・無理しないで」

康介「あのさ・・・。

 俺、里美も蘭も同じように思ってるよ。

 お前のことだって仲間だって思ってる。

 だけどさ、いまの蘭は」

里美「ねぇ・・・今ここにいない人のこと考えてもしょうがないよ。やめよ?」

康介「え?」

 康介は、驚いたようにアタシを見つめて黙ってしまった。

里美「蘭のこと心配なのはアタシも同じ。

 でも、それは帰ってから3人でしっかりはなそ?」

康介「あ・・・ああ。・・・そうだな」

里美「今は、アタシと海に居るんだし・・・楽しまないと」

康介「・・・ああ」

里美「アタシといるの・・・嫌?」

康介「え?そんなわけ」

里美「違う・・・分かってないよ康介」

康介「なんか変だぞ・・・里美」

里美「変じゃないよ。

 アタシは、康介とこうやっていられるの・・・幸せ」

康介「・・・・・・」

里美「康介・・・お願いだから分かって・・・」

康介「・・・ごめん。・・・俺にはその・・・」

里美「すき」

康介「え」

里美「すきなの・・・康介」

康介「お、おい・・・」

里美「大好きなの」

康介「里美・・・ごめん・・・俺は」

 分かってる。康介の次に出る言葉。

 それは誰かの名前。

 分かってる。ずっと知ってた。

 康介は蘭のことが・・・。

 でも、アタシはそれでも構わない。

 今だけ、今だけはアタシのもの。

里美「いいの。何も言わないで」

康介「・・・・・・」

 しどろもどろになりながらアタシを見つめる康介の瞳に、アタシの泣きそうな顔が映っていた。

 康介は、ほんの少し頬を赤らめて、どうしたらいいのかわからないような顔をしてる。

 

里美「ねぇ・・・」

 アタシは康介に体を寄せた。

 康介は戸惑いつつも、触れ合う身体を拒否しなかった。

 

 そこで、康介は初めて今の状況を理解したみたいだった。

康介「里美・・・良いのか?俺は・・・」

里美「いいの・・・。

 お願いだから、今はその次の言葉は言わないで・・・・。

 私だけを見て・・・・」

康介「里美・・・」

 アタシたちはそっと立ち上がり、人の気配のない木陰に場所を移して静かに抱き合った。

里美「康介ぇ・・・」

 康介の腕に包まれながら、彼の耳元で甘えた声を囁く。

康介「里美・・・」

 康介と視線を合わせる。康介の瞳には月明かりの波が映りこんで、まるで花火のようにキラキラしてる。

 アタシは、その瞳の中の一部。火花の破片。

 アタシは康介のもの。アタシのすべては、康介だけのもの。

 

康介「里美・・・里美」

 アタシは、優しく促されるように仰向けになった。

 康介の顔がすぐ目の前にある。

 康介の吐息が唇に温かく触れる。

 康介は視線を合わせたまま、まだその覚悟がなかった。

 アタシは、我慢できなかった。

里美「キス・・・したいよ・・・康介」

 その言葉に覚悟を決めたのか、康介の唇がアタシの唇に触れた。

 優しく、そっと。

 アタシは目を閉じる。

 目を閉じたまま、康介の臆病な唇に舌を這わせた。

里美「ん・・・ん」

 康介の柔らかな唇が開き、その中から温かくて湿った舌がアタシの舌に絡みつくように伸びた。

 お互いの唾液が混ざり合い、唇を濡らし、喉の奥に流れ込む。

 執拗に舌を絡めあい、唾液の交換を繰り返す。

 心臓がドクドクと波打つ。

 触れ合った康介の心臓の音・・・ドクドク。

 二人の心臓の音・・・ドクドク。

 唇が離れ、アタシは目を開いた。

 康介の目が今まで見たこともないような優しさと男らしさに満ちてる。

 

 康介の手がアタシの胸に伸びる。

里美「あ・・・ぁあん」

 水着の上からアタシの胸を優しく撫でる。

   

康介「里美。里美の胸、素敵だよ」

 その言葉が嬉しかった。

 無言は切なくて不安だから。

 康介の言葉は涙が出そうなほどうれしかった。

里美「水着・・・外していいよ・・・」

康介「うん」

 康介がアタシの水着を外す。

康介「綺麗だ・・・」

里美「嬉しい・・・。

 康介だけ・・・だよ」

 康介の手がアタシの胸を愛撫する。

 それだけで乳首が敏感になり、大きく隆起した。

 康介はアタシの胸の異変に気づくと、その部分に静かに顔を近づけ、唇を合わせた。

里美「ああ・・・あん・・・そこ・・・あああん」

 大好きな康介に、乳首吸われてる・・・。

 さっきキスした優しい唇が、舌が、アタシの乳首をエッチに舐めてる。

里美「はぁあ・・・あああん・・・あ・・・あああ・・・あ」

 声を押さえたつもりでも、声が出ちゃう。

 なんて幸せで、なんて気持ちいいんだろう・・・。

 愛する人にされるすべてのことが愛おしくて切ないんだ。

康介「里美・・・いい?」

里美「・・・うん」

 分かってるよ、康介。

 アタシも康介が欲しいよ。

 アタシのアソコ・・・康介の為に一杯濡れてるよ。

 お願い康介。

 康介をアタシの中に挿れて・・・。

里美「はぁああん」

康介「里美・・・里美」

里美「康介・・・康介ぇ」

 卑猥な音が、愛する人とのぬくもりが、互いに合わさった場所から発せられる。

 二人は確かに結ばれてる。

 アタシの大好きな康介・・・その康介がアタシの中にいる。

 アタシの奥深くに入り込む。

 康介が一生懸命にその思いを揺らす。

 見知らぬ感覚がアタシの視界を真っ白にかき消す。

 一つになる感覚。

 愛する人を迎え入れることが、これほど嬉しいなんて思わなかった。

 誰よりも、何よりも幸せなとき。

 快感を通り越した特別な感情。

 思いが成就する、それは快感を超えた幸福感の証明なんだ。

 波のように押し寄せる高揚感。

 幸福感。

 ぬくもり。

 康介の荒い息。

 二人の汗。

 すべての思いが象になってアタシのお腹の上に勢いよく飛び散る。

里美「康介の・・・アタシのお腹に一杯・・・」

康介「ごめん・・・」

里美「いいの。アタシの為に一杯出してくれてうれしいよ」

康介「いや・・・俺・・・。

 ・・・ごめん」

里美「・・・謝らないでよ」

 謝るなんてひどい・・・そんな言葉聞きたくない。

 分かってる・・・言いたいこと。

 でも、今この幸せな時間に余計な言葉は言わないで・・・。

 謝ったりなんかしないで・・・。

 康介・・・愛してる・・・。

康介「里美・・・可愛いよ」

里美「康介・・・嬉しい」

 アタシたちは、しばらく放心状態で、ただ海の夜空に二人の優しい時間を浮かべていた。

8月3日 朝

 里美と康介。

 二人がそんな関係に至っているとは露程も知らなかった。

 私は、この絶望が繰り返すだけの毎日を、心をカンナで削るようにして送るしかなかった。

 まだ、お客さんのいない朝の静かな店内に怒号が響く。

 いつものこと。

 アイツがドエイさんを怒鳴り散らしてる。

 ドエイさんが店に来た日から、この怒鳴り声は毎日響いていた。

店長「あぁにやってんですか、クルァァァァアアアアアアアアー!

 さっさとその汚物を綺麗さっぱり片づけなさぁいッ!」

ドエイ「す、すみません」

 汚物って・・・ドエイさんの私服じゃない・・・。

 何が気にくわないの?

 なんでそんなに酷いことが言えるの?

店長「あ、蘭子ちゃぁん。

 こういうの困りますよねぇ・・・。

 こんな汚い服をテーブルの上に置かれちゃあさあ。

 我々は、ここでお食事もティータイムも蘭子ちゃんとの甘い甘いひと時も楽しむってぇのに。

 こんなもん置かれちゃあ、虱やダニが感染っちゃいますよねぇ!」

ドエイ「ごめんなさい。すみません」

 ドエイさんが急いでテーブルの私服を片づける。

 その時、コーヒーが入ったカップが床に落ちた。

店長「ああああああ!テメ!おおい!」

 床一面に広がる琥珀色。

 店長は手に持ったモップの柄をドエイさんの身体に向け思い切り振り下ろした。

ドエイ「がっ!」

店長「テメテメテメテメ!

 テメー!コラ!

 せっかく私がキレイキレイした床を!

 テメテメテメテメー!」

 モップの柄が何度も何度もドエイさんを殴りつける。

 ドエイさんは床に蹲ってただ耐えている。

 体格からしてあんな奴、ドエイさんなら・・・。

 それなのにドエイさん・・・それじゃあ奴隷だよ。奴隷になってるよ・・・。

店長「コノコノコノコノ!

 出来損ないの奴隷野郎!コノコノコノコノコラー!」

ドエイ「ガ!う・・・グ!グア・・・」

 耐えられない・・・耐えられっこないよ。

 こんなの、人間の住む世界じゃない。

 私は、雑巾を持って床を染める琥珀色を拭いた。

店長「あ、蘭子ちゃん、いいのいいの!可愛いお手々が汚れちゃうから。

 そんな汚いことはこの奴隷に」

蘭子「奴隷じゃない!」

店長「はぁん?」

蘭子「奴隷じゃないからっ!

 私もドエイさんもっ!」

店長「そう・・・そう来ますかぁ・・・。

 いけないなぁ。いけない子たちだぁまったっく」

蘭子「ヤるんでしょ?お仕置きでしょ?

 早くすれば?」

店長「反抗的ですねぇ・・・困った子だぁ。

 でも、そういうツンツンなところ、おじさん嫌いじゃないですよぉ」

 私は蹲ったままのドエイさんを助け起こした。

ドエイ「いけない。

 ラッコさん・・・だめね。

 アナタには・・・関係ない・・・関わるだめ」

蘭子「私のことはいいって!早く立って、あっちに!」

ドエイ「ラッコさん・・・」

店長「さ、蘭子ちゃん、じっくり二人っきりで話をしましょうかぁ?

 じっくりしっぽり、ヌッポリとねぇ・・・」

 私は負けない。

 屈しない。

 こんな人間の屑になんか。

8月4日

 飲料品の補充。

 私はバックヤードでその業務を行う。

 何種類もある飲み物を冷蔵室の裏側から補充する。

 陳列された飲料品の隙間から、店内が微かに見える。

 珍しく今日は人が多い。

 確か、笛吹町の花火大会の日だっけ・・・里美も行くのかな・・・。

 レジにはドエイさんが立っている。

 おぼつかない日本語で一生懸命接客している。

 こんなに忙しい日なんて今までなかったから、ドエイさん・・・慣れないレジは大変だろうな・・・。

 冷蔵室の隙間から時々ドエイさんを気にしつつ、飲み物を補充する。

 少しすると、背後に人の気配を感じた。

 察しはついた。

店長「ご苦労様ですねぇ。蘭子ちゃぁん」

蘭子「・・・・・・」

店長「おっと、それはそこじゃないですよ。こっちこっちぃ」

 そう言って、私の手から缶ビールを奪い取り、冷蔵庫の左側に置く。

店長「間違えちゃダメダメェ」

蘭子「・・・・・・」

 

 話すのも嫌だ。余計な反論をしなければ、何も起こらないかもしれない。

 私は無視して飲み物の補充を続けた。

店長「お尻・・・いいですねぇ」

 私がしゃがんで作業をしているのを厭らしい目で見降ろす。

 嫌な予感がする。

 コイツが欲情し始めている。

 なんで、なんでなの?

 何でもないただの人間の動作だよ?

 それなのにコイツは、この男は、何もかも性欲に結び付けて凌辱のネタにする。

蘭子「あうぅ!」

 私のお尻が強引に持ち上げられた。

 行き場のない手が冷蔵庫を支えにする。

店長「モホホホホホホホ!したい・・・したいしたいした―――い!」

蘭子「くぅ・・・」

 アイツの手が私のスカートをめくり上げ、ショーツをずらす。

蘭子「やめ・・・」

 露わになる私のお尻。

店長「可愛いお尻。何度見てもチンポをぶっ込みたくなるエロエロなお尻」

 そう言ってズボンを下し、大きくなったそれを私の中に突き刺した。

蘭子「あぅぅうう!あ・・・く・・・」

店長「静かに!声出しちゃだめですよぉぉ。すぐ前にお客さんがいるんですからねぇ」

 そんなの分かってる。アンタがこうさせてるのに・・・。

 悔しい・・・。

 私は屈辱感と羞恥心で顔が真っ赤に染まる

蘭子「はぁ・・・う・・・く・・・く」

 私は声を押し殺す。

 それをあざ笑うようにアイツが腰を揺らす。

蘭子「はうぅう・・・く・・・う・・・ん・・・はぁ・・・」

 私の性器が敏感に反応する。

 執拗な摩擦が私の心まで溶かす。

蘭子「は・・・う・・・う・・・」

 声がした。

 私は口を押える。

 冷蔵室の向かい側に何人かのお客さんがいる。

 いけない・・・声を、声を押さえないと・・・。

ゆかり「おじ様?私これが良いな」

 向かいの声が鮮明に聞こえる。

 それほど、私たちの距離は近いということだ。

おじ様「これ?おぉぉ・・・これは・・・。

 これは『デビルクリーチャー・ぶどう』山梨限定品じゃないですか?

 こいつは効きますよ。ゆかりちゃんのクリちゃんもバッキンキンですよ」

ゆかり「やだ、おじ様・・・。

 ほかにも人がいるのにそういう下品な言葉・・・」

おじ様「何言ってるのゆかりちゃん。

 貴方は、人がいた方が興奮する娘でしょ?」

ゆかり「もぉ・・・おじ様ったら。

 あ、胸・・・だめなのにぃ・・・」

おじ様「クンクン・・・ん?なんだかエッチな臭いがここいらでしますね・・・。

 まさか・・・まさかまさか・・・」

ゆかり「ごめんなさい・・・。

 おじ様が胸触るから・・・」

おじ様「まったく・・・ゆかりちゃんは変態娘ですね」

ゆかり「私は変態じゃないもん。異 質 な ん で す♡」

おじ様「ははははは。そのとーり!君は異質だ!

 ま、お楽しみは後に取っておきますか。

 帰りの電車でハッスルしましょうね♪」

ゆかり「やだ・・・そう言うのは言わないからいいのに」

 声だけじゃない。隙間から、飲料品の隙間からすぐ目の前に立つ人の姿が見える。

 やだ・・・見られる。

 私たちも見られてしまう・・・。

店長

「おやおや・・・あっちにいる超絶美少女JKも我々と”同類”ですかねぇ?

 あんな親父におっぱい弄られてますよ・・・」

 

 また別の声がする。

菖蒲「フンッ!

 何だこの店は、碌なものがないぞ・・・。

 商品もスカスカだし、ヤル気がないのか?

 やる気がないのならやめてしまえっ!」

子供「せんせぇ・・・」

菖蒲「こんな店!こんな店っ!」

子供「せんせぇ、怒らないでよぉ!」

菖蒲「す、すまない・・・つい」

子供「せんせぇ、ボクせんせぇのオッパイでいいよ」

菖蒲「は?だから私のはどれだけ吸っても乳など出ないったら!」

子供「ふ~ん。出なくてもいいけど、ボクせんせぇのおっぱい吸うの好きだから」

菖蒲「うぅぅぅ・・・は、早く選べっ!

 マミーでも飲んでおけっ!」

 嫌・・・。

 こんな距離で、こんなに人と近い距離で私は何をしてるの?

 

 店長の腰が激しく動く。

 羞恥心に耐えられない私の心を察したんだ。

 この男は、そんな私を見てさらに興奮を強くする。

店長「イケ・・・イケ・・・イケ・・・イケ」

 トーンを押さえて呪文のようにあの男が繰り返す。

 腰の動きは裏腹に激しさを増す。

蘭子「ん-ーーー!・・・ん・・・んんんん・・・」

 波が押し寄せる。

 激しい波が羞恥心と快楽のハザマで大きなうねりとなって私を飲み込む。

 力が抜け体を支えていた手が滑る。その拍子に補充していた飲み物が二つ三つと床に転がった。

 音が広がる。

菖蒲「ん?誰かいるのか!?」

 お客さんの一人がこちらの異変に気付いた。

おじ様「ん~・・・やっぱりゆかりちゃんの臭いではないな。

 向こうだ。

 『この冷蔵室の向こうから香ってくる』と、私のリビドーが言っているんだよ」

ゆかり「ふむ・・・確かにあっちで物音がしましたね・・・」

菖蒲「おい!そっちで何をしているっ!」

店長「ま、マズイ・・・マズイぞ」

 店長の腰の動きが止まる。

 私はどうにか息を整える。

 冷蔵庫の向こうからお客さんがこっちを覗き込んでいる。

 辛うじて私は冷蔵庫のジョイントに隠れてはっきりと見えない位置だったけど、後ろにいるこの”怪物”は間違いなく発見される。

菖蒲「おい、答えろ!見えているぞ!

 牛の巨体のような貴様、そこの醜い貴様だ!壁の向こうで何をしてるんだ!」

店長「う・・・」

菖蒲「おい!いま『う…』という気まずい顔をしている牛鬼のような貴様っ!

 貴様に問うているんだ!」

子供「せんせぇ・・・店員がジュースを補充してるだけだよ」

菖蒲「え?そ、そうか・・・コンビニとはそう言うものなのか。

 この冷蔵室はあっちからも開くのか・・・」

子供「もう・・・せんせぇはいつの時代の人なんだよ・・・」

菖蒲「あ、いや・・・ははは。よし、さっさと買い物を済ませるぞ」

 辛うじて難を逃れた。

 私はどうにかこの姿を観られないで済んだ。

店長「ふ~・・・あの女。ああいうのは苦手だ・・・」

 安心もつかの間、再び腰が揺れる。

 消えかけた快感が再び私を襲う。

蘭子「う・・・んんんん・・・」

 私は耐える。

 嫌だ。

 こんなに辛いことがいつまで続くの。

 私は、こうやってこの男に弄ばれ続ける時間をこれからも耐え続けなくちゃいけないの?

蘭子「ん・・・う・・・く・・・んんんーー・・・」

 快感が押し寄せてくる。

 いつもの波が私を飲み込む。

 私は流される。穴の開いた船で流されてゆく。

 流されながら私は沈む。沈んでゆく。

 その時、かすかに開いた目。

 冷蔵庫の隙間から私の達する瞬間を見つめる目を見た。

 目が合った。

 違う・・・気のせい?

 分からない。でも目が私を見ていたような気がした。

蘭子「んんん・・・ん-ーーーーーー・・・!!・・・!・・・」

 私の膣からあの男の汚い体液がドロドロと流れ落ちる。

 私はしばらくの時間を空白に奪われそのまま床に崩れおちた。

 アイツの赤ちゃんできたら・・・どうしよう・・・。

 そんなことを考える冷静さが、余計に惨めで悲しかった。 

おじ様「まさか、たまたま立ち寄った片田舎のコンビニで”同類”に遭遇するとはね」

ゆかり「おじ様?あれと一緒にしないでくだい」

おじ様「え?ゆかりちゃんは違うのかい?」

ゆかり「私は、あんなに辛くて悲しそうな顔はしません」

おじ様「ああ~・・・そういう事ですね」

ゆかり「あれはまるで・・・そう。

 支配者と奴隷の関係」

おじ様「ふむ。言い得て妙ですね」

ゆかり「彼女の目は絶望・・・。きっと想像を超える辛い状況に身を置いている・・・」

おじ様「ゆかりちゃんは達観してますね。

 なるほど、言われてみれば確かにあの目は悲しみに満ちていた」

ゆかり「・・・ええ」

おじ様「助けますか?彼女を・・・。

 私の力を用いれば造作もないことですが」

ゆかり「おじ様は力がありますもんね。簡単なことだと思う。

 いつかの電車で私服の女性警官に皆捕まっちゃったのに、おじ様だけすぐに釈放された・・・」

おじ様「はい・・・"ただの代議士"ではありませんから・・・」

ゆかり「ふふふ・・・でも」

おじ様「でも?」

ゆかり「助けを求めようと思えば彼女にはいくらでもチャンスがあった。でもそうしなかった」

おじ様「例えば、弱みを握られているとか・・・」

ゆかり「そう。その弱みは警察にも相談できない内容なのかも・・・。でなければあんなに可愛い子があんな人と」

おじ様「なるほど」

ゆかり「あの子が助かる方法は・・・殺すしかない」

 

おじ様「随分物騒ですね・・・ゆかりちゃん」

ゆかり「女の子の操を汚すってそれほど大きな罪なんですよ。

 男性が支配する社会では軽く考えられすぎです」

おじ様「なるほど・・・記憶しておきましょう」

ゆかり「相手を殺すか・・・それとも自分を殺すか。あの子は自らが判断しないと・・・」

おじ様「つまり、受け入れれば堕ちる。受け入れなければ・・・どちらも最悪の選択肢ですね」

ゆかり「はい・・・。

 あ、いやだ・・・私ったらこんな話」

おじ様「それにしてもあの子は、少し可哀そうでした」

ゆかり「ええ・・・とても可哀そうな子でした・・・」

 夕暮れ。赤い空。

 コンビニの駐車場。

 あの男と同じ空気を吸いたくないから、私は休憩時間いつもここに立つ。

 下には川が流れてる。

 高さは30メートル位。

 飛び降りれば何もかも終わる。

 でも、そんな勇気がない。

 この境遇に甘んじて生きるしかない弱い私。

 私は、こんな女の子じゃなかった。

 死と生きることを天秤に乗せて、自分自身を卑下して、そんな女の子じゃなかった。

 

 私は、楽しいことが大好きで、負けず嫌いで・・・。

 私は・・・。

 一人。

 独りぼっち。

 誰にもこの辛い気持ちを打ち明けられない。

 誰にも知られちゃいけない。

 私は・・・。

 ふと、その時、誰かが私の後ろから近づいてきたことに気づいた。

 横目で見る。

 ドエイさんだ。

 ドエイさんが何も言わず私の隣で止まった。私と同じ夕焼けを見て、黙ったまま立っている。

 私も、前を向いたまま何も言わなかった。

 夕暮れが綺麗だった。

 真っ赤な色が私の顔を覆う。

 目を閉じる。

 瞼の向こうから真っ赤な夕日が通り抜けてくる。

 私の血。

 血の赤。

 瞼に流れる赤い血流が、夕日に透けてその裏側からはっきりと見える。

 私は・・・こんなに汚れた私は、それでも生きている。

 生きていかなくちゃいけない。

 負けたくないから。

 声がした。

 違う・・・歌声?

 ドエイさんが小さく歌っている。

 聞き覚えのあるメロディー。

 英語・・・。

 確かこれは・・・なんだっけ・・・。

 この歌、ドエイさんが歌ってる歌、知ってる。

 曲名は思い出せないけど確かに聞き覚えのある歌。

 優しい歌。

蘭子「知ってる、その歌」

ドエイ「はい、とても素敵、この歌」

蘭子「うん・・・」

ドエイ「いつもこの曲、私聞いた。

 一人の時、いつも聞くよ。

 そうすると、太陽のサンサン、見えてくる」

蘭子「そっか、太陽のサンサンか」

ドエイ「私の国の言葉では『モパカモパカ』。

 意味、そばにいてくれる人、ひとりじゃないよ。

 優しさとか、温かさとか、そういう意味ある」

蘭子「ドエイさんのママ?

 遠く離れてても太陽のサンサンなんだよね・・・。

 素敵な意味」

ドエイ「日本の言葉、太陽サンサン・・・とてもイメージ近い。

 私好きです。太陽サンサン、温かい言葉ね。

 今の私にとって、それは・・・その人は」

 私はドエイさんを横目で見た。 

 ドエイさんも私をチラッと見た。

 照れくさそうにすぐまた別の方を向いた。

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「なんでもない。ハハハハハハ」

蘭子「・・・そう」

 目の前に広がるオレンジの黄昏。

 やがて太陽がどこかへ消え去ると、夜が暗いブルーを引き連れてやってくる。

 私はその境界線に佇む。

 沈む陽と暗い夜の間・・・境界線。

 

蘭子「ねぇ・・・ドエイさん?」

ドエイ「はーい♪」

蘭子「もし、ドエイさんが野に咲く花だとして、好きでもない人に強引に摘まれたら、ドエイさんはどうする?」

ドエイ「ん?ええと・・・花?」

蘭子「その花はね、乱暴に摘まれて踏みつけられて、汚されて、陽の当たらない酷い暗所に放り込まれるの。根を下ろす土もない場所に」

ドエイ「・・・・・・」

蘭子「その花はね、一人ぼっちにされて、その乱暴者だけが好き勝手に出来るの。その花は、そのままだと死んでしまうかもしれない。ドエイさんなら、どうする?」

ドエイ「・・・・・・」

蘭子「死ぬしかないのかな・・・その花」

ドエイ「種」

蘭子「種?」

ドエイ「そう。種・・・飛ばす」

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「愛する人のところ・・・飛ぶ。

 愛してくれる人・・・でも良い。飛んでいく」

蘭子「・・・そうか」

ドエイ「私・・・そうする。今の自分ダメ・・・でも新しくなる。続く。

 汚れても、その花・・・本当の美しさ知る人いる」

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「私の国・・・誰かと関わるとき・・・その人が何をしてきたか・・・重要じゃない。

 私が・・・その人と・・・どうしていくか・・・大事。

 その花・・・同じです。

 その花・・・心から愛してくれる人・・・飛んでいく・・・新しく・・・始まる。生まれ変わる。

 今までのこと・・・どうでもよくなる」

 

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「すみません。ニポンの言葉、パーフェクトじゃない。間違い言ったら、ごめんなさい」

蘭子「ううん・・・なんか、嬉しかった」

ドエイ「ラッコさん・・・ホラ、これ、見てみな」

 ドエイさんの視線の先には、硬いアスファルトの亀裂の隙間にひょっこりと顔を出す小さくて黄色い花があった。

ドエイ「私の、お掃除場所。イケダさん、雑草取れ言う。でも、私、この花はそっと、このままにする」

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「カレ?カノジョ?

 この子も、どこからか、飛んできて、ここで・・・必死に生きよう、している。

 毟ってしまうの、かわいそう」

蘭子「・・・なんて花かな。可愛い花だね」

ドエイ「名も・・・知らない花。誰も・・・気にとめない花。みんな、通り過ぎる。

 でも私たち、気づいた。

 私や、ラッコと、巡り合う、そのためにここ、咲いていたかもしれない。可愛い自分、知ってもらうために」

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「ハハハハハ・・・私、国のフレンドから、キザ、よく言われる!」

蘭子「ほんと、キザだね・・・フフフ」

ドエイ「OH!イケダさんにまた叱られる!

 私、掃除戻る」

蘭子「うん」

ドエイ「ラッコさん、負けない。

 辛い時、私が傍にいて・・・また歌ってあげる」

蘭子「・・・・・・」

 太陽のサンサン・・・。

 私は・・・水に落ちた月。

 波に溶けて消えるだけの月の影。

 だけど私は、死んだりなんかするもんか・・・。

 飛ぶ・・・。

 飛ぶ・・・。

 私を愛してくれる誰かのもとへ・・・。

 

 里美・・・私のこと心配じゃないの?

 こんなに近くにいるはずなのに・・・。

 里美の家までここから1キロ程度。

 飛ぶ・・・飛ぶんだ。

 そうだ、飛ぶんだよ!

 ふいに私は走り出していた。里美の家に向かって。

 あの男のこともドエイさんのことも汚れた自分のことすら振り返らなかった。

 私は走った。

 助けて里美!

 私を助けてくれる人は里美しかいないんだよ!

 里美!里美!

蘭子「ハァハァハァハァ・・・」

 吹き出すような汗をぬぐう。

 全速力で走ったから、なかなか呼吸が元に戻らない。

 私は胸を押さえながらインターホンを押す。

 何度かインターホンを鳴らしたあと、ドアが開いた。

 私は、何もかも打ち明けて里美に救いを乞うつもりだった。

 もう二度とあの場所には戻らない。

 里美は秘密にしてくれるはずだって、そう思った。

母親「あら、蘭ちゃん!」

蘭子「あ、おばさん・・・あの、里美は・・・?」

母親「里美は今日遅くなるんだって。どこにいるって言ってたかしら・・・確か・・・」

蘭子「そ、そうですか・・・」

母親「何か約束?里美に電話しなかったの?」

蘭子「あ、そうですね・・・電話すればよかったのか・・・」

 私は、そんな当たり前のことすら考えるに至らなかった。

 とにかくあの場所から、あの男から逃げ出したい一心でここに来てしまった。

母親「蘭ちゃん、家遠いでしょ?

 こんな遠くまでわざわざ来てくれたのにごめんなさいね」

蘭子「いえ・・・」

母親「そうそう・・・、あの子、海に行ったでしょ」

蘭子「あ、はい」

母親「カレシが出来たみたいなのね。そのお陰で、ここ数日ずっと帰りが遅いのよ」

蘭子「里美に、カレシが」

母親「そーなの。だから、昨日も遅くまで帰ってこなかったのよ。多分今日も。蘭ちゃん知らない?そのカレシ」

蘭子「い、いえ・・・」

母親「そう・・・。まったく!変な人じゃなければいいけど。ねぇ、蘭ちゃんからも言っておいてもらえる?

 ちゃんと早く帰るようにって」

蘭子「はい」

 里美はいなかった。私はとぼとぼと来た道を引き返す。

 歩きながらポケットからスマホを取り出す。LINEコンタクトにある里美の名前を押し、里美宛のショートメッセージを打ち込む。

《里美、話したいことがあるんだけど今日》

 足が止まるのと同時にスマホにかけた指が止まった。

 里美にカレシが。

 海に行った後から・・・。

 康介の顔が頭を過る。もしそうなら二人は・・・。

 こんなに近いのに、里美が一度も私に会いに店に来なかったのは・・・きっとそれどころじゃないんだ。

 私のことなんて気にしている暇はないんだ。

 二人はきっと幸せなんだ。康介も里美も、私のことなんて・・・。

 手に持ったスマホが振動する。

 心臓が大きく音を鳴らす。私は恐る恐るスマホを耳に当てた。

蘭子「・・・なに」

店長「これはこれはこれは・・・どういうことかな蘭子ちゃん」

蘭子「・・・もう、帰らない」

店長「そーですか。それは結構」

蘭子「警察に行く」

店長「なるほどなるほど」

蘭子「切るよ」

店長「君がこのまま帰らないとしても!」

蘭子「・・・・・・」

店長「君がこのまま帰らないとしても。

 蘭子ちゃんの醜態は全世界に発信され君に対する世間の奇異の目は未来永劫無くなることはありませんよぉ!?

 仮に明日死んだとしても!です!」

蘭子「・・・・・・」

店長「君の両親も親友も誰もが目にするでしょう。

 蘭子ちゃんの穴と言う穴に私の精液が注がれている様を」

 私はスマホの電源を落とした。

 

 ドエイさん・・・ダメだ私。

 飛べなかったよ。

店長「蘭子ちゃんおかえりぃぃぃ~!モホホホホホホホ」

ドエイ「ラッコさん・・・」

蘭子「・・・・・・」

店長「さ、蘭子ちゃぁん!二人で今後のことについてじ~っくりお話ししましょうかねぇ!」

私という花は、その種までこの男に踏みつぶされちゃってたんだ・・・。

 

「蘭~?帰ってるの~?」

 部屋のドアが開く。

 暗がりの部屋。

 廊下の明かりが差し込む。

 ベッドの中で私は目を閉じている。

「あら・・・寝てるの?バイトいつも遅くまで大変そうね・・・。

 おやすみ・・・」

 お休み・・・ママ。

 部屋のドアが閉まる。

 私は目を開ける。

 横目でデスクを見る。

 デスクの上に放り出されたスマホ・・・里美からの電話は無かった。

 まだ家に帰ってないのかな・・・。

 康介と里美。二人は付き合ってる・・・。

 だから、私のことなんて忘れちゃったんだね。

 でも、もし今二人と話せたとしても、私はきっと何も話すことができない。

 話せる訳がない。

 今日あの瞬間、私は里美に何もかも話す気でいた。

 だけど、そうはならなかった。

 何も話せないのに電話なんてできない。

 かかってきたとしても、何も話せない。

 私は、二人に何かを話すことなんかできない。

 だけど・・・だけどね。

 声、聞きたいよ。

 二人の声・・・聞きたいよ。

 あの歌、ドエイさんが歌ってたあの歌の名前・・・なんだっけ・・・。

8月6日 昼

 ―康介―

《キーンコーンカーンコーン》

 三回ある夏の登校日の一日目が終わった。

 蘭は来なかった。

里美「こーすけー!」

康介「うっす」

 あれから里美は、俺にべったりだった。

 あの日・・・里美と俺はセックスをした。

 トモダチの垣根を越えてセックスをしたんだ。

 そこに愛情はあったのか・・・。

 今でも分からない。

 今でも分からないまま、里美と過ごす時間だけは増えていった。

里美「ねね、どっかいこ♪」

 そう言って人目も憚らず里美が俺の腕に抱き付いた。

 里美の柔らかくて大きな胸が俺の腕をその間に挟み込む。 

康介「学校だぞ、ヤバいって・・・」

里美「いいじゃーん!見せびらかしちゃおうよ!」

康介「おい」

 まさか、里美がここまで恋愛というものに貪欲で女の子らしく無鉄砲な性格だと思わなかった。

 俺に対する強い欲求、束縛。

 里美にとっての俺は、きっとこの夏の全てなんだろう。

 でも、俺の答えは何も出せないままだ。

 何の答えもないまま、ただ成行に身を任せてるだけに過ぎない。

 海の波に帆も着けず浮かんでいる一隻の船。

 俺は里美に何一つ答えることが出来ていない。

 里美のことをどう思っているのかを。

 

 それでも、行為だけは繰り返した。

 あの日を境に俺たちは何度も身体を重ねた。

 

 不純な関係。

 そう。

 何の結果も求めず、ただ快楽だけに堕ちた醜い関係。

 俺は、里美のことをどう思っているんだろう。

 嫌いかと言えば、そうではない。

 彼女の身体を求める自分がいる。

 その胸を何度も愛撫し、興奮し、彼女の中で達して果てる。

 行為が終わった後、切なそうに抱き着く里美に俺は自分の中の優しさを強く感じる。

 可愛いと思える。守りたいと思える。

 でもそれは、俺が考える本当の愛とはすごし違う気がした。

 里美が俺に求める愛とは違う。

 俺が里美に感じる愛の形は、ただ与えるだけのもの。

 俺が求める愛は・・・たったひとり。

 蘭・・・。

田所「コラーーーー!」

里美「ゲ!」

 蘭と里美のクラスの担任、ノーメンだ。

田所「君たち、その密着は何だね!ダメダメェ!

 学校の風紀を乱す行為です!」

康介「おい、里美」

 俺は里美を振り解く。

 冗談じゃない!と言わんばかりにすぐに里美が俺の腕を胸に戻す。

康介「お、おい・・・マズイって」

田所「こ、この・・・このぉ!先生の注意が聞けないんですか!」

里美「べ~~~だ」

田所「おごっ・・・」

里美「康介いこ!目障りだよアイツ」

康介「お、おい」

田所「覚えておけ・・・ゆ、ゆ、許さんぞ――――!」

 ノーメンの雄たけびを背に、里美に引っ張られて俺は校舎を出た。

 八月上旬。

 肌を刺すような強烈な日差しが街を覆っている。

 俺と里美は手を繋いで歩く。

 二人の手の中で汗が湧き上がっている。

 まるで、あの行為をしているみたいに、合わさった二人の掌で汗がヌルヌルと滑る。

里美「ねね、これからどこいくぅ?」

康介「そうだな・・・涼しいとこかな」

里美「だねぇ!」

 さすがに耐えられない暑さだ。

 本当は里美と繋いだこの手を今すぐにでも放したかった。

里美「んじゃ、カフェろうか?」

康介「ああ・・・そうだな」

 カフェか・・・。

 そう言えば、蘭と最後に会ったのも終業式のカフェだったっけ。

 蘭・・・どうしてるだろう。

 電話で話したとき、やっぱアイツ・・・泣いてた。

 蘭は、どんな悩みを抱えているんだ。

 俺たちじゃ力になれないのか?

 蘭・・・。

里美「ねね、いつものとこ行く?それとも」

康介「あ、あのさ」

里美「ん?なぁに?」

康介「蘭の働いてる店、行ってみねーか?」

里美「え?」

 里美の手が離れる。

 掌に風が当たり汗が渇いていく。

康介「海で話したろ?

 帰ってから三人で話そうって」

里美「そうだった・・・ね」

 なぜか里美は、視線を逸らして俯いてしまった。

康介「おい!心配じゃないのかよ!

 仲間だろ?

 蘭も俺たちの仲間だろ?」

里美「・・・うん」

 なんだよ里美、その態度は・・・。

 なんでそんな乗り気じゃないんだよ・・・。

康介「おい!どうしたんだよ!

 以前のお前ならそんな顔」

里美「蘭のとこ、戻っちゃうでしょ?」

康介「は?」

里美「康介がまだ蘭に未練があるの・・・アタシ分かってるんだよ?」

康介「それは・・・」

里美「いいの・・・何も言わないで。

 だから、ちょっとだけ寂しくなったの・・・」

康介「・・・・・・」

 そうか・・・。

 里美は俺を精一杯愛しているんだ。

 そんな里美にとって、俺が優柔不断でいることは何よりも辛いことなんだ。

 はっきり言った方が良い。

 このままこの関係を続けるのは、俺にとっても里美にとっても不幸でしかない。

 俺の心にある蟠りを里美に伝えるんだ。

 俺が、蘭のことを好きだということを。

康介「里美、俺は・・・俺は蘭のことが」 

里美「ね、行ってみよ?蘭のとこ」

康介「え・・・」

里美「心配だよね。蘭のこと」

康介「いいのか?」

里美「うん。アタシ、康介を信じてるから」

康介「里美・・・」

 里美に本当のことを言いそびれてしまった。

 というよりも、はぐらかされた。

 でも、今は蘭のことだ。

 蘭があんな状況で、俺と里美まで気まずくなってたら世話がない。

 今は蘭の心配が先だ。

 俺たちは蘭のバイト先のコンビニに向かうため、下り電車に乗った。

 里美はいつもこの下り電車を使うが、俺はその逆だった。

 普段見慣れたこの田舎町が、下り電車だと見たこともない風景のように感じる。

 里美は、終始無言で車窓を眺めていた。

 俺はそんな里美の不安そうな横顔を見つめながら、里美を傷つけずに済む方法を探していた。

 

 俺は・・・どうすべきなんだろう。

 蘭に会えば答えに辿り着くためのヒントが得られるような気がしていた。

 そんなことを考えているうちに、電車は目的地に辿り着いた。

 

店長「どうですかぁ?

 気持ち良い振動は来てますかぁ?」

蘭子「・・・ん・・・んるさい・・・」

店長「モホホホホホ!来てます!来てますねぇぇぇぇ!

 今日はローターデーです!

 何時も頑張っている蘭子ちゃんに細やかながらのご褒美ですよぉ!

 なんと言う労りの精神でしょう!これぞ経営者の鏡と言う感じですかぁ?」

蘭子「ん・・・う・・・んんん・・・」

 私の膣にはあのローターが入れられている。

 そんな状況で、私は再びレジに立たされた。

 

 以前付けられた時よりも、快感は強く感じた。

 快感の波が何度も押し寄せ、そのたびに私は堪えた。

 それでも、数分もしないで飲み込まれる。

蘭子「はぁ・・・あぅ・・・あああ・・・うぅうく」

 頭が真っ白になる。

 体が大きく痙攣する。

 休む間もなくまた振動が始まる。

店長「イケイケイケ!GOGOGOGOGOGO!

 もっとイケー!私のラジコーーン!モホホホホホホホホ!」

 今更だけど、コイツの性癖が二つ分かった。

 ひとつは、自らで私を凌辱して楽しむこと。

 もうひとつは、私を辱めてそれに耐えしのぶ姿を見て興奮することだ。

店長「お客さん来ないかなー!

 はやく来ないかぁー!

 見せたいよぉ!私の蘭子ちゃんのダイナミック絶頂シーンを見せびらかせたいよぉ!」

蘭子「く・・・くず・・・クズ・・・」

店長「モホーーーー!

 キターーーー!

 キタキタキタキタキターーー!」

 振動が続く。快感が持続する。

 私は薄目を開けてコイツが狂喜乱舞して指さす方を見た。

 自動ドアが開き、お客さんが入ってくる。

 二人。

 学生?

 その二人はまっすぐこっちへ向かって来る。

 いやだ。今はダメ。

 二人は私の置かれた状況など知らずレジの前に立った。

 私は苦悶の表情で見上げる。

康介「蘭」

里美「・・・・・・」

 嘘・・・。

康介「蘭、元気か?」

 やだ・・・やだやだやだやだやだ!!

里美「会いに来るの遅くなって・・・ごめんね」

 辛い・・・心臓が焼けるように痛い。

 胸が苦しい・・・。

 助けて・・・。

店長「いらっしゃ~い!

 ってオロ?蘭子ちゃんのお知り合いですかな?

 同級生?」

康介「あ、はい。すみません、唐突に。

 コイツがいつもお世話になってます」

店長「おおー、実に礼儀正しい!

 君は爽やかナイスガイですねぇ!」

里美「あ、あの」

店長「おっと、そのお隣のグラマラスかわい子ちゃんは・・・。

 いつもお世話になってますねぇ・・・モホモホ」

里美「あ・・・はぁ・・・」

康介「里美、知り合いなのか?」

里美「・・・えっと」

店長「いえいえ!よくお買い物に来られるものでね。こんな過疎の街でしょ?

 どうしてもお顔を覚えちゃうんですよぉ。それに、こんな可愛い子、一度見たら忘れませんよぉ」

康介「そっか」

店長「しかし、なんともお似合いのカップルで羨ましい限り!

 このダイナマイトなバストを好き放題ですかぁ?

 モホホホホホホホホホ!」

里美「・・・・・・」

康介「あ、あの、すみません。

 蘭と・・・蘭子と少し話をさせてもらっていいですか?」

店長「おおっと、これは空気が読めず失礼しました。

 どうぞどうぞ、今のシーズン客なんてほとんど来ない店ですからねぇ。

 心行くまで親友との語らいを楽しんでくださぁい」

康介「すみません」

店長「それでは、私は事務所に行ってますから、何かあったら声かけてくださいませね」

康介「有難うございます」

 振動が・・・止まない・・・。

 振動が、心にまで伝わる。

康介「蘭、大丈夫か?顔色悪いぞ・・・」

蘭子「見・・・ないで」

康介「え?」

蘭子「私の・・・こ・・・ことは・・・ぅぅ・・・い、良い・・・から・・・」

康介「おい、なんか体調がおかしいんじゃ」

里美「そうだよ蘭、なんか変だよ?」

蘭子「・・・ほっとい・・・て・・・」

康介「蘭・・・」

 いや・・・。

 お願い。

 こんなの康介に見られたくなかった。

 里美に見られたくなかった。

 だめ・・・私は・・・。

 激しい波、嫌・・・。

 アイツがリモコンで操作する。

 私の内部で振動が淫らに響く。

 強くなる。

 アイツのリモコンひとつで私の身体が自由に操られる。

 波が・・・。

 快感の波が・・・。

蘭子「あうっ・・・う・・・うぅぅう・・・」

康介「お、おい!」

里美「蘭!」

 私の身体が”くの字”に折れ曲がる。

 ビクビクと腰が痙攣する。

 口から涎が零れ瞳が潤む。

康介「蘭!大丈夫か!」

 康介の手が私の肩に伸びる。 

蘭子「いやっ!触らないでっ!」

 拒否。

 拒否反応。

 ダメ。

 触らないで。

 今の私に触れないで。

 私は、康介の手を振り払った。

康介「蘭・・・」

蘭子「帰って・・・帰ってよ・・・」

康介「俺は・・・俺たち、お前のことが心配で・・・」

里美「そうだよ!

 アタシたち、蘭が心配でこうして来たんだよ?

 それなのに、康介に対して酷いよっ!」

 アタシたち・・・か。

 二人は付き合ってるんだよね。

 みんなで海行ったんだもんね。

 私の知らない場所で知らない時間を過ごしたんだよね。

 だから二人で私に会いに来たんだよね。

 私がこんな目に合ってる間、康介はともかく、すぐそばに住んでる里美は一度も会いに来てくれなかったよね。

 ”二人だから”来たんだよね。

 私を心配してる素振りで、本当は自分たちの幸せを見せびらかしに来たんだよね。

 

 良かったね里美・・・康介と付き合えて。

 康介と居られる時間、私よりも長くなったね。

 良かったね里美・・・里美。

里美「蘭、お願い!

 何か隠してることがあるなら」

蘭子「無いって!

 ・・・言ってんじゃん」

康介「嘘つくなよ!

 なに一人で強がってんだよ!

 俺は、蘭・・・俺は・・・」

蘭子「康介も里美もしつこいって!迷惑なんだよっ!

 勝手に二人でどこにでも行ってよ!私には関係ない!

 興味ないんだよっ!」

 私は感情的に怒鳴った。

 二人はびっくりしてたじろいだ。

康介「蘭・・・」

里美「酷いよ・・・蘭」

 私の怒号に気づき、バックヤードからアイツが出てきた。

店長「オロ?どうしましたぁ?

 喧嘩はいけないですよ、蘭子ちゃ~ん」

 すべて、すべてコイツの、コイツのせいなんだ。

 この人間の屑の。

康介「すみません、喧嘩じゃないです。大丈夫です」

店長「あ、っそう。

 それならいいんですがね」

 アイツの手が私のスカートを後ろから目繰り上げる。

店長「何せ、今日は暑いですからねぇ・・・。

 こう暑いと、人間どうしてもイライラしちゃいますよねぇ・・・」

 店長の手が、私のお尻を弄る。

 強く揉みしだく。

 私のお尻の形が変わるのと同時に、性器に入れられた振動が位置を変え快感を増幅させる。

蘭子「う・・・ん・・・ううぅ・・・ぁう・・・」

店長「うちのエアコン、年代物でしてね・・・大分老化が激しいんですよ。

 ほら、蒸すでしょ?これでも21℃に設定してるんですけどねぇ・・・」

康介「確かに、すこし湿気が強いですね・・・」

店長「うんうん!

 入れ替えたいんですけどねぇ、何せお金が・・・マニーがねぇ」

 店長の指が後ろから私の恥ずかしい場所を刺激する。

 振動と愛撫。

 二つの快感が同時に襲う。

 辛くて、私は腰をひねる。

康介「あ、あの、その暑さのせいか分かりませんが、

 蘭の様子が少し変なんです。

 もしかしたら熱中症かもしれないので、どうか注意してやってください」

店長「あいあいあいあい!

 お優しいですね。

 もちろん!蘭子ちゃんの体調管理は管理者である私がしっかり責任持ちますですよ」

康介「助かります」

 振動とアイツの指。

 ついに私は、その境地に達して痙攣した。

 私の性器から大量の水が流れ出る。

康介「あの、何処か水漏れしてませんか?

 さっきから水が滴るような音がしてますけど・・・」

店長「ん?確かに・・・なんか床がびしょ濡れになってるな・・・」

蘭子「・・・く・・・う・・・」

店長「ああ・・・こりゃあえらいこっちゃ。レジの床一面が水浸しだ。後でお掃除しないと」

康介「もしかして、調子が悪いって言ってた空調機の水漏れでは?」

店長「はふ~~ん・・・賢い!きっとその通りでしょう!モホホホホホホホホホ!」

 声は押さえられてもその激しい意識の空白は耐えようがない。

 友達の前で、私は二回も絶頂した。

 そして二回目の絶頂で自らが立つ床一面を水浸しにした。

 屈辱や絶望を超える言葉があるなら、教えてほしかった。

 私の心は粉々に打ち壊され、局部から滴る雫と一緒に床に跳ね上がって多方に飛散した。

康介「それじゃ、悪いんでそろそろ行きます」

里美「んだね。蘭、また来るからね」

店長「おや、もうお帰りで?

 いつでも遊びに来てくださいね。蘭子ちゃんもそのほうが嬉しいでしょうし」

 アイツはそう言って厭らしい目で私を見下ろした。

 私は、返事もせずただ下を向いた。

 康介と里美の背中が自動ドアを抜けて消える。

 小さくなるその影が、最後にくっついたように見えた。

 里美が康介の腕に抱き着いているように見えた。

 私たちは、もう元に戻れないね・・・。

 私の中に入っている振動が止まる。

 アイツはこの行為に満足したようだ。

 何も言わずバックヤードに引き下がった。

 私は、身体に取り付けられた振動を外す。

 私の体液でびしょ濡れになった床を自らの手で拭く。

 惨めに。

 ただ惨めに。

ドエイ「ラッコさん」

 いつの間にかモップを持ったドエイさんが私の後ろに立っていた。

蘭子「あ、うん」

ドエイ「さっきの、ラッコさん、トモダチ?」

 そう言って、ドエイさんが誰もいなくなった出口の方を指さした。

 

蘭子「あ・・・うん。あの子たちは康介と里美。”友達だった”・・・かな」

ドエイ「そう・・・。あ、私も、ラッコさん、トモダチ」

蘭子「え・・・ああ・・・そだね」

ドエイ「トモダチ、大切。

 助け合う。お互い、力貸す」

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「これあげる。熱くなったら冷やす。オケイ?」

 そう言って、ドエイさんは私によく冷えたミルクバーを差し出した。

蘭子「ありがと」

ドエイ「私、アイス大好きね。

 ミルクバー、おいしいね。冷た~いね!」

蘭子「うん、私も好きだよ」

ドエイ「食べること、美味しいの食べること、元気の力」

蘭子「ん?」

ドエイ「食べられないは、元気ないですね。

 食べる!食べることができること!

 それ、元気の証拠。大きな力ですね」

蘭子「あはは・・・そうだね。よく分かんないけど」

 そんな話をしてる間に、ドエイさんが濡れた床をモップで綺麗に拭き終わっていた。

ドエイ「ラッコさん」

蘭子「うん?」

ドエイ「頑張れ!」

 そう言って、ドエイさんはクシャクシャの笑顔を見せた。

蘭子「・・・うん」

ドエイ「それじゃ、私、お掃除お掃除」

 何も知らないドエイさん。

 私の辛いことなんて何も知らない。

 でも、その優しさはとても強く感じた。

 頑張れ!

 って言ってくれた。

 私が、今一番聞きたかった励ましの言葉を、彼が言ってくれた。

 その一言が、今の私には信じられないほどの力になった。

 康介や里美のどんな励ましよりも。

 ずっと近くにいて支えてくれる人。

 今の私にとって、唯一心を許せる人。

 ドエイさんは・・・とても優しい人だと思った。

―康介―

里美「・・・康介、元気出しなって」

康介「・・・・・・」

 蘭にとって、俺はその程度の男だったってことか・・・。

 蘭が何かに苦しんでいることは傍目から見てもはっきりと分かる。それなのに、蘭は何も話してくれない。

 もし、込み入った内容ならあんなところで言えないことは理解できる。

 でも、あんな態度・・・そりゃあないだろ蘭・・・。

 

里美「康介?蘭にも事情があるんだよ・・・分かってあげよ?」

 分かってあげよう・・・か。

 里美が言うようにそっとしといてあげるのが本当の友情なのかもしれない。

 だけど俺は・・・。

里美「アタシ・・・ね?蘭のことも、康介のことも・・・ずっと待ってあげたいんだ」

康介「え?」

里美「分かってるよ。今でも康介が蘭に惹かれてること」

康介「里美・・・」

里美「うん・・・アタシは待ってあげたい。

 自分で答えを出せるまで、話せるまで・・・。

 ずっとずっと、黙って待ってあげようって思ってるんだ」

康介「もしかして、里美が蘭に会いに行かなかった理由って・・・」

里美「あ、それが全部ってわけじゃないけど・・・ちょっとはあるかな」

康介「・・・そうか」

 里美は、答えに迷っている俺のこともすべて理解した上で黙って待つって言うのか。

 こんなに優柔不断な俺を、里美はただ黙って受け入れてくれるって言うのか。

里美「ね!だから待ってあげよ?」

 里美の大きな瞳が俺の傍らから覗き込む。

 里美って、こんなに可愛かったんだな・・・。

 初めて里美と言う女の子を知った気分だった。

康介「そうだな。うだうだ俺が悩んだってしょうがないよな。

 蘭は蘭で、自分で解決しなくちゃいけないことがあるんだよな」

里美「そうだよ!」

 今は蘭のことで頭が塞がっていたけど、考えなくちゃいけないのは俺だって同じだ。

 俺はどうするのか、里美とこの関係を続けるのか・・・。

 その答えをはっきりさせないといけないんだ。

里美「ね、気分直しにどっか行こ!」

康介「・・・っし!どっか行くか!」

8月8日

客A「でよぉ、20号線で一気に捲られたわけ。焦ったぜ」

客B「やべーじゃん、よく逃げ切れたな」

客A「と―ぜん。俺の魔改造GTRなめんなっての」

 夜7時40分。

 お客さんが二人。

 ガラの悪い印象の二人がドリンクコーナーで談笑をしている。

 多分、今日の最後のお客さんだ。

 二人が乗ってきた車、ものすごい重低音がしていた。

店長「嫌いなんですよねぇ・・・」

蘭子「え・・・」

 レジの中で私と肩を並べるアイツが、ボツリと言った。

店長「ああ言う『世の中の規則なんて関係ない』って顔して、堂々としてるクズどもが嫌いなんですよ、私・・・」

 よく言う・・・。

 アンタこそ、アンタこそ無法者の権化じゃない。

 法どころか人間の倫理観にすら牙をむく悪魔じゃないか。

店長「おやぁ?

 蘭子ちゃん、いま『その口が言うか?』って顔をして私を睨み付けましたねぇ?

 その心は笑ってましたねぇ?」

蘭子「うるさい・・・」

店長「お互い様じゃないですかぁ・・・。

 君だって、私から言わせれば『その心が言うか』ですよまったくぅ・・・。

 法を無視した万引き少女さ~ん」

蘭子「好きなだけ言えば?そんな言葉でいちいち怖気づいたりしないから」

店長「強がっちゃってぇ~・・・もう!可愛いんだからぁ!」

客A「おい・・・レジの子見てみ。

 すっげー可愛いぞ・・・」

客B「あ?

 おおおお!可愛いじゃんマジで!」

客A「オイ馬鹿!声デカいって・・・」

店長「おやおやおや・・・害虫が集ってきますねぇ。

 蘭子ちゃんの放つ淫靡な蜜の香りにクソカス害虫がウヨウヨと集ってきますよぉ・・・」

 アンタ以上のカスなんてこの世に存在するの?

 アンタは何もわかってないよ。

 自分が世界でも類を見ないクズ人間だってこと・・・。

客A「これ、お願いしま~す」

 レジに出される酒類。私は事務的に仕事をこなす。

客B「可愛い・・・マジで・・・胸もめっちゃでけぇ・・・」

 横の男がつぶやくように言う。

 私の胸に視線を集中しているのが分かる。

客A「おい馬鹿・・・恥ずかしいだろって・・・」

 もう一人の男が笑いながら窘める。

蘭子「1310円になります。ビニールはどうしますか?」

客A「あ、いいです。はい」

 商品を受け取るとき、男が私の胸を凝視するのが分かった。

 そうか・・・ノーブラだもん。

 アイツに言われてここ最近は下着すらつける権利を奪われていた。

客A「先っぽ・・・先っぽ」

客B「今更かよ・・・。

 俺なんかあっちの飲料品のとこで気づいてたわ」

 胸の突起?

 どうでもいい。

 だからどうしたの?

 乳首なんて貴方たちにもあるでしょ?

 何がそんなに嬉しいの?

 馬鹿みたい。

 男なんて、みんな性欲の塊で力が強いだけの馬鹿の集まり。

客A「あの、ランコちゃんで良いのかな?名札。

 ランコちゃんさ、バイト時間って何時までなの?

 良かったら俺の爆速GTRで東京までドライブでもしない?」

客B「まさかの店員ナンパか!」

蘭子「・・・・・・」

客A「ねぇねぇ、ランコちゃん!東京行こう!

 夜景見に行こうよぉ!」

 男たちがニヤニヤしてレジ越しに詰め寄ってきた。

 微かにお酒の臭いがする。

 私が無言でお釣りを引き出していると、大きな影がその間に割り込んだ。

店長「オホン!失礼。

 お客さん、そのお酒は帰ってから召し上がられるんですよね?」

客A「あ?そうだけど」

店長「いささか、お客さんはお酒の匂いがしてますな・・・。

 確か駐車場のGTR・・・お客さんが乗っていらした」

客B「あ、俺ね。

 俺だけ飲んだ感じ。運転するのコイツだから」

店長「そうですか。

 すみませんが、免許証のご提示をお願いできますか?」

客A「ああん?なんでだよ」

店長「お客さんが未成年でないことの確認です」

客B「うわぁ・・・ウゼェ・・・」

客A「ねぇ、おじさん。

 アンタ俺らが未成年に見えるの?」

店長「私の推測は重要ではありません。免許証を」

客A「ああ?んじゃよ!

 もし見せて未成年じゃなかったらどう責任取ってくれんだよ!」

 二人の客の態度が豹変している。

 このやり取りの中に私はあの日の自分を見るような気がした。

 私は黙って、ただそのやり取りを眺めていた。

店長「どーもしません。どーも。

 私たち販売者は酒類を販売する際には未成年と思しき方には免許証提示を求めることが義務付けられてましてね。

 もしそれが納得いかないとのことでしたら、どうぞご自由に。

 我々は警察の方々に判断を委ねるだけですので」

客B「おい、めんどくせーよコイツ。良いから行こうぜ」

客A「ウゼー・・・マジうぜーコイツ・・・。

 死ねよクソ豚」

店長「おおっと!なんとお粗末な罵倒の言葉でしょう・・・『死ねよクソ豚』。

 やはりその小さな脳みそにボキャブラリーを期待するのは酷でしたか!モホホホホホ」

客A「っずぁ・・・クソやろー・・・。

 マジぶち殺すぞこのクソ豚・・・」

客B「落ち着けって、いいから行こうぜ」

 その瞬間、アイツは勝ち誇ったように大声を発した。

店長「はい!脅迫ー!

 殺すって言いましたね?今ハッキリとそう言いましたね?

 は~い!あれ見てご覧なさぁ~い!

 アレとアレとアレとアレですよぉ」

 そう言って店の天井の四隅を指さす。

店長「監視カメラ。しっかり収まってますよぉ!音声もバッチリです!

 今の言動は脅迫罪が成立しまーす!はい逮捕―!」

客B「お、おい・・・」

客A「く、くそ・・・」

店長「でも、あなた方みたいな人たちは使い物にならないので利用したりしません・・・。

 嫌いなんですよとにかく・・・私は君たちみたいな何の価値もない人間が大嫌いなんですよ!」

客A「ぐ・・・」

店長「今なら警察を呼ばないので私の目の前から消えなさい!負け犬のように惨めに逃げ帰りなさーい!」

客B「おい、行こうぜ!コイツ頭おかしいって」

客A「お、憶えとけよ・・・」

店長「覚えるもんですか!あなた達ミジンコの記憶なんていちいち誰が保存しとくと思うんですかぁっ!」

 その客たちは何度もこっちを見て怒声を張りながら惨めに店外へ出て行った。

 この男に口で勝てるわけがない。

 理を通しても不条理で押し返される。不条理で通すと理を押し返される。

 詭弁と正論の使い分け。

 知識の無い私やあの人たちでは到底太刀打ちできないんだ。

店長「・・・おやぁ・・・あのクズども、まだわかってないんですかね・・・」

 アイツが店外を睨みつけながら低い声で言った。

 さっきの男たちが駐車場で店に背を向けて何やら話している。

 一人は座り込み、一人は立ってスマホを弄っている。

 さっき買ったお酒の蓋が開けられている。

 最初の頃の私と同じように、この男に抵抗することで自尊心の傷を少しでも庇おうとしているのだろう。

店長「クズどもが・・・クソ・・・」

 そう言うと、アイツは掃除用具入れからモップを取り出した。

 そうか、もう夜8時になる。店が終わる時間だ。

 

店長「蘭子ちゃん、今日は窓拭きね。自動ドアの」

蘭子「窓はドエイさんじゃ」

店長「アイツは朝からずっと駐車場の草むしりですよ。

 ほぼほぼ今日中には終わらないでしょう。モホホホホホ」

蘭子「クズ・・・」

店長「はやくはやく!窓拭き窓拭き!」

 促されるまま、私は雑巾と洗剤を持って出口の自動ドアへ向かう。

 外にはさっきの男たちがこっちに背を向けて屯している。

 明らかにビールの缶がふたつ開いている。

 私は自動ドアのガラスを拭いた。

 その動作が影になったのか、男たちが一瞬だけ私を見た。

 男たちが軽くお辞儀をして笑う。

 そのあと、また背を向けた。

 しばらく拭き掃除をしていると、後ろにあの男が立っていた。

店長「まーだいますかぁ・・・」

蘭子「・・・ほっとけばいいでしょ」

店長「私、ホント嫌いなんですよ。

 ああ言う奴ら。生理的に無理なんですよぉ」

蘭子「そう。

 私がアンタを嫌いな理由と同じだね」

店長「モホホホホホ・・・言いますねぇ~・・・。

 相変わらずツンツンで可愛いですねぇ」

蘭子「・・・・・・」

店長「なんなら、そのツンツンをアイツらにも見せてやったらどうですかぁ?」

蘭子「はぁ?」

店長「ツンツン。蘭子ちゃんのおっぱいのツンツンですよぉっ!」

 大きな手が私の上着のボタンを引きちぎる。

 露わになる私の胸。ブラで隠すことさえできない裸の胸が、勢い良く飛び出して大きく揺れた。

蘭子「ちょ、ちょっと!」

 私は両手で抱えるように胸を隠す。ガラスの外が気になった。

 あの二人は幸いにもこっちに気づいていなかった。

店長「だめだめぇ・・・隠すなんて。

 そんな暇があるなら拭き掃除の続きを早くしないとですよぉ」

 アイツのあの顔が、あの特有の顔が私を上から覗き込む。

 私を支配し、辱め、凌辱するあの顔、あの声色。

 

蘭子「・・・・・・」

 私は両手で隠していた胸を解放する。胸が弾むように揺れる。

店長「さ、お掃除お掃除」

 唇をかみしめる。

 私に選択権などない。いつものこと。

 でも、出来ればあの二人の客に見られない内に終わってほしい。

店長「見られたくないですよねぇ、アイツらに。

 私も、可愛い蘭子ちゃんの私だけの可憐なおっぱいをあんなクズ共と共有したくはないのです」

 私は急いで窓を拭く。

 気づかれる前に。

店長「そう!その勢い!レースの始まりです!

 蘭子ちゃんが吹き終わるのが先か、アイツらが蘭子ちゃんのそのブルンブルン揺れるおっぱいを発見するのが先か!」

 その言葉に恐怖と焦燥感で一杯になる。

 見ないで・・・お願い!

 

 私は右手に持った雑巾を夢中で動かす。

 その動きに合わせて露わになった私の胸が激しく揺れる。

店長「おお―――ッと!

 蘭子ちゃんのお掃除ダンスが始まったぁ!

 アイツらはまだ気づいていないぞぉ!こんな激しいオッパイの揺れに馬鹿なアイツらは気づきもせず発見が遅れるぅぅ!

 さあレースはまだわからない!どっちが勝つのか緊張が走る―――ッ!」

 

 自分以外の全員を馬鹿にするように、あの男が私の後ろで一部始終を実況する。

蘭子「いた・・・」

 急げば急ぐほど胸が大きく揺れて痛みが走った。

店長「痛む?揺れすぎておっぱいが痛い感じなんですか?」

蘭子「当たり前でしょ・・・こんなに急かされて、痛くないわけ・・・」

 アイツは言葉を待たず後ろから私を強く押した。

 自動ドアに胸が張りつく。

 アイツはさらにグイグイと力を入れて私の背中を押す。

 胸がぺったんこになるくらい、自動ドアに押し付けられた。 

 

蘭子「ちょ、ちょっと・・・」

店長「これなら・・・揺れませぇん・・・」

蘭子「う・・・・」

 こんな恥ずかしいこと、あの人たちに見られたら・・・。

 そう思うと私は居ても立ってもいられず自動ドアに張り付いたまま雑巾を動かした。

 ガラスの冷たい温度が胸に伝わる。

 ひんやりと私の胸の先端を刺激する。

 私の乳首がガラスに押し付けられたままムクムクと起き上がり、硬くなっていくのに気づく。

蘭子「ん・・・う・・・あ・・・あ・・・」

 この男に今まで何度となく弄ばれ、舐められ、吸われ続けた私の乳首は、些細なことで声を出してしまうほど敏感になっていた。

蘭子「ん・・・あ!・・・ん・・・」

 ガラスに張り付いた胸が時々離れ、また押し付けられる。

 そのたびに硬く敏感になった乳首に圧迫感と冷たさが伝わる。

蘭子「はぁ・・・ん!あ!・・・あ」

 アイツは私の声の理由を何もかも分かってるかのように、気味の悪い低い声で笑っている。

店長「モホホホホホホ・・・そうだ蘭子ちゃん。

 洗剤をちゃんとつけないとキレイキレイにならないですよぉ?」

 窓拭き洗剤は床に置いてある。

 私はガラスに押し付けられたままだ。とてもじゃないけど手が届かない。

蘭子「した・・・洗剤下だから・・・。離して・・・」

店長「した?ああ・・・ナイスアイデア。それ戴きです」

蘭子「え?」

店長「さすが蘭子ちゃん。

 まさか"舌"を使うとは。唾液を洗剤代わりにしてキレイキレイするんですね!素晴らしい」

蘭子「ちが・・・違う・・・」

店長「さ、どうぞ」

 あの声。あの低い声。

 逆らえない声。

 私は舌を伸ばし、自動ドアのガラスを舐めた。

 唾液が鮮明に跡を残す。

 不衛生なことへの不安もあった。

 でも、そんなことより今はあの二人の客にバレないウチに急いでこの行為を終わらせる方が重要だった。

蘭子「はん・・・ん・・・はぁん・・・ん・・・ん・・・うえ・・・ん・・・」

 大きく舌を伸ばしてガラスを舐めまわす。

 ガラスについた唾液を雑巾で伸ばし綺麗にふき取る。

 何度も繰り返す。

 私の舌が湿り気を失い乾燥してきているのに気づく。

 それでも何度も繰り返す。

蘭子「んぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁぁ・・・ん・・・ん」

 ガラスに押し付けられた胸がひんやりとした冷たさに慣れたころ、

 私はすべてを終えた。

 客は酔っぱらって大声で談笑していた。

 私は気づかれずに窓拭きを完遂した。

店長「お疲れ様!

 素晴らしいレースでした。蘭子ちゃんの勝ちー!」

 この男をこの世から消し去る方策があるのなら私は悪魔に魂を売っても構わない。

 本気で心からそう思った。

 

 私は胸を隠し、外れたボタンを拾い集める。

 視線に気づく。

 今更あの男たちが私を見て手を振っているのが見えた。

 私は胸を覆って後ろを向く。

 大丈夫。見られていない。

 私の惨めな姿をあの男以外の人間は誰も知らない。

 そう、思い込んでいた・・・。

ドエイ「ラッコ・・・さん・・・一体何を・・・あんな姿で一体何を・・・」

8月9日

ドエイ「ラッコさん、お疲れ様」

蘭子「お疲れ様」

 午後8時。今日は夕方から地域商会の会合とやらであの男は店を留守にした。

 そのままお酒でも飲みに行ったんだろう。

ドエイ「ラッコさん、今日は元気ね。とっても元気。

 バイト、楽しそうだったね」

蘭子「そう・・・かな?」

 確かに・・・そうだった。

 アイツのいない夜。

 私は初めて働くことへの充実感を味わった。

 バイトを始めて二週間近く経つ。今日初めて私は本当の意味で”働くという行為”に従事できたんだ。

ドエイ「また明日、元気が良いね!私、ラッコの笑顔、Likeですね!」

蘭子「あはは・・・うん。ありがとう。ドエイさん、それじゃね」

 私・・・笑ったんだ。

 笑顔なんて忘れちゃってたのに。

ドエイ「あ!あの・・・!ラッコさん・・・」

蘭子「ん?なぁに?」

ドエイ「あ、あの・・・あのぉ・・・そのぉ・・・」

蘭子「何よ、モジモジして。

 ドエイさんらしくないよ」

ドエイ「ハハハハハ・・・。あ、あの、何か、何か困ること、ある?

 私、ラッコさん、力なる。

 何か・・・無い?」

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「いや・・・アハハハハ。

 私、誰か助ける、おかしな話ね。そんなパワーない」

蘭子「ドイエさん・・・」

ドエイ「私パワーない、でもラッコさん、私になんでも言う。

 私、よければ、なんでも・・・私、ラッコさんの手助けなる」

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「・・・助ける」

蘭子「あのね」

ドエイ「はい」

蘭子「また、歌ってほしいな。あの歌」

ドエイ「・・・歌・・・ああ、あの歌」

蘭子「私が落ち込んだとき、何も言わずに傍に来てまた歌ってほしいな」

ドエイ「・・・・・・」

蘭子「・・・ダメかな?」

ドエイ「ダメじゃない!

 私、ラッコの為、いつでも歌うよ!」

蘭子「あはは・・・ありがと」

ドエイ「私こそ、ありがとう。ラッコさん、私の大切なトモダチ。力。元気の力ね」

蘭子「なんか・・・大げさだよそれ」

ドエイ「嘘無い。ラッコさん、私にとってニポンでただ一人のトモダチ。私の大きな力」

蘭子「そっか・・私は友達か」

ドエイ「トモダチ!」

蘭子「うん・・・そうだね、友達!」

ドエイ「フレンドー!ハハハハハハハハ!」

 ドエイさんのクシャクシャの笑顔。

 なんでか分からないけど、この笑顔を見ると安堵する私がいた。

蘭子「じゃ、私行くね!

 ドエイさんまた明日ね!」

ドエイ「またね!

 まっすぐ帰る!

 バイバイ!ラッコさん!」

 店を出てひとり駅へ向かう。

 考える。 

 辱めを受け続ける日々。

 私は考えていた。

 あの池田という男は、なぜこんなにも私に対して執拗に凌辱を繰り返せるのだろうか、と・・・。

 私にとって今までの行為はただただ屈辱的で苦痛を伴うものだった。

 そして行為を繰り返すごとに露わになる私の正直すぎる身体の反応と声。

 その反応と声こそが、更なる屈辱感を増幅させる原因となっていた。

 でも不思議だった。

 一人の人間にここまで執着し、弄んでもまだ足りないと思えるあの男の性に対する考え方、貪欲さ。

 何度も私を犯し、その都度あの男は快感という甘美な時間に酔いしれた。

 これはあの下衆な男だから持つ感情なの?

 それとも、これはあの男だけが持ち得る感情じゃなく、男が本能として持っているものなの?

 ひと時の快楽のためだけに人道を外れ、他人の尊厳を踏みにじっても構わない、

 それが、男が求める純粋な欲望というものなの?

 それとも池田がここまで私に執着するのは私を愛しているから?

 違う。

 池田は、目の前にある美味しそうな食べ物を食べたい時に食べてるだけ。

 男は例えそれが自分の愛する人じゃなくても、目の前にある欲望を押さえることができないんだ。

 もしかして男はみんなそうなの?

 ひょっとして康介も・・・。

 

 もしそうなら、私も知りたい・・・。

 男がそんなに欲する快楽というものが私にも体感できるのなら。

 そうすれば何故あの男が私をこんなにまで凌辱し略奪し続けるのかがわかるかもしれない。

憎しみを抱いたままあの男に弄ばれ続けても、その度に私は汚され、ただ敗北感を味わうだけだ。

 

 拒否する心が私に本当の快感を与えないのなら、いっそ受け入れてしまおうか。

 知りたい。

 感じてみたい。

 私は本当の快感を味わってみたい・・・。

 馬鹿!

 そんなんじゃない!

 それはアイツを・・・あの男の考え方や行為を受け入れるのと同義だ!

 弱い自分の逃げ道を探しているだけに過ぎない!

 私は、例え犯され続けても、あの男に、この不条理に屈したりはしない!

 いつか解放されるその日まで!

 解放・・・。

 

 私はいつか解放されるの?

 それはいつ?

 夏休みが終われば・・・。

 きっと、そうはならない。

 私は、何と戦っているんだろう・・・。

 

 バイトを始めてから初めて夜9時前の電車に乗った。

 まだ明かりが煌々と灯る山の麓の田舎町を窓から眺めながら、その明かりの中で交わされる温かい人の営みを想像していた。

 はやく家に帰りたい・・・。

 ママの声を聞いて、守られてることへの確信が持ちたい・・・。

 まっすぐ帰りたい。

8月10日

 休憩中。

 私は林檎の皮を剥く。

 鋭いナイフが林檎の皮をスルスルと剥いていく。

 綺麗な実。

 汚れてしまった私の身体もこの林檎みたいに綺麗に剥けたらいいのに・・・。

店長「クルルルルルルァァーーーーーッ!」

 店の方で怒声が響き渡る。

 またドエイさんがあの男に暴力を受けているんだ。

 私は居ても立ってもいられず立ち上がった。

ドエイ「う・・・ぐ・・・」

 店の通路でドエイさんが蹲っていた。

 その横で仁王立ちするアイツが、右手に持ったモップの柄でさらに叩きつける。

ドエイ「あっ!が・・・」

店長「私のことを舐めてるんですかぁ?

 舐めちゃってるんですか、クルルルルァァァァーーーーーッ!」

 アイツがモップを両手に大きく振りかぶる。

 私はその間に割って入った。

蘭子「やめて!」

店長「おお?蘭子ちゃん、またそいつを庇うんですかぁ?」

ドエイ「ラッコ・・・さん、私大丈夫。気にしない・・・」

蘭子「アンタは、アンタは自分より弱い者にしか偉そうにできないんでしょっ!?

 最低だよ!アンタなんか生きてる価値がない最低の人間だよっ‼」

店長「ほっほぉ・・・これはまた反抗的ですねぇ・・・」

ドエイ「ラッコさん・・・いけない」

蘭子「いつか、いつか必ず・・・アンタを・・・」

店長「私を・・・どうするおつもりで?」

蘭子「アンタを・・・」

 ドエイさんが私の右手を掴む。

 私はドエイさんを見た。

ドエイ「これは・・・いけない・・・。

 ラッコさん、ダメ・・・」

 私の右手に握られたナイフ。

 さっき林檎の皮剥きをしていたっけ・・・。

 そうか。

 私はナイフを持っているんだ。

店長「まさかねぇ・・・あのか弱くてエロエログチュグチュの蘭子ちゃんが、

 その小さなナイフで私を刺そうとでも?」

 ナイフ。

 確かにそうだ。

 今までだってアイツを殺すことを考えなかったわけじゃない。

 何度も殺したいと思った。頭の中では。

 でも実際にそんな状況には至らなかったし、本気で殺そうなんて思っていなかったんだと思う。

 だけど今、ナイフを持ってアイツの前に立ってる。

 今ならアイツの心臓を刺すことができるんだよ。

 アイツを躊躇わず刺す。そうすればアイツは死ぬ。

 アイツが死ねば何もかもが終わるんだよ。

 解放・・・。

 私は解放される。

 この現状から解放されるんだよ!

 なんだ、とても簡単な話だったんじゃない。

 殺せばいいんだ。

 アイツを、あの怪物を殺せば良かったんだ。

店長「そうですか。覚悟を決めたようですねぇ」

蘭子「決めた」

ドエイ「だめ・・・ラッコさん!」

蘭子「殺す。アンタを殺す!」

店長「分かりました。じゃあ刺しなさぁい。そのナイフで私の心臓を貫きなさーい」

蘭子「・・・・・・」

店長「ひとつ、その前にお教えしましょう。

 私が仮に、万が一にも死んだとしましょう。ま、そんな短いナイフで私が死に至るとは思えませんが」

蘭子「・・・・・・」

店長「貴方は、万引き行為を赦免してくれたバイト先の店長を殺したことになりますねぇ。

 簡単に言えば”恩人殺し”とワイドショーは騒ぐでしょうな。

 『非行少女、恩人を惨殺!』な~んて見出しでね」

蘭子「アンタの違法行為だって明るみになるに決まってる」

店長「そう!そのとーり!

 ワイドショーが食いつく!当然、私の違法行為もバレるでしょうなぁ。

 私の違法行為がばれるということは?

 ん~~?

 分かりますよね~?」

蘭子「そんな脅し・・・今の私に・・・」

店長「貴方の破廉恥な行為の数々に週刊誌が飛びつくでしょう。

 知られることになりますねぇ・・・世間に、学校に・・・友人や家族にも・・・。

 乱れ飛ぶ蘭子ちゃんの淫靡な姿が」

 そうだ・・・こいつを殺せば済むなんて単純な話じゃなかった。

 コイツを殺したって私の屈辱の記録は映像として残されている。

 結局コイツの思い通りに・・・。

 待って・・・じゃあ、コイツを殺して私も・・・。

 違う!

 そうじゃないよっ!

 じゃあどうするの?

 考えるんだ。

 考えるんだよ・・・。

 コイツを殺して・・・。

 そうだ!

 私の動画を・・・私のあの忌まわしい動画を見つけ出して全て処分する・・・。

 そのくらいの時間の余裕はあるはずだ。

 私は殺人犯になるかもしれない。

 でも、私の忌まわしい過去は消え去る。

 これしか私が解放される手段は残されていないんだ! 

店長「ま、ドエイの強制送還も免れないでしょうな」

蘭子「え・・・」

 なんで・・・?

 なんでドエイさんが関係あるの?

店長「ドエイ、お前は世間に目立つと困りますよねぇ?

   自分のことが知れたら、当然強制送還ですもんねぇ?

   何か事件が起これば世間の目は否応なしにお前にも注がれだろうからなぁ・・・モホホホホホ」

ドエイ「わ、私は・・・」

蘭子「ドエイさん・・・いったい・・・」

店長「さ、分かったなら蘭子ちゃんからナイフを取り上げるんです」

ドエイ「す、すみません・・・ラッコさん」

 ドエイさんの手が私の右手からナイフを抜き取る。

ドエイ「この判断は・・・イケナイ・・・君の手を汚す・・・ダメ」

蘭子「なんで・・・?

 ドエイ・・・さん?」

 私は力が入らなかった。

 ドエイさんは視線を反らせてただ申し訳なさそうに俯いた。

 私は茫然とその場に立ち尽くした。

店長「それでいいんですよドエイ。その行為に免じて今回は許してあげましょう」

ドエイ「く・・・う」

店長「蘭子ちゃん、今日の二人っきりのミーチングは少々長くなりそうですよぉ・・・?」

蘭子「・・・・・・」

 そうか。やっぱり負けたんだね私。

 勝ち目なんかなかったんだ。

 涙が自然と溢れる。

 零れ落ちる涙が床を濡らす。

 私は負けたんだよ。

 もう受け入れるしかないんだよ・・・。

 アイツとの凌辱の日々を・・・。

 ―ドエイ―

 おかしい・・・。

 いない・・・。

 ラッコ・・・。

 どこにもいない。

 あれから、あの事件からずっと二人はどこかへ消えた。

 ドエイ「ラッコさん、ラッコさーん!」

 事務所、倉庫、いつもの駐車場。

 どこを探してもラッコの姿が見当たらない。

 そしてイケダ、あの男の姿も。

 時計は午後8時20分を回る。

 店はとっくに閉まり店内外の掃除を済ませて我々従業員は帰るだけ。

 恐る恐るラッコのロッカーを開く。

 ラッコの荷物はまだあった。

 やはりラッコはどこかにいる。そう、イケダと。

 私は見てしまった。彼女らが不純な行為をしている姿を。

 イケダの欲望に満ちた笑顔。

 しかし、ラッコの屈辱に歪む顔から、ラッコがそれを望んでいたようにはとても思えなかった。

 

 イケダ・・・あの男は悪。悪魔の化身。

 私と同じようにラッコはあのイケダという悪魔の奴隷になっているのではないか。

 ラッコはイケダに牙を向いた。

 あの頼りない果物ナイフで彼女はイケダに戦いを挑んだ。

 何故?

 そう、彼女も奴隷のように扱われているからだ。でも奴隷じゃない。奴隷になることに必死で抗おうとしている。私とは違う。

 私は彼女からナイフを奪った。イケダに言われるままに。

 でもそれは、彼女を罪人にしたくなかったからだ。

 まだ17歳のラッコにそんな罪を背負わせたくはなかったからだ・・・。

 彼女は戦おうとしている。

 彼女は助けを求めている。

 もしそうなら、私に何ができる?

 どうしたらラッコを救うことができる?

 この私に彼女を救う力が?

 あるわけない。

 私には負い目がある。

 この国では私は一人。なんの力も持ちはしない。

 

 ダメだ!

 ダメだダメだ! 

 私は毒されている!

 奴隷の身に甘んじている!

 ラッコですら挑んだ戦いに、戦う前から尻込みをしている。 

 私は・・・奴隷ではない!

 私の・・・そして国で待つ家族の誇りを守るためにも、私は戦わなくてはならない。 

 その時ふと、イケダの私室から光が漏れていることに気づいた。

 部屋のドアを開ける。光・・・複数台のパソコンモニターが放つ光。

 そこに映し出される監視カメラの映像。

ドエイ「そういえば・・・」

 監視モニターに映るカメラの分割映像にいつも非表示になっている箇所があった。

 この非表示箇所は日々その場所を変える。

ドエイ「ラッコとイケダ・・・消えたとき・・・どこか・・・いつも非表示」

 そう、そうだ。

 これはトイレだ。

 イケダはトイレを盗撮していた。

 いつかの夜、私はトイレに入った女性客の監視映像をニヤニヤと鑑賞する池田の不逞な姿を見かけたことがあった。それがこの非表示部分。

 では、ラッコとイケダはそこに・・・。

 私はトイレへ向かおうとした。

 しかし、何かが気になった。

 なぜそのトイレの映像が非表示なのかという疑問だ。

 しばらく考える。

 そうだ。

 行為に及んでいる・・・。

 イケダがラッコを凌辱し辱めているに違いない。

 

 私はもう一つの疑問に行き当たる。

 通常、監視カメラの映像は録画され一定期間保存される。

 ではこの映像、この非表示されているトイレの盗撮箇所も録画されているのだろうか?

 非表示、つまり録画などされていないという認識でよいのか。

 それはそうだ、まさか自らの恥ずかしい行為を嬉々として録画するやつなどこの世に――

 ――いる。

 人間はそんなに清廉潔白ではない。

 特にイケダ、あの悪魔だったら顔をゆがめて喜んでやるだろう。

 

 私は監視カメラに繋がっているパソコンを操作した。

 何となく学生時代にパソコンを扱った知識でカメラの管理画面にたどり着く。

 『not display』・・・これか。これを切り替える。

 監視モニターの非表示箇所に映像が浮かび上がる。

 トイレ。

 予想した通り、それはトイレを映し出していた。

 そこには大股を広げた全裸のラッコが映し出されていた。白く伸びるラッコの足を、背面で便器に座るイケダが両手で拘束している。

ドエイ「ああ・・・なんて・・・酷い・・・」

 そして画面右下には『REC』の三文字。

 録画されている・・・。

 私は音量を上げた。

店長「悪い子にはしっかりと再教育をしないといけませんからねぇ。今日は飛び切りハードに行きますよぉ?」

蘭子「・・・どうでもいい・・・もうどうでも」

店長「モホホホホホ。ではでは、まずはこの可愛い乳首に吸引バイブを取り付けましょうか」

蘭子「・・・・・・」

店長「おおお・・・蘭子ちゃんの乳首が吸引されてだらしなくビンビンに勃起しましたよぉ?

 痛くないですか?」

蘭子「・・・・・・」

店長「マグロさんですねぇ・・・じゃあ、スイッチを入れてみましょうか。

 すると、回転するシリコンブラシが吸引されて敏感になってる乳首の先端をクルクル回るように刺激してくれるんですよ。

 どうです?気持ちいでしょぉ?」

蘭子「・・・ん・・・く・・・」

店長「モホホホホホホ!体は正直ですねぇ!こんなにビクビクしちゃって!

 両方の乳首がブルンブルン震えてますねぇ!

 気持ち良くないわけがない!

 ちなみにこのバイブ、私のお気に入りなんですよぉ」

蘭子「う・・・あ・・・あ・・・ああ・・・」

店長「おやおや、下のお口から涎がだらだらと。

 もう!欲しがり屋さんめ!

 それじゃあ、メインディッシュに私のとっておきを召し上がっていただきましょうか!

 この極太ディルドバイブなんていかがでしょう?」

蘭子「あ・・・はぁ・・・う・・・んあ・・・」

店長「モホホホホホ!乳首が気持ちよすぎて言葉になりませんねぇ!

 再教育です!いえ、性教育ですね!

 さ、このディルドバイブもぶち込みますよ!」

蘭子「う・・・ああ!あ・・・あああ!」

店長「良い反応です!素敵ですよ!

 どんどん私好みのエッチな子に育ってくださいね。まだまだ夏休みは長いですから。

 いえ、夏休みと言わずに、これからもずうっと私の性奴隷として生きてもらいましょう」

蘭子「あ!ああああ!んあああ!」

 私は思わず口を押えた。

 こんな凌辱、辱めをラッコは・・・。

 これは愛を持つ人間の行為ではない。

 これは悪魔の所業だ。

 なぜラッコは・・・あの心優しい純真無垢なラッコはあの醜い悪魔の奴隷になど・・・。

 考えを巡らせる。

 そして私は理解する。

 そうだ。

 この映像の『REC』の意味は、そう。

 私と同じなのだ。

 ラッコは私と同じようにあの男に弱みを握られ脅迫されているのだ。

 そうに違いない。

 私はなぜもっと早く気付かなかったのだ。

ドエイ「ラッコ・・・。

 気づく、遅れた・・・すまない!

 ラッコ、私、ラッコ、助ける!」

 私が・・・ラッコをあの暴虐な悪魔から解放する!

 

 

蘭子「あう・・・ぁん・・・う・・・うぅぅん・・・」

店長「可愛い声ですよぉ・・・蘭子ちゃぁん。気持ち良いんですねぇ?

 そうやって素直に感じて反応してくれると私も嬉しくてたまらなくなりますよぉ」

蘭子「うぅん・・・はぁ・・・」

 快楽に拒否することを辞めてみた。

 私は抗うことに疲れた。

 希望を持つことにさえ疲れ果てた。

 私は、ただなすがままに許容してみた。

 最初に感じたあの嫌悪と痛み、それらはとっくの昔に快感に変わっていた。

 知っていた。

 だって、心がそれを受け入れなくても、私の身体が勝手に反応してしまっていたから。

 そして、諦めからすべてを受け入れた今、私を刺激する感覚は途方もないものだった。

 私は堕ちていくだけ。途方もなく深い海の底へ。

蘭子「あ・・・あ!あああ!ん!あああ・・・」

店長「モホホホホホ!今日は良い声で鳴きますなぁ!

 蘭子ちゃんはついに身も心も私のものになりましたか!」

蘭子「はぁん・・・う・・・あああ!」

店長「言ってごらん?おマンコ気持ちいいですって、言ってごらん?」

蘭子「あ・・・う・・・く・・・お、おまん・・・こ・・・きも・・・きもち・・・いいです・・・」

店長「モホーーーーー!もっとグジュグジュにしてあげますからねぃ!」

 私の両脚は大きく広げられ、むき出しの膣には男性器の形をしたバイブレーターが奥深くにまで挿れられた。

 惨めな格好にさせられて羞恥心を煽られる。

 恥ずかしいという意識と裏腹に、私の身体はそのバイブレーターの振動に素直に反応した。

 恥ずかしかったはずの声は、もう私の正直な気持ちとして体と同じように反応していた。

蘭子「あ!あああ!あああん!はぁあん」

店長「モホホホホホホホ!いいよ!いい鳴き声だよ蘭子ちゃん」

 そう言ってアイツは私の唇に舌をねじ込んできた。

 声がかき消され唾液が絡み合う卑猥な音に変わる。

 舌を絡ませながら、アイツが膣に刺さったバイブレーターを乱暴にこね回す。粘着性のある音が厭らしく鳴った。

 刺激が激しくなり、快感が波のように押し寄せる。

 私は強い快感の中で、その大きなうねりの中でもう溺れても良いと思った。

 快感は麻薬だった。

 それは性行為に無知だった私を急激に侵食し、もう正常な考えさえ及ばないほど中毒化していた。

 アイツの醜いお腹にもたれ掛って失神するほどの快感を味わう。

 そしてまたアイツは私を弄ぶ。

 アイツが満足して飽きるまで、それは終わらない。

 全てを許容した瞬間、私は何もかも吹っ切った。

 この行為が続く間、私は従順な雌犬になればいい。

 そうすればこれ以上酷いことはされない。

店長「もっとして・・・って言ってごらん蘭子ちゃぁん」

蘭子「もっと・・・して」

店長「いいですとも!可愛い蘭子ちゃん!一杯一杯可愛がってあげますよぉぉっ!」

 それから何度目かの絶頂に達した時だった。

 誰かが二人のいるトイレの前に立っているのが分かった。

 私はそんなことも、もうどうでもいいと思っていた。

ドエイ「ラッコさん、イケダさん」

 ドエイさんだった。

店長「チ!あの野郎・・・。

 何ですかあのデクは・・・せっかく蘭子ちゃんもノリノリなのに。

 本当に気の利かない役立たずですねぇ・・・」

 ドエイさんが薄い扉を挟んでそこに立っている。

 扉の内側で私がどんな姿になっているか、どんな辱めを受けているかなんて何も知らないで・・・。

 ドエイさん・・・どこかへ行って。

 貴方は何も知らないままでいて・・・。

ドエイ「イケダさーん!ラッコさーん!」

 ドエイさんはなかなか立ち去ろうとはしなかった。

 業を煮やしてアイツが大声を上げた。

店長「オイオイオイオイオイオイ!

 何だってんですかオーーーイ!便所に居ちゃ悪いんですか!あああ!?」

ドエイ「あ、イケダさん、いたですね!その、ラッコさんは?」

蘭子「やだ・・・。言わないで・・・私がいること」

店長「あああん?ラッコちゃんもここですよ!だからなんなんですか!」

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「そ、そんなところ、二人何してる?ドア開けて!」

店長「ただの奴隷であるお前には関係ないでしょう!邪魔邪魔邪魔邪魔!

 邪魔だからとっとと駐車場の掃除片づけてどっかに消えてくださぁい!」

ドエイ「ド、ドアを・・・開ける!」

店長「まったくうるさいですねぇ・・・良いから消えろぉぉぉっ!」

ドエイ「・・・・・・」

 そう、その方が良いんだよドエイさん。

 知られたくない。誰にも知られたくないよ。

 ドエイさん、お願いだから行って。

 この場から立ち去って。

店長「行きましたかねぇあのクズは・・・。ったく、本当に空気の読めない奴隷ですねぇ。

 ささっ、蘭子ちゃぁぁん、続きをしましょうかねぇ?」

 そう・・・。

 私は、この堕ちた姿を誰にも見られたくない。

 この男がいつか私を飽きて放り出すまで、誰も、何も知ってほしくない。

店長「じゃあ、もう一回振動させますからね!可愛い声で鳴いてくださいねぇ」

 コイツの太った手が私の下腹部に伸び、再びバイブの電源を入れようとしたときだった。

店長「お、おぉぉぉ?」

 ものすごい勢いでトイレのドアが叩かれる。

 違う、叩くなんて生易しいものじゃない。

 金属音。これは、なにか硬いもので殴っている。

 ドアノブ・・・。

 すさまじい音がトイレの中に響き渡る。

店長「な、何してるんですかっ!?

 ドエエエエエエイ!」

 怒号、それでもその音は収まらない。

 何かが壊れる音。

 ドアノブがガシャンと音を立てて落ちた。

 ドアが音もなく開く。

ドエイ「・・ラッコ・・・さん」 

店長「ドエーーー!」

ドエイ「ひどい・・・こんなこと・・・」

蘭子「もう・・・やだ・・・よ」

 開いたドアの前にドエイさんが立っていた。

 何とも言えない悲しい顔で・・・右手には鉄鎚が握られていた。

 見られてしまった。

 今もこの男に足を広げられたまま、私の局部にはバイブレーターが刺さったまま。

 私の最低な姿を、ドエイさんに見られてしまった。

蘭子「・・・見ない・・・で・・・」

ドエイ「ラ・・・ッコ・・・」

 なんだか疲れた。

 隠してきたのに、ずっと誰にも知られないようにしてきたのに。

 知られてしまった瞬間に、私には疲労感だけが残った。

 もういいやって、どーでもいいやって・・・。

 私は体中の力が抜けて考えることもやめた。

 どうでもいい。

 もう、どうでも。

店長「テメェ!コラ!何してんだタココラァッ!」

ドエイ「だめ・・・よくない。よくない、それ」

店長「あああ?なに言ってんだコラァ!テメーは自分の立場分かってんのかコラァ?おおお!?」

ドエイ「だめ・・・だめね。ラッコさん、放して」

店長「この野郎ぉ!上等だコラァ!」

ドエイ「二人には、愛ないよ。愛じゃない。

 それは違う。そういうの・・・違う」

店長「ははーん。そうか、そう言うことですか・・・。

 たかだか10日程度のお付き合いで、お前は蘭子ちゃんに恋をしちゃったって訳ですかぁ?

 まぁ、毎日12時間も顔を合わす間柄ですからねぇ・・・それに、蘭子ちゃんのこの可愛さならしょうがないですか・・・」

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「私・・・私は」

店長「吊り橋理論ってやつですよ。同じような窮地に立たされた人間がお互いの本意とは別の所で強く共鳴し合っちゃうというアレ。

 私が二人の吊り橋っになってしまったって訳ですかねぇ・・・モホホホホ」

ドエイ「私は・・・ラッコさん・・・救いたいだけ!」

店長「モホホホホホホ!どーですかぁ!?

 お前が愛してしまったそのラッコちゃんのおマンコぉ!

 私の使い古しのおマンコぉ!

 じっくり見てみたくはありませんかぁ!?」

 そういうと、アイツは私の性器からバイブを抜き、両手で左右から広げて見せた。

蘭子「いや・・・いやだよ・・・、もう」

 私はそれ以上抵抗できなかった。

 力が入らなかった。

 何もかも諦めていたし、もう知られちゃったから・・・。

 

 どうでもいいんだ。

 私は瞼を閉じて現実に見える世界を真っ黒に塗りつぶした。

 すべてなすがままに身を委ねてしまえばいいんだ・・・。

ドエイ「だめ、やめて!」

店長「ほれほれほれほれぇ!お前の大好きなラッコちゃんのおマンコですよぉ?

 綺麗でしょう?こんなピンクのおマンコ見たことありますかぁ?

 でもね、このおマンコは私のチンポで何度も汚されているんですよぉ!モホホホホホホホホ!

 この極太ディルドバイブもさっきまでぶっささってヒクヒク言ってたんですよぉ!」

ドエイ「・・・・・・」

店長「なんならお前にもラッコちゃんのおマンコを使わせてやりましょうかぁ?

 ぶち込みたいんですよねぇ?

 大好きなラッコちゃんのピンクおマンコにぃ!」

ドエイ「違う・・・」

店長「何が違うって言うんですかぁ?

 ホレぇ、お前の股間ムクムクムクムク、なんですかそれは?

 馬並みに勃起してるじゃないですかぁ!」

 その言葉に私は閉じた目を薄く開く。

 ドエイさんの股間は隆起していた。

 そうだよね・・・。

 コイツだけじゃない・・・男なんてみんなそうなんだ・・・。

ドエイ「これは、これは・・・」

店長「正直に言いなさい!僕もラッコちゃんとパコパコしたいたいですっ!って。

 その馬並みのペニスをラッコさんの小さなハマグリヴァギナにぶち込みたいですって、とっとと言いなさい!

 お前が心底頼むなら貸してやってもいいんですよぉ!

 私が使い古した汚れたラッコのマンコを!」

ドエイ「やめ・・・ろ・・・」

店長「な、なんだ・・・なんなんですか・・・その顔は・・・」

ドエイ「許さない・・・ラッコ侮辱する、許さない・・・絶対に許さないッ!」

 ドエイさんの表情が変わっていた。

 いつもクシャクシャに笑っていたドエイさんの顔が見たこともない鋭い顔に変わっていた。

 右手に持った鉄鎚が振り子のようにゆらゆらと揺れていた。

 

店長「お、おい・・・なんだって言うんですか・・・。

 と、とりあえずその鉄鎚を・・・」

ドエイ「許さない。

 ラッコ・・・ラッコ苦しめるオマエ・・・」

店長「お、おお・・・?」

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「私は、私は・・・」

 ドエイさんが一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。

 右手に持った鉄鎚。

 ドエイさんは何をする気なの?

 そんな鉄鎚で人を殴れば・・・。

 この男を殺す?

 私を助ける?

 

 私は・・・解放される?

 

店長「は、早まるなっ!」

ドエイ「ぐ・・・ぐぅぅおおお」

店長「こ、このぉ!テメーッ!国に帰されてもいいのか――――ッ!!」

 

 その言葉にドエイさんの足がピタッと止まった。

店長「良いんですよ?さぁ殴れよ。

 お前は晴れて逮捕の上国外追放だ。

 お前の家族は路頭に迷うだろうなぁ。

 ママの名前はソラールさんって言ったっけ?

 泣くだろうなぁ・・・テメーの息子がよその国で殺人未遂なんて、自殺もんだよなぁ!」

 ダメ、やめないでドエイさん・・・。

 この男の口車に乗っちゃダメ!

 脅しに屈しないで!

ドエイ「ぐぅぅぅ」

店長「さあ、とっとと殴ってみろっ!」

ドエイ「ぐぅぅ・・・ううう・・」

 殴るの!

 その鉄鎚で――

ドエイ「うううぉぉぉぉ・・・」

店長「う、嘘だろ・・・コイツ本気で・・・」

蘭子「殴ってぇ!

 その鉄鎚でコイツを殺してぇー!」

店長「お・・・おおっと・・・なんですかぁ・・・?

 まだ反骨心は消えていないんですか・・・蘭子ちゃん・・・」

蘭子「煩いっ!構わずに殴るのっ!

 こいつの口車に乗っちゃダメっ!」

店長「こっ・・・このクソビッチがぁぁぁ!」

 私の足を広げる店長の手に力が入る。

 私の開き切った足が限界を超えて開かれる。

 股関節に痛みが走る。

 構わない。

 こんなのへっちゃら。

 これが辱めのつもり?

 私を力でねじ伏せた積り?

 暗闇に差した光明。

 絶望の淵に投げ込まれた希望という名の糸。 

 私は・・・諦めない!

 ドエイさんがコイツを殴ればすべてが終わる。

 ドエイさんは捕まる。

 でも、こいつがドエイさんを奴隷のように扱っていたことも明るみになる。

 コイツだって無傷でいられるわけがないんだ!

蘭子「ドエイさん!早く!殴るのっ!」

 ドエイさんは俯いて震えている。

 鉄鎚を握った拳に血管が浮き上がり岩のようになる。

店長「ちょ、ちょっと落ち着いてお話をしましょうか?

 な、なんなら時給を・・・」

 ドエイさん、貴方がこの男を殴れば貴方は汚名を被るかもしれない。

 国に帰されるかもしれない。

 でも私だけは、私ひとりだけはドエイさんを心から・・・。

店長「や、やめてくれ!・・・冗談じゃねーよ!

 わ、悪かった!謝る!

 俺が悪かったから、痛いのだけは・・・」

蘭子「ドエイさん!私、ドエイさんのこと」

ドエイ「ごめん・・・すみません・・・ラッコさん・・・」

蘭子「え?」

ドエイ「やはり・・・出来ない・・・。私、国に帰る出来ない」

店長「モ・・・」

蘭子「・・・・・・」

店長「モ―――ッホッホッホ・・・ッホッホッホッホッホ・・・、モホモホモホモホ・・・」

ドイエ「すまない・・・」

店長「そ、そりゃそうですよねぇ・・・。

 い、いやぁ・・・分かってくれれば良いんですよぉ!モホホホホホホ!

 ドエイ、お前は私に逆うことなんて絶対に出来ないんですよぉぉ!」

蘭子「・・・そっか」

ドエイ「すみません・・・ラッコさん・・・」

店長「よーし。こいつはもう私に逆らえないことはよぉく分かりました。

 そこで蘭子ちゃん、貴方の問題を片づけましょうか?

 殴れ?殴れって言いましたよね?

 コイツに私を殴れって言っちゃいましたよねぇ?」

蘭子「・・・フフ・・・フフフフフ・・・マジでウケル・・・」

店長「いけないなぁ・・・非常に不味い。

 これは極めて心象が良くなぁぁい!」

蘭子「煩い・・・アハハハハハ!」

ドエイ「ラッコ・・・さん」

店長「よーし!蘭子ちゃんにはこれからドエイと3人で再教育が必要ですな!」

蘭子「・・・フフフフフ・・・アハハハハハハ!」

ドエイ「・・・そんな・・・」

店長「コラ・・・ドエイ君、お前は私にもう二度と逆らえないことが分かったんですよね?

 奴隷の自覚を十二分に理解したんですよね?」

ドエイ「・・・う・・・うう」

店長「よし、さ、ぶち込んで貰いましょうか?

 私が許可します!

 奴隷の何たるかをこのビッチマンコに教えこんでやるんです!」

ドエイ「それは・・・それだけはだめ・・・できない」

店長「逆 ら う な ・・・次はありませんよ・・・」

ドエイ「・・・・・・」

 そうか・・・。

 そう。

 勘違いしてた。

 そう。

 負けを認めたはずなのに、受け入れたはずなのに、私は勘違いしちゃった。

 もしかしたらって、勘違いしちゃったんだ。

 そうだ・・・私が馬鹿だ。

 私がただの馬鹿だったんだよ。

店長「早くしなさぁぁぁい!」

ドエイ「・・・うぅ・・・」

蘭子「ドエイさん・・・」

ドエイ「ラッコ・・・」

蘭子「もういい・・・。

 どーでもいいんだ。私はこれ以上汚れたりなんかしないから。

 ドエイさんは自分を守りたいんだよね?

 いいよ。そのために私を汚せばいいよ・・・」

ドエイ「ラッコ・・・さん」

店長「今宵は3Pですよぉぉぉ!蘭子ちゃん、もっともっと気持ちよくしてあげるからねぃ!

 乳首にクリにマンコにケツ穴に、全部の性感帯を最高に気持ちよくしてあげますからねぃ!」

蘭子「ドエイさん・・・コイツを殺せないなら・・・私を殺して・・・。

 それすらもできないなら・・・犯せばいい・・・。

 とにかく私を・・・はやく楽にして」

ドエイ「で、できない・・・できない・・・うぅぅぅうう」

店長「ほほぉ。

 そんなに使い古されて汚れたマンコはお気に召さないですかぁ?

 ずいぶん贅沢な奴隷ですねぇ」

ドエイ「違う・・・違うよ・・・そうじゃ」

店長「舐めろ・・・」

ドエイ「え・・・」

店長「お前の舌で蘭子ちゃんのマンコを犬のようにペロペロ嘗め回してキレイキレイして差し上げなさい」

ドエイ「うぅぅううぅ・・・」

蘭子「・・・早く終わらせて」

ドエイ「ぐぅううぅう・・・」

店長「最後通告です・・・。

 ヤレって言ってるんですよぉぉぉぉおおおぉぉおおお―――ッ!」

ドエイ「う、う・・・・うわぁぁぁぁぁ―――ッ!」

 

 前にいる男も後ろにいる男も、それはただの獣だった。

 私は、獣たちに与えられた無力な獲物。

 獣たちがその食事に満足して立ち去るまで、されるがままに全てを委ねるだけ。

蘭子「はぁ・・・あああ!あは・・・あ!あ!あああ!あああん!」

 私は拒否せず受け入れればいいだけ。

 そうすれば、少なくともこの快感の間だけは自分自身を消し去ってくれる。 

蘭子「はぁう・・・うう・・・ん!はああ・・・はぁぁああん!」

ドエイ「う・・・くぅぅぅうう・・・」

蘭子「う・・・うん・・・あ・・・あ!あ!はぁあ!ん!」

ドエイ「ラッコ・・・」

蘭子「そこ、もっと舐めて・・・。

 私を真っ白にして・・・消し去って」

 

 私のその言葉に、ドエイさんは泣きだした。

 

ドエイ「ラッコ・・・ラッコさん・・・」

 私の目からも涙が自然と溢れた。

 私と同じようにえっちしながら泣く人もいるんだ。

 興奮しすぎて泣いているの?

 私は絶望で泣いてるんだよ?

 ドエイさんはなんで泣いてるの?

 私のことが嫌いだから?

 私の汚れた身体じゃ満足できないから?

 ねぇ、なんで泣いているの?

 その後、私たちは私室に場所を移して繰り返した。

 汚れ切った時間。

 そこには、人間が持つ最低限の理性や優しさすら存在しなかった。

 目の前の欲望に忠実な獣だけが傷つかない、そんな時間だった。

 あの日奪われた私の純潔や誇りさえも、

 今はほんの些細な出来事としか思えない。

 

 汚れていくのは身体だけじゃないんだ・・・。

蘭子「はぁ・・・あ!あああん!あ!あ!」

 ドエイさんが何かを吹っ切ったように泣きながら私の膣に性器を押し込む、

 強い快感が全身を痺れさせた。

 ドエイさんの大きな陰茎が耐えがたい快感を生んだ。

蘭子「あ、あああああ!はぁ!ああああ!」

 もはやこの場所に人間はいなかった。

 汚れた肉の塊と、それに貪りつく二つの獣。

 私の喘ぎ声で興奮したドエイさんが激しく腰を揺らした。

 大きくて硬い性器が私の一番奥に当たる。

 私の身体は火花のように乱れる。

 その火の粉を滿汐におしよせるしじまの波がどこか遠くへと浚ってゆく。

 滑稽だった。

 変な光景。

蘭子「アハハハハ・・・は!ん!・・・あはん・・・あ・・・アハハハハハハ!」

 私は、なぜか笑いが込み上げた。

 ドエイさんに腰を突かれながら、私は笑い声を押さえられない。

 欲望のまま性に貪りつく、醜悪で下劣な肥満体の男。

 その下劣な男のなすが儘に蹂躙され、快楽の奴隷になる私。

 その私を突きながらずっと泣き通しの外国人。

 この場にいる汚れ切った三人すべてが、惨めで哀れで滑稽だった。

 その滑稽な時間は終わらない。

 あの男が満足して飽きるまで。

 それは続く。

 

蘭子「ん!んあああ!んんん!はぁあん!んんん!」

店長「もっと、もっともっと私の肛門にその舌を入れるんです!」

蘭子「んむ・・・んむぅ・・・んん・・・ふあ・・・」

ドエイ「ハァハァハァハァ・・・ラッコ・・・ハァハァ・・・ラッコ・・・」

 今日が終わっても。

店長「いいですよ!

 私も出そうです!蘭子ちゃんのパイ圧とアナル舐めで早くも行きそうです!」

 明日が終わっても。

店長「蘭子ちゃん、今度はチンコ、チンコペロペロして!チンコチンコ!

 チンコちゅっちゅしてぇ!」

 夏休みが終わっても。

 きっと終わらない。

 快楽と堕落の時間は、ただ緩やかに繰り返される。

 私の体内に、顔に、口に、目に、胸に、何度となく発射される獣たちの白い体液。

 私の血は獣の精液で白く濁ってゆく。

 終わりの見えない堕落の世界。

 私は堕ちてゆく・・・底の無い穴の中を。

 沈んでゆく。

 光の届かいな場所、音のない深海。

 正気と言う泡を吐き出しながら沈んでゆく。

 その泡が全てはじけて消えるまで・・・終わりは来ない。

 ―ドエイ―

ドエイ「うぅ・・・うぅぅう」

 こんな・・・こんな酷いこと・・・私は・・・。

蘭子「あ・・・あああ!・・・はっ・・・あ!」

 何をしているんだ私は・・・。

 ラッコに何をしているんだ・・・。

店長「良いですよぉ蘭子ちゃぁん・・・もっと、もっと根元までしゃぶってくださぁい」

蘭子「あん・・・ん・・・んむ」

 悪魔の時間だ・・・これは悪魔たちの晩餐。

 イケダと言う男も、ラッコも、そしてこの私も悪魔に支配されている。

店長「ドエイ!お前も楽しんでますかぁ?大好きなラッコさんを抱かせてやってるんだ、明日からの時給は100円でいいですね?」

 私は終わらせるためにあの場所に立ったはず。

 ラッコを救うためにイケダに立ち向かう決断をしたはず。

 それなのに、私は何をしているんだ。

蘭子「・・・もっと・・・もっと奥まで・・・」

店長「オラオラオラオラ!ドエイ!蘭子ちゃんが切なそうにしてるじゃないですかぁ!

 もっとしっかり腰を動かしなさぁい!」

 私は、貧しい祖国で待つ家族の為に単身この国に出稼ぎにきた。

 家族のためという大きな誇りを持って。

 しかし、私はその誇りを悉く踏みにじってきた。

 もはや私に残されていたのは、日本で、この場所で知り合ったこのラッコと言う少女との細やかな友情だけだったはず。

 それなのに、私は布切れ一枚となり果てた家族へのプライドを守るために、このラッコと言う暖かで大きな太陽を裏切った。

蘭子「う・・・あ・・・ああ・・・あ!」

 私は、太陽のサンサンを自ら放棄したのだ。

店長「出る、また出ます!蘭子ちゃん、おじさんの精子をしっかり飲み込んでくださぁい!」

蘭子「ん‥んむ・・・ん・・・んん」

 私は放棄した・・・。

 ラッコを・・・太陽を。

 そう、ラッコは・・・太陽のサンサンだった。

 ラッコは・・・私の太陽だった。

 

 違う、過去形ではない!

 

 ラッコはそれでも太陽であり続けるんだ! 

 あり続けなければならない!

 ただ単に私と言う流星が真っ逆さまに落ちただけなのだ。

 視界からその太陽を見失っただけなのだ。

 太陽は上り続けている。今もなお、太陽は燦々と輝き続けている。

 夜の帳に支配されてはならない。

 ラッコは、これからも輝きの中で生きていくんだ。

 

 ラッコは私とは違う。

 まだ心の底まで落ちてはいない!

 今ならば間に合う!

店長「おいドエイ!何してんだ!」

ドエイ「・・・・・・」

 私はラッコの身体から離れ、脱ぎ捨てた衣服を手に持つと表へ駆け出した。

 

 表に出て衣服を整える。

 街道をゆく車もなく、虫の囁きしか聞こえない。

 私は漆黒の空を見上げて呟いた。

ドエイ「ラッコ・・・夜・・・必ず・・・終わる」 

 

 だから、その輝きを失わないで。

 

 私は自らの過ちにケジメをつけなければならない。

 命を持って償う・・・。

 そして、家へ還る。

 故郷まで吹く風に乗って、私はママたちの待つ家へ還る。

 ラッコ、貴方は自分の足で家に帰るんだ・・・。

 

 途中でドエイさんが消えてから1時間くらい経った。

 私は獣の餌になり、私自身も強い快感の中で淫靡な声を上げた。

 アイツが全裸のまま部屋のベッドの上で眠っている。

 自身の性が尽き果て、今日の私に飽きたんだ。

 やっと解放される。

 私が私をほんの少しだけ取り戻せる時間。

 快楽と言う名の海から流れ着いて砂浜に戻ってきた。

 

 私は着替え店を出る。

 ドエイさんはあのままどこかへ消えてしまった。

 そうだよね・・・私に合わせる顔なんてないよね。

 私も出来ることならもう二度と彼に会いたくない。

 彼もこの男と同じ獣だと分かった以上、心を交わし合うことなんて出来ないのだから・・・。

 店を出て歩き出す。

 23時の終電までに駅に着かないと家へ帰れない。

 私は急いだ。

 

 店の駐車場を出た時だった。

 そこには、箒を持って掃除をしているドエイさんがいた。

 暗がりの中でポツンとひとり地面を掃いている。

 私は何も言わず彼を素通りした。

ドエイ「ラッコさん、待って!」

 呼び止める声。

 何を話すというの?

 何が話せるというの?

 そんなのひとつもないよね・・・。

蘭子「なに・・・?」

ドエイ「私・・・私・・・」

蘭子「用がないなら行くけど・・・」

ドエイ「私・・・ココロ・・・違う・・・あんなこと」

蘭子「そう・・・でも、気持ちよかったんでしょ?」

ドエイ「・・・・・・」

蘭子「私のこと・・・滅茶苦茶にしたかったんでしょ?

 いつも私に付きまとってたもんね・・・。

 分かってるよ。

 ドエイさんが私を犯したくてたまらなかった気持ち」

ドエイ「いや・・・そうじゃ・・・私」

蘭子「どんなに取り繕ったって男はみんな同じ。

 性欲の獣だもの。

 私の身体は・・・満足いったでしょ?

 私も気持ちよかったから・・・それでおあいこ」

ドエイ「そんな、そんな言い方」

蘭子「あ、なんならまたヤらせてあげてもいいよ?

 お互い奴隷なんだから、ちゃんとご主人様に了承得られればね」

ドエイ「ダメ!ラッコさん違う!そんな考え方ダメ!」

蘭子「煩いケダモノッ!アンタもあの男と同じだったってだけ!

 今更何を話そうって言うの?

 何をしたって貴方の罪が許されるわけないんだよっ!」

ドエイ「そう・・・罪消えない」

蘭子「分かってるなら私の前から消えて」

ドエイ「ダメ・・・愛・・・愛を信じて」

蘭子「はぁ?

 なに言ってんの?

 愛?

 アハハハハハハ!

 愛だって!アハハハハハハ!

 今の私に、今の汚れ切った私にそんな言葉で慰めてるつもりなの?

 それとも何?

 アンタは愛を持って私を犯したとでも言いたいわけ?」

ドエイ「私は・・・」

蘭子「レイプ犯が何を言おうが説得力なんてないよ。

 ましてや愛を語る?

 この私に?

 この汚れ切った性奴隷の私に?

 笑わせないでよっ!」

ドエイ「すみません・・・ラッコ・・・でも心まで、落ちぶれないで・・・。

 私のように、心まで・・・囚われないで」

蘭子「冗談言わないでよっ!

 アンタ達に好き勝手に蹂躙され続けて私はもう自分自身を見捨てたんだよ!

 今更何をどうしたって、私の傷痕は絶対に消えたりなんかしないんだよ!

 犯しといて・・・落ちぶれるなって・・・。

 馬鹿にするのもいい加減にしてよっ!」

ドエイ「・・・ラッコ・・・さん」

蘭子「いい?

 私は堕ちたんだよ。

 私は地の底にいるアンタたち獣の奴隷にされたの!

 そこらの売春婦よりも安っぽい、獣たち専用の性処理道具にね!」

ドエイ「私・・・どうしたらいい・・・。

 ラッコさん・・・傷つけた私・・・どうしたら」

蘭子「どうしたらいい?・・・自分で何をしたかも分かってないんでしょ?」

ドエイ「イケダさん・・・逆らえない・・・私、逆らう出来ない・・・出来なかった」

蘭子「逆らえないって、そんなにクビになるのが嫌?

 雇ってもらってるから逆らえないって・・・。

 だからって、だからって!

 貴方のしたことは何も変わらない!

 被害者ぶらないで!

 ふざけないでよ!」

ドエイ「そう・・・私、酷い人。

 ラッコさんのココロ・・・考えない人。

 弱い人」

蘭子「分かっているならさっさと消え」

ドエイ「奴隷・・・貴方の!

 私・・・奴隷になる!」

蘭子「え」

ドエイ「私、貴方が私を許すまで、奴隷になる」

蘭子「奴隷って・・・私は別に奴隷なんていらない!

 ・・・そもそもアンタはあの男の奴隷でしょ?」

ドエイ「じゃあ、”ドエイ”になる。

 私、貴方のためだけのドエイになる」

蘭子「だから、そういうの」

ドエイ「分かってる。私・・・イケダの奴隷、知ってる・・・私・・・馬鹿じゃない」

蘭子「馬鹿じゃないなら、なんであんな男に従うのよ!

 あんな男の奴隷になんかなんでなってるのよ!」

ドエイ「私、不法残留・・・。

 在留資格・・・もうない」

蘭子「え」

 不法残留・・・。

 そうか。

 それで、あの男の言いなりに・・・。

 あの男に脅迫されて、安いお金で働かされていた。

ドエイ「ニポン来て、最初にキャベツ畑・・・働いた。

 頑張って・・・働いた、急に要らない言われて・・・捨てられた・・・。

 知らない国・・・歩いて・・・太陽のサンサン探して歩いた・・・。

 ヒヤキポリネキセサナモペ共和国、とてもとても小さい。

 だからニポンでは・・・私の国の友達・・・いない。

 寂しくても、歩いた・・・歩いて歩いて・・・懐かしい木の臭いするこの町・・・たどり着いた。

 そしてイケダさん・・・会った」

蘭子「それで・・・アイツに・・・不法残留をネタに。

 そんなのアイツに利用されてるだけじゃん!

 ダメだよそんなの!

 そんなことでアイツの奴隷になるなんて」

 私は感情的になっていた。

 そんな些細なことであんな人間のクズに利用され、奴隷であることに甘んじているドエイさんが情けなくて許せなかった。

 でも、ふと思った。

 私のその言葉は私自身に向けているんだって・・・。

 ドエイさんはまるで私なんだ。

ドエイ「そう・・・私知ってる‥‥300円・・・とても安い。

 イケダさん・・・私を脅す・・・不法残留・・・私・・・イケダさんの奴隷・・・分かってる。

 ラッコさんをひどい目・・・あわせた・・・いけないこと・・・とてもわかってる」

蘭子「じゃあなんで・・・なんでなの?」

ドエイ「逆らえない。私、国にまだ帰れない」

蘭子「だから、そんな理由にあの行為の正当性なんて」

ドエイ「ラッコさんが!

 ラッコさんが・・・イケダさんに脅されている・・・知ってる・・・。

 ラッコさん逆らえない・・・嫌なのに、あんなことをさせられて・・・逆らえない・・・私・・・知ってる・・・」

蘭子「!!」

 時が止まる。

 ドエイさん、知ってたんだ・・・。

 私が辛かったこと・・・。

 逆らえなかったこと。

 私が一番臆病で情けなかったこと・・・。 

ドエイ「ラッコさん・・・大丈夫。もう心配ない」

蘭子「心配ないって・・・アンタは国に逃げ帰れば綺麗さっぱりだけど、

 私は、私の傷は一生消えないんだよ?」

ドエイ「ドエイは帰れないんだよ!

 帰る、ダメなんだよ!」

 ドエイさんの目から大粒の涙がこぼれた。

ドエイ「貧しい家、私が働く・・・家族が生きる。

 だから、どうしても帰れない・・・思った。

 だから、イケダさん・・・逆らえなかった。

 逆う、ケイサツ呼ぶ。私、国に帰される。

 家族の為にニポン来た・・・私・・・何もできないで返される・・・怖かったんだ」

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「でも私、それ違う・・・気づいた。

 私・・・もっと大事なこと・・・壊した。

 私・・・許されないこと・・・した。

 神様も私のママも、私も・・・私を許さない。

 だから・・・ラッコさんに・・・償う・・・ドエイになる」

蘭子「償う?今更貴方に何が償えるの!?」

ドエイ「私の力・・・小さい・・・すべて、償えない・・・。

 でも償う!

 私、償わせてほしい」

蘭子「何の力にもならない貴方が何を償えるのか分からないよ。

 正直に言えばあの時、トイレで期待した・・・でも裏切られた。

 私がナイフを持って立ち向かおうとしたときも」

ドエイ「すみません・・・」

蘭子「期待したから私は失望したんだ。

 だからもう失望したくない。

 私になにもしなくていい。私を放っておいて」

ドエイ「ラッコさん・・・」

蘭子「私は諦めたんだ。もう戦ったりしないって。

 私は理解したの。アイツに負けたんだって。

 私は汚いんだって。世界で一番汚れた人間なんだって。

 それを受け入れたらそれで済むんだって」

ドエイ「・・・・・・」

蘭子「もういいよ・・・何もかもどーでもいいんだ」

ドエイ「お家・・・お家帰りたい?

 ラッコさんは、お家にまっすぐ帰りたい?」

蘭子「何よその質問・・・意味が」

ドエイ「もう一度聞くね。

 お家・・・帰りたい?」

蘭子「だから何?

 ・・・何が言いたいのか分からないよ」

ドエイ「話さなくていい。ただ頷くだけで」

蘭子「・・・・・・」

 私はハッとした。ドエイさんのあまりの眼光の強さに思わず言葉を飲んだ。

 それは、私を憐れむようであり、この状況を歎ずるようであり、目いっぱいの優しさのようにも感じた。

 その強い視線の意味が何となく分かる。

 ドエイさんは私が自殺すると思っているんだ。

 私をこのまま帰せば、自殺すると。

 私を自殺させないことが彼にとっての償いなんだ。

 でも、無理もないよね。

 今の私はそのくらい不安定だ。

 自分でも何をどうすればいいかなんて全く分かっていない。

 いま、頭に強くあるのは、誰も知らないところへ一人きりで行きたい・・・ただそれだけ。

 あの不浄な時間から時が経てば経つほど後悔と絶望が沸々と湧き上がり、

 耐えられない羞恥と屈辱が私を蔑んでゆく。

 家に帰りたいか?

 この質問に対する私の頷きの意味はきっと、

 頷けば家に帰る・・・だから死なない。

 頷かなければ別のところに帰る、それは違う世界へ旅立つということだろう。

 なんでそんな遠回しな質問をするのか疑問だった。

 不安定な私に死を連想させるキーワードを使うことを避けた所為なのか。

 だけど、この人に何の関係が?

 私を汚すことに加担したこの男に、私が死のうが生きようが何の関係があるって言うの?

ドエイ「・・・・・・」

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「・・・・・・」

私は小さく頷いた・・・。

蘭子「私は・・・家に帰る」

 一瞬の沈黙。

 ドエイさんは私の言葉を噛みしめるように頷いて、明るい声で言った。

 

ドエイ「うん。分かったよ」

 ドエイさんの強い眼差しがほっとしたように一気に崩れ、いつものくしゃくしゃの微笑みに変わった。

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「また明日」

蘭子「・・・・・・」

ドエイ「私、最後の掃除ある。ラッコさん、早くお家にお帰り・・・まっすぐ」

蘭子「・・・・・・」

 私は何度か振り向いた。ドエイさんが店の駐車場に立ったまま箒を片手にこっちを見て手を振っている。

 街灯がドエイさんの顔を照らす。

 笑っていた。

 笑顔でずっと私を見送っていた。

 ドエイさんに対する憎しみは何一つ変わらなかったけど、ドエイさんのあの笑顔が頭から離れなかった。

 家に帰り、精液で汚れた体を執拗に洗った。

 もう何度目だろう。

 私の肌にしみ込んだ男たちの精液を剥がすように、私は赤くなった肌を血が出るほど何度もこすった。

 いつのまにか泣くこともやめてしまった。

 だって泣いたって、汚れてしまった身体を、心を、奇麗にしてはくれないんだから。

 ベッドに入り天井を見つめる。

 考えていた。

 ドエイさんの質問。

 考えていた。

 堕ちた私。憎しみ。裏切り。

 考えていた。

 これからも続くであろう絶望しかない日々。

 考えていた・・・。

死という選択肢。

 死。何もかも綺麗に洗い流せる美しい言葉。

 死。戦うことも辱められることもアイツと顔を合わせることもない真っ白な世界。

 死。音のない世界。

 死。・・・海。

 死。深海よりも深い場所。

 死。誰もいない世界。

 死。私のいない世界。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死が一つ・・・。

 死。

 死が二つ・・・。

 死。

 死が三つ・・・。

 死。

 死が・・・。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死。

 死・・・。

 睡魔が訪れ、意識が見えるはずのない海の波に浚われて静かに引いていった。

翌朝

 目が覚めるといつもより10分遅かった。

 いけない。

 私はすぐに支度をして、家を飛び出た。

《ピーポーピーポー》

《ウー ウー》

 けたたましいサイレンの音。

 いつもの無人駅をくぐり店へ向かう街道。パトカーや救急車が引っ切り無しに私を後ろから追い抜いて行った。

蘭子「何かあったのかな」

 時計を気にする。8時34分。

 大遅刻だ・・・店はもうとっくに始まっている。

 

 責任感なのか、あんなバイトの遅刻を気にする自分にため息が零れた。

《ウーーーウーーー》

蘭子「え・・・」

 店に着くと、辺りは騒然としていた。

 駐車場を覆うように無数のパトカーと救急車が止まっている。

 周辺住民が野次馬になって集まっている。

蘭子「あの・・・」

 私は、警備している警官に声をかけた。

警官「ダメダメ。近寄らないでください」

蘭子「あの・・・私、ここのバイトなんです」

警官「え?ここ?このコンビニでバイトしてるの?」

蘭子「はい」

警官「ちょっと待って」

 警官は無線で何やら連絡し始めた。

蘭子「あの、一体何が・・・」

警官「ちょっと待ってね。

 はい。はい。了解。

 あのね、ドエイさんというここの従業員知ってますか?」

蘭子「ドエイさん・・・はい」

警官「じゃあ、店長の池田さんは当然知ってるよね」

蘭子「はい」

警官「今朝、この店で殺人事件があってね」

 頭が白くなった。

 足が竦んで徐々に体が震え出したのが分かった。

 暑いはずの夏の朝靄の中で、私だけが寒さを感じている。

 震えが足元から口元に達し、奥歯がガタガタと音を鳴らし始めた。

警官「ちょっと署で詳しく伺えるかな?」

 警官の声は届かなかった。

 震えで口がうまく動かない。

 それでも、私は振り絞るように声を出した。

蘭子「あ、あの・・・ドエイ・・・ドエイさんは・・・」

警官「重要参考人として確保しましたが、現在は救急搬送されてます」

蘭子「救急・・・」

警官「酷い怪我をしててね・・・」

蘭子「・・・・・・」

警官「事件解明のためにもなんとか息を取り戻してもらいたいが・・・あれは」

 そう言うと、警官は視線を山の方にずらしてため息をこぼした。

 私は、体内の何もかもが空っぽになって宙を浮いている気分だった。

 ドエイさんはまだ生きてる。

 殺人事件・・・殺人。

 じゃあ、死んだのは・・・。

 その時、人だかりで大きな悲鳴が上がった。

「キャアアアアア!」

「うわああああああ!」

警官「おい、何やってんだ!」

 警官が慌てて走り出す。

 私はその方向に目を向ける。

蘭子「え・・・」

 人だかりの悲鳴が一瞬にして消えた。

 私は海を見た。

 朝靄のしじまに押し寄せる波。

 私は、行けなかった海をそこに見たんだ・・・。

 死体を隠すビニールシートが急に吹いた突風で捲れあがっていた。

 そして、それがはっきりと見えた。

 私にはそれが、まるで海の波と砂浜に打ち上げられた何かの肉片のように見えた。 

 ドエイさんが・・・殺したんだ・・・。

 アイツを、あんな風に。

 突然降り出した大雨が洪水を起こし、私はその渦の中に飲み込まれた。

 気が付くとそこは人間の倫理が及ばない凌辱と言う名の海だった。

 私は、岸を目指して必死に藻掻いた。そのうち自分すら見失いながら・・・。

 けれど、太陽は昇った。

 太陽が昇ったとき、やがて波は穏やかになり私は岸辺に流れ着いた。

 あの男の転がる死体と一緒に。

 どこかへ落ち沈んだドエイさんは空高く舞い上がった。

 そして私を救う太陽になった。

 不思議なことに、その無残なアイツの亡骸に一切恐怖を感じなかった。

 むしろ、言い得ぬ安堵。震えがピタッと止まり、不可解な安心感で満たされていた。

 大騒ぎする野次馬と警察。

 私は、その隙間から見えるあの男の惨めに転がった頭部を瞬きもせずに見続けた・・・。

 やがて、警官が波のようなブルーシートでアイツの死体を覆い隠した。

 それはまるで、私の汚れた過去も一緒に、海の波で全て洗い流すように・・・。

 それから警察署に行き色々と話した。

 私は、事件の関連性がないということですぐに返された。

 私は、家に帰っても空っぽのままだった。

 両親の心配する声も耳に入らなかった。

 里美や康介からの電話も一切受け付けなかった。

 ただ、眠った。

 目が覚めて考える。

 あの時、頷いたことを。

 あの時のドエイさんの強い目を。

 あの時のドエイさんの笑顔を。

 ドエイさん・・・死なないで。

 私はまだあなたを許していない。

 生きていて・・・。

 生きて私に償うんだよ。

 私が『もう良いよ』って言うまで・・・。

 そして、いつの間にか眠る。

 目が覚めてまた考える。

 また・・・眠った。

 

 朝。

 あの事件の続報がTVニュースで流れた。

《「山梨県笛吹町コンビニ店長惨殺事件の続報が入りました。

 お伝えします。

 この事件は、昨日未明、山梨県笛吹町のコンビニエンスストア『Eストア』において、店長の池田亘輝さん(44歳)が何者かに鋭利な刃物のようなものでめった刺しにあい、頭部を切断され殺されているのが見つかったもので、また従業員のヒヤキポリネキセサナモペ共和国国籍で技能実習生ドエイ・ダナンさん(28歳)も、腹部などに大けがを負い重体となっていたものです。事件発生後の早朝8時に店が開店しないことを不審に思った客が、事件のあったコンビニ駐車場で池田さんの切断された頭部を見つけ警察に通報、その後、警察によって店内バックヤードで腹部から大量に出血してぐったりしているドエイさんを発見しました。凶器と見られる包丁はドエイさんの右手に握られていたとのことです。また店内バックヤードは酷く荒らされた様子でしたが、金品等には手を着けられていなかったとのことです。

 

 続報です。

 

 コンビニ店長惨殺事件で重要参考人として現在山梨中央病院で救命治療中だったヒヤキポリネキセサナモペ共和国国籍で、技能実習生ドエイ・ダナンさん(28歳)の死亡を確認しました。

 ドエイさんは、日本滞在資格を持たない不法残留者であることも判明。

 警察の発表によると、ドエイさんの所持品から遺書のようなものが見つかったとのことです。

 発表によりますと、不法残留状態であることを池田さんに脅され、低賃金で労働を強制されていたことに対して、ドエイさんが普段から池田さんに対して強い恨みを抱いていたという内容の記述があったとのことです。

 警察はこの遺書をもとに、ドエイさんが怨恨によって池田さん殺害を決意、自らも腹を刺して自殺したものとみて、重要参考人から容疑者に切り替えて被疑者死亡のまま捜査を継続するとのことです。以上、現場からでした」》

 

 ドエイさん・・・。

 ドエイさん・・・・・・。

 ドエイさんが、死んじゃった・・・。

蘭子「う・・・うぅ・・・」

 涙・・・。

 なんで泣くの?

 おかしいよ。

 なんで、私を犯した男に対して涙なんか流せるの?

 おかしいって・・・。

 胸が苦しいよ・・・。

 ドエイさん・・・死んだ。

 最後の夜の笑顔が頭に焼き付いて・・・離れない。

 辛い。

 辛いよ・・・。

 悲しいよ。

 だけど私は、悲しい気持ちだけじゃなかった。

 ドエイさんの死・・・それは、汚れてしまった私を知る人物がいなくなったということ。

 堕ちた私を知る人間はもうこの世に誰もいなくなったということ。

 私は解放されたんだ・・・。

 ドエイさんが・・・私を本当に解放してくれたんだ・・・。

蘭子「私、私・・・」

 ボロボロと止まらない涙。

 ほんの少しの出会いだったけど、それは誰も経験したことのない深い関係だった。

 思い出すあの笑顔・・・ドエイさんが歌った歌。

 ドエイさんは、私を裏切った。

 だけど、救ってもくれた。

 違う。

 何度も救ってくれていたんだ。

 私は気づけなかったんだ。

 私は何時も気づかず、素通りしてしまっていた。

 そして、あの夜の最後の会話。

 私は今やっと理解した。

 私の頷きは、すべてを終わらせるための最終決断だったんだ。

 

 私は頷いた。

 私は『家に帰る』と言った。

 ドエイさんは、私が家に帰れるようにアイツを殺した。

 これからずっとまっすぐ家に帰れるように。

 ドエイさんのしたことを全て許そうとは思わない。

 許せるはずはない。

 私はもともと何の罪科もない人間だったんだ。

 でも彼だって・・・何の罪があったのだろう?

 不法残留?家族の為に見知らぬ異国で独りぼっちで必死に働こうとしただけ。

 彼は一体どんな罪を犯したというの?

 私を犯した・・・。

 でもそれはアイツに逆らえなかったから。

 逆らえないことが罪だというなら、私も等しく罪人だ。

 許せないのは弱みを握って私たちを罪人に陥れたあの男。

 すべてあの男のせいなんだ。

 大罪があるとするなら、あの男以外誰がいるというんだろう。

 でも私は・・・決断したんだ。

 終わらせるための決断を。

 そして彼が実行してくれた。

 直接的ではなくても、私の殺意が、あの男を殺したんだ。

 この罪はずっと背負って生きていかなければならないんだ。

 事件から二日後、送り主の無い封筒が私宛に届いた。

 中には2枚のUSBメモリと血の付いた手紙。

 USBメモリ・・・私は何となく察しがついた。

 これを送ってきたのは、たぶん・・・。

 血濡れの手紙

《ラッコさん

 I Like you ごめんなさい すみません

 私の過ち 赦してください ごめんなさいね

 ヒヤキポリネキセサナモペ共和国 とても美しい島

 ドエイのママはとてもやさしい 太陽のサンサンですね

 年の離れた兄弟はまだ小さいですよ

 私の一番下の兄弟は12歳で 牛舎で働いているよ

 彼が世話してる牛には『ヨフィヴェン』て名前つけたよ

 ヒヤキポリネキ語で「みんな幸せに」

 

 小麦のにおい 懐かしいよ

 木の臭い この町と同じだよ

 鳥の声 昼寝の雲

 風の唄 トウモロコシ畑で聞こえるよ

 だけどいつも ちょっぴり空腹

 私の国 いつも懐かしんだよ

 ひとりの時 目を閉じてね

 いつか ラッコさんも来れるといいね

 遊びにおいで 私の国

 いつかおいで

 私 夢を持って日本来ました 沢山稼いで ママや兄弟を幸せにしたいと思った

 でも 難しいですね

 ひとりぼっちは

 寂しいですね

 辛いこと 楽しいこと

 語り合えないとき

 語り合う人がいないって 気づいた時

 それはとてもとても悲しいですね

 

 ラッコさん とてもKAWAII 綺麗 優しい ストロング

 I Like you になってしまった

 誰もがラッコさん Likeになる

 素敵な人 太陽のサンサン

 真っ白で 美しいですよ

 私は

 あの時 抵抗するべきだった

 しなくてはいけなかった

 でも 出来なかった

 国に帰されてしまうのが とてもとてもそれは怖かった

 怖い

 私は ママたちを幸せにできるだけお金一杯稼がないとダメだと思ってた

 帰りたいけど 帰れなかった

 でも大事なの そこじゃない

 一番大切なもの そこにない

 だから ラッコさん傷つけてしまったこと 

 私 許せない

 私が私を許さない

 だけど ひとつだけ 私の気持ちの少しだけ 知ってほしかった

 ラッコさん 怖がってるビデオ 見つけた

 送る

 監視カメラとか 色々な動画 機械 私壊した

 大丈夫

 心配ない

 もう大丈夫

 これで ラッコ自由 帰れるよ

 帰っていいよ

 ラッコさんは帰れるんだよ

 太陽のサンサンが待ってるお家にお帰り

 気をつけてお帰り

 タダイマ~

 オカエリ~

 

 I Like ラッコさん

 バイバイ サヨウナラ》

 何よこれ・・・何なのよ・・・。

こんなんで・・・こんなんで許せるわけが・・・。

 許せるわけ・・・。

 何のために、何のために日本に来たのよ・・・。

 ママや兄弟の為に、頑張るために来たんでしょ・・・。

 こんな事の為に・・・違うでしょ・・・違うでしょ・・・。

 思い出した・・・。

 ドエイさんが歌ってたあの歌の名前。

 小学校の卒業式で合唱した歌・・・。

 あの時は日本語で歌ったんだ。

 でもメロディーは・・・そう『You Raise Me Up』。

 私はノートパソコンの電源を入れこの曲をYOUTUBEで探した。

 その曲はすぐに見つかった。

 そう・・・この曲だ。

 落ち込んで 疲れ果てたとき

 困難が訪れて 心が辛く苦しいとき

 そんなとき私は立ち止まって 静かに待つの

 貴方がそばに来て 隣にそっと座ってくれることを

 貴方が私に力をくれたから 山の頂にだって立てた

 貴方が私に力をくれたから 荒れた波の上を歩けた

 貴方がそばにいてくれたから 私は強くなれた

 貴方が私に力をくれたから 私は自分自身を乗り越えていける

 そうか、乗り越える力をくれたんだね。

 私もドエイさんにとって・・・力だったんだね・・・。

 ドエイさん・・・帰れたんだ・・・。

 太陽のサンサン。

 木の臭いのする懐かしい場所に。

 トウモロコシ畑に吹く風に乗って。

 お家に帰れたんだね・・・。

 知らない間に手紙が涙で濡れていた・・・。

 

 そして、手紙のほかにドエイさんが送ってくれたUSBメモリ。

 そう。

 これにはあの忌まわしい動画が記録されてる。

 これを処分すれば私は完全に解放されるんだ。

 鋏を手に取りUSBメモリにその刃先を向ける。

 その時ふと、気になった。

 なぜドエイさんはこれを私に?

 監視カメラや機材は壊したと手紙に書いてあった。

 それなのになぜこのUSBメモリを・・・。

 そうか。

 私は、私自身に決着をつけなくちゃいけない。

 ドエイさんは勇気を出して戦った。自分自身の弱さと向き合った。

 そして自らの手で決着をつけた。

 ドエイさんは解放されたんだ。

 私のためだけじゃない。

 ドエイさんは自分の尊厳を守る為に戦って解放を勝ち取ったんだ。

 

 奴隷は戦って自らの手で解放を勝ち取らなければならない。

 奴隷に甘んじている人間は一生解放などされない。

 それは負けないための戦いではない、

 勝つための、自由を勝ち取るための戦いなんだ。

 

 私は、自分の罪に自ら答えを見出さなくてはならない。

 戦いに決着をつけなければならない。

 私は、罪を背負って生きていかなければならない。

 その罪と向き合うために、まずはこの忌まわしい一か月余りのすべてを振り返らなければならない。

 このUSBメモリの中には、あの忌まわしい日々の全てが収められているんだ。

 私は一つ深呼吸し、覚悟を決めてノートパソコンにUSBメモリを差した。

 動画はすぐに始まった。

 モニターに映し出される目を覆いたくなる光景。

 すぐに聞こえてくる私の溺れるような声、思わず音声をミュートにした。

 音声だけは聞きたくなかった。それだけは耐えられなかった。

 快楽に溺れる声だけは聴きたくなかった。

 無言の映像は続く。

 汚れてゆく私の姿。表情。

 死んだあの男の身体、笑顔。揺れるシルエット。

 

 私は目を背けない。

 そして・・・あの最後の夜が終わった。

 全てが終わった・・・。

 私の身に起きたこと、私の起こした行動。

 これで全ての決着が着いた。

 

 ドエイさんに解放してもらった私の心と身体。

 この一か月間に起きたことすべてを忘れることは出来ないけど、それでも私は生きて行く。

 これからの私は、まっすぐ家に帰るんだ。

 そう決断した矢先、映像が切り替わった。

 ここは・・・バックヤードの事務所。

 ドエイさんが一人で映っている・・・。

 時刻は0時過ぎ。これは・・・あの日、私が帰った後の映像だ。

 これが最後の記録。

 カメラに向かってドエイさんが何かを言っている。

 私は急いで音声を入れた。

ドエイ「ラッコさん・・・君は・・・これからも、ジブンの全部・・・背負って、生きる」

 ドエイさんの右手には包丁が握られている。

 この後、ドエイさんがあの男を殺す・・・。 

 

 私は最後のその瞬間まで見届ける覚悟を決めた。

 少しして裸のあの男が欠伸をしながら私室から出てきた。

 

店長「はぁ~あ・・・なんだドエイかぁ?

 ラッコちゃんは帰ったんですかぁ?」

ドエイ「この記録・・・ラッコのため・・・残す」

店長「ああん?どうでも良いですが、お前はこれから時給200円で良いですね?

 あんなに可愛い日本のJKと散々やらせてあげたんですから。むしろお金がもらえるだけ感謝しなさい」

ドエイ「イケダ・・・一度きり・・・チャンス・・・あげる」

店長「ああ?今お前、この私を呼び捨てにしましたかぁ?

 ま、良いでしょう。今はとにかく喉が渇いてます。何か飲み物を店から取ってきてください」

ドエイ「ラッコ・・・解放しろ」

店長「はぁぁああん?さっきからお前何を」

ドエイ「イエス・・・か・・・ノーか」

店長「だからよぉ・・・テメーはさっきから何を」

 ドエイさんが包丁を向けてあの男ににじり寄った。

 その異変に気付いて空気が変わる。

店長「お、おい・・・ちょっと待て・・・」

ドエイ「答える・・・イエス・・・ノー」

店長「ま、待てって!お、お前が望むなら毎日ラッコとやらせてやる!それでいいだろ?」

ドエイ「イエス・・・ノー」

 ドエイさんがゆっくりと前進すると、あの男がその歩調に合わせて後ずさりする。

 

店長「分かった!ラッコ解放!イエスイエス!時給も上げてやる!イエスイエスイエスッ!」

ドエイ「・・・嘘。オマエは、信用無い」

店長「ま、待ってくれよぉ!じゃあなんで質問なんて!」

ドエイ「チャンス・・・与えた。それだけ。その事実だけ・・・十分」

店長「ま、まさか本気で・・・ころ・・・殺す・・・殺す気じゃ・・・」

ドエイ「お前・・・居なくならないと・・・ラッコ・・・解放ない」

店長「う・・・うぅぅぅ」

ドエイ「そして・・・私も・・・」

店長「うわぁぁぁぁぁあああ!」

 アイツが叫びながら近くにあったものを構わずドエイさんに投げつけ始めた。

 ドエイさんの額にポットが当たる。ドエイさんは一瞬よろめきながらも再び前進する。

店長「ひ!ひぎぃぃぃいいいいいい!」

 アイツが私室に逃げ込む。

 ドエイさんは包丁の先端を前に向けたままゆっくりその後を追った。

 映像の中から二人の姿が消えた。

 声だけが聞こえてくる。

店長「ラ、ラッコ解放する!する!します!しますって!」

ドエイ「もうキサマの・・・言葉・・・必要ない」

店長「か、金やる!金庫!金入ってる!金!金庫!」

ドエイ「ダマレ・・・」

店長「ラ、ラッコの動画、返す!全部やる!全部ラッコに返す!

 このパソコンの中に全部入ってる!他の女の子のコレクションもある!全部!

 だから、ま、待ってくださいって!」

ドエイ「煩い!ダマレ!」

店長「こ、この引き出しの中!ここ、ここ見て、ここに偽造在留カードが・・・ここ!

 それ持ってればドエイ君は自由!日本で自由自在!ね、ここ、ここ開けるから!ここを・・・、

 クルァァァアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 激しい衝撃音が聞こえた

ドエイ「ぐああああ!」

店長「ざけんな・・・クソ奴隷・・・舐めるんじゃねぇ―――――!」

 肉の塊を激しく叩きつけるような音が何度も聞こえた。

 そのたびにドエイさんのうめき声が聞こえた。

ドエイ「ぐあ!うぐぁ!」

店長「そんな刃物じゃこの木刀に勝てねーんだよクルァァッ!

 テメーの殺意は監視カメラで一目瞭然だ!テメーは私を殺そうとしたんだ!

 これは正当防衛だぁぁぁああーーーッ!!」

ドエイ「あぐっ!がっ!ぐああああっ!」

店長「ラッコを解放しろだと?テメーだって散々犯した女だろうが!

 何を真人間気取ってやがんだクソ奴隷がっ!

 テメーもラッコも死ぬまで俺様の奴隷なんだよ!

 そのちっぽけな脳みそにこの痛みと共に記憶しておけぇぇーーッ!」

ドエイ「私も・・・ラッコも・・・キサマの奴隷・・・違う」

店長「な・・・」

 戦ってる・・・ドエイさんが戦ってる。

ドエイ「ラッコは・・・まっすぐ・・・帰る・・・これから・・・ずっと」

店長「そのうすぎたね―手を木刀から離しやがれっ!」

ドエイ「私も・・・帰る・・・ママのところ」

 自由を勝ち取るために、あの温厚で優しいドエイさんが戦ってる・・・。

店長「お、おい!」

ドエイ「二人は・・・帰る・・・自由!」

店長「や、やめろ・・・す、すみませんでした!かんべんして・・・」

 「があああああああああ!」

 あの男の断末魔の叫び。

 鈍い音が何度も聞こえる。その音に合わせてうめき声も聞こえた。

店長「がっ!・・・ぐぁっ!・・・ぐ・・・ぐ・・・あ・・・あ・・・あぁ・・・ぁ」

 うめき声が次第に小さくなって、やがて消えた。

 しばらくして、頭と両手を血で真っ赤に染めたドエイさんがアイツの私室からあの歌を口ずさみながら出てきた。

ドエイ「You raise me up・・・so I can・・・stand on mountains・・・You・・・raise me up... To more than I・・・can be・・・」

 右手には包丁ではなく木刀が握られている。

 ドエイさんはよろめきながらも監視カメラのある場所まで近づいてきて、カメラを見上げた。

ドエイ「終わったよ・・・あとは・・・」

 ドエイさんが木刀を大きく振りかぶる。

 そして次の瞬間、映像が乱れて真っ黒になった。

 動画はそれで終わった。

 深い呼吸をする。

 私はUSBメモリをパソコンから抜く。鋏を手に取り、その刃先を勢いよく振り下ろした。

 プラスチックがデスクの上でバラバラになった。中の電子回路が露わになる。私はさらに鋏を振り下ろす。

 電子回路が粉々になり原形が無くなった。

 

 私は目を閉じる。

 大きく深呼吸をする。

 全ての記憶はもう私だけしか知らない。

 何もかも終わったんだ。

 ドエイさんの言葉通り、終わったんだ。

 私は乱れた呼吸を整える。

 先に進まないといけない。

 私は二枚目のUSBメモリを手に取った。

 あの映像の中であの男が言っていた『他の女の子のコレクション』だろうか。

 私のほかに、アイツに弄ばれた女の子が?

 パソコンにUSBメモリを差す。

 念のために音声を消した。

 映像が映る。

 そこはバックヤードの事務所。

蘭子「・・・え・・・」

 あの男と私じゃない別の女の子の姿が映し出されている。

蘭子「うそ・・・でしょ・・・」

 それは、里美だった。

 里美があの男と二人きりでいる。

 まさか、里美もあの男に・・・私と同じように?

 映像は続く。

 里美とアイツが何やら親しげに話している。

 暫くすると、里美が椅子に座るアイツに抱き着くように跨り揺れ始めた。

 里美・・・どう言うことなの・・・?

 行為が終わり、あの男がバッグから何かを取り出し里美に手渡す。

 あれは・・・お金・・・。

 里美はアイツにキスをして、スキップするようにバックヤードを出て行った。

 里美・・・嘘・・・アンタのバイト・・・。

《里美「アタシ、これにしよっかな!

  どう?

  このビキニめっちゃ可愛くない?」

 蘭子「エロぉ・・・エロすぎないそれ。

  ってか、それって”naomi”だよね?

  な~んか、最近リッチだねぇ里美・・・」

 里美「エヘヘ♪

  バイトしてるからねぇ~」

 蘭子「そう言えばそうだっけ」》

 嘘・・・。

 里美・・・アンタとアイツの関係・・・。

 私の頭に矢が刺さるように衝撃が走った。

 あの日・・・。

《里美「まだぁ?」

蘭子「ちょっと待ってって!え~と・・・違うなぁ。

 これ!ん~・・・違うなぁ・・・」

里美「はぁ・・・コンビニスイーツ選ぶのに何分かかってんのよ!

 もう、アタシは先に家に帰ってるからね!」

蘭子「ちょと、待ってって・・・もう!せっかちなんだよ里美は!」》

 私は絶対に万引きなんかしなかった。それは私と神様だけは知ってる。

 違う・・・あの日、あと二人知っていたんだ。

 

 店長・・・あの男と・・・里美だ・・・。

 

 あの男と里美の関係はビデオで明らかだ。

 里美はアイツのことを知っていたし里美も知っていた。

 それなのに里美は無関心だった。アイツも。

 いや・・・二人がそういう関係だからこそ私には知らないそぶりを見せていた。

 何故?

 里美はともかく、あの男が知らないそぶりをする理由がない。

 仮に里美があの男と口裏を合わせてお互いの関係を私に話さないことにさせていたなら、里美は私と店長のこれからのことを、この時点で予想していたことになる。

 

 じゃあやっぱり・・・里美が私を陥れようとした?

 まさか・・・里美がそんなことするわけない!

 入学してからずっと一緒だった。康介と知り合う前から。

 楽しいことも辛いことも二人で乗り越えてきた親友。

 里美が、私を陥れるなんてするわけがない・・・。

 里美・・・何を話していたの?

 この動画であの男と里美は何を話していたの?

 私は動画を戻しパソコンの音量を最大まで上げた。

 聞こえる。

 確かに二人の声が。

《里美「おじさん、バイト探してたでしょ」

 店長「バイト?はいはい。探してましたよぉ。でもね、もう山のシーズンじゃあないんで」

 里美「え~、じゃあもう探してないの?紹介したい子がいたんだけどなぁ」

 店長「ほぉ。女の子ですか?里美ちゃんの同級生?」

 里美「うん。めっちゃ可愛い子」

 店長「ほほーう!」

 里美「スタイルも抜群だよ!ま、アタシには適わないけどね♪」

 店長「ほぉ!いや、そんな逸材でしたら是非是非ご紹介くださぁい」 

 里美「決まりだね!でね、その子紹介する代わりに・・・」

 

 店長「おや、何か条件が?」

 里美「夏休みの最初の二週間だけでいいからさ、毎日働かせて貰いたいの」

 店長「二週間の間拘束すればいいということですね?

    何なら二週間と言わず夏休みの間ずぅぅぅっと雇っちゃいますよ!」

 里美「お好きなように!

    ただ、変なことは期待しないでね。

    ああ見えてあの子けっこう硬いんだ」

 店長「モホホホホホホ!ま、それは成行と言うことで!

    その女の子がおじさんを好きになってしまうかもしれませんからね!」

 里美「ん~・・・あり得ないと思うけど。で、あの子をここで働かせる作戦考えたんだけど」

 店長「ふむふむ!聞きましょう!」

 里美「まず、アタシがこの店に連れてくるのね。で、あの子が持ってるリュックにお店の商品を・・・」》

 映像の中、無邪気に振舞う里美の口から何もかもが詳らかにされてゆく。

 初めてを奪われたあの日から一か月にも渡って私を奴隷にしたそのやり口が。

 私は口を押えたまま、その映像を愕然として見続けた。

  

《里美「じゃ、アタシはこれで」

 店長「あ、ダメダメェ・・・夏休みは彼氏と海に行くんでしょぉ?

    里美ちゃんが他の男にパコパコされる前に、もっとサービスしてくださいよぉ・・・。

    里美ちゃんのオッパイ吸えないとおじさん餓死しちゃいますからぁ」

 里美「しょうがにゃいにゃ~♪」

 店長「バイトさんを紹介してくれた分まで大盤振る舞いしますよぉ!」

 里美「ラッキ~♡」》

 里美があの男に跨り行為が始まった。

 画面が暗転する。

 私は映像を止めた。

 体が溶け落ちそうな絶望感だった。

 なんで・・・なんでそんなこと・・・。

 震える。

 体中が震える。

 怒り?

 恐怖?

 悲しみ?

 ありとあらゆる感情が交差して心を飲み込む。

 震えが止まらない・・・。

 思い出していた。

 海行きの計画をした最初の日のことを。

 6月の中頃、私と里美はいつもの帰り道。

里美「ねぇ・・・蘭って、好きな人とかいんの?」

蘭子「ゲ・・・何よ唐突に・・・」

里美「いるのかな?」

蘭子「ざ~んねん!そんな暇なーい」

里美「ププ・・・恋愛する暇がないって」

蘭子「色々やることあんだよ。家のこととか勉強とか」

里美「ふ~ん」

蘭子「なんなの?」

里美「・・・康介は?」

蘭子「ん、康介?」

里美「康介のこととか、どう思ってんのかなぁって・・・」

蘭子「どうって・・・良い奴だよね」

里美「うん。良い奴」

蘭子「で、それが?」

里美「康介は・・・蘭のこと」

蘭子「?」

里美「良い奴だと思ってるだろうね!」

蘭子「あ、そう」

里美「ニヒヒヒヒ」

蘭子「なんなのよ!なんかキモいよ今日のアンタ」

里美「ぶー!キモいとか言わないの!」

蘭子「変なの」

 そんな他愛もない会話を交わしながら帰りの駅へ向かっていた。

 あの日は梅雨の晴日で、不快指数の酷い午後だった。

 私の何の気なしに言った提案が、海の計画の始まりだった。

蘭子「こんなジメジメした暑い日は海行きたいなぁって思っちゃうね」

里美「海?」

蘭子「地元山ばっかだもん。やっぱ夏は海だよねぇ・・・行きたいなぁ・・・」

里美「そういえば、ウチの親戚が伊豆に住んでて、

 すっごいお勧めのビーチがあるって教えてくれたことある」

蘭子「まじ?」

里美「うんうん!シーズン中でも人が少ないんだって。

 それなのにすっごく綺麗なビーチなんだって」

蘭子「地元民の知る人ぞ知るって感じ?」

里美「それそれ!

 ね、夏休み行っちゃおっか?」

蘭子「海・・・行きたい!」

里美「康介も誘って!」

蘭子「良いね!もっと沢山誘ってワイワイ行きたいね!」

里美「決まり!

 さっそく親戚に連絡して詳しく聞いてみるよ!」

蘭子「うんうん。あ、誘う子たちどうしよっか?」

里美「アタシに任せて!考えがあるんだ!」

蘭子「里美頼もしー!じゃ、任せちゃうね!」

里美「わーい!海だ海だ!」

蘭子「海~!」

 こうやって海に行く計画が始まった。

 ただ、今思えばあの時の里美のあの一言が気になった。

里美「ねぇ・・・蘭」

蘭子「ん?なぁに?」

里美「いつか、好きな人と二人っきりで海に行けたらいいと思わない?」

蘭子「うん・・・そうだね」

里美「大好きな人と誰にも邪魔されない二人だけの海。夕闇のビーチ。

 素敵だなぁ・・・。

 いつかそんな日が来たらいいのにな」

蘭子「里美・・・」

 そう。里美は康介と二人きりになりたかった。

 私と言う不純物の無い場所で。

 里美が夢描く『愛する人と見つめる海』・・・その夢を叶えたかった。

 でもね里美・・・。

 アイツは・・・アンタとの行為もしっかり録画してた。音声付きでね。

 当然だよね。姑息なアイツが保険をかけないわけがない。

 里美はそんなことも知らず・・・。

 馬鹿な里美・・・。

 私は確信した。

 すべての線が繋がった。

 康介が私を好きだと思い込んだ里美の嫉妬心からくる企み。

 里美の願いは私の排除。脱落。

 里美は康介を独り占めしたかった。

 だから私を、邪魔な私をあの男が待つ流刑地に放り込んだ。

 その先で私がどうなるかも考えずに。

すべて里美が始めたんだ。

蘭子「もしもし、里美?」

里美「あ、ああっ!蘭!蘭!

 ずっと話したかったよー!」

 私は里美に電話をした。

 友達への未練?

 違う。

 直接話して真実が知りたかった?

 違う。

 里美の意図なんてどうでもいい。

 私はもう決断に迷う私じゃない。

 私を陥れ、自分だけ幸せになり、結果的にドエイさんを死に至らしめた里美を、私は許しはしない。

里美「大変だったね!蘭、大丈夫だったの?

 昨日も何度も電話したんだよ!」

蘭子「うん。私は大丈夫」

里美「良かったぁ・・・。

 あんなひどい事件、まさか近所で起きるなんてさ。

 それに、蘭が働いてるコンビニで・・・」

蘭子「そうだね。

 まさか・・・だよね」

里美「あの犯人の・・・なんだっけ・・・変な国の名前の人ぉ!

 蘭も知り合いだったの?」

蘭子「ドエイさん?」

里美「そうそう!

 ひっどいよね!あんな事件起きたら外国人に偏見持っちゃうよ」

蘭子「そう。でも、もっとひどい人間はこの国にもいるよ」

里美「え?ま、まあそうかもね・・・」

蘭子「意外と身近にいたりとかね」

里美「身近?え、あ・・・そ、そんな怖いこと言わないでよぉ!」

蘭子「・・・そういえば・・・康介とは上手くいってるの?」

里美「え?」

蘭子「付き合ってるんでしょ?」

里美「何で?何で知ってるの?」

蘭子「感」

里美「感って・・・。う、うん。

 報告が遅れたけど、実はそうなんだ」

蘭子「コンビニに来た時、気づいたよ」

里美「そっかあの時・・・。

 ああ・・・もうね・・・実はアタシ困ってるの!」

蘭子「困ってる?」

里美「最近、すっごい束縛してくんだよぉ!

 ちょっとでも肌出した服とか着てデートに行くと、ムッとして怒るの!」

蘭子「・・・可愛いじゃん」

里美「そうなんだけどねぇ~。

 でも、いちいち服の趣味まで言われるのは疲れちゃうよ」

蘭子「幸せそうだね」

里美「うん・・・幸せなんだ・・・」

蘭子「・・・したの?」

里美「え、なにって?」

蘭子「康介と、したの?」

里美「え?・・・あ、あははは・・・はは・・・」

蘭子「・・・・・・」

里美「・・・した」

蘭子「そう・・・海で?」

里美「・・・うん」

蘭子「おめでと」

里美「・・・・・・」

蘭子「里美、康介のことずっと好きだったもんね。知ってたよ私」

里美「う、うそ!知ってたの?

 いつから知ってたのよ!」

蘭子「康介と友達になってからすぐ。

 一年の夏かな・・・里美、分かりやすいもん。すぐ分かったよ」

里美「そ、そっか・・・エヘヘ」

蘭子「・・・・・・」

里美「蘭・・・アタシ・・・アタシね・・・。

 本当は、康介は蘭のことが好きだと思ってるの」

蘭子「・・・康介が私を?

 まさか」

里美「そうなの・・・。康介は、蘭にまだ未練があると・・・思う」

蘭子「仮にそうだったとしても、今は里美でしょ?」

里美「そうだと良いな。でも、多分」

蘭子「里美のこと愛してなきゃエッチなんてしないよ。

 そう思わない?」

里美「そう・・・思いたい。・・・けど、けどね?」

蘭子「愛してもいない人とエッチなんかしない。

 里美だってそうでしょ?

 私だってそう・・・。

 康介もきっとそうだよ。

 そうは思わない?」

里美「蘭・・・」

蘭子「愛の無いセックスなんて動物のすることでしょ?

 康介は獣じゃないし、里美・・・貴方は簡単にさせる女の子じゃないでしょ?」

里美「蘭・・・なんか・・・なんかちょっと怖いよ・・・」

蘭子「怖い?そう・・・。

 でも里美は康介を信じてるんでしょ?

 それでいいじゃない」

里美「うん・・・。

 康介も少しずつだけどアタシのこと・・・今はそう信じてる。

 アタシ、もっと幸せになりたいんだ。

 康介に、もっと愛されたい。

 アタシね・・・」

蘭子「大丈夫だよ。康介は里美のことが好きだよ」

里美「・・・そう・・・思う?」

蘭子「うん。私は”確信”してる」

里美「うは・・・なんか強い言葉だねそれ」

蘭子「里美、幸せになってね。今この時を」

里美「ありがとう・・・蘭!

 本当にありがとう!私、康介と幸せになる!」

 電話を切り、私は俯く。

 カーテンの隙間から差し込む西日がどんどん傾いて翳りが訪れる。

 太陽すらも届かない影が私を部屋ごと闇の中へ引きずり込む。

 ごめんね、ドエイさん。

 せっかく貴方がくれた人生のやり直しチケット。

 私はやっぱり罪人の道を歩くことになりそう。

 私は確信している。

 里美の転落を。

 地の底の底へ叩き落された私以上の苦痛を。

 堕落を、絶望を。

 私は確信している。

 私は、確信している。

 私は罪人に罰を与える。

 私はツミビト。

 

 ―ナツ ノ ヌスビトー

    終わり

 

《終わりだと・・・、

 これで終わり・・・、

 く・・・、く、く、く・・・、

くそったれがぁぁぁぁぁーーーーーっ‼‼》

 けたたましい雄たけび。

 私は我に返った。

「ふーざけるな―――――っ‼‼

 このクソガキが――――っ‼‼」

蘭子「な、なに?なんなの・・・?ドラゴンボール?」

「だまらっしゃいっ‼‼」

蘭子「へ?」

「こんな部屋があるからいけねェんだ‼‼」

「ルフィ?ちょ、ちょっと落ち着いて皆!」

「これからが本当の地獄だ・・・」

蘭子「えと、ベジータさん・・・ですよね?」

「だまらっしゃいっ‼」

蘭子「誰?貴方は誰なのよっ!?」

「"偉大なる航路(グランドライン)"へ向かおう」

蘭子「なんか、なんかおかしいよこれ!」

「だまらっしゃいっ‼」

蘭子「だからアンタは誰なのよぉっ!」

「クソったれがー!

 孔明の罠だ!

 今までの出来事はすべて孔明の罠なんだ!」

蘭子「罠って」

「これからが本当の冒険の始まりだ」

蘭子「言ってる意味が・・・、あの、だまらっしゃいおじさん?」

諸葛孔明「はい」

蘭子「あ、普通にしゃべれるのね・・・。

 で、どういうことなの?」

「我が君、説明しましょう。

 今までの物語はすべてわたくしめの策略にございました」

蘭子「へ?」

「すべてが嘘と欺瞞の世界。つまり、物語は終わっていないのです。これは夢落ちを凌駕する恐ろしい展開です。禁断の・・・そう、言うなればお正月の少年漫画展開とでも言いましょうか」

蘭子「ぜーんぜん意味わかんない」

「従って、本当の物語をこれから始めねばなりません。

 そのために、ベジータ殿の力を借りて地球の自転逆行を光を超える速度で行い、時を最初のあの万引き容疑をかけられる以前に戻す必要があります」

蘭子「時をもとに・・・つまり、私がアイツにレイプされる前に戻る。ドエイさんも死ななくて済むってことだね?」

「いかにも」

蘭子「まじ!?

 すごいすごい!」

「ただし、戻った世界は元の世界と全く同じということではなく、

 不可逆的な時の流動をベジータ殿の超自然パワーによって可逆化した際に起こり得る宇宙の法則の乱れとそれによる大いなる弊害として」

「ゴチャゴチャうるせェな‼」

「失敬。それでは我が君、時を元に戻し、本当の貴方の物語に移行いたしましょう」

蘭子「う、うん。そうだね。そうしよう!」

「はやくしろっ‼‼間に合わなくなってもしらんぞ―――――っ‼‼」

蘭子「うん!わかった!」

「それではいざ!」

「うおおお――――っ‼‼」

「屁のつっぱりはいらんですよ‼」

蘭子「誰っ!?」

「さあ、始まりますぞ!」

 ベジータが放つ強烈な閃光。

 衝撃。

 風がとぐろを巻く。

 意識が逆回転する。

 様々な出来事が巻き戻る。

「いけない!ベジータ殿!パワーが強すぎる!

 これでは何もかもがあべこべに!

 ヒロインが、主人公がっ!」

「うるさいっ‼黙れっ‼

 サイヤ人は戦闘民族だッ‼‼

 なめるなよ―――――――――っ‼‼」

「ぐあああ!」

「スゲェ―――ッ‼」

「ゲ――――ッ‼」

 強烈な重圧が体中にのし掛かる。

 体が引き裂かれてしまいそうな圧。

 死んでしまう。

 私は死の予感を感じた。

 それほどまでに凄まじいエネルギーが、あらゆる物体、時空を歪ませた。

 

 私は意識を失う。

 何もかも忘れて。

 地球が自転を逆行し宇宙の法則が乱れる。

 時が元に戻る。

 私は・・・。

 私は・・・。

 私は・・・。

イケダでぇす!

来月『おまけ』で『ナツ ノ ツミビト』を公開します。

蘭ちゃんの復讐劇になります。

池田主人公による蘭ちゃん淫乱バージョンも近いうちに公開します。

最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

また作品の制作にご協力いただいた『暇人様』『けだものだもの様』背景素材などお貸しくださった皆様、誠にありがとうございました。

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Comments

jamu

面白かったです! ドエイさん…(´;ω;`)

London犬

jamuさん コメントありがとうございます! 結構なボリュームで自分でも頑張ったと思うので、いいねやコメント貰えるとやってよかったと思えますね! ドエイさんは太陽になりました!

Anonymous

今回も凄いボリュームでお疲れ様でした&ごちそうさまでした… ドエイさん… 定点アングル構図は良いですねエッチで…

London犬

咳さん コメントありがとうございます! 今回はホント疲れました・・・。物語重視(可哀そう系)の展開になっちゃったのでエロさがかなりマイルドになったかもしれません。 定点アングルは短期間でやることじゃないということがよく分かりました(汗 もっと時間をかけて細かくしっかり作り込んでみたいです。

ライ

なんというかもう・・・ボリュームもそうですが、色々と凄かったです。 凄い展開で終わるかなーと思ってたら、最後の生○で「・・・え?」とフリーズしてしまいました。 (そしてその後の某跳躍漫画の面々の謎の励ましシーン+αで2度目のフリーズ。 (まさかの3人ゲストに笑ってしまいましたw こういうのも世界観が広がるようでいいですね。自分は大好物です。 今回もありがとうございました!

London犬

ライさん コメントありがとうございます! 万引きものは単純な展開で、エロネタとしてもひねる必要がなく楽に完結できるんですんが、せっかくオリジナルで、しかもFANBOXで自由にできるならと、脅す方ではなく脅される側の心理に立って書いてみました。そうしたら、偉いことに・・・。 結末としては、蘭ちゃんの身に降りかかった出来事を知る人間が全員この世から消えるという安直なものでしたが(汗 某漫画キャラは"肉の人"も忘れないであげてくださいw

ライ

>某漫画キャラは"肉の人"も忘れないであげてくださいw 大丈夫です忘れてませんwww それで言うと、『だまらっしゃいおじさん』は一人だけ別の漫画のキャラで・・・( <ジャーンジャーンッ  エ、ドラノオトガ・・・( ;゚Д゚)ゲェッ!? 上のゲストと一緒に、London犬さんが生み出した娘3人も忘れないで上げてくださいwww

London犬

おじ様と宇田さんを入れると5人になりますねw 今回は何気に豪華なお話でした。

Anonymous

INUさんどうもありがとうございました、お疲れ様です!店長が思った以上にゲス野郎でとてもよかったです羞恥責め最後ですわ!

London犬

暇人さん コメントありがとうございます! お陰様で内容の濃い万引き物が作れました。 暫くはこういった物語重視の展開はお休みしますが、またなにか閃いたらやっていきたいと思います。 来月には復讐劇の結末までをアップロードいたします! この度はリクエスト誠にありがとうございました!

ライ(edited)

Comment edits

2021-07-07T21:17:47.544441Thank you. She was created by her owner who has a good taste of beautiful girls. >.
2021-07-24T07:35:22私としたことが、おじ様と【RENTAL LOVER】の宇田さんを見逃していたとは・・・! ゲストキャラが出演していないか探すのも、2度楽しいですねw >『こんな距離で、こんなに人と近い距離で私は何をしてるの?』 向こう側(お客様側)の娘達も大概なのですが、言っても慰めにもならない・・・!

私としたことが、おじ様と【RENTAL LOVER】の宇田さんを見逃していたとは・・・! ゲストキャラが出演していないか探すのも、2度楽しいですねw >『こんな距離で、こんなに人と近い距離で私は何をしてるの?』 向こう側(お客様側)の娘達も大概なのですが、言っても慰めにもならない・・・!

London犬

菖蒲姉さんは別として、堕ちたゆかりちゃんとそれに抗う蘭ちゃんの壁一枚を挟んでの対比は描いてて面白かったです。ゆかりちゃんの登場はそういう意味で必要だったのかなと思ってます。 菖蒲姉さんと志保さんのカメオに関しては、救いのない物語になんとなく救いになるかなと思ってのことでしたw 来月更新予定の結末では、もうひとり大物さんが登場予定ですw しっかりお話に絡んできます。