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『ひゃくえむ。』-現実逃避をしよう-

『チ。-地球の運動について-』をアニメで観て魚豊さんの大ファンになり、今回の『ひゃくえむ。』も劇場で鑑賞して来ました。

「良かった…。」

今でも紙の漫画が好きなのですが、申し訳ない事に『チ。』も『ひゃくえむ。』も、まだ単行本で読めていません。
大人になると漫画を読む時間をなかなか作れなかったり、その時間が惜しいと思ってしまいます。
アニメだと、行儀が悪いのですが、食事を摂りながら鑑賞したりできるので、助かるんですよね。

原作がある作品の映画化は尺の関係で原作とは異なる部分が出てきます。
今回、映画しか観れていない者が、感想などを持ってはいけないのではないかなと思ってしまいます。

『チ。』もそうですし、『ひゃくえむ。』も必ず原作を読みます。

『チ。』を観て自分は読書を始めたのですが、『ひゃくえむ。』も魚豊節が効いていて『チ。』ほどではありませんでしたが、やはりすごく哲学的なセリフが多い作品でした。
物語自体はすごくシンプルです。
ただ、「100mを誰よりも速く走る。」というお話です。

でも、ここまでシンプルな物語だからこそ、魚豊さんの言葉選びなどが際立っていたと思います。
『チ。』は元々のストーリーが哲学的なので、別に哲学的な言い回しが多くても違和感はないんですよね。
そう考えると『ひゃくえむ。』は、若干違和感があるかもしれません。
ですが観ている内に、それがどんどんクセになっていくと思います。

「エンタメってこうだよな。」と思わされました。

登場する人物は皆個性的で、すごく魅力的なのですが、自分は海棠に惹かれてしまいました。
声優が津田健次郎さんで、見た目も渋くて、キャラとして立っているからという純粋な理由だけではありません。
海棠の持っている哲学にとても惹かれたのです。
たぶん、今の自分の置かれている現状と重なる部分が多かったからだと思います。

“現実”ごときが俺の意志には追いつけない。俺の勝利が非現実的なら、俺は全力で現実から逃避する。現実逃避は俺自身への期待だ。俺が俺を認めてない姿勢だ。たとえどんな正論、洞察、真理、啓蒙をふりかざそうと、俺は俺を認める。

“現実が何かわかってなきゃ、現実からは逃げられねぇ。現実に対して目を塞いで立ち止まることと、目を開いて逃げるのは大きな違いだ。”

“何の為に走るかわかってりゃ、現実なんていくらでも逃避できる。”

これです。

自分は独学でイラストレーターになったのですが、色々と大変で苦労をして来ています。
現実逃避もたくさんして来ました。
でも、それは本当に現実から逃げていたのです。
バイクに乗って、電波の届かない山で1人キャンプをしたり、イラストレーターから最も遠いであろうところに逃げていたのです。
まぁでも、これが現実逃避の一般的なイメージだと思います。

海棠のセリフを聞いた時、なんて素敵なマインドなんだと思いました。
逃げることを鼓舞してくれる言葉などが現代では多く見られるようになって来ましたが、海棠は、それとはまた違っていました。

良くない結果を現実とし、自分が求めている結果を非現実とする。
だから自分の求めている結果に向かって、よくない結果から逃げるというスタンスだと思います。
"現実逃避"という言葉をここまでカッコよく、ポジティブに表現できるんだと胸を打たれました。

実際に映像でも表現されていました。

日本選手権の準決勝で、万年2位と言われている海棠は、またしても財津に前を走られてしまいます。
そして今回は小宮も海棠の前を走っている。
「またかよ…。」と一度は現実を見るのですが「現実から逃げようか」と2人を追い抜き1位に踊り出たんです。

すごく漫画的な描写ですけど、やっぱり痺れました。

先に書いたように、100m走の話なので、ずっと哲学的な話だと、ちょっとつまらなく感じてしまうと思うのですが、しっかりと王道バトル漫画的な描写もあるんです。
そのバランスが絶妙でいいんです。
いや、魚豊さんのファンになっているから、何もかも良く見えているだけかもしれません。

現実問題人生なんて、そう簡単にはいきません。
基本的に皆凡人なんです。
海棠のように。
でも、こうした描写があることで、少しでも希望を持てたり、勇気をもらえる事ってあります。

『ひゃくえむ。』は全ての登場人物にそれがあります。
結果を重んじる者、過程を重んじる者、負けを認める者、嫉妬する者、などこれが哲学なんでしょうけどね。

イラストレーターである自分は、描いた絵がSNSで伸びない、公募で賞がとれない、仕事がもらえない、上手く描けない、お金がない、など様々な悩みと常日頃から闘っています。
これが全て解決したとしても、今度はそれによる悩みも出て来ます。
イラストレーターだけに限った話ではないと思いますが、それを続けている限り、これは果てしなく続きます。
だからと言って辞めれば解決するのかと言われれば、それも違います。
トガシが怪我により現役引退、会社との契約解除を迫られます。
そんな負けを認めたくなく、泣き崩れるトガシの姿。

一度でも自分の好きな世界で光を浴びてしまった人間は、そう簡単に辞めることは出来ません。
それがどんな理由であろうとも。

賢くありたいなと常々思いますが、馬鹿にしかなれないのです。
好きなことを追い求めるのは基本的に馬鹿です。
天才はまた話が違います。
でも、やはり誰しもが出来ないことを生業にするのは簡単ではありません。
賢く生きようと思うと選ぶべきではない道だと思います。
自分は周囲の反対を押し切るように会社を辞め独学でイラストレーターになりましたが、夢を追うこと自体は素敵なことだと思います。
でも、お勧めできる選択ではないかなと思います。
先に述べた理由があるから。
まぁ馬鹿は人の話を聞かずに勝手にやりますし、人に意見を聞いてどうこうしようと思ってる人なら、止めてあげてもいいのかなと思います。
自分もそうですが、勝手に会社を辞めて、勝手に夢を仕事にし、勝手に苦労して、みたいな人ではないとやるべきではないです。
そしてそれは誰のせいでもなく、自分のせいなのです。
良いこともあれば、悪いこともあります。
どっちも自分のせいです。

トガシの「100mを誰よりも速く走れば、全部解決する。」って言葉も馬鹿です。
いや、すごく素敵ですよ。
でも、そのままストレートに聞くと、やはり変です。
その言葉に唆された小宮も馬鹿です。

馬鹿馬鹿と申し訳ないです。

これは自分に対して言っているんだと思います。
海棠ではないですけど、最近はよく現実を見ようとすることが多くて、冷静になると馬鹿だなと思うことばかりなんですよね。
わかっていても辞められない。
下手をするともっと馬鹿になりたいとさえ思います。

でもこれも悪いことではないんだろうなと思います。
以前は現実なんか見ようともせず、本当に馬鹿正直にがむしゃらに走っていたのですが、今は嫌な現実だとしても、それをしっかり捉え、どういい方向に逃避できるかというのを考えるようになったので、それを綺麗に言葉にしてくれた海棠には頭が上がりません。

これを超えられると、また違う世界が見えそうだなという感じがしています。

あまり海棠以外の話をしていませんが、正直セリフの言い回しが難しくて、セリフを覚えていないんですよね。笑
何を言っていたかというニュアンスは覚えているんですけど、ここで出せるほど理解できていません。

何度も擦り倒す必要があるのが魚豊作品の醍醐味だなと思います。
見る状況によっていろんな解釈の仕方が出来るんだろうなと思います。

でも今回は映画だから良かった部分も多くあったと思います。
自分も同じ絵の世界で生きていますが、全く理解ができないような表現や制作をされていました。

ロトスコープや、背景のアナログとデジタルの混合など。
ロトスコープは観ればすぐわかります。
技法を知らなかっただけで、妙に構図や描写がリアルなんです。
CGとかではなく実写映像をもとにアニメーターが肉付けするように制作をする技法です。
あまりアニメでは見ないような構図が観れてすごく新鮮でした。
トレースやらなんちゃらで今イラストレーター界隈は大変な事になっていますが、こういう手法が簡単に使えればなと思いますよ…。

アニメとしては最新技術がしっかり使われていながらも、馴染みのある雰囲気もしっかり大事にされている作品です。
自分は今でもアナログのイラストを描いているので、あまり最新技術バチバチの作品が好きではなかったりするのですが、これならじゃんじゃんやって欲しいと思いました。

確かインターハイのシーンだったかな?
レースがスタートする前からノーカットで映像が流れている場面がありましたが、あれもすごくリアルで、アニメでは観ないような時間が流れていましたね。
陸上の臨場感が伝わって来ました。

100m走って映像作品で表現するのはなかなか難しいと思うので、走るところ以外での演出に目を向けているのがいいところだったと思います。

いろんな感想を見ると、陸上をやっていた人たちが多く、凄く心情の描きかたなどもリアルだと書かれていて、魚豊さんの得意が生きるテーマだったんだなと思いました。

スラムダンクの映画もこれぐらい手描き感のある描写にして欲しかったなぁ…笑

なんだろう。
もっと高尚な感想を書きたかったのですが、たいした感想を書けないですね。
まぁとにかく観ていない人は、『ひゃくえむ。』を観て欲しいです。

陸上や運動部を経験していた人でなくても面白く観れる作品だと思います。
人間ドラマです。

あとは自分のように、何か夢を追いかけていたり、夢でなくても、何かに全力を注いでいる人には確実に刺さる作品だと思います。

又吉さんが、何か方向転換をしようと思っている状況とかでは観ない方がいいかもしれないと言われていました。
確かにトガシのように、一度は陸上から離れていても、また再起する話だったりするので、何か違う選択をこれからしようとしている時には向いていないかもしれません。
何か一つのことを頑張ることは確かに綺麗ですけど、道を変えることも悪いことではないですからね。

自分は普通の人だったら道を変えようとするような状況にあったりするので、とてもいい刺激になりました。

『チ。』も観ていない人はぜひ観てください。
『ひゃくえむ。』もアニメでもう少し深く観たくなりましたから。
『FACT』は漫画を持っているので、読もう。

いやでも、自分は今はもっとイラストレーターとして頑張らなくては。

「絵を誰より上手く描けば、全部解決する。」

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『ひゃくえむ。』-現実逃避をしよう-|コサカダイキ|イラストレーター
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