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なぜ世界は西洋を見限ったのか?——エマニュエル・トッド『西洋の敗北』を読む

文明は、その精神的基盤が崩壊するとき、最も危険な暴力性を帯びる。

—エマニュエル・トッド

私が見ているのは、ロシアの脅威ではない。鏡に映った西洋自身の姿——そこには怪物がいる。

—エマニュエル・トッド

2026年1月3日午前4時30分、ドナルド・トランプは自身のSNSで「ベネズエラへの大規模な攻撃を成功裏に実施した」と宣言した。ニコラス・マドゥロ大統領は妻とともに拘束され、手錠をかけられ遮光ゴーグルを装着させられた写真が公開された。議会の承認なき主権国家への侵攻。他国元首の拉致。19世紀の帝国主義が、21世紀に裸のまま復活した。

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同じ頃、ウクライナではロシア軍が徐々に領土を拡大し続けている。開戦から3年近く、2025年だけで兵士20万~30万人という犠牲を払いながらも、ロシアは前線を押し上げた。北朝鮮は400万発以上の砲弾を供給し、西側は砲弾生産でロシアに劣るという現実が露呈した。トランプは「即時停戦」を掲げたが、戦争は終わらない。

あなたは気づいているか。これらは単なる外交の失敗ではない。文明の終焉の兆候だということに。

フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッドは、ソ連崩壊とアメリカ帝国の衰退を的中させた知の巨人だ。彼の新著『西洋の敗北』は、ウクライナ戦争を通して見えてきたものは、ロシアの脅威ではなく、西洋文明そのものの深い危機だと断言する。それは政治的退潮ではない。

プロテスタンティズムという精神的基盤の崩壊、民主主義の空洞化、ニヒリズムの蔓延という、文明の自己破壊プロセスそのものだ。

あなたは覚えているだろうか。パンデミック期、日本で何が起きたかを。「打てば感染しない・させない」と断言した政治家や医師たち。異論を「デマ」として排除したメディア。原因不明とされる超過死亡。説明されない健康被害。そして今も続く沈黙。

これらすべてが、トッドの描く「西洋の敗北」と深く共鳴している。本書は、私たち自身が今、直面している文明的危機の診断書なのである。

エマニュエル・トッドと『西洋の敗北』——的中させ続けた予言者

エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd、1951年生)は、予言者ではない。しかし、彼の分析は予言のように的中してきた。

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エマニュエル・トッド

1976年、25歳のトッドは処女作『最後の転落』で、ソ連の乳児死亡率上昇という「道徳統計」からソ連崩壊を予言した。当時、冷戦の最中で、西側の専門家たちはソ連の永続性を疑わなかった。しかしトッドは、乳児死亡率——社会の深部における健全性を測定する指標——の悪化が、体制の根本的崩壊を予告していると見抜いた。15年後、ソ連は崩壊した。

2002年、『帝国以後』でアメリカ帝国の衰退を予見した。9.11直後、アメリカの圧倒的な軍事力が世界を覆っていた時期に、トッドは「アメリカはもはや世界を支配する力を失っている」と断言した。イラク戦争の泥沼化、金融危機、そして今日の混乱が、彼の分析を裏付けている。

トッドの手法は独特だ。彼はGDPや軍事費よりも、家族構造(核家族か直系家族か共同体家族か)、宗教の社会的機能、そして「道徳統計」——自殺率、殺人率、アルコール中毒死率、乳児死亡率——を重視する。これらの数字は、表面的な繁栄の背後にある社会の真の状態を映し出す。

『西洋の敗北(The Defeat of the West)』は2023年、ロシアのウクライナ侵攻から1年余りという時点で緊急出版された。しかし本書は戦況報告ではない。トッドが問うのは、なぜこの戦争が起きたのか、そしてこの戦争が何を暴いたのかという、より根源的な問題だ。

本書の核心的主張は明快だ。ウクライナ戦争は、西洋文明の終焉を告げる象徴的出来事である。西洋社会は「プロテスタンティズム・ゼロ」という臨界点に達し、それが政治的・経済的・精神的な自己破壊を引き起こしている。

本書を今読むべき理由は明確だ。パンデミックを経て、多くの人が権威への信頼を失い、主流メディアの言説に疑問を抱くようになった。ワクチン政策をめぐる情報統制、専門家の一枚岩の主張、異論の排除——これらはすべて、トッドが描く「西洋の病理」と深く共鳴している。西洋が自由民主主義を標榜しながら、実際には寡頭制とニヒリズムに支配されているという彼の診断は、私たちが目の当たりにしてきた現実と重なる。

戦争が暴いた10の驚き——予測可能だった「驚き」

真実がタブーとなる社会では、嘘が常識となる。

—ジョージ・オーウェル『1984年』

2022年2月24日、プーチンがウクライナ侵攻を宣言したとき、その演説の核心はウクライナそのものではなく、NATOへの挑戦だった。「これは自衛のための行動だ」という明確な通告を、西洋メディアと政治家は「不可解な狂人」の暴走として片付けた。真剣な議論は放棄され、ロシア人は「服従した愚民」と決めつけられた。

この姿勢こそが、トッドが指摘する西洋の第一の病理だった。自己認識の崩壊である。

戦争は多くの「驚き」をもたらした。しかしそれらは、冷静に見れば予測可能なものばかりだった——見ようとしなかっただけだ。

第一の驚き:欧州における本格的な国家間戦争の勃発。「歴史の終わり」を信じていた西側エリートは、戦争が戻ってくるとは考えていなかった。

第二の驚き:主敵と想定されていた中国ではなく、米露の代理戦争という構図。

第三の驚き:失敗国家と見られていたウクライナの激しい抵抗。

第四の驚き:SWIFT排除などの経済制裁に耐えるロシア経済の強靭さ。西側はロシアを「ガソリンスタンドに核兵器を載せただけの国」と嘲笑してきた。しかし現実は違った。

ロシアの道徳統計を見てみよう。2000年から2017年にかけて:

  • アルコール中毒死率:10万人あたり約30人→8人(73%減)

  • 自殺率:約40人→13人(67%減)

  • 殺人率:約30人→6人(80%減)

  • 乳児死亡率:出生1000人あたり15.3人→5.6人(63%改善)

この乳児死亡率5.6人は、アメリカの5.8人を下回る。社会の深部における安定と平和の回復を示す数字だ。西側の分析家は、GDPや軍事費ばかりに注目し、この重要な指標を見落としていた。いや、見たくなかったのだ。

ロシアは2014年のクリミア併合後から制裁を見越して、独自の支払いシステム(SPFS、Mirカード)を構築し、農業では史上初の純輸出国となっていた。これらはすべて公開情報だったが、西側は無視した。

第五の驚き:エネルギー・貿易パートナーを自ら断ち、自滅的な制裁を課す欧州(特にドイツとフランス)の主体性の完全な喪失。

ドイツはロシアとの戦略的パートナーシップ(ノルドストリーム)を築きながら、そのパイプラインが2022年9月に破壊された。誰が破壊したのか。証拠は米国を指し示している。しかしドイツ政府は抗議しなかった。自国の産業基盤を犠牲にしてまで、なぜ米国の指令に従ったのか。

第六の驚き:先鋭的な対露強硬派として振る舞う英国の出現。ブレグジット後の英国は、国家としてのアイデンティティ危機の中で、好戦的姿勢に活路を見出した。

第七の驚き:平和主義から好戦主義へ転じた北欧諸国(スウェーデンとフィンランドのNATO加盟)。

第八の驚き:巨大なGDPを持ちながら兵器生産で小さなロシアに劣る米国産業の脆弱性。

世界最大の軍事費(2024年度約9,160億ドル、中国の約3倍)を誇るアメリカが、必要な量の砲弾さえ生産できない。アメリカの月間砲弾生産能力は約2.4万発(2022年時点)だったが、ロシアは約25万発、北朝鮮からの供給を含めると月間約40万発に達する。アメリカは増産を進めたが、2025年でも月間約10万発程度だ。

これは何を意味するのか。トッドは、公式のGDP統計と実態の乖離を指摘する。アメリカの工業生産は世界シェアの16.8%(1928年は44.8%)に過ぎず、工作機械生産では6.6%にまで落ち込んでいる。

第九の驚き:中国、インド、イスラム世界など広範な地域が西洋陣営に同調しないという、西洋のイデオロギー的孤立。

制裁に加わった国々の人口は世界の12%に過ぎなかった。国連総会でロシア非難決議が採択されたとき(2022年3月、賛成141、反対5、棄権35)、世界人口の約半分を占める国々が棄権または反対した(中国、インド、パキスタン、南アフリカ、イラン、イラクなど)。西側は依然として自らが「国際社会」を代表していると錯覚していたが、世界の大多数はそう考えていなかった。

第十の驚き:これらすべてが示す「西洋の敗北」そのものである。

なぜこれほど明白な現実が、西側の政策決定者には見えなかったのか。トッドは、シカゴ大学の国際政治学者ジョン・ミアシャイマー(John Mearsheimer)の分析を紹介する。ミアシャイマーは現実主義の立場から、ロシアの行動はNATO東方拡大への合理的な反応であり、西側の行動こそが「非合理的」だと指摘した。

だがミアシャイマーは、その「非合理性」を説明しない。なぜ西側は自らの利益に反する行動を取り続けるのか。

トッドの答えは明快だ。西洋は国家主権を前提とするロシア的・現実主義的思考と、国家の実体を失った西洋的・ポスト・ナショナル思考の根本的な齟齬の中で、後者の自己破壊的メカニズムに囚われているのだと。

戦争はイデオロギーの虚構を剥ぎ取り、現実をテストする。その現実とは、世界の危機の根源がロシアではなく、西洋そのものの終末的危機にあるという事実である。

プロテスタンティズム・ゼロという病理——失われた魂

教会が空になるとき、狂気が世界を満たす。

—G・K・チェスタトン

西洋の衰退の根本原因は、経済でも軍事でもない。魂の喪失にある。

トッドは「プロテスタンティズム・ゼロ」という概念を提示する。これは単に教会に行かなくなったという話ではない。プロテスタンティズムが西洋文明に果たしてきた機能——共同体の結束、道徳律の提供、集合的行動能力の基盤——が完全に終焉したという診断だ。

プロテスタンティズムは、教育の普及、経済発展、国民国家の形成をもたらした。マックス・ウェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で示したように、勤勉、節制、合理性という価値観は、近代資本主義の土台となった。しかし20世紀後半から、この宗教的基盤は段階的に消滅していった。

トッドは宗教の衰退を三段階に分ける:

第一段階:活動期——日曜礼拝の放棄。1960年代から1980年代にかけて、英米仏で日曜礼拝出席率は50%以上から20%以下へと急落した。

第二段階:ゾンビ期——洗礼、結婚、土葬という儀礼的機能のみが維持される。宗教は信仰ではなく、社会的習慣として残存する。

第三段階:ゼロ状態——洗礼の廃止、火葬の一般化、同性婚の合法化が示す、キリスト教の社会的機能の完全な終焉。

英国では洗礼率は1960年代の約65%から2020年代には約20%へ。火葬率は1960年の約35%から2020年には約80%へ。同性婚は2014年に合法化された。

「結婚のすべて」——この表現にトッドは注目する。同性婚を含む結婚制度の拡大は、一見すると平等の進展に見えるが、実際には結婚という制度そのものの意味の空洞化を示している。結婚が生殖と家族形成という生物学的・社会的機能から切り離されるとき、それはもはや共同体を紡ぐ絆ではなく、個人の選択の問題に矮小化される。

宗教が提供した共同体的な絆、道徳律、集合的行動能力が失われると、社会は原子化する。個人は「超自我(理想的な自己像)」を失い、共同体なくしては矮小化するしかない。

この宗教的ゼロ状態は、「核家族絶対地帯」——英米仏——で最も徹底して現れている。核家族とは、親子の世代が分離し、兄弟間に平等が前提とされる家族形態だ。この構造は個人主義と自由を促進したが、同時に共同体的紐帯を脆弱にした。プロテスタンティズムという「接着剤」が失われたとき、核家族社会は急速に崩壊に向かう。

あなたの周りを見てみよう。日本でも同様の現象が進行していないか。

葬儀の簡略化(「家族葬」「直葬」の増加)。結婚率の低下(2022年は人口1000人あたり4.1、1970年代は約10)。出生率の低下(2023年は1.20、1970年代は約2.0)。地域コミュニティの崩壊。近所づきあいの消失。

そして何よりも、パンデミック期に露呈した社会的連帯の脆弱性。人々は自己防衛に走り、他者への不信が蔓延し、「自粛警察」が横行した。共同体的な絆が失われた社会では、危機が訪れたとき、人々は互いに監視し合い、密告し合う。

対照的にロシアは、伝統的に父権的で共同体的(コミュナル)な家族構造を持つ。この文化的基盤は権威と平等の価値観を生み、ソ連共産主義の土壌ともなった。ポスト共産主義時代にも、この共同体的性格は持続し、個人主義の絶対化を防ぎ、国民としての結束を可能にしている。

ロシアの合計特殊出生率は低下しているが(1.5前後)、それでもなお社会的結束は維持されている。道徳統計の改善がそれを証明している。

西洋とロシアの相互不理解は、この深層構造の違いに根ざしている。ロシアは国家主権と共同体的価値を前提とする「現実主義」の世界に生きている。

対して西洋、特にその中核(英米仏)は、国家共同体としての実体を失い、ポスト・ナショナルでニヒリスティックな虚構の世界に漂っている。

ウクライナもまた、独特の位置にある。2014年のマイダン革命後、ロシア語圏・親露派が政治的主体として消滅した。西部の超民族主義と中部の無政府主義的エリートが連合した「新しいウクライナ国家」が誕生した。この国家は、対露憎悪と戦争そのものを自己定義の核とし、ニヒリズムへと向かっている。

戦費は国内税収ではなく西側からの援助に依存している(2024年の戦費約900億ドルのうち約70%が外部支援)。多元主義は失われた。ウクライナはもはや自由民主主義国家ではなく、西側との結びつきは、ポスト国家的でニヒリスティックな価値観の一致によるものなのである。

プロテスタンティズム・ゼロという診断は、なぜ西洋が自滅的な戦争に加担するのかを説明する。

精神的基盤を失った社会は、長期的ビジョンを失い、短期的な「活動主義」と暴力への志向に駆られる。ニヒリズムは虚無を埋めるために、常に新たな敵と新たな戦争を求める。

2026年1月のトランプによるマドゥロ拉致は、このニヒリズムの最新の発現だ。道徳的・倫理的制約を失った「ゼロ状態」の西洋が、剥き出しの暴力に訴えている。

自由民主主義の終焉——寡頭制という現実

もっとも効果的な嘘は、自由の名の下に語られる嘘である。

—ヘルベルト・マルクーゼ

西洋は自らを「自由民主主義」の擁護者と規定し、ロシアを「専制」と非難する。だがトッドは、この図式は二重に誤っていると指摘する。

第一に、広義の西洋自体がファシズム、ナチズム、軍国主義といった非自由主義的イデオロギーを生み出してきた。第二に、そしてより重要なのは、狭義の西洋(英米仏)においても、自由民主主義は死滅しつつあるという事実だ。

高等教育を受けた「エリート大衆」と、それに取り残された「大衆」の分断が進み、代表制民主主義は機能不全に陥っている。トッドは現代の西洋を「自由民主主義」ではなく、「自由主義的寡頭制」と呼ぶ。そこでは多数派の意思は無視され、マイノリティ(特に富裕層)の権利保護が最優先される。

対するロシアは、多数派の支持はあるがマイノリティの権利を制限する「権威主義的民主主義」と言える。プーチン体制への支持率は一貫して高い(70~80%、独立系世論調査でも60~70%)。これは単なる恐怖政治の産物ではなく、ソ連崩壊後の混乱から社会を安定させたという実績に基づいている。

ウクライナ戦争は、「自由主義的寡頭制」の西洋対「権威主義的民主主義」のロシアという構図なのである。

では、西洋の民主主義はいつ、どのようにして寡頭制へと転化したのか。

かつての「良いアメリカ」——アイゼンハワー時代(1950年代)——では、WASP(白人アングロサクソンプロテスタント)エリートが国を導き、高い教育水準、民主的価値、社会的倫理が保たれていた。しかし1965年頃から高等教育を受ける層が人口の25%に達すると、状況は一変した。

教育の大衆化は、逆説的に平等主義的エートスを衰退させた。大学卒業者が希少だった時代には、彼らは社会全体への責任を感じていた。しかし教育が「特権」から「資格」へと変わると、エリート層は自らの地位を能力の証明と見なし、不平等を正当化するメンタリティが広がった。

具体的な数字を見てみよう。1960年代、最富裕層(上位1%)の実効税率は約50%だったが、2010年代には約25%にまで低下した。一方、中間層の税負担は増加した。結果として、上位1%が国民所得の約20%(1980年は約10%)を占めるようになった。

名門大学ではかつてのメリトクラシー(実力主義)から寡頭制へと移行した。ハーバード大学では、富裕層の子弟の入学率は、同じ学力の低所得層の子弟の約7倍だ。年間数万ドルをかけてSAT準備産業を利用し、あるいは数百万ドルの寄付金で入学する。アジア系学生は最高得点を取っても入学が制限される一方、富裕層の白人学生は平均以下の成績でも入学できる。知的能力ではなく、金とコネが支配する社会となった。

日本でも似た構造が見られないか。

東京大学の学生の親の平均年収は約1,000万円(全国平均の約2倍)。医学部では私立大学を中心に、多額の寄付金が入学に影響を与えるケースが報告されている。塾産業は年間約1兆円規模に達し、教育格差を固定化している。

そして何よりも、パンデミック期に露呈したエリートの腐敗。専門家会議のメンバーの多くが製薬企業から資金提供を受けていた。厚労省の審議会委員も同様だ。しかしメディアはこの利益相反をほとんど報じなかった。

欧州も同様の道を辿った。最も決定的な要因は、欧州の寡頭制エリートが、金融グローバリゼーションを通じて米国に「捕捉」されたことである。

ユーロへの信頼低下により、欧州の富裕層の資産はスイスから、米国の影響下にあるオフショア金融センター(ケイマン諸島、英領バージン諸島など)へと逃避した。インターネットと米国家安全保障局(NSA)による世界的監視網は、これらの資産の動きとエリート個人の「秘密」(性的スキャンダル、脱税、不正取引など)を米国が掌握することを可能にした。

エドワード・スノーデンが2013年に暴露したように、NSAは世界中の通信を傍受している。PRISM(プリズム)と呼ばれるプログラムでは、Google、Facebook、Apple、Microsoftなど主要IT企業のサーバーに直接アクセスし、メール、チャット、動画、写真、ファイル転送などを収集している。欧州のエリートの通信も例外ではない。

欧州のエリートは、自らの富と安全が米国の手に握られていることを意識せざるを得ず、これが絶対的な服従を生んでいる。米国の世界における相対的地位は低下しているが、その支配はかつての保護領(欧州、日本)に対しては逆に強化されている。欧州は、米国がその衰退をカバーするために不可欠な工業生産能力を提供する「最後の基地」となったのである。

民主主義が寡頭制へと転化するとき、市民の声は届かなくなる。政策は金融資本、グローバル企業、製薬産業の利益に従属し、メディアは検閲装置となり、異論を徹底的に排除する。

あなたは覚えているだろうか。パンデミック期、日本でYouTubeが医師や研究者の動画を次々と削除したことを。Twitterが「誤情報」として警告ラベルを貼ったことを。Facebookが投稿を制限したことを。

これらは民間企業の「自主的」判断として行われたが、背後には政府の圧力があった。2023年、米連邦地裁は「政府がソーシャルメディア企業に圧力をかけて言論を検閲させたことは憲法違反である可能性が高い」と判断した(Missouri v. Biden事件)。

自由主義は装置となり、自由を抑圧する側に回った。これが「自由主義的寡頭制」の現実である。

アメリカのニヒリズムと経済的空洞化——絶望死の統計学

繁栄の表層の下で、国家は静かに腐敗し、道徳統計がその真実を語る。

—エマニュエル・トッド

アメリカはかつて民主主義と繁栄のモデルであった。しかし現在では内側から崩壊し、外交政策においても破壊的傾向を示している。この転換の根底にあるのは、プロテスタンティズムの最終的な終焉、「プロテスタンティズム・ゼロ」への移行である。

その最も劇的な現れが死亡率の上昇である。アン・ケース(Anne Case)とアンガス・ディートン(Angus Deaton)の研究が示すように、特に教育水準の低い中年白人の間で、アルコール、自殺、オピオイド中毒による「絶望死」が急増し、平均寿命が低下している。これは他の先進国では見られない現象である。

具体的な数字を見てみよう。1999年から2017年にかけて、45~54歳の白人(高卒以下)の死亡率は10万人あたり約400人から約600人へと50%増加した。アルコール性肝疾患による死亡は2倍、自殺は約50%増加、薬物過剰摂取(主にオピオイド)による死亡は4倍以上になった。結果として、アメリカの平均寿命は2014年の78.9歳から2017年には78.6歳へと低下した(その後パンデミックで更に低下)。

皮肉なことに、この死亡率の上昇は、世界最高水準(GDP比18.8%、約4.3兆ドル)の医療費支出と同時に起こっている。しかも、その医療費の一部は、製薬会社と医師によるオピオイド蔓延(公衆衛生を破壊する行為)に費やされていた。パデュー・ファーマ社のオキシコンチンは「依存性が低い」と虚偽の宣伝がなされ、医師は処方すれば報酬を得た。議会が製薬業界のロビー活動により、麻薬取締局(DEA)のオピオイド規制を妨げる法律を2016年に通したことは、政治システムの腐敗と「道徳ゼロ」状態を象徴する。

道徳統計は社会の深部における健全性を測定する。自殺率、殺人率、乳児死亡率、平均寿命——これらの指標が悪化するとき、社会は崩壊に向かっている。アメリカの乳児死亡率は出生1000人あたり約5.6人で、先進国の中で最悪レベルにある(日本は1.8人、フィンランドは1.7人)。監禁率は人口10万人あたり約630人で世界最高、銃乱射事件は頻発し、成人の肥満率は約42%(1980年は約15%)に達している。これらは「転落」の様相を呈している。

教育の質も低下している。SAT(大学進学適性試験)のスコアは1965年頃をピークに下降傾向にあり(数学は約516点から500点前後へ、言語は約540点から約500点へ)、IQ(フリン効果を調整した実質的な知能指数)も2006年以降低下している(年間約0.2~0.3ポイント)。これらはプロテスタンティズムの教育重視の倫理が失われた結果である。

宗教面では、伝統的なプロテスタント倫理は消滅し、「福音主義」の流行も一時的なものであった。合計特殊出生率は1960年の3.6から2020年には1.6へと低下し、同性愛や同性婚への受容度の高まりは、ヨーロッパと同様に「宗教ゼロ」状態に達したことを示す。さらには、生物学的現実を否定するトランスジェンダーイデオロギーが主流メディアで広まることは、ニヒリズムの一形態(虚偽の肯定)であるとトッドは指摘する。

経済面でも、公式統計と実態の乖離が著しい。ウクライナ戦争は、世界の超大国と思われていたアメリカが、必要な量の砲弾さえ生産できないという現実を露呈させた。トッドは、アメリカ経済の「実態」を暴くため、公式のGDP統計を批判的に検証する。

アメリカの強みは、シリコンバレーに代表されるハイテク産業と、フラッキング技術による石油・ガス生産の回復にある。しかし、その他の分野、特に伝統的製造業では深刻な衰退が見られる。世界の工業生産に占めるアメリカのシェアは1928年の44.8%から2019年には16.8%に激減し、工作機械生産では中国(31.5%)、ドイツ語圏(18.2%)、日本(15.8%)に次ぐ6.6%に過ぎない。

トッドは大胆な試算により、GDPの大半を占めるサービス業(特に成果に見合わない高額医療費、金融サービスの過大評価)の価値を疑い、アメリカの「真の国内総生産(PIR)」を推計する。彼は、医療費の約半分(約2兆ドル)、金融サービスの付加価値の一部(約1兆ドル)を過大評価と見なし、これらを差し引く。その結果、アメリカの1人当たりPIRは約39,520ドルとなり、これはドイツ(約48,000ドル)やフランス(約43,000ドル)、日本(約40,000ドル前後)の公式1人当たりGDPと同等かそれ以下となる。この数値は、乳児死亡率など生活水準の実態指標と符合する。

さらにアメリカ経済の根本的脆弱性は、慢性的な巨額の貿易赤字にある。2023年の貿易赤字は約7,730億ドル(対中国だけで約2,790億ドル)に達した。アメリカはドルが基軸通貨であるがゆえに、自国通貨を印刷することで世界の富を享受する「超・オランダ病」に罹っている。

オランダ病とは、天然資源(石油など)の輸出により自国通貨が高騰し、製造業が競争力を失う現象を指す。アメリカの場合、その「天然資源」はドルという通貨そのものだ。これが、モノづくりよりも金融や法律など「お金に近い」職業を選好するインセンティブを生み、工学や科学を志す学生を減少させた。STEM(科学、技術、工学、数学)分野の学位取得者に占める米国生まれの割合は約50%に過ぎず、残りの多くをインドや中国などからの移民に依存している。

この衰退は不可逆的である、とトッドは見る。なぜなら、その根底にある「プロテスタンティズム・ゼロ」状態からの回復は困難であり、またドルという「天然資源」に依存する経済構造(真のものづくりよりも通貨創造が有利)自体が、製造業復興の根本的な障害となっているからである。

ウクライナで砲弾不足に陥ったのは、単なる生産能力の問題ではなく、国家としての人的・技術的基盤が侵食された結果なのである。

ニヒリズムは単なる精神的な問題ではない。それは経済的・社会的・政治的な崩壊として具体化する。道徳統計の悪化、教育の質の低下、製造業の空洞化——これらすべてが、アメリカという帝国の内実を物語っている。そして2026年1月のマドゥロ拉致は、この帝国が道徳的・法的制約を完全に失ったことを示している。

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なぜ世界は西洋を見限ったのか——再植民地化への拒絶

帝国が自らの正義を疑わないとき、その傲慢さは世界中に敵を作る。

—ポストコロニアル理論家エドワード・サイード

ウクライナ戦争開始後、西側(米・英・欧・日・韓など)がロシアを非難・制裁したのに対し、世界の大多数の国々(BRICS諸国:ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカを中心に)は制裁に加わらなかった。制裁に加わった国々の人口は世界の12%に過ぎない。

西側は、自らが依然として世界の中心であり、「国際社会」を代表していると錯覚している。しかし実際には、この錯覚こそが西側の自己中心性(ナルシシズム)の表れなのだ。中国が西側に同調するという幻想は、西側の地政学的無知と人種的優越感の産物にすぎなかった。

「世界の他の国々」が西側に同調しない理由は二つある。

第一に、経済的対立である。
グローバリゼーションは、西側が安価な労働力を利用して「世界のブルジョア階級」として振る舞い、非西側世界を「地球規模のプロレタリアート」に変える、新たな形態の再植民地化であった。西側の消費者は、自国でなくアジアやアフリカで生産された安価な商品を享受してきた。これは、かつての帝国主義的な搾取関係の現代版である。

具体的な数字を見てみよう。1990年から2020年にかけて、世界の製造業雇用のうち先進国の割合は約60%から約30%へと半減した。一方、中国だけで製造業雇用は約1億人から約1億5,000万人へと増加した。バングラデシュの縫製産業労働者は約400万人(世界の衣料品輸出の約6%を担う)に達し、その多くが月収100~150ドル程度で働いている。

したがって、非西側世界にとって、西側の価値観を掲げるロシアとの戦争は、自らを搾取する側の問題と映る。西側が「民主主義」を標榜しても、その背後にあるのは経済的な支配構造だ。グローバルサウスの多くの国々は、この構造を肌で感じている。彼らにとって、西側の「正義」は空虚な言葉に過ぎない。

制裁という「経済戦争」は、中立を許さず世界中を戦争に巻き込んだ。西側が世界に制裁への協力を強要した結果、事前からの経済的対立が顕在化し、多くの国が暗黙裡にロシアを支持する選択をした。さらに、西側がロシアの富豪の資産を凍結・没収したこと(約3,000億ドル規模)は、世界中の富裕層に「自分たちが次なる標的になるかもしれない」という恐怖を与え、西側からの脱却を促す効果さえ生んだ。

第二に、人類学的対立である。
トッドは世界の家族体系を、個人主義的で双系的な「西側」と、家父長的で父系的な「非西側」に大別する。西側で進行する急進的なフェミニズムやLGBT、特に「生物学的性別は変えられる」とするトランスジェンダーイデオロギーは、父系的で家共同体の伝統を持つ多くの非西側社会から見れば、「西側の発狂」と映る。

ロシアが打ち出す伝統的家族価値や反LGBTの姿勢は、これら非西側世界に対する新たなソフトパワーとして機能している。中国、インド、イスラム世界、アフリカ——これらの地域では、家族と共同体が依然として社会の基盤である。西側が「普遍的価値」として押し付けようとする個人主義的価値観は、彼らの文化的基盤を脅かすものとして受け取られる。

世界価値観調査によれば、同性婚への支持率は西欧諸国で60~80%に達するが、中東・北アフリカでは5~15%、サハラ以南アフリカでは10~20%、南アジアでは10~25%に過ぎない。トランスジェンダーの権利についても同様の傾向が見られる。

この文化的対立は、経済的対立と重なり合う。西側は経済的にも文化的にも、非西側世界を「遅れた存在」と見なし、自らの価値観を押し付けようとしてきた。しかし、非西側世界は西側の「進歩」を必ずしも望ましいものとは見ていない。むしろ、家族の崩壊、共同体の解体、ニヒリズムの蔓延という西側の病理を目の当たりにして、距離を置こうとしている。

実際のところ、どうなのか。ロシアの道徳統計の改善(自殺率、殺人率、乳児死亡率の低下)と、アメリカの道徳統計の悪化(絶望死の増加、平均寿命の低下)は、対照的な軌跡を描いている。非西側世界は、この対比を見逃していない。

ウクライナ戦争は、この文明的対立を顕在化させた。ロシアは意図的に、伝統的価値の擁護者として自らを位置づけている。これは戦略的な選択だが、同時に非西側世界の多くにとって説得力を持つメッセージでもある。プーチンは2022年9月の演説で、西側は「悪魔主義」に陥っていると述べた。これは修辞学的誇張ではあるが、非西側世界の多くが共感する感覚を表現している。

西側のナルシシズムは、自らがもはや世界の主人ではないという現実を見えなくさせている。その結果、西側は国際的孤立を深め、ロシアを利する結果を生んでいる。ウクライナ戦争は、衰退する西側と台頭する非西側世界との間の、より大きな文明的対立の前哨戦なのである。

そして2026年1月のトランプによるマドゥロ拉致は、この構図をさらに鮮明にした。ラテンアメリカ諸国(メキシコ、コロンビア、ブラジルなど)は一斉に米国を非難し、中国とロシアはマドゥロの解放を要求した。国連安全保障理事会の緊急会合が開かれ、米国は孤立した。これは、西側が国際法と主権を無視する帝国主義国家として、世界から見限られつつあることを示している。

ワシントンの村——意思決定の崩壊と「ブロブ」の論理

権力が村の論理に支配されるとき、帝国は世界を見失い、内輪の出世競争に没頭する。

—外交政策批評家スティーブン・ウォルト

アメリカの外交政策を実際に動かしているのは、ワシントンに巣くう「ブロブ」と呼ばれる閉鎖的な専門家集団である。スティーブン・ウォルト(Stephen Walt)の分析を引用しつつ、トッドはこの集団を、国家的なビジョンや道義よりも、自分たちのコミュニティ内部の力学とキャリア形成に動かされている「村社会」と描写する。

かつてのWASPエリートに代わり、現代のアメリカ支配層は人種的・宗教的に多様化した。バイデン政権の要職には、カトリック系、ユダヤ系、黒人が名を連ね、名門大学でもアジア系学生の割合が急増している。これは一方では差別の終わりを意味するが、他方ではかつて国家を導いた共通の文化的・倫理的基盤が失われたことも示す。

彼らは「ワシントン」というローカルなネットワークの中で、互いに影響を与え合い、外部的な価値観よりも内部の出世競争や集団思考に従って行動する。外交政策専門家の「ブロブ」は、自らの存在意義を「アメリカの世界的関与」に依存しており、その関与が大きければ大きいほど、自分たちの仕事と影響力は増す。この構造が、脅威を誇張し、軍事的解決策を好む傾向を生み出す。

ウクライナ戦争は、彼らの「活動主義」の格好の舞台となった。NATO東方拡大を推進し、ウクライナへの武器供与を続けることで、ブロブは自らの重要性を示し続けることができる。しかし、この活動主義は長期的な戦略や国益の計算に基づいているわけではない。むしろ、内部の力学——誰が影響力を持つか、誰が次のポストを得るか——によって駆動されている。

トッドは、ウクライナ政策に関わる主要人物に注目する。アントニー・ブリンケン(Antony Blinken)国務長官、ヴィクトリア・ヌーランド(Victoria Nuland)国務次官補、そしてその思想的背景となるネオコン勢力(ロバート・ケーガン(Robert Kagan)一族)。彼らの多くが、ロシア帝国(現在のウクライナを含む)からのユダヤ系移民の子孫であることに、トッドは言及する。

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アントニー・ブリンケン

これは単なる偶然以上のものかもしれない、と彼は示唆する。可能性として、彼らがウクライナの歴史的反ユダヤ主義を知りつつも無視しているか、あるいは(より陰惨な解釈として)ウクライナ国民を破滅に導く戦争を、祖先が受けた迫害への「正当な報復」と無意識に考えているのではないか、という疑問を投げかける。

いずれにせよ、トッドが描くのは、広大な世界を動かすはずの超大国の意思決定が、倫理観や長期的戦略を失い、狭い村の論理と個人的なネットワークによって行われているという皮肉な図である。

冷戦終結後の30年間を、トッドは軍事費対GDP比の変遷に沿って4段階に分ける。

1. 平和の段階(1990-1999):ソ連崩壊後、米軍縮が進む。ロシアの劇的衰退を見て、米国は世界支配を夢想し始める。

2. 傲慢(ハブリス)の段階(1999-2008):NATO東方拡大が始まり、米軍費は増加。イラク戦争など無謀な軍事介入を行うが、その間にロシア(プーチン登場)とドイツ(経済的復興)は着実に力を蓄える。2008年のNATO首脳会議でウクライナとジョージアに加盟の道を開いたことが、後の「罠」の始まりとなる。

3. 後退の段階(2008-2017):金融危機とオバマ政権で軍縮と穏健な外交が試みられる。しかし、欧州ではドイツの「平和的な傲慢」が広がり、EU主導でウクライナに接近を迫ったことが2014年のユーロマイダン革命を招く。

4. 現実からの離脱と陥穽の段階(2016-2022):トランプ政権の不可解な外交と、バイデン政権の「ブロブ」主導の外交が続く。米国社会の「ゼロ状態」と、ソ連崩壊の残滓であるウクライナのナショナリズム(それ自体ニヒリスティック)が共鳴する。2021年末から、米国はNATOの東方拡大方針を変えないと宣言し、ウクライナへの武器供与を続けた。これはプーチンにとって、戦略的ウィンドウ(2022-2027年)の中で行動を起こすための「口実」を与える結果となった。

ウクライナ軍の初期の善戦が「勝利の幻想」を生み、ニヒリスティックな「戦争への欲求」に駆られた米国は、撤退すれば世界的敗北を意味する罠に自ら深くはまり込んでいった。

米国の意思決定はもはや合理的な損得計算ではなく、「ワシントンの村」の論理とニヒリスティックな暴力への欲求によって動いている。その帰結は予測不能だが、ロシアに対する敗北は、ドルの基軸通貨地位の喪失、つまり米国支配体制の終焉を意味するだろう。

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https://truthout.org/articles/is-the-us-dollar-on-the-verge-of-being-dethroned-as-the-worlds-currency/

崩壊の中の希望——多極化する世界

廃墟の中から、新しい芽が生まれる。それが歴史の法則だ。

—歴史家ウィリアム・マクニール

トッドが描く西洋の敗北は、絶望的な未来図に見えるかもしれない。しかし、その診断の中には、別の可能性も示唆されている。

西洋の衰退は、中央集権的な世界秩序の終焉を意味する。アメリカ帝国後の世界は、多極化し、分散化する。これは混乱を招く一方で、新たな自律と創造の余地も開く。

2026年1月のマドゥロ拉致後、ラテンアメリカ諸国、中国、ロシア、イランは米国を一斉に非難した。国連安保理の緊急会合で、米国は孤立した。これは、米国の一極支配が終焉しつつあることを示している。

グローバルサウスの台頭は、西側の価値観に代わる多様な文明モデルの可能性を示している。中国、インド、イスラム世界、アフリカ——これらの地域は、西側とは異なる家族構造、宗教的基盤、共同体のあり方を持っている。西側の「普遍的価値」が崩壊するとき、これらの多様性が世界の新しい秩序を形作る。

BRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は2024年にエジプト、エチオピア、イラン、UAEを加え、BRICS+として拡大した。これらの国々の合計GDP(購買力平価ベース)は世界の約36%(G7は約30%)を占め、人口は世界の約45%に達する。彼らは脱ドル化を進め、二国間貿易では自国通貨決済を拡大している。

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日本にとっても、本来、この転換は機会である。西側への盲従から解放され、独自の道を模索する自由が生まれる。

しかし、日本政府は依然として米国に従属している。マドゥロ拉致について、日本政府は「米国の行動を理解する」と曖昧な声明を発表した。ラテンアメリカ諸国のような明確な批判はなかった。

この従属性は、トッドが指摘する「欧州の病理」と同じだ。日本のエリートもまた、米国に「捕捉」されている。資産、情報、安全保障——これらすべてが米国の手に握られているため、独立した外交政策を取ることができない。

しかし、トッドの家族構造論によると、日本は「直系家族」に属し、個人主義と共同体主義の両面を持つ特異な文明である。西側の核家族型自由主義とは異なる強み——勤勉、責任感、技術精度、長期的見通し——がまだ生きている。

つまり、日本には「西洋的劣化」に巻き込まれず独自進化できる可能性が残されている。

条件はただ一つ、「西洋の言説を模倣せず、自国の思考方法を自覚すること」である。

しかし、ここで安易な希望を語ることは欺瞞だろう。

日本の「伝統的価値」はすでに深く損なわれている。地域共同体は崩壊し、終身雇用は終わり、若者は安定した展望を失った。「伝統への回帰」を説くことは簡単だが、何に回帰するのか。明治以降の「家制度」も「日本的経営」も、近代の産物に過ぎず、グローバル競争下では維持できなかった。

さらに深刻なのは、エリート層が米国従属を内面化していることだ。LGBT法制定、防衛費増額、原発再稼働——これらは日本の独自判断ではなく、米国の要求への応答だ。それでも、完全な絶望ではない。日本の道徳統計はまだ西洋ほど悪化していない。

トッドが示す課題は「自律」だ。彼は核武装を提案するが、順序を間違えてはならない。精神的自律性を失ったまま核のような力を手に入れることは、本末転倒である。判断力を持たない国家が核を持てば、それは米国の指示で使われる道具になるだけだ。それどころか、自滅に導く代物になるかもしれない。かつての日本が欧米を模倣して同盟と植民地獲得に走り、破滅したように。

必要なのは、まず精神的基盤の再建だ。精神的基盤を失った文明は、必然的に自己破壊へと向かう。

日本が同じ道を辿らないためには、輸入思想に依存するのではなく、自生的知性を再建しなければならない。

パンデミックを経て、多くの人が権威への信頼を失い、独立した思考の重要性を痛感した。この経験は無駄にしてはならない。西洋の衰退を他人事として眺めるのではなく、自らの足元を見つめ直す契機とすべきだ。

西洋が自己破壊していく様を目撃することは、悲劇である。しかしそれは同時に、私たちにとっての警告でもある。

文明の崩壊は突然起こるのではなく、精神的基盤の侵食、道徳統計の悪化、エリートの腐敗、メディアの一元化という段階を経て進行する。

日本はまだ、西洋ほど深刻な状態には至っていない。しかし、その道を辿りつつある兆候は随所に見られる。地域コミュニティの崩壊、出生率の低下、エリートの腐敗、メディアの検閲——これらはすべて、西洋で先行して起きた現象だ。

トッドが示す教訓は、時間がまだあるうちに、自らの文明的基盤を見つめ直し、強化することの重要性である。西洋の模倣ではなく、日本自身の伝統と価値観に立ち返ることが、真の自律への道となる。

最後に、トッドが日本の読者に向けて述べた言葉を引用したい:

「西洋がこの戦争で敗北しつつあるのは、ロシアの勝利というより、西洋が内部崩壊しつつあるからだ、ということを理解してほしい。そして、日本は敗北する『西洋』の一部となるのか——この問いに真剣に向き合ってほしい」

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なぜ世界は西洋を見限ったのか?——エマニュエル・トッド『西洋の敗北』を読む|Alzhacker
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