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J/53  作者: 池金啓太
二十三話「世界に蔓延る仮面の系譜」

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契約者の手札

「へぇ・・・じゃあ会社を一つ作ったんすか?すごいっすね」


「すごいと言っても父の会社の下部組織としての扱いだけどね、まだまだ人手不足さ、でもこれからもっと大きくしていくつもりだよ」


雑談を踏まえながらエドはいろんな話をしてくれた、それこそ今まで行ったことのある外国の事や自分の仕事のことまで様々だ


そして話し上手なだけではなく聞くのも上手い、要所要所で話を掘り下げられるような質問をするため会話が途切れることがなかった


食事中に会話というのは本来マナーに反するかもしれないが、こういう場なら多少はマナーは無視してもいいだろう


「この二人はその始まりの第一歩さ、立派なレディに育て上げて見せる、苦労はするだろうけど優秀な子たちだ、きっとすぐさ」


エドに褒められたことでアイナとレイシャは誇らしそうに胸を張る、彼女たちとしても自分が早く頼られたいと思っているのだろう、恐らく日々の努力を怠らずエドのために成長しているであろうことがうかがえる


でなければ違う言語を覚えることも、すぐに違う何かをできるようになるはずがない


エドはもともと優秀であることをほのめかしたが、彼女たちが優秀なのは雇い主であり保護者がエドだからだ、エドが優しく接してくれるから、彼女たちはそれに報いたいと全力で努力するのだ


全く計算に入れていないことだろうが、こういうところはさすがというほかない


計算でも打算でもない、エドは天然でそれができるのだ


計算や打算だらけの静希とは真逆と言ってもいい性格に鏡花は驚きながらも感心を隠せなかった、エドがやろうとしていることの難しさを理解したからである


かつて静希が感じたことをそのまま鏡花も感じていた、困難な道、茨の道、多くの者が目指したかもしれないがその結果全て失敗に終わっているだろうその行程


目の前にいるエドなら、なぜかできてしまうのではないかと思えてしまうのだ


不思議な人だ、鏡花は素直にそう思った


静希のような強い意志や指揮能力があるようにも見えない、パッと見ただの優しい近所のお兄さんのような風体をしている、なのにこの人についていけばきっと大丈夫、そう思わせる何かが、エドにはあった


こういうのをカリスマというのだろうか、人を惹きつける才能、努力ではどうにもならない天性のもの


静希のようにその行動や思考から結果的に人々を惹きつけるのではない、会話や表情、そして自らが信じたことに真摯に打ち込むその姿勢に惹かれるのだ、言わば行動する前に人を惹きつける


静希のそれとは真逆だなと鏡花は薄く笑う


もしかしたら、こういう性格だからこそ、彼は悪魔の契約者になれたのかもしれないと、そう思った


「こんなちっこいのがねぇ・・・まぁ明利もおんなじくらいか」


「も、もうちょっと高いよ!私お姉さんだから!」


そう言って必死に弁解しようとしている明利だが、身長的な意味でその差はどんどん埋まってきている


試しに三人を並べてみたところ、差はあと十センチあるかないかというところだろう、もはや追い抜かれるのは秒読み段階というところだろうか


その事実に打ちひしがれたのか、明利はしょぼんとしながら食事を続ける、そんな自称「お姉さん」とは対照的にアイナとレイシャは嬉しそうにしながら食事を続ける


「ボス、ミスミキハラを抜かせば私たちも大人の仲間入りでしょうか?」


「きっとあと一年・・・いえ、あと半年もあれば抜かせるのではないかと!」


「あはは・・・その日を楽しみにしているよ・・・ちょっと申し訳ない気もするけど」


あと半年もあれば


その言葉に追い打ちをかけられたのか明利は机に突っ伏してしまう


十六年かけた成長が、自分よりいくつも年下の女の子に抜かされるこの屈辱は、きっと明利にしかわからないだろう


そろそろ東雲姉妹にも抜かされるかもしれないという事でやたら危機感を持っていたようだったが、さらに対抗馬が出てきたことで明利の警戒心はマックスになっている様だった


カルシウムをはじめとする、背を伸ばすのに必要な栄養は普段から摂取しているのに一向に背は伸びず、周りの目線だけが高くなっていく


「でも立派なレディになるなら、体だけじゃなく心も成長しないとね、体だけ大きくても大人になれるわけじゃないんだよ?」


「むぅ・・・そうなのでしょうか」


「それならば成長すればよいのです、それだけのことです」


成長すればいいなどと軽く言ってのけているが、それがなかなか難しいという事を幼い二人は理解しているのだろうか


体は栄養と運動によって育まれるが、心は経験によってしか育まれない


彼女たちが言っているのはつまり、これからたくさん苦労していくのだと言っているようなものだ


早く一人前に、早く大人に


いかにも子供らしい考えである、だがエドはそれをほほえましく眺め、その考えを尊重するようだった


もはや彼女たちの父親のようである


手間暇かけて世話をしたことで父性に目覚めたのか、それとももともとこういう性格だったのか、穏やかで厳しくも優しい目をしている


鏡花はこの時ようやく理解した、悪魔の契約者はどこか変な人がなるのだと

そして静希の方を見て確信を深める、間違いないかもしれないと





エドとの昼食もそこそこに、静希達は食事を終え一度エドと別れることになった


エドはエドでいろいろ準備が必要らしく、夜に静希達の部屋に向かうことを約束しその場から去って行った


「なんというか不思議な人だったわね」


「そうだな、まぁあれがエドだ、よくわかっただろ?」


昼食をともにし、いろいろな話をしたおかげで鏡花も陽太もエドの人となりを知ることができた、少なくとも信用に値する人物であるという事は十分に理解できた


「いい人だってのは十分にな・・・まぁ明利は一人だけ深手を負ったみたいだけど・・・」


陽太の言葉に静希は自分のそばにいる明利に視線を向けると、先程のアイナとレイシャとの背比べが地味にショックだったのか、いまだに項垂れている

何歳も年下の少女たちに抜かされそうなのがかなりの精神的なダメージにつながったのだろう、自分の背の小ささを延々と嘆いている様だった


身長ばかりは努力だけで決まるものではない、はっきり言えば努力などではどうにもならない部類だ


多少の違いは出るかもしれないが、明利は人並み以上の努力をしているにもかかわらず全く伸びない、それに比べあまり努力をしていない静希や陽太はぐんぐんと背が伸びる


身長の女神はよほど明利が嫌いらしい、小学生の頃から一センチもその背を伸ばしてやらないのだから


「私だって身長が欲しいのに・・・もうちょっと・・・せめてあと五センチ」


五センチもあれば明利の身長も百五十を超えていたのだろうが、その願いは心底求めた者に限って叶わないようになっているらしい


たった五センチ、手のひらよりも小さなその五センチが明利がどんなに努力しても手に入れられなかったものでもあるのだ


こうなってくると明利が可哀想でならないのか、鏡花はどうしたものかと困ってしまう


「明利、なら私が厚底ブーツとか作ってあげるわよ?」


「それじゃ意味ないの・・・ちゃんと背が伸びないと意味ないの・・・」


靴に細工をして身長を疑似的に伸ばそうとしたのだが、明利が欲しいのは純粋な身長の高さだ


能力を使っても栄養を整えても全く伸びることがないその身長、彼女が欲するものはもはやどうあがいても手に入らないような気がしてならなかった


「こりゃ重症だな・・・身長コンプレックスここに極まれり」


「シャレになってないわよ、明利、ほら元気出して」


何とか元気づけようとするのだが、右から左へと聞き流されているような気がしてならない


静希が頭を撫でても声をかけても反応がないところを見るとかなりショックだったのだろう


同年代に身長を抜かれるというのは慣れっこだが、圧倒的な年下に身長を抜かれるという経験は少なかったためにこれから先やってくるだろう彼女たちの成長を想像して絶望に打ちひしがれているようだった


くだらないと思われるかもしれないが明利にとっては重要事項だ、長年願い続けた成長を、長年努力し続けた成長を、自分よりはるかに年下の女の子たちが手に入れようとしているのだから


恨む気持ちなどはありはしないが、どうしても羨んでしまう


どうして自分はと思ってしまうのだ、自分の身長が伸びなかったが故に


「ちょっと静希何とかしなさいよ、あんたの彼女でしょ?」


「そうはいってもなぁ・・・この状態になると長いぞ?明利、ほら聞こえるか?」


静希が少ししゃがんで目線を合わせようとするが、明利はうつむいたままだ

その顔に触れても、髪を撫でても何の反応もない


恐らくは自分のコンプレックスが一気に押し寄せているのだろう、明利の抱えるコンプレックスの量を考えると相当の自己嫌悪が予想される


「もう・・・しょうがないわね」


そう言いながら鏡花は後ろから明利の顔を掴む


「明利、人間身長だけじゃないわよ、それにしっかりあんたのことを見てくれる人がいるでしょ?」


そう言いながら鏡花は明利の顔を持ち上げて静希の方を向かせる、心配そうに明利の様子をうかがっている静希を見て、明利はわずかに顔色を変えた


「あんたは確かに小さいけど、それでもあんたを大事にしてくれる人がいるんだから、そうやって自分を嫌いになっていくのはやめなさい、それはあんたのことを好きでいてくれる人に失礼よ?」


自分を好きでいてくれる人がいるのだから、自分自身が、自分のことを嫌いになってはいけない


大事な人がこんな自分を好きでいてくれる、鏡花はそのことを明利に伝えたかった


かつて陽太が自分に教えてくれたことを、大嫌いな自分を少しだけ好きになれるそんなことを


明利は落ち込むのをやめたのか、小さく息をついてうんと頷いた


「さすが関東圏内で最高にできる女鏡花姐さん、班員のフォローもバッチシっすね、まじぱねえっす」


「はいはい、元気になったのならさっさと作業再開するわよ?」


妙に雑な褒め言葉だが、陽太に褒められてまんざらでもないのか鏡花は上機嫌になりながら陽太を引き連れて再び作業へと戻っていく


案外扱いやすい奴だったのかもしれないと思いながら静希と明利もまた街に種を蒔く作業に戻ることにした







静希達が再び作業を始めてどれくらい経過しただろうか、すでに日は傾き始めフランスの街はオレンジ色に染まり始めていた


進行率はおよそ七割と言ったところだろうか、一日中歩き回ってこれである、とはいえ明日、実験前日には間に合いそうな速度だ


大野や小岩にも今日は終了するという事を連絡し、とりあえず静希達はホテルに戻ることにした


まだ二月ではあるが一日中歩いていたという事もあってそれなりに疲れ、汗もかいているためそれぞれ部屋でシャワーを浴びて体をきれいにすることにし、その後城島に報告へ向かった


「という事で、明日には索敵網は完成しそうです、召喚当日には間に合うかと」


いつも通り班を代表して鏡花がそのように報告すると城島は腕を組んだ状態で何度かうなずく


「ふむ・・・やはり慣れた山や森と違い時間がかかるようだな、幹原の能力の性質上仕方がないと言えるが・・・」


明利の能力は生き物に対する同調だ、生き物にあふれている山や森ならばともかく、人工物であふれた町などはどうしても索敵網の構築速度は落ちてしまう


索敵をするのに事前の準備が必要なのが明利の能力の欠点だ、その分広範囲をカバーできるとはいえその時間的猶予があるときの方が珍しいのである


「だが実験に間に合うという点では十分に良い知らせだ、これで少しは楽になるか?」


「そうだといいんですが・・・あと今日エドモンドさんに会いました、これからここに来るらしいです」


その言葉に城島は目を細める、いくら静希と交流があるとはいえ、悪魔の契約者を軽々しく生徒と接触させていいものか悩んでいるのだろう


もうすでに昼食を共にしてしまってはいるのだが、城島の悩みもあながち間違いではないだけになんともいい難かった


「確か、今回の作戦においては伏兵の役割を担っているのだったか?」


「えぇ、向こうにも伝えていないことですのでほとんど情報は入っていないかと、もしかしたらもう一人悪魔の契約者が接近してるくらいのことは気づいてるかもしれませんが」


鏡花から説明を引き継いだ静希がそう告げると、城島はふむと呟きながら口元に手を当てた


悪魔の契約者が召喚に際し三人も集まる


このことが知られればそれだけで警戒のレベルが跳ね上がることは間違いない


だがその実、三人のうちの二人は結託しているのだから妙な話だ


「ことが起これば参加・・・か・・・これ程頼りになる伏兵もいないだろうな」


「全くです、戦力としては十分すぎる」


伏兵とは本来、数で劣っている軍勢が行う奇襲に分類される策の一つである


目に見えていなかったはずの敵が唐突に現れることで、仮にそれが少数であろうと士気を低下させ、混乱を呼び起こす、それが伏兵の役割であり強みだ


静希が用意した戦力は、伏兵というにはあまりにも強力過ぎる、それは単身の能力のみで事をすべて解決できてしまうのではないかというほどである


そして強力過ぎるが故に味方にも混乱を呼びかねないという欠点がある、そこは静希が上手く説明するしかないだろうが、あらかじめ用意できるものとしては最高の状況がそろっていると言っていい


索敵網は直に完成し、包囲網も作ることができる、戦力だって十分以上だ


万が一負ける要素があるとすれば、相手も複数人で挑んできた場合だろう、それも悪魔と同列の存在を引き連れてきた場合は危険だ


カロラインの立場上、第三者と組んで行動するという事は考えにくい


たとえあったとしても一緒に逃亡したと思われる彼女の弟くらいのものだ


戦いが始まる前にすでに勝敗を決する、静希が目標とすることでもある


不確定要素の多い悪魔との戦闘でどこまで事前の準備で有利にできるかが肝だが、今のところ順調に事は進んでいるように思える、少し順調すぎるのが逆に怖いが


「とはいえ相手は悪魔の契約者だ、油断するなよ?最悪足元をすくわれるだけでは済まんぞ」


「わかっています、痛い目に遭うのはごめんですから」


足元がすくわれるなどという軽いものでは済まされない、もし下手を踏んだらその時は静希の足ごと地面を抉りぬかれるくらいの被害が出るだろう


そしてその被害は自分だけでは済まされない、恐らく他の部隊の人間にも波及していく、自分が担っているのは、所謂エースにも似たポジションだ、勝敗を決するために一番重要な駒といってもいい


普段は表に出ないだけに、そんなに重要な役割を任されたことなどなかったのだが、状況が状況だ、甘んじて受け入れるしかないだろう


「幹原、お前の方からは何かあるか?索敵を敷いているうえで何か気づいたことは」


「え・・・?えっと・・・今のところは特には・・・人の流れを確認するので精いっぱいです」


街に置いて人の流れというのは必ず存在する、それは駅や店の配置によって変わり街それぞれに特有の人の流れが構築されるのだ


明利はその把握に努め、日常における人の流れを把握することで緊急時にすぐに反応できるようにしているのだ


さすがに長いこと索敵をやってきた実績は伊達ではないという事だろう、城島もその報告に満足している様だった


「とりあえず今日できることはやりつくしたようだな・・・あとは件のエドモンドがやってくるのを待つばかりか」













「ひょっとして、待たせちゃったかな?」


「いやそうでもないよ、昼ぶりだな、ようこそ」


城島への報告を終えた後、静希達は一度自分たちの部屋へと戻った


それから数十分後エドはたくさんの荷物と共にアイナとレイシャを連れてやってきた


どうやってフロントを通り抜けたのかは知らないが、さも当然のように部屋の前にやってきたエドを見て静希はたくましくなったものだと感心してしまっていた


身近に工作活動ができる人材ができたというのもあるだろうが、ある種の風格のようなものも漂わせている


教え子であり弟子であるアイナとレイシャが『ボス』と呼ぶにふさわしい人物になりつつある気がして少し微笑ましかった


部屋にエドを招き入れると、そこにはすでに静希をはじめとする一班の人間と大野と小岩、そして城島の姿もある


そして既に室内には静希の連れる人外たちも姿を現している


元々少し広めの部屋とはいえあまりにも人数が多く、少し手狭な印象を受けてしまう


ここに集まったのは、いわば明日以降の動きについての最後の確認のために集まった実動部隊だ


一見すれば、錚々たるメンバーといえるだろう


「勢ぞろいって感じだね、それじゃあ挨拶といこう」


そう言いながらエドモンドはまるで紳士のように礼をする、それと同時にエドの少し後ろについていたアイナとレイシャも礼儀正しくお辞儀をして見せた


「初見の方もいるようだからあえて初めましてといわせてもらうよ、僕は悪魔の契約者エドモンド・パークス、後ろの二人はアイナとレイシャ、僕の両腕さ、そしてもう一人」


エドが指を鳴らすとその体の中からゆっくりと獅子の体と黒く長い尾、そして異形の四足をもつ悪魔、ヴァラファールが姿を現した


「一部の者を除き、初めまして、ヴァラファールだ・・・こいつの連れをやっている」


「あら、お久しぶりね・・・相変わらずしかめっ面だこと」


その場に現れた悪魔に反応したのか、メフィはふわふわとヴァラファールの方に飛翔していき嬉しそうに、そしてからかうような笑みを浮かべる


そんなメフィを見て鼻を鳴らしながらヴァラファールはのそりとベッドの上に陣取り体を丸めてしまう


頭の中でゆるキャラのようなイメージを浮かべていた鏡花はヴァラファールの姿に若干驚いていた


確かに毛はもふもふしているかもしれないが、自分が想像しているのとは全く違って強面だ、アイナとレイシャの言う通り良い声をしているが想像とかけ離れすぎている


今にして思えば仮にも悪魔なのだ、自分が想像していたような間抜けな姿をしているはずがないなと鏡花は自らを戒めた


「あ、あの・・・ヴァラファールさん、お久しぶりです・・・あの・・・私の事、覚えてます・・・か・・・?」


その強面な悪魔に近寄っていく小さな少女明利、一見すれば猛獣にウサギが近寄っていくような図になり、大野と小岩、そして初めてヴァラファールを見た城島と鏡花は大丈夫なのだろうかと僅かに反応した


だが彼らが心配するようなことにはならなかった


「あぁ覚えているとも、シズキ・イガラシの所にいた娘だな・・・名を確か・・・メーリといったか」


「はい、そうです!お元気そうで何よりです!」


まさか覚えているとは思わなかったのか、明利は嬉しそうである


このヴァラファールという悪魔、見た目に反して非常に紳士だ、口調や態度は威厳ある武士を彷彿とさせるが、実際は素直になれない老人のような性格をしている


「そちらもな・・・そうだ、確か彼奴と恋仲になったそうだな」


「は、はい・・・そうです・・・」


「ならば互いにしっかりと手綱を握っておくことだ、彼奴はいつの間にかどこかに飛んで行ってしまうような男のようだからな」


明利がふふ、そうですねと笑うと、ヴァラファールもその笑みにつられたのか薄く笑って見せる


普段邪薙のような獣顔を見慣れている人間でなければその微妙な表情の変化はわからなかっただろう、それほど小さく、短い変化だったのだ


「こちらも自己紹介と行こうか、私は城島美紀、五十嵐を始めこのバカどもの引率をやっている、初めましてエドモンド・パークス、その節ではうちのバカが世話になった」


「いやいや、むしろこちらが世話になったほうだよ・・・そうか、貴女がミスジョウシマ、たまにシズキが口に出したことがあったよ」


その言葉に城島の視線が一瞬静希に移り、ほほうと何やら含み笑いをするが、この場でその話は置いておくことにした


話に聞いていた悪魔の契約者、どのような人物であるかこの場で判断しようとしているのか城島はゆっくりとその視線をエドの全身にむけ、ゆっくりとその顔を確認する


そしてそのことに気付いたのか、エドは小さく笑って見せる


「貴女はシズキが言っていた通りの人物のようだね、気難しいながらも、実は心配性な優しい女性、シズキが信頼するのも頷ける」


「・・・!そこまで評価が高いと少し疑ってしまうな・・・」


それが他人からの言葉だったからか、それとも静希がそこまで城島を高く評価していたことを疑っているのか、城島は顔をそむけながら僅かに赤くなっている


今までまっすぐと評価されることがなかったためか、予想外の高評価にどう反応したらいいのか困ってしまっている様だった


実際静希は城島を信頼している、彼女は信頼に足る教師だ


生徒のことを心配し、厳しく接しながらもよい方向へと進めることができるように助言や手助けを惜しまない


彼女がいたことでどれだけ助けられたことか、静希を始め、一班の人間は城島にとても感謝していた


それを直接本人に告げたことはなかったが、前にエドと世間話をした時のことを覚えていたのだろう、静希は少しばつが悪くなりながら頬を掻いていた


「そちらのお二人・・・片方はイギリスの時以来だね、お久しぶり」


「えぇ、あの時は敵同士でしたけどね」


「味方の今は心強い限りですよ」


大野と小岩の方を見ながらエドは爽やかに笑って見せる


大野はエドが犯人にされかけた時から会っていなかったが、小岩は一度静希が強引にイギリスに呼ばれたときに会っている、とはいえだいぶ久しぶりな再会だった


そんなやり取りをしている後では明利がヴァラファールを撫で、鏡花も恐る恐るそれに続こうとしていた、何とも微笑ましい光景である


「それじゃ挨拶も済んだところで、本題に入ろうか、内容は今後の動き方についてだ」


静希が場を取り仕切り、ざわついていた空気を一気に引き締める、その場にいた人間も人外も全員が静希の方に視線を向ける


人間十人、悪魔二人、神格一人、霊装一人、総勢十四人、これが今動ける最大戦力


悪魔が二人に神格が一人いる時点で戦力過多かもしれないが、それでも確実なことは言えないのが現実である


「今のところ明利の索敵網の完成率は七割程度、明日を使って索敵を万全にする予定、んで当日の話に移るけど、目標の目的を明らかにしやすいように今日のうちに配置を決めておく、実際に索敵内で行動することになるエドはよく聞いておいてくれ」


「了解だ、任せておいてくれ」


自信満々にそう言っていたエドだが、静希が言う内容を聞いていくうちに頭で整理しきれなくなってきたのか、とうとうメモを取り始める始末だった


そんな姿を後ろからアイナとレイシャが申し訳なさそうに眺めているのが非常に印象的だった


それもそのはずだろう、静希が伝える当日の配置や行動は、今のところ考えられるすべての可能性を考慮した物で、その分岐が果てしなく多いのだ


「とまぁ、以上が大まかな流れだけど、これまでのところで何か質問は?」


「えっとすまない、ちょっとまとめさせてくれ・・・」


「・・・こっちも、ちょっと待っててくれ」


こういう流れに慣れていないのか、エドだけではなく大野までメモを取り始めている始末


元々頭脳派である鏡花や思考活動になれている城島、小岩は慌てる必要もなくそれら全てを頭に入れたようだった


一方頭脳労働はあまり得意ではない陽太と、索敵に集中するべきである明利は最初から考えることはせず、自分のできることに集中するために必要なところだけを覚えているようだった


「ミスターイガラシ、私達はボスについていればよいのでしょうか?」


「あぁ、そのほうがお前達も安心できるだろ、戦闘になった時は無理に加わるなよ?攪乱のために動いてもらう行動はわかるな?」


「はい、先ほど述べた迷子の振りですね、お任せください」


覚えが早くて何よりである、話についていけなかったエドに比べ、アイナとレイシャは頭脳労働が得意なようだ、どうやらエドは作戦を考えたり自分の頭の中でそれをシミュレートするのは苦手なようだった


最初にあった時もぬけた作戦を立てていたなと思い出しながら静希は苦笑する


「五十嵐君、私達は交通規制の範囲外から動向をチェックすればいいのね?」


「えぇ、もし危険になった様なら補助役として突入してもらうかもしれません、ないようにするつもりですけど」


静希の考えの中で大野と小岩が登場するような事態はほとんどないと言ってもいい、戦闘を行うのが静希がメインとなるならそこにただの能力者が一人二人加わっただけでは焼け石に水だ


だが静希が気を許せる相手となれば多少は状況を変えられるかもしれないのは確かだ、そう言う意味で大野と小岩は必須である


「私もこいつらと外側で待機か・・・何とも歯がゆいな」


「先生の場合は結構な場面で活躍してもらうかもしれません、その時はお願いします」


一応初期配置においては城島も交通規制の外側だ、だが大野と小岩に比べると城島の行動可能状況は圧倒的に多い


最初から戦力の数に数えられているというのもあるが、彼女の能力はかなり応用が利く、静希としてもその優位性を使わない手はない


「それで私たちは研究所の中で召喚されるものへの対応・・・か・・・なんだか物々しすぎて嫌になるわね」


「そう言うなよ、お前らには邪薙を付ける、邪薙、こいつらの安全は任せたぞ」


「任されよう、守り神の力を存分に振おう」


鏡花たちは召喚される悪魔に対して有効な対抗手段があるわけではない、可能なのはあくまで時間稼ぎである


安全を任された邪薙だって確実に悪魔の攻撃を防ぐことができるというわけではない、メフィと同等の存在と遭遇してしまった場合、数発も攻撃を受ければその障壁は破壊されてしまうのだ


鏡花たちならばその数発の隙に回避行動くらいはとることができるだろうが、油断が許されない状況になる可能性が高いのは確かである


「えぇと・・・僕の場合はかなり前線に出る可能性が高いみたいだね・・・頼られるのは嬉しいけど・・・覚えきれるかな・・・」


「まぁそこは頑張ってくれとしか言えないな・・・まぁお前にはしっかりした両腕に頼れる相棒がついてるんだ、問題ないだろ?」


静希の言葉にヴァラファールは僅かに鼻を鳴らし尻尾を揺らす、そしてアイナとレイシャはやる気が上がったのかエドの両腕を掴んで誇らしげにしている


「ボス、しっかりしてください」


「ボス、私達がついていますよ」


「あはは・・・頼もしい限りだよ」


頼もしい両腕に囲まれながら笑うエドに、その場にいた全員がわずかに苦笑してしまった


土曜日なので二回、そして誤字報告が15件分あるので合計五回分投稿です


八回投稿したせいで五回分が大したこと無いように思える不思議、メンタルのレベルが少し上がったかもわかりませんね


これからもお楽しみいただければ幸いです

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