2兆円超えた日本の個人寄付額 人助け指数はなぜワースト2位なのか

土屋亮

 日本人は寄付に消極的。そんな定説を覆すかのように寄付を通じたお金のやりとりが広がりつつある。政府による富の再分配と企業による市場経済の隙間を埋める「第3のお金の流れ」と言われる寄付。日本で「経済圏」として定着するカギは何か。

 親に頼れず困窮した若者を支援する大阪市の認定NPO法人「D×P(ディーピー)」の今井紀明理事長(40)は毎月、首都圏から地方まで全国各地で6~7回の講演をこなす。その合間にユーチューブやポッドキャストを収録し、配信している。

 こまめな発信は、D×Pの活動を認識してもらい、収入源の9割を占める寄付を増やすために欠かせない。「オンラインで広く知ってもらい、直接会って深く理解してもらうことが大切だ」

過去最高の3.5億円の寄付を見込む

 2025年度は過去最高の3億5千万円の寄付収入を見込む。10年前は2千万円に満たなかったが、年々増えて21年度に1億円を突破した。右肩上がりの現状は、認知度を高める取り組みだけで築いたものではない。

 D×Pは、13~25歳の1万9千人が登録するLINEでのオンライン相談「ユキサキチャット」を運営し、若者の声に耳を傾け、手を差し伸べる。大阪市内に、食事や仮眠をとれる一時的な滞在施設「ユースセンター」も開設。食べ物の送付や現金給付にも取り組んでいる。

 つらい状況に置かれている若者を支援する今の活動には、自身の経験が反映されている。

 札幌市出身の今井さんは22年前、日本中の耳目を集めた若者だった。

 04年4月、イラクで武装勢力に拘束され、人質になった。武装勢力は駐留していた自衛隊の撤退を求め、従わなければ、今井さんら日本人の人質3人を殺すと主張した。

 日本政府は応じず、3人は現地の人の仲介で解放されたが、帰国すると、「自己責任」を問うバッシングの嵐。罵倒の手紙や電話を受け、2年ほど家に引きこもった。

突きつけられた厳しい意見

 大学卒業後の勤務先が関西だった縁で、12年に大阪市でNPOを立ち上げた。関西の中小企業経営者の会合で突きつけられた厳しい意見がその後の活動にいきることになる。「寄付による組織の運営など、成り立つわけがない」「寄付されたお金を具体的にどう使ったのか開示しないのは、おかしい」

 以来、お金の出入りを細かく説明し、納得感を持ってもらうことを心掛けてきた。ホームページには各年度の会計報告を掲載し、1円単位まで開示している。直近の24年度は、受け取った寄付金2億5315万7939円、職員の給与など1億4174万9685円、LINEやインスタグラムの広告宣伝費など2857万7124円、ユースセンターの賃借料など1134万8414円といった形だ。あわせて、公認会計士による監査報告書も載せる。

 「持続可能な組織にするため、経費の半分を約40人のスタッフの人件費に充てている」「緊急支援が必要なときに備え、年10%程度の剰余金を残し、翌年に繰り越している」。昨年末も東京に出張し、集まった企業関係者らにNPOの収支を丁寧に説明した。今井さんは「こうした取り組みが、結果として寄付収入の増加につながっていると思う」と語る。

日本の個人寄付総額は2兆円超

 寄付の裾野は広がりつつある。日本人の寄付行動を分析している「日本ファンドレイジング協会」が先月まとめた「寄付白書2025」によると、24年の日本の個人寄付総額は2兆円超。2016年の前々回調査の2・6倍になった。

 この数字には、法律上は寄付にあたるが、返礼品目当ての支出が多い「ふるさと納税」分も含まれる。だが、ふるさと納税分を除いても8年間で1・5倍と緩やかには増えている。協会は「日本人の寄付が増加傾向にあるのは間違いない」。

 近年では、運営費の支援を呼びかけた国立科学博物館が23年、目標の1億円を大きく上回る9億円超の寄付金を集めた。昨年も、兵庫県宝塚市の夫妻が「市立病院の建て替えに役立ててもらいたい」と市に250億円を寄付し、話題になった。

 かつては寄付を集める団体と言えば、国境なき医師団など一部の大組織に限られていた。しかし、デジタル社会の進展でSNSを駆使して情報発信・活動公開に努める団体が増加。インターネットを通じて不特定多数から資金を集める「クラウドファンディング」も拡大している。ネットを通じた寄付の手続きが簡単になったことも、寄付を主体とする経済圏の成長に一役買っているようだ。

日本人は人助けに消極的?

 果たして日本で、寄付の経済圏はさらなる成長を遂げるのか。気になるデータがある。

 英国に本部を置く慈善団体チャリティーズエイド財団が毎年調査している「世界人助け指数」。24年の発表で日本は141位と世界ワースト2位だった。「見知らぬ人を助けたか」「寄付をしたか」「ボランティア活動をしたか」の3項目をもとに各国民の社会貢献意識を分析するものだが、日本は例年、最下位に近い。

 日本人と寄付の関係を研究している関西大学の坂本治也教授は、小さな政府志向で自己責任意識が強い国民性が関係しているとみる。加えて、「寄付白書2025」によると、「寄付したお金がきちんと使われているのか不安に感じる」という回答が74・1%に上った。4年前の前回調査より3・1ポイント減ったものの、依然として多数を占める。

 坂本さんは「日本に寄付文化を根づかせるには、寄付への不安感を取り除く必要がある。そのためには、各団体がどれだけ財政面の透明性を高められるかが、カギになる」と指摘する。

 社会のお金の流れは、税金を通じた所得の再分配と市場経済が主流だ。寄付は、この二つがカバーしきれない分野で、直接的に自分の意思を示せるという利点がある。加えて、寄付の経済圏では、お金だけではない、未来への責任や善意、信頼が価値として重要なファクターになるようだ。

 寄付の経済圏の浮沈は、私たちの社会の成熟度をはかるバロメーターになるかもしれない。

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この記事を書いた人
土屋亮
経済部|電機業界担当
専門・関心分野
経済全般、メディア
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    末冨芳
    (日本大学教授=教育行政学)
    2026年1月5日11時0分 投稿
    【視点】

    【財政面の透明性と責任体制の構築が寄付先の団体・施設に求められる、でもそれって政府や政治家も同じでは?】NPOへの寄付も生きがいの私です、個人寄付額がじわりと増加していることは日本でも信頼される非営利法人が増えてきたことの証左です。  財政面の透明性と責任体制の構築が寄付先の団体・施設に求められる、私が寄付している団体は、大切な寄付金の使途や財政収支、そして活動報告を丁寧にされる団体ばかりです。  万が一の不祥事も迅速に発信し謝罪をし、対応策を公表する。  だからこそ安心して寄付できる。  ところで財政面の透明性と責任体制の構築が求められるのは政府や政治家も同じですよね。  この国の政府や政治家は、不祥事や汚職を迅速に発信し謝罪をし、対応策を公表してましたかね?  官房機密費って私たちの税金由来のお金ですが、何にいくら使われたのか、私は知らないですけれど。  この国で重税感が強く寄付もまだまだ盛んではないのは、政府や政治家への不信に起因するところも大きいのでは?  さて、少しでも寄付したいと思われる方はどのNPOや団体・施設に寄付すれば良いのか?  あなたの人生で気になるテーマで選ぶことをおすすめします。  紛争地域で医療も受けられない子どもたちのために私も国際NGOに寄付しています。  動物が好きなら動物愛護の団体へ。  大変な状況の子ども若者を支援したい、今井さんたちの団体もとても大切な活動をされています。あなたの出身地にそのような団体はありませんか?  グエー死んだんご、22歳で亡くなられた大学生のXでの投稿が、ガン研究への寄付のムーブメントをつくりました。  彼のことを思い出してくださる方は、時々で良いので寄付を続けられてはどうでしょう。  見知らぬ人を助ける社会は、寄付をする人が増える社会の向こうにあると思います。  あなたの気持ちとお金を託す寄付があなたの心をあたためるならば、あなたは見知らぬ誰かに手を差し伸べられる人でもあると思います。

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    佐倉統
    (実践女子大学教授=科学技術社会論)
    2026年1月5日11時0分 投稿
    【視点】

    先日学生たちに、「日本では駅で人が倒れていても気にせず素通りする人が結構いるが、なぜなんだろうか?」と聞いてみた。みな口々に、親切を断わられたことがある、親切にしたら逆に怒られたことがある、と言っていた。私も何回か似たような経験がある。 武士道なのかなんなのかわからないが、「人様に迷惑をかけるのはよくない」という感覚が広く根付いていて、誰かが救いの手を差し伸べようとしても断り、むしろ自分が多少苦しむ方がマシ、と思ったりするのではないか。親切を上手に受ける人がいなければ、親切にする人も育たない。そういう悪循環があって、寄附文化がなかなか育たない社会になっているのかもしれない。 しかしこの記事にも見られるように、潮目は少しずつ変わってきているようだ。合理的で社会的視野の広い若い世代の活躍に期待したい。

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