「台湾有事に備えて自主防衛の強化を!」は現実無視の愚論。中国の武力侵攻など起こりえない!
■台湾包囲大規模演習は武陵侵攻の準備?
高市首相の「存立危機事態」発言によって、緊張が続く日中関係。トランプ大統領の擁護がないため、最近は、自主防衛を強化すべきという言論が幅を利かせている。核保有論まで飛び出している。
実際のところ、この4月からは防衛増税も始まる。法人税も所得税も「防衛税」が上乗せされる。
しかし、懸念される「台湾有事」=「武力による併合」は、本当に起こるだろうか?
昨年暮れに中国が行なった大規模な軍事演習は、台湾を包囲し、明日にでも武力侵攻があると思わせるものだった。元旦の読売新聞は、こうした情勢を受けて『中国軍、「台湾上陸訓練」に民間船を利用…安価で迅速に調達可能・日米が危機感強める』という記事を掲載した。
■武力侵攻がないと言えるいくつかの理由
まさに「台湾海峡、波高し」だが、それが即、台湾有事に結びつくことは現時点ではほぼない。中国の武力侵攻は起こりえないと断言したい。
なぜそう言えるのか?
それは、経済面から見て軍費がまかなえないこと。さらに、軍事作戦にコストがかかり過ぎること。また、人民解放軍にやる気がないこと。さらに、中国国民がそれを望むわけがないと思うからだ。
■先立つ「カネ」がなければ戦争はできない
まず、中国の軍事費について見ると、中央政府だけが負担しているのではなく、関連経費の多くは地方政府が負担している。軍事インフラの建設、国防動員、民兵の維持・訓練などの費用は、地方財政から出ている。
ところが、現在、地方政府は莫大な債務を抱えている。
日経新聞の記事『中国の地方債務2900兆円に膨張 25年の債券発行最大、デフレを助長』(2025年12月2日)によると、2025年の地方債発行額は過去最大となり、政府系企業「融資平台」が抱える債務を加えると債務残高は2900兆円にも達するという。
これでは、莫大なカネがかかる軍事作戦などできようはずがない。先立つ「カネ」がなければ戦争などできない。共産主義を捨て、“拝金主義”になった中国が、あえて戦争を選ぶだろうか?
■台湾上陸作戦には莫大なコストがかかる
台湾を武力で併合するには、上陸作戦を敢行せねばならない。その前に、海軍力を行使して台湾海峡を封鎖し、それにもし米軍が参戦するようなことがあれば、中国は在日米軍基地およびグアム基地をミサイル攻撃するとともに、日本と台湾の都市もミサイル攻撃しなければならない。
こうした軍事作戦は、地続きの陸戦と比べると、莫大なコストがかかる。ドローンは安価だが、ミサイルとなると1発数億円はかかる。海戦となれば、1隻数千億円の艦艇を瞬時に失う可能性がある。航空戦も同様、戦闘機は1機100億円以上はする。
こんなカネをドブに捨てるようなことを、中国がやるとは思えない。
■開戦すれば中国経済はほぼ崩壊してしまう
戦争コストは直接のコストだけではない。開戦すれば、経済制裁が開始され、外貨準備および海外資産は凍結、貿易は停止する。これは、中国経済を直撃する。
こうした台湾有事の経済コストを、アメリカのシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)が試算したところ、約1440兆円に上るという。
GDPへのダメージは、中国において約16.7%、台湾では約40%に達する。武力侵攻が成功し、台湾を併合できたとしても、中国経済はほぼ崩壊してしまう。
■1人っ子を戦場に送るとなれば親が猛反対
カネはもちろんのこと、人間にも問題がある。軍隊の強さは、兵器や兵士の数だけで決まるのではない。兵士の「士気」も大きく影響する。この点を見ると、人民解放軍の兵士の士気は著しく低い。
それは、兵士のほとんどが1人っ子だからだ。
もともと中国の兵士というのは、歴史的に見ても民族性から見ても、軍隊という組織には不向きである。中国は「我」の国だからだ。
そのうえに、長らく続いた1人っ子政策で、兵士の約7割は1人っ子というのが人民解放軍である。
となると、彼らが戦死する可能性がある戦争を、なにより親が望むわけがないし、本人も嫌がる。戦争をして戦死者が出るということは、高齢者を支える世代がいなくなることだから、中国の社会福祉は崩壊してしまう。
もし、本当に武力行使に踏み切ったら、中国国民は猛反対し、さすがの共産党独裁政権も崩壊の危機に陥るだろう。
これは少子化が進む日本の自衛隊にも言えることで、自衛官のなり手となる若者自体が減少し、もはや戦争ができる軍隊とは言えない。日本、中国ともに、誰も戦争など望んでいないし、士気が弱過ぎて戦いにならない。
■腐敗が止まらない組織は「戦える軍隊」ではない
人民解放軍には、もう一つ、大きな問題がある。それは長らく続いてきた深刻な腐敗だ。上から下まで汚職は日常茶飯事。装備品の購入費用の着服、演習経費の水増し請求によるキックバックなど、挙げればきりがない。
そのため、習近平は大規模な「反腐敗キャンペーン」を行い、収賄まみれの将軍など軍の高官を次々に追放したが、いまだに腐敗は撲滅されていない。
2025年11月、中国人民解放軍の制服組トップの張又俠・中央軍事委員会副主席は、軍内部の「反腐敗闘争」を貫徹すると宣言。人民日報に寄稿し、「毒を全面的に粛清する」と表明した。
こうした宣言を、いまだにしなければならないのだから、人民解放軍がまともに戦える軍隊とは思えない。習近平の目標は人民解放軍を「戦える軍隊」にすることだが、現状では無理だ。
■「認知戦」か「非軍事的な方法」による併合
『孫子の兵法』は、「百戦百勝は、善の善なるものにあらず。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なるものなり」と説いている。要するに「戦わずして勝つ」ことが理想ということで、じつは、中国は、この戦略を取ろうとしている。
大規模な軍事演習も、海軍力の増強も、台湾に対する威圧を強めることを目的としており、それを行使しないで勝つことを目標としている。
武力行使の可能性を排除しないとする姿勢を見せてはいるが、実際にそれをするコストを考えれば、やるはずがない。北京政府はそこまでバカではない。
つまり、もっとも現実的なのは、世界の世論を親中・反米に誘導する「認知戦」で台湾を追い込みつつ、港湾封鎖などの「非軍事的な方法」によって併合することだ。
■港湾封鎖から中台和平協定の締結に持ち込む
2024年5月、AIE(アメリカン・エンタープライズ研究所)とISW(戦争研究所)は、「中国は軍事侵攻ではないかたちで台湾統一をするつもりで、われわれは長いこと、それを見逃してきた」という内容のレポートを出した。
このレポートによると、中国は武力によらない台湾併合を狙っているという。台湾周辺における軍事演習を強化し、その後、台湾行きの船舶の立ち入り検査などを行い、台湾を準備封鎖状態にする。そうして、最終的に中台和平協定の締結に持ち込むというのである。
台湾のエネルギー自給率は、わずか2%。完全に港湾封鎖されたら、台湾のエネルギー資源は2週間しかもたないという。
■「中国は崩壊する」は日本だけの特殊な言論
以上、台湾有事は起こらない。現実的ではないと述べてきたが、私が懸念しているのは、日本のネット空間には、「中国は崩壊する」「中国経済は詰んでいる」というような言論が溢れていることだ。
そして、こういう見方をバックに、台湾有事に対する勇ましい意見、国防強化論が幅を利かせている。高市応援団は、とくにこの傾向が強い。
しかし、ここまで述べてきたように、いくら人民解放軍、中国経済が病んでいようと、中国は崩壊などしない。国家資本主義による成長は、減速するが続いていく。実際に中国に行き、その活力を目の当たりにすれば、そんな見方はすっ飛ぶ。
■アメリカの要求を真に受けず現実を見つめよう
中国はいまバブル崩壊に苦しんでいる。しかし、日本のように不良企業を守ったりせず、大きくても潰しているので、潜在的な成長余力は残っている。
また、彼らはアメリカからの覇権奪取を長期的な視野で考えている。
欧米のメディア、言論空間には、「中国崩壊論」はほとんど見られない。これは、日本だけの特殊な現象だ。日本人、とくに保守、右翼は、中国が徹底的に嫌いとしか言いようがない。
アメリカの要求を真に受けて、真面目に軍事費を増強するなどは愚の骨頂である。のらりくらりと交わしていけばいいだけだ。
そうしないと、防衛費増強で国民生活をはますます困窮してしまうだろう。
「台湾有事は近い」「中国は崩壊する」などという言論に騙されず、冷静に現実を見つめないと、個人も国も道を誤る。