2026年は午(うま)年。古くから全国有数の馬産地として知られる岩手県は、馬に関する地名もたくさんある。特に地名の由来が多く、馬にまつわる数々の逸話が残されているのが一関市千厩町。午年にまちを盛り上げようと地元住民が奮闘している。
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千厩には「平安時代に源義家が安倍氏を討った際、軍馬千頭を係留した」「奥州藤原氏が千棟の厩舎(きゅうしゃ)を建てた」といった地名に関わるエピソードが伝わる。源義経の愛馬・大夫黒(たゆうぐろ)が育ったとされ、千厩・大夫黒・馬っこの会が目抜き通りに設置したモニュメントが来訪者を迎える。
2月の「せんまやひなまつり」では、実行委(昆野洋子実行委員長)が入場券として、大夫黒をデザインした記念絵馬1万枚を用意する。菓子「馬っこパイ」の販売も見込み、昆野実行委員長(83)は「何事もうまくいくように、という願いを込め、千厩が馬のまちとして親しまれるようにしたい」と期待する。
中心商店街にある和洋菓子店「喜久屋」(菊地寛代表)が2025年6月から提供する「馬(うま)くいく最中(もなか)」(200円)は口コミで人気が広がっている。
粒あんと塩バターを馬の顔形の皮で包んだかわいらしい一品。バターには粒の細かいフランス産のゲランド塩を混ぜ、あんの甘さに優しい塩味が利く。
手作りのため一度に用意できるのは100個ほど。愛らしいネーミングも相まって受験や祝宴向けに購入する客も多いといい、菊地代表(58)は「町内の名物が一つでも増やせればいい」と盛り上げを誓う。
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他にも馬に関する地名を探そうと、生成AIを頼ると「岩手県内には、千件近く『馬・駒』関連があると言われています」。一関市千厩町が多くを占めるだろうが、多すぎる。馬産地岩手、恐るべし。
「岩手の地名百科」(芳門申麓著、岩手日報社)を開くと、最も多いのは「馬場」。平安時代から馬産地として知られ、数々の優良な牧野が開かれてきた。全国ではジャイアント馬場さんが圧倒的に有名だが、盛岡市には馬場町の地名も残る。かつてあった馬検場の名残、馬町(現清水町)、新馬町(現松尾町)も盛岡市だ。
馬事文化の影響は、各地に残る。馬洗場(二戸市浄法寺町)、馬洗渕(一関市舞川)のほか、駒込や馬立、馬渡などは複数地域に存在する。旧附馬牛村(遠野市)、旧門馬村(宮古市)は現在も地名として残っている。
山との関係も深い。栗駒山(一関市、秋田県、宮城県)=須川岳、秋田駒ケ岳(雫石町、秋田県)、芦毛馬立山(紫波町)などがある。岩手山の登山口とコース名「馬返し」(滝沢市)も認知度は高い。その岩手山の山容を目の前に望める鞍掛山(同)も人気スポットだ。
川はやっぱり馬淵川。葛巻町から八戸市へ流れる。川に沿った馬仙峡(二戸市)は国の名勝。一戸、二戸に始まり、青森県を経て岩手の九戸に戻る「戸」の付く地名も諸説あるが古くから馬の飼育に由来し、岩手県北から青森県が優良な馬産地であることの象徴とされてきた。
地名百科によると▽馬子舞(宮古市)=馬の守護神信仰に関係▽千馬小路(山田町)=多くの馬が行き来▽摩王(一関市千厩町)=馬緒で馬具の組みひも▽野馬鹿(一戸町)=方言「のば」ミヤマハンノキの生えた河岸ーのように興味深い名も。ほかにも地図からは消えたが、地域で残っている名も少なくない。
馬、駒に「牧」「蒼前」「鞍」なども加えるとさらに増える。昨年の「蛇」を圧倒し、十二支で最も多いのではないだろうか。それだけ岩手の人にとって、馬は身近で大切な存在といえるのだろう。