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J/53  作者: 池金啓太
二十一話「生命の園に息吹く芽」

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前衛の弱点

「身体能力強化系・・・か、どうする五十嵐、我々もフォローに向かうか?」


「必要ない、俺らは自分の身を守ることだけ考えるぞ」


たとえ身体能力を強化した動物がいようと、陽太は問題なく対処する


静希はそのことを理解していた


陽太とボス猿の戦闘を見ている限り、確かにボス猿は速い


力よりも速度が上がるタイプの強化なのかもしれない、だが陽太だって負けず劣らず速い


自分の能力を長い間使ってきただけあって、速い動きに慣れている、だがボス猿はあまり能力を使ったことがないのか、その動きにはぎこちなさが残っている


恐らくは大量の奇形種が跋扈し自らに危険が迫っているという極限状態から能力を発現したのだろうが、その使用の方法までは学べても、戦い方までは学べていないようだった


高速で移動するものの、その動きに自らの体に出す指示が追い付いていない


対して陽太は下手に動くことをしないで腰を落とし、ボス猿が突っ込んでくるのに合わせて攻撃を続けていた


「この猿が・・・!前衛なら前衛らしく前でて戦えやコラァ!」


陽太の振う槍と拳をギリギリのところで回避しながらその爪を陽太の体へと突き立てるボス猿


その体に触れるたびに、爪が焼けこげるが、一瞬の接触ではさすがに重傷を負わせる程の熱量を持ち合わせていないのか、決定打にならない


そして、動物である猿が陽太と同じ道理で動くはずもなかった


陽太や石動、そして眼前にいるボス猿のように身体能力に強化がかかる能力を持っている存在は、その大多数が前衛のポジションにつき、味方に向けられる攻撃を受け止めたり、散らしたりすることが多い


だがこの猿は、周りの仲間たちを盾にして最も後ろに下がっていた

これは猿の習性が最も作用していると言える


猿のトップであるボス猿は、その強さだけではなく、危機察知能力が長けているものが多い


つまりは、一際臆病な個体が群れのトップになることが多いのだ


群れを安全に導ける賢しさと、その力と、そして臆病さを兼ね備えているからこそ、群れのトップになれるのだ


群れの全てが奇形化した影響があるからか、群れ全体の行動理念が平穏から戦闘へと移行したことでこうして静希達に攻撃を仕掛けているようだが、根本である臆病さは変わらない


そもそも人間のように、他人のために自らの危険を顧みずに前に出ることができるような種族が珍しいのだ


動物の中では時折そう言う行動をとる個体はいるが、ほとんどは自らの身を守ることに終始する、だからこそこのボス猿の行動は動物としては何もおかしいことはない


だが陽太は、同じ前衛として、このボス猿を許せなかった


味方を盾にするような前衛は前衛ではない、敵の攻撃を受け止め、引きつけ、味方を守るのが前衛だ、この猿はそれができる能力を持っていながらそれをしていない、それが許せなかった


猿に人間の理屈を押し付けてもしょうがない、冷静な人間ならそう言うかもしれないが、陽太はバカだった


能力を持っているなら、他の個体を守れるのなら、それを守るのがトップの務めであると勝手に思い込んでいるのだ


猿の群れにおける序列だとか、その特性だとかを全く理解していないが故の勝手な勘違いだろう


振りぬいた拳が猿の右腕に直撃したことで、その骨が砕け、いびつに変形する


瞬間的に、ボス猿は陽太に勝てないという事と、危険であることを察知したのか、標的を陽太から周りの猿たちに囲まれている静希達へと向け、高速で移動しようとする


「おいこら・・・どこ行くんだ?あぁ!?」


だが陽太はそれを許さなかった


猿の尾を掴み、思い切り振り回した後地面に叩き付けると陽太は炎を噴出させる


「俺の許しもなくあいつらのところに行けるとか思ってんじゃねえだろうなこの腰抜け、お前の相手は俺なんだよ」


猿からすれば、勝てる相手と戦いたいという至極単純な考えからくる行動だが、陽太がそんなことを考えているはずもなく、自分に勝てないから弱い静希を狙ったように見えたこの行動に、陽太は僅かながら怒りを覚えていた


猿が再び高速で移動しようとした瞬間、陽太は目を細める


「上等だ・・・逃げられると思うなよ・・・!」


そして陽太の槍が少しずつその形を分散させるように無くなっていく中、その炎の色が変わる


オレンジから、白へ


炎の熱量が上がったことにより、陽太の身体能力が急上昇、ボス猿の方が早く動いたというのに、陽太は容易にその速度に対応し、猿の眼前に姿を現して見せた


その腕を掴み、力勝負に持ち込むとボス猿の腕が焼け、悲鳴にも似た鳴き声を上げる


だがボス猿も力勝負に負けることが即座に死につながることに気付いたのか、全力で腕に力を込めていく


元々の筋力に加え、奇形化して得た強い腕、そして能力により強化されていることでかなりの身体能力を得ているはずだった


だがそれでも陽太の方が強かった


時間制限付きとはいえ、炎の色を変えた状態での戦闘を可能にしている陽太が負ける道理はなかった


「陽太!そいつを上に投げろ!」


不意に聞こえた静希の指示に、半ば反射的に従った陽太は掴んでいた腕を振るい、ボス猿を上空へと投げる


空高く投げられた猿が、一体何が起こっているのかを理解するより早く、静希の放った数発の弾丸がその体に次々命中し、その中の一発が頭部を貫いた


空中でなす術もなく銃弾に晒されたボス猿は回避することもかなわずに頭部を破壊され、そのまま地面に落下する


「たかが猿相手にまともにやり合ってんじゃねえよ、頭使えバカ」


「あはは、悪い悪い!」


陽太は笑いながら静希と石動の援護に回る、自分もそうであるように身体能力強化型の弱点を忘れていたのだ


そう、強化系統の能力者の大半に当てはまるその弱点とはつまり、空中に投げ出されたときに何もできなくなるという事である


以前城島が訓練の際に陽太を上空に蹴りあげるという対処法を実践した様に、強化系統の能力者は空中に打ち上げられるとほとんど身動きも対応もできなくなってしまうのだ


その動きのほとんどが身体能力の強化であるが故に、人間の限界を超えた駆動はできても、跳躍することができたとしても、自由に空を飛んだりすることはできない


そのため、上空高く投げてしまえば恰好の的になるのだ


普通の能力者ならそういう対策はしているものだが動物にそんな内容を理解できるはずもない、だからこそ静希は陽太に指示して上空へ投げさせた


逆に言えば静希が指示をするまで陽太はそのことに気付きもしなかったわけだが、それはもはや今さらだろう


ボス猿がやられたことで、周りにいる猿たちは僅かに動揺しているのか、動きが鈍くなってきている


「よし、このまま押し切るぞ、これが終わったら一度休憩、あいつらとの位置を確認する、気を抜くなよ?」


「オッケー」


「了解した」


陽太と石動はやる気を出したのか、一気に周囲にいた猿たちを殲滅していく


静希もそれを全力でフォローし、三人で一時的に死骸だらけになった場所から退避し建物の上に逃れていた


そして鏡花たちのいる地点とこれから動こうとしている方向を確認して、どのようなルートで動こうとしているのかを把握しようとする


静希が鏡花なら


そう言う想定で考え、地図に印をつけていった


「それにしても・・・向こうは大丈夫だろうか・・・犯人がいるかもしれないというのに・・・」


「それに関しては問題ないと思うぞ、一応手は打ったし・・・たぶん鏡花辺りは何かあったってことくらいは察してるだろうし」


鏡花は静希程ではないにせよ頭の回転が速い、城島がどのように鏡花や明利に事を伝えたのかは把握していないが、危険地帯にあえて留まらせるような危険な指示が無意味なものであるとは思わないはずだ


そこから自分たちが内側に危険を抱えているという可能性に気付いても不思議はない


だが鏡花ならおそらくうまくごまかすだろう、それにそういう万が一の事態が起こった時のために、静希は明利に邪薙の入ったトランプを持たせたのだ


鏡花や明利、そして樹蔵たちが危険に気づけなくても、トランプの中から警戒している邪薙が気付いてくれる


もしかしたら、その存在が露見することになるかもしれないが、悪魔の契約者であるとある程度知られてしまっている以上、神格が共にいると知られたところで不都合はない


明利達の安全と天秤にかければ、どちらが重要であるかは比べるまでもないのだ


「ていうか静希、お前の方はどうなんだ?」


「どうって、どういうことだ?」


「そろそろ中身が無くなってきたんじゃないのかって話だよ」


陽太の言葉に静希はわずかに目を細める


流石長年一緒にいただけのことはある、感覚で静希の戦い方からトランプの中に入れてある武器の残量が少なくなっていることに気付いたのだろう


陽太の言う通り、静希が今まで用意してきた武器の残量は、すでに八割ほど消費してしまっていた


まだ酸素と水素は一枚ずつ、硫化水素や太陽光はフルで残っているとはいえ、物質的な攻撃手段であるナイフ、釘、そして銃弾の持ってきた分はほとんど使ってしまっているのだ


最初から長期戦を想定していたなら、銃弾や釘の数をもっと増やしてきたのだが、ここまで長く戦闘を行うとは思っていなかっただけに残量が少なくなってきたのが苦しかった


だがだからと言って何もできないわけではない


手元にあるのはナイフが数本、釘があと数十本、弾丸はカートリッジ一つ分、後は普段使えるオルビアと左腕の仕込みナイフと奥の手の散弾である


すでにスラッグ弾を使用してしまっているため、残った弾はこの散弾のみ、元より貫通力の高いライフル弾を持ってこなかったのだ


今度からはいつ長期戦になってもいいように武器の量を増やした方がいいかもしれないなと反省しながらも静希は苦笑する


「まぁそこら辺はなんとかするよ、足はひっぱらないから安心しておけ」


「・・・そうか、わかった」


陽太は納得した様だったが、石動は微妙に納得していないようだった


収納系統にとって、事前に入れてきたものがなくなるというのは能力が使えなくなることに等しい、つまりはただの人間と変わらなくなるという事だ


静希の場合は体術にもそれなりの心得があり、何より左腕のおかげで傷が治るとはいえ前衛である陽太と石動についていけるかと言われると、微妙なところであるからだ


誤字報告が五件分溜まったので二回分投稿


もうどれくらい一回分だけの通常投稿をしていないだろう、感覚がマヒしてきました


これからもお楽しみいただければ幸いです

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