表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
二十話「とある家族のアイの話」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

726/1032

静希の行動

静希がそれに気づいたのは明利がこちらを見た時だった


その表情から明らかに異常事態であることを察した静希はすぐに明利の元へと駆け寄る


明利はどうなっているのかも理解できないのか頭を整理しようとしているのだが混乱しているせいで上手く思考がまとまらないようだった


「落ち着け明利、深呼吸しろ、少しずつでいいから」


静希の言葉にようやく少し平静を取り戻したのか、明利は小さく息を吸ってからゆっくりと吐いていく


「どうだ?なにがわかったんだ?」


「・・・えっと・・・何もわからないって言えばいいのかな・・・同調したんだけど・・・体が動いてないの」


体が動いていないという明利の言葉に静希は首をかしげる、ただ単純に意味が分からなかったのだ、現にこうして泉田愛は動いている、なのに体が動いていないというのは少しおかしいのではないか


「・・・明利、俺にもわかるように説明してくれ」


「ご、ごめん・・・なんて言ったらいいかな・・・普通に体としての構造はあるんだけど、細胞一つ一つが本来の動きをしていないというか・・・」


明利もこんな症状を見るのは初めてなのだろうか、非常に言葉に出すのに苦労している様だった


何とか言葉を探りながら説明するに、彼女には代謝活動などがほとんど行われていないのだという


具体的には臓器の運動がほとんどないのだ


動いているのは脳と心臓と血液、それ以外の内臓はほとんどが停止している状態なのだという


臓器が動いていなければ胃などの生きるために必要な行動すらとれないのだが、少し長く同調してから確認したところ、なんでも体の中にエネルギーを自発的に作るような器官ができているらしい


外部からのエネルギー供給を無くし、内部のみのエネルギーを循環させることで本来必要な代謝などを排除した結果なのではないかと明利は説明した


本来の人間のそれとは圧倒的に違う、これが泉田の言う病なのだろうか、それにしてもおかしい状態だ、普通生き物は外部から食べ物という形でエネルギー源を取り込み、内臓を使うことで体を動かせるだけのエネルギーを得ている


それを自らの体の中だけで作り出すなど本来人間にできることではない


「ねぇ愛ちゃん、体が痛かったり辛かったりするのかな?」


「ううん、パパがなおしてくれたから全然痛くないです・・・でもパパはアイを見てくれないから、少し寂しいです、でも最初、アイに笑いかけてくれて・・・それが嬉しくて」


最近泉田はどうやらずっと研究や仕事に打ち込んでいるせいで娘である愛とスキンシップをとっていないようだった、救いたいと思うのはよいことなのだがもう少し顧みてもいいのではないかと思えてしまう


静希が視線の端でとらえた泉田愛の笑顔は、口角が歪むという表現が最も似合う、不慣れな笑顔だった、この歳の女の子にしては不思議な笑い方である

そんなことを考えている時、静希はふとリビングの片隅に飾られた写真に目が行く


そこには家族で撮った写真が飾られている、泉田やその妻、そして娘の愛が笑って写っているのが見える


今この目の前にいる無表情な愛とは似ても似つかない満面の子供らしい笑顔だ


ここで静希は僅かに違和感を覚える


何かがおかしい、何か引っかかるのだ


写真に写る少女と、目の前にいる少女、表情が違いすぎるというのもあるかもしれないが、静希の勘が『これ』は異常だと告げている


「愛ちゃんは今いくつなの?何年生かな?」


「アイは十歳です・・・学校には行けてないです・・・パパが行っちゃダメって」


「そっか・・・それじゃ退屈だね」


明利が愛と話している時、静希は目の前の写真に釘づけになっていた


泉田愛は十歳、その言葉を聞いて、ようやく今まで感じていたその異常性を理解したのだ


写真に写っている泉田の姿、そしてすぐそばにいる愛の姿


明らかに、年齢がずれすぎている


先程まであっていた泉田は多く見積もっても四十代後半、だがこの写真に写っている泉田は三十代前半、あるいは二十代後半に見えるほど若々しい


そしてその近くに写っている愛は今と全く変わらない外見をしている


恐らく十年近く経過しているであろう写真なのにもかかわらず、その写真と全く同じ外見で存在する少女


これを意味することが一体どういうことなのか静希は測りかねていた


成長が止まっているのか、だが先ほど泉田愛は自分は十歳であると言った


写真の撮影日時を見てみれば詳しい年代がわかるかもしれないが、額縁に入れられているせいで確認することができない


さすがに他人の家の額縁を勝手に分解するわけにもいかない、その為一応写真を撮影し、記録しておくことにした


静希の中にある種の疑念が募る


この少女は一体どういう病に侵され、そしてどうしてこのような姿のままでいられているのか


泉田は一度治療していたと言っていた、だがその結果生き物がこのような状態になるなど考えられなかった


この写真の少女が本当の姿なのか、それとも目の前にいる少女が本当の姿なのか、泉田愛という少女の明らかにおかしな状態を前に静希は眉間にしわを寄せていた


急激に泉田が老化したという事もないだろう、愛が明利と同じようにまったく成長しないという事も考えられるかもしれないが、この違いや証言は明らかにおかしい


疑念が強くなり、静希は視線を鋭くし、警戒を少し強くし始めていた


「明利、今日は帰るぞ」


「え?あ、うん・・・じゃあね愛ちゃん」


「・・・さよなら・・・」


静希に手を引かれながらも明利は愛に向けて笑顔を向けて手を振っている


静希が感じている疑念は明利は全く持っていないようで純粋に愛の体の事だけを心配している様だった


「おや、二人とも今日は帰るんですか?」


「えぇ、ちょっと調べたいこともできましたので・・・そうだ、連絡先を教えてくれませんか、都合がよくなったらこちらから連絡しますから」


静希の申し出に泉田は快く自分の携帯の番号を教えてくれる、いつでも連絡が可能になったところで静希と明利は泉田の家を去ることにする


「静希君、どうしたの?急に」


「・・・明利、あの子の肉体年齢、大まかにで良いけど、わかるか?」


明利の能力はあくまで肉体の状態を把握するためだけのものだ、その肉体を把握することで肉体の年齢を理解することまではできない、だが少なくとも大人か子供かその程度の区別はつく


あの写真が仮に十年近く前の状態で撮影されていたとして、本来の泉田愛の年齢はもう二十代に近づこうとしている頃だ、十歳と二十代、それほど年齢に違いがあれば明利が気付くことができるはずである


「大まかにだけど・・・十歳前後だったと思うよ、少し身長は低いけど・・・」


身長の高低で年齢はわからないが、少なくとも明利は特に気になったところはないようだった、先程の細胞や臓器の活動が異常なことを差し引けば、ただの十歳の女の子のように見えるらしい


明利を疑うわけではないが、確認するべきことが増えたというだけの話だ


泉田が娘を救いたいと思うのは恐らく本心だろう、だがその救いたいという娘の方がおかしいのだ


泉田の背後関係のことを調べるよりも、今は娘である泉田愛のことを調べる方が重要かもしれない


幸いにして静希はそれを確認する術を有している、少々面倒な手続きが必要になるかもしれないが、ただ会うだけなら何とかなるだろうと思われる


もはや一種の顔見知りなのだ、城島に連絡して確認を取らなくてはならないがその程度のことで解決するなら安いものである


「ねぇ静希君、どうしたの?あの子がどうかしたの?」


「・・・まだわからない、あの子が何かの鍵になるのは間違いないんだけど、少し厄介なことになってるのはまず間違いない」


あの子の体の成長が止まっているだけなのか、それならまだ理解できる、だが記憶まで停滞しているかと言われると微妙だ


そう言う病気なのだと言われると静希はそれ以上反論のしようがないが、わざわざ泉田の話を聞くよりも別の所から切り込んだ方が多く話を聞くことができるだろう


「あの写真みたいに、またあの子が笑えればいいんだけど・・・」


「そうだな・・・そうなるといいんだけど」


写真に写っていた少女は満面の笑みを浮かべていた、だがあの家にいた少女は感情そのものが欠落しているかのように無表情だった、時折寂しそうな顔をしているように見えたが、それすらも本当に希薄な変化のせいでほとんど気のせいなのではないかと思えるレベルである


そんなことを考えていると明利は静希の顔を見て僅かに微笑む


「・・・?どうした?」


「ふふ・・・静希君が人助けするのって新鮮だなって」


明利はそんなことを言いながら笑っている


静希自身らしくないことをしていることくらいわかっている、だが明利はそういう静希が好きだった


誰かのために何かをできる、そう言う静希が大好きだった


静希は不思議と人を惹きつける力があるのだ、自分が前に出て何かをする、その背中を見て明利は静希が好きになったのだ


「まぁ、そう言われるのもしょうがないけどさ・・・大体助ける義理なんてないんだし」


「そう言いながらしっかり考えてる、言葉と行動が一致してないよ?」


今もこうして自分で動いて解決への糸口を探そうとしている


それが泉田のためなのか、それとも彼の娘の愛のためなのか、それはわからない


だがこうして誰かのために思考を進める静希の横顔を見て、自分がこの人が好きであるという感情がどんどん湧き上がってくるのが明利は嬉しかった


「なんだかそれだけ聞くと俺ただの嫌な奴だな」


「そうじゃないよ、そう言うところが静希君のいいところだよ」


「・・・褒められてる気がしないなそれ」


そうだねと笑いながら明利は今度は静希の手を引いて少し小走りになりながら前へと進む


明利は静希のいいところも悪いところも知っている


いいところも悪いところも、怖いところも嫌いなところも、全て好きになってしまったのだから、しょうがないのだ


だからこそ、明利は静希に全力で協力する、静希が誰かを助けたいと思うのなら明利も全力で助けようとする


明利が好きになった静希は、雪奈が好きになった静希は、そうやって誰かのためにこそ本当の意味で全力を尽くすことができる人なのだから


土曜日なので二回分投稿


誤字報告がないのは嬉しいんですが、また大量に報告されないかとビクビクしてしまいます、そしてほんのちょっぴり寂しかったりもします


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ