“安いタイ”が消えていく――バーツ高と物価上昇で変わる「観光大国」の今
「タイは安い」…多くの日本人が抱いていたイメージが今、大きく揺らいでいる。その背景にあるのは、タイの通貨「バーツ」の急騰と都市部のインフレだ。コロナ禍が明けて、かつての観光立国としての姿を取り戻したかのように見えたタイだが、再びタイの観光産業は大きな課題に直面している。 【画像】タイの国民的俳優 ダビカ・ホーンと巡る バンコク市内の知られざる“映えスポット”
■タイの価格に変化 ビール一杯が“1000円”に!?
日本から年間100万人以上が訪れ、「コスパ最強の楽園」として長年愛されているアジア有数の観光地、タイ。しかし最近、日本人の間で「タイは高くなった」という声が多く聞かれるようになった。 タイには日本人にも聞きなじみのある「シンハービール」のほか、「チャーンビール」「レオビール」など数多くのビール銘柄があり、安価で購入することができた。しかし今や、ビールも“高級品”になりつつある。三大寺院のひとつ、ワットアルンを眺められるレストランでは、シンハービールが日本円で一杯約1000円。観光地料金とはいえ、日本人からしても高価に感じる。また、屋台で売られるビールも一杯400円程度になっていて、日本と比べても決して安いとは言えなくなっているのだ。 コスパ最強と評された観光地で今、何が起きているのか。
■“バーツ一強”時代の到来
背景にあるのは、ここ数年続く「円安バーツ高」の影響である。バーツの対円レートは、2021年12月頃には1バーツ=約3.4円だったが、2025年12月時点では約4.9円と約40%上昇し、コロナ禍以来の高値に到達した。バーツ建ての商品価格自体は変わらなくても、日本円に換算した場合の価格が上がるため、日本人にとっては実質的に「高くなった」と感じられる面がある。 これは円安の影響もあるが、今回のバーツ高は日本に限った話ではない。バーツは対ドルでも2025年に入り年初来、約9%上昇し、中国元や韓国ウォン、ユーロなどに対してもバーツ高が続き、今や“バーツ一強”とも指摘される状況だ。
■「バーツ高」の背景にある複合的な要因
タイ中央銀行のサシトーン氏によると、バーツ高の要因に「米ドル安」と「タイ金利の高さ」「資本流入」があるという。 アメリカの中央銀行にあたるFRB=米連邦準備制度は、2025年12月に3会合連続となる利下げを行った。これによって市場ではドル売りが優勢となり、為替レートに影響が出た。 一方、タイは日本などの低金利国と比べると金利水準が高く、新興国通貨の中では比較的安定した通貨と受け止められている。インフレ率の低下によって実質金利が意識され、海外からの投資マネーが流入したこともバーツ高の一因となった。 そして追い風となっているのが「外資企業のタイ進出に伴う資本流入」だ。タイは鉄道や道路などの交通インフラが整っていることに加え、比較的高い生活水準を背景に、製造や地域統括の拠点として海外の企業から注目されている。こうした投資の増加により、設備投資などに伴うバーツ需要が高まり、通貨高を後押しする要因の1つとなっている。 このように様々な要因が重なってバーツが強い状況が続いているのだ。この事態にタイのアヌティン首相は「バーツ高は輸出と観光の競争力を損なう」として、バーツ高抑制を目的とした緊急対策チームの設置を指示した。