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増田文学のススメ2024

この記事は黒井心さん主催「ここ一年で心に残ったベストエンタメコンテンツを全力でオススメする Advent Calendar 2024」の20日目の記事になります。昨日のいいもさんからのバトンです。


みんな漫画とか小説とか映画とか、文化的なものを摂取しててえらい。

自分は怠け者なので労働の間に下世話なネットに触れてフフッ…ってなる生活の1年間だったので、文化的な何かを勧めることはできません。

なのでオススメ増田を紹介します。
今回はアドベントカレンダーの小休止。良質だけどくだらないものを摂取しよう。


きみは増田文学を知っているか?

そもそもの話として、増田文学というものを知らない方がほとんどだと思います。
端的に説明すると、増田文学とは「はてな匿名ダイアリーに投稿された匿名の文章の中で、特に惹かれる・魅力ある文章につけられる総称」です。誰が決定・選別をするわけでもなく、自然発生的にこの称号が与えられるものであり、それゆえに定義自体も曖昧です。上記の定義も自分で考えたもので、なにか基準があるものではありません。

まず「はてな匿名ダイアリー」とは、はてなブックマークやはてなブログを運営する、株式会社はてなが提供しているサービスのひとつです。

はてな匿名ダイアリー

AnonymousDiary

アノニマスダイアリー

増田

という感じで、通称「増田」と呼ばれています。出版社や雑誌の名前ではありません。また、はてな匿名ダイアリーに投稿された文章も同じように「増田」と呼ばれています。

アカウントさえあれば匿名で文章を投稿できるため、他のブログサービスとは一線を画す独特な空気感が漂っています。仕事の愚痴・他者への悪口・日常の不満・下ネタ・思いついただけの創作話など、インターネットの掃きだめのような文章が日々投稿され、それに対しレスバを繰り返す。在りし日のインターネットの生き残りのような殺伐とした場所です(個人の見解)

ネットサービスが全体的に健全化し、有志によるファクトチェックがなされ、ヘイトは厳しい目で見られる2020年代のインターネットにおいて、ここまで野放しにされた原生林はなかなか珍しいんじゃないかと思います。

一般人が書き込める場所としては2番目くらいに好き勝手されてる場所だと思う(1番はヤフーニュースのコメント欄)


しかし、そんな弱肉強食の原生林だからこそ、時に名作が生まれることがあります。なかには一定の話題になる文章も生まれたりしています。

国会で取り上げられ、2016年の新語・流行語大賞にもノミネートされた投稿。wikipediaまである

朗読や派生作品などがいくつも生まれた。クソデカシリーズは現在でもたまにネタとして使われる。



こんな感じの。


他の文章サービスやネット記事では味わえない人間臭さや真偽不明の面白ネタ。そんな増田に投稿された中で、特に魅力ある文章に対しつけられるのが「増田文学」の名です。
(繰り返しますが誰が決めているというものでもなく、当然運営である株式会社はてなは関与してません)


2024年ベスト増田文学

前置きが長くなりましたが、そんな増田文学のなかで今年最も好きな文章を紹介します。



「お前らは食べ放題のよろこびを忘れてしまっている」




前提として、これは2024年3月にX上で「焼き肉食べ放題で上タンばかり食べ続けたら店長にマジギレされた」という投稿で物議をかもした一連の話題が起きたことを受けた文章です。

「同じものばかり食べるのはマナー違反」「食べ放題だから何を食べようが自由」など、食べ放題に対する様々なお気持ちが溢れていた時にこの増田が投稿されました。

5分もあれば読める文章なので、ぜひ一読してみてください。

以下、この増田がいかに増田文学たる面白さを持っているか、ここすきポイントを紹介します。


①共感を呼ぶ導入と展開

原因はわからない。きっと加齢だとは思う。胃が弱り、ガツガツするのをみっともないと思うようになり、アブラを受け付けなくなり、鶏肉とブロッコリーを蒸したやつしか食わなくなり、そしてお前らは食べ放題のよろこびを忘れた。

最初から「食べ放題とは~」のように本題に入るのではなく、つかみとして共感あるいは想像しやすい話題から入っています。理論より感情に訴えてることで拒否感を感じずに読み始めることができる。まずフラットかつユーモアのある視点から文章を始めることで読者の興味を惹きつけている非常に巧みな導入だと思います。

②なんかすごくいいこと言ってる感

なぜなら、すたみな太郎にとって、お前の笑顔こそが一番の報酬だからだ。ほかの食べ放題屋はそうではないかもしれないが、すたみな太郎だけはお前の幸せを真剣に願っている。お前の打ち込んでいる、サッカーか、野球か、そろばんか、プログラミングか、なんなのかは知らないが習い事の成功を願っている。そして今でもお前の幸せを願っている。お前は今、幸せか?

食べ放題の具体例としてすたみな太郎を挙げているのですが、この辺から急に話題の方向が変わってきます。食べ放題論から始まったはずなのに、いつの間にかすたみな太郎への情熱へ話題がそれていきます。
「お前はすたみな太郎のなんなんだよ」というユーモアを感じさせる一方で、文面から作者の熱い姿勢が徐々に伝わってくる部分でもあります。謎の立場と上から目線という作者の立ち位置がなんとなく分かってきたところで「お前は今、幸せか?」と急にこちらに問いかけてくる。読者の注意を再度ひくタイミングが見事です。

③ちょっとしたズレ

食べホには自由がある。何をどれだけ食ってもいい。殺人以外は何をしても許される。

そうかな…
そうかも…


④テーマに対してのさりげない主張

食べ放題の魅力は、後出しジャンケンをされないところにある。明文化されているルールの範囲であればなにをやっても許されるフリーダムさこそが食べ放題の魅力だ。「俺の行為で周りが迷惑するかも」なんて考える必要は1ミリも無い。マジで1ミリも無い。

自分にルールを決める権限がありながら後出しジャンケンをするカスの資本家店長も食べホの魅力をわかっていない。「スイーツは1品のみ」「フカヒレは1皿のみ」「一度に注文できるのは5皿まで」とルールを明文化して戦っている食べ放題屋さんは今ではありふれている。実にフェアだ。隣町のスポーツ少年団をサッカーでボコボコにしたあの輝かしい日のお前のように、完璧なスポーツマンシップにのっとっている。そういう店と比べると、ルールを決める権限があるのに明文化せず、シンプルなルールでお得そうに見せかけて客を呼ぼうとするのはフェアじゃない。

作者が最も主張したい部分はこのあたりだと思います。意見を押し付けるわけでも、もったいぶって論破するわけでもない。今までのユーモアから自然な流れでテーマに対する主張をさりげなく、でも明確に述べている。読者に嫌味を感じさせない工夫があります。

⑤文章のリズム感

そしてゴムみたいな肉を食え。それに飽きたらほとんど燃料としか思えない真っ白な肉を食え。そして黒毛和牛ではなく"黒毛牛"と書いてある謎の肉を食え。黒毛牛はそれでも他の肉よりは高そうだから、黒毛牛ばかりを食え。飽きたらラーメンを食え。タフな老人になれ。サンチュを焼け。手羽先を焼け。黒毛牛を焼け。ラーメンにカレーをかけろ。そのかわりに必ず全部食え。アイスを食え。他人の気持ちがわかる良い老人になれ。寿司にラーメンスープをかけてお茶漬けを作れ。黒毛牛を焼け。そしてサッカーで優勝しろ。サッカーじゃないのなら野球でもいい。お前が優勝できないならお前の子供が優勝しろ。子供も無理なら近所のガキでもいい。なんでもいいから優勝しろ。幸せになれ。お前の幸福、ただそれだけがすたみな太郎の望むことだ。そしてドリンクバーを混ぜろ。"黒毛牛"をラーメンに乗せてチャーシュー麺を作れ。そして唐揚げを焼け。寿司を焼け。

ラストの文章。この勢いたるや。読んだだけでも息継ぎせず一気に語り掛ける作者の熱意が伝わるかのようです。
小さく区切られたそれぞれの文章がせわしなく場面転換する様子は、短いカットを矢継ぎ早に見せる映画のようです。それぞれが想像しやすい場面であるからそこイメージしやすく、その勢いがラストの盛り上げを手伝っています。
ここで終わり!?って感じの急ストップですが、それがまた不思議な余韻があります。こういう終わり方だからこそ読んだ人に強い印象を残せるのかもしれない。



論破するでもなく、説教するでもない。世間話のような導入で相手の興味を引き、相手の想像しやすい具体例を用いて自分の主張への説得力を高める。もちろん相手が嫌味を抱かない程度のユーモアを含めて、一気に読ませる構成力。
こういう文章が書ける人がたまに現れるから増田はやめられない。


ほかにも、興味のある方は「増田文学100選」で検索してみると、有志がまとめたその年の面白い文章がいろいろ読めます。そちらもおすすめです。


洗練された文化的なコンテンツに触れることは大切だけれども、それだけでは疲れてしまいます。
健康食や精進料理だけでなく、たまにはニンニクマシマシアブラカラメのラーメンを食べてこそその良さが分かるもの。
時には下世話なネットを覗いてフフッ…ってしていきましょう。


アドベントカレンダー、明日はクロイタダシさんの記事です。

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増田文学のススメ2024|紅ばめ
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