弐百四拾九振目 刀装具購入の注意事項(鍔・目貫)
刀装具で注意するとすれば「鋳造品を買わないこと」をあげておきたい。
●鋳造(ちゅうぞう)鋳型に溶かした金属を流し込み冷やして固める技法。鋳型に凹凸を持たせる事で、固まった時に形が形成される。
●鍛造(たんぞう)金属板を叩いて打ち出すなどして凹凸を持たせ形を形成させる。
いやしかし、文字からして鋳か鍛か見分けづらい……目が悪いせいですかね。
それはさておき刀装具には「鋳造品」と「鍛造品」の二つがあり、鋳造品は美術品としてほぼ認められず価値が無い。
日刀保の審査規定では「江戸時代を下らない鋳造の作品であっても、雅味があり、鑑賞に堪えうるものは合格とする場合がある」、「現代の鋳造品は不合格とする」とあるからです。
つまり明治以降の鋳造品は全部不合格、室町・江戸時代の鋳造品で素晴らしく出来がよく凄い伝来のある品であれば認める可能性が僅かにあるという意味です。
ところが巷で売られている品は鋳造・鍛造の明記もなければ、区別もせず売られている。これを日本刀で言えば、模造刀と真剣をごっちゃに売ってるようなものです。
模造刀と真剣であれば簡単に見わけがつきます。
ただ模造刀は素材の制約があるから見分けられるだけで、刀装具の場合は制約がない。同じ素材で製造されているため基本知識がなければ見抜けない。
鋳造品として承知の上で買ったなら良い。
ですが、鍛造品と同じ値段で知らぬまま鋳造品を買ってしまうと結構に辛い。
もともと鋳造品の刀装具は古くから存在し、目貫などは江戸時代頃には安価な消耗品として大量生産されています。また鍔は明治頃に海外への輸出品などで鋳造生産されています。そして昭和以降でも両者の鋳造品は盛んに作られている。
もちろん生産者は真面目にやってます。
これを悪意もって数千円の土産物を数万円で売る者がいるので駄目なだけで。
その為、「鍔」も「目貫」も鋳造品がある前提で品を見ねばならない。なお小柄はその形状的に鋳造品は存在しない(はず)。ちなみに刀剣の鋳造品である模造刀を見抜けない人は居ない(たぶん)ので割愛。
一応は見わけ方として以下の手法がありますが、そもそも鋳造か鍛造か判別するのは困難ですし……加工することで鋳造痕跡を消せるので参考程度に。
■巣の有無
巣とは鋳造時に生じる気泡の穴(プリンや茶碗蒸しで、巣が入ると言うアレです)。
この細かい小さな穴が表面にあれば鋳造。元が気泡の為、概ね針の先で点いたような丸い穴。概ね一箇所に数個ぐらいまとまる事が多い。
これは消せないため見抜くポイント。
しかし必ずしも有るとは限らない。
■打ち出し痕の有無
鍛造であれば叩いているため打ち出し痕が生じる。
しかし鋳造品をベースに鋳型を製造したり、鋳型そのものに打ち出し痕を付ける場合もあるので絶対ではない。こうように鋳型で作られた打ち出し痕は、ややのっぺりした感じがするので判別出来るのですが……まあ、これも分かり難い。
■目貫の場合は、根の根元
鍛造品は根を後付けするため、必ず根元に接合部が生じる。鋳造品は最初から根をつくる場合があるので、その場合は根元が一体化している。
ただし、鋳造品でも根を後付けする場合もあるので絶対ではない。
また鍛造品でも上手に蝋付けした場合は後付けが分かり難い場合がある。
■バリの有無
鋳造品は鋳型に流し込み製造するため、バリが多少なりとも発生する。バリとは意図せず隙間に入り込んで固まった薄い膜のような部分。狭い隙間に発生しやすく、目貫の場合は裏面の縁に生じ易い。
ただし加工段階でこのバリも削られる。その場合も切削痕で見分けるが分かり難い。
■私個人の感覚感想として
表面や形状が滑らかすぎ、爪など細部が独立していない。こんもり立体的でも彫りが平坦で浅い、といったものは怪しい。
平たい部分に巣が生じ易い、複雑な箇所で深さが足りず奥でくっついている。茎孔など奥行き方向に鋳造の特徴(滑らか)が出やすい。
値段としては、だいたい十万以下に怪しい品が多い。またキリ良い十万も狙われやすい。もちろん高い品でもある。
といったところ。
いやさ、鋳造品でも図柄が良いと買ってしまいます。しかし、騙されて買う場合もありますし。そうした品がちょこちょこ手元に来ますので、それらの中で残っている品の感じを述べますと。
■鋳造鍔1
知り合いから頂いたもので、購入先はヤフオクだそうで。
素材は銅系統の合金。表面は色絵痕もあり古さを感じるが、図柄から明治前後かと思われる。それにしては色絵が剥げ過ぎているかもしれない。
茎孔形状を見ると妙に鋭角な三角形。さらに茎穴に比して鍔が大きすぎバランスが悪い。また重くて実用的では無い。巣は僅かにあり、バリはなく表面は滑らか。
■鋳造鍔2
自分で買ったもので、購入先はヤフオク(赤坂鍔系統とあった)。素材は鉄。千疋猿のような構図で非常に緻密な出来。
写真で見た時は鋳造品とは全く思えない。茎孔の形状、小柄穴も笄穴もしっかりした形状。さらに責金のあった痕跡もある。
実物は切羽台表面が滑らかで艶やか過ぎ(赤銅地の如き)、そこに細かな巣がパラパラ見られる。また茎孔の中が滑らかすぎる。細かい部分のバリは取り除かれている。図柄の細かい奥でくっついている。
これは実物を見ると分かるだけで、画像ではコントラストや光の位置で上手く隠されている。分かってから加増を見れば、責金の痕跡が綺麗に整い過ぎ拡大すると巣も微かに確認できる。
■鋳造目貫
某刀剣店で購入(全国刀剣商業協会組合には未加入)。
店の説明は「容彫」「金無垢」で、鋳造との説明はなし。値段は金無垢目貫で8万円。これは鋳造と知りながら図柄が好みで購入。
表面に巣があり、また滑らかすぎる。裏面を見た時の肉厚が分かる端部に厚い狭いの差が激しく、厚い部分がボテッとしている。
表は毛彫り片切り彫りされているので知らなければ鍛造と思うかもしれない。しかし爪など端部の彫りは浅く平坦な印象。
これは鋳造と分かって買いましたが……これが金無垢でなく金着せ素銅!
なぜ騙されたかと言えば理由が二つ。
裏面が麦漆で覆われ素銅部分が隠されていた。購入時は「一度使用して接着したなら麦漆もあるよな」と思い、金無垢の鋳造品なら8万円ぐらいの相場なので、逆に値段で信じてしまった。
一つ見抜いた先に、もう一つ罠があろうとは。いやはや奥が深い。
上記のように十万ぐらいまでで怪しい品が多いわけですが、その値段なら買い手も大抵は泣き寝入りして諦めるからで、騙す側もそこそこの儲けられ数で稼げるからかと思われる。
見わけ方を念頭に置き、実物を手に取って確認すれば少なくとも鍛造か鋳造かは殆ど見抜けると思います――が鋳造と見抜いた先に別の騙しがあったり、鍛造と安心した後に別の騙しがあったりと油断ならないわけですがネ…。
得てして購入時は欠点や怪しい箇所も好意的に捉え良い方向に解釈しがち。
ご用心、ご用心。
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