新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「ここは雲騎軍が使ってる訓練場、存分に戦えるよ。」マネモブが連れて来られたのは、石作りの床で敷き詰められた屋外にある広場だった。辺りには演習用の武器のような物がチラホラあるが、人っ子一人おらず閑散としていた。他の雲騎軍は星核騒動の後始末で忙しいのだろう。
「お兄さん、絶滅大君を一人で倒したんでしょう?」目の前のガキは明らかにワクワクしている。武術を磨く者にはありがちな病だ。強い奴を見たらところ構わず戦ってみたくなる。
「私の前では赤子のように大人しかった…」
「絶滅大君を赤子扱いか、それじゃあお兄さんを倒せば、僕は絶滅大君より強いって事かな?」
「良いんですか?地獄に行っても。」マネモブもまた自信たっぷり、調子に乗ってるガキに非常な現実を突きつけてやるという態度だ。
「フッ、御託はもう良いよね?」さっさと試合しようと彦は剣を抜く。
「ほう、剣使いか。ならば…」「!」目には目を、剣には剣をとでもいうのか、マネモブは猿空間から日本刀を取り出した。
「へぇ、お兄さんも剣で戦うんだ。」マネモブは徒手空拳で戦うと聞いていたが、剣同士の戦いなら尚更燃える。
「手加減はなしだよ?」「本気でやれと?勘弁してくださいよ。未来ある若者を殺してまた刑務所なんかに入りたくないですよ。私を産んでくれた父や母が哀しむじゃないですか。」マネモブは全力を出したら君などあの世行きだと煽る。
「そこまで言われたら…俄然試したくなっちゃうなあ!」彦卿は現存する羅浮の剣士で最強と将軍様からこの若さでもうお墨付きを頂いているのだ。ここまでコケにされては将軍護衛の名が廃るというもの。開戦の予告なしにマネモブに切り掛かった。
キンッ…マネモブは彦の剣を正面から受け止め両者力を込めて押し合う。
(うう、やっぱり力勝負はお兄さんに分があるな…)子供と大人とでは骨格から筋力まで何もかも違う、これは差別ではない、差異だ。この差はトレーニングでは埋まらない、どうしようもないんだ。
鍔迫り合いは無理だと判断し一旦下がる彦。
「こんなものですか?大したことないなあ雲騎軍の剣術も。」身を引かれてちょっとガッカリしたマネモブが今度はこっちの番だと剣を振った。
「この刀はね、鉄ではなく特殊合金で出来てるんですよ。軽量化されより強靭に、より切れ味を増しているんです。まだ試した事はありませんが、この”超日本刀”ならダイヤモンドだって斬れるんじゃないかと思えるんですよ。」
「斬るとは、こうッ」
ヒュンッ 剣は辛うじて彦を掠める程度だったが、マネモブの振った剣は地面に深々と刺さっていた。恐るべき切れ味である。こんな攻撃を本当に喰らったら輪切りにされてしまう。しかし、
「あれっ、」(チャンスだ!お兄さんは地面から剣を抜くのに手間取ってる…ここにカウンターを決めれば僕の勝ちだ。)貰ったと隙を晒したマネモブを横からトドメを刺しに行くが…
「私の使う”円月流剣術”はあらゆる局面に対応出来るんですよ。」マネモブの強烈な横蹴りが彦の顔面に直撃した。カウンターを決める筈が逆にカウンターを決められてしまう。
「うう、誘ったのか…!」剣が抜けなかったのはフェイントだったようだ。剣使いが徒手空拳をしないとは限らない。
「鼻血、出てるじゃないですか。もう終わりにしませんか?」彼の美しい顔を蹴った事に多少は罪悪感があるのかもうやめようとマネモブは促す。
「ハッ、こんなのは序の口だよ。僕だってまだ切札を見せてないんだから…」今まではマネモブの力量を計っていたに過ぎない、本気を出すのはこれからだ。
「飛剣よ!」彦の掛け声に応じて空を自由自在に駆け回る四本の剣が出現した。
「それがあなたの切札ですか?」「ああそうだよ。剣よ我に従え!」主に攻撃命令を出された剣はマネモブに向かっていく。
ヒュンッ、カッカッ マネモブはファンネルのような動きの剣を避ける、撃ち落とす…しかし、幾らかの攻撃は喰らってしまい、皮膚に切り傷が出来た。
(効いてる…効いてるぞ!)絶滅大君を倒したという強者にも自分の技は通用している。その事実に彦卿は高揚する。
「確かに…スピードも手数もある…」マネモブは目の前にいる子供の芸を褒めるが…
「しゃあけど…残念ながらパワーがないわっ」そう言うとマネモブは立ち止まり、全ての飛剣を手で掴んでしまった。
「なっ」「ちょっと手は痛いけどな…これがマネモブ流”真剣白刃取り”!」必死こいて鍛え抜いて編み出した技がこうもあっけなく止められたという事実に彦の心は揺らぐ。メンタルの不調は術のコンディションに直結し、飛剣を制御する力も弱まった。
「術を温存していたのは君だけじゃないんですよ?」彦の剣を投げ捨てたマネモブが新しい技を披露する。
”円月流” ”陽炎”
(景色と…)特殊な身のこなしが成せる業なのか?それともまやかし剣法なのか?マネモブは周りの風景と同化してしまい目視出来なくなった。どこから襲ってくるのかと焦る彦である。
ボボッパンッ「はうっ」そんな彦に無情にも拳の連撃を喰らわせるマネモブ。だが剣を使わなかったのは慈悲かもしれない。彦は大きく投げ飛ばされ地面に大の字に突っ伏せた。
「もう分かったでしょう?君じゃまだ僕には勝てませんよ。これでもまだ円月流最強の技は使っていない…」降参を促しマネモブは近付いていく。
(ぼ、僕は負けたのか…?死ぬ程鍛錬して身に付けた飛剣も通用しなかった…お兄さんの全てを引きだせなかった…完膚なきまでに…)若くして大層な肩書を貰い、今まで敗北の経験がなかった彼は酷く打ちひしがれていた。ショックの余り起き上がる事も出来ずに茫然としている。
「君はハッキリ言って弱い、
(よ…弱い…)その言葉が呪いのように重くのしかかるが、
「良かったのォ。」「えっ…?」「”弱い”って事は、もっと強くなれるって事やん。」勝者が敗者に掛けた言葉は、”愚弄”ではなく、叱咤激励であった。
「さっきも言ったが、スピードと手数には光るものがあった。パワー不足は単純に発展途上なんや。もっとタッパを伸ばして筋力を付ければ、必ず強くなれる。ちなみに筋力を付けたいなら、黄身を抜いた目玉焼き、鶏と野菜で出汁を取ったスープ、鶏のささ身、ブロッコリーのメニューを一日六食喰うんや。滅茶苦茶不味いけどな…ウマイから喰うんやない、強くなる為に喰うんや。」「………。」負けた相手に褒められる、敗者に慰めの言葉を掛けるなど屈辱だと思う者もいるだろう。しかし彦卿は、寧ろ晴れ晴れとした気分だった。この経験を機に、もっと強くなれると。
(負けて得るものなんて屈辱以外ないと思ってたけど…こんなにも尊いものが得られるのか。)
「ありがとうお兄さん、僕の我儘に付き合ってくれて。あんまり遊びすぎると将軍も怒るからね、約束通り病院まで案内するよ。」「ムフフ、それは良かった。」
「ヤット終ワッタヤンケ…」終始戦闘を見ていたトダーに彦は待たせてごめーんと謝りながら、誘導を始めた。
この話描く為に円月流剣術の師範、九条薔薇丸が出てくるTOUGH4巻、8巻、9巻読み直したのが僕です。面白いから是非購読してくれよ。