新運命「愚弄」の行人「マネモブ」 作:異常猿愛者
「あら、マネモブじゃない。久しぶりね、元気してた?今日はトダーちゃんはいないの?」
傷害の罪で身柄を拘束されたマネモブは羅浮の司法を司る「太卜司」にて思わぬ相手と遭遇した。銀河に悪名轟かす犯罪者"星核ハンター"の"カフカ"である。彼女も今日ここで裁判を受けるのだろうか?
「トダーが裁判を受けるのはまた後日らしい、今日裁かれるのはワシ一人や。それにしても…悪名高き星核ハンターはいつからそんな情けない連中に成り下がった。」拘束されたカフカを皮肉るマネモブ。
「これも脚本の内よ。貴方と違って向こう見ずなバカじゃないって事…で、貴方は何しに羅浮へ来たの?また何かやらかしたの?」エリオの予見だと羅浮での彼の介入は想定外である。また歴史が大きく変わったのなら彼の秘技の一つ"田代さん時空"でまた上手い事改変しようと確認する。
「立川博士の薬学研究の為に資料集め代行…それ以上は話せない。逮捕されたのはね、邪悪なウソを付くメス狐に化けた悪霊がいたから舐めブタしてやったの。」
「………その狐の名前は?」
「はい、ていうんとかいう名前だった。」停雲という名を聞いて、カフカは深い溜息を付く。
「貴方…また脚本を大きく捻じ曲げたかもね、歴史修正のペナルティよ。」
「ちょ…勘弁してくれやカフカちゃん。あれ使うと数日寝込むくらい負担大きいんやで。それに何でもかんでも思い通りに時空を歪められると思ったらそんな事なかったし…」彼はハンターの技術提供とゴア博士の天才的な再現性により星核のエネルギーを己という器に流し込み"田代さん時空"を安定して発動出来るようになった。しかし、時空を歪ませるのは便利な側面ばかりではないという。
「事実を書き換えると言っても、起こり得る可能性しか再現できないと言うこと?例えば…私が貴方を好きになるのは絶対にあり得ないからそのような事実を上書きする事は出来ないとか。まあそれに関しては安心して、私達の脚本はエリオの予言を元に作られてるから。この前は開拓者が存護からの一瞥を受けること、列車がベロブルグと友好関係を結ぶこともしっかり成立させられた。」カフカは田代さん時空の概要について考察する。
「カフカちゃん…その例えは酷すぎるで。まあお前達は良いかもしれんけど…」星核ハンターのリーダー"エリオ"は可能性の予見で未来の観測し、それを元に打倒ナヌークの筋書きを紡いでいると言う。マネモブの知り合いにも"カズ婆"や黄泉のオババこと"陳桃花"といった優秀な預言者はいるし、彼自身も偶に部族の神"ジョーイ"からお告げを貰うことがあるから眉唾な話ではないだろう。カフカの話を聞いてふとそんな事が頭をよぎった。
「おいコラ罪人共。私語は慎め。」彼等の雑談に二人を連行している雲騎軍が苦言を呈する。裁判が終わるまでは推定無罪だろうと不満に思いながらマネモブは大人しく黙る事にした。
………
「来たわね。言葉で人を惑わす魔女、そして羅浮に訪れて早々我々の接渡師に暴行を加えた野蛮人。」桃色の小柄な体、額に埋め込まれた第三の目、尊大な態度の女が彼らを待ち受けていた。
「このピンク色のチビは誰なんだ。」
「仙舟が"六御"の一人、太卜司のトップ太卜、符玄様よ。私達は彼女に裁かれるの。」
「………口の利き方には気を付けた方がいいわね。余罪が増えたわよ。」低身長は彼女のコンプレックスだったようだ。手を握りしめワナワナ震えている。
「あれっ、マネモブじゃん。何してるのこんな所で。」
「何かやらかしたの?」
「そうか、彼が皆んなが言っていたあの…」符玄の後ろには顔見知りの開拓者や三月なのかもいた。一人シラナイ男もいたが。保護者だろうか?
「ワシは悪霊に憑かれた女を倒しただけや。お前らこそ何しとるんや。」
「何って…見ての通りカフカの裁判の傍聴に来たんだけど。」
「今の羅浮は星核が持ち込まれて大変なんだ…その首謀者が星核ハンターかもしれないって逮捕に協力したの。」簡潔に説明する二人。
「あら、列車と知り合いだったのかしら?今はそんな事どうでもいいわ。貴方が暴行を振るった停雲に歳陽が取り憑いていたのは報告を受けてる。でもそれとこれは別、貴方が彼女の肉体を傷付けた事に変わりはない、しっかり裁きを受けて貰う。それに…部下に調べさせたのだけど、貴方と仲間のオムニックが入港した記録が存在しないの。不法侵入の疑いも掛かってる。」
ゴア博士はハッキングの痕跡を残さなかった。マネモブ達がさっさと帰っていれば領域侵犯がバレる事も無かったのだが…符玄が言うには停雲は今原因不明の熱に苦しんでると言う。体内の気を乱された事による後遺症だろうが、余罪がバレてきた事にマネモブは内心焦っていた。
「何にせよ、窮観の陣に立たせれば貴方達の目論見は全て分かる、そっちの魔女もね。太卜司の占いは100%当たるから、隠し事は不可能よ。」最後にカフカを睨むと符玄は先に行ってしまった。公判の準備があるのだろう。
「あわわ、だとしたら不味いよ俺は放火殺人犯になっちゃうよ。」マネモブは色んな余罪が大っぴらにされると冷や汗を流す。
「…別に放火殺人はしてないでしょ。」カフカがマネモブにツッコむ、裁きの時はすぐそこだ…
………
「う、浮いてる。すげぇ…」まず初めに窮観の陣に立たされたのはマネモブだった。陣に立たされた彼は空に昇っていく。符玄は真剣な表情で彼の記憶を掘り出していく。
『俺もバースト・ハートなんだ。今は針治療とゴア博士の特効薬で進行を遅らせているが…いつ心臓が停止するか。』
『フム…豊穣の加護を受けた長命種の肉体サンプルさえあれば、もっといい薬が出来るかもしれんな。もし研究資料を集めてきてくれるなら、新しい"タチカワ・スペシャル"を君にプレゼントするよ。何、私は科学者だからね!知的好奇心から研究がしたいだけさ。』
記憶の中のマネモブは、狐顔の下卑た笑いをする科学者を名乗る男と話していた。彼は"バースト・ハート"という10万人に一人が罹患する病気に苦しんでおり、その治療法を求めて羅浮に来たというのが真相だった。
「成程ね、病気の治療を求めて訪れたと…態々同盟まで来る殊俗の民にはありがちな事ね。同情はしないわ。」豊穣を同盟の外に持ち出そうとするのは大罪だ。彼には重い罰が必要そうだ。
「………裁判はこれで終わりよ。」マネモブはまた地に足を着ける。
「わ、ワシはどうなるんですか…?もう、おかしくなってしまう…」彼はどんな罰が下されるのかとヒヤヒヤしている。
「そうね、暴行だけなら大した罪にはならないのだけど…許可無しでの入港は侵略行為として見做されてもおかしくない。そして未遂とはいえ長命種の肉塊を持ち帰ろうとした…永久追放か…はたまた幽囚獄で懲役を受けるか。」その二つなら永久追放の方がマシだと思った。長命種の時間感覚で刑を受けたら死ぬまでムショ暮らしもあり得る。何の土産もなく同盟と禍根を遺したまま去るのは悔しいが。
「クソオオオオッ」悲痛な叫びを上げるマネモブ。その場に崩れ落ちる。
「貴方の占いはもう終わったから、早く去りなさい。」
「オラッさっさと立てよ。」乱暴に雲騎軍に連れて行かれるモブであった。
「さあ、次は貴方の番よ。」今度はカフカが立たされる番である。
「酷く絶望した顔をしてたわね彼。」カフカはマネモブの不幸をちょっと愉しんでるように思える。
「彼はつまらない罪人だったわ…同情の余地はない。」
「…フッ」不敵に笑いを溢すカフカ。目の前のチビは何も知らないのだと嘲笑っているかのようだ。
「…何か面白い事言ったかしら?」そんな態度に気分を害する符玄。
「罪人…一見するとその法眼にはつまらない悪党にしか映らなくとも、見方を変えれば…」含みを持たせた返答である。
「何が言いたいの、彼と貴方に何の関係が?」
「焦らないで?これから分かる事じゃない。」これ以上はもういいと、カフカの皮肉を無視して占いの準備を始める符玄。
◇これから明かされる真相とは一体ー?
カフカの記憶を覗いて色々知ってしまった符玄。
「つまりマネモブは罪人だが、それと同時に星核騒動の黒幕を早期に倒した英雄だったと言うこと…?」
「そうよ、それでどうするの?」符玄には彼の処遇を如何すべきか分からなかった。