ロドスとレユニオンの両陣営を高速で反復横跳びする一般9級フィクサー()の奮闘劇 作:名も無き悪魔の執筆家
だから仮面を付けた。これを付けていれば、苦痛から目を背ける事ができるから。前を見て歩くことができるから。
Wの電話から2日、約束の日が訪れる。荒れ果てた荒野を歩き、指定の座標へ赴く。目的地周辺といったところまで行くと、一人で原石爆弾の遠隔作動装置をいじっているWを見つける。
.............まさか俺を爆殺するために呼びたした訳じゃないよな?
なんて、そんな考えが頭をよぎったが、頭の外に振り払い、意を決して近づく。幸い爆弾は仕掛けられておらず、四肢が吹っ飛ぶという惨事は免れた。向こうもこちらに気づいたのか、手で持っていた装置をしまい、こちらに近づいてくる。
「遅かったじゃない、ローラン。レディを待たせるなんて、なってないわね」
「そっちが日は決めても、時間を決めてなかったからだろ?朝早くから、携帯の着信音で叩き起こされた俺の気持ちを考えてほしいよ」
実際、ほとんど深夜と言えるくらいの時間に起こされたんだ。ぐっすり眠れなかったから、目元の隈が酷いことになってるだろうな。
「隈が酷いわね.......。ほら、これでも飲んだら?」
そう言って渡されたのは水筒だった。こいつこんなことをする奴だったか?なんて疑問が思い浮かんだが、ありがたくいたただくことにした。飲んでみると少し苦かったが、それのおかげか、眠気と疲労が収まった気がした。
「それで、『アレ』は持ってきたのかしら?」
「............あぁ」
水筒から口を話し、懐からのっぺりとした、なんの装飾もされず、穴が何処にも空いていない真っ黒な仮面を取り出す。今朝、Wに言われて持ってきた、言わば俺の過去の象徴。
..........できれば持っていきたくなかったんだけどな。
「うわぁ.........いつ見ても不気味ね、その仮面。あの時はいつもそれを付けてたわよね」
「俺の祖母の教えだったからな。あの人にはお世話になったし、あの人のおかげで俺が生きてられるからな」
そう言って思い出すのは遥か昔の遠い記憶。寄り添える相手がいない孤独だった時に、己を育ててくれたあの人の教えを.............。それを思い出して昔を振り返ろうとするが、Wの声によって掻き消される。
「ダウト、それ以外にも理由があるでしょ?他のヤツらには隠せても、あたしには隠せないわよ」
「..........」
「..........だんまり。まぁ、いいわ。あたしは優しいもの、今は無理に話させたりはしないわ。いつかどんな手を使ってでも吐かせてあげる」
「最後なんか言ったか?」
「いえ何も、気のせいじゃないかしら」
そう言うWの視線が痛い。いやまぁたしかに隠してるけど、それは俺の過去の話になるし、話したって面白くないからな。別にだんまりでも大丈夫だろ。
「...........それで、肝心の話を聞いてないんだが。依頼の内容はなんだ?」
「そういえばまだだったわね。今日あんたに来てもらったのは、私達と一緒にチェルノボーグを襲撃してもらうからよ」
「............................は?」
待て待て待て、今目の前の女はなんて言った?チェルノボーグを?襲撃する?感染者に対しての差別がテラで最も酷いウルサス帝国の膝下の街を?襲撃する??????
「帰る」
「待ちなさい」
「帰るに決まってるだろこの狂人が!原石爆弾の使いすぎで頭も爆発したのか!?死にたいんなら一人でやれ俺を巻き込むな!」
こんなことを聞いて帰らないやつはいないだろう。もちろん俺もその一人だ。ウルサスはヤバい。歯向かえば、馬鹿みたいに強いウルサス軍が隊列を成して侵略を始める。たかが先鋒が普通の国の一般兵の何倍も強いだけじゃなく、裏には皇帝の利刃と言う化け物が潜んでいる。一体で数個小隊を壊滅できるってどんな体してんだよ............。いやマジで。そんなわけで俺は行かないと言ったが、もちろん許されるわけもなくWが俺の行く手を阻む。
「ちょっと、少しは落ち着きなさい。別に私一人で行くとは言ってないし、そもそもあんた一人でも十分やれるじゃない」
「俺はただの9級フィクサーだぞ?そんなやつに何ができるっていうんだよ」
「あんたねぇ、あたしにそれが通用すると思ってるわけ?」
「..........何が言いたい」
何かを知っているような態度を取るWに嫌な考えが頭をよぎる。だが、いや、まさか、そんな筈はない。俺の正体を知っている奴らは全員殺した筈だ。あの時、この手で...........。
「お前、..........まさか」
「ふふ、こう言えば分かるかしら?
テラの悪夢、戦場の支配者、彼の者の正体は誰も知らず、黒いベールに包まれ、誰もその仮面の裏を見ることができない.............。正体を知れば最後、どんな人物であろうと《沈黙》する。あなたなら聞いたことあるわよね、ローラン。いえ、この場合は..............」
特色フィクサー【黒い沈黙】
「って言うべきかしらね」
「なんで.....それを..............」
「なんで.....?そんなの.........そんなの決まってるじゃない」
Wの顔は歪んだ笑みに満ちていて恍惚としていた。もはや狂気とも言える表情に悪寒が走る。
「あんたがあたしの全てだからよ、ローラン」
「.......っっ!?」
「テレジアが死んだあの日。宛もなく彷徨って、目の前に映る顔を一つ一つ塗りつぶしていたあの日。もはや幽霊みたいなあたしに、あんたは手を差し伸べてくれた。あんたがあたしに優しくするから.............。テレジアを失ったあたしには、もうあなたしかいないのよ。ローラン。あなたと別れてから、あたしはあなたのことが知りたくなった。だからあたしは、あなたの事を調べ上げた。過去のあんたも、今のあなたも」
「............」
「調べていけばいくほど、あんたの正体が分からなくなる感覚には恐怖を覚えたわよ。もしかして、ローランはあたしの頭が作り出した幻覚なんじゃないかって、そんな考えが頭によぎったわ..................でも違った。ローランは存在した。それも、特色フィクサー【黒い沈黙】として」
「..........W」
「だからあなたが9級フィクサーにまで落ちぶれたと知った時は驚いたわ。...........だからあちこち探し回ったの。あなたをもとに戻すために。そして、ようやく見つけたの。コレを探すのは、結構大変だったわ」
そう言うと、Wは一対の真っ黒な手袋を見せてくる。あの時と同じ、俺を支え、苦しめた、仮面と同じ忘れ難い過去の象徴。それを掴もうとするが、既の所で躱され、手は空を切る。
「ふふっ、欲しがっちゃって。可愛らしいわね」
「なんで、どうやってお前がそれを........」
「それは秘密。それより、返事を聞くわ。内容を聞いたうえで、依頼を受けるか、受けないのか。受けないなら、このまま回れ右で元いた場所に帰る。受けるなら、この手袋をあんたに返して、黒い沈黙としてあたし達と一緒にチェルノボーグを襲撃する。大丈夫、誰かにバレる事は無いし、させないわ。
....................あんたの正体を知っているのはあたしだけでいいんだから」
「..............俺は」
確かにあれは俺の強さの源だ。それでいて、俺のトラウマでもある。あれを受け取るのは過去との再会でもあり、今との決別でもある。
俺は.........俺は、どうすればいい...........。
あれを受け取れば、あの時と同じことになるかもしれない、そうなればどうなるか分からない。また、大切な人を傷つけるかもしれないし、誰かの恨みを買うかもしれない。ロドスの奴らとだって......................。
思考がまとまらない、どうすればいいかが分からない。海底に沈められるが如く、視界が真っ暗に染まっていく。そんな状態の俺に、聖母のような微笑みで、しかし何処か狂気を隠せていない様子で、Wは俺に囁く。
「悩む必要はないのよ、ローラン。別に今の生活を捨てろと言ってるわけじゃないの。あたしはあんたに依頼を受けてほしいだけ。あの時みたいに、あんたと一緒にいられたらそれでいいの。
悪魔の囁きだと、頭では理解している。理解しているはずだ。だと言うのに、その声に、その提案に惑わされている。
けど、もういいんじゃないか?過去も今も、全部どうでもいい...........。考えるだけすべて無駄で、自分の好きなようにやればいい。俺の自由に、俺のやりたいように。過去を引きずったって意味はない、失ったものがまた元の場所に帰ってきたんだ。なら、それをどう使おうが俺の自由だ。そう思ってしまった。理性が、俺にそれ以上考えるなと叫んでいるが、もう止めることができない。
俺には苦痛しかない。きっと俺は、これからも苦痛を背負って生きていくんだ。俺も苦痛も、もう離れることができない程にまで、成長してしまったんだ。俺は死ぬまで、
「わかったよ、W。俺は、お前の依頼を受ける」
その言葉を待っていたのか、Wは口を大きく歪ませる。
「いいわ、契約成立ね。約束通り、これはあんたに返すわ」
そう言って手袋を俺に渡す。受け取る時に気付いたが手元が少し震えていた。武者震いと言うやつだろうか、それとも体が拒否反応でも起こしているのだろうか。どちらでも構わないが、俺は震える体を押し殺して、仮面と手袋を着ける。手袋の中は暖かく、仮面越しだというのに、五感に影響はなく、呼吸に違和感もない。Wの方を見れば、なんと悪趣味なことだろうか。俺の姿を鏡で見せて来やがった。仮面越しでも俺が驚いたことが分かったのだろうか、面白可笑しそうに、笑っている。
視界に少し入ってしまった鏡に反射した自身の姿に、酷く懐かしさを感じずにはいられなかった。
今日のだぶちの行動
1.朝早くからローラン君を叩き起こす。
2.疲れてそうなローラン君にお手製の疲労回復薬を薄めた水を飲ませる。(原材料不明)
3.ローラン君への気持ちを伝える。
4.ローラン君の思い出の品を揃える
5.優しく導いてあげる
何もおかしいところはないな。 ヨシ!
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