セリフの前のアレなしでお送り。
おきのどくですが ネタバレはなくなってしまいました。
「…静粛に。」
舞台中央、裁判官席に立つのはヌヴィレット。
「これより、被告人フリーナに対する裁判を開廷する。」
スポットライトが、舞台中央へ。
そこに立つフリーナは、胸を張って堂々と観衆を見回している。
「ふふ……なるほど。この僕を主役に据えるとは、なかなか演出が分かっているじゃないか。」
観客席から声援が飛んだ。
パイモンが小声で囁く。
「なあ、ほんとに大丈夫なのか?この裁判……」
『さぁ…』
リンク達にももうこの裁判の行く末は分からなかった。
「被告人フリーナ。貴殿は水神を名乗り、フォンテーヌを五百年間統治してきた。」
ヌヴィレットが最初の議題を提示する。
「うん。事実だ。」
「しかし、その間に神としての権能を行使した記録が存在しない。それについてはどうだ?」
劇場がざわついた。
「確かに、僕達もフリーナ様が何をしていたかは記録が無いんだ。」
「ええ、棘薔薇の会でも全くね。」
リネとナヴィアも知らないらしい。
しかし、フリーナは堂々と質問に答えた。
「コホン、僕の権能なら例えば…今キミたちが目にしているこの諭示裁定カーディナルや……みんなの日常生活に欠かせない律償混合エネルギーだ。」
「何か申し開きはあるかい?」
「異議ありだ!」
途端、パイモンの異議ありが炸裂する。
「その諭示裁定カーディナル…この前の裁判でタルタリヤに妙な有罪が出たよな?あれはどうなんだ!?」
『そーだそーだ!』
たじろぐフリーナ。
しかし、彼女はすぐに帽子の角度を直して反論した。
「神の造物に欠陥があったからといって、神までもを紛い物だと言うなんて……不合理にもほどがあるね……!」
「現段階では、どちらの証言も一切の証明性を持たない。」
段々と不安や懸念が広がり、フリーナが嘆く中…法廷は次の段階へ進んで行く…
「静粛に。」
次の議題を聞く場面になったが、誰もがなかなか声を上げない中…
「ちょっと良い?」
手を挙げたのは、今度はシャルロットだった。
「なんで皆聞かないのかって所なんだけど…。フリーナさん、貴方は勿論水元素は使えますよね?」
一瞬にしてフリーナの顔が引き攣った。
「確かに…!」
目ざとい…流石マスコミだ。
そして、全員の期待がフリーナに集まる。
フリーナは結局…
元素力を使わなかった。
「水神のくせに、神の力どころか水元素力すら操れないのか!?」
『急展開…。』
「記者の勘に従ったとは言え、…まさか本当に使えない?」
劇場の緊張が臨界点に達した頃、フリーナは口を開いた。
「……律償混合エネルギーだ。」
「そう、律償混合エネルギーが悪いんだ!…神の力は信仰に由来するが、フォンテーヌの民たちの正義に対する信仰はすべて、僕がエネルギーに転換しているんだ……!」
「皆の暮らしにエネルギーを提供するため、僕は神の力をすべて放擲したんだ!!……僕よりも無私な神など………一体どこにいるっていうんだい…!?!」
そこまで言い切ったまま、フリーナ息切れを起こして咳込んだ。
「…どれほど民思いだとしても、力が全部なくなるわけがないだろう?
「力がまったくない神は、本当に神と呼べるのか!?」
「フリーナ様…信じてたのに…」
観客が、どんどんフリーナを信じられなくなっていった…
「みんな…そんな目で、この僕を見ないでくれ……」
「僕が神じゃないと言うなら…、一体誰がこの国の神だって言うんだ…」
「……僕の話を聞いてくれ。頼むから、聞いてくれよ……僕は本当に神なんだ……」
フリーナは俯き、もう何も言わなくなってしまった。
静まり返った劇場に、一人のすすり泣く声が聞こえる中で…ヌヴィレットが沈黙を破る。
「どうやら、もう結論は出たようだ。異議がなければ、判決に入る。」
誰も何も答えない。
「…では、諭示裁定カーディナルに最終判決を下してもらう。」
ヌヴィレットがレバーを引く。
大げさな仕掛けが動いた後、天秤を模した機械から1枚の紙が出力された。
「只今より判決を下す。水神、有罪………」
あのヌヴィレットが、目を見開いて紙を取り落としかけた。
内容は…
「………死刑だ。」
その言葉が、歌劇場に落ちた瞬間。
音が遠のき…会場にいる全員の意識は、何かを見た。
それは、フリーナの人生だった……。
「キミには、新しい水神を演じてもらう。ああ、ずっと……ずっと演じ続けるんだ。誰にも疑われてはならない。」
フリーナのようで違う誰かの声…
「でも、こんな日々はいつになったら終わるんだろう……」
「終わりが見えない……すごく寂しい……一体いつまで耐えればいいんだ……」
「もう何百年も経ったはずだ。もしかして、まだ何百年もこの劇を演じないといけないのか……」
観客席の誰もが、言葉を失う。
裁く側も信じていた側も疑っていた側も。
全員が、同じ重さを背負わされていた。
「フリーナ…」
誰かが、か細く名前を呼んだ、その時。
バキッ……という不快な音が、全員を現実へ引き戻す。
舞台中央。
フリーナが座っていた、その座席の下。
いや…正確には、空間そのものに無数のヒビが走っていた。
青紫の闇が、裂け目の奥で蠢いている。
「…な、何だ……!?」
「床が……いや、空間が割れてる!?」
「フリーナさんが…!」
その瞬間。
リンクが、一歩前へ出た。
次の瞬間、その身体がロケットで弾き飛ばされて舞台に躍り出る。
リンクは迷いなくフリーナの腕を掴んで引き寄せた。
それとほぼ同時に、裂け目が完全に弾け飛ぶ。
闇の奥から現れたのは、舞台を覆い尽くすほどの巨大な鯨…。
観客がパニックを起こす中、裂け目からさらに一人の青年が軽やかに飛び出してくる。
赤毛を揺らし、場違いなほど余裕の笑みを浮かべて。
「久しぶりだな、相棒。」
人々は雪崩のように出口へ向かい、舞台上にはわずかな者だけが残った。
「……タルタリヤ。」
ヌヴィレットが、静かに名を呼ぶ。
タルタリヤは振り返り、にやりと笑った。
「早速で悪いけど、預かってた物はそろそろ返してくれないかい?」
ヌヴィレットは一瞬だけ目を閉じ、手を差し出す。
「……使いどころは間違えるな。」
「言われなくても。今しかないでしょ?」
タルタリヤはそれを受け取り、即座に装着した。
魔王武装…!
「行くぞ、リンク!!」
『うん。』
二人は同時に踏み込み、鯨へと跳躍する。
だが、裂け目はそれを待っていたかのように拡大し…
二人の姿は闇の向こうへと呑み込まれ、裂け目ごと消え去った。
「ヌヴィレット!リンク達が消えちゃったぞ!?」
パイモンが呼びかけるが、ヌヴィレットはフリーナを前にして涙をながしている。
その目はどこか遠くを見ているようだ…
「今はそっとして置いてあげましょ?」
「流石にスクープどころじゃ無いしね。」
「あんな大きな鯨、どんなマジックでも出したこと無いのに…」
等とパイモン達が噂をしていると、リネが劇場に慌てて戻ってきた。
「…まずい。」
「…予言が、現実の物になった。」
「何だって!?」
歌劇場を飛び出した彼らが見たのは、海に沈んでいく街並みだった。
その頃…
裂け目の向こうに広がっていたのは果てし無い夜だった。
頭上には星空があり、足元には紫に光る水面が、水平線まで続いている。
原始胎海の水は浅く足首にすら届かないほどだが、踏み出すたびに波紋が鏡のように星を歪ませた。
「…中々に綺麗だね。」
魔王武装を纏ったタルタリヤが、場違いに感心した声を漏らす。
「でもさ……?」
空間を割って、夜空を覆い隠すほどの巨体が音もなく姿を現す。
『…来る。』
「既に散々やられたんだ。最初から全力で行こう!」
そして、タルタリヤが水面を蹴った。
爆ぜる紫の水、夜空へ散る白い飛沫。
その衝撃を合図に、リンクもまた漆黒の戦場を駆けていく。
シーカーストーン=リモコンバクダン
その手の中に蒼い光が灯る。
リンクは走りながら足元へバクダンを投下し…
起爆の爆風を背に受け、自身の身体を弾丸のごとく射出した。星空を背景に、彼のシルエットが低空を滑空する。
鯨の周りに巨大な氷塊が生み出され、一度に飛んできた。
「させるかよ!」
タルタリヤが先陣を切った。
槍がブーメランの様に飛んで氷塊を切り裂き、攻撃を強引に相殺する。
その刹那、リンクはもう一発のバクダンを鯨の口に放り込んだ。
内側から響く鈍い爆轟。
巨体がわずかに仰け反り、姿勢を崩す。
リンクは空中にとどまったまま、取り出した「籠釣瓶一心」を振りぬく。
風の刃が四方八方の氷塊を割いた。
『行ける。』
タルタリヤに目配せをするリンク。
その着地の音と同時に、黄色い光が辺りを包む。
シーカーストーン=ビタロック!
歯車が噛み合う音と共に、時間が凍りついた。一際大きな氷塊が空中でピタリと静止する。
「ハハッ、最高だね!」
タルタリヤが笑いながら飛び上がり、静止した氷塊を渾身の力で蹴り抜いた。
ロックが解除される…。
蓄積された位置エネルギーが暴発し、氷塊は弾丸として鯨の腹を撃ち抜いた。
「畳み掛けよう。」
タルタリヤの声を聞き、リンクは端末を地面にかざす。
シーカーストーン=アイスメーカー!
水面から突き出した氷の柱が、踏み切り台となる。
リンクは鯨目掛けて一気に跳躍した。
が、鯨の反撃は苛烈を極める。
空間に開いた穴から、紫の光線が漏れ出す。
弓「風花の頌歌」を構えたリンクは、目前に迫る鯨の胴体に爆撃しいた。
そのまま、反動と爆風で光線を間一髪躱していく。
「交代だ…!」
『頼む。』
距離は取ったが、鯨はまだ起き上がれていない。
このまま畳み掛けようとしたリンクの端末に、赤い光が灯る。
シーカーストーン=マグネキャッチ!
リンクの瞳に鋭い光が宿る。
赤い照準が、タルタリヤを狙う。
磁力が魔王武装を掴み、タルタリヤを投げ放った。
「最高にイカれてるよ、君は!」
ーーー極悪技=尽滅閃!ーーー
回転しながら光線を掻い潜ったタルタリヤは、激しくスパークを起こす刃を鯨の背に深々と突き立てた。
最後の抵抗として放たれた、降り注ぐ氷の結晶もタルタリヤには当たらない。
近付いたリンクが大剣…「雪葬の星銀」を振り抜くと、落ちてきた氷柱が鯨を更に縫い留めた。
そのまま二人によって鯨は抑えられ…無い。
それは、前触れもなく訪れた。
突然音が消えた。
魔王武装の仮面の奥で、タルタリヤが呟く。
「何だか、嫌な予感しかしないんだけど…?」
リンクもまた、直感的に理解していた。
鯨が突然咆哮を上げた。
空に怪しい光が集束していく。
光は渦を巻き、やがて…夜空そのものを引きずり落とすかのような絶対的な重圧を帯び始めた。
『……まずい。』
その頃、エピクレシス歌劇場では…
「街が…沈んていくぞ…!?」
「フォンテーヌは海に沈む…人々が水に溶け、水神が涙を流す……全部、その通りになったのか…」
意識を失ったままのフリーナの隣で、最高審判官ヌヴィレットは深く目を閉じていた。
…彼が見ているものは何だっただろうか。
それは水神?
もう一人のフリーナ…?
…少しして…ヌヴィレットは、ゆっくりと目を開いた。
その姿には、今までと比べ物にならない程の力が宿っている。
「……水は」
彼は一歩、足を踏み出す。
「命を溶かすものではない。」
二歩。
「罪を裁く道具でもない。」
三歩。
「最高裁判長ヌヴィレットは、ここに宣言する。」
ヌヴィレットを中心に、青い光が迸る。
「フォンテーヌ人の罪を……今赦そう。」
その瞬間。
輝きが溢れるとともに、フォンテーヌを包みかけていた紫の海が完全にその怪しい色を失った。
原始胎海の水は性質を喪失し、ただの膨大な水となる。
「……海が…」
「私達、これで助かった……?」
呆然とした顔で海を見るリネにナヴィア…
意識の戻ったフリーナは、震える声でヌヴィレットを見つめた。
「……ヌヴィレット……?」
彼は、振り返らなかった。だが、その背中は静かで、はっきりと覚悟に満ちていた。
「…もう、君一人に背負わせはしない。」
ヌヴィレットが手をかざすと、目の前の空間が裂けた。
その向こうには巨大な鯨が見えている…
「アイツ…!」
「あの鯨を倒せば全部解決ってこと?」
「ああ。」
そう話していると、空間の向こうにリンクとタルタリヤの姿が現れた。
『助けて。』
そういつものように言うリンク達の後ろからは、暗黒の球が空間を吸いながら近付いてきていた。
「ヌヴィレット…!?!」
「分かっている。」
目にも留まらぬ速度でヌヴィレットが近づく。
彼が手を掲げると、周囲深淵すらもが、彼の意志の下に静止した。ブラックホールは水龍の奔流によって真正面から押し返される。
「助かったけど、遅刻だよ。最高裁判長?」
「ああ、…すまない。」
ヌヴィレットは、珍しく軽く返し鯨を見据えた。
タルタリヤが、槍を構え直す。全身から立ち上る紫電が、戦場を照らす。
リンクは手に持っていた大剣をしまい、腰のポーチと端末に目を向けた。
縮んでいく空間の裂け目越しに、フォンテーヌの皆の声がかかる。
「本当に君は…フォンテーヌまで救うなんてね。」
「そんなに印象は無かったと思うけど、僕からも頼むよ!」
「頑張って…!」
「棘薔薇の会の会長としてこの結末を君に任せるわ!」
「フォンテーヌ人じゃそっちに撮りに行けないものね…。鯨の写真はもうバッチリ収めたし、かっこよく決めちゃって!後で取材に行くからね!」
「ヌヴィレット…!僕達のフォンテーヌを…お願いだ…!」
リネ達、ナヴィア、シャルロット…そしてフリーナ…
最後に…
「リンク!オマエの強さはオイラが一番知ってるぞ!やっちま……」
パイモンとリンクの目の前で裂け目が閉じ……
『良し。』
「……。なんでこんな重要な場面でオイラも呼んだ!?」
リンクは、この期に及んでパイモンも戦場に引きずり込んでしまったらしい。
紫の水面と偽りの星空が溶け合う深淵で、三人と一匹は一度大きく距離を取った。
正面には、悠然と宙を泳ぐ鯨。
その巨体には、先ほどまでの激戦の痕跡など、微塵も残っていなかった。
タルタリヤが不敵な笑みを消し、苦々しく舌打ちする。
「冗談だろ? あれだけ派手にやって、かすり傷程度ってのか?」
『想定内。』
リンクは淡々とシーカーストーンを操作しながら言った。
「あれの表面に攻撃を与えただけでは、自己修復されてしまうだろう。」
「ひぃっ!そもそも、アイツってなんなんだ!?」
「あれは呑星の鯨…。元々は星海に生息する生物の一種に過ぎない。」
「先ほど私がフォンテーヌを覆っていた水をただの水に戻したことで、人々が溶ける未来は回避された。だが……」
ヌヴィレットの声が低く響く。
「このままでは、物理的な水没は止まらない。」
「つまり?」
タルタリヤが肩越しに振り返る。
「あのデカブツを今すぐ仕留めなきゃ、国が沈むってわけか?」
「……その通りだ」
一瞬、絶望的な沈黙が場を支配した。
「どうにかできないのか…?」
「今の私なら、奴を仕留められるだろう。…ただ、口を開かせる必要がある。」
…その時…リンクはゆっくりと顔を上げると、確信に満ちた目で言った。
『なら、釣ろう。』
「…………は?」
タルタリヤの顔から表情が消える。
「相棒、今なんて言った? 釣るって……まさか……」
リンクは無言で、ゆっくりと、視線を横へスライドさせた。
そこには、先ほど勢い余って連れてこられたばかりのパイモンの姿。
「……な、なんだよ? そんな目でオイラを見るなよ!」
パイモンが腕を組んで後ずさりする。
『餌。』
「…。」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
ひっくり返るようなパイモンの絶叫。
「いやいやいやいや!! オイラとは言え、そんなに命が軽いキャラじゃな……」
「安心しろ。」
ヌヴィレットが、氷のように冷徹な……もとい、極めて真面目な顔で補足する。
「私の権能がある限り、死なせはしない。」
「それが一番怖いぞ…!?」
その光景に、タルタリヤは耐えきれず腹を抱えて爆笑した。
「はははっ! 魔王と勇者と龍王が揃って、国を救うために鯨の一本釣りだって? 今日という日は、絶対に忘れられない伝説になるよ!」
「忘れてくれ!!」
泣き叫ぶパイモンをよそに、リンクは鯨に向き直った。
「よし、作戦開始だ……!」
リンクは、取り出した釣り竿の先にパイモンを括り付けた。
「ひぎゃあああああああああ!!」
パイモンが、絶叫と共に巨大鯨の前へと放り出される…
呑星の鯨は、その巨体を震わせ猛然と食らいついた。
一方、ヌヴィレットはその傍らで静かに浮遊し、杖の先に絶大な密度のエネルギーを収束させていた。
「……間もなく、審判の準備が整う。」
その時、リンクが叫んだ。
『タルタル…!』
「待ってたよ、相棒!」
タルタリヤが魔王武装の限界を超えた紫電を纏って釣り竿を握る。
リンクの瞳が鋭く光り、端末を向けた。
シーカーストーン=ビタロック!
カチリ、と時間が凍りつく音が響く。
鯨がパイモンを飲み込もうとしたその刹那、パイモン自身の時間が停止した。
鯨の動きが止まる。
パイモンが物理法則を無視した楔となってそのどこかに引っかかったらしい。
「準備は整ったな」
ヌヴィレットが静かに宙へ浮上する。その杖の先には、フォンテーヌ全土の律を司る絶大なエネルギーが、収束の極致に達していた。
『引け!』
タルタリヤが渾身の力で釣り竿を引き上げる。
釣り竿はその力に耐えきれず、木っ端微塵になった。
次の瞬間、ロックが解かれ、パイモンが外へと弾き飛ばされる。
「…審判の時だ。」
ーーー至高なる律法の懲罰!ーーー
天を貫くほどの蒼き光柱が、無防備に開かれた鯨の口内へと正面から突き刺さる。
内側から膨れ上がる光に、鯨の巨体が激しく震え、断末魔の叫びを上げた。
ヌヴィレットの審判の光が収まり、呑星の鯨は今度こそ地に伏した。
「……はは、やったね。相棒、最高裁判長…。」
魔王武装を解除し、傷だらけの体でタルタリヤが不敵に笑う。
「オイラが一番体を張ったんだぞ!?なんかアイツの中に騎士みたいなのがいて…、危うく切られかけたんだぞ…!?!」
直後。
何の前触れもなく、空間が紙を裂くように、無造作に切り開かれた。
そこから現れたのは、星々を編み込んだような衣装を纏う一人の女性…
「……スカーク師匠!?」
タルタリヤの顔から笑みが消え、戦慄と敬意が混ざり合った、硬い表情に変わる。
スカークと呼ばれた女性は、倒れ伏した鯨を一瞥し、それからタルタリヤへ冷徹な視線を向けた。
「タルタリヤ。世界の外の力に頼らず。あの呑星の鯨に勝ったのか…。」
「……弟子として合格だ。死なずにこの獣を仕留めたことだけは、認めてやろう。」
師匠からの稀有な肯定に、一瞬だけ表情を緩めたタルタリヤ。しかし、次の瞬間。
「だが、修行不足であることに変わりはない。それと邪眼の使い過ぎだ。……出直してこい。」
スカークが指先をわずかに動かした。
刹那、逃れる術のない圧倒的な重圧がタルタリヤを捉える。
「え、ちょっ……えええええ!?」
スカークは抵抗する間も与えずタルタリヤの首根っこを掴むと、再び開いた空間の裂け目へと向かって、彼を全力でぶん投げた。
タルタリヤの絶叫が遠ざかり、闇の中に吸い込まれて消えていく。
呆然と立ち尽くすパイモンとリンクに、静かに立ったままのヌヴィレット。
スカークは三人に向き直り、感情の読めない顔で告げた。
「降臨者に元素龍か…。私の師匠のペットが迷惑をかけた。」
スカークが手をかざすと、鯨の巨躯は瞬時に小さな球体へと凝縮され、彼女の手の中に収まった。
それだけ言うと、彼女自身もまたタルタリヤが飛んでいったのと同じ空間の狭間へと溶け込んでいった…。
裂け目が消えて後に残されたのは、静寂を取り戻した空間と、ポツンと取り残されたリンクたちだけだった。
「……嵐みたいな奴だったな…。」
パイモンがぽつりと呟くと、ヌヴィレットはふっと穏やかな笑みを浮かべた。
「……ああ。だが、これでようやく五百年の予言に真の終止符が打たれた。」
…裂け目から元の世界へと戻ったリンクたちの目に飛び込んできたのは、紫の海に沈みかけていた絶望の光景ではなかった。
「……見てくれ! 水が引いていくぞ!」
誰かの歓喜の叫びが、潮風に乗って聞こえてくる。
空を覆っていた暗い雲は霧散し、雲の間から差し込んだ光が、穏やかさを取り戻した海面を金色に染め上げていた。
人々は自らの身体を確かめるように触れ、隣人と手を取り合い、涙を流している。
「溶けてない……俺たち、生きてるんだ!」
「予言は……終わったのね……!」
リンクとパイモン、そしてヌヴィレットは、そんな街の喧騒を遠くから見つめていた。
「……終わったんだな。本当に。」
パイモンが、安堵のため息とともに呟く。
『ああ。』
リンクの瞳にもフォンテーヌの美しい青空が映っていた。
「…そういえば、アイツはどうなったんだ!? タルタリヤの奴!」
「……彼は、彼自身の戦いへと戻ったのだろう。」
ヌヴィレットはどこか同情を込めた目で空を見つめた。
「ま、いいか! アイツはしぶといしな!」
パイモンが笑う。
「今日はフォンテーヌで一番高い店に行くぞ!」
『やだ…。』
「…じゃあヌヴィレットにでも奢ってもらうか…」
こうして再び歩き出す二人…
背後には、かつてないほど澄み渡った海と、活気を取り戻しつつある水の都が広がっていた…
ーー The end. ーー
このタイミングで年越しですね…
新作の一章が完成するまでまだ2話程足りていないのもあって、次の真の最終話も平常投稿です。