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J/53  作者: 池金啓太
十九話「年末年始のそれぞれ」

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終業とお疲れさまと

十二月も終わりに差し掛かるころ、静希は病院にやってきていた


日に日に気温が落ち、そろそろこちらでも雪が降るのではないだろうかと思えるほどの寒気が辺りを覆っている


そして静希は診断書を手に待合室に置かれたテレビを眺めている


病気にかかったわけではない、今回ここに来たのは先日メフィに魔素を注いでもらった際にできた奇形の診断に来たのだ


明利に調べてもらっただけでは何かと問題があるらしく、城島からきちんと診断を受けるように言われたのだ


結果わかったことと言えば、確かに静希の右手は奇形化していて、その形は人間のそれとは異なっていることだけだった


なぜこのようなことになったのかという説明は省いたため、わかったことはその奇形の特徴くらいだった


静希の骨は表面に飛び出しているだけではなく、手に存在する筋肉とも融合し、通常よりも強固な筋繊維に変貌しているのだという、そして皮膚の黒い部分は爬虫類のそれに近く、人間の肌より数段硬くなっているらしい


専門家が言うには、静希の奇形は竜形と呼ばれるタイプの奇形らしい


他にもいくつかの奇形があるらしいが、静希は興味もないために聞き流していた


竜形などと言われても、奇形は奇形、特にこれと言って思うことも何もない

とりあえずこの診断書は城島に提出する必要がある、ファイルにしまいながらさっさと支払いを済ませて病院から退散する


十二月、冬という事もあって病院は風邪を引いている人が多かった


自分も気を付けなければと思いながら自宅に帰ると、そこにはいつものように炬燵でぬくぬくとしている明利と姉貴分雪奈がいる


「あ、おかえり、どうだった?」


「どうもこうも、奇形ですねって言われたよ、それ以外にわかったことは特になし」


人外たちが思い思いに飛び出す中、明利が静希の着ているジャケットをハンガーにかけてくれる


立ち振る舞いが彼女のそれではない、どちらかというと妻のそれである


「明日どうする?学校終わった後」


「俺は特に予定ないけど・・・明利は?」


「私も特にないかな・・・陽太君と鏡花ちゃんは・・・どうだろう?」


明日は静希達の通う喜吉学園の終業式でもある、今年の学業も明日で終わり、あとは年末年始に向けて大掃除やらなにやらしなくてはならない


と言っても静希の家は日々オルビアが掃除しているために比較的きれいだが


「せっかくのクリスマスイブだしさ、なんかしたいよね・・・」


「毎年クリスマスはダラダラしてるじゃんか・・・家族で過ごしたいってのもあるだろうし」


「・・・でもせっかくだし・・・」


雪奈と明利の言いたいことも十分に理解できる、せっかく結ばれて初めてのクリスマスなのだ、恋人として何かしたいと思うのは至極当然のことである


そして陽太、というか鏡花も似たようなことを思っているだろう


明利曰く、明日鏡花は陽太を誘うつもりなのだとか


「ねぇ、クリスマスって何?」


「クリスマスとはイエスキリストの生誕祭です、日本では本来の意味よりも恋人と添い遂げる日という印象の方が強いようですね」


「本来の祭りの意味を忘れているとは・・・なんとも・・・」


人外たちはクリスマスなど全く関係ないとでもいうかのようにいつも通りに過ごしている


いつの間にかオルビアの知識がどんどん増えていることが何気にすごいと言わざるを得ない


日本語を覚え機械の扱いを覚え、そのほかの知識の吸収に余念がない、優秀すぎてさすがに引くレベルである


「どっかに出かけるにしても混むだろうしなぁ・・・ささやかにパーティーでもやる?」


「でもそうなると陽太君たちは来れないよね・・・デートする予定だし」


「・・・デートねぇ・・・誘えるのか?」


静希の言葉に明利と雪奈は顔を見合わせて不安そうな顔をする


はっきり言って鏡花はヘタレだ


普段であれば言いたいことをはっきり言えるタイプの人間だが、陽太との恋愛がらみになると途端に気弱になってしまう


「んん、そう言われるとちょっと・・・大丈夫だとは思うんだけど・・・」


「いや、あの鏡花ちゃんだ、地味にへたれちゃうんじゃない?静、ちゃんとフォローしてあげなよ?」


了解と言いながら静希も炬燵の中に入り冷えた体を温める


明日は終業式、一年の学業の締めくくりだ


そして年末年始の前に遊べる数少ない日でもある


明利や雪奈の言うように何かしたいが、どうにも思いつかない


一緒にいた時間が長すぎるため、いつものようにダラダラと過ごすのもいいかなと思えてしまうのだ


だがそんなことではいけない


二人は自分を選んでくれているのだからしっかりと二人に良い思いをさせてやらなくては


どうしたものかなと悩んでいると、ボーっと眺めていたテレビでクリスマス特集がやっている


煌びやかな街並みを映しながらアナウンサーが店の紹介などをしていると静希はそうだと思いつく





翌日、静希達はいつものように登校し、終業式を恙なく終えていた


各自成績表を配られ、それぞれ城島にお小言を貰いながらも一年の締めくくりとして軽くねぎらわれる


「えー・・・明日から冬休みだが、休みなんて少ししかない、風邪ひかないように、羽目外しすぎないように、せいぜいのんびり正月を過ごしておくこと、面倒だけは起こすな以上解散」


これが城島の精一杯のねぎらいというのだから少し笑えてくるが、彼女なりに生徒のことを心配しているのだろう、生徒一人一人に視線を向けてから、最後に視線を静希達に向ける


「そうだ、一班の人間は後で職員室に来るように、渡すものがある」


そう言って教室を出て行くと教室内が一気に騒がしくなる


「なんだよまた呼び出しか、今度は何だろうな」


「冬休みの宿題とかだったらいやだなぁ・・・」


「さすがにそれは・・・ないと思いたいわね」


「とっとと遊びたいってのに先生は空気読めてないぜまったく」


口々に不平や不安を吐き出しながら静希達はとりあえず言いつけどおりに職員室にやってくる


このやり取りも何度目だろうか、職員室に入り城島の元へやってくる


「来たな・・・とりあえず今年最後の呼び出しだ、内容もそこまで悪いものではないから安心しろ」


その言葉に静希達は少しだけ安堵するが、油断はできない、なにせ城島の悪いものではないというのは地味に安心できないのだ


そんなことを思いながら城島の方を見ていると、彼女は書類を一枚取り出して確認しだす


「そう警戒するな、今回は本当に悪いものではない・・・清水鏡花、お前の称号が決定した、称号名は『天災』だ」


「・・・天才ですか?いやぁ悪くないですね」


イントネーションが若干違うが、鏡花はどうやら何かを勘違いしているのか照れている、そしてそれを聞いていた静希達も同じ間違いを抱いていた


「天才か、鏡花にピッタリじゃないか?」


「確かに、これは文句のつけようがないな」


「よかったね、鏡花ちゃん」


それぞれ賛辞を向けている中、城島はわずかに眉をひそめる


どうやら静希達が間違いを抱いていることに気付いたようだった


「お前達、何か勘違いをしているな」


「え?何がですか?」


褒められて喜んでいた鏡花、そして褒めていた静希達が首をかしげると、城島はとりあえず持っていた書類を鏡花に渡すことにした


「清水、お前の称号は天賦の才などの天才ではない、天の起こす災害という意味の、天災だ」


城島の言葉に鏡花は渡された称号をまじまじと確認する、静希達もそれを覗きこむように確認するとそこには確かに『天災』と記されていた


「あの時雪崩を引き起こしたらしいな、恐らくその点が評価されたのだろう、あれだけのことをしておきながら被害はほとんどなかった、大胆さと繊細さを持ち合わせているとなかなか高評価だったそうだぞ」


城島が補足の説明をしているが、そんな中鏡花は口を開けて愕然としてしまっていた


まさか自分が災害扱いされるとは思っていなかったのだろう、称号を得られたのは嬉しいのだが、もっとスマートなものが良かったと思えてしまう


「こ・・・!これはこれで鏡花らしいな!似合ってんじゃん天災」


「よ、陽太君、もうちょっとオブラートに包んで・・・」


放心状態の鏡花と違って陽太は笑いながら鏡花の背を軽く叩いている


そんな時、静希の心境はあまり良くなかった、状況が状況だったとはいえ鏡花に雪崩を引き起こすように指示したのは自分だ、悪いことをしたかもしれないと思いながら少しだけ反省しているのだ


天災


切り裂き魔ほどではないがおおよそ女子につく称号にはふさわしくないものであると思える


頭が良く実力もある、文字通り天才である鏡花には少々皮肉が聞いた称号である


「まぁなんにせよ、これで一班全員が称号持ちになったわけだが・・・」


『ジョーカー』五十嵐静希


『攻城兵器』響陽太


『神勅の森』幹原明利


『天災』清水鏡花


城島の中で多少順序は違えど、今年度中に称号は獲得するだろうと思っていたようだが、まさか今年中にとってしまうとは思っていなかったようだ、少し驚いているようでもあったが、同時に嬉しくもあるようだった


「まぁ、なんだ・・・よくやったな、私の生徒にしては上出来だ」


城島の珍しいお褒めの言葉に、放心していた鏡花を含め全員が複雑そうな表情をしてしまう、まさか素直に褒められるとは思っていなかったのだ


「な・・・なんか先生に褒められるとむずがゆいですね・・・」


「褒めてやったというのにその言い草は何だ・・・まぁいい、慢心しないよう訓練に励め、以上だ」


そう言って城島はデスクに向き合って静希達にさっさと退室するように手をひらひらとさせるが、全員が気付いていた、城島の顔が少しだけ赤みがかっていることに


照れるなら慣れないことをしなければいいのにと思ったが、今回ばかりは素直にその言葉を受け止めておくことにする


職員室から出た静希達はようやく今年度の学業が終わったことを実感し大きく伸びをしながら解放感を味わっていた


一度教室に戻り荷物をまとめる途中で明利が鏡花に近づく


どうやらこの後どうやって陽太をデートに誘うかの相談に乗っているようだが、これが吉と出るか凶と出るか


「いやぁ・・・ようやく終わったなぁ」


「そうだね、今日からちょっとゆっくりできるかな」


静希と明利はとりあえず学業が終わったことを喜び、同時に話題をスムーズにこの後のことにつなげられるように少しわざとらしく声を上げた


「成績も前より上がってたし、今年はいいことづくめだな」


「そ、そーね、休みだもんね、い、いいわよね」


そんな中やたらと挙動不審な人間が約一名


陽太を何とかしてデートに誘いたい我らが班長鏡花である


会話さえまともにできないくらいに処理能力が落ちてしまっているのか、視線も右往左往と泳ぎまくっている


普段言いたいことをズバズバ言うくせに何故大事な時にダメダメになるのだろうか


「・・・静希君・・・どうしよう、あれじゃ絶対うまくいかないよ」


明利が静希の耳元で小声でそんなことを言うが、静希も同意見だった


あんな状態の鏡花が何を言ったって陽太が聞き取れるはずも、また内容を理解できるはずもない


せっかく静希と明利が話を切り出したのに全く活かせそうにない


恐らくこちらが何とかしなければあの状態は続くだろう、もう少し本番に強い性格だったらよかったのにと心底思う


「仕方ないな・・・ちょっと手を貸してやるか」


静希はそう言った後で携帯で何やら調べ始めた後でよしと小さく声を出す


「とりあえず、今年度お疲れってことでどっか遊び行こうぜ、鏡花の称号も決定したことだし、久しぶりにカラオケとか」


「お、いいなカラオケ、地味に久しぶりな気がするぜ」


陽太は乗り気だ、こうして陽太を乗せておけば鏡花も自然と釣れる、ここまでは問題ない


鏡花が反応していないことを除いて


「鏡花ちゃん、カラオケだって」


「ん・・・?え!?なに?カラオケ?」


どうやら本気で聞こえていなかったらしく、鏡花はあたふたしながら状況を把握しようと辺りを見渡している


どれだけ処理能力が落ちればこうなるのだろうかと呆れてしまうが、鏡花が肝心な時にダメになるのは半ばわかっていたことだ


「とりあえず、さっさと店探さないとこの時期混むぞ、手分けして空いてるところ捜索だ」


「オッケー、んじゃいきますか、見つけたら即四人で予約な」


「うん、わかった」


「わ、わかったわ」


さっさと帰り支度を終わらせ、静希達は手分けして空いているカラオケ屋を探すことにした、だが明利は気づいていた、静希がカラオケの店がある方向とは全く別方向を捜索していることを


恐らくは何か仕掛けをしておいてくれるのだろうが、一体何をしているのだろうかと気になっていたが、これも鏡花のためと目をつむることにした


そして三十分ほど経って、陽太から全員にメールが届く、四人で店を確保したからすぐ来るようにとのことだった


明利が陽太の送ってきた店にたどり着くと、そこにはすでにマイク片手に歌っている陽太とそれを聞いている鏡花がいた


「・・・もう少しゆっくり来たほうが良かったかな?」


「そ、そんなことないわよ!?みんながいなきゃしょうがないじゃない!」


鏡花は顔を赤くして否定しているが、どうやら部屋が暗くなっているせいで陽太にはばれていないようだった


「お、明利来たか、静希の奴遅いな」


歌い終えた陽太が笑いながら椅子に座り次に歌う曲を何にしようかと迷っていると、一番遅れた静希がやってくる、その手にはお菓子や飲み物がたくさんあった


「悪い遅れた、いろいろ買ってきたぞ」


「ようやく来たな、んじゃ乾杯でもするか!」


全員がコップを持ち、鏡花の方を見る


こういう時の音頭はやはり一番偉い人間が行うべきだとわかっているのだ


「えー・・・今年の学業もようやく終えました、今年一年お疲れ様!あと私称号持ちおめでとう!乾杯!」


「「「乾杯!」」」


自分で自分におめでとうと言うのは珍しいが、そんなことは気にも留めずコップを勢いよく触れ合わせながら、甲高い音が部屋に響く中全員が飲み物を口に含む


「よっしゃ、んじゃ全員そろったところでとっとと歌おうぜ、まずは鏡花姐さんいってみようか」


「え?わ、私!?あんまりうまくないんだけど・・・」


そう言いながらも鏡花はタッチパネル式のリモコンを操って何か曲を入れ始める


鏡花が選んだのはアップテンポの女性ボーカルが歌うJPOPだった


カラオケの始まりとしては決して悪くない選曲である


そして歌い始めると、その声の伸びに全員が驚く


普通に上手いのだ、相変わらずほとんどのことはそつなくこなす器用な女である、これでなぜ恋路も器用にいけないのか不思議になってしまう


誤字報告が五件分、そして二百万字突破したので合計三回分投稿


案外長くなったものです、当初はこんなに長くなるとは思っていませんでした


これからもお楽しみいただければ幸いです

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