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J/53  作者: 池金啓太
十八話「雪の見えるその場所で」

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その日は終わり

明利や鏡花と同じように血の匂いがこびりついた静希も、同じように入浴を終えて、静希達は実習を終え帰宅の準備を進めた


小此木への報告はすでに鏡花と城島が終えたようで、最後のあいさつの時に柔和な笑みを浮かべていたのが印象的だった


「今回は本当にありがとうございました・・・私の勘違いという形でこんなことになり、本当に申し訳ない」


「いえ、どうかお気になさらず、しっかりと対応できて何よりでした、今後、何事もないことを祈っております」


小此木と城島の大人の対応を最後に、静希達はその場を後にすることになった


キャンプ場の管理宿舎を出ると、そこには斑鳩が立っていた


どうやら見送りに来たらしい


「斑鳩さん、今回はありがとうございました、あとすいませんでした、奇形種と間違ってしまって」


「いやいや、気にしないでくれ、私の方こそ世話になってしまった、本当にありがとう、気を付けて帰ってくれ」


再び全員と握手を交わし、斑鳩は微笑む


本当に外見で損をしている人だと思い返しながらも、その表情を全員がしっかりと記憶した


人間の完全奇形、そんな生まれをしながらも、しっかりと生きている斑鳩を見て全員がそれぞれ思うところがあった


最後に全員で礼をして、その場から離れる


斑鳩と小此木がこちらに手を振ってくれていたのが最後まで見て取れた


「先生、ちなみにどうやって帰ります?バスまであと結構ありますけど」


管理宿舎から少し離れたバス停にたどり着き、バスの時間を見ながら陽太がそういうと、静希達は全員嫌気がさした顔をした


田舎というのはこれが面倒だ、移動が交通手段によって時間制限されてしまうのだから


せっかくいい雰囲気で別れることができたのにこれでは台無しである


「いちいち待っていられるか、さっさと帰るぞ」


城島が指を鳴らすと同時に静希達の体が独特の浮遊感に包まれ空中へと投げ出される


こんなダイナミックな帰宅の仕方はしたくなかったなと思いながら、静希達はそのまま進行方向へと落下していく


その様子を見る者が、進行方向の一角に一人いた


静希と陽太によって手ひどい傷をつけられた密猟者は、山の一角、道路に面している場所でひっそりと息をひそめていた


目的は単純で、静希達への復讐


静希達が宿泊しているであろう場所から近くの駅までたどり着くために使う道は一つのみ、その場所で待ち伏せし、そして仕留める


もはや最初の目的とは違っていたが、学生風情に追い詰められたという能力者のプライドが今彼を動かしていた


銃を握り、同時に能力も発動して定速で移動し続けている静希達を射程範囲にとらえるまで集中している


そして射程範囲に収め、今まさに銃を放とうという瞬間、密猟者の構えていた猟銃の先が強い衝撃と共に明後日の方向に向けて弾かれる


一瞬何が起こったのかわからなかった


高い集中をもって周囲の警戒も怠っていなかった、周りに誰かがいる気配もなかった


だが彼は瞬時に理解していた、攻撃されたのだと


「すまないが、彼らを攻撃するのはやめてくれないか?私も世話になったんだ、君とは違う意味かもしれないけどね」


背後から聞こえるその声に、密猟者は勢いよく前へ跳躍しその姿を見ようとする


そこには巨大な獣がいた


二足歩行し、こちらを睨む、獣


静希達であれば、それが斑鳩であることがわかったかもしれないが、事情を知らない密猟者からすればただの獣にしか見えなかった


斑鳩は静希達が飛行を始めた瞬間から高速で移動を開始し、静希達が安全に帰ることができるように露払いをするつもりだったのだ


静希の行動から、件の密猟者が静希達に対して復讐することを危惧し、その能力と装備から狙い撃ちできるポイントを割り出し、今ここにいた


その顔を見慣れた静希達であれば、彼が笑みを浮かべていることがわかったかもしれないが、ただの獣の顔にしか見えない密猟者はその顔に恐怖した


密猟者が能力を発動しようとし、攻撃しようとした瞬間、斑鳩も能力を発動した


瞬間、密猟者の体が大きく弾かれ、木々に体を叩きつけられながら数十メートル吹き飛んだ


「悪いけど油断はしないよ、彼らの厚意を無駄にしたくないからね・・・」


斑鳩は鋭く、静かに言い放ち、ゆっくりと密猟者へと近づいていく


密猟者の意識はすでに断たれていた


彼が最後に認識できたのは、自身が強烈な打撃を受けたという事、そして眼前の獣の周りに巨大な腕のようなものが見えたことだけだった


「・・・ふぅ、これで少しは恩を返せたかな?」


斑鳩は目の前の密猟者が気絶したことを確認して安堵の息をつく


自分が世話になった、将来有望そうな学生たち、将来を担うであろう静希達を前に斑鳩はわずかに心躍っていた


いつか彼らが一人前の能力者になった時、もう一度会いたいものだと、そう思いながら斑鳩は静希達が消えていった空を見上げる


雪がわずかに舞い落ちる空を眺めながら、斑鳩は白い息を吐いてから目を細める


「どうか、彼らに幸運があらんことを」


彼自身、似合わない言葉だと理解しながらそう言わずにはいられなかった


特に自分の危険も顧みずに奇形化させていた少年、静希に対して、強く幸運を祈っていた










「・・・で?何か言い訳はあるかい?」


静希達が数時間かけて帰宅し、学校前で解散した後、自宅に帰ってきた静希を出迎えた雪奈によって静希は拘束されていた


いや、拘束というのは正しくない、より正確に言うなら、正座させられていた


普段なら静希が正座させる立場だというのに、今はその関係が完全に逆転してしまっている


それもそのはずだ、なにせ静希の右手を見た時の雪奈は一瞬何がどうしてこうなったのか本気で理解できなかったのだから


「・・・いやその・・・無理はしてない、無理はしてないし命の危険もなかった、ちょっとメフィに頼んだだけで」


「ふぅん、それで右手がそんな有り様になっちゃうんだ、お姉ちゃんとの約束忘れたの?心配させないって、無茶しないって」


雪奈は笑みを浮かべながら静希を見下ろしている、顔は笑っているのに目が全然笑っていない、僅かに殺意すら見え隠れしているその姿に静希は冷や汗を止められなかった


この笑顔はやばい


長年雪奈と一緒にいた静希はこの笑顔の危険さを十分理解していた


「し、心配させることもしてないし無茶もしてない、できることをやっただけで」


「へぇ、こんな手になっちゃってもそんなことが言えるんだ、私はその手を見た時心臓が止まるかと思ったよ?それでも同じようなことが言えるかね?」


「・・・ご・・・ごめんなさい・・・」


正座させられる静希を人外たちは心配そうに眺めている、特に直接かかわったメフィは気になるのか、テレビを見るふりをしながらこちらをしきりに確認している


邪薙は今回静希を十分に守れなかったことでふがいなさを感じ神棚に引きこもり、オルビアは静希と雪奈を見ながらおろおろしていた


「これはあれだね、私の腕を切り落とさなきゃね、約束だもんね」


「ちょっ!待て!それは待て!オルビア一緒に止めてくれ!」


何時の間に所持していたのか刀を一本手に取って雪奈は物悲しそうな表情をした後でその刀を自分の腕に押し当てようとする


だが静希とオルビアが飛びかかりそれを必死に阻止しようとした


この姉は、やると言ったら本当にやる、それを理解している静希からすれば冷や汗が止まらなくなった


「雪姉、頼むから!頼むからそんなことやめてくれ!俺が悪かったから!」


「・・・私の気持ちちょっとはわかった?本当に心配したんだからね?」


心臓が止まりそうになる、比喩ではなく、本当に心臓を握りつぶされるのではないかと思うほどに圧迫感と緊張感を覚えていた


自分の無茶が雪奈の片腕の存亡に直結することを再認識した静希は雪奈の体を抱き留めた状態で何とか刀を奪取することに成功する


雪奈に刃物を持たせておく時点で危険なのだ


「・・・明ちゃんはなんていってた?」


「・・・明利は特には何も・・・ただ少し不安そうな顔してた」


だろうねと雪奈は奇形化した静希の右手に触れる


ごつごつした手触りと、飛び出した鱗を触り、小さくため息をつく


「もう・・・静は何回言ってもいう事聞きゃしないんだから・・・」


「・・・ご、ごめん・・・」


自分のことを心配してくれている気持ちは十分以上に理解している、だからこそ、謝罪の言葉しか出てこなかった


「・・・静、どんなに危なくなっても、ちゃんと帰ってくるんだよ?じゃなきゃ私泣いちゃうから」


「・・・うん、わかってる」


何度か静希の頭を撫でた後で雪奈は静希から離れる


そしてその視線の矛先が静希ではなくメフィに注がれる


「さて、共犯者メフィ、何か弁明はあるかね?」


唐突に名指しされたことでメフィはびくりと反応しながらゆっくりとこちらを向いた後で口笛を吹く


「わ、私はシズキに頼まれただけだしぃ、ちゃんとやめるようにも言ったしぃ」


「あんたがもっとしっかりしてればこんなことにはならなかったんじゃないの?そこら辺どうお考えかなぁ?」


肉薄する雪奈に、メフィは視線をそらしながら必死に笑みを作っているが、それもひきつってしまっている


こんな雪奈を見たことが無いために、メフィは少し驚いているのだ、今までのなさけない姉貴分とはまた違った一面である


「わ、私だって慣れないことしたって自覚はあるけど、それでもがんばったわよ?とにかく静希が死なないように気を付けたんだもの、そこまで責められるのもどうかと思うわ」


「ふぅん、長年の経験の塊の悪魔が慣れない・・・ねぇ・・・」


精一杯の言い訳も雪奈の鋭い眼光の前に完全に打ち崩されてしまっているのか、メフィは視線を泳がせながら高速で静希の背後まで飛翔し助けを乞うことにした


「シズキ、助けて!ユキナがいじめるわ!」


「静!甘やかしたら駄目だよ!今回ばっかりはきっちりしておかないと!」


「・・・俺にどうしろというのか」


自分も責められていたという立場上、なんともしがたい状況に静希は困り果ててしまった


自分が引き起こしたことだけに見て見ぬふりはできそうにない


軽率な行動はとるべきではなかったなと思いながら静希はどうやってこの場を収めようか悩み始めていた







実習が終わってから数日たった週末、静希達は鏡花の家に集まっていた


「それでは、ハッピーバースデーディア鏡花!誕生日おめでとう!」


陽太の音頭で全員がその場にいる鏡花へ向けて賛辞と拍手を贈る


今日は鏡花の十六歳の誕生日、雪奈と誕生日が近いため忙しない感はあるが、全員が鏡花の誕生日を純粋に祝っていた


その場には鏡花の家族が用意した料理や、静希達が持ち寄ったお菓子などが立ち並んでいる、そして中心には大きめのホールケーキに蝋燭が十六本たてられていた


「いやぁ・・・あれね、やっぱうれしいもんね、祝ってもらえると」


鏡花は照れ臭そうにしながら頬を掻きながらどう反応したものか困ってしまっていた


同級生に祝われるなどという事は本当に久しぶりだったのだろう、嬉しさとむずがゆさが同居しているような少し複雑な表情をしていた


「さてじゃあ早速プレゼントと行こうか、まずは私から行かせてもらおう」


「・・・刃物とかじゃないですよね?」


今まで雪奈が渡してきたプレゼントというと刃物関係しか思い浮かばなかったために、鏡花は一瞬身構えてしまった


世話になった先輩とはいえ、この祝うべき席で刃物を渡された日には両親にどう説明するべきか困ってしまう


「安心しなさい、鏡花ちゃんにぴったりなものだよ、ほい誕生日おめでとう、大事にしてね」


雪奈が渡した小さな包みの中には、銀色に輝く三種類の髪留が入っていた、装飾と材質からそれなりに高い物であったことがうかがえる


「うわぁ・・・これ結構いいものですよね?」


「まぁそれなりにね、大事にしてね・・・それ着けて陽にアタックするのだよ?」


小声でつぶやかれた言葉に鏡花は一瞬赤くなって雪奈を振り払う


からかわれるのはわかってはいたが、こういう場で言われるとばれそうで怖かった、両親と陽太以外は全員知っているのがまた複雑な気分である


「それじゃあ次は俺だな、ハッピーバースデー、これ着けて陽太をおとして見せろよ?」


「余計なお世話よ・・・ってこれ・・・」


静希が持ってきたのはいくつかの化粧品と香水だった、そこまで自己主張の激しいものではないようで、ほんのわずかに香る甘いにおいが鏡花好みだった


「明利に頼んでお前の肌に合うものをセレクトしてもらった、これなら問題なく使えそうだってな」


「なるほどね、ありがと」


なんとも堅実なプレゼントに鏡花は笑ってしまう、何とも静希らしい


「それじゃあ、次は私、これ着けて陽太君に告白してね」


「あんたらはあれか、打ち合わせでもしてきたの?」


そろいもそろって同じようなことを言う三人に視線を向けながら鏡花が包みを開けると、その中には薄ピンクの口紅と冬と春、両方に着れそうなカーディガンが入っていた


鏡花のセンスに限りなく近く、以前雑誌を見ていいかもと思っていたものだった


「うわ!なにこれ嬉しい!普通に嬉しい!ありがと明利!」


「喜んでもらえてよかった、ちょっと心配だったんだ」


恐らく何度か一緒に雑誌を見て話していた時の鏡花の視線の動きを逃さなかったのだろう、人の表情や感情の機微に敏感な明利らしいプレゼントと言える


「そんじゃ最後は俺だな、鏡花には世話になったからな、かなり気合入れて選んだぞ」


「その言い方だと若干不安が残るわね・・・」


そんなことを言いながらも鏡花は陽太が持ってきた包みをゆっくりと開ける

すると中にはマフラーと手袋が入っていた、どちらも女性用で、シンプルな作りで自己主張しないものの、誰にでも気に入られそうなデザインをしている


陽太なりにどうやったら鏡花が喜んでくれるかを必死になって考えた結果であろうという事がうかがえるプレゼントだった


「・・・あんたにしてはいいもの選んだわね、ありがとう、嬉しいわ」


「そうか?そりゃよかった、頭ひねった甲斐があったってもんだ」


鏡花はわずかに顔を赤くしながら陽太が贈ってくれたマフラーと手袋をほんの少し強く抱きとめる


陽太も満足のようで、にこやかに笑いながら鏡花の誕生日を祝っていた


「今日はありがとうね、君に会うのは初めてかしら」


その様子を横からニヤニヤしながら見ている静希に、鏡花の母、清水早苗が飲み物を持ってやってきた


凛とした表情をした綺麗という表現がよく似合う女性だった、十六の娘を持つ母とは思えないほどである


「いえ、鏡花にはいつも世話になってますから」


早苗が持ってきた飲み物を受け取りながら静希は軽く会釈してみせる


静希の両腕には鏡花が作った肌スキンが取り付けられ、一見すると普通の手にしか見えない、だが注意深く見ればその手がわずかにいびつな形をしているのがわかるだろう


「あの子があんなふうに笑っていられるのも、きっとあなたたちのおかげね」


「そう言ってもらえるとうれしいです、まぁ俺は特に何もしてないですけど」


鏡花が今ああしていられるのは、静希達の力というより、陽太の力というべきだろう


何があったかまでは静希も把握していないが、鏡花と自分たちをつなぎとめたのは間違いなく陽太だ


自分たちは普通に接していただけ、特に変わったことは何もしていない


「これからもあの子をお願いね、あの子打たれ弱いところあるから」


鏡花の母早苗はそう言ってほほ笑みながら鏡花の元へ向かう


陽太は鏡花の母と顔見知りなのか、いつも通り普通に話している、そして鏡花は母が出てきたのを機に空気を変えようとしているのか、少し顔が赤くなりながらも陽太に何か話そうとしていた


一班の人間全員が十六になり、今年最後の校外実習も無事終わった、静希の体は少しだけ形を変えたがこうして生きている


無事に今年も越せそうだと思いながら静希は料理の一つを口に含み、何度か咀嚼して飲み込んだ


誤字報告と700回記念で三回分


本当はこの投稿で2,000,000字突破したかもしれませんが、そのお祝いはまた後日ということで


今回で18話は終わり、明日から19話がはじまります


これからもお楽しみいただければ幸いです

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