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J/53  作者: 池金啓太
十八話「雪の見えるその場所で」

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手術の後の

「お・・・終わったぁ・・・!」


部屋から出てきたのは白い服にわずかに血を付けた鏡花だった


その表情からかなり疲労していることがうかがえる


「お疲れさん、どうだった?」


「一応、成功したけど・・・きっついわ・・・」


恐らく肉体的にではなく精神的につらかったのだろう、無理もないかもしれない、人の足を切開するような場面を間近で見てしまったのだから


いくら治療目的とはいえ、人の体内を見て平気でいられるほど鏡花は図太い神経をしていなかった


「お疲れさん、心配かけたな」


「鏡花ちゃん、ありがとうね、すっごく助かったよ」


続いて中から出てきたのは何の問題もなく歩いている静希と両手が血に塗れた明利、そして監督していた城島だった


血まみれの小さな体を見て陽太は一瞬眉をひそめるが、平然としている静希の方を見て首をかしげる


「もう歩いて平気なのか?」


「あぁ、麻酔が残っててちょっと違和感あるけど、問題ない」


どうやら明利によって開かれた傷ももう完全にふさがっている様だった


体内に残留している麻酔が分解されるまで時間がかかるだろうが、すでに普通の健康体とほぼ同じ状態になっているのだろう


手術のすぐ後で少し血が無くなっているせいか貧血気味のようだったが、数日もすれば元に戻ると明利は言っていた


「幹原と清水はすぐに着替えておけ、挨拶をしたら撤収するぞ」


「え?もう帰るんすか?」


城島の言葉に陽太は近くにいる斑鳩に視線を向けた後少し申し訳なさそうにしている


もうすぐ昼になろうという頃、帰りにかかる時間を考えればそろそろ移動し始めなければ夜になってしまうのは十分にわかるが、このまま斑鳩を放置していていいものか


「斑鳩さんの方に関しては私が手を回しておく、すぐにというわけにはいかないだろうが、能力者の密猟者もいるんだ、何とかできる」


「そっすか・・・まぁそれなら・・・」


犯罪者を捕縛するのも軍や警察の仕事、能力者が関わっている時点で能力者が出張るのも当然のことではあるとはいえ、無論時間はかかる


斑鳩は自分たちのせいで無駄に時間を消費しているのだ、これ以上時間を無為に過ごさせるというのは少し悪い気もしてしまう


「響君、そう気にしなくていいよ、私は自分の身くらい自分で守れるさ」


「・・・わかりました・・・んじゃ準備します」


陽太は渋々と、明利と鏡花はとにかく体についた血や汗の匂いなどを落とすために一度風呂へ、そしてその場には静希と城島、そして斑鳩が残った


「さて・・・五十嵐、その右手のことはどう説明するつもりだ?」


城島の鋭い視線が静希の奇形化した右手に集中する、それは斑鳩も同じだった


数刻前にあった時には静希の右手は少なくとも普通の人間のそれだった、なのに数時間たったら突然奇形化しているなどと普通ならあり得ない、それをこの場にいる大人二人は正確に理解していた


「まぁなんですか、ちょっとだけ無茶しまして、命に別状がないギリギリのところまで頑張った結果と申しましょうか・・・」


「・・・なるほど・・・つくづくお前は厄介なことをしてくれる」


城島の目と声は怒りによってとてつもない圧力を発している、静希は冷や汗を流しながらその顔を見ることができなかった、先日の左腕の喪失から、今度は右手の奇形化、そろそろ本格的に教育指導されてしまうかもしれない


「・・・それって、無理やり魔素を注入したんだね?」


「・・・はい、エルフの斑鳩さんは詳しいかもしれませんね・・・まぁ俺にもそういうのが一緒にいるんです、そいつに頼んでギリギリまで注いでもらいました」


斑鳩はエルフだ、人外である精霊の類をその身に宿していると考えて間違いない、『そういうの』という風に言葉を濁したが静希も人外を連れているという事を暗に伝えたのは久しぶりだったかもしれない


斑鳩は静希の右手をとってよくよく観察する


表皮が黒く硬く変化し、指先は骨と爪が融合し鋭く尖り、手の甲からは骨が突き出して鱗のように形を変えている


僅かにその手を撫でて小さくため息をついた


「・・・すまない、私を守ろうとしなければもっとやりようはあっただろうに」


「気にしないでください、あの状態まぁベストではなかったかもしれませんけどベターな方法だったと思います、後悔はしてません、収穫もありましたし」


あの場に斑鳩がいなければ、もし静希の班員が全員そろっていたら、斑鳩の言うようにもっとやりようはあっただろう、静希が危険を冒さずとも、密猟者を行動不能にするくらいのことはできていたかもしれない


だが仮定は仮定だ、あくまで空想の産物でしかない、現実はすでに起こってしまったこと、変えようもなければ、思い返すことでしか認識できない


「俺たちはこれで帰らなきゃいけませんけど・・・斑鳩さんもお気をつけて、あいつの能力とか特徴とか教えておきましょうか?」


「いいや、響君からすでに聞いた、十分注意させてもらうよ、君たちの厚意は決して無駄にしない」


そう言って斑鳩は静希に右手を差し出す、静希もすぐにそれに応え、奇形同士の握手を交わし、互いに微笑んで見せた


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