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J/53  作者: 池金啓太
十八話「雪の見えるその場所で」

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完成する切り札

使用者の体の異常を感じ取ったのか、ヌァダの片腕は急速に静希の体の修復を行い始めていた


骨が皮膚を突き破り、その形を鱗のように変えている中、その能力によって骨の形ごと元に戻されていく、骨も皮膚も元の状態へと戻っていくが、その修復に抗うように奇形も進もうとしている


手首のあたりで続く修復と奇形化の応酬がどれほど続いただろうか、自分の腕から滴る血が地面に垂れる中、それは完成した


静希の手の上には、黒い一枚のカードが浮いている


他に持っている静希のカードとは全く違う圧迫感を放ちながら、静希の考えが正しいことを示すかのようにその場にあり続けた


だが一つ誤算が生じた


右手が元に戻らないのである


トランプを創っている最中は修復と奇形が横行していたというのに、右の手首まで進んだ奇形が一向に戻る気配がないのだ


鋭く伸びた爪や皮膚、骨と一体化した黒い指、そして黒い皮膚から飛び出た骨で形どられた白い鱗、これ以上変異することはなさそうだったが、奇形が体に残ってしまったことになる


だが新しくトランプを創ることには成功した


今はこの新しいトランプの性質を測らなくてはならない


辺りの冷気が急速に強くなっていく中、静希はトランプの中に銃を入れようとする


だが上手く入らない、今まで通りの発動をしているはずなのだが


「ちょっとまって・・・こうすれば・・・」


メフィが静希の手に再び魔素を入れてから能力を発動すると、そのトランプの中に拳銃が難なく入っていく


「・・・出し入れするときの魔素の量も増えてるのか・・・」


「これを使う時は私がついてないとダメっぽいわね・・・しかも・・・」


メフィの視線の先、静希の右腕をよく見てみるとほんのわずかだが皮膚の黒い部分が広がっているように見える


そしてヌァダの片腕は反応していない、もしかしたらこの右腕の異常が、異常として見られなくなってしまっているのかもしれない


この銃は弾丸を装填した時点で収納限界ギリギリ、これ以上入れられるのであれば、収納許容量が増えたという事になる


静希は近くの枝を手に取ってトランプの中に入れようとするが、入っていかない


どうやら許容量が増える方向に変化したわけではないようだった


冷気の中にわずかに熱気が混ざり、陽太があたりに炎をまき散らしているのがわかる


先程のように冷気が極限まで高められることで刃を出すのであれば、とにかく炎をまき散らしてその発動を遅らせようというのが陽太の考えだった


結果的に、その考えは正しかった


高速で移動しながらも連続的に辺りに炎をまき散らすことで、周囲の温度がさがるのを少しでも阻止する、周りの炎を飛ばせないのであれば自分で動くという陽太のシンプルな発想が少しの間だが密猟者の能力発動を阻害していた


相変わらず分厚い氷の壁と鎧に包まれ、陽太の槍でも拳でも突き破れそうになかったが、時間稼ぎとしては十分の仕事を果たしてくれた


「さぁ・・・お披露目と行くか・・・!」


静希は再びメフィの力を借り、トランプの中から拳銃を取り出す


許容量ではない何か、静希の能力が、静希自身の魔素と悪魔であるメフィの魔素を同時に使うことによりどのように変化したのか


静希の手に収まったその拳銃は、僅かに黒い瘴気のようなものを吹きだしていた


害があるわけではなさそうだったが、あまりいい外観はしていない、だが期待できそうだった


メフィをトランプの中に収納した後、静希は四回拍手し陽太に作戦を告げる

陽太もそれを察して一度足を止めて炎を高めはじめる


密猟者は、一度攻撃を受けたことでその拍手の意味を把握していた


爆発を起こし、氷が薄くなったところで静希が銃撃を行う


同じことをやっても結果は変わらないと能力の発動と防御にのみ専念している中、静希は集中していた


新しい力とでもいえばいいのか、この銃に何が起こったのかわからないが、何も起こっていないはずがない


答えがわかっていたわけではない、だが静希には確証があった


先程と同じように合図もなく静希と陽太は同時に動く


陽太が急速に接近するのと同時に、二枚目の水素の入ったトランプを密猟者の背後から飛翔させ、中身を開放する


そして爆発が起こると同時に静希は数発の弾丸を密猟者へ向けて放った


爆音と強烈な熱量で辺りの音が一瞬聞こえなくなる中、結果だけがその場に残っていた


先程よりもさらに地面を焦がした爆熱と、さらに荒廃させた衝撃、そこまでは先程とさして変わりは無いように見えた


だが、問題はその先、静希の放った弾丸だった


静希の放った弾丸は幸か不幸か数発が密猟者へと着弾していた


氷の鎧に阻まれることなく、いや、阻まれるどころか完全に貫通し、その体も通り抜けて密猟者のさらに先にある木々も貫通し、射線の先にある地面へと深々とめり込んでいた


密猟者は体を撃ち抜かれた部分から僅かに血を流し、苦悶の声を漏らしていた


「・・・ふぅ・・・陽太!」


「あいよ!」


静希の声がすると同時に陽太は密猟者から離れ、静希の方へ駆け寄りその体を担いで一時的にその場から撤収する


何が起こったのか陽太はわからない


だが陽太は見ていた、静希の放った弾丸は密猟者の足に数発、脇腹に一発それぞれ当たっていた


すぐに傷口にある血を凍らせて止血した様だったが、あの状態では自分たちを追うことはまずできないだろう


「おい静希、一体何したんだ?・・・ってその右手・・・!」


「ちょっとな・・・でもいい結果が得られた・・・!」


静希の奇形化した右手を見て陽太は驚いていたが、当の本人が笑っているのを見て問題ないのだろうと感じそれ以上何も聞かなかった


そして陽太の視線は静希の右手から、その手に握られている拳銃へと注がれる


黒い瘴気を吹きだしている拳銃、今まで静希の持つ武器の中であんな状態の物はなかったはず、という事はあの場で作ったのだろう、あの氷の鎧を打ち破れるだけの力を


「足は平気なのか?当たってたみたいだけど」


「あぁ・・・一発中にめり込んでる・・・後で取り出さなきゃな」


十分離れたところで陽太は一度停止する


静希達が接敵してからまだ十分程度、だが相手に負傷は負わせた、あの状態での追跡はほぼ不可能だ、もし追うとしたら直接危害を与え続けた静希のいる方角、斑鳩を連れた鏡花と明利を追うことはないはずだ


「どうする?このまま撤退か?」


「いや、少し様子を見る、傷を負ったとはいえ追ってくる可能性だってあるんだ、鏡花が到着する時間まではきっかり時間は稼ぐ」


楽観して失敗したのでは目も当てられない、何より相手は能力者だ、自分たちが予想もしていない方法で行動可能な状態にしてくるかもしれないのだ


静希達が稼いだ時間はまだ十分程度でしかない、鏡花が無事にたどり着けるだけのボーダーラインにたどり着くまで少なくともあと二十分は密猟者を足止めしておく必要がある


銃弾のうちの一発を受けた足が痛むが、弱音は吐いていられない、相手も負傷していてこちらも負傷している、条件はこちらが有利なのだ


付かず離れず、向こうからはこちらを認識できないが、こちらからは認識できるようなギリギリの距離を保ちながら時間を潰していく


斑鳩が無事に城島の元へたどり着けるようにフォローするのが自分たちの仕事だ、しっかりと自分たちのできることはしなくてはならない


トランプの中にいる人外たちに見張りを頼みながらも一定の距離を保ちながら観察していると、どうやら負傷の手当てに集中している様だった


血を凍らせて一時的に止血したようだが、長時間そんな無茶な止血をしていては傷口が壊死する可能性もある、正しい止血法を行い動けるだけの状態を整えている様だった


「動く気配ないな」


「あぁ・・・諦めてくれたならそれでいいけど」


双眼鏡でぽっかりと空いた戦闘の跡を眺めながら静希と陽太は少し傾斜の強い山の斜面の一角の木の上にいた


向こうからは知覚できないほどの距離だが、こちらは相手より高い位置にいる上に双眼鏡をもって観察している、気づかれることはまずないと思いたい

木の上で密猟者を観察していると上空から白い粉のようなものがゆっくりと落ちてくる


「・・・今日も雪か・・・」


「冷えてきたからな、無理もねえだろ」


曇天の空からゆっくりと落ちてくる雪に静希達は白い息を吐いて集中を途切れさせないように意識を強める


「ていうか静希、その手、明利達にどう言い訳するつもりだ?」


「ん・・・泣かれるかもしれないけど、命に別条はないんだし、平気だろ」


人間の物とは違う形になったその手を見ながら静希は小さくため息をつく、まったくこの事態を予想していなかったわけではない、奇形が進んでもある程度で抑えられると思っていたし、そこまで危険もないと踏んでいた


だからこそ実行したが、ここまで見た目が変わるとは思っていなかったのだ

鋭く尖った指先、手の甲から現れた白く大きい鱗、黒く変色し、僅かに硬くなった肌


手としての形は保っているものの、その手に含まれる特徴はどれも人間のそれとは思えない、明らかに異常をしめしていた


「でもあれだな、その鱗みたいなの、ドラゴンみたいでかっこいいな」


「そうか?まぁ骨でできてるみたいだから鱗とは厳密には違うだろうけど・・・」


静希の手の甲にできた白い鱗、かなりの硬度を持ったそれは陽太が軽く叩いてもびくともしなかった


左腕は霊装に、そして右手は奇形に


少しずつではあるが人間離れしつつあるなと実感しながら静希は双眼鏡の先にいる密猟者の観察を怠らない


神の名を持つ霊装と、悪魔の力で得た奇形


つくづく自分は人外という存在に魅入られているのだろうなと思いながら静希は苦笑してしまう


形を変えてもそれは人の手と何の変りもなく動いてくれる、左腕の霊装よりはずっと使い心地がいいと判断し、静希はそれ以上右手について気にすることはなくなっていた





「・・・時間だ・・・引き上げるぞ」


鏡花たちが無事に城島の元へたどり着けるだけの時間、約三十分を無事経過した時点でも静希の視線の先にいる密猟者は動く気配がなかった


時折動いていることから、死んでいるわけではなさそうだが、少なくともその場から立ち去る仕草は全く見られなかった


予定より少し長い間様子を見ても動く気配がないため、静希は安全ラインを確保できたと判断し、この場から離脱することにした


「どうやって帰る?鏡花たちに追いつくくらい早く動くか?」


「いや、俺たちで殿の代わりをする、小走り位の早さでいいだろ、追跡されないように木の上を伝っていく」


静希はトランプの中からフィアを取り出し、能力を発動させてその上にまたがる、陽太もその上に乗せ、移動を開始する


直線的に戻るのではなく、密猟者から少し距離をとって弧を描くような形で宿舎と密猟者の間にルートをとって間違っても自分たちを追い抜けないように進路をふさぎながら移動する


鏡花たちが今どのあたりにいるかまではわからないが、こうして静希達が動いている時間が一番危険だ、もし動くような気配があれば迎撃も致し方ない


だが長時間の監視の間に静希の持っていた拳銃は瘴気を放つのをやめ、ただの拳銃に戻ってしまっていた


どうやら新しく得た効果はある程度制限があるらしい、それが時間的なものか、それとも消費するようなものなのかはわからないが、いつでも自由に使えるというものでもないようだった


静希は前方に注意を払い、フィアに進行方向を指示し続け、陽太は後方を警戒し追われていないかを確認していく


木の上を走っているために足跡が残るという事はないが、さすがに能力を発動している時のフィアほど大きな動物が動けば目につく、こちらを追ってくる可能性だってゼロではない


どれほど移動しただろうか、一度足を止めて休憩していると静希の携帯に電話がかかってくる、相手は鏡花だった


「もしもし」


『もしもし、こっちは問題なく到着したわ、そっちはどう?』


鏡花の声が聞こえてくると静希は安堵の息を吐き、陽太の肩を三回タップして問題なく斑鳩達が到着したという旨を知らせる


振り返ることもしなかったが小さく息を吐いたことから安堵していることが覗えた


「こっちは一度戦闘して、俺が負傷したけど問題ない、今そっちに向かってるよ、追手の気配も今のところはない」


静希もわずかに後ろを振り返るが、密猟者は影も見えない、今もあの場に座り続けているのか、それとも気づかれないように追ってきているのか、静希にはわからなかった


『そりゃよかったわ・・・あんたが負傷ってことはちょっと面倒なことになったってこと?』


「まぁな、あとで明利に治療を頼むからその旨伝えてくれ」


了解よと告げて鏡花はそのまま通話を切る、自分たちの行動がしっかりと報われた結果に静希は再び安堵し、フィアに少し急ぎ気味で戻るように指示を出す


今までよりも早くその体を走らせ、その十分後に静希達は城島達の待つ管理宿舎に戻ってくることができた


「・・・帰ってきたな」


「どうも、お騒がせしました」


管理宿舎の前で腕を組んで待っていた城島が、陽太に肩を借りて歩いている静希を見てため息をつく


結局昨日から戻ってくることができなかったために多少心配はかけたようだがしっかり連絡を取っていたという事でそこまで咎めようというつもりはないようで一瞬静希の手を見た後、踵を返して明利達を呼んでくれた


「お、帰ってきたわね・・・ってあんたどうしたのそれ!?」


「静希君・・・それ・・・!」


宿舎の中に入り、靴を脱いで体についた雪を落としていると鏡花と明利が奥から小走りでやってくる


二人の視線は静希の右手に注がれていた


無理もない、唐突に静希の手の形が奇形と化しているのだから


「こっちは後で報告する、それより明利、やってほしいことがある」


「え?えっとこの手の治療は・・・私じゃ・・・」


「いや、こっちの足に散弾の一発がめり込んでてな、摘出してほしい」


その言葉に明利は静希に触れすぐに同調し始める


すると表情を変えて静希のズボンをすぐさま脱がせて足に直に触れる


「・・・小さいけど・・・確かに中に入ってる・・・中に入った状態で傷が治っちゃったってこと?」


「あぁ、自動回復ってのも面倒なもんだよ・・・軽く切開して取り出してほしいんだ」


「・・・病院行ったほうが確実じゃないの?」


「ここから一番近い病院って・・・」


明利が地図を確認すると、この辺りにある病院はほとんどが個人病院で、一番近い場所で車で数時間かかる場所にある、しかも辺りは雪が降り始めてまともに車が走れるかどうかも怪しい、救急車も期待できないだろう


「明利さえよければこの場でさっさと取ってほしいんだ、できるだろ?」


いちいち病院に行って取り出すよりも、明利に頼んだ方が早いし安上がりだ

左腕のおかげで傷は治るのだからこの場で開こうが病院で開こうが同じことである


「えっと・・・私はいいけど・・・先生、いいですか?」


「ん・・・幹原は医師の指導を受けているんだろう?ならば許可する、ただし滅菌などの衛生には最大限気を使え、監督は私が行う」


城島の許しが出たところで、明利は表情を一転、普段あまり見せ無い真剣で鋭い視線を静希の足に向ける


「鏡花ちゃん、今から言う道具を作って、陽太君は熱いお湯と綺麗なタオルをたくさんもらってきて、今から手術するから」


明利の鋭い言葉に鏡花も陽太も反論する事さえせずに指示に従った、医学に関してはこの班で明利の右に出る者はいない、それが全員わかっているのだ


誤字報告五件分と土曜日なので合計三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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