苦肉の策
『メフィ・・・悪いけど力貸してくれ』
静希が最初にしたのは、最も付き合いの長い人外との交渉だった、この策は、彼女の協力なしには完成し得ない
『あら・・・実習中に私が手出ししちゃまずいんじゃないの?』
『手は出さなくていい、俺に力を貸してくれれば』
静希の言っていることの意味が良く理解できないのか、メフィは疑問符を飛ばしていたが、数秒した後にそれを察した
それは一番長く静希と一緒にいた人外の勘だろうか、それとも今まで多くの人間と契約してきた悪魔としての勘だろうか、その考えは、運よく、いや運悪く、的中していた
『・・・シズキ、やめておきなさい、寿命を縮めるわよ』
『できることがあるならやる・・・それに死ぬ可能性はほぼゼロだ、やる価値はあるだろ?』
状況を理解できていない邪薙とオルビアが二人の会話に注目する中、メフィはため息をついていた
それは完全にあきれ返り、同時に感心している様だった
『そこまでする必要があるの?シズキが危険になるだけじゃない』
『足が死んでる以上、さっさと相手を行動不能にしておきたい、でも陽太の能力じゃ氷の壁と鎧で阻まれる、俺の手持ちじゃ傷つけることはできない、なら手は一つだ』
静希の決意は固いようで、メフィの説得も通じないようだった
ナイフ、釘、水素爆発、そして太陽光
これらすべてが通じなかった以上、静希の攻撃はほとんど出尽くしていると言っていい
殺傷能力の高い硫化水素がまだ残っているが、相手を殺すつもりはないためにさすがにこの場で出すわけにもいかない
となれば、新たな一手を出すしかない
『もう・・・言い出したら聞かないんだから・・・』
『慣れっこだろ?またお前をびっくりさせてやるから、頼むぞ』
そう言って静希はメフィを自らの傍らに顕現させる
障害物に身を潜ませ、その体をトランプの中にあった布で覆い隠し、周囲から完全に見えないようにしてみせた後、静希は一枚のトランプを右腕の上に飛翔させる
それはジョーカー
静希のトランプの中で唯一数字の入っていないトランプで、いずれ切り札となるものを入れるつもりだった、文字通り『切り札』となるカード
そのカードを一度消滅させ、静希は息を吸う
「本当にやるのね?」
「あぁ、さじ加減はお前に任せる・・・信頼してるぞ」
「・・・もう、そんなこと言われちゃ、やる気がでちゃうじゃない」
陽太に時間を稼ぐように指示を出してから、静希は集中しメフィは静希の右腕に自分の腕を当てて集中しだす
静希の能力は収納系統に属している
詳しい分類を上げるのであれば、主系統が収納、そして自らその媒介を作り出せる発現、そして収納したものを最善の状態にすることができる付与、この三つの系統の混成で成り立っている
能力を使う際に魔素が使用されるのは、能力を発動して物質を収納するとき、あるいは出すとき、そして媒介となるトランプを創り出すとき
能力の強さはその性能にもよるが、大体が魔素の使用量の多さで決定する
静希の使用する魔素の量は陽太や鏡花が使用する魔素の半分にも満たないほどに少量、では、この使用量を強引に増やせばどうなるか
自らの許容できる魔素の量を超えればもちろん、その体は負荷に耐えられず奇形化する
過去城島から聞いた実験の結果から、静希は悪魔であるメフィがそばにいても、自らの体に魔素を注入するような危険な行動は避けてきた
だがいま、静希の左腕には傷を癒す霊装ヌァダの片腕が存在していた
メフィには右腕に魔素を集中させ、その魔素を使って新しくトランプを生成する
普段使うのよりも、数段多く、特性も違う魔素を注ぎ込めばどうなるか
トランプに内包できる量が変わるのか、それともトランプに入れた時の効果が変わるのか
結果はわからないが、やってみる価値はある
仮に右腕に奇形が生まれ始めても、きっと左腕が治してくれる
「・・・いくぞ、メフィ」
「えぇシズキ・・・いつでも」
互いに視線を合わせて深呼吸した後、メフィは静希の右腕に魔素を注入し始める
そして同時に静希が右腕に意識を集中し、新しいジョーカーのカードを創造し始める
普段作るときのような感覚ではない、無理やり血管の中に血液以外の液体を流し込んでいるかのような強烈な圧迫感と、手のひらから放たれる黒い稲光
少しずつ、本当に少しずつ創り出されていくカード、メフィは静希の魔素許容量から考えて供給する魔素を探りながら可能な限り少なく、そして少しずつ多くしていた
そしてそれは唐突に起こった
激痛と共に静希の指先の皮膚を突き破り、骨と爪が鋭く一体化し皮膚が黒く変色していく
肌の変色が指先から手のひらへと、徐々に広がっていき、手の甲から骨が突き出てまるで鱗のように形を変えていく
「ぅ・・・ぐぁ・・・!」
「シズキ、集中しなさい・・・!」
「わか・・・ってるよ・・・!」
皮膚と肉が突き破られる激痛に耐えながら静希はトランプの創造をやめない
手の甲にある鱗は巨大で、皮膚と融合しているかのような形になっている、まるで竜の鱗のようになった血に塗れた白い鱗
奇形変異が手首から先に進みかけている時、静希の左腕が反応した