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J/53  作者: 池金啓太
十八話「雪の見えるその場所で」

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雪上の戦い

静寂があたりを包んでいる雪山の中、足音と息遣いしか聞こえないような静寂の中、静希と陽太は密猟者を視界に収めていた


木々の枝の上に乗り、隠れながら様子をうかがっているその距離はおよそ五十メートルほど、遮蔽物などを考えるとかなりギリギリの距離だ


静希と陽太は互いに視線を合わせて合図し、二手に分かれて移動を開始する

密猟者が向かう先には宿舎がある、どうやら足跡を追跡してここまできたようだった、このまま進まれるのはあまり良くない、となればこちらで少し手を加える必要がある


フィアの能力で作り出した体の中に溶け込むように入り込んでから木々から木々へ、わざと少し音を出すように移動する、宿舎の方角からは少しずれ、山の方へと入る方向に


この静寂の中でその音は確実に密猟者の耳に届いた、もともと耳もいいのか、音がしてからすぐに振り返り進行方向を変えて見せた


こういう音に反応して動くあたり、どうやら相当山での行動や探索に慣れている様子だった


しかも四足歩行のフィアの足音のする方ではなく、二足歩行している陽太の足音の方に僅かにずれている、ここは素直に相手をほめるべきだろう


仕掛けを済ませながら陽太を視界に収めつつ、静希は木の上に待機して密猟者の動向を探る


障害物が多いために仕掛けはしやすいが、周りが白銀に包まれており、動くものも少ないためにあまり派手にトランプを動かすと気づかれる可能性があるために見えない位置に設置しておびき寄せるという方法をとるしかない


静希と陽太が明利と鏡花と別れてからまだ数分しか経過していない、この調子で密猟者を宿舎の方から引き離せれば問題なく斑鳩を送り届けられる


密猟者が静希の設置したトランプ付近までやってくると一度足を止めた


もう少しで罠の射程距離に入るというのになぜそこで足を止めるのか不思議だったが、あたりを見渡しながら銃の用意をし始めた


気付かれたのだろうか、こちらは足音をたてた以外は身動きをとっていない、足音が突然消えたことを不審に思っているのだろうか、それともこの辺りに何か不審な点を感じ取ったのか


機械的な金属音が辺りに響く、密猟者が弾丸を入れた後いつでも撃てるようにスライドを引いたのだ


このままこの場で足を止めていてくれればそれはそれで静希達の思惑通り、時間を稼ぐことができるという事だが、そう上手くいくだろうか


静希は密猟者が持つ銃を観察する、数発撃つことができる上に口径の大きな猟銃、分類としてはショットガンと言えばいいだろうか、既製品であることはわかるのだが随分と改造を施していてほとんど原型がないためどの銃なのか静希は記憶から引っ張ることができなかった


銃口をあちらこちらへと向け、周囲への警戒をしている密猟者、静希も陽太も木の上でその様子を観察していた、密猟者の目標が地面を歩くタイプの獣という認識なのだろう、木の上に意識を向けもしない


しびれを切らしたのか、密猟者は二、三回銃を回してから集中する、銃の周りに冷気が集まり、そしてその銃をバット代わりにして上空へ撃つような動作をして見せた


異音と共に打ち上げられた何かは、上空で分散し、大量の氷の刃となって地面に向けて降り注いできた


辺り一面への無差別攻撃


この辺りにいるのであれば傷を負う、いなくてもここにいないという確証が持てる、探索においてかなり有効でありながら大胆、そして無茶苦茶な手法だった


大量に降り注ぐ氷の刃の雨に静希は木に身を寄せ邪薙に障壁を張ってもらい、陽太は槍を盾代わりにして防ぎきって見せた


だが、防ぎきると静希の方に視線が、陽太の方に銃口が向けられる


「・・・随分まどるっこしいことするじゃないか・・・今度は俺に何の用だ?」


先程までの段階ではまだ確証はあまりなかったかもしれないが、今回は完全に気づかれた


静希達がいる場所の下には少しだけだが氷の刃が落ちていない空間ができている


攻撃と索敵を同時に行うあぶり出し、まんまとしてやられたというわけだ


「無事だったんだな・・・てっきり死んでるかと思ったよ」


「これでも山には慣れてるんでね・・・危うく死にかけたけどな」


思ってもないことを言う静希に対し、密猟者は怒気を含めながら笑って見せる


完全にばれてしまっている以上、存在を隠す必要はない、だが姿をさらす必要はない


ここで会話でもして時間を稼げれば御の字である


相手の意識がこちらに向いているのであれば、できることもある、静希は密猟者の死角からゆっくりとトランプを動かしながら相手の動向をうかがう


「またあんたに追跡されちゃかなわないからな、ここで足止めさせてもらう」


「・・・へぇ、今回は雪崩は起こさなくていいのか?」


「ここじゃ起こしても効果半減だからな」


周りに木々が茂っているこの場所では雪崩を起こしても途中で止まってしまう可能性がある、それに雪崩を起こすことができる鏡花は斑鳩と共にこの場所を離れている、起こしたくても起こせないという方が正しいだろう


「足止めってどうしたいんだ?このままおしゃべりでもしているか?」


「こっちとしちゃそれでもいいけど、そんなの許してくれないだろ?」


静希の言葉に密猟者は顔をゆがめて見せる、その表情からは強い怒気と殺気が感じられた


「ご名答だよ・・・思い切り痛めつけてやりたいんだからな・・・!」


さすがに雪崩に巻き込んだことをかなり根に持っているようだ、仕方ないことではあるし納得もできるがまんまと痛めつけられるわけにもいかない、静希は意を決して陽太と視線を合わせて能力を発動する


静希が能力を発動した瞬間、密猟者の周りに配置されていたトランプから一斉にナイフや釘が射出される


障害物などを避けて射線が通るように設置されたトランプから放たれたナイフや釘に反応し、密猟者の周囲に急速な勢いで氷の壁が展開していく


見てから反応できる速度ではない、恐らく集中を高め準備していたのだろう

だが防がれることくらいは容易に想像できた、氷の壁にナイフが弾かれ、釘が僅かに刺さるのと同時に陽太が木の上から急接近し右腕にある槍を氷の壁へと叩き付ける


氷と炎ではどちらが勝つか、それを証明するかのように容易に壁を突破し密猟者めがけ槍を突き付けようとする瞬間、陽太の体めがけ氷の塊が叩き付けられる


突撃の勢いと氷の直撃、どちらが強いのかなどと考える暇もなく陽太の放った槍はわずかに軌道を逸らし、体ごと後方へと運ばれてしまう


全身に炎を纏った状態ではほとんどダメージにはなっていないようで、氷の塊もすぐに溶けてしまっていたが、密猟者は静希と陽太の連撃をほぼ完璧に防いでいた


その行動から、静希は密猟者の評価を改めていた


最初は氷を発現し多少操れる程度の能力者だと思っていたが、先の攻防からその能力発動のスピード、そして出力もかなり高いものであることがうかがえる


この雪だらけのフィールドがそうさせているのか、それとももとよりそういう能力なのか、一度確かめてみる必要がありそうだった


「くっそ、地味にめんどいな」


陽太は自分の一撃が当たらなかったことを悔しがっている様だった、完全に死角からの一撃だったのだが、それでも反応された、周りの音と気配を察知して完全にこの辺りの空間を把握しているのだろう


辺りが静寂に包まれているのが完全に相手のメリットになってしまっている


「喧嘩っ早いのはいいが、ちゃんと相手を見て喧嘩売れよ?もう遅いけどな」


「安心しろよ、あんた程度なら俺一人でも十分だ」


陽太は足止めをするという意味で言ったつもりだったが、どうやら密猟者は別の意味でとったらしい、感情を逆なでされたのか顔を引きつかせながら銃を構えて集中を高めているのがありありとわかる


そんな中静希は三回拍手をする、事前に陽太と決めた合図だ、それを理解したのか陽太は全身の炎をみなぎらせて周りの温度を高めていく


「炎を操る奴は苦手なんだがな・・・ったくお前に用はないんだよ!」


そう言いながら氷の刃を大量に陽太めがけて放つが、陽太はそれらをすべて左右に高速で動くことでかわしていく


雪があるせいで多少動きが鈍いが、動けば動くほど雪は解けていき、陽太の動きやすいように地形を変えていった


そして攻撃を避けながら、陽太は右腕の槍に炎を送り続ける、徐々にその槍は大きく太くなっていき、本来陽太の持つ『攻城兵器』の称号にふさわしい物へと変貌しつつある


陽太へ攻撃を加えながら、密猟者は静希への注意も怠っていなかった


時折フィアの力を借りて木々を移動していくのだが、こちらへ意識を向けているのがわかる、鋭くこちらへと向けられた殺気が確実に静希に突き刺さっている


山に慣れているというのはどうやら伊達ではないらしい、木々の騒めき、周りの空気、それらすべてから周囲の状況を把握している、静希達にはできない芸当だった


静希は移動しながら少しでもこちらへ意識を集中させ陽太への注意を散漫にさせようと何発か拳銃で威嚇射撃をする


当てるような精密な射撃はできなくていい、移動しながら、運が良ければ当たるような適当な射撃だ


小さな銃声とともに放たれた銃弾は数発が地面に、そして数発が密猟者の腕や足めがけて直進する


だが直撃することはなかった


静希から攻撃をされる寸前にその体に氷の鎧が顕現し完全に銃弾を防いで見せたのだ


静希が持つ銃はもとより威力の弱いタイプのものだ、木でできたドアも貫通できるかどうか怪しいものである、厚く張られた氷の鎧など貫通できるはずもなかった


「うざってぇな!少し大人しくしてろ!」


地面に足を叩き付けると地面から巨大で先端が尖った氷の柱が大量に密猟者の周囲に生えてくる


高速で辺りに生えるその柱は木々を容易に貫通しなぎ倒していく


静寂に包まれていたはずの山が一気に騒がしくなり、木の葉が擦れる音、木の幹がきしみ折れる音、幹が地面に叩き付けられる音が周囲に満ちていく

その瞬間、陽太が密猟者めがけて突っ込んだ


倒れる木々の間をすり抜け、氷の柱を足場代わりにして息をつく間もなく接近しその槍を密猟者めがけて突き立てる


常に陽太を視界に収めていたためか、すぐに氷の防壁を張られたが、その程度は陽太の、そして静希の思惑通りだった


分厚く張られた氷の壁を、まるで無い物であるかのように貫通するが、密猟者もそのままやられているわけにもいかず、その場から離れながら能力を発動しようとするなか、それは起きた


倒れてくる木々のうちの一つ、そこに張り付けられた一枚のトランプ、そして氷の壁を陽太の槍が貫通した瞬間、トランプの中から無色透明の何かが噴出する


それは陽太の援護用の酸素、急速に燃焼する酸素の勢いにより形を変えようとする槍、陽太はその変化を抑えようともせず大きくなった槍をそのまま暴発させる


ほぼゼロ距離、槍を眼前に置いた状態で、身を守るものは氷の鎧のみ


一瞬の光と共に辺り一面が、陽太の炎で満たされていった


誤字報告が五件分溜まったので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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