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J/53  作者: 池金啓太
十八話「雪の見えるその場所で」

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凍てつく空気

あたりにまき散らされた炎の中で木々に燃え移ったものだけが静希の用意した消火用の二酸化炭素ガスで消されていく中、周囲の状況は先程とは一転していた


あれほど大量にあった雪はほとんどが溶け、焼け焦げた地面がのぞいている、柔らかな雪が降り積もり白銀に染まっていた静かな山の一部は荒れ果て、黒い焼け野原となってしまっている


陽太が自分の意志で爆発に近い行動をとれるようになった為に、静希の気体の消費率はかなり下がっていた、きっかけさえ作れば陽太は槍を使って簡単に辺りを焼け野原にできる


水素爆発のような強い衝撃波は生まれないが、槍の形に押し固められた炎が全方向に爆散することで、周囲に与える影響は非常に大きい


近くにいればもちろん巻き込まれるが、遠くにいれば何の問題もない


そして巻き込まれればどうなるか、それは静希自身、身を持って体験している


密猟者が纏っていた氷の鎧はそのほとんどが溶けており、防寒着もところどころが焼けただれ、少し覗いたその肌に軽度の火傷を負わせていた


よもや至近距離で爆発を起こされるとは思っていなかったのだろう、火傷の痛みに耐えながら少し離れた場所にいる陽太をにらみつける


どうやら顔の部分はとっさに重厚な氷で覆ったのか、頭部へのダメージはほとんどないようだった、流石は円熟した能力者、危険への察知能力が異常に高い


静希は音を立てながら倒れる木々から軽く飛び降りて状況を確認する、密猟者はどうやら腕に火傷を負ったらしい、だが動かないほど重症ではない、むしろ下手に傷つけたことで静希と陽太への敵意が強くなっただろう


それでいい、自分たちへの敵意が強くなればなるほど移動している鏡花たちへの注意が散漫になる


今のところこの密猟者に高速での移動手段はない、時間が過ぎれば一瞬でも動きを止めて全力で逃げればいいだけのこと、もちろんそんなに簡単に行くことではないと静希も十分に理解している


「この・・・次から次へと・・・!」


雪崩、射撃、爆発、数人の能力者が集まることによって繰り出される攻撃のバリエーションとしては静希達は十分すぎるほどの手段を有している


そして今のところ、陽太の能力はそのほとんどが把握されただろうが、未だ静希の能力は把握されていない


相手の能力はほとんど理解した、氷の発現、しかもその攻撃範囲もその種類もかなり多い、そして氷自体を操ることでゴーレムの真似事もできる可能性もある


辺りの遮蔽物である木々はだいぶ薙ぎ倒されたが、距離を開ければ十分に隠れられる場所はある、矢面に立つのは陽太の仕事、静希の仕事は物陰からサポートすることだ


ただし周囲の障害物である木のほとんどが倒され無効化されているために足元以外トランプを設置することができない、その点だけは注意する必要がありそうだった


「この場でおとなしくしてるか、またはとっととこの辺りから消えるかすれば見逃してやるぞ、警察に届けるのはさすがに面倒だしな」


「・・・ガキが・・・大人をなめるのも大概にしろよ・・・?」


挑発兼警告のつもりだったが、どうやらしっかりと挑発にはかかってくれたようだ


もしこれで逃げてくれたのならそれはそれで有難かったのだが、そうもいかないらしい


静かな殺気と共に周囲の空気が冷えていくのがわかる、もともと低かった気温がどんどん冷えていき、吐く息が一層白くあたりに漂い、消えていく


冷気は密猟者を中心に発せられており、彼の近くの熱を持った地面でさえ急速に冷やされていくのがわかる


その冷気に触れたからか、それともその様子を見て警戒したのか、陽太は自らの炎を強く猛らせあたりの温度を瞬間的に上昇させる


冷えていく空気と熱せられる空気が同時に別の場所に存在することで、小さな風が舞い起こる中、それは起こり始めた


倒れた木の幹の表皮が少しずつ凍り始めている、密猟者の体も同じように表皮から凍り始めている


いや、彼の場合は再び氷の鎧を纏っているだけなのだろうが、その周りは違う、明らかに下がった気温のせいで氷漬けにされているのだ


陽太が火力を上げても、彼の周りの温度が上がるだけで周囲の空気は一向に暖まらない、能力の拡散とでもいえばいいだろうか、陽太は自分の炎を遠くまで届かせる行為が非常に苦手だ、だがこの密猟者は自分の能力をかなり遠くまで届かせることができるようだった


恐らくは眼前にいる陽太よりも静希を先に黙らせるのが先決であると判断したのか、静希の隠れる木々のある場所まで冷気は迫ってきている


強烈な冷気でこちらの動きを鈍らせようというのだろうか、だがこちらも防寒着に身を包んでいるのだ、そう簡単に体の動きを阻害されるとは思えない

何か意図があるのだろうか


そう静希が様子をうかがっていると、ある音が耳に届いた


それは氷が割れるような、甲高い亀裂音


氷漬けにされていた木々の一つが割れたのだろうかと静希が訝しんでいると、それは起こった


まるで抑え込まれ、溜め込まれていた水が一気に噴き出すかのように、密猟者を中心に大量の氷の刃が地面から生えてくる


その勢いは先刻見せたそれよりも早く、瞬く間に辺り一面を氷の刃で埋め尽くそうとしていた


陽太はとっさに跳躍しその氷の刃から逃れて見せたが、静希は僅かに反応が遅れた


木々を蹴って足場代わりにするも、刃は思ったよりも高く伸び、静希の体めがけて襲い掛かってくる


氷の刃が触れる直前、その刃と静希の体の間に邪薙の障壁が展開される


あとコンマ数秒遅れていればその体に氷の刃が突き刺さっただろう、静希が安堵していると周囲に銃声が響き渡る


銃声は密猟者が持っている猟銃から発せられたものだった


中に込められていたのは散弾だったようだ、静希めがけて放たれた弾のほとんどは身を隠していた木々によって阻まれたが、そのうちの二発ほどが、偶然氷に弾かれ不規則な軌道を描き静希の足へと命中した


一発はふくらはぎに、一発は腿を掠る形で近くの木へと着弾する


弾がめり込んだ足からは血が流れ、近くにある雪と氷を赤く染めていく


「っ!?痛っ!」


『シズキ!無事か!?』


『・・・問題ない・・・軽傷だ』


散弾の一発一発は殺傷能力が低い、足は原形をとどめているし貫通もしていない


いや、静希の場合、貫通していないことの方が厄介だった


霊装、ヌァダの片腕の効果による自動修復、このせいで傷口はすぐにふさがっていき、流れていた血も止まるが、同時に中にめり込んだ散弾の一発は現状取り出せなくなってしまっていた


足に力を入れるだけで鈍い痛みが走る、当然だ、体内に異物が入ってしまっているのだから


以前明利がザリガニに仕掛けたカリクのように、再生能力があっても異物があっては正しく再生されない、敵にやったことで今度は自分が苦しめられるとは思っていなかったために静希は僅かに顔をしかめた


「静希!大丈夫か!?」


「あぁ!問題ねえよ!そっちは!?」


「ぴんぴんしてるよ!ちょっとびっくりしたけど!」


どうやら陽太は完全に無傷のようだった、とっさの判断力と反応速度の高さはさすが前衛というところだろうか、周囲の刃を砕き、溶かしながら着地したためか、陽太の周りには氷の刃どころか冷気すら感じられない


問題ないと言ったが、静希は片足を負傷した、これから満足に動けるとは思えない


障害物の少ない今、能力を発動した状態のフィアは表に出したくない、あれだけの攻撃範囲を持っているとなると的になるだけだ


となると、静希はこの場で待機し、トランプを使って攻撃するべきだろうが、一か所に留まっていてはそれも的になるだけだ、何とか牽制しながら移動するか、相手を完全に動けなくしたい


だが静希の持つ武器では今のところ決定打にならない、あの冷気とその体を覆う厚い氷の鎧、陽太の槍を使って爆発を起こしても剥がしきれるか怪しいものである


しかも周囲の気温はどんどん下がってきている、恐らく能力を全開にして周りにあるものをすべて凍らせるつもりだろう


僅かに静希の体が震える、恐怖ではなく、冷気のせいで体が無意識のうちに震えているのだ、まだ体の反応が鈍くなるほどではないが、まともに動けなくなった今、この状況はよくなかった、早々に相手を行動不能にさせる必要がある


氷で物理的に攻撃を防がれるのであれば、物理的に防げないもので攻撃するまで


静希はトランプを一枚飛翔させ、密猟者の足めがけて少し遠くから太陽光を照射する


高温の光がその鎧を一瞬解かし始めたかと思えば、その周囲に大量の氷の壁が顕現し、偏光により太陽光を屈折させて軌道をそらして見せた


無論その間も光は氷を解かし続けているが、次々と生み出される氷の前にはほとんど無意味と言ってもいいほどだった


ゼロ距離で放てばまだ違ったのだろうが、自分の手の内は極力明かしたくない


静希はわずかに舌打ちしてから大きく四回拍手するとその意味を察したのか、陽太はその体に纏った炎をさらに高めていく


その反応に密猟者もこちらが何か仕掛けてくると気づいたのか、さらに冷気を強くしていく


炎と冷気、高まっていく両者の能力を見ながら静希は深呼吸する


体の中に入る空気は冷え切っており、それが逆に静希の頭を加速度的に冴えさせていた


拳銃を取り出し静希は物陰から様子をうかがう、陽太の炎が極限に達しようとしたとき、互いに合図も出さずに同時に作戦を決行した


陽太は高速で突進、そして静希は密猟者の死角から一枚のトランプを飛翔させ、中身を放出する


取り出したのは水素、先程のような炎だけの一撃だけではなく、今度は衝撃も加味した静希と陽太の連携、キャンドルサービス


一層厚い氷に覆われる密猟者の体が爆発に包まれる中、静希は片手で耳を塞ぐと同時にその体めがけて銃を放つ


爆発の熱と衝撃で氷の鎧がはがれることを期待して放った弾丸、これが当たればさすがに人間である以上重症は免れない


爆音と衝撃、そして熱で周囲の冷えた空気が一掃される中、先程よりもさらにひどい状態になった山の一角、氷の刃も雪も何もかも吹き飛ばしたその中心には密猟者の姿がある


あれだけ厚かった氷はほとんどが溶かされているものの、素肌までは届いていない、薄い氷の鎧だけがその場に残っていた


削りきれなかった


その事実と共に、氷の鎧には数発静希の放った弾丸がめり込んでいる、だがその体には届いていない


恐らく先ほどの爆発を受けて自らを覆う氷の鎧をさらに分厚くしたのだろう、時間を稼ぐためとはいえ下手に小出しで攻撃をしたのは失敗だった


もう少しなのに、あと一手が足りない


源蔵の作る左腕に仕込む用の大砲が完成していれば、もしかしたら削りきれたかもしれないのに


自分にできることはもうないのか


そう悔やむ中、再び密猟者の周りに冷気が発生する


解けた雪が空気中に水分となって飛翔する中、その水分さえも凍り付かせる冷気、またあの氷の刃が具現するかもしれないと強張る中、静希は自分の左腕に注視した


自動回復する霊装、ヌァダの片腕


意を決して、静希は一枚のトランプを取り出す


誤字報告が五件分溜まったので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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