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J/53  作者: 池金啓太
十八話「雪の見えるその場所で」

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親として子として

「へぇ・・・じゃあこの辺りの出身じゃないんですね」


「あぁ、私は関東の方でも北部の出身でね、たぶん君たちの近くにある村とは違うところの出身だと思うよ」


それぞれ身の上話をしているうちに話に花が咲き、それぞれの出身や最近の出来事を話すようになってきた


静希達の所属する喜吉学園にいるエルフ、石動と東雲姉妹とは別のエルフの里で生まれ育ったのだという斑鳩、全国に点在しているエルフの里の中でも彼はある種特殊な存在だったらしい


「それにしても普通に過ごせてたっていうのは少し不思議ですね、頭固いエルフとかだとなおさら・・・」


「私のような全身奇形は時代によっては忌み子として扱われることもあったようだけど、やっぱり時代の変化っていうのもあったんだろうね、私のいた村ではそこまで気にされなかったよ、両親の尽力もあったようだが」


忌み子、斑鳩の言葉は静希達の聞きなれないものだった


昔の日本に存在した風習の一つらしく、災いや不幸を呼ぶ呪われた子供のことを指すのだという、外見が完全に人とは別のものとなっている子供であれば、そう見られてもおかしくないとも思えてしまうが、斑鳩の両親はそんなことは気にせずに彼に愛情を注いだのだろう


それぞれの村が隔絶し、独特の文化というより考え方を持っているエルフの村では恐らくその待遇などもだいぶ違うのだろう


石動の住んでいた村は若者が少なく、年寄りが多かったせいか頭が固く、以前のようなエルフの方が優れた人種であるという考えを持つものが多かったが、どうやら斑鳩のいた村では若者の方が多く、どちらかというと新しい考え方へと目を向ける者の方が多かったのだろう


そういう意味では、斑鳩は非常に運がいいと言える、これでもし彼が忌み子として扱われるようなことがあれば、本当に獣の道に落ちていたかもしれないのだ


小さな村であれば、その限られた空間内での付き合いというのはそれだけ濃密になる、そこから迫害を受ければ心も力も歪んで育つ、斑鳩のこの性格と高い教養から、本当に両親に愛されて育ったのだろうという事が覗えた


「君たちは喜吉学園に通っているんだろう?懐かしいな、一度足を運んだことがあるよ」


「へぇ、何しに行ったんです?」


「まぁちょっとした見学さ、いずれ子供を通わせようと思ってるからね、最初はやっぱり驚かれたけど」


その言葉にそういえばこの人は一児の父だったなと思い返して納得する


日本には四つの能力者専門の学校がある、住む場所さえ選ばなければそれこそどの学校にだって入学させることはできる


そうなればできる限りいい環境の学校に入れてあげたいと思うのは親として当然の考えなのだろう


「お子さんって今いくつなんですか?」


「今五つだよ、かわいい盛りでね、まだ能力は発現していないんだけど、そろそろじゃないかと思ってるんだ」


エルフの子供はエルフとして生まれてくる、そして必ず何かしらの能力を持つのだが、その能力が発現するのはほかの能力者と同じく幼少期が多い


強いストレスを感じた時に、身を守る防衛本能などが原因で発現することが多い、年齢的には自我が芽生え始め、自分の考えや感情をむき出しにする頃だ、確かにそろそろ能力に目覚めても不思議はない


「あの、親としては子供が能力持つって、どうなんすか?」


陽太の言葉に、陽太の家庭事情を知っている静希達は一瞬息をのみ、事情を知らない斑鳩は口元に手を当てて悩み始める


陽太はその能力のせいで、両親から強く疎まれている、出来のいい姉と違い、出来の悪い弟、何度も危険を引き起こした落ちこぼれ、何年も迷惑をかけたからこそ、陽太自身それが自分のせいであることも、両親がそう思ってしまうことも理解していた


だからこそ聞かずにはいられなかったのかもしれない、一人の親を前に、能力を持つことがどういう事かを


「そうだな・・・少し不安はあるよ、なにせ私たちが歩んだような危険な道を自分の子も歩まなければならないからね」


「・・・能力が暴走したりすることとか、面倒だとは思わないんすか?」


それは自分が、そう思われていると自覚しているからこその質問だった、面倒をかけ、迷惑をかけ、疎まれているからこそ、聞きたかった


「それは確かに面倒さ、子供はよく泣く、トイレだって最初はできない、歩き方も、自転車の乗り方も、泳ぎ方もしらない、でもそれは仕方のないことだよ、子供っていうのはそう言うもので、私たち大人だって最初はそうだったんだから」


自分たちもそうだったように、子供たちもそうである、そしてそれを支えてもらったように、今度は自分たちがそれを支える、それが家族なのだと斑鳩は言った


自分にしてもらったことを、今度は誰かにしてあげる、そうやって世界や社会は回っていくのだと、静希はそう感じた


「でもそれ以上にね、嬉しくもあるんだ、子供は何も知らない乾いたスポンジみたいなもの、教えたことをどんどん覚えてくれる、覚えていってどんどん成長していく、それが、親としては、すごくうれしい」


はにかみながら斑鳩はそう言って笑って見せた


親として子の成長を喜ぶ、普通の親、普通だからこそその姿が、その表情が陽太にはとてもうらやましく感じた、自分の記憶の中で、両親からそんな表情を向けられたことは一度もなかったから


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