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J/53  作者: 池金啓太
十八話「雪の見えるその場所で」

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斑鳩のあれこれ

「・・・あー・・・なるほど」


斑鳩の言葉に静希は半ば納得していた


エルフというのは言わば人間の奇形種だ、今まであってきたエルフがそこまで人間的特徴を損なっていない部分だったからこそあまり意識しなかったが、人間の完全奇形がいても何の不思議もない


つまり斑鳩は全身に奇形が及んだ、人間の完全奇形というわけである


「・・・まてよ・・・なあ鏡花・・・ひょっとして今回の実習って・・・」


「えぇ、たぶん斑鳩さんが目標ってことでしょうね」


静希の仮説を鏡花は肯定して見せる、なにせ小此木の描いてくれた特徴と斑鳩の外見はほぼ一致している、まさかこんな風に遭遇するとは思わなかったし、相手がまさかエルフだとは思ってもみなかった


「あの・・・斑鳩さん・・・その言いにくいんですけど」


「あぁ構わない、もうその話は聞いた、まさか私がUMA扱いされているとは思わなんだ」


どうやら静希が気絶している間に鏡花たちから大まかな話は聞いていたのだろう、あまり気にしていないようで快活に笑っている


この状況で笑っていられるとは大した人物だと思えるのだが、さすがに見習いたいとは思えない、昔からこういう事に慣れているのだろうか


「あの、ところで斑鳩さんはどうしてこの辺りの山に?」


「ん、この子たちにも話したが、実はこの辺りは私が昔フィールドワークをしていたころに住んでいたことがあってね、ここも私の昔の住処なんだが、引っ越しの時に書類を忘れたらしくてね、探しに来たんだ」


この後軽く説明を聞いたところ、どうやらこの近くの山にはここと似たような地下に造られた洞窟のような住処や書類や道具を置いておく保管庫のような場所がいくつもあるらしい、最近はこの近くを探し回っていたとのことで、その際にキャンプ地の近くまで誤って足を運んでしまったとのことだった


「・・・ってことはあの直線過ぎる足跡って・・・」


「この地下空間への道をまっすぐに歩いてただけってことね、私たちが落ちたのはその出入口だったみたいよ」


一定の重さで落ちる罠かとも思ったが、その実ただ老朽化で耐久度の落ちた蓋のようなものだったという事を知って静希は愕然とする


そして今まで考えに入れていた背後の能力者などと言うものも完全に可能性が消えたために安堵していいやら呆れていいやらという複雑な心境だった


「・・・あそうだ今何時だ?」


「もう十九時よ・・・あんた結構寝てたんだから・・・」


「やばいんじゃないのか・・・?先生に連絡とかしないと・・・または今すぐにでも帰って・・・」


静希の言葉にすでに連絡はしてあると告げて、鏡花は外の様子を写真でとったのか、その画像を見せてくれる


外はかなり雪が降っていて、吹雪に近い状況らしい


暗い山道を吹雪の中歩くことがどれだけ危険な事か静希にだってわかる、完全に閉じ込められたという事でもあった


「これはあれだな・・・お説教コースだな・・・」


「先生にも言われたわ、戻ってきたら覚悟しろって・・・斑鳩さんのことも伝えたら、一度こっちに連れてくるようにって、もう先生と斑鳩さんの方で話は済んでるわ」


どうやら必要な情報伝達はすでに済ませたようで、そのあたりは安心できるのだが、どうにも目の前にいる斑鳩を見ると落ち着かない


どう見ても獣にしか見えないのだからしょうがないのかもしれないが、相手は一応人間だ、失礼にならないようにしないと


「そういえば、斑鳩さんっていくつなんですか?それにお仕事とか・・・」


「私は今年で三十六になるよ、仕事はいくつか兼業していてね、カメラマンと小説家、それに時々だけど学会で発表とかもやってる」


随分と生々しい年齢が出てきたものだが、それよりなによりも職業の内容が意外過ぎた


小説家というのもそうだが、学会で発表をするということはかなり頭がいいという事でもある、人は見た目で判断できないとはよく言ったものである


「私も驚いたんだけどね・・・実はこの人の本、私も持ってるのよ・・・推理小説なんだけどね・・・」


「まじか・・・その、最初はすいませんでした」


「はっはっは、気にしなくていいよ、さっきも言ったけど外見がこれだからね」


自分の体を軽くたたきながらそういってのけるが、静希からしたら意外過ぎてどう反応していいか困るほどだった


というかどうやって人と接しているのかが不思議でならない


昔はエルフの場合、村それぞれに教育機関があったようだったからそれほど困ることはなかっただろうが、社会に出てから相当苦労しただろうことがうかがえる


人間外見が八割だという言葉をどこかで聞いたことがあるが、まさにその通りかもしれない


「でもエルフってことは精霊とかもついてるんですよね、能力の出力凄そうですね・・・」


「そうだね、普通のエルフに比べればそれなりに強いよ、この場所も私が作ったからね」


そう言って荒々しく削り取られた地面を叩きながら笑う、変換で形を変えたのではなく、恐らく力技で削り取ったのだろう、それだけでかなり力が強いことがうかがえる


地下に行けばいくほど土や岩は固くなり、削るのが難しくなる、そして削るためにはその鉱物以上の硬度が必要になる、必要な力と硬度を持っている能力となると、かなり強力な能力であることが静希にも理解できた


「・・・そういやさ、あの密猟者、どうする?斑鳩さんを狙ってるっぽかったけど」


「あー・・・そうね・・・どうしましょうか?」


静希達が昼間出会った能力者、この山付近に出る未確認の動物を狩るために行動しているようだったが、その未確認動物が目の前にいる斑鳩だとわかったらどう反応するだろうか


勘違いとはいえ彼は彼で仕事としてここにきている、静希達が斑鳩を連れて城島達の場所に戻るときに接触したらどうなるか


一度かなり強引な手で行動不能にさせたためにそれなりに根に持っていても不思議はない、最悪戦闘可能な人員だけ対応させて斑鳩だけを城島の元に送り届けたほうがいいかもしれない


とはいえ相手は成熟した能力者、静希達数人で相手したところでまともに相手をできるかどうかといわれると首をかしげてしまう


静希達は能力者としてはまだまだ未熟だ、そこに一人とはいえ能力者として完成した人物が本気で相手になった時どのような結果をもたらすか


しかも相手は犯罪に手を染めている、今さら相手の命を気にかけるとも思えない


「接触しないならそれもよし、足跡とかの痕跡は可能な限り消してきたし、もし出会ったら・・・戦闘は覚悟しておいた方がいいかもな」


相手は銃も所持している、猟銃で数発しか連続で撃てないような形状だったとはいえ遠距離攻撃を容易に行えるというのは脅威だ


「とはいえ、今日はまず動けないけどね・・・」


外は猛烈な吹雪、しかも完全に日も落ちているという事もあってこれから動くのは危険すぎる、明利の索敵や陽太の炎での光源があると言っても危険度はあまり変わらない


「まぁ今日はここで休んでいくといい、私も今のうちに身分証明できるものを用意しておくよ、明日必要になるだろうからね」


「すいません、御厄介になります・・・」


鏡花が頭を下げている中、身分証明できるものがあるのかと静希は少し驚いていた


この外見でも問題なく身分証明が可能なものがあるのだろうか、言っては何だがこの見た目で店などに入ったら一発で通報されそうなものである


「そうだ、晩飯どうする?適当に食うか?」


「保存食ならいくつかあるが・・・君たちはそれでは足りないんじゃないか?」


陽太の言葉に斑鳩は奥からいくつか保存食を持ってくるが、確かに五人で分け与えるには足りない量だった、そんな中静希がトランプの中からいくつか食料を取り出す


食料と言ってもカップ麺などのインスタントばかりだ、軽く持ち運びも容易という事でこういう時には重宝する


「とりあえず十個くらいカップ麺はあるから好きなの持って行っていいぞ、斑鳩さんもどうぞ、鏡花はヤカン作ってくれ、陽太は外から雪を集めて溶かして水に」


静希が出したカップ麺を見て陽太はやる気を出したのか、近くにあったバケツを持ってどこかへと向かう、恐らく外につながっている場所があるのだろう


そして鏡花は壁を叩いてヤカンを二つ作り出す、こういう時にこの二人がいると便利だ


班で動けばどの場所に居ても大抵は生き残ることができる、静希達の班はそういう特色も持っている


「いやぁ、すまないね、こっちの方の備蓄はもうほとんど撤去しちゃってるから・・・」


「構いませんよ、むしろ迷惑かけてるのはこっちですから」


事実、静希達は恐らくではあるが斑鳩のスケジュールをかなり変更させてしまっているだろう、彼の言葉を信じるなら、彼はここに忘れ物を取りに来ただけ、何日もこの場に留まるような暇はないはずだ


何日もこの辺りにいるという事は、それだけこの辺りにある仮住まいの穴が多いことを示している、こうして静希達に付き合うだけで無駄な時間を過ごさせているのだ


陽太がとってきた雪を融かし、鏡花が不純物を分離してからヤカンに入れて陽太の炎を使ってお湯にし全員の持つカップ麺に湯を入れてそれぞれ待つこと数分、箸なども鏡花が作り出して全員で保存食と一緒に夕食をとっていた


「いやぁ、こういうインスタントは久しぶりだなぁ・・・」


見た目大型の獣がカップ麺を食べているその光景が明らかに不自然、というか強烈な違和感を覚えさせる中、静希はもうあまり気にしないようになってきた、人外と日々過ごしている順応力は伊達ではない


「普段はどういうもの食べてるんですか?」


「ん・・・普段は家内が作るものを食べてるからなぁ、主に和食かな?」


「・・・え!?奥さん居るんですか!?」


「な、なんだい、私だって妻くらいいるさ、一応子供だっているんだよ」


全員が驚愕している中、斑鳩は懐から写真の入った手帳を見せてくれる


そこには笑顔で写っている綺麗な女性と、笑っている子供を担いだ斑鳩が写っている、子供の方は右腕に奇形があるようだが、女性も子供も仮面をつけていなかった


「いえその・・・すいません、意外だったもので」


「いやまぁ、君が言いたいことも分かるけどね、まぁ美女と野獣というやつさ、こんななりだから最初は凄くびっくりされたけど」


「・・・仮面を着けてないってことは、エルフじゃないんですか?どうやって出会ったんです?」


「そういえば斑鳩さんも仮面着けてませんよね、なんでです?」


鏡花の言葉に斑鳩は少し恥ずかしそうにはにかむ、さすがに出会った当初のことを話すのは気恥ずかしいのか困ったような表情をしているのが静希達にも理解できた


「いやまぁ・・・大した話じゃないんだが・・・家内は普通の能力者でね、結婚するときに仮面はつけないと約束したんだ・・・えっと、出会いは私が昔学会の発表に行ったときに会場の職員をしていたのが家内でね・・・一目ぼれというかなんというか・・・」


「おぉ、そこのところ詳しく!」


鏡花や明利は何かのスイッチが入ったのか、三十代半ば男性の恋愛事情に興味を持ったのかカップ麺を持ちながら少し身を乗り出す、女子は本当に恋愛沙汰が好きだなと思いながら静希と陽太は残ったスープを飲み切っていた





「も、もうそろそろ勘弁してくれないかな、顔から火が出そうだ・・・」


「えぇ・・・もう少し聞きたかったんですけど・・・」


「鏡花ちゃん、これくらいにしておこうよ、残りは明日でもいいじゃない」


明日も聞くつもりかと思いながら静希は困り果てている斑鳩から明利と鏡花を引き離すことにした


恥ずかしそうにしているという表情がなんとなくわかるというのも不思議なものだ、顔の形が邪薙のそれに似ているからだろうか、若干表情がわかりやすい気がする


「ところで、寝る場所とかないんだけど、君たちはどうする?」


「あ、寝床だったらすぐ作りますよ、ほいっと」


鏡花が地面を足で叩くとすぐに石でできたベッドとその上にふかふかしたスポンジ状のマットレスが出来上がる


そしてもう一度足で叩くと今度は毛布のようなものをたくさん作りだしていく、こういう時鏡花の能力は便利すぎる、形状だけではなくその構造まで作り変えることができるのだから


さすがに生物の細胞を作ることはできなくてもそれに近しいものを作れば一時的な代用にはなる


「すごいね、私のも作ってくれるかな?」


「もちろんいいですよ、一番大きいの作りますね」


斑鳩の要望に適うような立派なベッドを作り出すと、どうやらうれしいのか口元が緩んでいるのが見受けられる、引っ越した後でまともなものが残っておらずここ最近普通のベッドで寝ることができなかったのだという


何日も家を空けていて大丈夫なのだろうかと思えるが、そこは家族との互いの信頼関係があるのだと思いたい


「もうあれだな、鏡花姐さんがいればサバイバルとは無縁だな」


「まったくだ、ジャングルのど真ん中でも普通に生活できる気がするよ」


「あんたら私の能力を過信しすぎないでよね、私の能力だって作れないものくらいあるんだから」


作れないものがある、と言っても鏡花が作れないものなどほとんどないに等しい、生き物以外の物質に関してはほとんど作ることができるのだからサバイバルでこれほど役に立つ能力も他にないだろう


「それじゃ明日の行動を軽く決めておくか、明利、現在位置と地図頼む」


「はい、今私たちはここにいるよ」


明利が指差したのは静希達が落下したところから一キロほど離れた場所である、と言っても静希達が落ちた場所と横穴で繋がっているらしくほとんど移動で困ることはないだろう


そしてそこから接敵しないように可能な限り早く城島の所にたどり着きたい、そうすれば相手もわざわざ戦闘を仕掛けるような真似はしないだろう


斑鳩がしっかりとした人間であるという事が証明され、人のいる場所にいれば襲ってくることはないと思いたいが、仮に人間でも問題ないと言われた場合実習の内容が危険性の確認から斑鳩の護衛に変更されるかもしれない


もっとも、通常のエルフよりも強いかもしれない完全奇形のエルフ、静希達に護衛されるまでもなく能力者くらい余裕で蹴散らせるかもしれないが


「あそうだ、斑鳩さん、今のうちに身分証明書見せてもらって構いませんか?さっさと証明とかしたいでしょうしあらかじめ先生に伝えておきますよ」


「そうかい?それじゃこれで」


明日の行動ルートを考えている中、静希が思い出したように斑鳩にそういうと、懐の中から一枚のカードを取り出して見せた


それは普通運転免許証だった


免許証に写っている顔写真がとてつもない違和感を放っているが、静希はとりあえずスルーして免許証を携帯の写真で撮影し、その写真と軽い説明文を城島へと送信する


「・・・ていうか運転免許持ってたんですね」


「もちろんさ、一応中型まで運転できるよ」


過去斑鳩が教習所に通い教習を受けている光景を想像して、静希は途中でそれを止める


違和感が強すぎて笑ってしまいそうなのだ


人の外見を笑うなど失礼極まりない、これ以上斑鳩に無礼な事をするのは静希の精神衛生上よくなかった


「斑鳩さんって学会とかにも出てるって言ってたっすよね?ひょっとして教職免許とかもってるんすか?」


「よくわかったね、一応教職に就くことも考えたんだけど、なにせこのなりだからね・・・教育実習の頃は生徒からの受けはよかったんだけど・・・さすがにねぇ」


確かに外見思い切り猛獣なのに斑鳩はかなり紳士的な性格をしている、そのギャップから生徒の掴みや反応は良かったのだろう、というかこの人がスーツを着て子供に物事を教えている光景が想像できなかった


「ひょっとして、斑鳩さん大学でてるんですか?」


「一応ね、そんなに大した大学じゃないけど」


「・・・優秀なんですね・・・」


人は見かけによらないというが、本当にその通りだ、能力者で大学に行けるというのは相当優秀な証拠だ、能力者としてだけではなく、勉学の方向でも優秀でなければ能力者は大学には行けない、しかも教職免許も取れるという事は相当優秀な証拠だ


なんと言うか、本当に外見で損をしている人なんだなと少し可哀想に思えるが、他人の人生に同情するなどとあまりいいことではないなと静希は首を小さく横に振る


今彼はそれなりに幸せそうなのだ、それを否定することなど静希にはできない、そんなことを思いながらとりあえずこの光景を記録に残しておくべく、写真にとることにした


唐突に撮られた写真の中には大きな人型の獣と談笑している班員たちの姿が写っている


これを第三者に見せるのが楽しみだと静希は少し微笑んだ


日曜日で二回、誤字報告五件分で一回で合計三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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