唐突な遭遇
再び全員で足跡を追うこと数時間、途中食事休憩をはさみながらも先を進むが足跡は時折直角に曲がることを何度か繰り返しながらも進んでいた
密猟者に追跡されることの無いようにカモフラージュしながら進み、どれほど移動しただろうか、時刻は十四時、移動時間と現在位置を考えると一度戻ったほうがいいかもしれないという時間になりつつあった
「くっそ・・・ここまで歩いて収穫なしか・・・どこまで続いてんだよこの足跡」
早朝から歩き続けた結果、何の成果も挙げられなかったという事実に陽太はわずかに焦りを感じていた
なにせここまで歩いても何もないとはさすがに予想していなかったのである
地図で見るとすでに山を二つほど越えている距離だ、急いで移動すれば一時間から二時間ほどで戻れる距離だが、日没を考えるとそろそろデッドラインが近づいているのは明白である
「途中で足跡が分岐することもなかったしな・・・明利、索敵に何か引っかかったか?」
「ううん、普通の小動物はいるけど、大型の動物はいないよ」
明利の索敵にも引っかからず、陽太の察知能力にもそれらしいものはかからない
となるとすでにこの辺りにはいないのだろうか、もしかしたら人間を見たという事で逃げてしまったのだろうか
目標が臆病であるという可能性は考慮していなかったが、山二つ越えたところまで移動しているとなるとすでに問題ない場所まで来ているのではないかと思えてしまう
「とりあえず一度戻りましょ、この距離だと今から戻っても日没に間に合うかどうか」
「そうだな・・・とりあえず一直線に戻るか、明利ナビ頼むぞ」
「うん、任せて」
「あー、消化不良だ・・・」
陽太は少し不満なのか不貞腐れながら雪を溶かして全員を引き連れ移動を開始する
陽太の気持ちももっともである、なにせ丸一日移動し続けても何の成果も挙げられなかったことは今まで静希達の実習では一度もなかったのだから
こういう実習もあるのだという経験につながるというのは理解できるが、少しもどかしさを感じるのもしょうがないと言える
もし今回の実習が何の成果も挙げられなかった場合、失敗という事になるのだろうがこれほど納得のいかない失敗もないだろう
なにせ大失態を犯した樹海での失敗とはまた違う意味での失敗だ
ただ単純に時間が足りない、時間をかければ何とかなりそうなのにどうにもならないというのは非常にもどかしく、悔しいものである
「明利、この先まっすぐでいいか?」
「うん、この先にマーキングの跡があるから大丈夫だと思うよ」
陽太はその言葉の通りまっすぐに進み続ける、何度かの直角で曲がった移動方法のせいでかなり効率悪く移動しているために直線で移動するとまったく違う道を移動することになるのだ、マーキングがついていれば何の問題もなく移動できるとはいえ地図はしっかりと確認しなければならない
急に高低差が変わったり、谷のようになっていては移動できないことだってある
「そういやさ、鏡花の必殺技ってどんなんだったんだ?」
「ずいぶん唐突ね・・・そうね・・・あんただったら間違いなく巻き込まれるわね」
「あー・・・確かに陽太じゃやられるな」
地図を確認しながら明利のマーキングと照らし合わせて移動し続けること数十分、雑談をしながら雪を溶かし進む陽太はへぇと呟いた
雪崩を起こされるという事は大量の雪がその体を襲うという事でもある、いくら陽太が高熱を持っていても大量に雪を当てられれば恐らく強制的に能力が解除されるところまで炎の勢いを弱められてしまうだろう
全力で直上に跳躍してよけたとしても雪崩の勢いが強ければ落下してから巻き込まれることだってあり得るのだ
「そうか・・・また鏡花と差が開きそうだな・・・また新しい技でも考えるか」
「槍に続く武器第二弾?それは構わないけど、まずは炎の色を変えた状態でしっかり動けるようになることね」
鏡花にたしなめられると陽太は渋々と諦めるが、新しい武器を作るという考えは無くなっていないようだった
槍以外の武器、陽太があらゆる武器を炎で具現化できるようになればかなり心強くなるだろう
そんな雑談を踏まえて進んでいると、僅かに足に感じる地面の感覚が変化する
「ん・・・?あれ?」
「どうしたの?なんかあった?」
「いや・・・なんか地面が」
そう言いながら進む陽太が地面の変化に気付く前に、それは起こった
四人全員がその地帯に足を踏み入れた瞬間、地面が急に音を立てて崩れだしたのだ
「うぉ!?なんだ!?」
陽太は驚き、鏡花や明利が何が起こっているのかもわからない状態で姿勢制御を行う中、静希はその穴の状態とその底を確認すると同時にトランプの中からフィアを取り出して明利と鏡花の方へと投げる
「フィア!二人を守れ!陽太は着地に専念しろ!」
静希が見たそこには幾つか突起した岩があるのが見受けられた
トランプの中の邪薙に意思を飛ばしてその直前に障壁を作り出させる
岩にあたる数瞬前に障壁の展開がなされ、体が叩き付けられる、そして自分たちと一緒に落下してきた岩が静希の体に直撃し、その意識を刈り取っていった
意識を失ってからどれほどの時間が経過しただろうか、静希はゆっくりと目を覚ました
目を開けるとそこには岩の天井、そして光源ともなる蝋燭がいくつか設置されていた
自分の知る場所ではないという事を把握して静希は体を起こす
『シズキ、目を覚ましたわね』
『・・・あぁ・・・あんまりいい気分じゃないけど・・・邪薙、助かった・・・もう少し遅かったら岩に直撃してた』
『いや、その後一緒に落ちてくる岩を防げなかったのは私の落ち度だ、すまない』
『とにかく、マスターが無事で何よりです』
人外たちに心配される中、今の状況を整理しようと頭を働かせていた
あの穴、自然にできた物とは思えなかった、そこまでの距離がありすぎる上に僅かに蓋をされた状態で放置、落とし穴に近い部類ではないかと思えるが、誰が何のために設置したのかは不明である
密猟者が作り出したという事も考えたが、あの能力であれほどの大きさまで削岩できるかは怪しいものである
そこまで考えて静希はふと我に返り、自分以外の班員の姿を探すことにした
自分がいるのは岩でできた部屋のような場所だった、鏡花の能力で作ったのかと思ったが、それにしては妙に作りが雑である、部屋の一部には穴が開いており、どうやらどこかにつながっている様だった
「あ、静希君、目を覚ましたんだね」
その穴から顔を出したのは班員の明利だった、どうやら無事だったようでその頭の上にはフィアが乗っている
「明利、無事でよかった・・・陽太と鏡花は?」
「二人とも無事だよ・・・それでちょっと事情があって・・・」
明利が顔を曇らせると通路の向こうから陽太が呼ぶ声がする、どうやら無事なようだ、安心すると同時に自分が意識が戻ったことを知らせるべきだろうと明利と一緒に通路の向こうへと向かうことにする
「そういえばここはどこなんだ?なんかやたらと人の手が加わってるけど・・・」
静希の指摘通り、岩でできた部屋や通路は妙に人の手が入っている
木箱のようなものがあったり、光源となる蝋燭や通気口のような穴まであったりと人が住むことを前提としているように見える
「あー・・・えっと・・・どう説明すればいいかな・・・」
どうやら明利自身静希にどのように説明すれば一番理解してもらえるか悩んでいるようだったが、これ以上彼女を困らせるのも憚られたので自分の目で確認することにした
「陽太君、鏡花ちゃん、静希君起きたよ」
「お、ようやく起きたか」
静希よりも先に部屋に入って静希の無事を伝えると、陽太が嬉々とした声を漏らす、どうやら心配をかけたのかもしれないと思い静希も部屋に入るとそこには陽太と鏡花、そして二メートルを超える大きな人型の獣のような生き物がそこにいた
和服ともつかない独特な服を身に纏ってはいるものの、あまり布面積は広くなく、どちらかというと体毛の方が目につく
静希がいた所よりも広い部屋の中心部にはテーブルがあり、それを囲むように陽太と鏡花、そしてその大型の獣がそれぞれ温かい飲み物が入っているであろうコップを持ってこちらを見ていた
「・・・え?何この状況?何でお前らそんなでかいのとお茶してんの!?」
状況を全く理解できない静希は少し取り乱しながらこの状況を理解しようと頭の中で情報を整理するのだが、とにもかくにも目の前にいる大きな獣に目を引かれ、もとい気になりすぎてそれ以外のことが考えられなくなっていた
無理もないかもしれない、気絶から目を覚ましたら友人たちが大型の獣と談笑しているような感じを漂わせているのだから
「静希、失礼よ・・・すいません斑鳩さん」
「ははは、いや、私のこのなりでは仕方ないよ、気にしないでくれ」
しかも流暢な日本語をしゃべりだすものだからこの獣実は人外の類ではないかと怪しみだす頃、明利が鏡花たちの持っているようなコップに暖かい紅茶を入れて持ってきてくれた
「えっと・・・とりあえず状況を教えてくれるか?ここがどこかとか・・・その人?は誰なのかとか・・・」
静希の疑問がもっともであるという事を察したのか、この中の代表として鏡花が口を開く
「あんたが気絶した後のことなんだけど、あの穴は縦だけじゃなくて横にもつながってたの、頭を打ってるみたいだったから少し安静にさせてあんたの傷が治るのを待ってたんだけど、そしたらこの人が横穴から出てきて」
「そんで、休める場所まで案内してくれるってことでここまで来たんだ、いやぁ話の分かる人で何よりだ」
すでに鏡花と陽太はこの獣らしい人物を人として扱っているようだが、静希にはどうしても目の前の獣が人間のようには見えなかった
「ははは、流石に信じられないかな、改めまして初めまして、斑鳩大吾だ・・・一応エルフといえば信じてくれるかな?」
「あ・・・五十嵐静希です・・・エルフ・・・?」
差し出された手に少し間をあけてから静希は握手するが、その外見から人間的特徴は見られない
獣のような顔と体、ところどころには巨大で堅牢そうな鱗までついて、よく見れば尻尾のようなものまで付いている、これが人間なのだろうかと疑問を抱かざるを得ない
未だこの斑鳩という人物が人間であるかを静希が疑っているのか察したのか、斑鳩は軽く笑いながら頬を掻いて見せる
「まぁ、この外見ではしょうがないかな、人間の完全奇形と言えばわかりやすいかな」
土曜日なので二回分投稿
きっとそろそろ大量の誤字を誰かが報告するのだろうなと思いながらビクビクしている今日この頃
これからもお楽しみいただければ幸いです