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J/53  作者: 池金啓太
十八話「雪の見えるその場所で」

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可能性の話

「ふぅ・・・あれって本気かな・・・?」


「どうだろうな?目はマジっぽかったけど・・・」


報告を終えた静希達は夕食までの時間、割り当てられた大部屋でくつろいでいた


先程の城島の言葉は少なくとも冗談だとは思えなかったのだ


本来城島は静希達生徒の引率兼依頼者などとのパイプ役も兼ねているが、必要以上の干渉や協力はしてはいけないことになっている、生徒自身の実力を把握しておくためにも大人であり一人前の能力者である教師が手を貸しては生徒の成長につながらないからでもある


無論城島だってそのことは重々承知しているだろう、だがそれでも命に関わるほどの危険に陥った場合、自分が行動すると言ってのけた


その眼は教師のそれではない、どちらかと言えば軍人の物に近かった


「でもさ、前の能力者が関わってる時にはあんなこと言わなかったよな?何で今回に限って?」


「・・・最悪のケースを考えてるんじゃないか?」


静希の言葉に全員が首をかしげる


最悪のケース、それはいくつかの可能性を考えたうえでの言葉だった


「最悪のケースって言っても・・・たとえばどんな?」


「それって前回とそんなに違う事か?」


鏡花と陽太の質問に静希は少し考えた後で腕を組んで胡坐をかく


「前回は事前資料で能力者がいるってわかってたし、能力痕から熱を出す能力ってわかってたから陽太のいる一班なら苦戦はないだろうって思ったんだろうけど、今回は少し事情が違うな」


そう言って静希は持ってきたノートに軽く今回考えられる状況を書きだしていった


細かく前回との違いも加え、陽太にもわかりやすいように図解も載せている


「今回のネックは目標である未確認生物がおかしい行動をしてるってところなんだ、陽太の言ったとおり、誰かに訓練されてるのかもしれないし操られてるのかもしれない、ここで問題がいくつかある、未確認生物の後ろに第三者がいた場合だ」


「陽太の可能性が当たっていた場合ね、問題っていうのは?」


鏡花の言葉に静希は今までの自分たちの戦闘経験を大まかに書き記していく

暴走状態の東雲風香、メフィ、邪薙、孤島の奇形種、完全奇形のザリガニ、研究所に残っていた奇形種、武装した無能力者、能力者の中学生、奇形種多数と能力者の犯罪者、まともに訓練されていない能力者


書きだしていくだけで錚々たる面々だが、その中での共通点を考えた中で鏡花が気付く


「・・・なるほどね、複数同時戦闘経験のなさ・・・か」


鏡花の言葉に静希はその通りと言って書き記した名前を一つずつ思い出しながら状況を書き記していく


「俺らは今まで相手が多人数いても可能な限り単体で相手にするようにしてきた、もし陽太の予想が当たっていて、目標を意のままに操れた場合、同時に二人を相手にすることになる」


それは今まで静希達が敵に対して行ってきた連携を相手がしてくる可能性を示唆していた


単体での戦闘能力がそこまで高くない部類でも、連携を駆使することによってその能力を倍以上にすることは十分可能だ、それがもし片方が行動を完全に操れる状態だとすればなおさらである


自分の欲しいところに欲しいフォローを、逆に自分が攻めている時に同時に攻撃、一人が二人に増えるだけでその対応は骨が折れる


「でもそれなら今回も分断すればいいだけだろ?そこまで警戒する必要あるか?」


「まぁこの問題はそこまできつくはない・・・むしろもう一つ、状況が最悪になる可能性があるものがある」


静希は小さく息をついて一瞬明利を見る、それはかつて明利が言ったことでもあった


「相手が能力者で、生き物の体を自由に操ることのできる能力者だった場合、これが城島先生の考える最悪のケースだと思う」


最悪のケース、その状況に鏡花たちは少し身構えていたのだが、静希の言葉に少し安心してしまう


「えっと、江本君の能力の体バージョンだと思えばいいのよね?前に似たような話をしたような気がするけど」


「えっと・・・体の電気信号を操作して体を動かすっていう能力だった場合、ってことでいいんだよね?」


以前能力の話をしていた時に出てきた、人間が操作できるであろう能力の可能性の話だ


以前江本の使っていた、『他人の能力を操作する能力』に似ている、脳に働きかけて人間の行動を制限したり制御したりするタイプの同調系統の能力


人間の扱える能力の出力や、その操作性の難易度から、大まかに分けてそれぞれ一つの分野でないと操作できないのではというのが結論だった


今回の場合は対象の脳から筋肉へ伝達される信号を操作するという能力だった場合である


「そこまで危険か?能力操られる方がよっぽど厄介だと思うけどな?」


「じゃあ実際に体の信号を全部操られてるって設定でいってみるか、陽太、今から俺の指示には全部従えよ」


百聞は一見に如かず、そして何事も体験して初めてその危険性に気付けると言うものだ


言葉で言っても分からないなら実践してその危険性をわからせた方が早い


直接言葉で言われてもピンと来ないのはしょうがないことでもある、だが万が一のことを考えれば一度しっかり確認したほうがいい


なにせこの能力が実在した場合、その相手は確実に相手を死に至らしめることができるのだから


聞いてしまえばなんだそんな能力かと思えるが、本当は危険度がかなり高い能力であることをしっかりわからせるべきだ、前線で戦う陽太には特に


「じゃあまず陽太、右腕を上げろ」


「はいよ」


静希の言葉の通りに陽太は右腕を上げる、下ろせという命令がないため陽太はそのまま右腕を上げ続けていた


「次、俺の言った言葉をそのまま話せ、アメンボ赤いなアイウエオ」


「アメンボ赤いなアイウエオ」


発声練習などで使われる言葉を何の抵抗もなくしゃべる陽太を見て鏡花は何かに気付く、だがそんなことはお構いなしに静希はさらに指示を続ける


「じゃあ次、陽太息を大きく吸ってから息を止めろ」


「おうよ」


またも静希の指示通り大きく吸ってから陽太は息を止める


そしてその状態で静希は何も言わなくなった


人間の行う代謝において唯一自分の意志で行えるものが呼吸だ


心臓などの臓器は脳や意識とは切り離されている状態で動き続けているために意識的に操作することなどはできない、だが呼吸は自らの意志で行うことができる


つまり呼吸は脳から送られる信号でも行えるということである


無論意識のない状態でも呼吸が続いているために、意識とは別の部分、無意識的に働くこともあるのだろうが、相手が無意識よりも強いところで呼吸を止めた場合、今の陽太のように顔を赤くした状態でもだえ苦しむことになる


「ぶはぁ!も・・・もう無理・・・!」


「とまぁこうなるわけだ、今陽太に限界がきて勝手に動いたけど、もし完全に陽太が支配下に置かれた場合、どうなってたと思う?」


「・・・なるほどね・・・確かにきつそうだわ」


静希の行動に鏡花はその能力の危険性をほぼ正確に把握していた


人間が他者とコミュニケーションをとる場合のほとんどで使用されるのが声による意思疎通だ、だがこの声も脳の信号によって発せられている


体の動き、そして声、呼吸までも相手に支配されることがどういう事を表すのか


万が一能力をかけられたまま日常生活に戻った場合、誰にも気づかれないということもあり得るのだ


一方、陽太はそこまでの危険性は考えていないようだったが、少なくとも相手の命を楽に奪えるような能力であるということは理解したようだ


それこそ何の証拠も残さずに人を殺せる、少し高い建物の上から歩いて落すだけで相手を殺せるのだ、即効性はないかもしれないがこれほどえげつない能力もないだろう


「まぁ危険性に関してはわかってもらえたかもしれないが、どうだね陽太君?」


「あ・・・あぁ、やばいってことはわかった・・・けど何でそれが城島先生の最悪のケースってやつになるんだ?」


仮想した能力の危険性に関しては十分理解できたようだったが、それがなぜ最悪のケースなのか、陽太は今のところ分かっていないようだった


「言動や行動を操作されるってかなり危険よ?それこそ自分が望まないことだってできるし言えるもの・・・私や静希なんかは外部に自分の意志を伝えられるだけの方法があるけど・・・」


鏡花は自分の能力を使って筆談もどきを、そして静希はトランプの中にいる人外たちと意思疎通して間接的にだが会話もできるだろう、だが明利や陽太は肉体的な行動でしか意志を伝えられない


仮に、明利の行動や言動が完全に制御された状態で、まったく間違った方向に誘導された場合、まず間違いなく静希達は引っかかるだろう、明利の索敵をそれほど信頼しているという事でもあるが、逆にそれを利用されてしまう可能性だってあるのだ


「例えば、俺らが報告に戻った時に『なにも問題ありませんでした』って言わされたら、問題の有無に限らず先生には問題ないとしか伝わらないだろ?自分たちの危険を伝えられないんだ・・・それに簡単に人質にも取られそうだしな」


行動や言動の制御というのはそれだけで危険だ、自分の思っていることもやりたいことも全くできずに意のままに操られる、危険としか言いようがない状態に強制的に陥れられる


陰湿かもしれないが、可能性として無視できないからこそ厄介だ


「でもまぁ、あくまで可能性だろ?それに俺が言ったことだぞ?当たるとは思えないんだけどな」


「まぁそうなんだけどさ、一つの可能性としてあり得るってことだ・・・考えておいて損はないだろ?」


実際に陽太の仮説が当たったことはあまり多くないが、それでもその危険性を考えればあらかじめ念頭に入れておいて損はない


なにせ以前その可能性を考慮していなかったために痛い目を見ているのだ、二度同じ轍は踏まないようにしたいものである


「実際あるかどうかは置いておいて、考えて損はないでしょうね・・・現実的な問題は複数同時戦闘の場合の対応かしらね」


「そっちの方があり得そうだもんね・・・今まであまりやったことないし・・・」


戦闘経験はそれなりに多い静希達だが複数の敵に同時に襲われるということはあまり想定したことが無い、なにせ常に相手が一人になって連携できないような状況にしてきたのだから


「あらかじめいくつかパターンを作っておいた方がいいかもな、万が一の場合班を二つに分けたほうがいいかも・・・」


「その場合の分け方は戦闘能力別でしょうね・・・妥当なのは男女で別れることかしら」


相性などを無視した状態で最も戦闘能力が高いのは陽太と鏡花、この二人は分けたほうがいいだろう、静希の戦闘能力はたかが知れているし明利は戦闘に関しては門外漢だ


一度本気で考えたほうがいいかもしれない複数戦に向けて静希達は意見を出し合い対策を練ることにした


私用が続き予約投稿、日曜日なので二回分


たぶん月曜日から普通に投稿すると思いますのでもう少々お待ちください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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