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J/53  作者: 池金啓太
十八話「雪の見えるその場所で」

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温めるために

十六時ちょうど、静希達は一時的に進行を止め足跡を中心として周囲の雪を陽太の炎で一気に排除させていた


結果だけを言えば、十六時までで進んだ場所まで伸びている足跡はほぼ直線だった


ここまで変化がないと本当に何者かに操られているのではないかという気さえしてくる


「それじゃあ一度戻りましょうか・・・明利、この辺りのマーキングはできてる?」


「大丈夫だよ、近くの木とかにもマーキングしたから」


こういう時明利の能力は本当に便利だ、周りに植物などがあればすぐにマーキングしてその場所を簡易的にではあるが索敵できるのだから


今まで歩いてきた中でも近くの木々に触れてはマーキングを繰り返していたため、持ってきた種の節約もできているのだろう、明利は山や森といった自然の領域と相性がいい、彼女が取得した異名は伊達ではないという事だろう


「結局今回は収穫なしか、ここまで足跡だけ、他の痕跡がまったくないってのも妙な感じだな」


「まぁ、今日はマッピングが進んだだけましだろ、この先に行けばもうちょっと変化があると思うぞ、たぶん」


静希自身もあまり確証はないが、少なくともただの野生の奇形種であれば距離的に考えて何時接触してもおかしくない、そうした場合生息地を割り出して食性を確認、写真なども撮っておきたいところである


「とりあえず今日は引き上げよ、さっさと戻りましょ」


「了解了解、んじゃ先行するぞ」


来た道を陽太を先頭に戻っていく静希達、雪を溶かして足跡を確認しながらの移動と違い数倍近い速さで元のキャンプ場近くまで戻ってくることができた


ここまで戻ってくれば安全圏と言ってもいいだろう、僅かな安堵と共に城島に報告するべく管理宿舎まで戻ることにした


すると少し木々の密度が薄くなると空から雪が緩やかに降ってきていた


予報では十八時から降るとのことだったが、随分と早めに降ってきたものである


「もう降ってきたか、こりゃ鏡花の言う通り早めに切り上げて正解だったかもな」


「山の天気は変わりやすいっていうしね・・・あ、なんか意識したら急に寒くなってきたわ」


夜になり気温が落ち、さらに雪まで降ってきているという事実から急にあたりが寒く感じたのか、鏡花は身震いしながら足早に宿舎へと向かっていく


「戻ったか、首尾はどうだ?」


入り口で装備を取り外し軽く雪を払ったところで中から城島がやってきた、防寒に対して重装備な静希達とは対照的にラフな格好をしているのが印象的である


「今日は接触なしです、ちょっと奇妙な動きなのが気になりますが、まぁそこは後で報告します」


「そうだな、今は体を温めろ、小此木さんが風呂を沸かしてくれている、早めに入ってこい、ここの風呂はかなり大きいぞ、だが」


「じゃあ早速行ってきます、もう寒くて寒くて」


城島の言葉に体の冷えを感じていた鏡花はすぐに準備をするべく自分たちに宛がわれた大部屋へと向かった


静希達もそれに続き、まずはこの冷えた体を温める必要があると心底実感した


動いている時はそこまで気が付かなかったのだが、足先や指先、体の先端部分がとても冷たくなっているのだ


特に雪に触れていることもあった足はかなり冷たい、靴下などがあっても関係ないというかのように冷気を着実に伝えていたようだった


「やっぱ寒かったのか?俺はそこまで気にしなかったけど」


「あんたは炎纏ってたんだから当然でしょ、こっちはほぼ生身だってのに」


「そういえば静希君、左腕は大丈夫?」


「あぁ問題ない、でもやっぱり中に仕込んでるナイフはかなり冷えてるな・・・冷たくなってる」


静希の左腕は生身ではないが、その中に入っている金属の刃は外気にさらされ確実に冷やされていたようだった


金属は熱を通しやすいためどうしても冷えやすい、直接触れることはないとはいえ熱に対する対処もした方がいいかもしれない


風呂に入る準備を終えて静希達は早々に風呂場へと向かった


風呂場と書かれた場所を見つけて即座に男女分かれた暖簾をくぐり素早く服を脱いで冷気に肌を晒しながらすぐに風呂場へと向かおうとする


「・・・やっぱあれだな、こうしてみるといかついな」


「あぁ左腕か?まぁしょうがないな、本来の腕よりちょっと太いし」


静希の左腕をまじまじと見て陽太はむむむと唸り始める、未だ思うところがあるのかその表情はあまり良い物とは言えない


今さらという感もあるが、これ以上気にしてもしょうがないともいえる


マイナスも大きかったがその分プラスも大きかったのだ、静希からすれば今は何の不満もない


「とりあえずさっさと行こうぜ、体が冷える」


「そうだな、お!結構広いじゃんか!」


陽太が浴場への扉を開くと、その言葉の通りかなり広い風呂場が用意されていた


体を洗うスペースも、広めになっているようだった


「おぉ、こりゃいいな、二人で使うのはもったいない感じが」


「へぇ!結構大きいじゃない!」


「本当だ、すごくひろ・・・」


静希達がまずは体を洗おうとしていると、聞きなれた声が聞こえてくる


入った時には気づかなかったが、静希達が入ってきた扉の横にもう一つ扉がついている


そしてそこにはタオルで体を隠した鏡花と明利の姿があった


「・・・えっと・・・なに?どういう事・・・?」


「・・・ここ男湯じゃないのか?」


「・・・私たちは女湯のところから入ったんだけど・・・」


「・・・家族風呂ってやつか?」


静希は今回のことに対して少し思うところがあった


なにせ城島が風呂のことを説明するときに、最後『だが』と言いかけていたのを思い出したのだ


そしてその先に言おうとしたことを静希は予想した


節約のため家族風呂一つしか沸かしていないから男女分けてはいるように

恐らくそんなことを言おうとしたのだろう


だが静希達は体を温めることを優先にして話を聞かなかったばかりにこのざまである


「こ・・・これはあれかしら、悲鳴でも上げればいいのかしら?」


「えっと・・・私はそこまで気にしないけど・・・」


鏡花と違い静希や陽太の裸などは見慣れている明利はそこまで動揺は大きくないが、男の裸など見慣れていない鏡花は顔を真っ赤にして僅かに震えている


そんな中、静希は何かに気づいたようににやりと笑う


「どうせだから明利、一緒に入ろうぜ、鏡花と陽太がどうするかはお前たちで決めろ」


「え?はぁ!?なに言ってんのあんた!?」


体をタオルで隠した状態の鏡花は相変わらず顔を真っ赤にして慌てふためいている


この状況で慌てないほうがおかしいのだが、鏡花以外の人間は全員そこまで動揺していなかった、半ば自分がおかしいのではないかという錯覚に陥ってしまうのだから性質が悪い


「どうせなら鏡花ちゃんも一緒に居ようよ、そのほうがお互いの仲も深まるし」


「ちょ!明利押さないでよ!」


明利に背を押され無理やり浴場のほぼ真ん中に連れてこられたとき、鏡花は理解した、この二人は鏡花と陽太を同じ場所に居させて自分たちだけ離脱するつもりであると


この二人に自分の恋愛事情を相談したのはあながち間違いだとは思わなかったのだが、今この場だけは間違いだったと思えてしまう、物事の順序と言うものを知らないのだろうかと叫びたくなってくる


「俺はどっちでもいいぞ、つかさっさと風呂入りたい」


まるで自分のことなど意に介していないとでもいうかのような陽太の言葉に鏡花の額に青筋が浮かぶ


ここまで自分に興味を示さないとさすがに女としての沽券に係わる、静希と明利はこちらを見てにやついており、陽太はもうすでに体を洗おうとしている


「・・・わかったわよ、こうなりゃもうどうにでもなれよ!」


半ば自棄になりながらタオルで体を隠しながら体を洗う場所へと向かう


「よし明利、髪洗ってやるからこっち来い」


「うん、お願いするね」


鏡花の予想通り、静希と明利はすでに二人で洗うことが当たり前であるかのように行動してしまっている、鏡花と陽太の関係を応援してくれているのはわかるのだがこれは明らかに露骨すぎる


というか男子と女子が同じ風呂に入るというのはさすがに風紀的に問題がありすぎる、あとで城島への言い訳を考えておかなければならないなと思いながら鏡花はシャワーを髪に当て始める


「そういや鏡花の裸を見るのは初めてだな」


「・・・あんたさ、女の子の裸見てその反応は何なのよ・・・っていうかデリカシーなさすぎよ・・・」


まるで興味がないというか、裸を見ることが前提であるかのような反応に鏡花は大きくため息をつく、今度女子に対する対応の仕方を徹底的に陽太に対して講義するべきだろうかと本気で悩み始めた


だが思い返してみれば、陽太をはじめとして、静希も女性の裸と言うものに慣れているのだ


身近に実月や雪奈という姉貴分がいたために耐性がついていても何ら不思議はない


「体を見てどうって聞くのもあれだけどさ、どうよ、なかなかスタイルには自信あるんだけど?」


自分の頬が赤くなっているのをシャワーで誤魔化しながら鏡花はタオルに隠された体を強調するかのように胸を張る


髪に泡がついた状態で陽太は口元に手を当てて鏡花の体を上から下へとじっくり観察していく


「んん・・・俺が今まで見てきた中じゃ一番じゃないか?もちろん人間の中で」


「あれ?雪奈さんの方が私よりスタイルいいけど?」


「そうなのか?あの人の裸見たの随分前だからなぁ、それにお前の体つきの方が好みだな、いい具合に肉が乗ってて」


「・・・ふぅん」


陽太の言葉に鏡花は顔をそむけ、緩む口元を直そうと必死に意識を集中していた


一番、好み


その言葉が頭の中で反芻されてしまい、どうしてもにやけてしまうのだ


デリカシーの欠片もない言葉ではあるが、好意を寄せている陽太にこのようなことを言われたのは初めてだったために、不意打ちされた気分だった


自分の体を逐一確認するふりをしながら髪を洗い、数分間鏡花は陽太と視線を合わせることができなかった


誤字報告が五件たまったので二回分投稿


最近誤字報告がたくさん来て大変です、嬉しいやら悲しいやら


これからもお楽しみいただければ幸いです

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