雪上の移動
雪遊びもほどほどに切り上げ、静希達はやってきたバスに乗り込んで目的地であるキャンプ場へと向かうことにした
バスには予想通りチェーンがまかれ、雪で滑ることを防いでいるようだった
バスに揺られる中でも静希達は外の景色に目を奪われていた
どこもかしこも雪だらけ、これだけ雪があると何故自分たちの住んでいる場所にはあまり降らないのかと不思議になってしまうほどである
町から徐々に離れ、木々が増える中静希と鏡花はその変化に気づいていた
今まで町で見た雪はある程度固まっていたり、いびつな形をしている物が見受けられたが、人里から離れた場所に行けばいくほどに自然な形とでもいえばいいのか、新雪のまま残されているものが多いのだ
人の住む場所では雪が交通の邪魔にならないようにある程度雪かきをして雪を一カ所に集めてしまう、その過程で雪は砕けたり押し付けられたりしてある程度固まる
だがこの辺りに残っているのはほとんどが新雪、つまり人の手が加わっていない雪だ
しかも日中の太陽にさらされている部分は僅かに解けはじめているところがあるのだが、木々が増えるにつれて日の当たらないところも増えて雪がそのままの状態で残されているところも見受けられた
恐らくこれから静希達が向かう場所は人の手が完全に入らない場所だ、確かに城島の言う通り、一度どのような雪が積もっているのかを確認したほうがいいかもしれない
目的の場所にたどり着くと静希達は何よりも大きく伸びをして長時間の移動がようやく終わりを告げたことを喜びながら荷物を運んでいた
なにせ五時間近く座りっぱなしだったのだ、今すぐにでも体を軽く動かしたいところだがそうもいかない
少し坂を上った先に、その建物はあった
この辺りのキャンプ施設やペンションなどの管理施設と合同になっている宿泊施設だ、キャンプを目的としない観光に近い客はこちらに泊まるのだという、静希達が今日から泊まるのもこの場所だった
「こんにちは!喜吉学園の者です!どなたかいらっしゃいませんか!」
城島が中に入り、今回の依頼人に会うべく声を上げると奥の方から男性の声が聞こえ、こちらに移動してくるのがわかる
「いやいや申し訳ない、遠いところからよくお越しくださいました、えと、喜吉学園の方ですね?」
小走りでやってきたのは小太りの中年男性だった、温和そうな顔をしており、その足取りや体格からそこまで運動は得意ではないような印象を受けた
「はい、今日からお世話になります、喜吉学園一年B組一班とその引率の城島です」
「これはご丁寧にどうも、私はこの辺りを管理しています、小此木と申します、今回はよろしくお願いします」
小此木と名乗った男性は立ち話もなんですからと、静希達を奥の方へと案内してくれた、今回静希達が泊まる部屋は大部屋、男女を分けられるように真ん中に襖がついている和室だった
「布団はここに入っていますので自由に使ってください、準備ができたら早速調査を行ってほしいのですが」
「とのことだ、お前達早速準備しろ」
城島の言葉に静希達は了解ですと返事をして各自準備に取り掛かる
荷物を置いてその中から調査に必要なものを小さなバックの中に詰めていく、各種装備と防寒着、そしてその表面に防水スプレーを吹きかけて防水にも気を配る
「あの小此木さん、今回その未確認動物を発見したのって、小此木さんなんですか?」
「そうだよ、もう目が合ったときは生きた心地がしなかったよ・・・」
「その動物を見た場所を地図に記しておいてくれませんか?あと見つけた時間も」
静希の言葉にわかった、この辺りの地図を用意するよと言って数分間部屋から離れ、戻ってくると赤いしるしと日時が書かれた地図を持ってきてくれた
場所から見るにキャンプ場から少し行ったところだろう
この管理宿舎を中心として東にキャンプ場、北西にペンションが位置しているのだが、目撃場所はキャンプ場の北、つまりこの管理宿舎から見て北東に位置していることになる
そして目撃証言のあった先には当然のように山があり、多くの木々が茂っている
「ちなみに見つけた後ってどうしたんですか?すぐに逃げてきたんですか?」
「そりゃもう一目散に逃げたよ、そのあと警察とか猟友会の人とかに連絡したんだけどね、この辺りは猟は禁止されてるとかで、私の話を聞いたら能力管制委員会の方を勧められて、今に至るってわけさ」
なるほどと静希達は準備しながら小此木の話を聞くことにした
野生動物から逃げる際、一目散に逃げるのは実は危険なことでもある、正確に言えば背を向けるのが危険なのだ
背を向けるという行動は相手よりも弱いという事実を表しているようなものでもあり、野生動物からすれば相手が自分の獲物になりえる存在だと認識することでもある
小此木の話を聞く限り最初に背を向けたのはその未確認生物の方だったようだが、一目散に逃げるという表現に静希は苦笑いが止まらなかった
詳しい場所、そして外見的特徴などを聞きだし地図にまとめ、静希達は準備を万端にして管理宿舎の前に集まっていた
「とりあえず今日のリミットは十六時半、日没までだ、行動範囲はキャンプ場から北、目撃証言のあった周辺、何か質問は?」
「なし、いつでもいいぜ」
「こっちも大丈夫だよ」
静希の言葉に全員が頷き、まとめとして鏡花にこの場を仕切ってもらうことにする
掛け声は必ず班長が行うものだ
「それじゃあ各員足元と周囲に警戒していくわよ、先頭は陽太よ足場をしっかり確保しなさい」
全員が一度城島に視線を向けて行ってきますと告げた後行動を開始する、雪上での初めての実習が始まろうとしていた
雪の上の移動というのは案外難しくなかった
というのも足につけているアイゼンのおかげというのもあるが、先頭の陽太が可能な限り炎で雪を溶かしているのが大きい
可能な限り速度を保ちながら移動しているためにすべての雪を消しきれるわけではないが、厚く積もった雪の八割以上を消すことができているだけ十分だと言える
木によって日の光が遮られ体感気温は二度近く低いのではないかと思える、木々に覆われているおかげで大通りなどの道に比べれば雪は少ない方だが油断はできない
「おっと・・・雪落ちてくるから気を付けろよ」
自分の頭に雪の塊が落ちてくるのを確認して陽太は後方にいる静希達に注意を呼びかける
天気が良く日中の気温はそこまで上がっていなくとも日の光によって雪は解ける、特に木の枝葉の上に積もった雪はわずかな変化でそのバランスを崩して落下してくる
しかも今は陽太の炎のせいで下からの熱も与えられ落ちやすくなっているのかもしれない
「陽太、できる限り炎の量を減らして、下半身だけ能力使っておきなさい」
「了解、目撃ポイントまでナビ頼むぞ」
地図を持っているのは自前で用意してきた静希とナビゲート担当の明利だ、常に用意してきた種を蒔き、周囲にある木々に触れマーキングをしながら索敵範囲を広げている
木々の合間を縫って作られた道と、ところどころにある平地、恐らくはあそこにテントなどを設置するのだろうことがうかがえるがそのあたり全体に雪が積もっていて今はその全容を拝むことはできなさそうだった
十分ほど歩くと静希達は管理人である小此木が目標を見たと思われる地点に到着した
地図とコンパスを見比べながら現在地を確認する限りまず間違いなさそうだった
「ここって言ってもなぁ・・・足跡なんて残ってるはずないし・・・」
「残ってても雪で見えないでしょうね・・・見たの数日前になってるし」
小此木が目標を視認したのは数日前、それに対してこの雪が降り積もったのは昨日か一昨日の話だ、現状で確認できるとは到底思えない
「ならここは雪だけ消すとしますか」
「そうはいっても・・・あぁそうか」
陽太が突然腕を振りかぶって笑みを浮かべるのを見て静希は理解する、そして鏡花もそれを見てなるほどねと理解した
陽太の腕が炎に包まれ、ゆっくりとだがその形を槍の形状へと変えていく今回は細く長く、より遠くまで届くように調節しているようだった
「足場は私が作るわ、そこら辺を踏まないようにしなさいよ」
「了解了解、お任せあれだ」
周りの木々を支柱にしながら鏡花は自分の足元から地面の形を変換し地面から数十センチ上のところに石材を作り出して陽太が通れるだけの足場を作り出した、この足場を歩きながら下にある雪を溶かして足跡だけでも見つけようというのである
小此木の記してくれたメモでは少なくとも二メートル近い大きさがあったという事だ、体重もそれなりにあることを考えれば足跡の一つでも残っていて不思議はない
鏡花が変換を用いて地面そのものを動かすことも考えたが、それでは足跡ごと形を変えてしまいかねない、逆に今雪を溶かせばその形がはっきりとわかることにもなる
明利が近くのマーキングを広げる間近辺の雪を消し続けている陽太が小さく声を上げる、静希達は鏡花の作った足場をそれぞれわたりながら陽太の下へと向かうと確かにそれはあった
それは野生動物の足跡にしては随分と大きい、少なくとも二足歩行する動物の中ではかなり大きい方であることがわかる
そして丸みを帯びた熊のそれとは違い、どちらかというと猿や人間のそれに近く、かなり長いことがわかる
数日経過していることもありそこまで鮮明には見て取れないがここに大きな生物がいたということは確認できた
「お手柄よ・・・後はこの足跡がどこへ向かったのか・・・」
再び陽太に近くの雪を消させていくと、その足跡が道を示すように続いているのがわかる
これをたどれば追跡もできそうだ
「明利、歩幅から大まかにでも大きさを予測できるか?」
「ん・・・二足歩行で・・・人間と同じ歩き方をするなら・・・大体二メートル半ばかな・・・もし猿みたいな歩き方をするなら三メートルはあるかも・・・」
相手が二足歩行という事であれば医学に精通している明利の出番だ、ある程度歩幅の広さから足の長さ、そして全体の大きさを予測することはできる
もちろん精度は低いし奇形種ということもあればそこまで当てになるデータではないがあらかじめこれくらいのが出る可能性があるということを頭に入れておけるというのは精神的に優位に働く
「どうする?この先だと山に入るけど、雪どかしながら進むか?」
「そうね、陽太は槍をそのままにして自分の歩く場所から足跡の場所を予測して溶かして、足跡を踏まないようにね」
「了解、地味な作業になりそうだな」
「一応足跡のところに種を置いていくね」
静希は地図を確認しながら印をつけ、鏡花は先程作った石の道を元に戻し、陽太は槍を維持し、明利は索敵範囲を広げることに余念がない
山に入るのは何度も経験済みとはいえ、冬の山、どれほど危険があるかもわからないのだ、気を引き締めるべきだろう
足跡の大きさから考えて近くに行けば木々の密集する山の中でも陽太が気付くことができるだろう、もし相手が臨戦態勢に入っていたらすぐ行動できるように緊張感を高めながら静希達は移動を開始することにした
足跡をたどって移動する事数十分、山を登り始めてからそれなりに時間は経ったのにもかかわらず追跡は思うほど成果を上げていなかった
無論足跡がある以上問題なく追跡はできている、だが雪を溶かして足跡を確認するという通常の追跡とは違う効率の悪さからなかなか先に進めないのだ
山をかなり登ったように見えて実際は数百メートル程度しか進んでいない、整備されていないただの山という事実がさらに静希達の進行を遅らせていた
鏡花が変換を用いて足場を整備してくれているものの、元からある傾斜だけはどうしようもない
歩きながら足跡を確認して方角と現在位置を確認、明利のマーキングも同時進行で行っているとなると移動速度はどうしても落ちてしまうのだ
辺りを警戒しながら進んでいると、静希がわずかな違和感を覚える
「・・・妙だな・・・」
「どうしたの?なんかあった?」
鏡花が静希の視線の先に何かがあるのかと見渡してみるがそこには何もない、そう、何もないことが問題なのだ
「大型の野生動物ってさ、大概自分が歩いたところになんかしらの痕跡を残していくものなんだ・・・もちろん例外もあるけど、山の中で住んでるような動物が何のマーキングもしてないのはちょっと不思議だと思って・・・」
大型の野生動物とは体長が一メートル以上の動物、しかも肉食あるいは雑食性のものに限られる、山に生きる動物たちは一見適当に自分の住処を決めて動いているように見せかけて実際は非常に緻密な縄張りと行動範囲によって成り立っている
以前静希達が行ったことのある富士の樹海でもそうだったが、まるでタイムスケジュールや管轄が決まっているかのように入れ替わりながら、そして上手いことすれ違いながら折り合いをつけているのだ
それは生きる術でもあり、無用な争いを生まないためでもある
マーキングをするのは大型の動物に限ったことではない、自分が通った証明という意味ではなく、この道は危険だということを示すためにすることもある
小此木の出会ったあの獣が、何らかの脅威を感じてその場から去ったのだとしたら何かしらの痕跡が残っていると思ったのだが、近くの木々にも足元にもそれらしいものが見つからないのだ
「十中八九奇形種みたいだし、そのくらいの規定外の行動があってもおかしくないんじゃない?」
「ん、まぁそうなんだけど・・・なんか妙なんだよなぁ・・・」
「妙って・・・例えば?」
明利の言葉に静希は今まで来た道を振り返る、自分たちが通ってきた道は陽太が雪を溶かしたことで一本の線のように明確に示している、明利のマーキングがなくとも容易に戻れるほどに示されたその道に静希はわずかに眉をひそめた
「なんかさ、通り道がやたらと直線的過ぎるんだよ・・・普通動物ってもっとうろちょろしたりするもんじゃないのか?」
「あー・・・確かにまっすぐよね・・・不自然なほどに」
鏡花の言葉に全員が今まで来た道を振り返る
静希のいう通り今まで来た道はほぼ直線だ、木で遮られているところもあり多少歪んでいるのは否めないが、足跡が発見された場所からほぼ一直線にここまで来ている、確かに動物の挙動としては少し不審だ
「・・・ひょっとしてだけどさ、今回も例によってただの奇形種じゃないんじゃないのか?」
「ただの・・・ってどういう事よ」
陽太の発言に鏡花は首をかしげるが、陽太自身どう言葉にしていいか迷っているようだった
「だからさ、静希のフィアみたいに、なんか訓練されてるというか、誰かに指示されて動いてるってことはあり得ねえかな?」
陽太の言葉にその場にいた全員がなるほどと思案を開始する
静希の使い魔であるフィアはまた少し事情が違うが、奇形種が人間に飼いならされている、あるいは訓練されるというのはなにもあり得ない話ではない
命の危機を感じなければ奇形種は少し形の違う動物と同じだ、愛情をこめて生まれた時から育てればそれなりの訓練を積ませることだってできるだろう
あるいは動物を操ることができる、あるいは任意の行動をさせることのできる能力があれば十分可能だ
人間を見ても何もせずに退散したという些か不可解な反応や、この一直線すぎる行動経路、そして足跡以外の痕跡を残していないこの状況
楽観視して進むには少し不安材料が多い気がしてならないのだ
「もしかしてだけどまた面倒事かしら?いやな予感がビンビンするんだけど」
「奇遇だな、俺もなんか嫌な感じがしてるところだよ」
仮に、奇形種を操ることができる第三者がこの周辺にいるとして、その目的が一切わからないのだ
近隣の施設の破壊なども起きていないし、人的被害も全く出ていない、唯一目撃したというだけ、事実足跡があったということでここにいたというのはまず間違いないが、ではなぜここにいたのかというのが問題だ
動物が移動をするというのにはそれなりに理由がある、基本縄張りの中しか動かないことが多い野生動物ならなおさらだ、確実に静希達の知り得ない何かがあるとみていいだろう
野生動物としての常識ではなく、人為的な可能性を視野に入れたとしてもその目的がわからないのが厄介だった、完全なオフシーズンのキャンプ場付近に奇形種を向かわせるその目的、ここまで意味不明の行動だと本当に何がしたいのかわからない分厄介だった
「それにしても本当に一直線ね・・・今地図で言うとどこらへんよ」
「この辺りだね・・・足跡を見つけたのがこの辺りだから・・・本当にまっすぐ来てる感じかな・・・」
行動を始めてから二時間ほど経過し、山の中に随分と侵入してきた頃、静希達は一度小休憩をとっていた
この休憩は体力回復と現在位置の確認と時間調整のためでもあった
明利がマーキングのポイントと今までの行動ルートを記した地図を見てみると一定の方角めがけてまっすぐに移動してきているのがわかる
多少のずれはあってもどこかを目指しているということがはっきりと見て取れた
「これ本当に訓練された動物説あるんじゃねえの?これでただの奇形種だったらましなんだけどよ・・・」
「そうだな、ただの奇形種なら負ける可能性ほぼゼロだしな、いやぁ一年でここまで戦闘経験積んでるのって俺らくらいじゃないか」
「ははは、どっかの誰かさんが面倒事に巻き込まれやすい体質のせいでとんだとばっちりよ本当に、アッハッハッハッハ」
「きょ、鏡花ちゃん、目が怖いよ・・・」
静希の言葉に鏡花が渇いた笑いを飛ばすが、目が笑っていなかった
静希達は一年生だ、普通であれば奇形種との戦闘など数えるほどしかないはずなのだが、静希達の場合すでに両手では数えられないほどの奇形種を相手にしている
しかもそれだけではなく大人の能力者を相手に戦闘をしたこともあるくらいだ、その戦闘経験密度は二年生にも匹敵するかもしれない
一番戦闘を行ったのが富士の樹海だ、あそこほど苦労した場所は未だかつてない
だがその代わりに静希達は確かな実力になっていると感じられた、いや、実力になっているというより、あそこよりはましだろうとマイナス方向で気楽になれるのだ
「まぁ冗談はさておいて、このまままっすぐ行くとどこに向かうんだ?」
「えっと・・・山の中腹部をそのまま直進していくコースになるかな」
「山頂にはいかないのね、まぁそれはそれで有難いわ」
無論、この足跡の主がこのまま直進しかしなかった場合に限られるが、このまままっすぐ進んでくれれば楽なことには違いない
進んだ先に巣があるのか、あるいはその背後に誰かがいるのか、わからない以上今は進むしかないのである
「・・・時間的に・・・あと一時間は行けるか・・・?」
「日没が十六時半、今十五時ちょっと過ぎたところ、帰りの時間を考えるとちょっと遅くない?」
山での日没は平地のそれより早い、しかも周りが木々に覆われているせいで周囲はさらに暗く感じられるだろう
明利の索敵があるために迷うことはないとはいえさすがに夜の暗闇の中を行軍するのは危険であるように思えた
「今日は可能な限り先に進んでおきたいんだ、もと来た道を戻るだけなら問題ないけど足跡探しながらとなるとまた時間かかるしな、リミットぎりぎりまで動きたい」
「ん・・・まぁこのままいけば・・・だけどね」
こういった散策行動には思わぬ発見や遭遇などがつきものである
今のところ全くその気配はないが、今から数分後に何が起こるかまで予測できるような人間はこの中にはいない、頭脳派の二人の意見が多少食い違っている中でも、陽太はあたりを見渡して警戒を続けている
明利も種の準備やマップのチェックに余念がない、こうして休んでいる間でも刻々と時間は過ぎているのである
「私は少し早目にでも切り上げるべきだと思うわ、あと三十分がリミットってところね」
「三十分じゃ一キロも移動できない、どこに終着点があるかもわからないんだ、初日は少しやりすぎくらいが丁度いいと思うぞ」
鏡花のいう事ももっともだが静希のいう事ももっともだ
今回与えられた時間は約三日、いや実際に動ける時間を考えればあと丸一日あるかないかと言ったところか、その限られた時間の中で早々に手がかりとして見つけることのできた痕跡というのは貴重だ
そして今のうちに可能な限りその痕跡をたどっておけば後々楽になるというのもある
静希と鏡花が考えているリスクは一致している
一つは暗闇の中での行動、これは歩くだけでも危険があると言っていいほどだ、暗闇の中で足元さえもよく見えない中山道を歩くというのは非常に危険である
そしてもう一つは長く行動することにより発生する不確定要素との遭遇である
今までの実習で静希達の考え通りに事が運んだことなどほとんどない、そうなれば今回も静希達が考えてもみなかったことが起こって然るべきである、その不確定要素を排除するためにも早めに切り上げておきたいと鏡花は言っているのだ
「安全と危険、どっちが勝るか考えなさいよ、また手痛いことになりたいの?」
「陽太も周囲を警戒してる、帰る道もはっきりしてる、何より周りが静かだ、妙なものに遭遇すればすぐにわかる、そうなったら即撤退で問題ないだろ」
鏡花が安全策を取ろうとしている中、静希は多少のリスクは覚悟の上で進もうとしている
静希の性格的な問題だろうが、リスクとリターンを秤にかけるのが妙にうまいのだ、時折ミスすることもあるが、今回は少なくとも問題は無いように思えた
「・・・じゃあ妥協点よ、十六時、十六時になったら引き返しましょう、それ以上は危険と判断するわ」
「・・・わかった、夜はまた雪が降るっぽいしな、そうしよう」
折衷案がまとまったところで静希達は再び移動を開始することにした
誤字報告が十五件たまったので四回分投稿
誤字が多いのでちょっと頑張ってチェックしました、これであったらもうだめかもわからんね
これからもお楽しみいただければ幸いです