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J/53  作者: 池金啓太
十八話「雪の見えるその場所で」

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今年最後の

「なんで今日は静希の奴、明利を送っていかなかったんだろうな?」


静希の家から帰る中、陽太は不思議そうに静希の家のあるマンションを見上げていた


なにせ普段静希の家で何かがあるときは必ずと言っていいほどに明利を家に送り届けるのは静希の役目だったからだ


「私がいいって言ったんだよ、今日は鏡花ちゃんに送ってもらうからって」


「あいつにもあいつなりにやることがあるからね・・・いや、やらなきゃいけないことというべきかな」


帰路の途中、家に送ってもらうという名目で静希と雪奈の時間を奪うわけにはいかないと明利が気を利かせたのだ


今まで少し焦っていたような感情を見せていた明利だったのに、今は余裕というかゆとりがあるように見える、好きな人と結ばれるだけでそこまで変わるものなのかと不思議に思えてくる


「明利、あんたはよかったの?」


「うん、雪奈さんがようやく静希君と結ばれるんだもん、すごくうれしい」


鏡花に見せるその笑みには陰りも偽りも一切ない、本気で嬉しいと思っているであろうことがうかがえる


体は小さいのに懐は大きいことを実感しながら鏡花は明利の頭を撫でまわす


一緒に居られることが嬉しい、一緒に居られたら幸せ


明利はそんなことを言っていた、そして雪奈も同じようなことを言っていた

独占したいと思わないのだろうか


同じ女として鏡花は複雑な気分だった、普通好きな人ができたらその人を独占したいと思う、鏡花は少なくともそう思う


なのに明利と雪奈、そして静希の間ではそれが成り立たない


付き合いが長いとこうなってしまうのだろうかと頭を撫でながら鏡花はちらりと陽太の方を見る


自分はどうだろうか、もし陽太が自分以外の人を好きになったら、どんな風に思うのだろうか


経験したことないのだからわかるはずもない、だが恐らく嫉妬するだろう、陽太の隣に居たいと思うだろう


「陽太はどうなの?あんたの幼馴染が二股してるわけだけど?」


「あ?別にいいんじゃねえの?隠してるなら問題ありだろうけどお互い納得してるなら周りがどうこういう事じゃねえだろ」


陽太にしては至極真っ当なことを言う、確かにその通りで実際鏡花たちが何を言おうとも静希をはじめとして明利も雪奈も今後の在り方を変えることはないだろう


良くも悪くも静希は将来有望だ、問題解決に対する確かな能力を持ち、悪魔や神格などとも契約しており軍や諸外国ともつながりがあり、人望も豊富である


しかも何度か依頼を受けているおかげかそれなりに貯金もある、これでもう少し性格がマイルドであればもっといろんな人に好かれたかもしれないが、如何せん静希は攻撃的過ぎる性格であるが為に損をしている気がする


「そうなんだけどさ・・・明利達が結婚したらどうなるのかだけが不安だわ」


「け、結婚って・・・まだ早いよ、私たちまだ学生だし・・・」


学生じゃなければ結婚したのかという話は置いておいて、その話に陽太が少し悩むように唸っていた


「あれだろ?明利が正妻で雪さんが側室扱いなんだろ?やっぱ子供は先に明利が生まなきゃな、名前考えとけよ?」


陽太はいい笑顔を浮かべながらサムズアップしているが、話の内容と表情が一致していない、どうこういう事ではないと言っておきながらしっかりとアドバイスはするのかと思いながら鏡花は呆れてしまう


このバカには一度デリカシーと言うものを一から叩き込んだ方が良いのではないかと思えてしまう


陽太の言葉から子供を産むことを想像したのか明利は赤面しながら挙動不審に照れてしまっている、この体で子供がちゃんと埋めるのか正直不安ではあるが明利なら大丈夫だろう、たぶん


そんなことを考えながら鏡花は明利を見てため息をつく


「明利、お願いだから避妊だけはちゃんとしてね?」


「っ!?だ、大丈夫だよ!?静希君もそこら辺はしっかりしてくれてるし」


「あれ?でも最初だけ何もしないでしたって言ってなかったか?」


陽太の思わぬリークに明利は顔を真っ赤にしてうつむいてしまう


なんと言うかお互いの性事情をここまで赤裸々に話すというのもどうなのだろうと呆れを通り越して少し引いてしまう


もし鏡花と陽太がそういう関係になったら静希や明利にも即話が通ることになるのではと思えてしまって少しげんなりする


「明利・・・あんたね」


「だ、だって、最初は・・・ちゃんと静希君を感じたくて・・・」


明利のいう事も理解できる、何事も初めてというのは記憶に残るものだ、だからこそ好きな人をしっかりと感じたいというのも十分理解できる


だからと言って容認していいはずはない


「なんだかなぁ・・・」


「・・・?どうしたの?」


「ううん、前途多難だなって思っただけ」


鏡花の言葉の意味が分からなかったのか明利は首をかしげたが、結局その後明利を家に送り届け、陽太は鏡花を家に送り届けてその日は終わりを告げた


明利の報告によると、静希と雪奈はうまくいったのだという事だった


余談ではあるが明利が雪奈に性的に襲われそうになったというのはまた別の話である







十二月になってからすでにかなりの時間が経過し、もうすぐ中旬に入ろうという頃、それは始まろうとしていた


今年最後の校外実習


四月から始まって経験を積んできた中で、今年の総仕上げと言ってもいいこの実習で一年生全体の士気が上がっているのは半ば当然のことだった


それは無論、この一年の中で最もイレギュラーな存在である静希達一班も同様である


一時期警察にお世話になったということもあり、学年内である種有名な存在になってしまったB組一班ではあるが、他の生徒たちと同じように今年最後の校外実習ということで士気を高めていた


「今週末ってあんまり天気良くないんだろ?雪降りそうって言ってたぞ?」


「あぁ、金曜日からちょくちょく降るかもって言ってたな、そうなるとお前の出番増えるぞ、同じく明利もな」


「雪が降ると一面真っ白になるからね、でもちょっとうれしいかな」


静希達が通っている喜吉学園は太平洋側にあるために基本雪を見ることが少ない、稀に降ることはあっても積もることはほとんどないのだ


その為実習でも雪上訓練は全く行ったことが無い


雨天でも風が強くても行ってきた訓練だが、唯一雪上での訓練だけは行ったことが無いのだ


疑似的に地面を雪に似た状態にしての訓練は行ったが、はっきり言って実際の雪のそれとは全く違う、雪は自然の災害の一つだ、新雪であれば足を取られ体力を奪い、凍れば足を滑らせ機動力をそぐ


静希の班には炎を扱える陽太と変換の行える鏡花がいるとはいえ、緊急時に万全の行動がとれるとは思えないのが少し心配だった


「これで今年は終了か・・・なんて言うか長いようで短かったな」


「まだ終わってないんだからそういうのは早いぞ、まぁ確かにこれが終われば後は年越しを待つくらいだけどな」


「鏡花ちゃんの誕生日会やって、クリスマスパーティーもやりたいね、あとはみんなで年越し」


やりたいことが多いとつい話が弾んでしまう、周囲もどうやら同じようでこれが終われば後は楽になるという気持ちからか、談笑している班が目立つ、最初の頃緊張しまくりだったのが嘘のような光景だった


それだけ経験を積んだという事なのだろうが少々複雑な気持ちである


教室内がざわついている中、その喧騒を引き裂くかのようにドアが開かれ各班の班長と担任教師の城島が教室に入ってくる


「えー、各班班長に詳細は配った、いつものようにしっかり事前準備をしてから事に当たるように、今年最後の実習だ、気を抜かず行動する事、以上解散」


城島の言葉に一瞬教室が静かになり、解散の言葉と同時に一気に騒がしくなる


これもいつもの光景で、とりあえず静希達はこの喧騒から逃れるべく帰り支度をして教室から早々に離脱した


「で?班長、今回の実習の内容は?」


とりあえず事前ブリーフィングをするため教室から静希の家へ向かいながら買い物をする最中陽太が鏡花にお決まりの質問をぶつけた


菓子や飲み物を放り込んでいる姿とは対照的にその瞳は真剣だった


「ん・・・なんて言ったらいいのか・・・少なくとも全力で戦闘をするっていうタイプの内容じゃないわね」


「もしかしてまた護衛とかか?あれは神経削るからいやなんだけど・・・」


戦闘を行わないというとあまりいい予感はしない、なにせ戦闘しない分余計な気を回すことが多いのだ、今回に置いてもそれは同様ではないかと思えてしまう


「安心しなさい、護衛じゃないわ、と言っても楽なものではないと思うけど・・・」


そう言って鏡花は明利に目を向ける


視線を向けられた明利は、その視線にどんな意味があるのかわからずにきょとんとしていた


「今回は明利が活躍できそうよ、少なくともやることが無いってことはないでしょうね」


「喜んでいいのか微妙だけど・・・まぁ家についたら本格的に話すか」


静希の言葉に従い、さっさと買い物を済ませて静希の家へと向かうと玄関を潜り抜けた瞬間に人外たちがトランプの中から飛び出してくる


メフィは一目散に、邪薙はゆっくりと歩いてリビングへ、オルビアは静希達の荷物を預かって運び、フィアは静希の頭の上に乗って寝息を立て始めた


「なんていうかもう慣れた物ね」


「あぁ、もう半年以上一緒に住んでるしな、慣れもするっての」


四月に人外たちと初めて出会って、それからずっと静希は一緒に住んでいるのだ


はっきり言ってどんな行動をとっても大概のことには対処できる自信があった


「やっぱ炬燵いいな・・・ぬくいぜ」


「あんた寒いの平気なくせに炬燵は好感触なのね」


「こういうのは別腹なんだよ」


何かを食べているわけでもないのに別腹というのは表現として正しいのだろうかと疑問に思えてしまうが、早速と炬燵の中に入っている陽太と鏡花を見て静希と明利は苦笑いしてしまう


勝手知ったる静希の家というべきか、もはや家主の確認すら取らずにくつろいでいるさまはさすがとしか言いようがない


それぞれに飲み物を用意して一息ついたところで鏡花は今回の実習の資料をテーブルの上に広げ、本題に入ることにした


「えー・・・今回の私たちの実習は、未確認生物の探索よ」


「・・・未確認生物・・・」


「UMAってやつか?」


未確認生物というと聞こえは悪いが要するに未だ人間がしっかりと研究できていない、認知できていない生物のことである


世界各地に未だ確認できていない生物はごまんといるらしいが、自分たちがその捜索を行うとなると少し事情は変わってくる


「未確認って言ったって、あれじゃねえの?奇形種なんじゃねえの?」


「私もそう思うけどね、まぁこれを見てよ」


鏡花が取り出した資料には今回行く場所の詳細と、その未確認生物とやらを発見した人物の証言と、発見者の描いたであろう未確認生物の模写らしきものが載せられていた


場所は内陸部の山岳地帯、その場所の近くにはキャンプ場や避暑地に過ごせるようなペンションがいくつかありそこの管理人が発見したのだという


オフシーズンということと当時降った雪の状況を確認するためにも各所を見て回っていたところ件の生き物と遭遇したのだという


距離はかなりあったがしっかりとこちらと目があい、その場から去っていったのだという


そしてその絵を見て陽太は明らかに嫌な顔をする


「いやぁ・・・これもう絶対奇形種だろ」


「・・・陽太に同意するな、明らかに普通の体してないじゃないか」


静希と陽太が見ている絵にはキツネのような顔をして、二足歩行を行い体を部分的にではあるが巨大なうろこが覆っている、そんな生物が書かれていた、少なくとも静希はそんな生物に心当たりはなかった


「奇形種を探して確認するだけか?なんか被害が出たとかそういうのは?」


「今のところは確認できてないわ、まぁ近くに人が利用する施設があるからってことでしょ、今回の目的は、その未確認生物の生息地と危険性の有無の確認、必要があれば処分するようにってことらしいわよ」


「キャンプ場とかも近くにあるなら・・・さすがに奇形種がいるんじゃ危なすぎるってことだね」


明利の言う通り周りに人が使用する施設があるのであれば早期対応が必要になるのは十分理解できる、そして人的被害がまったく出ていないということから駆除ではなく、調査という名目になっているのだろう


相手が完全なる草食で同時に気性が荒くないというのであれば駆除する必要はない、ただもし生息地が人間のいる場所に近すぎれば双方に悪影響であるためにその確認をするという事なのだろう


「この姿を見る限り・・・猿か?キツネとは違うだろうし・・・」


「野生の猿のはぐれ奇形種ってところか?とりあえず現場の情報出してみる」


静希はパソコンに向かってこれから向かう場所の情報を集めるため検索をかけてみる、今回は恐らく山岳地帯の捜索になるために地形データも出しておきたいところである


「山となれば明利の索敵の出番ね、あとは・・・週末の天気次第かなぁ・・・」


「今週末って場所によっては雪が降るって言ってたような・・・山の方はかなり積もりそうだね」


「雪かぁ、時間あったら雪だるまとかかまくら作りたいな」


遊ぶような時間があるかどうかはさておいて、雪と戯れるという経験が少ない陽太は雪遊びに想いを馳せているようだったが、変換系統の能力者である鏡花がいる以上先にあげた二つの造形は恐らく一瞬で終わるだろう


あと雪でできることと言えば雪合戦などだが、わざわざ休んでいられる時間に遊ぶというのも少し気が引ける


「あがったぞ・・・今回の行き先・・・えっと、これは・・・古野賀キャンプ場でいいのか?」


静希はとりあえず依頼人の管理しているキャンプ場とその周辺にあるペンションと近くにある山々の地図を印刷して持ってくる


この辺りは山岳地帯でありながら交通の便がそれなりにとおっており、夏は避暑地として人気がある場所らしい、夏休みに入るとキャンプをしに来る家族も少なくないのだとか


静希達の住む場所からは電車やバスを経由しておおよそ五時間ほど、電車を何度も乗り換えて最後にバスを利用するという今までで最も長い道のりとなりそうだった


「えっと・・・ここの今週末の天気は・・・雪の予報でてるわね・・・まぁ山の天気は変わりやすいっていうし・・・当てにならないか」


「到着は・・・十四時近くなるな・・・うっへ、ケツ痛くなりそうだ」


内陸部の山岳地帯というだけあって車があればかなり短縮できるのだろうが、電車が主な交通手段だと一気に不便になるようだった


事前にレンタルカーでも申請するべきだろうかと迷うところだが、今は置いておくことにする


「これ見ると、周りは完璧に山に囲まれてる・・・っていうか山の中にあるっぽいな、これ本当に山全部探すのかよ」


「この季節だと日没も早いし遊んでる時間的猶予はなさそうね」


冬ということもあって気温の低下もそうだが、日が落ちるのが極端に早い、山の中にいればその傾向はより顕著になってくるだろう


陽太がいるから暖や光源は確保できるとはいえ、遭難しないとも限らない、安全面を考えるのであればより確実に早めの行動が強いられることになりそうだった


遊べないということがわかったのか、陽太は随分と落胆しているようだったが、冬の山の探索ということで陽太の役割はかなり大きい


山は高低差があるため非常に寒い、体を動かしている分には問題ないかもしれないが衣服に付いた汗が周囲の外気にさらされることで凍り、体の体温を一気に奪っていくことになる、定期的に陽太の炎で体を温めなくてはならなくなることもあるだろう、まして雪が降っているならなおさら雪を解かすためにも陽太の活躍は必要不可欠になってくるのだ


「あれ、この近くスキー場もあるのか?」


「え?いや、この辺りにそんなもんないはずだけど・・・?」


陽太の言葉に静希は近くの施設をもう一度調べなおすが、スキー場などと言う施設は見当たらなかった


「なんでスキー場?地図にはないけど?」


「いやこの一角、木が無くなってるだろ?スキー場とかこんな感じじゃね?」


陽太の示す一角、衛星写真の一角には確かに周りと違い木々がない場所が存在した


あからさまに不自然な状態で残っているために嫌に存在感がある


「本当だ・・・でもスキー場じゃないってことは・・・もう潰れたとかそういう感じかな?」


「あー・・・ちょいまち、調べてみる」


現存する施設ではなく、過去存在した施設や建造しようとした施設まで調べようとすると静希の検索に引っかかるものがいくつかある


そこには自然公園の建設計画と書かれているものがいくつか見つかった


「わかった、そこは近くにあるキャンプ場とかに来る客用に自然公園を作る予定だったみたいだ・・・でも財政難で頓挫してるな、そのまま放置されてるみたいだ」


「木を伐採したはいいものの、その後手を加えることもなくってわけね・・・なんてぞんざいな」


好景気時代に開発計画が上がり伐採し工事を開始しようとしたはいいものの、その時点で不況のあおりを受けそのまま開発がストップされ、放置されたままの開発計画などはよくある話ではあるが、こんな山奥にまでその名残があるとは思っていなかった


せめて木だけでも植えればいいのにと思うが、実際木を植えるのにも金と時間がかかるのである、地獄の沙汰も金次第とはいうが、何とも世知辛いものである


「終わったらあれだ、ここにでかい雪だるま作ろうぜ」


「雪だるまねぇ・・・まぁ時間が余ったらね」


鏡花も雪と言うものに触れるのは久しいのか少しだけ気持ちが高ぶっているように見える


無理もない、静希達の住む場所は太平洋側、そもそも雪が降りにくいのだ、積もることも十年に一度あるかないか程度の頻度、小さいころに遊んだ記憶しかないために懐かしさと同時に興奮を呼ぶのもまた仕方のないことである


「さて・・・冬の山岳地帯の行軍か・・・」


「山やら森やらは今までも散々入ってきたけど、冬だとそんなに違う?」


鏡花の言葉に静希と陽太は唸りだす、この中で冬の山に入ったことがある人間自体あまりいないのだ


経験が少ないというのが一番の不安要素だと言えるだろう


「ぶっちゃけさ、寒さと動きにくさ、あと雪っていうのが一番問題になると思う、金属を身に着けてたら一気に冷えて凍傷になるし、さっきも鏡花が言ったけど日が落ちるのも早い、気を付けることはたくさんあると思うぞ」


静希の言葉に全員がその左腕に目を向けた


静希の左腕は義手だ、しかも恐らくは金属でできていると思われる、その為金属と生身の体の接合面が凍傷になるのではないかと心配になったのだ


「あぁ、こいつなら問題ないぞ、この前気づいたんだけど、こいつは温度変化がないみたいなんだ」


「そうなの?金属っぽいのに?」


静希の言葉が信じられないのか、鏡花は陽太に指示し一部分だけ炎を付けて剥き出しにさせたヌァダの片腕に触れさせる


炎が長時間当たって普通の金属であればその色を変えるほどの高温になっているはずだが、その腕にはまったく変化がない


その後鏡花や明利が腕に触れてみても全く温度は変わっていないようだった


「本当だ・・・よく気付いたわね」


「この前陽太に掴まれることがあってな、たぶん霊装になった物体は温度とかの変化がなくなるんだと思う・・・ただ中に仕込んでる武器は例外だけどな」


一体どういう理屈で熱変化が起こらなくなっているのかはわからないが、その内部に仕込まれている金属の刃は普通の物質だ、内部に熱がこもれば当然熱を持つし危険な状態になると言えるだろう


とりあえず最大の懸念が解消されたことで鏡花たちは自分たちの装備について話し合うことにした


本格的な登山道具などは行動範囲から考えるとあまり推奨できないが、最低限行動しやすくするために工夫が必要になるだろう


そこで鏡花はいくつかの道具を作ることにした


険しい登山道や凍った道でも歩くことのできる靴底に宛がうタイプの補助道具アイゼン、これは鋭いスパイクのようなもので、本格的な登山には必要不可欠な道具である


そしていつものように地図やコンパス、万が一遭難したとき用の非常用の道具を各種そろえることにした


いつも以上に防寒対策には気を遣い、同時に遭難対策もかなり念入りに行った


普段の山と違い、雪が積もっている状態ではその進行速度もかなり差があると考えていい、恐らく普段の半分以下の速度で移動することになるだろう


時間、体温、体調の管理、そして周囲の警戒と本来の目的でもある未確認生物である奇形種の発見


今回はだいぶシビアな内容になるかもしれないなと頭脳派である静希と鏡花は頭を悩ませていた


ただの防寒ではなく防水にも気を遣わなければいけないのがつらいところだ、衣服の替えも普段の倍以上持って行く必要があるだろう


こういう時に優秀な収納系統がいればまともな後方支援を受けられるのだがとちらりと鏡花が静希の方を見ると、彼も自分の許容量の少なさを嘆いているようで頭を抱えていた


口に出すのはやめておこうという良心が、鏡花にも存在した




事前の準備を可能な限り突き詰め、時間は経過し実習当日、寒さの真っ盛りというべき十二月の早朝に静希達はいつものように学校の前に集まっていた


十二月ということもあり吐く息は白く、その肌に寒気が突き刺さる、周囲の空気は乾燥し随分と気温が落ちていることがわかる


「今日の予報、夜から雪みたいだね」


「あぁ、それまでは天気いいみたいだけど、昨日も結構雪降ったみたいだし気を付けないとな」


例によって例のごとく、普段から一緒にいることの多い静希と明利は少し多い荷物を背負いながら学校までの道を歩いていた


雪というのは雨とは違いその場所に残留する時間が長い、現場では先日雪が降り、すでに積もっているという情報を天気予報から得ていた


今日は晴れているものの、また夜から雪が降るだろうという予報から二日目以降からの行動はさらに困難になりそうだった


こちらは全く雪など降らなかったが、やはり内陸の山岳地帯ではかなり雪は降りやすいようだった


「お、来た来た」


「二人ともおはよう」


校門前にやってくるとそこにはすでに陽太と鏡花の姿があった、静希達と同じようにかなり荷物が多く、彼らも彼らなりに準備をしてきたことがうかがえる


「おはよう、さすがに荷物多いな」


「そりゃね、これでも減らした方なのよ?」


これから行くのは静希達も慣れない冬の山、はっきり言って嫌な予感しかしないのだ


よくテレビなどで冬の山に登山に行って遭難したなどと言う内容のニュースがやっているほどだ、普段慣れている登山家でさえ遭難させるほどの困難が冬の山にはあるのだ、登山はそれほど経験のない静希達が容易にこなせるとも思えない


他の班の荷物を見ても静希達の荷物は一際多く見える、無論全員がそれぞれ軽装備用のバックパックを用意してあり、行動時にはそれを使うのだが、総合して持って行くものが多すぎるのだ


静希の収納、明利の索敵、陽太の炎、鏡花の変換、それぞれ持っている能力を最大限使用しなければ今回の実習はかなり危険なものになるということを静希達は理解していた


「妙に物々しいと思ったら、お前達だったか」


そう言って静希達の下にやってくるのは担任教師の城島だった


彼女もまたそれなりに多い荷物と厚着をしており防寒対策に関しては万全のようだった


それぞれおはようございますと挨拶をした後で静希達は城島の姿を見て僅かに眉をひそめる


長い前髪に厚手のコート、そして口元はマフラーで隠しているために顔で見えている部分が鼻しかない、城島が防寒対策していると職質されてしまうのではないかと思えてくるから不思議である


「そういえば先生、今回雪降りそうですけど、なんか気を付けることってありますか?」


「ん・・・そうだな・・・」


城島は教師であると同時に静希達よりも何倍も経験を積んだ能力者だ、雪上訓練も多少積んでいると考えてまず間違いないだろう


そして城島も何か思いつくことがあるのか、何度か思案した後で自分の足を軽くたたいて見せる


「まず足元に注意しろ、雪が積もっているとまず間違いなく機動力が落ちるな、変に足場を意識するせいで足に普段かからない力がかかって疲れやすくなるし動きも鈍る、早めに雪の足場に慣れることだな」


まぁ清水や響がいれば緊急時以外は困らんだろうがなと付け足すが、一番問題なのはその緊急時なのだ


ただの行軍ならば城島の言う通り陽太を先頭に能力を発動させ続ければ雪を簡単に排除することができるだろう


鏡花の能力で広範囲の雪を退けることだって容易だろうが状況が変わり戦闘になれば足場にある雪をいちいち融かしたりどかしたりしていくような暇はないだろう


疲労を抑えるためには陽太は必要不可欠、だがもしもの時のことを考えれば早めに雪に慣れておくというのも必要なことがわかる


「靴底にスパイクでも仕込んでおけば少しはましになる、アイゼンは持ってきただろうな?」


「えぇ、鏡花特製の物をみんな持ってきました」


静希達の荷物の中には先日鏡花が作成したアイゼンが入っている、普段使用している靴にフィットするように調整され、通常よりも鋭い突起がついている代物だ


「そうか、定期的に雪を落としておくのを忘れるな、自然と雪がくっついて固まる、あとは体温にも気を遣え、定期的にカロリーを入れるといいだろうな」


冬の山というのは平地よりも気温が低く、なおかつ体を動かしている状態のせいで自分の体温を管理しにくい状態にある、定期的にカロリーを入れることで体温の上昇を図るためだ


携帯食料や簡易食料の類は今回はかなり所持品の中に入れてきているため困ることはないだろうが、長時間山にこもることを考えればそれでも足りるかは微妙なところである


一日目は向こうについてからすぐに行動を開始して、この時期であれば十六時半ごろには日没を迎える、山であることを考えて十六時には撤収するとすると今日は数時間しか行動できないことになる、二日目は日の出からすぐに行動開始、三日目も同様にして、総合でかなりの時間を山の中で過ごすことになる


状況は厳しい、冬は活動時間が限られるのが本当に厄介だった


日曜日なので二回、誤字十件分でさらに二回、お気に入り登録件数2400件突破記念でさらに一回、合計五回分投稿です


最近投稿が加速している気がする


これからもお楽しみいただければ幸いです

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