能力の根幹
『メフィ、俺の聞きたいことわかってるか?』
『あら、私に何を聞きたいのかしら?』
静希の聞きたいことはわかっているだろうに、あえて知らないふりをして嬉しそうに微笑んでいるメフィをよそに、静希は話を続けることにした
『あの時お前、陽太に殴られたときただの発現や強化じゃないって言ってた・・・お前あいつの能力のこと何かわかってるんじゃないのか?』
あの時、陽太は物質透過状態だったメフィに容易に触れその拳を叩き付けていた、ナイフなどが透過する中でその体を捉えて見せたのだ
その時点で陽太の能力の特異性に気づくべきだった、今さらと言えばそこまでだがヒントは十分にあったのだ
『そうね・・・教えてもいいけど、教えるならシズキだけじゃなくて全員に教えてあげたいわ』
メフィの言葉に静希はわかったと呟いてから意識を現実の方へと向ける
「鏡花、俺らの周りを大きく囲ってくれ、周りから見えないように」
「へ?いいけど、何するの?」
「・・・こいつを出す」
静希がスペードのQを見せると鏡花の表情が変わる、その意味を正しく理解しているが故の反応である
そして何をしたいのかその意図を理解したのか鏡花は地面に手をついて先程まで行っていた実験場をすべて元通りにした後、静希達を囲うように大きな部屋を作っていく、何重にも壁を作り、万が一にも外に情報が漏れないように
「これでいい?光源はさすがに勘弁してよね」
「あぁ、陽太能力使っとけ、鏡花は酸素を作り続けてくれ」
二人に指示をだし、完全な暗闇から陽太の炎によって光源が生み出され辺りが一気に明るくなる、窒息しないように鏡花には酸素を作り続けてもらい、この空間内の空気を適切な状況へと変えていく
そして静希はトランプの中に入っている悪魔を取り出し、この場に顕現させる
「メフィ、それじゃあ話してもらうぞ、こいつの能力について」
「えぇわかったわ、それじゃまずどこから話しましょうか」
メフィは陽太の周りをクルクルと回りながら能力を発動している状態の体をよくよく観察していく
「まず、私やほかの人外の一部が使える透過、これは前に説明したかもしれないけど私たちが持ってるいわば生態みたいなもの、物質をすり抜けることができるんだけど、例外がいくつかあるわ」
そういってメフィは壁に手を向けてすり抜けさせていく、確かに物質の如何にかかわらずその場を通過することができているようだった
だが次に陽太に触れて持ち上げると、その体は容易に持ち上がる
「一つはシズキの能力とかで『なんにでも触れられる』っていう特性を得た物体、これは私たちの透過能力でも無視はできなくなる、そしてもう一つは私たちと同じか近い存在、悪魔とか神格とか、そういう連中もその状態の私たちには触れられる」
「・・・まてよ、透過状態のメフィに陽太が触れることができるってことは・・・」
そこまで言って静希も、そして鏡花もそれを理解した
未だ理解の追い付かない明利と陽太を見てメフィは助け舟を出すべく一度陽太を下ろしてからふわふわと飛翔する
「つまり、ヨータは能力を使っている間、人間などの物質的な生き物よりも、私たちみたいな存在だけの存在みたいな状態に近くなってるってことね」
「それってつまり、存在自体を変えてるってこと?」
「・・・存在の昇華を行える能力・・・ってことか?いやそれにしては効果が限定的過ぎるし・・・」
鏡花と静希が思考を凝らす中、ようやく話についてこれそうな明利が陽太の能力をよくよく観察しながら悩み始める
「えっと・・・つまり陽太君は・・・炎を使って・・・というより炎と同化できる能力ってこと?」
「あー・・・そうね、ヨータの場合炎と同化してるって言った方がわかりやすいかもね、炎と同化することによって存在を昇華させる能力ってところかしら、炎が大きく熱くなればその使える力も大きくなる」
炎と同化する能力
確かにそう説明されると先程の炎を取り込んだ現象も、炎の強弱によって身体能力が異なるのも理解できる
炎そのものになるのではなく、炎と同化して新しい存在に昇華しているという解釈の方が正しいかもしれない
陽太の体にある固体の特性を持った炎も、炎の強弱によって変化する身体能力も、周りの炎を取り込むことができる特徴も、陽太が遠くに炎を飛ばすことができないのも説明がつく、何せ陽太は炎そのものと同化してまったく別の体になっていると言ってもいいのだから
「同化系統とでもいえばいいのかな・・・今までの系統にはない能力だし」
「そうね・・・発表したらそれなりに驚かれそうだけど・・・」
頭を使う二人としては考えることや気にすることが増えたようだったが、とりあえず今までの疑問や不思議がすべて解消されたことに満足していた
長年謎だった陽太の能力がようやく解消されたのだ、静希からすれば重荷をおろしたような気分である
「で・・・俺の能力は結局あれか?同化系統?ってやつなのか?」
話の半分程度しか理解していなかっただろう陽太を見て静希と鏡花は呆れてしまうが、それも仕方のないことなのかもしれない
途中まで明利でさえ置いてけぼりをくらっていたのだ、そんな話の内容を陽太が理解できるはずもない
「そうだな、お前は今まであった既存の能力系統とは別の能力を持ってるって考えていいだろう・・・ありがとなメフィ、今度礼するよ」
楽しみにしているわとメフィが言うのを確認してから静希は彼女を再びトランプの中に収納する
ようやくというべきか、それとも今さらというべきか、陽太の能力の根幹部分に触れることができたことで陽太は自分の能力を確認するようにその姿を炎の鬼に変化させているが、今回のことで新たに疑問も生まれていた
「ねぇ静希、陽太の能力が炎と同化する能力だとして・・・炎を消されたとき、こいつはなんで無事でいられるのかしら?」
どうやら鏡花も同じ疑問を抱いていたようだった
陽太の能力が炎と同化するというものだった場合、炎の力が強まるため陽太の力も強くなるというのは理解できる、炎という存在そのものの力が上がっていると考えればその存在の扱える力が強くなるというのもまた道理であるからだ
だがそれは逆のことにもつながる
つまりは能力発動時に陽太に向けて大量の水あるいは不可燃物質などをぶつけた時の能力の挙動だ
「・・・あいつが無意識のうちに能力を強制終了させてるとしか言えないかな・・・あいつそこまで深く考えてないだろうし」
「強制終了・・・ねぇ・・・」
陽太の能力が炎と同化することであるなら、同化した状態で炎が完全に消えてしまったとき陽太はどうなってしまうのか、例えばその炎の体積に陽太の体の損失も依存しているのであれば大量の炎が消火されてしまった時点で陽太の体も大きな損失を受けることになる
だが今まで陽太が炎を消された時、その体はほとんど無傷であったのは確認済みである
静希のいう通り陽太が無意識のうちにその危険を察知し能力を強制終了させているとすれば確かにその現象にも不思議はない
人間の挙動で説明するのであれば、熱いものに触れた際に反射で手を引っ込めるようなものだ、危険だと本能などで判断したとき、考えるよりも早く体が能力を強制終了させるのだろう
「だとしたら、そのことはあいつには教えられないわね」
「あぁ、危なすぎるからな」
無意識で能力を解除することができているということは、逆に意識的に能力をつなぎとめることもできるということである
訓練にそれなりに時間はかかるだろうが、無意識に行えることは大概が意識的に行えることでもあるのだ、それが能力に関してのことであればなおさらである
もし陽太が炎が消えそうな状態でも能力を解除しようとしなかったら、一体どうなってしまうのか静希達にはわからない
知るべきこともあれば、知るべきではないこともある、そういう事だ
安全面に関しては少し心もとないが、陽太が今まで安全に能力を使用できていることから、危険域に達すると自動で能力が解除されるという条件反射ができているという事でもある
下手に陽太に情報を与えて無理をさせる必要はない
陽太は前衛だ、もしそのことを知れば、自分や周りの人間が危険に晒され、能力が強制終了されそうな時でも必要となれば無理にでも能力をつなぎとめようとするだろう
良くも悪くも後先を考えないのだ、その分危険は陽太を襲い、その分しわ寄せが静希達に向かうことにもなる
「ちなみに、ようやく謎が解けたわけだけど、これからのあいつの教育になんか支障はあるか?」
「ないわね、むしろやってみたいことが増えたわ、これから忙しくなりそう」
恐らく彼女の中では陽太の能力をいかに伸ばしていくかを考えているのだろう、あぁしてこうしてと呟いている鏡花の笑みは崩れない
本当に頼もしいなと感じながら静希は同時にその能力の特異性を理解していた
自分が一緒に住んでいる人外たちと近い存在になる能力
つまり陽太は、スペック的には人外たちに等しいものになれるかもしれないのだ
人外たちのその力は存在によって優劣の方法が異なる
例えば神格はその信仰の多さによって使える力が変わるのだという、陽太の場合その炎の強弱によって力が上下するという認識で間違いないだろう
だとしたら、陽太の藍色の炎を見せた時、そしてその力をほぼ完全に扱えるようになった時、今まで使えなかった別の力が使えるようになるのではないかというのが静希の考えだった
もっとも、それを考えるのは今は鏡花の担当だ、静希の考えるべきことではない
毎日のように陽太と接して訓練している鏡花なら、新たな変化にもすぐに気づくだろう、そして今鏡花も頭の隅にその可能性を思い描いているはずだ
「もしかしたら・・・ちょっと守りに入ることも考えたほうがいいかもしれないわね」
「・・・あいつに守りをさせるってのは難しいと思うぞ?性格的に」
鏡花の案に静希は難色を示すが、鏡花は笑いながら自信ありげに任せておきなさいよと告げて陽太の下へと向かっていく
陽太の説得という部門に関して鏡花はすでにかなりの実力を持っていると言っていい
どちらかというと陽太が鏡花の言いなりになりかけているという方が正しいかもしれないが、それも鏡花の説得術あってのことだろう
鏡花は陽太のバカは才能だと言っていたが、才能であると同時に短所であるということも思い返した方がいい気がしてならなかった
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ちょっと誤字に気を取られ過ぎて反応が遅れてしまいました、申し訳ありません
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