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J/53  作者: 池金啓太
十七話「追い追われる先に」

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意図的な偶然

「なるほどね・・・それでまんまと逃げられたと・・・」


「・・・面目ない・・・」


陽太が静希に敗北してから数十分ほどしてから、鏡花と明利もその現場にやってきていた


陽太の負傷を明利が治し、すぐに行動できるようにしたのまではいいが、少し疲れが残っているようで雨がしのげる場所に移動してから体を休めていた


自分たちを監視していた警官もさすがに空気を読んで少し離れた場所で温かい飲み物を飲んでいる、どうやら全力で捕縛しようとして負傷したという事実が、陽太達を信頼するに値するという考えにつながったようだ


「それで、静希はなんて言ってた?」


「・・・俺たちにはどうすることもできないだろって・・・あと、これ」


陽太は静希から受け取ったメモを鏡花に渡す、そこに何が書いてあるかは陽太もまだ見ていなかった


その内容を読んだ鏡花は眉をひそめてその内容をすべて記憶していく


そして頭の中でこれから自分たちがするべき行動を構成していき、それが完了すると鏡花は一つため息をつく


「陽太・・・燃やしなさい」


「あいよ」


鏡花が宙に投げた紙を何の疑いもなく陽太は燃やし、灰も残さず焼き尽くした


「きょ、鏡花ちゃん、よかったの?燃やしちゃって」


「えぇ、証拠が残ると厄介だもの・・・まぁ、陽太が負けるのは想定内だったけど、そこまで接戦になるとはね」


「あぁ?なんだよ俺が勝つって思ってくれてなかったのかよ」


「当たり前でしょ、本気の実戦になったらあんたが静希に敵うわけないじゃない」


鏡花が考えていた戦闘というのは、静希がなりふり構わずに攻撃してきた場合だった


つまりはその身を守る人外たちを総動員しての一斉攻撃、そうなってしまえば陽太に勝ち目などない、今回は人外たちは攻撃を自粛していたようだが、それ以上に静希の最も恐れるべきところは相手が考えないことをやってのけることだ


今回であれば自分が完全に動けないと見せかけた状態で油断させて攻撃する、常套手段とはいえ、極限状態でとる手ではない


「でも大丈夫かしら、陽太の話じゃ静希結構な重傷負ってるみたいだし・・・うまく逃げてるならいいけど」


いくら霊装の効力で傷が治るとはいえ、さすがに時間がかかるだろう、そうなると当面どのように行動するかによってはこちらも行動を変えなくてはいけないだろうと思っていた


聞こえないように小声でしゃべっている鏡花の言葉に明利は大丈夫だよと呟く


「そろそろあの人もついてる頃だと思うから・・・手助けしてくれると思うよ」


「だといいけどね・・・さて、これからの方針を伝えておくわよ」


鏡花の言葉に陽太と明利は耳を傾け集中し始めた


静希が何を考えているのか、そして鏡花が何を考えているのか、これでわかるかもしれないと思いながら鏡花の話を聞き続けた




一方陽太との戦闘後、その場から離れた静希はフィアの協力で高速で移動し路地裏に隠れていた


陽太の一撃を受けた影響で服は焼け焦げ、まともに表を歩けるような状況ではないのだ


「くそ・・・あの野郎・・・思いっきり殴りやがって・・・」


だいぶ回復してきたとはいえ、陽太に受けた攻撃は相当の威力を持っていた、霊装の能力によって修復され続けているが、完治するまではもう少し時間がかかりそうだった


「服も・・・変えなきゃ・・・それに・・・変装も・・・」


雨の中体温は奪われ続け、先程の戦闘の疲れが出ているのか体が重い


こんな状態ではまともに動くこともできないと実感しながら静希が思考を始めると、不意に足音が聞こえてくる


複数だ、革靴の音、誰かがここにきているのだろうか


『シズキ、警官が来てるみたいよ・・・そこから離れたほうがいいわ』


近くをトランプの中から索敵していたメフィの報告で静希は内心舌打ちする、こんな状況で接触したら強引な逃走以外に逃げる方法が思いつかない


ゆっくりと音をたてないように足音がする方向とは逆に移動する、それは大通りに近い方だったが今さら道を選んでいる余裕はない


だがその先に意識を集中した瞬間、静希はわずかに懐かしい感覚を覚えた

そして通りに出た瞬間、自分めがけて丸い何かが投げ込まれた


それはフルフェイスのヘルメットだった


一体なぜこんなものが、誰によって投げられたのか、そんなことを考える前に、その答えは静希に向けて笑顔を向けていた


「やぁシズキ、ずいぶんとファンキーな格好をしているね」


そこにいたのは、静希の友人であり、同じ悪魔の契約者でもある、エドモンド・パークスだった


大型のバイクにまたがりながらヘルメットから顔をのぞかせて朗らかに笑う彼を見た瞬間、静希は一瞬何がどうなっているのか理解できなかった


何故ここにエドがいるのか、どうして自分がここにいることが分かったのか


「え・・・エド・・・なんで・・・どうして」


「話は後だ、ほらさっさとそれ着けて後ろに乗ってくれ、ここじゃゆっくり世間話もできやしない」


静希の疑問を遮ったエドは静希に半ば強引にヘルメットを着けさせて後部座席に乗せ、急発進する、雨をかき分け、車をすり抜けて進み、静希とエドはその場から速やかに離れることに成功した


「エド!何で日本に!?また仕事か!?」


なにがなんでも都合よすぎる展開だと静希は疑問が尽きなかった、以前イギリスに行ったときは偶然だと思ったものだが、こうも都合よく静希と接触するところを見ると恐らく今回は偶然ではないと思ったのだ


「いや今回は仕事じゃないよ、君の小さなガールフレンドからメールを貰ってね、君がピンチだというじゃないか、だから駆けつけた、それだけだよ」


それだけだよと言うエドに、静希は未だに状況を正しく理解できずにいた

エドに連絡を取ったのは明利だった


自分たちが公的に動けないことを悟った明利は、以前静希から聞いたことのあるエドの連絡先を使って彼にメールを送ったのだ、静希を助けてくれるように


「で、でも、どうして、仕事とかあったんじゃ・・・」


「おいおいシズキ、忘れたのかい?前に言ったじゃないか、君が困難にぶつかったなら、僕が一番に駆けつけて君の力になるって」


それはかつて静希とエドが空港で別れる際にかわした約束だった


静希は、確かにその言葉を覚えている、その時はなんでもないただの社交辞令のようなものだと思っていたものだ、だがエドはこうして静希の窮地を救うべく日本までやってきた


恐らく仕事をいくつもキャンセルしただろう、大人として社会人としてあるまじき行動だが、静希にはこれ程有難いものはなかった


「・・・あぁ・・・もう・・・悪いな・・・世話かけた」


「はっはっは、何を言うんだい、君に返すべき恩はまだ山ほどあるんだよ?これくらいじゃ返しきれないさ」


僅かに震える静希の声を、エドは快活な笑みで返して見せる


この笑みが、この声が、どれほど静希の救いとなっただろうか


「・・・それよりエド、これからどこに行くつもりだ?」


「まずは僕の泊まってるホテルに・・・そのままじゃ風邪ひくからね、服も用意させるよ、とりあえず休んだ方がいい、ずいぶん疲れているだろう?話はそれからだ」


「・・・あぁ・・・そうだな・・・」


エドの見込み通り静希の疲労はかなり蓄積していた


いや、正確に言えば先程の陽太との戦いのダメージが抜けきっていないのだ


いくら体の傷が治るとはいえ、傷を負った痛みの記憶や精神的疲労まで治ってくれるわけではない、戦闘の緊張感、そして痛みによる疲労感、エドと出会ったことで安堵した静希はそれらが一気に襲い掛かっているのだ


「エド、ホテルの人間に見られるとまずいから・・・どこかで変装しておきたい、適当な人気の少ない場所に寄ってくれるか?」


「あぁそうだね、わかった、店はまずいか・・・じゃあどこか公園にでも寄るとするよ」


静希の希望通り人気の少ない公園に立ち寄り、その中の公衆トイレの中で変装した静希を連れてエドは自らが宿泊するホテルに向かっていた


ホテルの従業員はわずかに濡れた二人を見て一瞬顔をしかめていたが、エドが二、三英語を早口でしゃべると困ったような顔をしてそのまま通してくれた


「いやぁ、日本人は英語がわからない人が多いからね、困った時には重宝するよこの方法」


「まぁ、英語しゃべれる日本人の方が珍しいからな・・・その認識は間違っちゃいないかもしれないけど・・・」


同じ日本人としてはこんなに簡単に説得ともつかない言いくるめをされては少し複雑な気分でもある


大抵の日本人は英語をまくし立てられると非常に困った表情を浮かべてしまうものだ


実際静希だってオルビアがいなければ困ってしまうところだろう、本当に彼女がいてよかったと心の底から思える


「二人とも、帰ったよ」


エドが部屋の扉を開けると奥からエドの教え子でもあるアイナとレイシャが小走りでやってくる


「「ボスおかえりなさい、ミスターイガラシ・・・?お久しぶりです」」


二人で同時に同じ言葉をしゃべったあたり、恐らく練習でもしていたのだろうか、同時に頭を下げたその仕草に静希はわずかに顔をほころばせてしまう


静希の顔が違うからか一瞬戸惑ったようだが、エドが連れているということで彼が静希であると判断したのだろう


「二人とも久しぶり、少し背が伸びたか?」


「はい、一センチほど」


「はい、二センチほど」


声を聞いてこの人が静希であると確信を持ったのか、二人は笑顔を作りそう申告する


子供の成長は早いというが、以前会った時からこんなにすぐに伸びるとは思っていなかった、少し顔も幼さが抜けてきているような気がする


「シズキ、とりあえずシャワーを浴びてきた方がいい、服はこっちで用意するから、アイナ、シズキを浴場に、レイシャ、こっちを手伝ってくれ」


「あぁ、悪い、頼むよ」


「「了解ですボス!」」


二人は随分とエドの助手もどきとしての実力を上げてきているのか、テキパキと仕事をこなしているようだった


子供が成長する姿というのは、少し感動にも似た感情を呼び起こす、東雲姉妹を見ているようで静希は微笑ましくなった


『・・・随分と嬉しそうね、シズキ』


『・・・あぁ・・・今凄い嬉しい・・・』


仕事を投げ出してまで自分を助けにきてくれるような人間がいるということが静希は嬉しかった、メフィの小さな笑みも今は心地よいものに聞こえる


自分の体にあたる温かいシャワーを感じながら静希は大きく息を吐く、ひと時の安息を得ながら静希はゆっくりと瞼を閉じた


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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