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J/53  作者: 池金啓太
十七話「追い追われる先に」

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決着

陽太が負っている怪我は二か所、脇腹と左足の付け根


対して静希はほぼ無傷、だがトランプに収納してある武器は着実にその数を減らしていた


大きな音を立ててしまった以上、この場に人が集まってくるのも時間の問題だ、もとより陽太を相手に長期戦をするなどと言うことは考えに入れていなかったが、すぐにでも勝負をかける必要がありそうだった


すでに一枚の酸素を使い切り、消火剤も半分以上を消費してしまっている


陽太に対して効果的な物質はもとより数に限りがあるとはいえ、これ以上時間をかけるわけにはいかないのだ


それは陽太も理解しているようだ、相手が短期決戦を望んでいるのであれば、自分は長期戦を持ちかけるまで、なにせ時間をかければかけるほど陽太は有利になっていくのだから


静希が接近しようとしてくるより早く全力で後方に跳躍し静希から距離をとり、再び槍を作ろうと意識を集中させようとする


だがその程度のこと静希が予想できないはずがない


跳躍して着地する寸前に消火ガスを脚部に受けた影響で下半身の一部の能力が強制的に解除されてしまう


槍を作成しようと下手に集中状態に入っていたのが仇となり僅かに着地に失敗し体勢を崩した


その瞬間陽太の周りにトランプが大量に飛翔し始める


足に炎を灯らせる直前に陽太めがけてトランプの中に入れられていた残りのナイフや釘が一斉に射出された


体勢を崩した状態であれほどの投擲系の攻撃を受ければさすがの陽太でも多少の負傷はしてくれるだろうと、静希は確信するが、ナイフや釘が陽太の体に直撃する寸前、唐突にその体が爆発を起こす


辺りに炎をまき散らして爆音を響かせるそれは、陽太が槍を暴発させた時のそれに酷似していた


静希はその現象を瞬時に正しく理解した


防御できないと悟った陽太は生成し始めていた槍をわざと暴発させ、襲い掛かるナイフや釘を吹き飛ばしたのだ


鏡花との訓練で陽太の能力の操作性が向上しているのは十分理解していたが、まさかここまで上達しているとは思っていなかった


槍の生成と暴発、この二つに関してはほぼ完璧に近いと言っても過言ではない


「あっぶねえな・・・怪我したらどうするつもりだこら」


炎の中から陽太はゆっくりと歩みを進める


その姿を見て静希はさらに驚愕した


陽太の右腕は先程作った槍を暴発させたためか、ただの炎の腕だ、だがその左腕には小ぶりな槍が生成されていた


「はは・・・マジかよおい・・・」


「びっくりしたか?びっくりしてくれなきゃ困るぜ、とっておきだったんだからよ」


今まで陽太は右腕でしか槍を作ってこなかった、少なくとも静希が見た中ではそうだ


だが今陽太は左腕でも槍を作って見せている


かつて正門を破壊したときの大きさには遠く及ばないが、陽太はすでに両腕で槍を生成できるレベルまでに炎の操作を身に着けているのだ


完全に誤算だった


まさか陽太のレベルがここまで上がっているとは静希も完全に予想外だった


先程後方に跳躍した際に、陽太はすでに両腕で槍を生成し始めていたのだ、そして静希の投擲が来るとわかった瞬間右腕の槍を暴発させて防御、左腕を残すことに成功した


「鏡花の奴・・・どんな訓練したら一年たたずにお前をここまでにできるんだよ」


「んなもん鏡花に聞けっての・・・さぁ静希・・・覚悟はいいか!?」


炎をたぎらせて高速で移動を始める陽太、あえて接近はせず静希の周囲を高速で移動し続けている


トランプを用いての攻撃の的を絞らせないためと、静希の視覚を惑わせるためでもある


目で追いきれない速度ではない、だがそれを体で追えるかは別問題だ


その姿を目で追うためには体を動かさなくてはいけない、陽太の動きを追って、常に体の正面に置けるような身体能力までは静希は持ち合わせてはいない


「おらぁ!」


一瞬、ほんの一瞬静希の背後に回った瞬間、陽太の槍が静希めがけて襲い掛かる


瞬間、静希の持っていた剣が不自然な軌道を描きその槍を受け止めた


いや、受け止めたというよりは盾になったという方が正しいだろう、その証拠に陽太の一撃に耐えられず静希の体ごとかなりの距離吹き飛ばされてしまっている


「ご無事ですかマスター」


「悪い・・・助かった!」


とっさに動いたのはオルビアだ、反応しきれていない静希に代わり自ら剣を動かすことによって静希を守ったのだ


もっともいくら彼女でも衝撃まではすべて受け止めきれない、多少のダメージは静希に入っているようだが、そのダメージも霊装によって随時回復しつつある


「なんだよ、オルビアのおかげで助かったか?」


「お前今の串刺しにするつもりだったろ、殺す気かっての・・・」


「そんぐらいしないとお前は捕まえられないだろ!?」


陽太は再度高速で静希の周囲を移動し始める


トランプで追いかけられる速度ではない、しかも動きは完全に不規則、というより陽太の動きたいように動いているようだ、法則も何もあったものではない


片足に負傷をさせたはずなのにこれ程の動きをするあたりさすが前衛というべきか、静希には到底真似できない動きだ


陽太の作戦はほぼ完全だった


トランプではとらえきれない速度で移動し続け、静希の視界の外から攻撃する


そしてそれは確実に静希を追い詰めていた


だが、そこで静希が思考を止めるはずがない


四回目の攻撃が静希に向けられた瞬間、静希は前へ跳躍する


視界の外からしか攻撃が来ないということは、つまり自分の背後からしか攻撃が来ないという事でもある


そして跳躍した瞬間、静希はスペードのトランプから一枚分、水素を放出する


その地点に陽太の体が通過した途端に、水素は周囲の酸素と急速に結合していき爆発を起こす


とっさに耳を塞いで鼓膜が破れないように努めたが、その炎と衝撃をほぼまともに受け、静希の体は遠くに吹き飛ばされる


爆心地にいた陽太は槍を保つこともできず、通常の状態に戻ってしまっていた


だが爆発による音がやむ前に、その炎が消える前に陽太は爆炎を突き破って吹き飛び続けている静希に追いついた


その体を纏っている炎は、白


静希が水素を使うということを把握した瞬間に陽太は炎の段階を上げ、身体能力を強化、静希めがけて突進していたのだ


槍はすでに無くなっていたが、その体はなくなっているわけではない、静希に追いついた陽太はその体めがけ拳を振りぬいた


腹部に命中した陽太の拳はその筋肉の向こう、内臓や骨を傷つけながらその体を地面に叩き付ける


何回もバウンドし、静希の体は木に叩き付けられた


すぐさまその傷を治そうと霊装が能力を発動しているが、内臓、骨、皮膚、全てに負傷を受けたせいでその修復の速度は遅い


何よりその痛みのせいで静希の意識は朦朧としていた


痛みのせいで手や足が痙攣し上手く動かない、まともに戦闘ができる状態ではない、それほどの痛みだった


「・・・ようやく動かなくなったな・・・」


「・・・ぁ・・・」


体を木に預けるようにして座っている静希の近くに陽太が歩み寄ってきた、勝利を確信したのか能力を解除し静希の胸ぐらを掴む


「もうあきらめろ!あとは俺らが何とかするからお前はもう休め!」


陽太の言葉が聞こえているのかいないのか、静希は口を僅かに動かす、だが声までは出ていない、何を言っているのかと、何が言いたいのかと陽太はわずかに眉をひそめる


まさか自分が静希をここまで追い詰めることになるとは思っていなかっただけに、陽太は複雑な心境だった


本来なら自分は静希を守る立場のはずだったのに、一体何をやっているんだろうかと、悔しさともどかしさが陽太の頭の中で延々とめぐっていた


「・・・ん・・・だ・・・ら・・・」


「・・・あ?なんだ?なんつった?」


胸ぐらを掴み続けている陽太を睨む静希は、すでにだいぶ回復していた

もっとも、その体はまだうごくというわけではない、その証拠に腕も足も未だ痙攣してしまっている


だが、その腕は、その左腕だけは例外だった


「そんなんだから・・・お前は俺に勝てないんだよ」


静希の言葉を聞いた瞬間、陽太の顎部を静希の左腕が打ち抜いた


それはかつて陽太が実の姉に受け続けた、あの拳に似ていた


正確に顎部を打ち抜くことによって脳を揺らし、体の機能を一時的に麻痺させる、あの拳


思い通りに動く腕は、静希の体が動かなくなっても問題なく、いつも通り正確に、使用者の思う通りに動いた


これがただの霊装の一撃なら、軽すぎてダメージにもならなかったかもしれない


だがその左腕の内部には源蔵によって内蔵された刃とそれを突出させる機構が備わっている、重量としては十分すぎた


体の制御が効かなくなった陽太は静希の胸ぐらから手を離し、後方に仰向けになるように倒れこんでしまった


「こ・・・の・・・しず・・・静希ぃぃぃぃ!」


「悪いな・・・今回は俺の勝ちだ」


剣から出てきたオルビアに肩を借りながら立ち上がり、陽太の近くに歩み寄っていた


フィアを顕現させてその背に乗りその場を後にしようとする


立ち去ろうとする瞬間、静希は何かを思いついたのか一つのメモを取り出し何かを書き足した後で陽太の服の中に入れる


「それを鏡花に渡せ、鏡花以外には見せるな、いいな」


一体静希が何を考えているのかわからない陽太は歯噛みしながら静希がその場から去っていくのを見ているほかなかった


静希はすぐにフィアを高速で移動させ、その場から高速で逃げて行った


負けた、静希に負けた


最後の最後で油断した、陽太は、静希に負けた


その事実を突き付けるように振り続ける雨は陽太の体に当たり続ける


「くっそ・・・ちくしょう・・・悪い・・・鏡花・・・」


自分に指示を出した鏡花の命令を完遂できなかったことを悔やみながら陽太はその場に倒れつづけていた


その場に騒動を聞きつけた警察がやってくるのは、それから数分後のことだった


土曜日なので二回分投稿


未だ予約投稿が続いています、反応が遅れる可能性がありますがどうかご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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