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J/53  作者: 池金啓太
十七話「追い追われる先に」

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静希と陽太の戦い

静希は正直、少し焦っていた、というより当てが外れたというところだろうか


あの状態でまさか陽太への攻撃命中が一発だけだとは思っていなかったのだ、全身にめがけてまんべんなくナイフを射出したつもりだったのだが、まさかそれをすべて見切ったうえで回避したのだろうかと僅かに思案してしまう


相手は前衛だ、緊急時においての判断能力はとびぬけている、そのくらいのことはやってのけてもおかしくない


せめて脇ではなく足にでも当たってくれれば僥倖だったのだがと嘆息するが、今さら終わったことをどうこう言っても仕方がない


『シズキ・・・急いだ方がいいかもよ?』


『・・・あぁ、さっきの陽太の暴発で結構な音でたからな・・・人が来るかもしれない』


メフィの忠告に静希は眉をひそめる


陽太の能力を強制解除させるためだとはいえ多少無茶をした、焼け焦げた地面と周囲へばらまかれる爆音がその代償だ


せめて陽太が槍をまた出す前に決着を着けたかった


剣を構えトランプを飛翔させ、静希は一気に陽太めがけて接近する、当然陽太は能力を再発動しその体を炎で包むが、その体に槍はない


再度生成される前に決着をつけるべく静希は剣を構えトランプを飛翔させてあえて接近戦を挑んだ


トランプで陽太の視界を極端に制限し、同時に内包されている武器を射出、陽太の行動を一気に制限したうえで剣戟を加えるが、その一つたりとも致命打にならない


投擲された釘やナイフは避けられるか、横合いから殴るように弾かれ、静希が振う剣は陽太にあたるものの負わせられるのはかすり傷程度


もとより接近戦のポテンシャルは陽太の方が圧倒的に上、まともにやり合って勝てるとも思っていないが、まさかここまで差があるとは思っていなかった


「至近距離から撃ってんだから当たれってんだよ!」


「うっせぇ!当たったら痛いだろうが!」


ほぼゼロ距離で射出しているというのに、陽太の体にはまともに当たることが無い投擲系の攻撃、静希は陽太の行動をほとんど把握できるが、それは逆も同じだ


もっとも陽太の場合静希の策略を見抜くことはできないがトランプの動きや細かい癖など、何年も一緒に訓練を重ねてきたのだ、もはや考える前に体が動くレベルで反応できるのである


陽太もただ黙ってやられているわけではない、見えないながらも攻撃を回避し続け、同時に拳を振っているが、静希はその距離にはいない


陽太の拳は届かず、自分の剣だけが届く距離で攻撃を繰り返しているのだ、当然と言えるだろう、雪奈との戦闘訓練で間合いの取り方はすでに十分以上に学習済みである


「くっそ!離れろ!」


「っ!?」


貼りつかれた状態での攻撃があまりにも鬱陶しかったのか、陽太はその体の炎を一気に噴き出して一時的に周囲一メートルを炎で包み込んだ


遠くに飛ばすことはできなくても近くまでなら炎で満たすことができる、だがそのくらいは静希もお見通しだ、陽太は自分の炎の量を増やすときに腕を腰に溜めて中腰になる、前動作がわかりやすいだけに避けるのも容易いが、避けるということは同時に陽太に反撃のチャンスを与えることでもある


ほんの一瞬離れただけでも、陽太には十分すぎる程だった、隙間を一気に詰め静希めがけて突進してくる


いや、突進というよりは体当たりと言ったほうが適切かもしれない、目標めがけてぶつかりに行っただけの、本当にただ体を当てに行っただけの攻撃だ、今の状況ではそれが最も適切に働いているのが悔やまれる


何とか横に跳躍して陽太の攻撃を回避しようとしたが、陽太が自分の体の横を通り過ぎる瞬間、陽太の腕が静希の左腕を掴む


衣服と義手であるヌァダの片腕を包んでいた肌スキンを焼き尽くし、その銀色の光沢が外気にさらされる


「ようやく捕まえた・・・もう離さねえぞこら」


恐らくかなりの力を込めているのだろう、普通の人間の腕であれば骨がへし折れていたかもしれないが、残念ながらこの腕は義手、なんの痛みも感じなかった


とはいえ、腕を掴まれたこの状態は良い物とは言えない、体の動きが極端に制限されてしまうことにもなるし、この距離は危険すぎる


「捕まえた・・・ねぇ・・・それはこっちの台詞だっての」


その危険すぎる距離にこそ、静希の活路があった


陽太の顔めがけトランプを展開して視界を奪い、同時に左腕を全力で駆動させる


使用者の意のままに動くその腕は本来人間ではできないほどの動きを可能にし、掴んでいた陽太の腕を大きく捻り一時的にではあるが陽太の腕の関節を駆動限界まで持っていく


「この・・・!なめんなよ、こんなもんすぐに!」


「だからお前はバカなんだよ!」


力技で関節技を解こうとする陽太とは対照的に、静希はひねりあげた状態で左腕の手を僅かに駆動させ、その内部に隠された刃を突出させると、その刃は陽太の足に突き刺さった


突き刺さると言ってもほんのわずかだが、陽太の足に負傷させることには成功した


痛みのせいか僅かに腕を握る力が弱まったところで再度強引に腕を動かして陽太の手から逃れ僅かにともった炎を振り払う


「くっそ、卑怯だぞ静希!」


「掴んでる腕離せば済む話だろうが、今のはお前が馬鹿なだけだ」


その言葉に陽太は一瞬ぽかんとした後で『しまった』という顔になる


静希の幼馴染は本当にこのままで大丈夫なのだろうかと不安になるほどにバカだった


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