頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム 作:もちもち物質@布団
その日、バカは大いに、『るんるん!』とはしゃいでいた。
それどころか、周囲一帯……このキューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部に携わる全員が、どことなく、そわそわしていたり、にこにこしていたり、ふわふわしていたり、ぷにぷにしていたり……なんとなく、浮かれてはしゃいでいる。
……そう。本日は12月24日。
世間ではこの日を、『クリスマスイブ』と呼ぶ。
そして。
社歌のメロディーのチャイムが鳴り響き、昼休憩が始まったことを知らせると……そわそわしていた社員らは全員、わっ、と歓声を上げて仕事を片付け始める。
更に、そこへアナウンスが飛んでくる。
「本日は終業ー!繰り返す!本日は終業ー!恋人や家族が居る奴はさっさと帰れー!それ以外の暇な奴らは残れー!ゲーム大会やるぞー!」
……そう!本日、キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部は!仕事なんか放り投げてクリスマスを楽しむ所存である!めでたい!
「……まあ、天使だからな。クリスマスを楽しむ、というのは、間違いではないのか」
「ん?天使だとなんか関係あんのか?」
「……いや、やっぱり忘れてくれ。この会社には盆休みもあったし、花祭りもあるんだったな……」
「餅つき大会もあるぞ!海斗も来るか!?」
さて。
『それ以外の暇な奴ら』であるところの樺島剛と辰美開斗は、ゲーム大会会場となる社員食堂にやってきている。
社員食堂の中は赤と緑のモールで飾られ、オーナメントをたっぷりぶら下げたモミの木がずどんと設置され……そして、テーブルにはたっぷりと美味しそうな軽食が並んでいるのである!
「あっ!樺島さん、海斗さん!いらっしゃいませー!」
そんな会場でバカと海斗を出迎えたのは、ミナである。
ミナの手にはお盆があり、お盆にはお洒落な細身のシャンパングラスが載っている。グラスの中身は淡い琥珀色で、しゅわ、と炭酸の泡が立ち上るのが見える。
「ウェルカムドリンクです!どうぞ!」
「あ、いや、僕はお酒は……」
「あっ、大丈夫です!お酒じゃないですよ!スパークリング白ブドウジュースとスパークリング梅ジュースです!……あっ、海斗さん、炭酸駄目でしたか?なら、双子の乙女さんが『スパークらないジュース』を配ってますよ!」
どうやら、ミナは社食のバイトをしているらしい。こんな日にまで大変だなあ、とバカは思ったのだが……。
「うふふふふ、ああ、なんて素敵なんでしょう!私達が作ったものを、皆さんが美味しいって食べてくださって……幸せです!」
……どうやらこれは業務ではなく、趣味らしい。バカは、『まあ、こういう趣味もある!』と理解を示した。自分が作ったものが誰かを喜ばせるのって、とてもハッピーなことなのである!バカはそれをよく知っているのだ!
「親方さんが、『これで皆に美味いもん食わせてやってくれ』って、5万円も!5万円も出してくださって!なので本当に好き勝手、材料、使ってまして!」
「よかったなあ!えへへ、うまそー!」
「あっ、ええと、いつもみたいにメニューが決まっているわけじゃないので、本当に、私も先輩も、好き勝手に作っていまして……あの、なので、一皿しかないオードブルとか、味がまちまちなサラダとか、そういうかんじなんですが……それが新鮮で!楽しくて!あああ、どうしましょう、本当に楽しい……」
……ミナは、大興奮である。本当に楽しいのだろう。
バカは『ミナが幸せそうでよかった!』とにこにこである!
「ジュース、俺、梅がいい!梅、どっちだ!?」
「こっちです!どうぞ!」
「じゃあ僕も同じものを……」
「はい!海斗さんも!是非、楽しんでいってくださいね!」
そうして、バカと海斗はグラスを受け取り、にこにこるんるんのミナは、次の来場者へ『いらっしゃいませー!』とやりに行った。
……バカと海斗は顔を見合わせ、なんとなくにこにこする。
まあ、幸せそうな仲間の姿というのは、よいものだ!
そうして、バカと海斗は会場の中に大量に置かれている軽食を食べた。
「うめえ!うめえ!」
「ああ……本当に、いい味だな。この場限り、というのが惜しい……」
軽食は実に様々だ。クリスピーなピザが小さくカットされたものもあるし、ピックに刺されたチーズと生ハムとトマト、といったものもある。海斗は小さめサイズの卵サンドを食べて満足そうであった。
バカは思う存分、食べ、そして飲んだ。だが、ちゃんと量はセーブする。
そう。この場にあるのは、『軽食』だ。
……何故、沢山食べる天使達の社食でこのように『軽食』が供されているのかといえば、それは当然……後で、『重食』が出てくるからに決まっているのである!晩御飯がメインなので、お昼の今は、軽食でセーブしなければならないのだ!
バカは去年の『キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部の暇スマスゲーム大会』にも参加しているので、その勝手が分かっているのである!あの時は先輩が1人で飲食担当であったが、あの時も素晴らしいごはんが延々と出てきていた!延々と!幸せそうな先輩によって、本当に、延々と!
……ということで、バカと海斗はそれぞれ、控えめな量で昼食を終えた。バカにとっての控えめは海斗にとっての大盛りなのだが、それはさておき……。
「ゲームやる奴集まれー!こっちはスプラ!そっちはマリカ!そしてあっちがエアライダー!桃鉄は去年ケンカになったから今年から禁止!」
「大富豪はこっち!人狼はそっち!プロポーズと犯行予告と教祖は向こう!」
「はい!これよりモコモコ神話TRPGセッション『悪霊の遺影』始めます!探索者の皆さんは自己紹介をどうぞ!」
……ゲームだ。ゲーム大会の名に恥じぬ数のゲームが、ここに集結している。
各従業員達が持ち込んだモニターにはゲーム機が繋がれており、皆で楽しくゲームをやっている。テーブルの上ではトランプやボードゲーム、紙やペンなどが広げられ、それぞれにやはり楽しく遊んでいる。
バカと海斗は、『どれやる?俺、エアライダーやりたい!』『僕はとりあえず見てることにするかな』などと話しながら、会場の中、時々美味しそうな軽食を攫ってつまみつつ、楽しく過ごし……。
「……アレッ!?なんでヒバナ、居るんだぁ!?」
「居ちゃ悪いかよ」
……なんと!そこで、麻雀の卓についているヒバナを見つけてしまったのであった!
そこでバカは、バカなりに一生懸命考えた。
このゲーム大会は、『恋人も家族もいない暇な奴のためのゲーム大会』であるので……。
「……ビーナスにふられちゃったのか……?」
「勝手にフラれたことにすんじゃねえぶっ殺すぞこのタコ!」
……考えた結果、ヒバナに怒られた。バカは『違った!よかった!』とにこにこである。海斗はハラハラした顔であったが……。
「……別に、お嬢は恋人じゃねえよ」
ヒバナがちょっとぶすくれた顔でそんなことを言うものだから、バカは『そういえばそうなんだっけ!?』とショックを受けた!
ヒバナは当たり前にビーナスを大事にしているし、ビーナスも当たり前に大事にされているので、なんだか、バカの中ではすっかり、2人は仲良しのカップルだったのである!
「……そもそも、クリスマスだ何だって浮かれる性分でもねえんだぞ、こちとら」
「じゃあなんでヒバナ、ゲーム大会に居るんだ……?俺、バカだからわかんねえよぉ……」
ヒバナが色々と言うのを、バカはおろおろと見守る。海斗は『やれやれ……』という顔であるが、バカはバカなので、『やれやれ』の意味もよく分からない!
そして。
「その、ビーナス今、ひとりぼっちじゃねえのか?ミナはここに居るし……」
バカはそう言って、なんとも心配な気持ちになりながらヒバナを見つめた。
……見つめられたヒバナは、なんとも居心地悪そうな顔をしている。捨てられた子犬のようなバカの視線を一身に浴びて、鬱陶しげだ!
「ビーナス、誘ってきた方が、いいんじゃねえのか……?」
バカは尚もヒバナを見つめ続け、そして、ヒバナは……。
「ま、ヒバナ。ここはバカの言う通りだ。意地張ってねえで行ってこい」
隣に居た先輩天使に、ばし、と背中を叩かれた。
「そうだそうだ。行ってこい」
更に反対隣の先輩天使にも、ばし、とやられた。
「いや、でも、まだ始まったばっか……」
「なら俺がこの話に決着をつける!タンヤオ!」
ヒバナがちょっともだもだしたところで、更に別の先輩が麻雀牌を一列ズラッと倒してみせた。バカは、『この動作かっこいいんだよなあ……』と憧れの眼差しを向けるが、そもそもこのバカには麻雀はルールが難しすぎるので、バカは一度も麻雀なんてやったことないのであった!
「ま、そういう訳で行ってこい。俺達はサンマやるからよォ!」
「そうだそうだ!お前は瞳さん連れてこい!な!」
「瞳さん連れてきたらまた入れてやるからな!さっさと戻ってこいよ!」
……そうして、先輩天使達に『いってらっしゃーい!』とやられてしまえば、流石のヒバナもこれ以上ゴネられない。
チッ、とわざとらしく舌打ちすると、ヒバナは両手をズボンのポッケに突っ込み、背中を丸めて、大股に食堂を出ていった。
……バカは笑顔でこれを見送った!いってらっさい!
……尚。
この後、ヒバナの代わりにビーナスが入ったこの卓で、先輩天使達がびっくりするほどビーナスに巻きあげられるのは、また別の話である……。
さて。
そうしてヒバナを送り出したバカは、先輩達と一緒に楽しくゲームに興じた。
海斗は、それをバカの背中越しに興味深そうに見つめていた。……海斗は、テレビゲームというものをやること自体、不慣れなのだ。なので、自分でプレイしてみたい、というよりは、誰かがプレイするのを眺めていたい、らしい。
バカはそんな海斗に、『本当に楽しいのかなあ、無理して俺に付き合ってないかなあ』と心配になるのだが……どうも、海斗はゲームを見ているだけで本当に楽しいらしい。
ちら、と時々振り返って海斗を見てみるバカなのだが、海斗はちょっとにこにこしていて、ちょっときらきらした目で画面を見ているものだから……バカもますます楽しく、ゲームに興じるのだった!
が、その内海斗はギブアップした。というのも、『画面酔いした……』ということである。海斗が離脱してしまったので、バカもそれを機に離脱する。
そして、『さあ!この日のために調合しておいた特性ドリンクだ!これ飲むとちょっと具合悪いのはすぐ治るぞ!』と、先輩が持ってきた飲み物を飲んで、海斗はすぐ回復した。
……後で聞いてみたところ、先輩が持ってきたのは『ん?アレか?アレはな、今俺が開発中のジェネリックエリクサーだ!』とのことであった。よく分からないがすごい。バカは拍手を送った!
「海斗、海斗。どうする?次はトランプとかにしとくか?」
「うん……僕はちょっと、外の空気を吸ってくる。お前はここに居ていいぞ」
が、回復したとはいえ、少し疲れたらしい海斗はソファ席から立ち上がって出口に向かう。
「えっ、俺もお散歩する!かにたまにイルミネーション飾ってあるし!」
なのでバカもその後を追いかけて、一緒に出口へ向かうのだ。折角だから!
「えっ……?かにたまに……?す、少し気になるな……」
「だろ?一緒に見に行こうぜ!」
……そうして、バカと海斗はちょっとだけ、お散歩に出ることになったのである!
「陽が落ちるのも早くなったな。もう、薄暗い」
午後4時くらいのキューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部は、既に薄暗い。夏であれば午後6時ぐらいの暗さ、だろうか。
「そういえば、一昨日が冬至だったもんな」
「冬至……あっ!俺、カボチャ食ったぞ!あと、共同風呂が柚子湯だった!」
バカは海斗と話しながら、『ところで冬至ってなんだ?』『知らないでいたのか……一年で最も夜が長い日だ。冬至を過ぎたら少しずつ、昼が長くなっていくんだぞ』などと色々教えてもらい……そして。
「おっ!早速光ってるなあ!」
「……光ってる、な……」
……バカと海斗の目の前には、かにたま機体が勢ぞろい!それぞれに電飾を巻き付けて、ぺかぺかと光り輝いているのであった!
まずはかにたま初号機こと、通称『でかにたま』。バカがかつてのデスゲームのやり直しの中で破壊してしまったこともある、例のあの戦闘用機体である。
次に並ぶのはかにたま2号機こと、通称『ちびたま』。かにたまが普段の生活に使っている、猫くらいのサイズのかにたま機体だ。
続いて、3号機の『カニタンク』と4号機の『カニショベル』、5号機の『カニドーザー』、そして6号機の『カニコプター』が並ぶ。
更に、7号機『カニクレーン』、8号機『バキュームかーにたま』、9号機の『カニードローラー』、10号機の『カニドローン』、11号機の『ソフトクリームメーカにたま』、12号機の『カニダンプ』、13号機の『カニUFO』通称『かにふぉー』、14号機の『カニンゲリヲン』、15号機の『かにャン』と並ぶ。
……そしてそれら全てがぺかぺかと光に彩られているので、非常に賑やかな眺めなのだ!
「……ん?ところで、15号機までここにあるということは、かにたま本人は、どこに……?」
が、海斗の疑問はご尤も。ここに並ぶかにたま機体は全て、『抜け殻』状態。つまり、かにたまの魂が入っていない、空っぽの状態で稼働していない状態なのだ!
「あ、それなら16号機の中だぞ!」
「16号機もできたのか……」
「うん!やっとできた、人間サイズの人間型機体なんだって!すげえよなあ!」
……かにたまは、ちょっと早いクリスマスプレゼント、ということで、人間サイズの人間型機体、通称『カニメイデン』をプレゼントされている。
天使達の謎技術を結集させて作られたこの機体は、人間とほぼ変わらない機能をベースとして有し、その上で、レーザービームやコイルガンなどを搭載した、非常に優秀な機体となっている!
機体が発するための声のデータを作るため、たまが録音に協力していたのをバカは知っている。カニメイデンは皆の力でできた、すばらしい機体なのだ!
「そうか……。ようやくできたのか。人間サイズの人間型機体……」
「うん。先輩達、先にカニゲリヲン作っちゃうからさぁ……」
……人サイズの機体より先に、でっかいサイズの機体ができてしまっていたあたり、先輩天使達の趣味が光っている。だがバカは知っている。こういうのは小さい機体を作る方が大変なのだ。先輩達がああでもない、こうでもない、と色々がんばって、カニメイデンを作っていたのを知っているのだ!
「綺麗だなぁ……」
「……まあ、そうだな。綺麗だ」
……そんな、多くの人の努力と思いやりの結晶である、このかにたま機体イルミネーション。バカと海斗は、そこに宿る人々の思いも含め、『綺麗だなあ』と思うのだった!
……尚、この時、この瞬間も、カニメイデンに入ったかにたまは、天城と仲良く過ごしているところであった!おめでとう、かにたま!そして天城!
それから、バカと海斗はまた食堂に戻り、そこでビーナスがけらけら笑いながらヒバナのツイスターゲームを眺めているのを眺めてにっこりし、ミナが『樺島さん!海斗さん!見て!見てください!上手に焼けたんです!すっごく上手に!史上最高に!』と見せてくれたシフォンケーキに拍手して……さて。
「あっ、俺、そろそろ行かなきゃ。集合時間だ」
バカは時計を見て、がた、と席を立つ。
「え?何かあるのか?」
「あ、うん。俺、この後、1時まで戻ってこない……」
バカは慌てて『急がなきゃ、急がなきゃ』と支度を始める。食堂の中では、バカ以外にも多くの先輩達が、『おっと、そろそろ時間だ!』『急がなきゃ!急がなきゃ!』と、同じく慌てているところであった。
「……深夜の、か!?な、何をしに!?」
海斗はぽかん、としていたが……バカは、食堂の隅っこで『はい!ユニフォーム配布ー!サイズ見てもってけー!』とやっている先輩天使のところから、XLサイズの服を貰ってきて……海斗にそれを見せた。
「これ!」
バカが見せたのは、赤の地に、白のふわふわがくっついた服。
……そう!
「俺、サンタさんやるんだ!」
サンタさんのコスチュームである!
「ほら、この時期、サンタさん急がしいだろ?特に最近、物流は人手不足だし……」
「待て待て待て待て。そもそもサンタクロースが実在するのか?物流の人材不足がそこに影響するのか!?」
「うん!だから俺達、業務委託ってことで、下請けやっててぇ……この日だけ、運送もちょっとやってるんだぁ!」
バカが『すごいだろ!』と解説すると、海斗は『もう何も分からん』と天を仰いだ。バカとしては、『俺が分かってて海斗が分かんねえこともあるんだなあ』とちょっぴり珍しい気分である。
「……い、いいのか?それは……その、いいのか!?」
「うん!うちは兼業OKだぞ!」
「いや、そうじゃなくて……ええと」
海斗は、戸惑った様子で中途半端に持ち上げた手で、わたわた、としていたが……。
「……気を付けて行ってくるんだぞ」
「うん!」
……海斗は諦めたのだった!人生、諦めが大切なのである!
が、バカが早速、サンタさんコスチュームになったところで……。
「……さみい!」
バカは嘆いた!何故なら……上着の第三ボタンが閉まっていないからである!
「樺島ぁ!お前、XLだと小さかったんじゃねえのかぁ!」
「そうみたいだぁー!どうしよ先輩!」
バカの胸元はバツンと開いている。それもこれも、バカの大胸筋がデカいのが悪い。無理矢理ボタンを留めようとしても、うっかりちょっと深呼吸しただけでボタンを弾き飛ばしてしまいそうなので、怖くてそんなことはできない!
「XXL……アッ!もうねえ!誰かちょっと緩い奴いねえか!?樺島と交換してやってくれねえかぁ!?」
親切な先輩が早速呼びかけてくれたのだが、他の先輩達はざわざわとやりながら……。
「俺もムチムチパツパツだ!」
「こっちもムチムチパツパツだぞ!」
「樺島!もうお前痩せろ!」
「ええええええええ!?無理だよぉ!」
……結局のところ、全員がムチムチパツパツなのである!よって、バカと服を交換してくれそうな人はいないのである!
そうしてバカが、『もうしょうがねえしこのまんま行くかぁ……さみぃけどしょうがねえなあ……』としょんぼり諦めかけた時。
「樺島。ちょっと、こっち」
海斗が、ちょこちょこ、と手招きしてくれるので、バカはそっちへほいほい、と向かう。
……すると。
「……後で渡そうと思ってたんだが」
海斗は、バカの首にくるくると何かを巻き始め……。
「……わぁ!ぬくい!」
そうして、バカの首には、もふん、と白いマフラーが巻かれたのであった!
「一応、クリスマスプレゼント、っていうことで……その、巻いたら多少マシだろうから」
海斗はそう言って、ちょっと笑った。……バカは、自分の首に巻かれた白いマフラーを触ってみる。もふ、として、ちくちくしなくて、とっても温かい!あったかいので、バカはなんだか元気になってきた!
「あら、海斗。結構いい奴なんじゃないの?これ」
そこへビーナスがやってきて、マフラーに触って、『カシミア!』と声を上げた。バカは『かしみあって何!?お菓子!?』と喚いた。バカである。
「……そういうものだろ、クリスマスのプレゼントって」
「あー、そういえばあんた、いいとこのお坊ちゃまなんだったわねえ……」
海斗は『品選びを間違えただろうか』とちょっと心配そうな顔になってきて、ビーナスはそんな海斗と、『あったけえ!』と変わらず元気なバカとを見て、くすくす笑った。
「ほら、バカ君、貸して。折角ならちょっと巻き方変えた方が、その胸のところ、なんとかなると思うわ」
「うん!?そういうのあんのか!?」
「はいはい、しゃがんで。それじゃ届かないでしょ」
バカは『なんかビーナスがすごいことやるっぽい!』と期待して、そわそわとしゃがんだ。するとビーナスは、ひょいひょい、とバカのマフラーを解いて、もふもふ、と巻いて……。
「はい、できた」
「うおおおおおお!なんかすげええええええ!」
……そうして、ビーナスが巻き方を変えてくれたマフラーのおかげで、バカの胸元はきちんとマフラーでふかふかになり……寒くなくなったのであった!
「あっ!樺島さん!樺島さん!折角ならこちらもどうぞ!」
そこへ、ミナがぱたぱたと駆けてくる。さっきまで『クロカンブッシュを何段までやれるか、私と先輩とで競っています!』とやっていたはずなので、きっとそっちの勝負は終わったのだろう。楽しそうで何よりである。
「はい!あったかいですよ!」
「うおおおおおお!手がぬくい!」
……ミナが持ってきてくれたのは手袋である!バカの手のサイズに合っている手袋は珍しいので、バカは『すげえ!』とびっくりした!
「あっ、ミナ、もしかしてそれ、編んだの!?」
「はい!かぎ針編みです!あっ、ええと、その、自分用に編んだら、大きくなりすぎちゃった奴なので……もしよかったら、どうぞ!」
「うおおおおおお!?ミナ、これ編んだのか!?すごいな!?すごいな!?」
「えへへ……その、左右でちょこっと大きさが違うので、ちょっと申し訳ないのですが……」
バカは手袋を見つめつつ、『大きさ違うの!?ぜんぜんわかんない!』と目を輝かせた。バカの信条では、物を作り出せる人はすべからく尊敬されるべきである。バカは『ミナすげえ!』と歓喜の声を上げた。
……そして。
「……もしかしてミナ、あの手袋、先輩に編んだのの練習で作ったやつ?」
「……その、先輩にはナイショですよ?」
歓喜のバカの陰では、ミナとビーナスがひそひそ、と囁き交わし、くす、と笑い合っていた!
「じゃ、気を付けて行ってきてくれ」
「うん!気を付けていってくるー!ありがとなぁ、皆ー!」
そうしてバカは、皆に見送られて出発した。先輩達に『おお樺島!お前、首んとこと手と、あったかそうだなあ!』『いい友達持ったなあ!』『芽衣子さんの手編みか!?ちょっとうらやましいぞ、樺島ぁ!』などとつつかれつつ、にこにこ満面の笑みで……橇に乗り込む。
「じゃ、かにたま!よろしくな!」
……かにたまは、かにっ!と元気にお返事して、そのボディを振るわせ始めた。
そう。こちらはかにたま17号機。橇型のかにたま……通称、『そりたま』である!
そうしてバカ達、キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部の面々は、空を征く。
そりたまをガイドするのは天城である。尚、天城もサンタさんの恰好をしているので、バカは『天城のじいさんがサンタさんのカッコしてるの、なんか、変……!』と慄いていた!
……ぴゅう、と北風が吹き抜けていく。今日はとっても寒い。雪が降るのかもしれない天気である。
だが、そんな中でも、バカの手と首元、そして、ばちこん、と開いてしまっている胸も、ほこほことぬくいのである。
「……えへへ」
バカは、にへにへ、と笑いながら、なんとも幸せいっぱいに空を征く。先輩達に『おうどうした樺島!なんかにへにへしてるなあ!』『なんかお前、幸せそうだなあ!』などとつつかれつつ、『俺って幸せ者だなあ』などと思うのだ。
……とっても幸せなクリスマスであった!
尚、この後バカ達の仕事は日付を跨ぐ頃に終了した。本物のサンタさんに褒めてもらえて上機嫌な天使達は、皆で仲良く社歌を歌いながら帰社し……そしてまた、食堂のパーティーに舞い戻るのであった。
そこには酔い潰れたヒバナと、うとうとしているミナの枕になりながら飲み続けるビーナスの姿があった。ビーナスに『おかえり』と小さめの声で出迎えてもらったバカは、『ただいま!』とやっぱり小さめの声で応え……そして。
「樺島。僕もちょっと練習したんだが……対戦、するか?」
……先輩達に紛れてゲーム機の前に座っていた海斗が、そう誘ってくれたので……バカは、『やる!』と、ぱたぱた羽ばたいていくのであった!そしてすぐ、『食堂の中で飛ぶな!』と先輩天使に捕まってしまったが!
その内、のっそり起きてきたヒバナもゲームに参加し始めたし、ミナは目覚めて、『むにゅ……あっ!樺島さんがお戻りに!じゃあご飯あっためてきますね!』とぱたぱた厨房の方へ向かっていった。ビーナスは『ミナが作ったシュークリーム、美味しいのよ……絶対太るってわかってるけど、止まらないのよ……』とやっていた。
……なのでバカは只々、幸せであった!
おお、キューティーラブリーエンジェル建設!ああ、キューティーラブリーエンジェル建設!
……尚、その頃、天城とかにたまはいちゃついていたが、それはまた別の話である。そして陽とたまもいちゃついていたが、また別の話である。土屋は元の奥さんと食事して帰宅して寝ていたが、それもまた別の話!
そして木星さんは親方にお手入れされつつ縄をかけられて、除夜の鐘を突くための棒にされつつあったのだが……やっぱりそれもまた別の話である!
12月25日に『頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム』の書籍2巻が発売されます。よしなに。