なぜ星野仙一は「巨人監督」にならなかったのか 「オレは巨人のガラじゃない」涙で断念「いい夢見させてもらった」

スポーツ報知
2005年9月11日のスポーツ報知1面

 スポーツ報知では巨人のライバルだった名選手の記憶を「巨人が恐れた男たち」と題して掘り起こしてきた。最終回は星野仙一さん。打倒・巨人に全てをかけてきた「闘将」は、2005年、その宿敵からまさかの監督要請を受けた。極秘に進められた交渉、星野さんの葛藤…。巨人の元オーナー・滝鼻卓雄氏ら関係者の証言で初めて明かされる舞台裏を、前後編で描く。 ~前編からつづく~

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 「星野君と会った。後の交渉を頼む。誠心誠意、要請してくれ」。渡辺から交渉役を任されたのが、滝鼻だった。8月1日、大阪市内のホテルで、星野と初めて直接顔を合わせた。

 星野は巨人のオファーを手塚昌利オーナーら阪神の球団上層部に報告し、「とどまってほしい」と求められていた。「監督要請は光栄に思う」と星野は言った。「読売が直接、阪神の首脳を説得してOKを取れたなら、私は動ける。しかし、難しいのでは…」。報酬の話を持ちかけようとすると、「阪神のOKが出てからにしてほしい」と遮った。

 滝鼻は1週間後に手塚とも会い、熱を込めて訴えかけた。

 「星野さんに要請したのは、球界のためです。このままではプロ野球は沈没してしまう。巨人・阪神戦がもっと盛り上がらなければ、プロ野球の再生はない。巨人・阪神は共同盟主です。プロ野球を救済するような気持ちを持ってほしい」

 手塚が首を縦に振ることはなかった。いや、振れなかった。「今、星野SDがいなくなると、球団の再興は頓挫してしまう」。星野は財産だった。02年に監督として迎え入れると、03年には1985年以来のリーグ優勝をもたらした。大胆な補強戦略、強烈な求心力、客を呼ぶショーマンシップ。老舗球団の体質を抜本的に変えた。元球団社長で、連盟担当の職にあった野崎勝義は一時、星野を球団社長に推していた。「星野さんがいなければ改革はできていない。手塚オーナーも星野さんのものすごいファン。当然手放したくないと考えていたと思う」

 補強は必ず予算より少なく抑える。球団職員との小さな約束も必ず守る。勝たせるだけの男ではなかった。健康問題で現場を退いたが、ある種の英雄だった。球団の副本部長を務めていた沼沢正二は、渦中の星野に一度だけ、監督問題について尋ねた。そのとき一瞬浮かべた険しい表情を覚えている。「まだ優勝して2年。今のソフトバンクの王球団会長のように、球団に在籍した上で、アドバイスをもらったり、球界に物申してほしかった。どう考えても、ライバルチームに出せる状況ではなかった」と、空気感を明かす。

 喜びと現実のはざまで、星野は揺れた。毎日のように駒沢に電話をかけてきた。「一時は6~7割、巨人入りに傾いていたと思う」とは駒沢の心証である。新聞には連日「星野」の大見出しが躍った。「話が漏れとるやないか!」と当初は憤りをあらわにしていた星野の声に、「読売の意向はどうなっとるんや?」と不安げな響きが混ざるようになった。

 滝鼻が奔走していたころ、阪神のある有力幹部のもとに、巨人から別ルートで接触があった。星野の信頼が厚かったこの人物に、感触を探るためだった。「天下の巨人さんが、阪神が星野使(つこ)うて回したレコードをまた回すいうのは面白うないでっせ。巨人は巨人なりのやり方で、やられた方がええんちゃいますか」と、幹部は答えた。

 滝鼻は1か月ほどの間に、星野と5回、手塚とも2回会った。時に星野は巨人の現状を分析し、課題をあぶり出してみせた。平行線という言い方はそぐわないだろう。がっぷり四つで土俵中央から動けない状態が続いた。

 やがて、機を見るに敏な星野にも終着点は見えてきた。報道で自身のプライベートが書き立てられ、巨人に迷惑がかかることを恐れた。夕刊紙などで、広岡達朗や金田正一といった大物OBが巨人入りに猛反対する声明を出した。自身のホームページにもファンから反対の書き込みが届いた。

 「オレは巨人のガラじゃない」

 悟ったように、駒沢との電話でつぶやいた。そして9月1日。滝鼻の前で腹をくくった。

 「監督問題は難しい。脅迫状まで来る。タイミングを見て巨人には行かないと言明したい。交渉、接触は全面否定します」。あの涙の意味を、滝鼻は「星野さんは阪神の引き留めと巨人の要請の間に挟まれて、苦痛に近い状態で悩み抜いていた。阪神首脳部を裏切るというよりも、ファンに背を向けられない、という恐怖感に近い精神状態に支配されていた」とみている。

 9月10日、星野は大阪市内で会見を開き、SDとして阪神に残ると正式に表明した。「ファンから“残ってくれ”という声が多い。私なりに、答えを出さなきゃいかん」。苦悩はおくびにも出さず、晴れやかな笑顔をつくった。

 巨人の新監督には原辰徳が復帰した。星野は北京五輪日本代表監督などを務めた後、楽天の監督に就任。13年には巨人を日本シリーズで倒して日本一にたどり着いた。

 長年の友人で、岡山・倉敷市の星野仙一記念館館長でもあった延原敏朗は、巨人行きに反対した一人だ。「ファンが神様のように言ってるのに、巨人の監督になったら、新大阪駅でドスでズドンとやられて終わりだよ」。そんな助言もした。星野は延原に、のちに笑い話に紛らせて漏らした。

 「巨人に行っとったら、オレは一生食えたんや」

 残留会見の前夜である。駒沢の携帯電話が鳴った。星野だ。出張先の博多からだった。

 「明日、大阪に帰って会見する。巨人の話は断るわ」

 電話口の声が、泣いていた。

 「いい夢、見させてもらったよ…」

 ◆取材後記

 「あのとき星野さんは、泣いていたらしい」。監督問題が騒がれた20年前、私は野球記者でもなく、のちに都市伝説のような話を聞きかじったに過ぎない。涙を流すほどの切実さとはいったい何だったのか。それを知りたいと思った。

 星野さんが巨人に抱いていたのは、負の感情ばかりではなかった。「巨人のことはやっぱり好きだったでしょう。弱い巨人とやっても面白くない。強いからこそ、やりがいがある。口癖みたいに言っていたからね」とは中日時代に監督付広報を務めた金山仙吉さんの言葉だ。

 光源に近づきすぎれば、逆に光を失うこともある。巨人に挑み、牙をむくことで輝いてきた星野仙一自身を、最後に裏切るわけにはいかなかったというのも、涙の理由のひとつだったのかもしれない。(野球デスク・太田 倫)

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