感染症・がんに悩んだ恐竜、化石に証拠相次ぐ 「カルテ」作りに期待
・恐竜の命を奪った病気は?
・鳥と恐竜を苦しめる病気は?
・恐竜の病気から何がわかる?
巨体で力が強く、頑健そのもの――。太古の地球を制した恐竜にこんなイメージを抱く人は多いだろう。だが化石を解析する技術の進歩に伴い、恐竜も人間と同様に感染症やがんに苦しんだ様子が見えてきた。研究が進めば恐竜が暮らしていた環境や、彼らを悩ませた病原体の正体を解明できるかもしれない。
恐竜の命奪った感染症
骨で細菌などが増える骨髄炎が恐竜の命を奪った――。ブラジルのカリリ地域大学などは中生代白亜紀(約1億4500万〜6600万年前)に生息していた、首が長い竜脚類の脚の骨とみられる化石を調べた。25年に学術誌「ジ・アナトミカル・レコード」に論文を掲載した。
化石を顕微鏡などで解析すると、炎症で海綿状になった組織が見つかった。骨の密度が下がり、楕円形の模様が並んでいた。カリリ地域大のアウレリアーノ博士は「骨が治癒した痕跡は見られなかった」と指摘する。細菌が増えて症状が重くなり、恐竜が死亡した可能性が高い。
化石が出土した場所では、他にも骨髄炎の痕跡が残る恐竜の化石が見つかった。どれも近い年代のものだ。さらに付近に川が流れていた岩石の証拠も出た。
アウレリアーノ博士は、この場所には「乾期に濁った水がたまっていた」と考えている。水たまりで繁殖した細菌が水辺で暮らす恐竜に感染し、骨髄炎を起こした恐れがあるという。この研究が示すように、恐竜が患った病気を調べれば、当時の生活環境を知る手掛かりになる。
細菌やウイルスが原因の感染症は人類を脅かしてきた。新型コロナやインフルエンザのウイルスがパンデミック(世界的大流行)を引き起こした。化石の研究からは恐竜も人類と同様に、様々な感染症に苦しんだ事実が分かってきた。
鳥が患う病気の証拠も
恐竜は現在の鳥類の祖先だ。その鳥類を苦しめる呼吸器の感染症を患った証拠も見つかった。
米グレートプレーンズ恐竜博物館などは中生代ジュラ紀(約2億〜1億4500万年前)の後期にいた竜脚類とみられる恐竜の首の骨の化石に「気囊炎(きのうえん)」の痕跡を見つけて22年に発表した。気囊炎は空気をためる器官に炎症が起きる病気だ。
化石の頸椎の内部には、気囊炎の鳥類でもみられる骨が異常に増殖している様子が見つかった。ウッドラフ学芸員は「鳥類と同様に、恐竜にもせきなどの症状が出た可能性がある」と考えている。
がんの痕跡発見
感染症と並ぶ健康上の脅威が、がんだ。体の細胞が分裂して増える際に生じることが多い。多数の細胞からなる大きな体を持つ動物はがんのリスクが高まる。人類も例外ではなく、世界保健機関(WHO)によると22年には世界で約970万人ががんで亡くなった。
恐竜の化石からもがんの痕跡が見つかった。カナダの王立オンタリオ博物館などは、白亜紀の草食恐竜の化石から骨のがんである「骨肉腫」の跡を見つけたと20年に発表した。ルーマニアのバベシュ・ボヨイ大学なども白亜紀の小型恐竜の化石を調べ、顎に「エナメル上皮腫」というがんの跡を見つけた。
たんぱく質が手掛かり
一連の研究は恐竜が感染症やがんを患った可能性を示すが、太古の病気を正確に診断するのは難しい。恐竜の病気を研究する岡山理科大学の千葉謙太郎講師は「病気の特定に向けて、化石に残るたんぱく質などの有機物の分析が鍵になる可能性がある」と指摘する。がんなどを患うと体で特定のたんぱく質ができ、病気の種類を探るのに役立つ。
岡山理科大などは25年、化石のたんぱく質を目立つ色で染めることに成功したと発表した。樹脂などの他の成分と反応せずに、たんぱく質の位置などが分かる。論文を学術誌「ジャーナル・オブ・プロテオーム・リサーチ」に掲載した。
この研究では数万年前のゾウの化石を調べた。現在は恐竜の化石からたんぱく質などの有機物を探す研究に取り組んでいる。岡山理科大の辻極秀次教授は「恐竜の病気などを知る手掛かりになるといい」と話す。
恐竜の病気を調べれば当時の細菌とウイルスの特徴や、その後に病原体が進化した道のりを知る研究にもつながりそうだ。恐竜の「カルテ」作りに期待がかかる。
(堀川みなる)
化石の解析技術
様々な生物の化石を解析する技術のこと。従来は化石に残る骨の形や内部の構造を分析する研究が主流だった。だが最近はたんぱく質などの解析が盛んになりつつある。
化石のたんぱく質を分析する研究分野を「パレオプロテオミクス」という。絶滅した動物の系統関係などを解明するのに役立つ。
たんぱく質の分析手法も進歩を遂げている。従来は化石を粉にして成分を抽出したが、微生物などが混入する恐れがあった。そこで電子顕微鏡で細胞の構造を観察したり、たんぱく質を構成するアミノ酸を調べたりする研究が現れた。