俺が執行官……ってコト!?   作:爆死san

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戦友について……

これ? これはね、先遣隊に任官された時、渡された武器なんだよ。俺の頃の制式装備の一つだったんだけど……どうも邪眼での元素制御に難があったらしくて、おかげで持たされた新兵が何人も死んだそうなんだ。そのおかげで、今じゃ骨董品も良いところ……慣れたら全然、使えるのにもったいないよね。




目と目が合う瞬間……ビューティフォー

 

 

 

 

「へぇ、これが月髄ねぇ。想像していた物とあまり大差は無いわね」

 

『傀儡』は手の上で冷たく光るソレを、さぞどうでも良さそうに見下ろす。

 

 まあ、俺達はコロンビーナの捜索が主任務であり、月髄の入手はあくまで第二の目標。

 

 況してや、月髄を探せと言ってきた当の執行官がこの場にいないのだから、なおのことである。

 

「で、君の所に寄越した彼女はどうしたのさ? 一応、面倒は君が見る手筈だろ?」

 

「ああ、あの裏切り者の事? 彼女なら一番下よ。彼女が他の面々と一緒にいれる訳ないでしょ?」

 

「そりゃそうだ」

 

 俺が用意したのはファデュイにおける彼女の席のみ。

 

 周りの将兵にとっては今の彼女は霜月の里を裏切り、ファデュイに転がり込んだ余所者。

 

 立場上は同胞でも、それを彼らが認めるかどうかは彼女次第といったところか。

 

「それでどう保管するのさ。聞く限り、信者達にとっては大事な宝だし、絶対、取り返しに来るよ?」

 

 しかも、彼らの詠月使は例の旅人と親しい関係にあるようだ。

 

 月髄の奪還については旅人の介入は確定していると見て良い。

 

「あら、それは面白いじゃない。ちょうど、侵入者迎撃のシステムを更新したばかりなの。良いデータが取れそうね」

 

「おや、わざわざ設計局に侵入させるのかい?」

 

「フン……普段、飲んだくれてる下の兵士どもにも少しは働いて貰おうじゃない。それに、この月髄を少し調べてみたけど、これは謂わばエネルギーの集合体。こうして持つことも出来るし、体内に宿すといった事も出来るのよ」

 

 そう言って、彼女はプロンニアの胸部に月髄を押し込む。

 

 すると、まるでそこに障害が無いかのように月髄はすんなりとプロンニアの内部へ入っていった。

 

「へぇ……じゃあ、それを君の身体にしまうのか?」

 

「いえ、プロンニアの体内に保管するわ。管理は私に任されてるし、月髄がプロンニアのエネルギー効率にどう作用するか、調べてみたいしね」

 

 そもそも月髄というのは、かつて存在した月神の死後にその力が凝縮した一種の核のようなもの。

 

 七神が生まれるよりも前の、遥か昔の時代の遺物……確かにそのエネルギーは未知数だ。

 

 彼女の研究者という立場がそうさせるのか定かではないが、本人も珍しく意欲的だし、事実こういった技術的な面は彼女が適任だろう。

 

「……まあ、それの管理は君に任せるよ。それで? やって来るであろう侵入者はどうするのさ?」

 

「私が相手をするわ。手出しは一切無用よ」

 

「……今回はやけにやる気に満ちてるね?」

 

「当然じゃない。あの変数には一度じゃ飽き足らず、何度も辛酸を舐めさせられてるのよ。今までの借りを返してやるわ」

 

 どうやら、キャサリンと間違われた事、旅人によって破壊された陸巡艇の修理、同僚からの仕事の催促──彼女の旅人に対する恨みはそれなりに深いらしい。

 

 要するに八つ当たりがしたいってこと。

 

 とはいえ、その旅人に『公子(タルタリヤ)』や『淑女(シニョーラ)』が敗れてるのだが──

 

「じゃあ、せいぜい頑張ってくれよ。俺は慣れないことをしたせいで少し疲れたからね」

 

 ──いや、珍しくやる気に満ち溢れている彼女にそんな指摘は無粋だろう。

 

 ならばこそ、今回はお言葉に甘えて、彼女の健闘を祈らせて貰おう。

 

 要するに素敵な臨時休暇ってこと……せっかくの休みだ、何をしようかな。

 

「フン……ちょうど良い機会だし、貴方にも見せてあげるわ。私の実力をね」

 

「はいはい。応援してるよ。じゃあ、おかげ様で非番になった訳だし、後は頼んだよ」

 

「待ちなさい。私は貴方に見せてあげると言ったのよ?」

 

「うん、言ったね。だから頑張ってね」

 

 おかしいな、会話が何故か噛み合ってないぞ? 

 

「貴方も来るのよ」

 

「なんでさ?」

 

「私の晴れ舞台を見届ける人間が必要でしょ?」

 

「……プロンニアの兄貴がいるじゃないか」

 

「プロンニアがいつ貴方の兄貴分になったのよ。いいから貴方も来なさい」

 

「えぇ……俺の臨時休暇は?」

 

「そんなものある筈ないでしょ。それと忘れてない? 貴方の経費の申請、誰が『富者(パンタローネ)』のヤツに通してあげてるのか」

 

「私などでよろしければ、喜んでお付き合いさせていただきます」

 

「フン……最初からそうすれば良いのよ」

 

 畜生……汚いな、流石ファトゥス汚い……って、俺も一応はファトゥスか。

 

 というか、完全に弱みを握られちまった……そのせいで、拒否権が剥奪されてるようなものじゃんか。

 

 要するに完全に尻に敷かれてしまったということ……ツラい。

 

 皆も誰かに経費を通してもらう時は、その相手に恩を売るのを忘れないようにしよう。

 

 でないと、こんな風に弱みを握られちゃうからね? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の潮風に当たるというのはなかなかに気持ちが良いもので、こういった場所で本を読んだり、或いは酒を嗜むというのも、なかなかに乙なものではなかろうか。

 

 しかし、残念なことに今は絶賛、勤務中。

 

 しかも、隣には雪辱を晴らす事に燃えた同僚がいるときた。

 

 ……俺、何をしに此処に来たんだろう? 

 

 いや、隣の同僚の勇姿を見届けるという名目ではあるのだが……まあ、ぶっちゃけると興味がない。

 

 共にいる配下の兵士達には申し訳ないが、彼女が勝とうが、負けようがどうでも良いというのが本音である。

 

「……で、此処には何をしに来たのさ?」

 

「この前の実験以降、この地のクーヴァキの波長に乱れが生じたの。その現地調査って所かしら」

 

「あっそ……でも、向こうに来る予定の侵入者はどうするのさ?」

 

「実験設計局からの脱出ルートを逆算すると、此処を経由する可能性が極めて高いわ。それに──」

 

 その時、水平線の向こう側──実験設計局の方からけたたましい警報が鳴り響く。

 

 この警報は侵入者が居ることを知らせるもの……成る程、どうやら彼女の読みは当たっていたらしい。

 

「あら、思った以上に早かったわね。少しは向こうの兵士も働いたってことかしら」

 

「君の読み通りなら、向こうは取り逃がしたってことになるけどね」

 

「フン……貴方達、仕事が一段落したら、お客さんのおもてなしの準備よ。たっぷり歓迎してあげなさい」

 

「はっ、『傀儡(サンドローネ)』様」

 

 彼女の言葉に兵士は敬礼し、作業へと戻っていく。

 

「一応、聞くけど、件のお客様の歓迎は君の所でやるのかな?」

 

「当然よ、貴方はその目で見てなさい」

 

「はいはい。じゃあ、俺は向こうの崖でスタンバってるから、手伝って欲しかったら言ってね」

 

「要らないって要ってるでしょ! 貴方、人の話の何を──ちょっと、貴方が持ってるその銃……」

 

「ん? これかい? これとは執行官になる前からの付き合いでね……」

 

「1891式小銃……その型式は三型ね。驚いたわ……まだ、それを使ってるヤツがいるなんてね」

 

「へぇ、見ただけで型式まで分かるんだ」

 

「当たり前じゃない。どっかの誰かがやらないせいで、誰が兵器のメンテナンスをしてると思ってるのよ」

 

 お労しや、サンドローネ殿……技術者というのはこき使われる運命にあるらしい。

 

「ちょっと、それ貸しなさい」

 

「えっ? 俺の唯一の戦友だよ? 壊されると困るんだけど」

 

「壊す訳無いでしょ。今時、稼働状態のその銃を見れる機会なんてそうそう無いんだから。今後の見聞のためよ」

 

 まあ、それくらいなら……彼女も技術者兼研究者である以上、かつての制式武装が気になるのだろうか。

 

 彼女は差し出された小銃を手に取り、扱い慣れたようにボルトハンドルを動かし、薬室の内部の状態、トリガーの固さなどを確認していく。

 

「……意外ね。しっかりと整備されてるじゃない」

 

「俺の唯一の戦友ですから」

 

「フン、人は見かけによらないって事かしら」

 

「まあ、部隊にいた時は狙撃担当だったからね。肝心な時に外したら、それこそ終わりだよ」

 

 狙撃の真髄は一撃で敵を仕留めることにある。

 

 その為には射撃技術は勿論、敵との距離やその移動速度──しまいには銃本体のコンディションも命中精度に影響してしまう。

 

 故に銃本体の整備を怠るわけにはいかない、それが自らを殺す驕りになることもあるのだから。

 

「狙撃担当って……そこは狙撃手って言うところじゃないの?」

 

「いや、部隊の面々が戦死していくと、狙撃だけをしてる訳にはいかないからね。色々な役割を兼任してたのさ。仮に補充されてもすぐ死んじゃうし」

 

「そう。その……悪かったわね。気分が悪くなる話をしたわ」

 

「別に構わないよ。もう終わってしまった事だしね」

 

 俺が先遣隊の部隊にいた事も、作戦中に仲間が死んだ事も、最終的には俺だけが生き残った事も──もう終わった話だ。

 

 今更、終わってしまった事を悔いても、叫んでも、憎んでも何も変えられない。

 

 終わったものにそれ以上の事はないのだから。

 

「まあ、という訳で狙撃は俺の十八番でもあるからさ。手伝って欲しかったら言ってね」

 

「必要ないって言ったでしょ……まあ、良いわ。狙撃が十八番なら、その目にしかと刻みなさい。私の実力をね」

 

「主にプロンニアのね」

 

「……次、余計なことを言ってみなさい。プロンニアにその減らず口を千切らせるわよ」

 

「えぇ……コロンビーナの時より酷くない?」

 

 という訳で、我らがサンドローネ様はやる気満々であらせられる。

 

 是非とも、こちらはこの夜風を浴びながら、その勇姿を鑑賞させて貰おうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 双眼鏡の先には金髪のショートカットの女性と、頭から伸びた角が特徴的な霜月の里の詠月使。

 

 後、なんかオロオロしてるもう一人の金髪は……たしか、ナシャタウンにある秘聞の館の従業員……だったか?

 

「それにしても……あれが例の旅人か」

 

 無論、資料でその姿は見聞きしていたものの、この目で本人の姿を見るのは初めてだ。

 

 彼女こそが、『公子』、そして、『淑女』を破った張本人。

 

 それに見ただけで分かる……彼女はおそらく、サンドローネの見立て以上に強い。

 

 実際、先のナタの戦いで文字通り、彼女は英雄として名をあげた。

 

 勿論、当のサンドローネが対抗できないと言うつもりはないが、戦いとは兵器の性能だけでは決まらない。

 

 本人が学び得た経験、そして培った技術、力は時に単純な性能差を軽々と凌駕する。

 

 ……これは少しばかりサンドローネの方が、分が悪いかな。

 

 あくまで、これは俺の戦闘経験による推測──無論、彼女のプロンニアも経験を積み、それを糧に出来るのなら更なる高みを目指せるだろう。

 

「手出しするなって言われてるけど……一応、準備はしておこうかな」

 

 ボルトハンドルを引き、弾薬を薬室へと押し込んでいく。

 

 彼女が善戦するのなら杞憂となるわけだが、逆に追い込まれるような事があれば──

 

『────────!!!』

 

「……っ!!」

 

 突如として、脳内に流れ込む大量の言葉にならない叫び。

 

 それはフォンテーヌの水底の廃墟で聞いたものよりも、遥かに大きく、より鮮明に脳へと流れ込む。

 

 ナド・クライを渡り歩く時、全ての者が共通して恐れる脅威がある。

 

 光すら飲み込む、深く、淀んだ霧と共に現れる亡霊達の行進。

 

 この地のアビスによる災害──ワイルドハントである。

 

 この災害はナド・クライ全土でランダムに起こり、発生原理も未だ明らかにはなっていないのだが、ここ最近はその頻度が急増しているとの事だ。

 

 それが今、まさに眼前で起こっている。

 

「……っ! しまった…… サンドローネ!」

 

 脳に流れ込む声に意識を向けてしまった間に、彼女達の姿は淀んだ霧へと呑まれていた。

 

 こうなってしまえば、目視による確認は不可能だろう。

 

『はぁ……こればっかりはやむを得ないよね……」

 

 邪眼が光り、背後に三つの仙霊のような飛行物体が現れる

 

「……行け」

 

 その命令と共に遊星達は臆することなく、その霧の中へ飛び込んでいく。

 

『寒い痛い怖い痛い怖い寒い痛い怖い痛い怖い寒い痛い怖い痛い怖い寒い痛い怖い寒い痛い怖い痛い怖い寒い痛い怖い痛い怖い暗い怖い寒い暗い痛い何故嫌だ痛い怖い寒い暗い痛い何故怖い寒い暗い痛い何故怖い寒い暗い痛い何故怖い寒い暗い痛い何故怖い寒い暗い痛い何故怖い寒い暗い痛い怖い寒い暗い痛い怖い寒い暗い痛い怖い寒い暗い痛い──』

 

 遊星が霧の中へ入った途端、かつては人であったであろう亡霊達の叫びが脳へ流れ込んでくる。

 

 アビスに侵食された魂の成れの果て、亡霊達は自身の最期の断末魔を繰り返す。

 

 けれど、壊れた蓄音機のように繰り返されるその声には何も意味はない。

 

『──死にたくない』

 

「──残念。君はもう死んでるんだよ」

 

 一拍、息を吐き、そして吸う。

 

 照準器の先には未だ晴れぬ深く淀んだ霧。

 

 未だ治まらぬ叫びに顔をしかめながら、ただ合図を待つ。

 

 その時、感覚を共有した遊星から、雷元素による信号が伝わる。

 

「……悪いけど、お手伝い確定だ。文句は後で聞くよ」

 

 間髪入れずにそのトリガーを引き、圧縮された雷元素によって加速された銃弾が銃口から飛び出る。

 

 紫の閃光を引きながら、銃弾は霧の中へと飛び込む。

 

「まずは一つ」

 

 ボルトハンドルを引くと、澄んだ金属音と共に空薬莢が宙を舞った。

 

 そして、すぐにハンドルを押し戻し、次の弾を薬室へと送り込む。

 

 照準をやや右へとズラし、そのまま──

 

「──次」

 

 その冷たいトリガーを引いた。

 

 





ある兵士について──

以前、ある兵士が戦っている姿を目にした。鍛えられた動きで敵を討つ姿からして、かなり戦い慣れているのが分かる。だが、あれは天性のものではなく、極限まで己を追い込んだ鍛練によるものだ。故にその者は様々な型を自身の型に組み込んでいる。武芸としてではなく、敵を討つ手段としてな。
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