絵師・戯作者としてマルチな才能を持つ北尾政演/山東京伝。2つの名を持つ江戸のベストセラー作家を演じる古川雄大さんに、役のこと、蔦重との関係、ドラマで描かれる劇中劇の裏話についてなどを伺いました。
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「べらぼう」イチの陽キャ
最初に山東京伝は色男と伺い、セクシーな人物が頭に浮かびました。ところが「べらぼう」イチの陽キャでいてほしいとのご要望をいただき、調べると当時のパーティーピープルみたいな存在だったとのこと。僕自身とはかけ離れた人物像なので、これまでのドラマや映画で参考になる資料はないか聞いてみたものの、しっくりくるものに出会えず、江戸時代の陽気さ、チャラさをどう表現したらいいのか悩むことになりました。
現代劇であれば、さまざまな色男のキャラクターが思い浮かびましたが、当時はテクニックではなくストレートにアプローチしていたんじゃないかなと、結局は底抜けに明るくまっすぐに表現していこうと決めました。
演じる中で大きなヒントになったのは「ほかのことは何も考えず、女性のことだけ考えていていい」という演出担当の言葉でした。単純に明るい人というよりは、その背景に何か高揚しているものがあって、それが女性の存在。あるいは『御存商売物(ごぞんじのしょうばいもの)』で一等を取って周りからチヤホヤされていたりと、いつもウキウキにつながる何かがあります。
政演を象徴する“あのセリフ”
声を弾ませて「つったじゅうさ〜ん」と呼びかける政演らしいセリフ回しは、本番の直前まで迷って行きついたものでした。普通に元気よく「蔦重さん!」とやってくるのと、声に色をつけて歌いながらやってくる2通りの演技を考えていたところ、本番前に助監督さんが「つったじゅうさ〜ん」と口ずさんでいるのを偶然聞いて、こっちが正解だなと思いました。そこからはキャラクターを深めるために、ちょっと踊ってみせたり、道化のようなしぐさをしてみたりとプラスアルファの演技をして、政演の人懐っこさが出せたらと工夫しています。
意外だった戯作者としての苦悩
明るいイメージが先行している政演ですが、第29回では戯作者としての苦悩を垣間見せることになります。台本を読んだときは「え?こういう人だったの?」と驚き、面白いなと感じました。あんなに余裕そうにみえるのに実は繊細な一面も…。前半はそうした部分に目を向けてこなかったので、逆にそれが良かったと思っています。蔦重さん、鶴屋さんは政演のそういう一面を見抜いていて「こいつなら大当たりが出せる」と踏んだのかもしれません。大評判となる『江戸生艶気蒲焼(えどうまれうわきのかばやき)』を執筆する過程で政演は、蔦重や戯作者仲間たちに何度もヒントをもらいます。一人で作り上げるのではなく、みんなの力を借りることで、政演は成長していくんですよね。そこはもしかすると史実とは違うのかもしれませんが、より面白く山東京伝を描いていると思いますし、蔦重が京伝の才能を引き上げ、見いだす構図を色濃く描く回になったなと感じました。「本で人の心を豊かにする」という、蔦重が本来掲げていた思いを体現している点でも、心を動かされるのではないでしょうか。
遊び心で演じた劇中劇
いろいろなドラマが詰めこまれた第29回ですが、劇中劇が見る方にどう受け止めていただけるかも楽しみです。僕が演じたのは主人公の艶二郎(えんじろう)。色男の政演がモテたいと願う艶二郎にふんするなんて面白いですよね。ほかのキャストの皆さんも、それぞれの役のエッセンスを残しながら劇中劇の役を演じていらっしゃいます。そういう意味で少し難しさはありながらも、ふだんとは違う遊び心のある雰囲気のなか楽しく撮影が進められたので、その空気感が伝わればいいなと思っています。
こだわったのは、大きな付け鼻(笑)。もっと特徴的にしたいとメイクさんと一緒になって試行錯誤しました。垂れ目は特に難しくて、引っ張っている感じが見えてしまいがちだったのですが、撮影の最終日にはすごくスムーズにいって「成長したなぁ」と思いました(笑)。
特に印象深いのは芝居に見立てた駆け落ちのシーン。艶二郎が最高潮に気持ち悪くなる瞬間で(笑)、劇中劇のなかでまた別の役を演じているような感覚があり、楽しみながら演じました。
話題の中心は付け鼻
艶二郎の付け鼻を付けた扮装(ふんそう)のまま、NHKの食堂に行ったりもしました。周囲から不思議な目で見られるのが楽しく、こんなリアクションをしてくれるんだとうれしくなってしまいました。
共演者の皆さんとの会話も必ず鼻の話題からでした。「息できるの?」とか「何時間かかってるの?」なんて、会う人会う人に聞かれて。あまりに同じ話をしすぎて、だんだんと説明がうまくなってしまったほどです。
共演者のなかには、挨拶をしても僕だと気づかない方も。桐谷健太さんは鼻の大きなエキストラさんだと思っていたようで、僕だと分かって驚かれていました。そんなふうにバックステージでもいろいろなエピソードを残しながら、ポップな劇中劇が作れたと思います。
引き上げ、導いてくれた蔦重
深川育ちの政演は女郎になじみがあり、吉原の花魁(おいらん)たちを描くことにはたけていました。でも、戯作者としてはまだ発展途上の人で、ゼロからイチを生み出す作業には苦悩していると思います。僕自身もアーティスト活動をしていて作詞作曲をするので、その思いは理解ができました。感覚的には鋭いものがあって、器用な分、ある程度の評価が得られるものは作れるけれど、通をうならす深みを出すのは難しいと実はどこかで自覚していて、だからこそ、尻込みしたと思います。
そんな政演を導いたのが蔦重。彼がいなければ、絵師・戯作者の二足のわらじを履いてやっていくことはできなかったかもしれない。蔦重はセンスとひらめき、そして人間力で道を切り開いてきた人。政演も少し似た点があって、そこにインスピレーションを感じているようにも思います。入り口は吉原での遊興でしたが、蔦重さんの後押しがあったからこそ、後世に残る名作・名著を生み出せるまでに成長することができた。今後、寛政の改革が起こり政演も渦中の人となりますが、そのとき蔦重さんとの関係がどう描かれるのかも楽しみにしていただければと思います。
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