俺が執行官……ってコト!?   作:爆死san

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嫌いな食べ物について……

別に食べられる以上、選り好みはしないよ。食べられるってのはそれだけで貴重なんだから。ただ、唯一と言っても良いくらい不味いって断言できるのは先遣隊のレーションかな。知ってるかい? アレ、爆薬の味がするんだよ。


執行官は友達が少ない

 

 

「じゃあ、私はこうするね」

 

 コロンビーナはそう言って指を指すと、宙に映された盤面に赤い円が描かれる。

 

「じゃあ、俺はこう」

 

 そう言って俺は二つ並んだ赤円の隅を指差すと、青い円が描かれた。

 

 これは『月並べ』と呼ばれる、一種のマルバツゲームだ。

 

 この『月並べ』という名称については俺は初めて聞いたのだが、どうもコロンビーナが昔から知っている遊びの一つらしい。

 

 しかし、彼女の周りにいた人間に、そんな遊びに付き合ってくれる者はいなかったらしく、本人も誰かとやるのは初めてとの事だ。

 

 ……というか、こんな簡単なマルバツゲームにすら付き合ってくれないって、前の彼女は相当、窮屈な所にいたのだろうか? 

 

「うぅ……また、負けちゃう……」

 

「なら、俺は五連勝目前だね」

 

 この手のゲームというのには必勝法がある。

 

 先手になった場合、まず中央を取り、相手の出方を見つつ、角と辺へ戦略的に配置すれば勝利のチャンスが自ずと増えていく。

 

 また、後手になった場合は先手のリーチを防ぎつつ角を先に埋めることで、少なくとも引き分けには持っていけるのだ。

 

「じゃあ……こう」

 

「はい、残念。俺の勝ち」

 

 コロンビーナが苦し紛れに角を塞ぐが、今度は空いた横一列の隅を埋め、俺の勝利が確定した。

 

 ──の筈なのだが。

 

「……あの、コロンビーナさん?」

 

「……何?」

 

「俺の印が出てきてないんですけど?」

 

「スカラマシュは悪い子だから出てきてないのかも」

 

 誰が悪い子やねん、というか、印を出してたの貴女でしょうに。

 

 まあ、必勝法でゴリ押してるのは否めないが、それはあくまで戦略の一環なのだから、責められる謂れはない。

 

 世の中、何事も勝者こそが正義なのである。

 

「こら、しょうもない反抗は辞めなさい。大人しく負けを認めるんだ」

 

「じゃあ、私の番だね」

 

 ちょっと、コロンビーナさん? 俺の話、聞いてる? 

 

 その隅を確かに埋めた筈なんですけど? 俺の勝利が確定した筈なんですけど? 

 

 ……ってか、いつの間にか盤面が全部、赤になってるんですけど? 

 

「此処に置いて……うん、私の勝ち」

 

「ちょっと待てい。盤面が全部赤になってるじゃん。俺の置いた印は何処行ったのさ?」

 

「……枠の外?」

 

「えぇ……」

 

 どうやら、俺の印はいつの間にかゲームから除外されていたらしい。

 

 何これチート? というか、堂々とし過ぎてて、逆に感心するな……

 

「じゃあ、私が勝ったから、スカラマシュはお菓子をあげなきゃだね」

 

「あれ? これはコロンビーナさんの勝ちになるの? 思いっきり不正じゃないのこれ」

 

「……私、ズルしてないよ?」

 

 俺が何を言っているのか分からないと言わんばかりに、コロンビーナは首を傾げる。

 

 一体、彼女は何時からこんな負けず嫌いな娘になってしまったのだろうか……

 

 いや、俺が必勝法でボロ勝ちにしてたからか。

 

 要するに、時代や環境のせいじゃなくて、全部俺が悪いってこと。

 

「まあいいや……それで? 何の菓子が欲しいのさ? チョコとビスケットしか持ち合わせがないんだけど」

 

「じゃあ、チョコが良い」

 

 そう言った彼女に銀紙の包装を渡す。

 

 それを受け取った彼女は包装を外し、露になったチョコレートを口に入れた。

 

「フフッ……やっぱり美味しい」

 

「別にコロンビーナも欲しいって言えば、簡単に手に入るさ」

 

 たまに忘れそうになるが、まるで小動物のように菓子を頬張る彼女はファトゥスの第三位。

 

 特にファトゥスでは第三位以上の執行官は七神に匹敵する実力者とされており、現に一位の『隊長(カピターノ)』、二位の『博士(ドットーレ)』といった面々は他国において一大の警戒要素となる。

 

 それ程の力を持っているのだから、お菓子の一つや二つ等はどうにでもなるのだ。

 

「うん……でも、スカラマシュから貰ったものが一番美味しいと思う」

 

「なんでさ?」

 

 俺の手持ちの菓子類は別に何てことの無い、市販の量産品の一つだ。

 

 俺が作ったわけでも、俺が何か監修をした訳でもない。

 

「分からない……けど、スカラマシュがお菓子をくれたり、一緒に話したりすると胸がポカポカするの」

 

「……そうなの?」

 

 俺って暖房器具だった? ……って、コロンビーナが言いたいのはそういうことじゃないか。

 

 胸がポカポカ……ポカンビーナ……なんて、流石の彼女もこんな事を言ったら怒るだろうか。

 

「うん。だから、スカラマシュが私をポカポカさせてくれるのかなって思って、部屋に行って、ベットで寝たり、お菓子を食べたりしても……何かが違うの」

 

「……思いの外、満喫してるね」

 

「ねぇ、どうしてかな?」

 

「どうしてって。それを俺に言われても……」

 

 先程の様子から察するに、ファトゥスになる前の彼女にとって、人と接触する機会というのはあまり無かった──というより、自身と対等な関係が無いに等しかったと言った方が正しいか。

 

 だからこそ、先の『月並べ』のような子供の遊びもやったことすら無く、庶民的なお菓子等も口にする機会も無かっのだろう。

 

 そして、今ですらファトゥスの第三位という肩書きもあり、執行官を除いた多くの一般士官からは畏怖の対象でもある。

 

 寂しかった──等と簡単な言葉にするのは軽率が過ぎるだろうか。

 

 月の女神が唄う子守唄──鳩を、その小さな娘を想う唄。

 

 ポケットの中に入ったオルゴールには、そのような唄が入っていると、フォンテーヌの職人は言った。

 

「……まあ、それが()()って事じゃない?」

 

「友人?」

 

「たとえば、コロンビーナはサンドローネの事をどう想う?」

 

「サンドローネ? ……あの娘は面白いよ?」

 

「つまり、悪い感情は抱いていないんだろ? それにサンドローネも文句は言いながらも、コロンビーナをお茶会に誘うだろ。つまりは何だかんだで、暖かな関係……そういうのじゃないかな?」

 

「う~ん……でも、ちょっと違う気がするけど……スカラマシュは私の事を『友人』だと思ってくれてるの?」

 

「勿論。でなきゃ遊びなんてしないし、お菓子をあげたりなんてしないだろ?」

 

 まあ、いくら友人と言っても、不法侵入を連発されるのは勘弁願いたい所ではあるのだが……

 

「フフッ……そっか、スカラマシュは私の事が好きなんだね」

 

「ちょっと、話がいきなり飛躍しすぎじゃない? 友人の話からなんでそこまで行ったの?」

 

「だって、嫌いなら『友達』になんてならないでしょ?」

 

「えっ? いや、まあ……そりゃそうだけども」

 

「フフッ、私もスカラマシュの事が好きだから、じゃあ私達は『友達』だね」

 

 この……何だろうか、なんか調子が狂う。

 

 とはいえ、このタイミングでならポケットの物を渡しても良いだろう。

 

 コロンビーナの言動の一つ一つに揺さぶられて、ヘタレてても仕方がない。

 

「では、親愛なる友人のコロンビーナ殿には此方を贈呈しよう」

 

「えっ、これは……オルゴール?」

 

「フォンテーヌに行ったときのお土産だよ。前にサンドローネに紅茶を贈った事を話したらズルイってそっぽを向かれたからね」

 

「……私にくれるの?」

 

「勿論。ちなみに要らないなら質屋で換金してくれて構わないよ?」

 

「ううん、絶対にそんなことしないよ。開けてみても良い?」

 

「どうぞどうぞ」

 

 その言葉と共に彼女はオルゴールを開く。

 

「これって……」

 

「職人さんが言うには、大昔にいた月の女神様をモチーフにしたらしい。三つの月がどうたらとか言ってたかな」

 

 如何せん、俺の知識では月の三女神の詳細を覚えるには不足だったようで、饒舌な職人の論弁に後半はひたすらに頷く事しか出来なかった。

 

 まあ、とりあえず月──正確には月の女神様をモチーフにしたという事だけ分かれば、後はどうでも良かったのだが。

 

「……ねえ、スカラマシュは何か欲しいものはない?」

 

「は? いきなりどうしたのさ?」

 

「私、何か変なの。スカラマシュのプレゼントは本当に嬉しいの。でも、嬉しくて、嬉しくて……今度は胸がドキドキするの。でも、辛くないのに、痛くもないのに、苦しくないのに、ドキドキは止まらないの」

 

「えっと、どういたしまして……?」

 

「だから、スカラマシュの欲しいものを教えて」

 

 いや、いきなりそう言われても困るのだが……というか顔、近すぎない? 

 

 その双眸は閉じたまま、既に目前にまで彼女が迫っていた。

 

「えっと……じゃあ一つだけ」

 

「うん。何でも言って」

 

 ん? 今何でもするって言ったよね……いや、別にやって欲しいことなんて、特に何も無いんだけども。

 

「コホン……なら、俺と友達のままでいてくれ。生憎、俺は友達が少なくてね」

 

「……それだけで良いの?」

 

「それだけって言うけど、自分でも言うのもアレだけど、人に好かれる性格をしてないからね。そう考えると結構、大きな要求じゃない?」

 

 ……何だろう、自分で言ってて悲しくなってきたな。

 

「フフッ……そうだね。スカラマシュは狡いし、負けず嫌いだし、浮気性だし……悪い人だよね」

 

 おっと、心は硝子だぞ? ……というか、誰だ? コロンビーナにこんな言葉を教えたのは。

 

 サンドローネか、あの怒りんぼうのサンドローネ様か。

 

 というか、最初はまだしも、後ろの二つは完全な私怨もしくは冤罪じゃない? 

 

「だから、私がずっと『友達』でいてあげる」

 

「えっと……ありがとうございます?」

 

「うん、どういたしまして。ねえ、手を出して?」

 

「えっ? 俺、友達宣言の後にひっぱたかれるの?」

 

「スカラマシュは叩かないよ。だから手を出して」

 

 ……なんか、前にもやったなこのやり取り。

 

 そんなデジャブを感じながら、言われるがままに彼女に手を差し出した。

 

 重ねられた彼女の手に仄かな光が灯る。

 

「私の祝福と……ちょっとしたおまじないも一緒にあげる」

 

「おまじない?」

 

「スカラマシュが何処にいても私の事を見つけられるように、後は私がスカラマシュの事をすぐに見つけられるように。目印みたいなもの」

 

 あれ? 俺、知らぬ間に探査機みたいなのを宿されてない? 

 

「『友達』ならすぐに会えた方が嬉しいから」

 

「そ、そっか……」

 

 とてもにこやかな笑みを浮かべて、手元のオルゴールを撫でる彼女にこれ以上は何も言えなかった。

 

 お土産を渡すだけで、色々と突飛な事になってしまったが……まあ、彼女が喜んでいるのなら良しとしよう。

 

 要するに、終わり良ければすべて良しってこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フォンテーヌの一件の後、『召使(アルレッキーノ)』が防災助力の礼として、水神の神の心を譲渡された。

 

 これにより、スメールにて『博士』によって回収された草神と雷神の物も含めて、残るはナタ──炎神ハボリムの物だけとなった。

 

「む……『散兵』か」

 

「おっと、『隊長』殿。これはご苦労様です」

 

 軍帽と一体化した仮面が特徴的な男性──ファトゥスの第一位『隊長』。

 

 そういえば、炎神の神の心の奪取の任務は彼が担当すると言っていたか。

 

「これからナタに発たれるのですか?」

 

「ああ、少し時間が出来たので、少し心を鎮めていた」

 

「まあ、ナタは『戦争の国』とも言いますからね」

 

「そうだ、あの国は今も尚、迫り来るアビスと戦争をしている」

 

 アビス──それは世界の影。

 

 ある時は禁じられた知識として、別の時は凶悪な魔物として。

 

 このテイワットで生きる者を脅かし、取り込んでいく一つの脅威。

 

「そうだな……」

 

 そうして、両者共に沈黙する。

 

 思えば、彼と直接的に話す機会というのはこれまでも無かった気がする。

 

「……この際だ、正直に言おう。お前が執行官になるとは思いもしなかった」

 

「それは俺が相応しくないという事でしょうか?」

 

「いや、実力という面で見れば、お前以上の適任者はいない。だが、お前は特に女皇陛下に忠誠を誓ったというわけでもないだろう?」

 

「……」

 

「お前の境遇からすれば、女皇陛下、ひいてはスネージナヤに憎悪、若しくは失望してもおかしいとは思わない。特にあの時のお前の瞳を見れば尚の事だ」

 

「……他に帰る場所なんて、俺にはありませんでしたからね」

 

「だからこそ、一抹の不安を抱いていたが、お前とコロンビーナのやり取りを見て、それは杞憂だったと確信した」

 

「俺とコロンビーナのやり取り……ですか?」

 

「あのコロンビーナが一人の個人に対して執着を持つというのは初めて目にした事だ。そして、その切っ掛けは間違いなくお前だ」

 

「……そうですか。ですが、何か特別な事をしたつもりはありませんよ?」

 

「コロンビーナが何故、お前に特別な関心を抱くのかは定かでは無いが、それは悪いものではない筈だ」

 

 確かに彼女とそれなりの付き合いにはなったと思うし、不法侵入の件は置いておくにしても、確かに悪い気はしない。

 

「ある意味、女皇陛下よりもお前の方がコロンビーナにとっては近いものになっているのかもしれんな」

 

「近いもの……ですか」

 

 菓子をあげて、初めての児戯でボコボコにして……確かに子供のような距離感かもしれない。

 

「……ドットーレがどうも女皇陛下にも内密に、水面下で動いているらしい。それにはどうやらコロンビーナも関係しているようだ」

 

「……ドットーレ殿がですか?」

 

「ああ。だからこそ、お前はコロンビーナの側に付いてやれ。彼女もその方が何かと安心するだろう。では……さらばだ、スカラマシュ」

 

 そう言ってカピターノは歩き去っていく。

 

 その後ろ姿が見えなくなり、俺は思わず嘯く。

 

「側にいろ……か。よく言うよ」

 

 かつての仲間──友人を後ろから刺したヤツにそんな資格なんてあるわけが無いだろうに。

 

「……ゴホッゴホッ!!」

 

 咳を抑えた手には粘度が高い血がへばり付く。

 

 それに──俺もいつまで保つのか分からないのに。

 

 






『破滅』ついて……

万物には終わりがある。それを乗り越えるにはどうするか。ある者は新生……つまりは生まれ直すことを説いた。ただし、それは世界の規則の穴を突くやり方だ。簡単には成し得ないことだよ。
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