俺が執行官……ってコト!?   作:爆死san

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記章について……


ああ、これ?これは基礎訓練を終えて、晴れてファデュイの兵士になったときに貰える身分証みたいなものさ。君も欲しいかい?命令を受けて、それを実行できるなら、誰だって手に入るけど。


お紅茶と悪意なき侵入

 

 

 

 ……暗い、ただひたすらに目の前が暗い。

 

 息が詰まる、眼も喉も肺も……身体のありとあらゆる部位が焼け爛れるかのように痛む。

 

 そして、遠くからも、すぐ近くからも──絶えず同胞の断末魔と悲鳴が聞こえる。

 

 もはや身体は痛みで動かない筈なのに、俺の意識だけはっきりしている。

 

 当然だ、これは夢だからだ。過去に自分の身に起きた事をまた夢で見ているのだ。

 

 俺がファトゥスになる前──ファデュイの先遣隊として、使い捨ての駒として、戦場を這いずり回っていたあの時の。

 

 仲間の遺骸がまた一人と、黒い泥へ呑まれていく──肉も骨も、ありとあらゆる物が融けてただ一人の方へと集まっていった。

 

 掠れた喉では悲鳴も出ない、少しでも動く度に身体は悲鳴を挙げる。

 

 それでも──尚も響く痛みで意識が飛びそうになりながら、傍らに転がった誰かの武器を拾う。

 

 ただ、前へ──痛いいたいイタイ。

 

 その痛みは思考を麻痺させていく──でも、まだ気付かれてない。

 

「…………っ! ……っ!!」

 

 首に下げた邪眼から紫の閃光が迸った。

 

 邪眼は持ち主の生命力を奪う代わりに、本来は神の目でしか成し得ない元素力を扱う力を与える。

 

 それは俺達にとって唯一の神や人外の存在に抗う手段だった。

 

 そして、出力任せに元素を放出しながら、その背中へと銃剣を突き出した──

 

 

 

 

 

 

 

 

「──『散兵(スカラマシュ)』様!!」

 

 ……耳元で大きな声を出すなよ、うるさいな。

 

「……大丈夫だよ。殺されてないから」

 

「……はい!? い、いえ……私はそのようなつもりでは……」

 

 おっと、今のは少し意地が悪かったか……どうもあの廃墟に行ってから、無意識に気が張ってしまっているらしい。

 

 それに──また、()()()を見るようになってしまった。

 

「それで? わざわざ、呼んでどうしたのかな?」

 

「まもなくスネージナヤに到着いたしますので、ご連絡にと……」

 

 わーお……相変わらず、生真面目な事だ。

 

 いや、本来なら仕事には彼のような態度で臨むべきなんだろうけど。

 

「はいよ……いつもご苦労様」

 

 俺のその言葉に若い士官は敬礼し、足早にその場から離れていった、

 

 灰色の空から降る白い雪は水滴に変わり、窓を伝って落ちていく。

 

 そういえば、昔の俺もああやって、立場だけは偉い上官には敬礼して、仲間内ではひたすらに愚痴ってたな。

 

 兵の規律という点ではいただけない振る舞いかもしれないが、その時ばかりはただ普通の人として振る舞えていたと思う。

 

 けど、そんな彼らはもういない──俺だけが()()にいる。

 

 照明の反射を受けて、胸のファトゥスの徽章の裏、ボロボロになった新兵の紀章が光を帯びる。

 

 過去も、現在も、未来でさえも、この国は涙を信じない。

 

 それが我らが女皇が治めるスネージナヤという国である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨今では、第十一位が収監されたり、当のフォンテーヌは水没の危機と同国に限って様々な出来事に見舞われている。

 

 しかし、スネージナヤに至っては全くといって言い程に通常通り。

 

 それに伴い、このスネージナヤ・パレスも何も変わらずに静寂が場を支配していた。

 

 それに多くの執行官も他国へ出払っており、収監された『公子(タルタリヤ)』や、フォンテーヌで活動中の『召使(アルレッキーノ)』は勿論、スネージナヤの常駐組とも言っても良い『雄鶏(プルチネッラ)』や『富者(パンタローネ)』さえも、今回は不在との事だ。

 

 近衛の兵士に聞いた所、パレスにいま残っているのは──

 

「──おかえり。スカラマシュ」

 

 背後から、何かと聞き慣れてしまった彼女の声が聞こえた。

 

「コロンビーナか。久しぶり」

 

「うん、久しぶり。何処に行ってたの?」

 

「ちょっとフォンテーヌにね……」

 

「そっか。だからノックしてもいなかったんだ」

 

「おぉ……前に言った通り、ちゃんと事前にノックしてくれたのか」

 

 少し見ない間での、彼女の成長ぶりには思わず感嘆を漏らさずにはいられない。

 

 ちなみに、年齢及びに序列に至っても彼女の方が全然、俺より上である。

 

「うん。ちゃんとノックしてから入ったよ」

 

「うんうん、偉いじゃないか……ん?」

 

 あれ? 今の言い方だと部屋には入ったように聞こえるんだけど……

 

「……コロンビーナ?」

 

「なに?」

 

「……一応、部屋には鍵が掛かってたよね?」

 

「うん。だからノックしてから開けたよ?」

 

「そ、そっか……」

 

 成る程ね……そこで引き返すことはしなかったのね。

 

 どうやら、俺は彼女の天然ぶりを甘く見ていたらしい。

 

「成る程ね……部屋に入っちゃったか。で、俺の部屋で何してたのさ?」

 

「えっと……スカラマシュのベットを借りて眠ったり、唄を歌ったり、後はお菓子をちょっと食べちゃった」

 

 ちょっと? 知らぬ間に滅茶苦茶、満喫してますやん。

 

 なんだったらその部屋の主よりも、満喫出来てますやん……

 

「あっ……そう。お菓子食べちゃったの……」

 

「うん……ごめんなさい」

 

「いや、それは別に良いんだけども……」

 

 ……一体、何処からツッコめば良いんだろうか? 

 

 なんか、彼女が俺の部屋に侵入するのが当たり前のようになってきたのは、俺がおかしくなってるからだろうか? 

 

「あっ……後ね、私がスカラマシュの部屋にいた時にサンドローネとお茶会をしたんだ」

 

 おっと、サンドローネさん? 貴女も一緒に何をなさってるんです? 

 

 彼女達の中で俺のプライバシーというのは考慮されないものらしい。

 

 要するに不法侵入ってこと……ファトゥスと戦える法律家は何処か? 

 

「えっと……何か色々と楽しんでたみたいだね?」

 

「うん。でも、スカラマシュとまた会えて良かった」

 

「おいおい、まるで人が──」

 

 以前、彼女達とのお茶会で殉職した第八位『淑女(シニョーラ)』の話を聞いたことがある。

 

 話を聞く限り、強烈な癖は確かにあるが、ドットーレのような嫌悪感を抱く程ではない人物だったらしい

 

 しかし、稲妻にて例の旅人との御前試合で敗北し、負けた彼女は雷神の無想の一太刀を受けて死亡した。

 

 とはいえ、彼女の死について俺からは何も言うことはない。

 

 俺達は火中の栗を拾おうとしているのだ、その業火に焼かれても文句など言えない。

 

 それに一度、この世界に身を投じれば、俺達は自分の最期を選べなくなる。

 

 件の第八位のように、任地で誰かに討たれる事もあれば、何てことのない、実にくだらない理由で命を落とすこともあり得る。

 

 人は生き方を選べても、その最期は選べない。

 

 好きに生きて、理不尽に死んでいく──それが戦場の中で俺が出した答え。

 

 あの日から一度も変わらないただ一つの指針なのだ。

 

「……俺もまたコロンビーナに会えて良かったよ」

 

「うん。私も」

 

 ……なんか、出鼻を挫かれてしまったな。

 

 本当はさっきの流れでお土産を渡すつもりだったんだけども……

 

「なら、サンドローネの所にも顔を出して来ようかな」

 

 なんなら、人の部屋で勝手にお茶会をしてたんだ。

 

 それくらいで文句を言われたりはしないだろう。

 

 つまり、やられたらやり返すってこと。

 

「──待って」

 

 ふと、コロンビーナに歩みを止められる。

 

「えっと……どうかしたの?」

 

「スカラマシュはまだ言ってないから通さない」

 

「まだ言ってないって何を……?」

 

 コロンビーナは何も答えず、ただコートの裾を掴んだままだ。

 

 別に彼女に今、言うことなんて──いや、成る程。そういうことか……

 

 確かに彼女は言ってくれたのに、俺は何も言ってなかったな。

 

「──ただいま」

 

 双眸を閉じたまま彼女は穏やかに微笑む。

 

「うん、挨拶は大事だよ?」  

 

 稲妻にも『親しき仲にも礼儀あり』という言葉があるくらいだ。

 

 確かにコロンビーナの指摘はごもっともである。

 

 少し見ない間にコロンビーナはこういった所も成長したらしい。

 

 そういえば、璃月にも『女子三日会わざれば刮目して見よ』という言葉があったな。

 

 事実、部屋に入る前にちゃんとノックしてくれるようにはなったのだ。

 

 以前の無断で侵入していた頃と比較しても大きな一歩である。

 

 だが、結局は部屋に入っちゃってるし……欲を言えば、他人のプライバシーを慮る事も出来たら完璧なのだが。

 

 けれども、まだ焦るような時間じゃない。事はゆっくり尚且つ計画的に進めるべきだ。

 

 要するに──不法侵入はやめようねってこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、誰かと思えば、謹慎明けに早々とスネージナヤから抜け出した男じゃない」

 

 久しぶりに会って一言目からコレである。

 

 我らが第七位こと『傀儡(サンドローネ)』様はご機嫌が斜めでいらっしゃるようだ。

 

 とはいえ、こんなのは序の口に過ぎない……というか、これで怯んでたら会話すら出来ない。

 

「いやはや、スネージナヤでご多忙にされてるサンドローネ殿のご苦労は察するに余りあるものですよ」

 

「チッ……フォンテーヌでくだらないお世辞でも学んできたのかしら? で、何よ? 今、ものすごく虫の居所が悪いのだけれど?」

 

 もはや不機嫌オーラを隠すことなく、サンドローネは続けた。

 

 一体、誰が彼女を此処まで怒らせたのだろうか? 

 

 コロンビーナか? それとも第二位か? 若しくはドットーレか、或いは『博士(ドットーレ)』か……またまた、あのマッドサイエンティストか? 

 

「いやはや、日々ご苦労されてるサンドローネ殿に日頃の感謝ということで此方を贈りたいと思いまして……」

 

「はぁ? 一体、どういう風の吹き回しよ……ったく、これでつまらない物だったら……っ!」

 

 おっ、反応があった。やはり簡単には手に入らないからだろうか。

 

 サンドローネの差し出された紅茶の缶を取り、まじまじと見つめている。

 

 まるで、自身の記憶とその缶を照合するかのように、プリントされたロゴなどを一つ一つ確かめていた。

 

 ……なんか品評会に出してるみたいだな、その紅茶の生産者、俺じゃないけども。

 

 彼女が品定めを始めて、数刻ほどの時間が経った頃だろうか。

 

 卓上にその缶を置き、先程のお怒りは何処へ行ったのか、とても落ち着いた口調で言う。

 

「……これ、何処で手に入れたのよ?」

 

「フォンテーヌ」

 

「そんなの見れば分かるわよ。これがあったのって結構、古い店でしょ?」

 

「あー……確かフォンテーヌで一番歴史がある専門店だとか言ってたかな」

 

「……そう。彼処、まだ潰れてなかったのね」

 

 そう言った彼女はまるで何かを懐かしむように、目を細めた。

 

 しかし、それも一瞬、サンドローネは傍らのプロンニアに命じる。

 

「プロンニア、カップとポットを用意しなさい」

 

 その命令と共に缶を受け取った機構の巨人はこの場を離れていく。

 

「スカラマシュ。この後、私に付き合いなさい」

 

「……さっき、虫の居所が悪いとか言ってなかった?」

 

「……そんな事どうでもよくなったのよ。貴方は私の言う通り、お茶に付き合えば良いの」

 

 おっと、これは予想外な反応だ。……てっきり古臭いとか言われると思ったんだけど。

 

 そして、程なくして二つの紅茶のカップと、ポットが卓上に置かれる。

 

 ……というかプロンニアさん、万能過ぎない? 部屋も吹っ飛ばせて、お茶も淹れられるとか有能過ぎるだろ。

 

「……何よ?」

 

「えっ? あー、その……てっきり、古いとか、前時代的とか言われるのかなって思ってたから」

 

「そうね……確かにそれについては否定はしないわ」

 

 否定しないんかい……というか、なんか調子が狂うな。

 

 いつもこう……自分の思い通りにならない事に怒ってばかりいるイメージがあるのだが。

 

「ただ、この私にも何かを懐かしむ時もあるの。普通、それを罵倒したりしないでしょ?」

 

「そう……じゃあ、この茶葉って結構、思い入れがあったりするの?」

 

「……昔、()()()とよく飲んでいた。それだけよ」

 

「そっか」

 

 口に入れた紅茶は味は意外にもあっさりして、少し爽やかな風味をしていた。

 

 別に愚痴も、くだらない雑談も──そんなものは一切ない二人のお茶会。

 

 でも、この瞬間ばかりは彼女を──サンドローネの事を少しだけ理解出来たと──

 

「……うん、あっさりして美味しいな」

 

「そう……良かったわね」

 

 ──そう思えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ……ちなみに後日、コロンビーナにその事を話したら。

 

「……ズルイ」

 

 と、そっぽを向かれてしまった……解せぬ。






ある旅行者について……


以前、僕がフォンテーヌ廷の通りを歩いていた時にスネージナヤからの旅行者にぶつかってしまったんだ。それから、彼のお土産選びを手伝うことになったんだけど、まさか、その彼がファデュイの執行官だったなんてね……それを聞いたときは思わずヒヤリとしてしまったよ。
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