俺が執行官……ってコト!?   作:爆死san

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故郷について……

故郷ね……俺って自分が何処で生まれたのか知らないんだよね。物心が付いた時にはスネージナヤ・グラードの掃き溜めにいたからね。


君は完璧で究極な神様

 

 

 

 

 暖かな日が差す街道を多くの人々が忙しく歩いていく。

 

 時折、独特な金属音と共に巡回するマシナリーや、制服を着た獣人族──確かメリュジーヌといったか。

 

 また、敢えて言及するならば、羽振りの良いドレスを着た者や、どこか特殊な毛並みをした犬が傍らで休んでいるくらいだろうか。

 

 そして、中央の広場では巨大なマシナリーの機構が青い光を発しながら絶えず動いている。

 

 此処は──歌劇と正義の国『フォンテーヌ』。

 

 水神フォカロルスが治める七国の一つである。

 

 そして、フォンテーヌの特徴といえば、やはりその先進的な科学工業技術が挙げられるだろう。

 

 たとえば、テイワット各地で流通する写真機などといった道具の殆どはフォンテーヌから輸出物である。

 

 さらに、この街──フォンテーヌ廷を巡回するマシナリーや先程の広場のオブジェといった構造物も、フォンテーヌが誇る工業技術の結晶といえるだろう。

 

「号外! 号外! 先日の審判で急展開があったぞ!」

 

 正義の国を自称するフォンテーヌは裁判──謂わば審判が、エンターテイメントの一つとして公開されている。

 

 そして、新聞屋の彼が言う通り、先日の審判では急展開──それもある意味、前例の無い事態が起こったという。

 

 ……まっ、当然か。ファデュイの執行官に有罪判決が下るなんて前代未聞だよな。

 

 先日、とある事件の審判にて第十一位──公子(タルタリヤ)に対して有罪判決が下された。

 

 それもこの国が誇る最高審判官──ヌヴィレットが務める審判でだ。

 

 では、タルタリヤがこの国でとんでもない事件を引き起こしたかと言えば、そういうわけでもなく、彼は冤罪を被された身であった。

 

 そして、件の審判ではファデュイがマークしている例の旅人の介入もあり、真犯人は明らかになった筈なのだが……当のタルタリヤに下された判決は有罪だったのだ。

 

 結果としては、タルタリヤはヌヴィレットに拘束され、同国の監獄──メロピデ要塞に押送されてしまった。

 

 この件についてスネージナヤは外交問題として、第四位『召使(アルレッキーノ)』を交渉の場に就かせている。

 

「はぁ、何処も同じような建物ばっかりだな……」

 

 そして、当の俺はアルレッキーノが運営する孤児院──ブーフ・ド・エテの館を訪ねようとしているのだが……

 

「……でも、流石にお土産も無しっていうのも、イヤなヤツって思われるよなぁ」

 

 しかし、お土産屋の場所はおろか、そもそも何を買って行ったら良いのかすら分からない。

 

 要するに、完全に迷子ってこと。

 

 幸いにも、アルレッキーノとの面会の時間まではまだ余裕があるものの、何の成果も得られず、ただ街を練り歩いている状況だ。

 

「……あれ? また、同じ場所に戻ってきてしまった。まずったなぁ──」

 

「──わっ!」

 

 背中を軽い衝撃が襲う──しまった、通行人とぶつかってしまったか。

 

 今回の入国は俺の身分を偽ってるのもあるし、何よりタルタリヤの一件がある以上、他国であまり騒ぎを起こしたくはない。

 

「おっと、失礼……お怪我は無いですか? お嬢さん」

 

「あ、あぁ、僕は大丈夫……コホン。道行く旅人よ。君は今、道に迷っている……違うかい?」

 

「えっ? まあ、迷ってはいますけど……』

 

 特徴的なシルクハットと、歌劇の演者のような衣装。

 

 事前に報告が挙がっていた()()()()とこの人物は特徴が完全に一致している。

 

「フフン、なら君はとても幸運だ! この僕が! 君に道を指し示してあげよう!」

 

「……へぇ、それはとても助かりますね。如何せんフォンテーヌには初めて来たもので、右も左も分からなくて困っていたんですよ」

 

「おっと、君は初めてフォンテーヌに来たのかい? ならば尚更、僕の案内は役に立つよ!」

 

「それは心強い。わざわざありがとうございます……失礼ですが、貴女の()()()をお伺いしても?」

 

 いや、聞かなくても、俺達は知っているとも──俺達にとって貴女は火中の栗なのだから。

 

『犬も歩けば棒に当たる』という言葉があるが、まさにその通りの状況だ。

 

「フフン、よくぞ聞いてくれた! この僕こそが、水神──フリーナ・ドゥ・フォンテーヌだ!」 

 

 そう、まさかの水神様ご本人の登場であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石、水神と言った所か、彼女はフォンテーヌ廷のありとあらゆる要所についてよく知っていた。

 

「そういえば、君は何処から来たのかな?」

 

「あぁ、僕はスネージナヤから来ました」

 

「えっと……ス、スネージナヤからかい……?」

 

「はい、そうですけど……何かよろしくないことがありましたか?」

 

「あっ、大丈夫大丈夫……うん。コホン……ところで君は何故、長い旅路を経て、このフォンテーヌに来たんだい?」

 

「仕事の都合でフォンテーヌの方に寄る事になったので、空いた時間に友人とその子供達に会おうと思ったんです。その際に何か持っていこうと思ったのですが……如何せん初めて来たもので」

 

「うんうん、成る程。そうだね……ご友人に子供がいるならお菓子とか良いんじゃないかい? 今の時間ならホテル・ドゥボールの限定ケーキがオススメだね! 後はオーソドックスだけど、晶蝶マドレーヌとかも良いね。コーヒーにもよく合うよ!」

 

「ははは……その、ご迷惑でなければ、フリーナ様がどうか見繕っては貰えないでしょうか?」

 

「えっ? 僕がかい?」

 

「ええ。フォンテーヌ延を知り尽くしている貴女にお土産を見繕って頂ければ、ハズレはないと思いますので」

 

「う~ん……それは構わないけど……えっと、モラは大丈夫かい? 少し値段が張ってしまうんだけど ……」

 

「モラについてはご心配なく、それなりに持ち合わせもありますし、ある程度なら経費で落とせますので」

 

 要するに請求書は北国銀行(第9位)へってこと。

 

「そうか、なら大丈夫そうだね! コホン……では、僕に付いてくると良い。歓迎すべき旅人よ!」

 

「はい……おっと失礼。もう二つ──フリーナ様にお願いをしてもよろしいでしょうか?」

 

「ん? なんだい?」

 

「フォンテーヌの紅茶を取り扱っているお店と後、オルゴールを取り扱っている店があったら教えて欲しいのです」

 

「構わないけど……どうしてだい?」

 

「いえ、深い理由は無いのですが──本国の同僚にもお土産を用意しようと思いまして」

 

「おお、なかなか優しいね! なら、うってつけのお店があるから教えてあげようじゃないか!」

 

「ありがとうございます。フリーナ様」

 

 こうして、フォンテーヌが誇る水神ご本人によるフォンテーヌ廷ツアーが幕を開けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ご機嫌に前を歩く水神様の後を歩いていて、分かったことがある。

 

 まず、彼女はこの国の為政者というより国民のスター。

 

 要するに国民公認のマスコットというような立ち位置にいるということ。

 

「こんにちは! フリーナ様!」

 

「コホン……ご機嫌よう! 我が愛しき国民よ!」

 

 実際、為政者がこんな白昼堂々と街を歩かないだろうし、何より為政者だと分かっていれば、国民は無意識に萎縮をするものだ。

 

 彼女と道行く人々の会話を見る限り、そのような傾向は見て取れない。

 

 そして、これは彼女と実際にも話してみて、分かったことだが。

 

「……最近、フォンテーヌでは色々あったみたいですね。街の人々の話は審判とか、予言とかで持ちきりですし」

 

「あっ……うん! 特に例の審判はこの僕もいたからね!」

 

 ……やはり、言葉を選んでいるな。

 

 任務で捕虜に尋問する際、彼らは真実を隠す為にある共通事項を持つ。

 

「フリーナ様もやはり大変ではないのでしょうか? 連続して色々な騒動が起こってしまって」

 

「そ、そうだね。まあ、でも最高審判官が対応してくれているから問題は無いね!」

 

 ──真実を隠すのに一番有効なのは、嘘に真実を混ぜること。

 

 だからこそ、彼らは言葉を慎重に選ぶ──嘘の中に真実を混ぜるために。

 

 だが、如何に上手く隠そうとも、僅かな間が必ず存在する。

 

 その点、彼女はそれを隠すのがとても上手い。

 

 こちらが投げかけた問いの論点を違和感がないようにズラしていく。

 

 そうすることで、己が答えられない質問にあたかも答えているように錯覚させる。

 

 それはある意味、天賦の才能とも言える──人をたらしこむのは演者の独壇場だ。

 

 ……だが、それはあくまで対象を騙せていればの話。

 

 そうでない相手には、前述した全ての過程が崩壊する。

 

 それに、俺にとってはフォンテーヌで何が起ころうかなどは別にどうでも良い。

 

 前提として、俺達には神の心を集めるという勅令が下っている。

 

 そして、その標的の一人は今、俺の前を不用心に歩いている。

 

 気付かれぬようにそっと手を構える──その手の内には邪眼が冷たく輝いていた。

 

 その手を俺は──すぐに下ろした。

 

「……ん? どうかしたかい?」

 

「いえ……選んでいただいたケーキを見ていただけですよ」

 

 この時点で早まった行動はしない方が良い、

 

 あのアルレッキーノの事だ、タルタリヤの一件も併せて彼女についても探りを入れているだろう。

 

 ここで俺が早まれば、彼女の計画がご破算になる上に、更なる面倒事を押し付ける事になる。

 

 流石にそれは俺個人としても偲びないし、何より俺がわざわざフォンテーヌに来たのは個人的な理由もあってのこと。

 

 此処での動きはアルレッキーノやその配下の面々に任せるのが最善なのだ。

 

「コホン……見たまえ! 此処がフォンテーヌで最も歴史がある専門店だ!」

 

 彼女の自信満々な言葉に、店主の老紳士は軽く会釈をする。

 

「へぇ……紅茶の茶葉でもこんなに種類があるんですね」

 

「勿論! 此処でなら璃月産の茶葉もあるし、フォンテーヌ原産のもあるよ!」

 

「成る程……ん? これは……」

 

「おや、君はなかなか見所があるね。その茶葉はね、なんと5()0()0()()も前からある銘柄なんだ!」

 

「それは凄いな……」

 

 俺はおろか、その先祖の更に前の先祖の時代からある一品か。

 

 まあ、尤も俺は自分の親の顔なんて知らないし、興味もないのだが。

 

「なら、それを買おうかな。同僚の一人は紅茶が好きなんですよ」

 

「へぇ、そうなのかい。なら、きっと喜んでくれると思うよ!」

 

 まあ、件の彼女(サンドローネ)にあげたら、古臭いとか、前時代的とか言われそうだけど……平常運転ということで気にせずいこう。

 

 つまり、細かいことは気にするなってこと。

 

「さて、後はオルゴールか……」

 

「ところで、同僚さんにはどんなオルゴールが良いんだい? オルゴールにも色々と種類があるんだ」

 

「……種類ですか」

 

 本人の雰囲気的にオルゴールが似合うと思っただけで、特に深い意味はないのだが。

 

 俺が思う彼女(コロンビーナ)のイメージ……

 

「……月がモチーフの物とかありますかね?」

 

「良いね。なかなかにロマンチックだ! 多分だけどあると思うよ!」

 

 彼女についてイメージをしてみると、静かな月の下で唄っている……そんな情景が脳内に浮かんだ。

 

 新月の少女……なんてね、我ながら柄にもない事をしてるな。

 

 そんな自嘲を内に留め、再び前を歩く彼女の後を追うのだった。






散兵について②……

以前、『壁炉の家』を訪ねてきたことがあった。新しい第六位というのもあって、子供達も少しばかり緊張していたようだが、彼が両手に持った紙箱を見て、途端に笑顔になった。それもあってか今では『お兄さん』と呼ぶ者もいるくらいだ。

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