俺が執行官……ってコト!?   作:爆死san

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仕事について……

嫌だよねぇ……どうにか働かないで生きていけないかねぇ……


スネージナヤパレスでずっとスタンバってました

 

 

 

 

 執行官というのはそれのみに限れば、何かと暇なものらしい。

 

 先日、面倒──滅茶苦茶にお世話になったサンドローネも昼は睡眠、夜は研究。

 

 アルレッキーノも外交官を兼任しているのもあって、今はフォンテーヌに赴き、タルタリヤも使節として同地へ。

 

 カピターノは配下と共にナド・クライに遠征してる最中。

 

 他にも市長も務めている第五位『雄鶏(プルチネッラ)』、スネージナヤ経済の真核とも言える第九位『富者(パンタローネ)』。

 

 各々が各々の役割を全うしている──つまり、今の俺はニートってこと。

 

 おかしいな、立場は上がったはずなのに、社畜からニートになっているなんて……

 

 これは事実上の左遷か何かだろうか? 

 

 い、いや、違うし……まだ任務をスタンバってるだけだし……そうだよね? 

 

 どうも先遣隊時代に鍛え上げられた俺の社畜根性はとても根深いらしい。

 

 あっ、でも働かずに食べるご飯はとてもオイシイヨ! 

 

 まあ、もしかしたら急に僻地に飛ばされるかもしれないし、或いは七国の何処かに行かされるかもしれないし、今はこの悠々自適な生活を噛み締めるのも良いだろう。

 

 ……というか、パレスにも兵隊酒屋とか置いてくれよ。なんで菓子も飲み物も全部取り寄せなんだよ。

 

 しかも、速達ではなく、海路や陸路を通してだから何時届くのかさえ分からない。

 

 というか、運搬中に何かあれば届かないなんてザラである。

 

 この前も、とある金髪の旅人よって、注文物を運搬してた先遣隊がボコボコにされたらしく、補填などなくそれっきりだった。

 

 さらには、スネージナヤなんて吹雪の具合では更に到着が前後するのだから尚更である。

 

 さらにさらに、取り寄せた物が現着しても、警備の連中が中身を確認するという手間も掛かる。

 

 さらにさらにさらに、運送に掛かった諸経費は全部こっち持ちである。

 

 そこは必要経費ということで経理……というより第九位の懐から下りないだろうか? 

 

 ……ちなみに研究ばかりしてる筈のサンドローネは兵器設計や各種メンテナンスも兼任しているのもあって、かなりの高所得である。

 

 技術屋はやはり何処に行っても重宝される最たる例だろう。

 

 要するに、ファトゥスの所得格差というのは辛いってこと。

 

 戦うことしか能がない一兵卒出身は懐が寂しくなるのだ。

 

 ……いや、じゃあなんで公子は使節とか任されてるんだ? 

 

 彼、筋金入りの戦闘狂だぞ? ……やはりコミュ力か、コミュ力が無いと駄目なのか。

 

「……ん? なんだこれ?」

 

 この先の廊下の奥からだろうか、何かの旋律のような一定のリズムで音が響く。

 

 楽器……ではないな。何かの歌──否、子守唄だろうか。

 

 穏やかな旋律もあってか、不思議と安心感というか、心が落ち着くような感覚が身体を包む。

 

 俺の好奇心もあってか、唄が聞こえる廊下の奥へと歩みを進める。

 

 奥へ進む度に、その唄は鮮明に聞こえてくる。

 

 そして、長い廊下の奥──壮麗なステンドグラスが揺れる広間に足を踏み入れると、やはり()()がいた。

 

「……コロンビーナ」

 

 ファデュイ執行官第三位『少女(コロンビーナ)』。

 

 その幼い様相から想像し得ない大層な肩書きとは裏腹に、彼女に関する情報というのは殆ど聞かない。

 

 カピターノやタルタリヤのような過去の武勲はおろか、サンドローネのように何か特殊な技術を持っているとも──ただ、聞いた話では女皇が彼女を見出だしたとか。

 

 そうして、無意識に身構えている間に歌っていた彼女も此方に気付いたのか、その双眸を閉じたまま此方を向く。

 

「……スカラマシュ?」

 

「あぁ……はい。スカラマシュです……って、そうじゃなくて! えっと……俺、邪魔したかな?」

 

「ううん、別に他にやることがなかったから」

 

 ニートかな? 第三位ってもしかしてニートなのかな? 

 

「あぁ、そう……えっと、その唄って誰かに聞かせたりしてたの? ほら、結構上手かったし」

 

「うん。でも、前にサンドローネの部屋の前で歌ったら怒られちゃった」

 

「えっ、何時?」

 

「お昼くらい。昼寝の邪魔だって」

 

 ああ、それは怒るわ。あの性格でなくても多分怒るわ。

 

「……スカラマシュは仕事しないの?」

 

 おっふ……いきなりストレートに差し込んできやがった。

 

「そ、そう言うコロンビーナさんも……」

 

「私、何も言われてない」

 

 ……ありゃ? もしかして同じ仕事振られてない組だったりする? 

 

「き、奇遇だなぁ! 俺も何も言われてないんだ……」

 

「……? スカラマシュは仕事出来ないの?」

 

 待って、おかしい。何で俺の場合は仕事出来ない認定になるの? 

 

 そこは貴重な同志を歓迎するところじゃないの? 

 

「そっか。スカラマシュは仕事出来ない人なんだね」

 

「待って、普通に傷つくから。違うから、普通にまだ割り振られてないだけだから。スタンバってるだけだから」

 

 おかしいなぁ……サンドローネ辺りから言われても、大してダメージは無いのに、何故にコロンビーナだとダメージがこうも段違いなんだろうか? 

 

 このままでは、俺の心に虚しさと切なさが溢れてしまう……とりあえず話題を変えねば。

 

「えっと……コロンビーナさんって歌、上手いよね!」

 

「うん。さっきも聞いた」

 

「おっふ……」

 

 畜生、やっぱり俺は馬鹿だ。

 

 そうだよ……普通にさっき話題に困ってそう言ったよ。

 

「……フフッ。やっぱりスカラマシュ面白い」

 

「はい? 面白い……?」

 

「うん。サンドローネと同じくらい」

 

 ……これは喜ぶことなのか? それとも憤慨すべきことなのだろうか? 

 

 少なくとも、サンドローネは絶対に怒るという確信……もはや安心感があるな。

 

 きっと、あのお茶会で見せてくれたように──

 

「──あっ」

 

 ぐぅ~……と間の抜けた音が眼前の彼女の方から鳴る。

 

「……えっと、腹減ってるの?」

 

「……」

 

 流石の彼女も今のは恥ずかしかったのか、少し俯いてしまう。

 

 とはいえ、生きていれば腹が減る。それは至極当然なことでもある。

 

「ん、あげるよ」

 

 ポケットから取り出したのはチョコレートのスナック。

 

 この前、ようやく届いた俺の菓子詰め合わせの一部である。

 

「何これ?」

 

「チョコレートのお菓子。悪いね、持ち合わせが今、これしかないんだ」

 

「くれるの?」

 

「うん。要らないなら別にいいけど」

 

「ううん。貰う」

 

 そう言って彼女は菓子を手にし、その包装を破る。

 

 そして、その先端を齧った。

 

「……甘くて美味しい」

 

「だろ! やっぱり分かる人には分かるんだよなぁ~。サンドローネに言ったら。『よくこんな甘ったるい物を食べれるわね』って馬鹿にされたからなぁ……」

 

 うんうん、やはり糖分は良い。人生には甘さが必要なんだ。

 

「……ねぇ、まだある?」

 

 気に入ったのか、菓子をすぐに食べ終わってしまった彼女が少し罰が悪そうに問う。

 

「勿論。やっぱり甘さは正義だよ」

 

「うん……甘い」

 

 そうして、彼女が菓子を食べ、俺が差し出し、またそれを彼女が食べ──

 

 ──そんなやり取りを続けて、数刻の時が経った。

 

「フフッ……ありがとう。スカラマシュ」

 

「アハハ……口に合ったようで何よりかな……」

 

 わーお……手持ちのやつ、全部食べられちゃった。

 

 まあ、部屋に戻ればまだあるし……何より第三位に糖分教を布教出来たってことで、ひとまずは良いかな。

 

「それで、スカラマシュは何が欲しい?」

 

「は? いきなりどうしたのさ?」

 

「スカラマシュが欲しい物は何?」

 

 ……話が突拍子も無さすぎて理解できないのだが。

 

「いや、別に何も要らないけど?」

 

「どうして?」

 

「どうしてって……別に欲しい物が無いから……?」

 

「だって、私に何かして欲しくて、お菓子をくれたんじゃないの?」

 

「いや? コロンビーナがお腹が空いてそうだったからだけど?」

 

 というか、自分で貰うって言ったろうに……記憶喪失? 

 

「スカラマシュは何の対価もなく、お菓子をくれるの?」

 

「対価って……別にそんな大袈裟なことじゃないでしょ。たかがお菓子くらい。まあ、俺と同じ嗜好だったのは嬉しかったけど」

 

「……」

 

 ……あれ? 俺って何か変な事を言ってしまった? 

 

 それともまた、余計なことを言ってしまいました? 

 

「不思議な人だね。スカラマシュって……」

 

「えぇ……?」

 

 なんか、今度はいきなり不思議認定されちゃったんだけど……コロンビーナの方がだいぶ不思議ちゃんじゃないか? 

 

「ねぇ、手を出して?」

 

「えっ、何? ひっぱたかれるの?」

 

「叩かないから手を出して」

 

 少し圧をかけられ、渋々と彼女の前に右手を差し出す。

 

 その上から彼女の手が重なり、その瞬間、仄かな光を帯びる。

 

「えっと……何をなさってるので?」

 

「お返しに私の祝福をあげる」

 

 祝福……? どういうことだってばよ? 

 

「何かご利益とかあるの?」

 

「……運が良くなるかも?」

 

 おっと、確定じゃないんかい……というか、何故に疑問詞? 

 

 ま、まあ、彼女が祝福と言うくらいだ。悪いことはない……よね? 

 

 そして手が離れると、フワリと彼女が立ち上がる。

 

「フフッ、私は戻るね。またね、スカラマシュ」

 

「アッハイ」

 

 上機嫌なのか、少しリズミカルな唄を口ずさみながらその場を去っていく。

 

 後、これは俺の錯覚かもしれないが、少しだけ力が沸いてくる……そんな気がした。






第六位について……

アビスの魔物の大群に単騎で挑み、それを逆に殲滅してみせた。目立った情報はこれくらいだねぇ。後は先遣隊の一員だった……まあ、用心するに越したことはないねぇ。
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