初めまして……
やあやあ、初めましてファデュイ執行官第六位「散兵」スカラマシュだよ。……あれ? 何か違うって顔だね。まっ、俺もこの名前には何故か馴染みが無いし、好きに呼んでくれよ。
うわぁ……なんだか凄いことになっちゃったぞ。
背中に吹き荒れる吹雪よりも冷たい何かが突き刺さる。
重々しい雰囲気の下、品定めするような目付き、好奇の眼差し。
はたまた、つまらなそうに足をプラプラと、眼前の事に無関心でいる者もいる。
……いや、それはそれでなんだか悲しくなってくるな。
そして、顔の半分を仮面で覆った老人──統括官「
「この日を以て、数百年の空白が1つ埋まる」
組織の数百年の空白──執行官第六位の欠如。
いったい何時から空白だったのかは分からない……というより最近までは誰かその席に座っていた気がするのだが。
まあ、その真相は一介の一兵卒に過ぎなかった俺が知る由も無いし、興味もない。
上がいないと言ったのならいない、組織とはそういうものである。
「女皇陛下の名の下に、貴公には新たな名を授けよう。鉄風雷火の限りを尽くし、闘争の最中を駈ける「散兵」たる者よ」
老人の手から渡される煌びやかで、まるで刃を思わせる鋭利な徽章。
それから仄かに冷気を感じるのは女皇の加護とかそういったのだろうか。
……貰ってしまった。いや、流石にこんな重々しい雰囲気で天空にスパーキングとかしないけども。
まあ、何というか……人生というやつは分からないものだ。
上から言われた事を文句を浮かべながらやり、そんな単調な日々の果てに、今度は執行官になれと来た。
しかも、その枠が数百年も空席だった第六位だ。
いや、なら殉職した第八位の席を先に埋めた方が良いんじゃないか?
だからって第八位にされても、それはそれで困るけども……俺、男だし。
「今、ここに我らは新たな同胞を迎えた。そして、新たな同胞である貴公には女皇陛下の為、更なる奮戦を期待する」
「アッハイ」
あっ、やべ。立ってる時間が長すぎて変なトーンで返してしまった。
「……フフッ」
おい、一番隅の方にいた女の子に笑われてるぞ。
違うんだよ……ほら、正座してると足が痺れるだろ?
つまり、これは俺の意思とは関係ない、謂わば仕方がなかったってヤツだ。
というか、前の日にいきなりスネージナヤに戻れって言われて、寝る暇もなく此方にトンボ返りしてるんだぞ。
要するに現在進行形で超絶に眠いってこと……いや、社畜はツラいね。
……まあ、何はともあれ、俺はこの日からファデュイ執行官第六位「散兵」となったのだった。
「ちょっと待ちなさい」
背後から女性特有の高めの声が飛んでくる。
ほら、名前も知らない誰かさん、愛しの彼女が呼んでるよ。
そうそう、愛しの彼女で思い出したのだが、璃月に派遣されているエージェントに良い感じになっている二人組がいたな。
直接的な関わりがあったわけではないが、端から見ても何というか、微笑ましく見えたのを覚えている。
願わくは荒事から離れ、健やかな幸せを手に入れて欲しいものだ。
しかし、俺達はファデュイ──世界に仇なす仮面を着けた以上、そう簡単には逃れられないのも事実。
死神は身構えていなければ、唐突にやってくるものなのだ。
「ちょっと聞いてるの! 待ちなさいって言ってるでしょ!」
……ほら、いい加減に返事してあげなって。
しかも声からして大層、ご立腹な様子だぜ?
「……アンタ、いい加減にしなさいよね。プロンニア!」
「ぐえっ……」
突如として重機のような力で襟首をつまみ上げられ、その勢いから潰されたカエルのような情けない呻きが漏れる。
俺をつまみ上げていたのは煌びやかな衣装を着た巨人──いや、人型の機械だった。
確かプロンニア……成る程、そういうことか。
「えっと……私めに何かご用で? 「
「ええ。それにしても良い度胸ね。散々、私のことを無視してくれるなんて」
……やべえ、この人が呼んでたの俺だった。眠気で思考が麻痺してたわ。
「いやはや、誰かに声を掛けられる事なんてあまり無いもので……えっと、改めて何かご用で?」
「まったく……まあ、良いわ。今からお茶会を開くの。感謝なさい、私がじきじきに貴方を誘いに来たのよ」
彼女の自信満々な様子から見るに、お茶会に誘われるというのはそれなりに光栄なことらしい。
というか、この状況で『寝たいからいいです』なんて言おうものなら、襟首を摘まんでいるプロンニアにそのまま握り潰されそうだ。
「えっと……じゃあ、是非?」
「フン、最初からそうすれば良いのよ。ほら、行くわよ。プロンニア」
前を歩く「傀儡」の後をプロンニアはその手で俺を摘まんだまま歩き出す。
いや、その前に離してくれないかな? 別に逃げるとかしないからさ……
「散兵」について……
彼は不思議……というより掴み所が無いというのが私の印象だ。執行官らしからぬ姿もあれば、戦闘では一転して、苛烈な猛攻を披露し、敵に一切の慈悲を与えない。ある意味、この二面性こそが彼が執行官に選ばれた由縁なのかもしれない。