頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム   作:もちもち物質@布団

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4日目朝:

 きらり、と明るい出口が見える。

 門を破壊したバカは、門の先、その通路の更に先……そこが、外へと繋がっているのを見つけた。

「おおー……」

「……これでいよいよ、脱出、かな」

 感慨深げな陽の隣で、バカは更に感慨深い。

 何せ、バカはもう何回も何回も繰り返して、繰り返してきて……そして初めて見た『外』なのだ。

 ちゃんと、この門の先が外に繋がっているのが分かって、少しほっとする。

「……どうする?もう、出ちゃう?」

「いや、一応、天城さんの効果が切れるのを待ってからの方がいいんじゃないかな。彼、やり残したこととかあったらまずいし……」

 なんとなく皆でそわそわしつつ、一応、天城の異能の効果切れを待つことにした。

 その場で座って、皆は明るい出口の方を眺めながら、のんびりし始める。ヒバナとビーナスも付き合ってくれるらしく、その場にのんびり座っていた。

 

 ……これだけ皆のんびりしているし、いいかなあ、と、バカはちょっぴりおずおず、聞いてみる。

「それで……あのー、そのー、ちょっと相談なんだけどぉ……」

 バカがもじもじしながら4人にそっと話しかければ。たまと陽はバカの話が何か概ね分かっている様子であった。が、ヒバナとビーナスは『何だ何だ』とばかりに少々身構えている。

 バカは『ちょっと申し訳ないなあ、でも、俺、バカだしぃ……』とまたもじもじしつつ……。

「俺、次にやり直す時の為に、どうしたらいいか、ちょっと教えてほしいんだけどぉ……」

 ……バカはそう、切り出したのである。

 そう!バカはバカなので!この期に及んで!未だに、何をどうしていいのか分からないのであった!

 

 

 

「俺、全員で生きてここ出て、ミニストップのソフトクリーム食べに行くんだ。あと、海斗の小説読ませてもらって、ポケモン貸して、あと、メロンパン食べる……」

 バカは、指折り数えて目標を挙げていく。

 まずはやっぱり、皆でソフトクリーム食べるのだ。皆の好きなアイスを聞いたから、ソフトクリーム以外のアイスでもいいかもしれない。それから、天城以外の皆の好きなドーナツも聞いて、皆でミスドに行くのもいいかもしれない。

 それから、やっぱり海斗だ。……ここでできた、大事な友達だ。彼との約束を彼が忘れてしまったとしても、バカは忘れない。絶対に、叶えるのだ。

「あと、ヒバナとビーナスを土屋のおっさんと協力してうちの会社に就職させるし、ミナが作るご飯、もっかい食べたい……」

 そして更に、バカの目標は続く。

 そう。ヒバナとビーナスを助けることも、バカの目標なのだ!ちゃんと蛇原会を解体して、ヒバナとビーナスをバカの職場の事務か営業さんにするのだ!

 あと、ミナはご飯を作るのが上手である。もっかい食べたい。鍋やお刺身じゃなくてもいい。食べたい。

「はあ!?お、おい、俺達にまで関係すんのかよ!」

 が、バカが挙げた目標に、ヒバナが早速噛み付いてきた。彼からしてみれば全く身に覚えのない話なので、仕方ないことではある。

「何?私達、バカ君の会社に連れていかれるの?っていうかあなたの会社どこよ」

「キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部!」

「どこよそこ!?」

 ついでにビーナスが悲鳴を上げたのもまあ、仕方ないことではある。バカは、『やっぱりキューティーラブリーエンジェル建設って駄目な名前なのか……?』と心配になってきた。まあ心配するまでもなく駄目である。

 ……そして。

「……それで、あとさ、俺……陽とたまと、あと、天城のじいさんにちゃんと幸せになってもらいたいんだ」

 バカの、また新たな目標。それは、今回また新しく分かったことのある3人もまた、幸せであることだ。

「天城さんも?まあ、つまりそれって、俺なんだけど……」

「ううん。陽は陽で、天城のじいさんは天城のじいさんだと思う……」

 そう。3人。……バカにとって、この3人は、『3人』なのだ。

「沢山辛い思いして、頑張って、頑張ってきたじいさんだから……その分、幸せになってほしいな、って……」

 陽は陽で、頭が良くて優しくて、たまのこととなると思い切りが良くて格好良くて、好きだ。たまも賢くて猫みたいで思い切りが良くて、バカのことを冷静に見てくれるから好きだ。そして天城は……沢山頑張ってきた、頼りになる爺さんだ。バカは天城のことも、好きなのだ。

 陽も天城も、別の人だと思っている。それくらい2人は違うし、陽が天城になるわけではないらしいので、まあ、つまり別の人ということでいいんだろうとバカは思っている。

「と、とにかく!俺、全員でここを出たいんだ!だから、どうしたらいいか、ものすごく困っててぇ……」

 そうしてバカは決意表明の後、またふりだしへ戻ってくる。

 そう!つまり、バカはバカなので色々もう分からない!そういうことなのである!

 

 

 

「……陽と天城さんのことは置いておくとしても、まあ、その場合の問題は木星さんだよね」

「うん!俺もそう思う!」

 さて。バカが相談してすぐ、少し考えたたまが喋り出した。どうやら相談に乗ってくれるらしい!バカは大いに喜んだ!

「……なら、提案があるよ」

 バカがうんうん頷きながら一生懸命聞いていると……たまは、言った。

「樺島君の部屋から海王星の部屋に繋がる壁を破る。それからもう一枚壁を破って、そのまま天王星の部屋へ行けばいいんじゃないかな」

 

「うん……?」

 バカは、『それ、部屋が大変なことにならねえかなあ』とちょっと考えたが、たまの言葉は続いた。

「それで、土星の部屋まで一続きにしておいて……全員で、木星さんを待ち受ける。どう?そうすれば、木星さんが悪い奴だっていうことは分かるし、4人が同時に木星さんが壁抜けするシーンを目撃することになるから、異能の対策もできるよね。証人が樺島君と天城さん以外に2人得られるわけだから」

 バカにはよく分からなかったが、とりあえず、賢いたまの言うことだ。多分それでよし!とバカは頷いた。

「うん!わかった!俺、次はそうする!それで、木星さん捕まえたら……あれ?どうやって捕まえるんだろ」

「それは天城さんと相談すればいいと思うよ。多分、彼、一度以上成功してるだろうから……多分、『無敵時間』を鐘が鳴る時間ぐらいまで掛けてしまったんじゃないかな。それで、ベッドにでも縛り付けておけば効果が切れると同時に木星さんは水の中に閉じ込められた状態になって、そのまま溺死するし」

「……俺なら、とりあえず『無敵時間』で木星さんを捕獲したら、そのままベッドのシーツでロープを作って、首を吊った状態にして放置するかな。脚にも錘か何かを括りつけて、確実に死ぬように。それで、効果が切れる時間は鐘が鳴る少し前にしておく。そうすれば浮力を使って浮いて天井を抜ける心配が無い」

 バカは、たまのアイデアを聞いて『ひえっ』となって、更に続いた陽のアイデアにもっと『ひえっ』となった!こわい!

「まあ……天城さんは俺がもっとスレた人、っていうことだから、最低でも俺が考えるくらいのことはやると思うよ。何にせよ、彼の異能を使うなら『無敵時間』で木星さんを確実に行動不能にしておくのがいいと思う」

「そ、そっかぁ……わああ……」

 バカは陽の話を聞いて、『天城のじいさんもきっとそうやったんだろうなあ』と思った。思ったが……。

「……なあ、木星さんのこと、やっぱり、殺さなきゃ、駄目かな……」

 バカは、どうにも引っかかるのだ。

 

 

 

「もっといい方法、無いかな。俺、俺……木星さんを殺しても、なんか、解決しない気がして……」

 自分の中にあるものを上手に言葉にできなくて、バカはむにむにと口を動かす。だが、やっぱり言葉は出てこない。

「……解決はしないよ。もう、解決できない」

 その間に、たまが強張った声で、そう言っていた。

「あいつを何度殺したって、弟は帰ってこない。あいつに殺された人、きっと、もっとたくさんいたと思うけれど、皆、もう帰ってこない。取り返しはつかない」

「うん……」

 そうだよなあ、と、バカは思う。たまは特に、そう思うだろう。彼女が今まで苦しんできたことをバカは知らない。知らないから、バカはたまに、何も言えない。

「だから、井出亨太はここで殺した方がいいと思う。悪魔に魂も食べてもらって……弟は帰ってこないけれど、でも、これからの犠牲者が出ないようには、できるから」

「……うん」

 たまの言うことは分かる。バカにも分かる。これまでをどうしようもなくても、これからをどうにかすることはできて、だから、木星さんがこれからもっと酷いことをしないためにも、彼は、ここで……。

 ……でもやっぱり、バカは納得できないのだ。

「でもあいつ、反省してない……」

「あ、そっちなんだ……?」

 そう!バカはどうしても……木星さんに対する怒りが、収まらないのである!

 殺すだけでは解決しない!即ち、生温い!

 

 それでいて……正しくない。

 

 殺してしまったらそれで終わりだ。何も生まれない。何かが破壊されない代わりに、何も生まれなくて……それじゃああまりにも、悲しい。

 バカは、キューティーラブリーエンジェル建設に就職して、ものを作る喜びを知った。何かを壊す方が得意なバカだが、それでも、作ることが好きだし、作られたものに敬意を払っている。だから……バカは、木星さんを殺して終わるのは、なんだか正しくない気がするのだ。

「……でも、あいつ、反省しないと思うよ」

「うん……」

 たまの言うことも、尤もだ。『根からのクズってのも居るもんだ』とは親方の談である。バカも、それくらいはなんとなく分かる。

「それに、多分、樺島君がやり直した先で、私はきっと、井出亨太を殺したがる。天城さんも、きっとね」

「……うん」

 たまと天城の気持ちも、分かる。彼らが木星さんを殺したいと望むなら、そうさせてやりたいような気もする。

 ……結局、バカはどうにも、結論を出せない。

 木星さんをどうすべきなのか、どうにも、よく分からなかった。

 

 

 

「ん……ああ、もう終わったのか」

 悩むバカの横で、天城が目を覚ます。どうやら、『無敵時間』の効果が切れたらしい。丁度、3日目の夜が終わったところのようだった。

「うん。蟹は爆散したし、門も破れたよ。あと、井出亨太の魂は食べられた」

「爆……いや、まあ、それならいい」

 たまから今までのあらすじを聞いた天城は、『爆散……』とちょっと神妙な顔をしつつも頷いた。

「なあ、天城のじいさん……」

 そんな天城へ、バカはおずおずと問いかけた。

「やっぱり、木星さんって、殺すべきかな。それで、魂を悪魔に食べさせるべき、かな……」

 これを聞くのも失礼かなあ、と、思う。だが、バカはそれでもどうしても、天城にこれを聞きたかった。自分が正しい自信が無い。だから他の人の話も聞いて、聞いて、沢山聞いて……その上で自分で考えて、結論を出したい。

 

「……悪魔を喜ばせてやることも、癪ではあるな」

 少し考えた天城は、そう言ってため息を吐いた。

「だが、井出亨太が最も嫌がることは、まあ、デスゲームに敗北し、悪魔に魂を食われることだろうからな。ならばそれを望むさ」

「そっか……。木星さんが、一番嫌がること……」

 ……一番嫌がること。

 バカは、ちょっと考えた。木星さんが本当に嫌がることは、ゲームに負けて悪魔に食べられちゃうこと、なのだろうか。

 考えたら何か、ちょっと、思いつくような気がしてバカは考える。

 一番嫌なこと、というと、一番好きなことの反対、だろうか……。

 

 

 

 ……だが、そろそろ時間が来てしまったらしい。

 背後から、バラバラと何かが零れ落ちていくような音が聞こえてくる。それと同時に、地響きがここにまで伝わってきた。

「ここ、崩れるんじゃないの!?」

「ああ、そうだな。まあ、出口付近が崩れるまでにはもう少し時間があるだろうが」

 ビーナスが慌てふためく横で、天城はしれっとした顔をしているが、それでもやっぱりここ、崩れるらしい!

「……そもそもここは、悪魔のデスゲーム会場だ。実態がある訳ではない。異空間、とでも呼ぶべき場所だ。必要が無くなったら破壊されるようにできているんだろう」

「聞いてねえよ!んなこと!……うわっ!?」

 そうこうしている間に、このあたりも天井が剥離してぼろりと落ちてきた。バカは『これ、施工悪いんじゃないかな……』と思った!

 

「じゃあ、ここから出ようか。……いい?」

 たまが呼びかければ、ヒバナもビーナスも、そして陽も頷く。……だが。

「……私は」

 天城だけは、渋っているようだった。

 ここでデスゲーム会場に埋もれて死んでしまおうとしているような、そんな様子だった。

「いいよね?」

 だが天城はここに留まれない。何故なら……ふに、と、その手をたまに握られてしまったからだ!

「光!反対側!」

「あーあ、つぐみと手繋いで脱出するのは俺だと思ったんだけどなあ……まあ、自分と手を繋いで脱出、っていうのも、面白いかもね。ははは」

 そして天城の反対側の手は、見事、陽に繋がれてしまった!

「たま!陽!そのまま天城連れてっちゃえ!」

 バカはにこにこ満面の笑みで、天城が連れられて行くのを見送る。……見送ろうとして、振り返った天城と目が合う。

「樺島。お前は残るのか」

「うん?うん!俺、やり直すから!」

 そう。バカはここに残る。残ってそのまま、やり直すつもりだ。

「俺、この3人のこと諦められねえから」

 ……バカは、腕に抱えていた3人の魂をそっと、放した。ふよ、と漂っていった魂は、それぞれに迷ったりおろおろしたりした様子だったが、結局は、ふわふわとたま達の方へ飛んでいく。

「絶対に助けたいから……次は、上手くやる!」

 バカが満面の笑みを浮かべると、天城もまた、笑った。

「そうか。……なら、元気で、と言うのも、妙な気がするが……でも、どうか、元気で」

 

 

 

 皆に別れを告げたバカは、早速、頭の中に『やり直し』を思い浮かべる。

 ……悲しいことも辛いことも、上手くいかないことも含めた今までを振り返って、強く、強く、念じる。

 やり直したい。そして、次こそは、単純で明快なハッピーエンドに!

「昇るー、朝日と共にー、安全第一にー、皆ーのー笑顔を作りー、平和ーをー守るぅー!」

 バカは、ぽや、と光り輝きながら元気に社歌を歌う。仕事の始まりにはこれを歌うとやる気が出るのだ。

「挫けーそーうーにーなーっても、諦めーずー進めぇー。我らー、ここーにー集いしー、キューティーでっ、ラブリーなっ、益荒男達(エンジェルズ)ー!おー!」

 社歌の通りだ。バカは皆の笑顔を作って、平和を守る。辛いことがあっても、上手くいかなくても、挫けない。諦めない。

 大好きな皆を今度こそ守る決意を確かに、バカは高らかに歌う。

「キューティーラブリーエンジェル建設ー!あー、キューティーラブリーエンジェル建設ー!」

 バカが『このまま2番も歌おうかなあ』なんて思ったところで、いよいよ光は強くなり……そして、バカの意識は途絶えた。

 ……こうしてまた、新たな挑戦が始まる!

 

 

 

 +++++++++

 

 

 

 宇佐美光が脱出した時、そこは……不思議な状況だった。

 悪魔のデスゲーム会場に繋がっていたのであろう古いトンネルの出口であったが、状況が、『記憶にない』ものだったのだ。

「……何だ、これは」

 トンネルの周辺はゼブラテープで囲まれていたり、パイロンが立っていたり、ボーリング作業でもしたのか、地面にぽっかりと深穴が開けられていて、その周りにまたバリケードがあったり……まるで、工事現場のようになっている。

 こんな場面は、記憶にない。

 

「だーから俺ぁ言ったんですよ、親方ぁ!あのバカ1人にやらせるにゃあ重い案件だ、ってぇ!」

 更に、そこには人影があった。

「あいつバカなんですよ!?バカ!群を抜いてバカ!すごくバカ!超!バカ!」

「そうだそうだ!あのバカ、ぜってー仕事の内容覚えてねえ!バカだから!」

「ぜってー仕様書も読んでねえし依頼主も覚えてねえ!バカだから!」

「あいつバカ!本当にバカ!だから親方ぁ!あのバカ一人前と認めるには早いってぇ!」

 更に何やらとんでもない会話を繰り広げている。光は両手をかつての恋人と自分自身に握られたまま、ぽかん、とその光景を眺め、彼らの会話を聞く。

「そりゃあ分かってる。あいつはバカだ。間違いねえ」

 騒いだり、『大丈夫かなあ』と穴を覗き込んだりしている男達の真ん中で、散々『あいつバカ!』という話を聞いていた壮年の男は、にやり、と嬉しそうに笑った。

「……だが、あいつならやれるさ。バカはバカでも、諦めの悪いバカだからな」

 

 

 

 ……そう話す彼らは、全員、作業服に『安全第一』と書かれたヘルメット、といった格好だ。

 ついでに全員、樺島剛もかくや、というムキムキぶりであり……。

「……まあ、悪魔が、居るんだもんね。居ても、おかしくないよね……」

 つぐみが呟く通り。

 彼らの背にはぱたぱた動く翼が生えていたし、ヘルメットの上には光る輪っかが浮いていた。

 

 ……おお!キューティーでもラブリーでもないが!天使達(エンジェルズ)である!

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