頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム   作:もちもち物質@布団

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2日目夜:大広間

 バカ達は黙って、ヒバナとビーナスを見守る。

 ヒバナとビーナスは、沈鬱な顔でやってくると……ビーナスが、言った。

「ミナは、死んだわ」

 

 

 

「え……」

 バカは、頭が真っ白になるようだった。

 だって、ヒバナとビーナスとミナが入った部屋は、お魚水槽の部屋だったはずだ。

 ……ライオンの部屋や、矢の迷路の部屋と違って、事故で誰かが死んでしまうような部屋じゃ、ないはずだ。

 つまり……。

「……殺した、のか?」

 ヒバナとビーナスは、明確な意図をもってミナを殺した。そういうことになる。

 

 

 

 どく、どく、とバカの心臓がうるさい。バカは自分の頭が心臓になってしまったのではないかと思われるほどの緊張と衝撃の中、ビーナスとヒバナを見つめていた。

「殺したわけじゃないわ。ただ……ううん、私達がもっと上手くやれていれば、こんなことにはならなかったのよ」

 だが、ビーナスはそう言って、悲し気に目を伏せた。

「私とヒバナが、もっと早く、魚の水槽から鍵を取れていれば……」

「それは……どういうこと?」

 たまが訝し気に問うと、今度はヒバナが話し始めた。

「……ミナを人質に取られた状態で、俺達は人食い魚の水槽の底から鍵を取ることになったんだよ。魚の水槽の水がだんだん抜けて、ミナが入ってる水槽に流れ込んでいくんだが……当然、水がある程度は流れ込まねえと、魚の水槽の底になんざ辿り着けねえ。3mはあるような水槽だったからな」

「それで、ある程度待ってから水槽の底を目指したんだけれど……魚が、邪魔で。ヒバナが異能を使いながら魚を処理していったんだけれど……間に合わなくて。ミナを助けられなかった」

 ビーナスとヒバナが説明してくれるのだが、バカは『あの部屋、そういうルールなんだったっけ……?』と首を傾げる。

 今回だけ、ルールが変わってしまったのか。或いは……ヒバナとビーナスが嘘を吐いているのか。

 嘘を吐いているのだとしたら、やはり……ヒバナとビーナスは、ミナを殺したのだ。

 

 

 

 バカは、ミナを見に行った。

 ……ミナは、人が入る方の水槽の中で息絶えていた。もう、水は抜けていて、水槽の床に、ミナが倒れていて、動かないのだ。

「ミナぁ……」

 控えめなようで、誰よりも強くて、かっこいいミナ。そんな彼女が、ここで、死んでいる。

 ……バカは只々寂しく、悲しく思う。

 ミナが死んだということについて……そして、彼女を殺したのが、一度は和解できたはずのヒバナとビーナスだったということが、何よりもバカの心を重くしていた。

「上手く、行かないなあ……」

 バカはそう呟きながら、水槽の壁を『バキイ』と破壊して横穴を開けて、中からミナの遺体を抱き上げて持ってきた。

 髪もスカートも全てずぶ濡れで、冷たく冷え切ったミナの体は、抱き上げていると余計にその死を感じさせる。バカは泣きそうになりながらミナを運んで、そっと、解毒室のベッドの上に寝かせた。

 バカはベッドの横の床の上に体育座りして、しょんぼり、と項垂れた。膝の間に顔を埋めるようにして、しょんぼりと静かに落ち込むのだ。

 ……海斗も、土屋も、ミナも。一度、上手くいったのに死んでしまった。

 もっとバカが上手くやれていれば、こんなことにはならなかっただろうか。どうすれば、バカは皆を死なせずにいられるのだろう。

「わかんねえよぉ……」

 バカは嘆き、悲しみ、元気を失ってただ、じっとしていることにした。こうしていると、少しは悲しみが紛れる気がしたから。

 

「……おい、樺島」

 そうしてバカが落ち込んでいると、後ろからそっと、声を掛けられた。

「そろそろ、戻るぞ。情報共有をする必要がある」

 天城が、声を掛けてくれたのだ。……バカは気づいていなかったが、ずっと、バカの後ろに居たらしい。ついでに、部屋の入口のあたりには陽とたまも居た。

「うん……わかった」

 バカは涙を拭いて立ち上がる。

 悲しくても、前に進まなければ。そして、情報を手に入れられるだけ手に入れて……次の周では、また、真っ先に海斗を助けに行こう。それから、ミナと土屋のところにも行って、それから……。

 ……バカはそう考えながら、天城の後ろをてくてく歩いて、大広間へ戻るのだった。

 

 

 

 それから、情報交換を簡単に行った。

 ヒバナとビーナスのチームからは『さっきの説明で大体終わりよ』ということだったので、他の2チームが話すことになる。

 

 バカのチームからは天城が『このバカがライオンを蹴り殺して迷路も破壊した』と説明した。それで終わった。

 ……この程度の説明で終わってしまうのが、バカの居るチームの運命である。

 そして、陽とたまはというと……。

「ええと、こっちは『双子の乙女』の部屋だったよ」

 陽がそう説明すると、皆、当然のように『双子の乙女?』と首を傾げた。まあ、知らない人にはよく分からないゲームだろう。

「双子みたいにそっくりな悪魔が2人居て、YESかNOで答えられる質問に20回まで答えてくれる、っていうルールだった。それで、悪魔が考えているものの名前を当てる、っていう」

「難しそうね……」

「いや、最初の質問で答えが分かったよ」

 陽は苦笑いしながら、ちょっと遠い目をして、言った。

「『答えをアルファベット表記にした時、その文字がABC順で何番目にあたるかを奇数文字目をYES、偶数文字目をNOの回数でそれぞれ1文字ずつ回答して』って質問したからね」

 ……陽もやっぱり、双子の悪魔泣かせだったらしい!

 

 そうして、バカチームと陽たまチームは、それぞれにちょっと悪魔泣かせな方法でクリアしたことが判明した。情報共有の意味はあっただろうか。あんまりなかったような気もする。

 ……だが、とにかくここで、皆で次のチーム分けはしなければならない。

 バカは少し緊張しながらも考える。

『何故、天城はさっき、木星さんと同じチームになりたがったのだろうか』と。

 

 1日目、天城は『木星さんと一緒ならバカと一緒でもいい』と条件を持ち掛けてきた。だからバカは木星さんを誘って、3人チームで行動したわけだ。

 ついでに、2日目のゲーム中、天城はバカに『木星さんから目を離すな』という指令を受けていた。だからバカは木星さんを常に小脇に抱えたり抱き上げたりして運搬していたのだが……あの指示もきっと、『そうすれば仲良くなれるよ』以外に意図があったのだろう。

 だが、実際のところ、特に何かが起きたわけではなかった……と思う。バカの知らないところで何かが起きていたのだろうか。バカが気づかなかっただけで。

 ……まあ、考えてみたバカだったが、考えても答えは出てこない。バカはバカだ。天城の考えは考えたって分からないのだ。

 

 だが……だからこそ、バカはちょっと、驚いた。

「さて、次のチーム分けだが……私は、ミナさんが死んでいる部屋に居たお前達2人を信用できない。よって、残り5人とそちら2人、というチーム分けを提案する」

 天城がそんな風にチーム分けを提案してきたので、バカは大層びっくりした!

 

 

 

「……つまり、2人と5人に分かれる、っていうことかな。少し、アンバランスだね。まあ、私は別にいいけれど……」

 たまがそう言えば、木星さんは異論無しとばかりに頷いていた。陽は、少し考えるように天城を見ていたが、特に反論は無いようだ。

「ちょ、ちょっと!2人でゲームに臨めっていうの!?それは流石に……!」

「いや……俺は別にそれでもかまわねえよ」

 そして、ビーナスは反対しかけたが、ヒバナがそう言うなら、ということで黙った。ヒバナは少し緊張した面持ちだったが、覚悟は決まっているらしい。

「要は、『人殺しとは組みたくねえ』ってこったろ?」

 ぎろ、と天城や木星さんを睨みながらヒバナがそう言った。すると、天城は特に悪びれるでもなく、あっさりと頷く。

「まあ、そうだな。ミナさんが死んでいる以上、お前達が疑わしいことは間違いない。特に、ビーナスについては同室の者が死ぬのはこれが3人目だ。ビーナスが殺したわけでなかったとしても、同室になりたいとは思わん」

 ヒバナは1つ舌打ちしたが、それ以上特に何かを言うことは無かった。ビーナスは少し不安そうではあったが、それ以上に、天城を探るような視線が印象的だった。

 そうして、バカは迷う。

 ここで、天城の希望通り、5人チームに入ってしまって、いいのだろうか。

 ここでバカがヒバナとビーナスの方に入れば、ヒバナとビーナスを助けてやることができるが……。

「うーん……」

 ……ここでバカは、無い記憶力を必死に振り絞るようにして思い出す。あと、残っている部屋は天秤の部屋と、鍋部屋、そして、『牛が襲ってくる』という噂の部屋だ。

 ビーナスやヒバナはバカよりは賢いので、きっと、天秤の部屋に入ればなんとかなるのだろう。逆に、牛が相手だとちょっと辛いかもしれない。また、鍋だとほぼ確実に、2人は死んでしまうだろう。

 ……なので。

 

 

 

「……あの、樺島君。何をしているのかな……?」

「匂い嗅いでる!」

 すんすんすんすん、とバカは鼻を動かした。そしてその鼻でなんとなく、例の部屋を見つけ出す!

「あの、じゃあ俺達、この部屋に入る!で、ヒバナとビーナスは、そっちな!」

 そう。バカは、鼻を使ってまたしても鍋部屋を探し出したのであった!

 

「……匂いを嗅いだのは何故だ」

「なんか出汁の匂いしたから!腹減ったから!」

 ……そう。バカはバカなりに考えた。

 ヒバナとビーナスがほぼ確実に死んでしまうであろう鍋部屋さえ封じてしまえば、それでいいのだ。そうすれば、ヒバナとビーナスは少しだけ、安全になる。

 そしてついでに、ヒバナとビーナスには、天秤の部屋を示しておいた。バカの言う通りに天秤の部屋に入ってくれれば、バカとしては安心だ。

「へえ……つまり、1つ間を置きたい、っていうこと?」

 だが、ビーナスはバカの気遣いを別の意味に捉えたらしい。

 

 ……ここまで、バカ達は常に3つの隣り合った部屋を選んできた。そして今も、残っている部屋は3つ並んだ状態で残っている。

 そして、鍋の部屋と、確か天秤の部屋であったはずの部屋との間にはもう1つドアがある。つまり、あそこが牛の部屋なのだろうが……あそこを避けるとなると、『ビーナスとヒバナからできるだけ離れたいバカ』というような構図になるのだ。

 

「うん?……あ、うんそう!そうだ!うん!」

 よく分かっていないバカは結局、そういうことにしておこう!と特に考えずに頷いた。するとビーナスは『余程信用されてないのね』と言ってバカを睨んでくるので、バカはちょっぴり悲しくなった!バカはビーナスとヒバナの為にこの部屋割りにしたいのに!

 

 

 

「……成程な。なら、そうしよう。ヒバナとビーナスも、異論は無いな?」

 だが結局は、バカの案が通る。天城は妙に、バカの意見に賛同してくれたのだ。

「い、いや、匂い?匂いで部屋を決めるなんて、どうかしてる!」

「いいじゃん。鍋食おうよぉー。行こうよぉー。いいじゃんかよー」

 木星さんはバカが部屋を選ぶことに反対したいようだったが、バカはもう、木星さんを抱えている。逃がさない構えである!

「じゃあ、そういうことで、いい?」

「え、ええ……」

「……まあ、いいけどよ」

 そして、ヒバナとビーナスはそれぞれに納得した様子だった。バカはひとまず、『ヒバナとビーナスが無事でありますように』と祈るのだった。

 

 

 

 それから、少しだけ自由時間を挟んで、鐘が鳴る頃には全員がドアの前に集結していた。

「じゃあ、気を付けるんだぞ。くれぐれも、気を付けるんだぞ。何があっても、気を付けるんだぞ」

 バカが声を掛けると、ヒバナとビーナスはひらりと手を振って、天秤の部屋へと入っていった。

 そして、バカ達もまた……突入する。

「羊ー!」

 そう!今回もバカは無事、ここに辿り着いた!

 ……鍋パである!

 

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