キャスリン・ビグローにとって作品が描く驚異は現実感があるもの
ビグロー監督は、ほかの多くの人々と同様に「米国が核攻撃を受けるかもしれない脅威」を現実のこととして受け止めて生きてきた。
「私が育った時代は、核爆弾が落ちたときに備えて机の下に隠れる訓練をしていた。そんなことが役に立つのかは不明だが、その経験が自分に刻まれた」と監督は質疑応答の場で観客に語った。
「けれど、今では世界に核兵器が1万2000発以上あるとされている。そんな極めて危険な世界なのに、私たちはそれに慣れてしまい、驚かなくなっている。だから自分に『こんな世界で生きたいのか?』と問いかけてみた。『じゃあ、このテーマで作品を作ろう』と考えた」
監督はさらに、作品の着想に至るまでの過程を語った。「調べてみた結果、米国に向けて核弾頭を搭載したICBM(大陸間弾道ミサイル)が発射されたらどうなるのかを考えた。何人かに話を聞いたところ、脚本家のノア(・オッペンハイム)を紹介された。彼は元ジャーナリストでもあり、並外れて優れた作家だったので、そこから話し合いを始めた」
ビグロー監督は、冷戦時代の潜水艦を描いた映画『K-19』でも知られるが、この作品のタイトル自体にも、いまの世界への認識が反映されている。
「私たちは“ダイナマイトの家”に住んでいる。じゃあ、その壁のダイナマイトをどう取り除くのか? この作品が、少しでも議論のきっかけになったり、最低限の気づきを促したりすればいいと思っている」と監督は期待を込めて語った。
「いまの若い世代のなかには、私が育ったような“常に核の恐怖におびえる感覚”を知らない人も多い。だから、この作品がその感覚を少しでも伝えたり、興味を持つきっかけになったりすればいい。こんなに危険な世界のままでいいのか? それが私の問いかけだ」
作品を完成させるために必要だったもの
『ハウス・オブ・ダイナマイト』は、破滅的な事態になりかねない出来事を、複数の視点から描く構成になっている。ここでは、核ミサイルの探知から着弾予測に至るまでの極限の緊張状態がリアルタイムで進行する18分間として描かれる。大陸間弾道ミサイル(ICBM)は地球の反対側からでも約30分間で米国に到達するため、この作品の時間設定は現実に即している。しかし、この制約は、編集を担当したカーク・バクスターにとってかなりの難題だった。彼はこれまで『Mank/マンク』『ザ・キラー』『ゴーン・ガール』などの作品を手がけてきた。